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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■06話_2』

◆帽子屋屋敷・廊下◆
「……っ!」■■
廊下を歩いていると、前方からエリオットが歩いてきた。■■
(……って、何を息を飲んでいるの、私は)■■
自由に過ごしていいと言われている屋敷内だ。
構えるなんておかしい。■■
いくら私がブラッドの部屋に向かっているからといって。
そこで何が起こるのか、予想がついているからといって。■■
(これが、背徳感っていうやつ?)■■
そんなもの、知りたくもなかった。■■
【エリオット】
「おう、アリス。
また夜になっちまったな~……、あんた、寝ないのか?」■■
「こんばんは、エリオット。
前の夜にたっぷり寝たから、今回は寝ないわ」■■
ここ数時間帯、夜の時間帯が多かった。
この世界ならではの他愛無い会話をしながら、心を落ち着ける。■■
【エリオット】
「そっか、俺は眠いぜ……。
この夜が終わったら休みなんだ、早く時間帯、変わらねえかなあ」■■
(私も、そう思う)■■
すぐに昼にでも変われば、ブラッドの気が削がれるかもしれない。■■
(長い夜は嫌だわ)■■
「早く時間帯が変わるといいわね。
……じゃあ」■■
「おう」と明るく返すエリオットとすれ違う。
しばらく彼の背中を見送ってから、私もゆっくりと歩き始めた。■■
何となく、後ろ暗い。
それでもどうして、私はあの部屋に行ってしまうのだろう。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・ブラッドの部屋
【【【演出】】】……上着を脱ぐ音
「……こんなことをして、楽しいの?」■■
【ブラッド】
「楽しくないとでも……?」■■
「…………」■■
「……楽しいんでしょうね。
あなたって、自分にとって楽しいことしかしない人だもの」■■
ブラッドごしに天井を見るのも、もう何度目か。■■
この部屋の天井は綺麗だ。
大きな屋敷なのに、新築のように磨かれている。■■
汚れの淘汰されたような世界で、これはなんなのだろう。■■
「私って、汚れている……」■■
こんな夢をみて、溺れている。■■
幸せが滑り込む余地など、ない気がした。
じわりと涙がにじむ。■■
bra7_2and8_3 【ブラッド】
「……!?
な……っ、どうして泣くんだ」■■
「泣いてないわよ……」■■
【ブラッド】
「涙ぐんでいる……」■■
「泣きそうなだけで、泣いてない」■■
【ブラッド】
「似たようなものじゃないか」■■
「あなたこそ……、どうして私が泣いたくらいで慌てるのよ」■■
今更だろうと睨むと、ブラッドは更に慌てた。
どうも、私は涙目になっているらしい。■■
それにしても、今更だ。■■
【ブラッド】
「それは……、違うだろう」■■
「何が」■■
【ブラッド】
「君は、普段、泣いたりしない。
いつも冷静だ」■■
「……辛いことがあったのか?」■■
……呆れた。■■
「自分が原因だとは思わないのね」■■
【ブラッド】
「私が原因なのか?」■■
素で聞かれると困る。
ブラッドは関係がないとはいわないが、原因ではない。■■
「違うわ」■■
適当に理由をつけて責めてしまってもいい。
それだけのことをされてきている。■■
しかし、出てきた言葉は否定だった。■■
【ブラッド】
「では、誰かに酷いめにあわされたのか」■■
ブラッドの目つきが剣呑になる。■■
ここの世界の人は、皆それなりに好意的だ。
必然として好かれているだけにしても、酷いことなどされていない。■■
「酷いことをしているとしたら、筆頭はあなたよ。
ブラッド=デュプレ」■■
少なくとも、この人以上に酷いことをするような人はいない。
非難のつもりで言ったのだが、彼はますます険を強めた。■■
【ブラッド】
「私が筆頭だとしたら、私の次は誰だ?」■■
「……君のことを同じようなめにあわすような奴がいるのか?」■■
「なに怒っているの。
怖いわよ」■■
いつもだらっとしているくせに、眉をしかめるだけでこれだけの迫力が出せるというのはずるすぎる。■■
【ブラッド】
「私は、自分のものに手を出されるのが嫌いなんだ」■■
「私は、あなたのものじゃ……」■■
【ブラッド】
「…………」■■
「分かった、分かった……」■■
(怖いから睨まないでよね……)■■
私の睨みなどとは迫力が違う。■■
「面倒くさい関係にはならないんじゃなかったの?」■■
「前言撤回が多いわよ、あなた……」■■
【ブラッド】
「今だって、面倒くさい関係なんかになるつもりはないさ」■■
「……あっ、そう」■■
ぶすっとしているブラッドは、どう見ても面倒くさいことになっていた。■■
彼が私に夢中になっているなどというつもりはない。
いわゆる、男の独占欲とかいうやつだ。■■
だるそうにしていても、マフィアのボス。
ある意味子供っぽいともいえる、独占欲や征服欲は強いのだろう。■■
そうでなければ、リーダーなど務まらない。■■
【ブラッド】
「……で?
私以外に、君にちょっかいをかけている奴はいるのか」■■
「いるかもね」■■
知人の中で浮かぶ顔がないでもないが、ちょっかいというほどのことはない。■■
それでも、悔しまぎれのあてこすり。
そっけなく、曖昧なことを言った。■■
途端、ブラッドの瞳がぎんっと音を立てたように錯覚する。■■
【ブラッド】
「この状況で私を煽ろうとしているのなら、感心はするが……褒めてはやれないぞ」■■
(だから怖いって……!)■■
「感心するけど褒められないって。
どっちなのよ?」■■
内心では竦み上がりつつ、精一杯の虚勢。
いつまでもつかは分からない。■■
【ブラッド】
「この私を振り回そうと思うような女になってくれたのなら、今でなければ面白い。
楽しませてくれる女性は大歓迎だと前にも言っただろう」■■
【ブラッド】
「だが今は……、タイミングが悪すぎる。
煽るにしても範囲を越えれば、君自身、火傷をするぞ?」■■
「……それって、今のあなたは私に振り回されているってこと?
楽しむ余裕もないほど」■■
「火傷する」だなんて脅していても、そういうことだ。■■
(ちょっかいを出す人がいるかもって言った、私の言葉に?
たったあれだけの陳腐な強がりに?)■■
【ブラッド】
「……っ」■■
苛立ちの露わになった余裕のない表情。
この人は私に振り回され、嫉妬しているのだろうか。■■
ブラッド=デュプレともあろう男が。■■
「面倒が嫌いなら、妬くのはよしたら」■■
【ブラッド】
「っち……。
ずいぶんと余裕があるんだな」■■
舌打ちして、嫌そうな顔。
とりすました男の平静を崩すのは、なかなか爽快だ。■■
【ブラッド】
「最初からそうだった……」■■
「最初は、ブラッドのほうが余裕があったわよ」■■
【ブラッド】
「……うるさいな」■■
少し顔を赤らめる。
こういう顔をもっと見せてくれれば可愛いのにと思うが、それは最早ブラッドではない。■■
【ブラッド】
「すぐに余裕をなくさせてやるよ……」■■
「……こっちでは、私の独壇場だ」■■
悔しいことに、その通り。■■
「いつまで続くかしら」■■
憎まれ口を叩くと、今度の反応は余裕綽々だった。■■
【ブラッド】
「負かしてほしいものだ。
主導権を握ってくれるのは、歓迎するぞ?」■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・廊下◆
【エリオット】
「アリス~。
時間空いてるか?」■■
エリオットが耳を揺らしながら走ってくる。
飼い主に駆け寄る、ペットのようだ。■■
(相変わらず犬っぽいウサギだな~)■■
「ええ、空いているけど」■■
【エリオット】
「今日は外に食いに行かねえ?
いい店知ってるんだぜ」■■
「あんたを連れて行きたいって思ってたんだよな~」■■
「ブラッドは、どうもノリが悪いからよ……。
二人で、どうだ?」■■
「いいわね。
連れて行ってほしいわ」■■
【エリオット】
「おう!
そうこなくっちゃな」■■
「そこのにんじん料理が、うっまいんだ~」■■
「あ、でも、俺はあんたとならどこだっていいんだ。
あんたと外に食い行くってだけで楽しそうだもんな」■■
「それで、にんじん料理ならいうことない」■■
「私はできれば、にんじん料理以外がいいんだけど……」■■
「まあ、少しくらいなら付き合うわ。
行きましょうか」■■
※ブラッド滞在04で「1:時々脱線するジェットコースター」を選んでいる場合、「ブラッド&ボリス」1回目ここから↓
◆帽子屋屋敷・庭園◆
【ボリス】
「やっ、アリス!
会いにきちゃった!」■■
「……え?」■■
「ええ!?
なんで……!?」■■
庭園を散歩していたら、いきなりボリスが現れた。■■
【ボリス】
「会いたかったぜ、アリス~」■■
「ここに滞在しているって、人づてで聞いたけど本当だったんだな!」■■
ぎゅうぎゅうと、抱きしめられる。■■
(人づて……?)■■
(……ああ、そういえば私、ボリスに直接自分の滞在地を言ったことがなかった)■■
どちらかというとボリスは、元の世界のことを聞きたがる。
滞在地は訊かれなかったし、今まで会話にも出なかった。■■
★「ブラッド・ゴーランド」が発生している場合のみ↓
(この間ゴーランドとブラッドの話をしていたときも、ボリスが来て話が変わったんだっけ)■■
★「ブラッド・ゴーランド」が発生している場合のみ↑
【ブラッド】
「…………」■■
(……あ)■■
気配を感じ、ブラッドと一緒だったことを思い出す。■■
そうだった。
私達は今、二人で散歩をしていたところだったのだ。■■
呆けていた頭が引き締まると、再び焦り出してしまう。■■
「ボ、ボリス!?
え?ええ???」■■
「ここって、あんたにとって敵地よね???」■■
「こんなところに来るなんて……」■■
【ボリス】
「じゃあ、なぞなぞだ。
どうしてでしょう?」■■
「ふざけないでよ!」■■
ボリスとは仲良くしていて、友好関係がある。■■
しかし、それは私とボリスの話だ。
ブラッドとゴーランドは対立しているのだから、遊園地の居候だというボリスも敵にあたるはず。■■
敵地のどまんなかに乗り込んでくるなんて、無謀すぎる。■■
【ボリス】
「アリス、心配してくれてんの?
俺って愛されてる?」■■
「馬鹿なこと言わないで……!」■■
しかも、ここのボスであるブラッドが目の前にいる。
ボリスは、ブラッドの顔を知らないのだろうか。■■
★「ブラッド・ゴーランド」が発生している場合のみ↓
(何よ、『愛されてる?』って。
遊園地の住人は、どいつもこいつもおかしいんじゃないの!?)■■
二人共友人だが、こう続くと、さすがにこれくらい言いたくなる。■■
★「ブラッド・ゴーランド」が発生している場合のみ↑
【ブラッド】
「…………」■■
(……ブラッド?)■■
……無反応が、かえって怖い。■■
ブラッドは、部下を呼ぶでもなく、ボリスと私の様子を見ている。
けだるげだが、その表情は冷たい。■■
「どうやって入ったの!?」■■
ボリスに視線を戻し、問い詰める。■■
ここまで来るには、門もあるし、敷地内を大分歩かなくてはならない。
簡単に浸入できるものではないはずだ。■■
【ボリス】
「なぞなぞ……」■■
「ふざけないで」■■
【ボリス】
「なんだよ、のり悪いなあ……」■■
「ど・う・やっ・て、入ったの」■■
区切って、低く問う。■■
【ボリス】
「え~?
普通に」■■
「普通って何よ!」■■
【ボリス】
「いつも通りだよ。
適当に壁を乗り越えた」■■
「不法浸入?!?
不審者じゃないの!!!」■■
「…………」■■
「……【大】いつも?【大】」■■
【ボリス】
「そ。
いつも、だよ?」■■
「いつもって……」■■
【ボリス】
「ここ、よく来るんだ」■■
「知らなかった?
俺、ここの門番……ディーとダムの友達なんだぜ」■■
「え……」■■
まじまじと、ボリスを見上げる。
言われてみれば、タイプが似ているような似ていないような……。■■
「知らないわよ。
よく来るって言うけど会ったこともなかったし、今までそんなこと一度も言っていなかったじゃない」■■
【ボリス】
「ん~、ディーとダムと合流すると、外に出掛けちゃうことも結構あるしな~。
言わなかったのは、別にわざわざ言うほどのことでもないし」■■
さらりと答えられてしまった。■■
考えてみれば、私が滞在地を言っていなかったのと同じだ。
わざわざ会話に出す必要がなかった。■■
ということは……?■■
「敵……じゃないの?」■■
【ボリス】
「おっさんは敵対しているかもしれないけど、俺らは友達」■■
(…………。
友情ものというにはアバウトな感じだな……)■■
「友達なら、門から入らせてもらいなさいよ」■■
【ボリス】
「あいつら、いないことのほうが多いんだぜ。
今回もいなかったしな」■■
いないことのほうが多いのは、私も知っている。■■
「またサボり……」■■
【ボリス】
「そーそー、サボり。
門番がいなけりゃ、壁をのぼるしかないだろ?」■■
「しかないことないでしょ……」■■
「ここのお屋敷、警備は厳しいはずなのに、よく見咎められなかったわね」■■
ここの使用人は皆だらっとしている。
しかし、非常時の働きはすごいということを知っている。■■
銃携帯が標準な、こわ~い使用人達なのだ。■■
【ボリス】
「トラップは俺には通じないよ」■■
「それに、屋敷の人とは顔見知り。
ね、帽子屋さん」■■
「……へ?」■■
【ブラッド】
「……ああ」■■
それまで黙って見ていたブラッドが、こくりと頷く。■■
けだるそうだが、いつもよりピリピリした印象を受ける。■■
「知り合い?」■■
そのピリピリ具合が、ボリスとブラッドが本当に知り合いなのか疑問を抱かせた。■■
知り合いではあっても、友好的とはいえない知り合いなのかもしれない。
仲がよさそうには思えなかった。■■
【ボリス】
「ディーとダムと遊びに、しょっちゅう屋敷に訪ねてきてるんだぜ?
ここの主人と顔見知りでないわけないだろ?」■■
「ああ、なるほど……」■■
「じゃあ、ブラッドとも親しく……」■■
【ブラッド】
「…………」■■
……見えない。■■
ボリスは愛想がいいが、ブラッドのほうはむっつりと挨拶もしない。■■
「顔見知りかもしれないけど、嫌われているんじゃないの、あんた……」■■
【ボリス】
「え~?
そんなことないって……」■■
「いつも、おまえは面白いって言ってくれるんだぜ?
……なんだか今は機嫌悪いよな」■■
「帽子屋さん、何か怒ってる?」■■
【ブラッド】
「……いいや。
何も怒ってなどいないさ」■■
だるそうに答えるブラッドは、どう見ても不機嫌だ。
だるだるしているのはいつもと変わらないが、目つきが尖っている。■■
【ボリス】
「ん~~~……?
あれ、ひょっとしてさ、アリス、あんた……」■■
「……ん?」■■
【ボリス】
「や、ここに滞在してるって聞いたときから、誰かのだとは思ったけど……。
あんたって、まさか……」■■
「んん?」■■
(誰かのって……)■■
(……所有物?)■■
「私は、誰のでも……」■■
【ブラッド】
「……そろそろ、返してもらおう」■■
ひやりとした声と共に引き寄せられた。■■
【ボリス】
「……帽子屋さんのだったんだ」■■
【ブラッド】
「…………」■■
【ボリス】
「ちぇっ、なんだよ。
アリス、いいとこさらってくね」■■
「この人、マフィアのボスで……、何度かゲームを制しかけてる。
知ってるか?」■■
「え?
勢力争いに勝ちかけたってこと……?」■■
【ボリス】
「聞いてない?」■■
「この人、面白いんだぜ。
何度か制しかけて、そのたびにぶち壊しに……」■■
楽しそうに、ボリスはにいっと笑った。■■
【ブラッド】
「……おチビさん、口は災いの元だと知らないわけではあるまい」■■
ブラッドが、無表情に遮る。■■
【ボリス】
「おっと、怒るなよ。
あんたに喧嘩を売るほど馬鹿じゃない」■■
「……おチビさんはやめてくんないかな」■■
あんたよりは低いけどさあ……と、ボリスはぼやいた。
両手を軽くあげて、攻撃的な意思がないことを伝える。■■
【ブラッド】
「うちの門番は自室だろう。
例によって休憩中で、遊んでいるはずだ」■■
「行って、遊んでくるといい。
奴らは子供で気が短い。待たせてやるな」■■
【ボリス】
「はいはい……。
分かったよ、退散しますー」■■
「アリス、また遊ぼうな。
帽子屋さんのでも、俺は気にしないから」■■
「……帽子屋さんは気にしそうだけど」■■
「ボリス、あんた……」■■
【ボリス】
「じゃあな、アリス。
今度は旦那のいないところで会おうぜ」■■
ボリスは火種を撒き散らすだけ撒き散らして、本当に退散してしまった。■■
「……クソ猫」■■
最悪だ。■■
屋敷から出かけるのはたまにだが、誰とどこで何をしたなどという子供のような報告は求められなかった。■■
だが、以後はそうはいかなくなりそうだ。
ちらりと見た、ボリスいわく「旦那」さんは絶対零度の空気をはなっている。■■
【ブラッド】
「……アリス。
君は、仲がいい友人が多いようだな」■■
「……ま、まあね」■■
「ボリスは友人……よ?
あんなこと言っていたけど、彼だって変なつもりはなくて……」■■
【ブラッド】
「そうか、そうか。
あんなにべたべたしてくるような友人、ね……」■■
「さぞや、たくさんの言い分があるんだろうな」■■
ブラッドは、にっこりと笑った。■■
爽やかで……、似合わない笑顔だ。
けだるそうな顔を見慣れているので、怖いとしか思えない。■■
【ブラッド】
「ここでは、ゆっくりと聞けそうにない。
場を移そうか」■■
「え……、ええ!?」■■
【ブラッド】
「さあ、私達も部屋に戻ろう」■■
「い、嫌……」■■
【ブラッド】
「どうして」■■
「だ、だって、絶対に変なことする気でしょう!?
目が怖い……!」■■
【ブラッド】
「変なこと、ね」■■
「……しない?」■■
【ブラッド】
「……もちろん、するさ」■■
にっこり、と。
ぞわぞわくる笑い方をしてくれる。■■
【ブラッド】
「私はここでもいいんだぞ、アリス?」■■
「…………」■■
【ブラッド】
「部屋に行こうか?」■■
「……行きます」■■
【【【時間経過】】】
◆ナイトメアの夢◆
「ここでは、死がとても軽いのね」■■
その意味が、ないもののように扱われる。■■
【ナイトメア】
「ああ。
ここでは、死ぬことにあまり意味がない」■■
ナイトメアは軽く答えた。
本当に意味がないと思っているのが、伝わってくる。■■
「死に意味がないなんて、おかしいわ」■■
【ナイトメア】
「君の世界では……」■■
「……悪夢は、大概が人の形をしているものだ。
だが、この世界では違う」■■
「どういうこと?」■■
【ナイトメア】
「絶対に逃げられないものが、悪夢なんだよ。
この世界では『死』は、そこまでの悪夢じゃない」■■
ここでは、死がとても軽い。■■
「…………」■■
【ナイトメア】
「まあ……、誰も彼もが死にたがっているわけではないさ……」■■
「私も、死のうと思ったりしたことはないぞ」■■
「【大】でも、あなたが一番死にそうな感じよ?【大】」■■
ナイトメアの顔色は、常に真っ青か真っ白だ。■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「そこが問題なんだ……。
死のうとしていないのに、死にそうだ……」■■
「お、お大事に……」■■
【ナイトメア】
「ああ……。
ところで、アリス……」■■
「何?
病院行く?」■■
【ナイトメア】
「いや、それほどのことでは……」■■
「……胃薬持っていないか?
吐血しそうだ……」■■
「…………」■■
「持っていない」■■
(吐血しそう……じゃない。
すでに血を吐いている……)■■
それに、胃薬で吐血は治らない……と思う。■■
【ナイトメア】
「そうなのか!?」■■
「……この世界の人って、馬鹿ばっかりなの?」■■
(病院行けよ)■■
【【【時間経過】】】

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