※「深夜のお茶会2」まで発生している場合、3回目ここから↓
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・庭園
ブラッドとエリオットに誘われて、深夜のお茶会に加わる。■■
夜のお茶会にも、もう慣れた。
最初にここでのお茶会に参加したときは昼だったが、ブラッド達はどうやら夜のお茶会のほうが好きらしい。■■
【エリオット】
「遠慮すんなって。
俺の分はまだまだあるからさ」■■
「え……。
え~と、気持ちは嬉しいんだけど……」■■
エリオットは、熱心にオレンジ色のお菓子を勧めてくれる。■■
オレンジ色のそれらがオレンジの味をしていないことは既に知っている。■■
にんじんだ。
それらはすべて、にんじんの加工食品なのだ。■■
キャロットケーキや、クッキーは嫌いではない。
ほのかに甘く、美味しいと思う。■■
しかし、度を越せば話は別だ。
特に、目の前でかぱかぱ平らげている人がいるとなると……。■■
(見ているだけで胸がいっぱい……)■■
「……ごめん、エリオット。
私、にんじんは嫌いじゃないけど、ことさら好きというわけではないの」■■
「あなたみたいに毎日毎食食べているのを見ると、それだけで……」■■
【エリオット】
「?」■■
「なに言ってるんだ、アリス。
俺はにんじんなんて嫌いだぜ?」■■
「【大】え【大】」■■
まじまじと、エリオットを見る。
どの口がそんなふざけたことを言えるのだろう。■■
エリオットは、平然としている。
今まさに、キャロットケーキをぱくついていながら、だ。■■
「だ、だって……」■■
(食べているじゃない、今……)■■
【エリオット】
「俺はにんじんなんて食べない。
にんじんばかり食べるなんて、ウサギみたいだろ?」■■
「……【大】っぶ【大】」■■
口の中にあったものを噴き出しそうになる。■■
ちなみに、私もお菓子を食べている。
オレンジ色をしていないお菓子を。■■
【エリオット】
「前にも言ったが、俺はウサギじゃない」■■
「にんじん風味のものは好きだが、にんじんは嫌いだ。
だから、俺はウサギじゃないぜ」■■
「……い、いや、だからさ、エリオット……」■■
「いいかげんに認めたほうがいいわよ。
どう見たって、あなた……」■■
(ウサギじゃない)■■
ぴょこっと動いたウサギ耳に、注目してしまう。■■
【エリオット】
「なんだよ?」■■
「……う」■■
ウサギ耳がまた、ぴょこっと動く。■■
(か、可愛いじゃないの……)■■
可愛いなどという言葉がまるで結びつかない外見の立派な青年なのに、えらく可愛く見えてしまう。■■
救いを求めるように、ブラッドのほうを向く。
彼はそっぽを向いて紅茶を飲んでいた。■■
ようやく気付き始めたのだが、彼らの行動はワンパターンだ。■■
エリオットはひたすらオレンジ色のもの(オレンジではない)を飲み食いし、ブラッドはオレンジ色のものを勧められないようにひたすら紅茶を飲んでいる。■■
「……ちょっと、ブラッド。
あなたからも何かあるでしょう、言いたいことが」■■
【ブラッド】
「…………」■■
「そうだな……」■■
「……茶がうまい」■■
ティーカップからようやく口を離して出てきた言葉が、これ。■■
「あんた……、ご隠居さんみたいよ」■■
【ブラッド】
「私は、エリオットの生態についてどうこう言うのはとうに諦めた。
そういった意味では引退しているのかもな……」■■
どこか遠い目だ。■■
【エリオット】
「なんだよ、なんだよ!?
ブラッドも、言いたいことがあるなら言ってくれよ!」■■
【ブラッド】
「……いいや、何も」■■
【エリオット】
「俺達、相棒だろ!」■■
【ブラッド】
「……うっ」■■
きらきらっと、なんだか青春っぽいやり取りに、ブラッドは思いきり気分が悪くなったようだ。■■
【ブラッド】
「……ほ、本当に何もないんだ、エリオット。
私は、おまえになんの不満もない」■■
「だから、それ、やめてくれないか……」■■
【エリオット】
「それ???」■■
「なんだか分かんねえけど、ブラッドが嫌がるようなことはしないぜ?」■■
またもや、きらきらきらっと青春っぽい空気が生まれる。■■
【ブラッド】
「うう……」■■
「苦手なんだ、こういうのが……」■■
よろよろと、ブラッドは再びカップに手を伸ばす。
紅茶が口直し代わりのようだ。■■
【ブラッド】
「寒気がする……。
放置しておくに限る……」■■
ブラッドとは少し異なるが、私もなんとなくエリオットに苦言は言い辛い。
きららっとした信頼の目で見られると、自分がものすごい悪者になった気がする。■■
「エリオット、あなたウサギ……じゃないかもしれないけど、にんじんをずっと食べているじゃない」■■
なるべく遠まわしに、だが「どう見てもウサギだろ、おまえ」という意思をにじませつつ、オレンジ色の菓子類を指す。■■
【エリオット】
「???
これはにんじんじゃないぜ?」■■
(ど、どの口が言うんだか……)■■
彼の周りを囲んでいる食物は、常に毒々しいほどのオレンジ色をしている。■■
「初めてお茶会に呼ばれて以来、あんたがにんじん関係のもの以外を口にするのを見たことがないんだけど」■■
ずいぶん前のことのようにも感じるが、あのときも呆れた覚えがあった。■■
そして、ブラッドのしかめ面。
今ならおおいに同意できる。■■
彼が昔からにんじんが嫌いだったかどうかは別として、仮に好きだったにしても、こうまでにんじん尽くしの料理を目の前に広げられ続けていれば嫌いにもなるだろう。■■
【エリオット】
「にんじん関係」■■
エリオットは、ほけっと復唱した。■■
【エリオット】
「どれのことだ???」■■
また、ぴょこりと耳が動く。■■
「どれって……」■■
エリオットを囲む、全部だ。■■
選別する必要もない。
エリオットの周りは、オレンジ一色。■■
【エリオット】
「これは、にんじん風味のシフォンケーキだぜ?
にんじんじゃねえよ」■■
「アリス、変なこと言うなあ……」■■
(変なのはおまえだよ……)■■
何を言っても、エリオットは頑なに認めようとしない。■■
ブラッドは素知らぬ顔だ。
付き合いの長い分、彼の対処法が正しいのだろうと私も分かってきた。■■
【【【時間経過】】】
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