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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『エリオット=マーチ ■09話』

アニバーサリーの国のアリス・エリオット滞在ルート09_1

帽子屋屋敷・エリオットの部屋
【エリオット】
「す~~~す~~~……」■■
エリオットはよく眠っている。■■
深い眠りのようだ。
例によって、帰って来るや否や押しつぶされてしまった。■■
(……疲れているのね)■■
重くても我慢してやろうと思うくらいには、エリオットが疲れていることが察せられた。
まだ、目の下にうっすら隈がある。■■
(やっぱり、仕事量が多すぎるんじゃ……)■■
心配だ。
そして、なんだかイライラする。■■
耳を引っ張ってやる。
これくらいなら起きないはずだ。■■
【エリオット】
「……う」■■
眉をしかめると、それなりに怖くも見える青年だ。■■
この人が可愛いなんて思う私はおかしい。
寝ていると子供のように思えるなんて、頭がおかしい。■■
(……こんなの、おかしいわ)■■
ぎゅうっと、つまんでやる。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・廊下
「ブラッド……!」■■
【ブラッド】
「……ん?
なんだ、【主人公の名前】。何を怒っている?」■■
私に呼び止められ、ブラッドはきょとんとしている。■■
「あなたねえ……、エリオットに仕事を押し付けすぎよ」■■
ぴしっと、ブラッドを指差す。
正面から人を指差すなんて失礼なことだ。■■
だが、私は怒っている。
怒っていればなんでも許されるというものではないが、無礼なことを平気で出来るくらいには怒っていた。■■
【ブラッド】
「エリオット???
人使いが荒いとでも漏らしていたのか?」■■
「あいつが私への愚痴を言うなんて珍しいな……」■■
「そんなこと、あの人が言うわけないでしょう。
あなたへの悪口なんて口が裂けても言わないわよ、エリオットは」■■
(……分かっているくせに)■■
上目遣いで睨む。
ブラッドは畏まるどころか楽しそうだ。■■
【ブラッド】
「休みはきちんと与えているぞ?
双子にとっては不満なレベルらしいが、ちゃんと休みはある」■■
「エリオットは他の者より忙しいが、それでも倒れるまで働かすような真似はしない。
あいつにはまだまだ働いてもらわねば困るからな」■■
使い捨てみたいな言い方をするが、ブラッドの本心ではないことは分かっている。■■
この人は私と似ている。
エリオットに「ブラッドみたい」とまで言われると抵抗があるが、やはり似ていた。■■
なんでも皮肉めいた言い方をしないと気がすまないのだ。
友情とかそういったものに動かされるようなことが嫌で、偽悪的な。■■
元から悪人なのに、更に悪者ぶろうとする癖がある。
偽善者よりましだが、厄介だ。■■
【ブラッド】
「仕事柄、長い休みはとりにくいが、短い休みならかなりある。
そんなに切羽詰まるはずがない」■■
「じゃあ、なんでエリオットはあんなに疲れているのよ」■■
【ブラッド】
「……最近、仕事を詰めているようだな。
だが、あれは奴が自主的にやっていることで……」■■
「あんまり、こき使わないであげて」■■
【ブラッド】
「…………」■■
「……私が悪い上司みたいじゃないか」■■
「悪者ぶっているくせに何を言っているのよ」■■
【ブラッド】
「ぶっているわけじゃなく、実際に悪人なんだ、私は」■■
「知っている」■■
でも、仲間にまでそう見せることはないのに。■■
【ブラッド】
「……エリオットは、長い休みがほしいらしい。
だから、短めの休みを削って仕事を詰めている」■■
「寝ていないんじゃないか、あいつ」■■
くだらなさそうに言うブラッドは素っ気ない。■■
(長い休みがほしい……?)■■
私に思いつく理由は一つだけで、あまりの分かりやすさに脱力してしまう。■■
たぶん、それで正解だ。
エリオットは私と遠出するために、やたらと仕事を詰めまくって……。■■
(……わ、分かりやす……っ)■■
(いや、分かりやすい……、けど……)■■
……単純すぎる。
そして、不器用。■■
(というより、一途というか一直線というか)■■
「…………」■■
「ブラッド、あなたは不器用よね」■■
敢えて、内心の思いと異なることを言った。■■
【ブラッド】
「……なんだと?」■■
「エリオットのほうが、まだ器用だわ」■■
ブラッドの眉が寄る。
彼を糾弾するのは、自分を責めるようで気分がいい。■■
彼の顔が、知人に似すぎているせいもある。
八つ当たりだ。■■
「そうやって、事情を調べずにいられないくらい心配しているのに、休みをあげることも出来ないなんて不器用な人」■■
【【【演出】】】……ひゅん、と空気を切る音
ひゅんっと、空気が鳴った。■■
杖が突きつけられる。
さぞ冷たい目をしているかと見上げれば、ブラッドは無表情だった。■■
「怒ったの?」■■
【ブラッド】
「…………」■■
「……私は人の望み通りに動くのが嫌いなんだ、【主人公の名前】」■■
「私が怒っても、君を喜ばせるだけ。
それは非常に面白くない」■■
そう言いながらも、杖は下ろされない。
表情だけが変わる。■■
余裕のある、作り物のような表情。
いつものブラッドの顔だ。■■
【ブラッド】
「【主人公の名前】、君は、罰を望んでいる。
傷つけられたいんだろう?この私に」■■
「君は……、死にたがっている人間とよく似た目をしている」■■
罰……。■■
(……そうかもしれない)■■
別人でも、この顔の持ち主に傷つけられたら、最高に嫌な気分が味わえる。
この顔を見続けること自体、罰のようなものだ。■■
【ブラッド】
「私を利用しようとするとは、命知らずなお嬢さんだ」■■
私は無言だったが、聡いブラッドにとってはそれが返事に等しい。■■
【ブラッド】
「私は利用されてやる気などないし、エリオットを怒らせたくない。
あいつは怒ると怖いんだ」■■
「君だって、主従の無用な殺し合いなど見たくないだろう」■■
この男は頭がいいのに、どうしてそんなことが言えるのか分からない。■■
「天地が逆さになっても、エリオットはあなたに逆らったりしないわよ」■■
【ブラッド】
「……私が、君を撃っても?」■■
「…………。
その言い方じゃ、私を撃てばエリオットが逆らうみたいじゃない」■■
【ブラッド】
「おや。
その言い方だと、君を撃ってもエリオットが逆らわないみたいじゃないか」■■
からかうように返された。■■
【ブラッド】
「試してみようか。
君を傷つけても、あいつが平気でいられるかどうか」■■
「……試すまでもないわ」■■
平気とはいえない。
好意を持った人間が傷つけば、エリオットは落ち込むだろう。■■
だが、それをしたのがブラッドなら仕方ないと思うはずだ。■■
【ブラッド】
「だから、試してみよう」■■
ブラッドは、私に顔を近づけた。■■
「……やめてよ」■■
反射的に顔を背ける。
ブラッドはお構いなしに、更に迫ってきた。■■
それを止めたのは、この屋敷のナンバー2の声だ。■■
【エリオット】
「ブラッド」■■
【ブラッド】
「……なんだ?」■■
ブラッドは、目も向けない。
私は仰天したが、彼はすでにエリオットが近くに来ていたことに気付いていたようだ。■■
【エリオット】
「……次の夕方の仕事の指示が、よく分からねえ。
補足をしてくれ」■■
なぜか、エリオットはぎっと私を睨んだ。
杖で押さえられ拘束されている状態の私が、なぜ睨まれなければならないのか分からない。■■
【ブラッド】
「…………。
それは今でないとまずい内容か?」■■
【エリオット】
「今すぐ、必要なんだ」■■
「今すぐ」に力が入っている。■■
【ブラッド】
「そうか……」■■
【エリオット】
「部屋の机の上に書類の写しが残っているはずだ。
チェックして指示してくれ」■■
【ブラッド】
「分かった。
すぐに確認しよう」■■
「…………」■■
「……ふふ、妬けるな」■■
引き際に、ブラッドは軽く私の頬を撫でた。■■
【エリオット】
「…………」■■
エリオットは、じっとそれを見ていた。
私を睨んだまま。■■
【【【演出】】】・・・去っていく足音×2
ブラッドが背を向けると、彼も付き従って去っていく。■■
次に会ったときは、いつも通りだったので聞けなくなる。
エリオットのほうも何か言いたいことがあるのか、たまに物問いたげに口を開きかける。■■
問いたげだが、問わない。
そのまま、この件は流された。■■
【【【時間経過】】】

★エリオット滞在05,08で両方とも「1:ハートの城」を選択している場合、「エリオット・ハートの兵士」イベントここから↓
帽子屋屋敷・廊下
【エリオット】
「よし、俺とデートしようぜ!」■■
「え?」■■
「え……、ちょっと、ちょっと……!?」■■
「私、メイドさんの手伝いの仕事が残っていて……」■■
仕事が早く終わったというエリオットはご機嫌だった。■■
念願のデート(どうしてそこまで私とデートしたいのか、未だに謎だ)に出かける。■■
【【【演出】】】・・・引き摺る音
出かけるというか、引きずられて……。
ずるずる~~~……っと……。■■
【エリオット】
「次の仕事が始まるまで3回分の時間帯しかないんだ!
短時間で変わっちまうかもしれないから、急ぐぜっ」■■
「……えらく慌しいデートね……」■■
【エリオット】
「いいだろ。
やっとデートできるんだっ」■■
「私は仕事が残っているんだけど……」■■
「……聞いてないわね」■■
しかし、嬉しそうな彼を見ると文句も強くは出なくなる。■■
(……まあ、いいか)■■
(嬉しそうだし……)■■
エリオットが嬉しそうだと、私も嬉しい。■■
(……恥ずかしいこと考えるようになったな、私も)■■
【エリオット】
「こうやって、まともにデートするの、初めてじゃねえ?」■■
「そっか……。
そうね……」■■
【エリオット】
「いつも、屋敷内だもんな……。
出かけても、他の連中と一緒だったり仕事絡みだったりで……」■■
「……初デートってことになるのか」■■
(は、初デート……)■■
(……うわ)■■
(恥ずかしい……)■■
友人同士で使うには親密さを感じさせる言葉だが、いつのまにか相応に親しくなっている。
異性の友人と遊ぶことを軽く「デート」というのは、珍しいことではない。■■
(珍しくなくても、相当に恥ずかしいけど……)■■
しかし、顔はにやけてしまうのだから、私も相当なものだ。■■
【【【時間経過】】】

……初デートは、うまくいかなかった。■■
それは初めてのデートで喧嘩したとか、甘酸っぱいものではなく……。■■
【エリオット】
「……最悪だ」■■
「そ、そうね……」■■
「で、でも、エリオット……。
あんまり怒らないで……」■■
「ほら、怒るとろくなことないわよ?
抑えて抑えて……っ」■■
私達は楽しいデートの最中……というか、今からカフェにでも入ろうかというところで、つかまってしまった。■■
ハートの兵士達。
いわゆる敵対勢力だ。■■
タイミング悪くというか……、彼らは帽子屋ファミリーのナンバー2であるエリオットを見つけ、捕獲しようとして今に至る。■■
私は捕らわれのお姫様状態で、エリオットは彼らに銃をつきつけている。
なんだかありがちなピンチの状態だ。■■
「足手まとい……よね」■■
たぶん、彼一人なら難なく切り抜けられるであろう場面だ。■■
私が捕まっていることがネックになっている。
かといって、私には特殊能力もなく、戦ったりできない。■■
「エリオット……」■■
「怒って……る?」■■
【エリオット】
「怒ってない……」■■
「……わけがないだろ?」■■
にこおっと、エリオットは晴れやかに笑う。■■
(お、怒ってる……。
すごく怒っている……)■■
ストレートに感情を表す彼が、こういうふうに怒るというのは、かなり激怒しているのだろう。■■
「ごめん……」■■
【エリオット】
「はは。
いいって、いいって」■■
「あんたが捕まったことに対して怒っちゃいるが……足手まといだとかそういう意味じゃねえよ……」■■
【兵士】
「うあ……!?」■■
突きつけた銃口の先をぐりっと回す。■■
(痛そう……)■■
心臓の真上だ。
もちろん、撃ったら痛いなんてものじゃすまない。■■
【エリオット】
「記念すべき初デートを邪魔された上に、べったべた触りやがって……」■■
「この人たち、別に私を触ろうとして捕まえているわけじゃないと思うわよ……」■■
誤解を招くような言い方をしないでほしい。
それでは、この兵士達まで変質者だということになる。■■
デートを邪魔されてイラついているのは私もなので同情する気はないが、それでも哀れんでしまう。■■
【エリオット】
「……目、瞑っといてくれよ、【主人公の名前】」■■
「エリオット……?」■■
「ちょ……っと、駄目よ?」■■
【エリオット】
「……何が?」■■
「いいから……。
目を瞑って……できれば耳もふさいどいてくれ」■■
「エリオット……!」■■
止める私に、彼は優しく笑いかけた。■■
まるで、普通の恋人同士のように。
デートの最中に待たせてごめんね、と。■■
【エリオット】
「すぐ、すむから」■■
【【【時間経過】】】
【エリオット】
「初デートなのに、散々だったな……」■■
「……その要因はあなたにもあると思うわよ」■■
思い出に残る初デートだ。
メモリアルという点ではすさまじかった……。■■
【エリオット】
「俺と付き合ってりゃ、慣れてくるって」■■
「【大】慣れたくない【大】」■■
【【【時間経過】】】
★「エリオット・ハートの兵士」イベントここまで↑
★全キャラ共通部分ここから↓
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢
【ナイトメア】
「この世界に愛着がわいてきた?」■■
唐突に尋ねられる。■■
しかし、彼との逢瀬自体がいつだって唐突だ。
予感がするときもあるが、彼に会えるかどうかは、基本眠ってみないと分からない。■■
「……まずまず、かしら」■■
【ナイトメア】
「ふうん……?」■■
「何よ、嫌な感じ」■■
【ナイトメア】
「いいや……、なんでもないけど」■■
「まずまず……か。
それにしては、とっても馴染んでいるみたいだね」■■
色白の顔がにまっと笑う。■■
「…………」■■
(ほんっと、嫌な感じ……)■■
私の考えていることなど、お見通し。
何も言わなくても、読んでしまう。■■
勝手に、許可なく。■■
……ナイトメアに、口先だけの言葉は通じない。■■
「馴染んでいるのは認めるわ」■■
「これだけ長く過ごしたんだもの。
愛着もわく」■■
「……でも、それは夢だからよ」■■
【ナイトメア】
「夢だから?」■■
「夢じゃなければ、この世界には馴染めない?
好きになれないか?」■■
「ええ……」■■
「……好きになれない」■■
自分でも、声が硬いと思う。■■
【ナイトメア】
「じゃあ、この世界は君にとって居心地の悪いものなんだね?」■■
「…………」■■
「……ええ、そうよ」■■
そう、答えなくてはならない。■■
長くいて、嫌いになれないこの世界。
でも、好きになってはいけない。■■
夢から覚めたときが辛すぎる。■■
【ナイトメア】
「そうか……」■■
(心を読めるあなたなら、お見通しなんでしょう?
ナイトメア)■■
だが、彼の表情は暗い。
いつもの通り、顔色が悪いだけだとは思えなかった。■■
【【【時間経過】】】

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