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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■03話_3』

◆帽子屋屋敷・ブラッドの部屋◆

【【【演出】】】・・・本のページを繰る音
夜だが、眠気のしない私はブラッドの部屋を訪れていた。
ソファに座った膝の上には、一冊の本。■■
おかしなことに、この世界には本がある。
そして、ちゃんと読める。■■
これは私の夢にすぎない。
だから、内容が正しいかどうかは分からないが……、新しい知識が吸収できるのだ。■■
(おかしな夢……)■■
ブラッドの部屋で、正しいかどうか分からないような本を読み漁るのが、最近の日課になった。
彼の仕事の邪魔をしないよう、静かに過ごす。■■
持ち出し禁止というわけではない。
本を借りて出て行けばいいのだが、なんとなくその場で読んでしまう。■■
ブラッドを怖いと思った気持ちに偽りはなく、今でもそう感じているのに、私はここで時間を過ごしている。■■
彼は追い出さないし、私も出て行かない。
不思議な時間だ。■■
「…………」■■
【ブラッド】
「……そんなに見ると、穴があいてしまうぞ」■■
「……え?」■■
指摘され、我に返る。
書類を整理するブラッドの横顔をじっと凝視していた。■■
「あ……、ああ、ごめん」■■
【ブラッド】
「私の顔に、何か付いているのか?」■■
ありきたりな台詞。
もちろん、そんなわけはないと承知の上で訊いている。■■
「何も付いていないけど……」■■
「見惚れていたのよ」■■
おだてるようなことを言う。
ただし、まったく感情の籠っていない、そっけない口調で。■■
皮肉られたことへの仕返しだ。
だが、相手は更に一枚上手だった。■■
【ブラッド】
「それは光栄だな。
そういう理由なら、穴があいてもいいね」■■
本気でないと分かっているくせに、嬉しそうな顔をする。
皮肉で返したところで、微塵も堪えてくれない。■■
「……やっぱり邪魔になっているわよね。
部屋で読むわ」■■
【ブラッド】
「いい。
邪魔ではないから、ここにいなさい」■■
「いなさい」という優しい言い回しながら、「いろ」と命令されているのと変わらない。
彼の言葉は、人に選択権を与えない。■■
【【【演出】】】・・・ソファへ座る音(小さく)
浮かしかけた腰を、再びソファに沈める。
そうするしかないように感じた。■■
「脅迫されているみたい」■■
閉じた本を開く。
しおりを挟まなかったせいで、ページ数が分からなくなっていた。■■
【ブラッド】
「私が君を脅迫する?」■■
ブラッドのほうは仕事を中断しても平気なようだ。
途中で止めても、すぐに再開できる。■■
器用な男だ。
一度に幾つも物事をこなせない私としては、羨ましい。■■
【ブラッド】
「そんなことをしたか?」■■
「か弱い君を脅すような真似……、していないだろう?」■■
嘘くさい。■■
私はか弱くなどないし、彼もおそらく分かっている。
根が似ているのかもしれない。■■
「そうね。あからさまではないわね。
だけど……」■■
「……していないって言える?」■■
【ブラッド】
「……言えるとも」■■
「ふふ……。
どうしてそんなに警戒されてしまうのか、理由が思い当たらないな」■■
「私がそんな無体な真似を働くような男に見えるのか?」■■
(見えなかったら、警戒心が薄すぎるでしょうよ……)■■
思い当たる節などない。
そう言い切る言葉も、白々しく聞こえる。■■
とぼけているようにしか聞こえない。■■
「職業を抜きにしても、あなたは危険そうだもの」■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
休みが続き、暇を持て余している。
ブラッドから借りた本もかなり読んだし、気分転換に外出するのもいいかもしれない。■■
(どこかに遊びに行こう)■■
遊園地・園内
遊園地にやって来た。
奥のほうへ進んでいくと、オーナーのゴーランドに出くわす。■■
「あ、ゴーランド。
こんにちは」■■
【ゴーランド】
「アリス、遊びに来てくれたのか?」■■
「ええ。
といっても、あまりアトラクションに乗る気分じゃないんだけどね」■■
「気分転換に、なんとなく」■■
【ゴーランド】
「そうなのか?
せっかく遊園地に来たのにアトラクションを堪能しないなんて勿体ないが……」■■
【ゴーランド】
「気分じゃないって言うなら仕方ねえか。
それじゃあ……、そうだ、飯は食ったか?」■■
「まだ昼飯を食ってないなら食ってけよ。
面白え料理がたくさんあるぜ~」■■
「もちろんご馳走するぜ?」■■
「食事か……。
そうねえ……」■■
「じゃあ、ご馳走になろうかしら」■■
ちょうど、空腹だった。
お言葉に甘えて……と受け入れると、ゴーランドは声を弾ませる。■■
【ゴーランド】
「おう、奢られとけ!
俺もあんたが遊びに来てくれて嬉しいんだ」■■
「料理人に腕をふるわせていいもん食わせてやるからな!」■■
「……どんなものが出てきても驚くなよ~」■■
「……驚くような料理を出す気なの?」■■
甘えないほうがよかっただろうか……。■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地内・レストラン◆
結局、ご馳走になることにして、ゴーランドの案内する園内の店に入った。
南国風の装飾が施された、開放感のあるレストランだ。■■
「なんだ。
案外、普通じゃない」■■
とんでもないものが出てくるかと思ったが、盛り付けが斬新なだけで味は至って普通だった。■■
そこそこの味という意味でなく、普通においしい。■■
【ゴーランド】
「それは褒めてんのか貶してんのかどっちだ?
食えないような料理を奢るなんて言うわけねえだろ」■■
「や、普通はそうなんだけど……」■■
この世界、私の考える普通は通用しないと思い、構えすぎていたようだ。■■
【ゴーランド】
「ここの店は、味にもパフォーマンスにも定評があるんだ。
人気店のうちのひとつなんだぜ!」■■
「そうなのね。
ええ、たしかに美味しい……」■■
「…………」■■
「……ん?
パフォーマンス???」■■
首を傾げたとき、どこからともなく低い音が聞こえてきた。
ズンズン、ドコドコという太鼓を鳴らすような音だ。■■
【ゴーランド】
「お、ちょうど始まるな。
ここは熱帯地域の民俗村のイメージでな、何時間帯か置きに客参加型のショーをやるんだよ」■■
「ショー?
客参加型?」■■
【ゴーランド】
「ああ……、ほら、店の前の部分がステージになってるだろ?
あそこに、そのうち出てくるはずだ」■■
【【【演出】】】・・・ドコドコ太鼓のリズム
ゴーランドが指差すステージを見る。
太鼓のリズムが大きくなり、やがてそこに派手な衣装を身に着けた男女が飛び出してきた。■■
【ダンサー・女1】
「おっまたせしました~!
ショータイムの始まりでーす!!」■■
【ダンサー・女2】
「前の時間帯まではリンボーダンスショーでしたが、今回から演目が変わりまーす!
今回は、なんと~!!」■■
【ダンサー・女2】
「火の輪くぐりショー!!
身もちりぢりに焦げちゃいそうなほどの、熱~いステージをお送りいたしまーすっ」■■
「……【大】は?【大】」■■
呆気に取られる私を余所に、客は歓声をあげる。
ステージには、めらめらと火が燃える大きな輪が台車に乗せて運ばれてきた。■■
【ゴーランド】
「あー、そうだそうだ、この時間帯から演目切り替えだったな。
リンボーダンスよりこっちのほうが人気なんだよ」■■
ゴーランドはステージを眺め、にこにこしている。■■
【ダンサー・男】
「さあ、ではショータイムの始まりでーす!
我こそはというお客様は、どんどんダンサーの後に続いちゃってくださーい!」■■
【【【演出】】】・・・人々の歓声、口笛など盛り上がる声
ステージ上の司会役が叫び、他のダンサーが踊りながら火の輪をくぐり始めた。
すると……。■■
【男1】
「よーし、俺は行くぜー!!」■■
【女1】
「私も行くわ!
きゃははっ、楽しそう~!!」■■
【【【演出】】】・・・ガタガタと椅子を立つ音、複数
周囲の客がどんどん席を立ち、我先にとステージに走り寄っていく。■■
「えっ、嘘っ。
ちょっと待って……!」■■
あんなもの、素人がやっては誇張でなく焼け焦げないだろうか。■■
【ゴーランド】
「ん、どうした、あんたももう行くか?
飯全部食っちまってからでもいいぜ、しばらく続くから」■■
「【大】行かないわよ【大】」■■
何を参加すること前提で言っているんだ、こいつは。■■
「ねえ、ダンサーはともかく、お客さんがあんなことして大丈夫なの?
火傷とかしたら、どうするのよ!?」■■
大きな火の輪を、客はキャーキャー騒ぎながらくぐっている。
見たところダンサーが手を貸したりもしているようだが、戯れですむ行為ではないだろう。■■
楽しそうに参加している客の気も理解できない。■■
【ゴーランド】
「あー、平気だ、平気だ。
ここはこういうスリルのあるショーが楽しめる店で、来る客も慣れてるしな」■■
ゴーランドはあっけらかんと言い切って、笑っている。
ステージ上では、見ているこちらがスリル満点のショーが続いていた。■■
客もダンサーも上機嫌で、燃え盛る火の輪をくぐり続けている。■■
「前言撤回。
料理は普通でも、店自体が普通じゃないのね……」■■
陽気でいいが、食事をするには落ち着かない……。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
【【【時間経過】】】
就寝前のひととき。
たまにそうするように、あの小瓶を出し、眺めていた。■■
「…………」■■
小瓶をじっと見る。■■
(……増えている)■■
「…………」■■
「…………」■■
「不思議……」■■
「……を超えて、【大】不気味【大】」■■
「…………」■■
不気味に思うのに、なぜ捨てられないのだろう。
……自分が不思議だ。■■
(頭がぼんやりする……)■■
こんなときは、また夢をみそうだ。
あの、目覚めても忘れることのない夢。■■
予感がする。■■
きっと……当たるであろう予感。■■
【【【時間経過】】】
◆ナイトメアの夢◆
(…………)■■
(……やっぱり)■■
いつものように、夢の世界へダイブする。■■
夢の中の夢。
この浮遊する空間にも慣れた。■■
(ちょうどよかったわ。
私も、気になっていることがあったから)■■
毎回ではないが、ナイトメアに会う確率は高い。■■
「ナイトメア」■■
【ナイトメア】
「……ん?」■■
ナイトメアも、当然のように私を迎え入れる。
人の考えていることを勝手に読んでしまう、この男。■■
いつもなら会いたくないが、今回は用事があった。
やっと気付いた衝撃の事実……気付くのが遅いくらいだった恐ろしい事実に対して、文句を言いたい。■■
「ねえ、私、気付いたんだけど」■■
【ナイトメア】
「何を?」■■
「この世界の人は、誰も彼も私を好きになってくれるって言っていたじゃない?」■■
【ナイトメア】
「そこまでは言っていないよ」■■
「似たようなことよ!」■■
「実際、ここの人達は、皆、私に好意的だわ。
話しやすいし接しやすい」■■
【ナイトメア】
「よかったじゃないか」■■
「……いいことなのに、なぜ怒るんだ?」■■
いいことというより、不気味なことだ。■■
怒ってはいないが、イラついている。
寄せられる好意に、最初はどう対処していいか分からなかった。■■
「誰からも好かれて幸せっ」などと喜べるほどお気楽ではないし、妄想家でもない。
私は、そんなに好かれやすい人間ではないし、誰からも好かれたいなどとも思わない。■■
誰からも好かれるなんて異常事態、不気味なだけだ。■■
【ナイトメア】
「不気味って……。
ひねくれた見方をするね」■■
「また、人の考えていることを読む……」■■
「……普通に考えて、不気味だわ。
何度も言っているけど、私は誰からも好かれるような人間じゃないもの」■■
好かれれば、嬉しいと思うよりもおかしいと思う、歪んだ性格だ。
こんな性格の人間が万人受けするとは思えない。■■
【ナイトメア】
「そこは、素直に喜んでおいたらいいのに」■■
(また……)■■
考えを読まれない方法はないのだろうか。■■
【ナイトメア】
「君みたいな子のほうが、この世界では好かれるんだよ、アリス。
誰にでも好かれるような無難な子じゃ、好かれないから生き残れない」■■
(……誰にでも好かれるような子が無難な子だとは思えないけど)■■
好かれるというのも、才能だ。■■
誰にでも好かれる子なんて、めったにいない。
姉のような人は、希少だ。■■
なろうと思ってなれるものでもない。
しかし、ようやっと分かったことがある。■■
「……そうよね。
好かれていないと、殺されちゃっていたかもね……」■■
「…………」■■
「……気に入られなければ、とっくの昔に殺されちゃうような世界だもの」■■
つまり、これは必然だったのだ。■■
最初は、誰にでも好印象を持たれるなんて、とても滑稽な妄想の世界だと思っていた。
しかし、そうでなければ生き残れないような世界なのだ。■■
【ナイトメア】
「そうなんだよ。
君は賢い子だ、そろそろ気付くと思っていた」■■
誉められているというよりも、けなされている感じがする。■■
【ナイトメア】
「君が気に入られるのは、この世界で生き残るための必須条件なんだよ、アリス。
そういった願望がなかろうと、気に入られなければとっくの昔に死んでいる」■■
「過剰な妄想でもなんでもないさ。
好かれることに安堵しないといけない」■■
「この世界に気に入られたから、この世界で生きていられる」■■
「気に入られないと生きていけない世界なんて、とんでもないわ……」■■
「嫌われたり、気に食わなかったりしたら、殺されていた可能性が充分にあったわけでしょう」■■
結果的に、気に入られて滞在場所も確保でき、生活しているわけだが……。
今更ながらにぞっとする。■■
【ナイトメア】
「この世界の人間はばらばらでいても、すべてがどこかしら連動しているんだ。
白ウサギに好かれている君は、他の人間にも気に入られる」■■
「……へえ」■■
「でも、気に入られなかった可能性だってあったわけよね」■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「……まったく、君は賢いよ」■■
「……ふふ。
気に入られてよかったな」■■
(……やっぱり)■■
「綱渡り状態だったのね」■■
今更だ。
今更だが……、今更でも、ぞおっとする。■■
やっと、私は気付いたのだ。■■
誰にでも気に入ってもらえるなんて都合がいいと思っていたが、そう、都合よくなければ私は殺されていた。
都合がいいというよりは、本当に……必然、必須条件だったのだ。■■
【ナイトメア】
「そんなに心配はしていなかったよ。
白ウサギに好かれるということは、他の役持ちにもある程度は好かれることは確定していた」■■
「奴らは、皆、連動しているからね」■■
「ここの世界のルールとか、そういうのはよく分からないし、どうでもいいの」■■
ストップをかける。■■
この世界の人の説明は、大体が理解できないものばかり。
聞くと、かえってこんがらがる。■■
どうせ夢の中のことだ。
たいした意味なんてない。■■
「でも、あなた、他人事だからそういう気楽なことが言えるのよ。
自分のことだったら、もっと切実だわ」■■
夢といえど、自分の生死を人に気に入られるかどうかで左右されたくなどない。■■
都合がいい世界だなどと考えていた、私のほうがのんきだった。
誰にでも気に入られるようでなければ、この世界では生きていること自体が難しい。■■
気付いたときは慄然とした。■■
【ナイトメア】
「だが、君は気に入られている。
この世界は君を好いていて、受け入れているんだ」■■
「嬉しいだろう、アリス?」■■
「嬉しい?
生きるも死ぬも相手次第なんて、嫌な世界だわ」■■
「早く帰りたい」■■
怖いと同時に、ムカつく世界だ。
自分ではどうにもならない。■■
そんなの、現実と同じで、夢の意味がない。■■
【ナイトメア】
「そんなに焦るものじゃない」■■
「君は、非力な女の子。
気に入られることは、ここで生きるための必須条件だ」■■
「だけど、それ以上のことは君次第でもあると思うよ。
元の世界よりもいい居場所をみつけられるかもしれない」■■
(いちいち、嫌味っぽいわね)■■
「夢の世界で生きていくつもりはないわ」■■
私は、早く現実に戻りたい。■■
【【【時間経過】】】

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