TOP>Game Novel> 「 ハートの国のアリス 」> ブラッド=デュプレ ■04話

ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■04話』

【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
休みだが予定がなく、暇を持て余していた。■■
(どこかに遊びに行こうかな?)■■
ハートの城を訪ねる。
ペーターが、私を見付けて駆け寄ってきた。■■
【ペーター】
「こんにちは、アリス」■■
「【大】触らないでよね【大】」■■
真っ先に釘を刺しておかないと、ベタベタと抱きつかれる。
いや、釘を刺しても結局抱きつかれるのだが。■■
(鬱陶しいのに……。
なんでか、来ちゃうのよね)■■
こんなストーカーでも、私をこの世界に連れてきた張本人だからだろうか。■■
【ペーター】
「……今日も『遊びに来ただけ』なんですか?」■■
「そうだけど?」■■
【ペーター】
「僕に会えなくて寂しかったって素直に言ったらどうです?」■■
「【大】いや、無理【大】」■■
思ってもいないことは言えない。■■
【ペーター】
「アリス……」■■
またそんな強がりを、などと言って勝手に話を進めるかと思いきや、ペーターはじっと私を見つめてくる。■■
【ペーター】
「ねえ、アリス、答えてください。
僕のこと、好きですよね、好きに決まっていますよね!」■■
「……エース君が、あなたが僕のことを苦手、だなんて言うんですよ?
そんなことあるわけがないのに……、まったく」■■
(何を根拠に、そう思い込めるんだろう……)■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
【【【演出】】】・・・ノックの音
こんこん。
自室にいると、ドアがノックされた。■■
「はい?」■■
【帽子屋・メイド・女1】
「おやすみのところ失礼します~。
ボスがお嬢様をお呼びになっていらっしゃいます~」■■
聞こえてきたのは、特徴的な話し方の使用人の声。
私は座っていた椅子から立ち上がり、扉に向かう。■■
【【【演出】】】・・・扉を開ける音
「ブラッドが?
何かしら?」■■
【帽子屋・メイド・女1】
「用件は伺っていないんですが、できれば至急来てほしいとのことです~」■■
(至急?
急ぎの用件なのかしら?)■■
(何だろう。
心当たりはないけど)■■
【帽子屋・メイド・女1】
「多分、またお茶会の話じゃないですか~。
茶葉の在庫について訊かれたりもしましたので~」■■
「またか……。
ほんとに紅茶バカよね、あの人……」■■
「分かったわ。
どうもありがとう」■■
幸い、特に何かをしていたわけではない。
すぐに部屋を出て、ブラッドの部屋へと向かった。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・廊下◆
【【【演出】】】・・・がたっと、遠くでする物音
「……ん?」■■
廊下を歩いている途中で、何やら物音を耳にした気がして立ち止まる。■■
周囲に人の姿はなく、この辺りは使われていない客室が並んでいるエリア。
異様な音ではなかったが、気に掛かった。■■
【【【演出】】】・・・がたっと、遠くでする物音
(!
また……)■■
テーブルか何か、大きな家具が動いたような音だ。
意識していたので、やや離れたところにある客室から聞こえたのだと分かった。■■
(あそこも、使っていないはずよね。
掃除でもしているのかしら?)■■
(いえ、使っていないのに掃除をする必要もないわ)■■
この世界では、放っておいても埃が溜まったりはしない。■■
(…………。
気になる……)■■
(でも、早くブラッドのところに行かないと。
紅茶が関わると、うるさいからな~)■■
★選択肢が出る
※好感度には影響のない選択肢です
※○を選ぶと、条件により「双子DEADEND」

1:「確認しないで先を急ぐ」(双子DEADEND へ)
2:「確認してみる」

2:「確認してみる」
(やっぱり気になる。
ちょっとだけ覗いてみよう)■■
音のした客室は、既に通り過ぎた位置だ。
引き返し、その部屋へと向かった。■■
【【【演出】】】・・・扉を開ける音
未使用の客室は施錠していない。
躊躇いなくノブに手を掛け、扉を開ける。■■
室内を覗き込むと、そこには……。■■
【???・ディー】
「あれ?
なんだか、前に見たような……」■■
【???・ダム】
「そうだね?
たしか、前に見たような……」■■
室内に立っていたのは、最初にここを訪れたときに会った双子の少年だった。■■
手にはそれぞれ、斧を持っている。
あれで殺されそうになったこともあり、こちらは忘れようがないが、双子は思い出せない様子。■■
「前に一度、門のところで会っているわ。
あなた達、私を侵入者と勘違いして……」■■
そういえば、この二人は門番ではなかったか。
何度も門を出入りしているが、今の今まで会ったことがないのはどういうことだろう。■■
(門前にいなきゃ、門番は務まらないでしょうに……)■■
こちらは首を傾げるが、二人は思い出してくれたようだ。
ああそういえば、と、顔を見合わせて話している。■■
「……思い出してくれたみたいね。
私、あの後ブラッドに誘われて、ここに滞在することになったのよ」■■
短く説明する。
双子は本当に何も聞いていなかったようで、目を丸くして驚いた。■■
【???・ダム】
「そうなんだ?」■■
【???・ディー】
「へえ……。
ボスが許可したんだ?」■■
「滞在するのなら、短くない付き合いになるよね。
挨拶しないと」■■
「僕、トゥイードル=ディー」■■
【ダム】
「僕、トゥイードル=ダム。
よろしくね、お姉さん」■■
「よ、よろしく……。
私はアリス=【主人公の苗字】よ」■■
ずいずい迫ってくる二人に圧倒されつつ名乗る。
斧を手にした少年に近寄られるのは、嬉しいものではない。■■
焦ると同時に、先を急いでいたことも思い出した。■■
(そうだ、こんなところで時間を食っている場合じゃない!
ブラッドを待たせちゃうわ)■■
二人がここで何をしているのかよく分からないが、聞いている暇もない。■■
「じゃあ、そういうことで。
ごめんなさい、私いま、急いでいるの」■■
【ダム】
「そうなの?」■■
【ディー】
「僕らと遊ぼうよ」■■
「だからそんな暇はないって……。
音がしたから見てみただけなのよ、それじゃあね!」■■
【【【演出】】】・・・扉を閉める音
私は急いで扉を閉めると、再び廊下を歩き出した。■■
それはお茶会を開くという、いつもの内容だったが……。■■
「……え?」■■
「……だって、敵でしょう?」■■
【ブラッド】
「ああ、敵対しているな」■■
「何を企んでいるの?」■■
「他領地の領主を、お茶会に招待するなんて」■■
ブラッドは、ゴーランドをお茶会に招くという。■■
彼とメリー=ゴーランドが対立しているのは、最初の頃に彼自身が語った通りだ。■■
領土争いをするボス同士。
それが彼らの関係。■■
それ以上でも、以下でもないはずだ。
友達だなんて聞いていない。■■
【ブラッド】
「何も企んでやしないさ。
人聞きが悪いことを言うな、お嬢さん」■■
かちんとくる言い方だ。
けだるそうに言われると、余計に腹がたつ。■■
「エリオットや部下達を同席させるんでしょう?」■■
【ブラッド】
「いいや、誰も同席させない」■■
「……私と奴のお茶会だ。
主催者と出席者の二人だけ」■■
「なにそれ……」■■
「……そんな退屈しそうなこと、いつもならしないくせに」■■
【ブラッド】
「私は、このゲームのメインプレイヤーの一人だからな。
定期的に催し物を開かなくてはならない」■■
「ルールなんだ。
やむをえない」■■
「ルール……」■■
それでも、信じられない。■■
ブラッドは、やりたいことをやり、やりたくないことはしない。
信用がならなかった。■■
【ブラッド】
「君は同席していいぞ、アリス。
招待枠に入れてやろう」■■
「え……?
なんで、私が……」■■
私を呼び付けて話すからには、その可能性は考えた。
だが腹心であるエリオットも同席させない会に、どうして私が同席するのか分からない。■■
【ブラッド】
「君は、奴と仲がいいそうじゃないか?
心配だろう?」■■
(う……)■■
そうなのだ。
私は、ゴーランドともそこそこの友好関係を築いている。■■
友好的というか……、けっこう仲がいい。■■
遊園地に遊びに行った回数はそこまで多くないのだが、会う度に親しくなった。■■
そう思えるのは気さくなゴーランドの性格によるところだろうが、とにかく友人と呼べるほどの付き合いだ。■■
ブラッドが彼と敵対していることを知っていて、外で交流を持ち仲良くしているのだから、裏切り行為ととられてもおかしくない。■■
【ブラッド】
「奴から聞いた。
ずいぶんと通っているらしいじゃないか」■■
(よけいなことを……)■■
(ずいぶんというほどは通っていないでしょうに)■■
ゴーランドが誇張しているのか、ブラッドが誇張しているのか。
分からないが、どちらにせよ好ましくないことだ。■■
「……怒っているの」■■
【ブラッド】
「怒ってなどいない」■■
「……ムカついているだけだ」■■
(…………)■■
(……こ、こわ……)■■
至急来いと言われた理由が、ようやく分かった。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・庭園◆
(……なんで来るのよ~!?)■■
【ゴーランド】
「お招きいただき、どーも」■■
ゴーランドは、あっさりとやってきた。
欠席を期待していたのに、あっさりと。■■
単独でふらりと現れたゴーランドに眩暈がする。■■
「ひ、一人なの……」■■
【ゴーランド】
「見ての通りだぜ?」■■
見れば分かる。
見れば分かるが……。■■
【ゴーランド】
「お茶会にぞろぞろと部下を連れてきたりしない」■■
【ブラッド】
「マナーの分かるお客さんで嬉しいよ」■■
【ゴーランド】
「あんたは信用がおけるからな。
ルールを破ったりしないだろう?」■■
【ブラッド】
「そうだな。
たまにしか破らないよ」■■
(さ、寒々しい……)■■
ゴーランドはいい知り合いであり、友人だ。
彼が怪我を負ったり、危害を加えられたりするのは望ましくない。■■
気になるので参加せざるをえなかったが、早くも逃げ出したい気分だった。■■
【ゴーランド】
「今回は可愛い出席者もいてくれて嬉しいぜ。
男二人のお茶会なんざ寒いだけだもんな」■■
「場が和む……」■■
「花になれて嬉しいわ……」■■
(ちっとも和んでないない……)■■
(男二人ということがなくてもうすら寒いわよ……)■■
【ゴーランド】
「あんたは俺のとこにもよく来てくれるよな」■■
「よくというほどでも……」■■
(よけいなことは言うな。よけいなことは言うな。
よけいなことは言うな)■■
目で訴えかけるが、ゴーランドは知らぬふりを決め込んでいる。
一方、ブラッドはいつもの余裕はどこへやら、かなり険悪な雰囲気を醸し出している。■■
【ブラッド】
「ほお……?
そんなに頻繁に、うちのお嬢さんが世話になっているのか」■■
【ゴーランド】
「……ああ。よく来てくれるぜ?
外で何度も会ってる」■■
「ここより、俺のところのほうがいいのかもな?
なあ、アリス?」■■
(よけいなことは言うなって言ってるでしょーーー!?)■■
(……口に出しては言ってないけども)■■
【ブラッド】
「…………」■■
「何度も……ね」■■
低く呟かれた、ブラッドの声が怖い。■■
「そそそ、そんなに行ってないわよ!?
なーに言ってるのよ、ゴーランドのあほ!」■■
冷静に弁解したかったのだが、とても無理だ。
上擦った声で叫んでしまう。■■
【ブラッド】
「落ち着け、お嬢さん。
弁解すらしてくれないよりはいいが、そう動揺していては信憑性に欠けるぞ」■■
「う……」■■
恐ろしくて、ブラッドのほうを見られない。■■
【ブラッド】
「……後でじっくり聞かせてもらうことにするよ」■■
「おまえと違って、私はこのお嬢さんと暮らしている。
昼でも夜でも、問い質すことができるんだ」■■
「たっぷりと……な」■■
【ゴーランド】
「ふーん?
同じ屋根の下、好き放題できるってわけだ?」■■
「ねちっこい男は嫌われるぜ。
若いのに、あんたはしつこそうだよなあ……」■■
【ブラッド】
「年寄りで淡白な男よりはいいんじゃないか?
いいところがない」■■
「…………」■■
下ネタにも突っ込む気力がうせるほど、寒々しい。■■
……紅茶の味がしない。
紅茶にうるさいブラッドのお茶会だ。■■
メインになる紅茶はもちろん、出される菓子も最高級品。
無駄にするのは惜しすぎる。■■
しかし、いくら紅茶に意識を戻そうとしても無駄だった。■■
(うう……。
こんなのお茶会じゃない……)■■
(ゴーランド……。
覚えていなさいよ……!)■■
【【【時間経過】】】
※条件により分岐ここまで↑

◆帽子屋屋敷・廊下◆
お茶会が終わりゴーランドが帰ると、ブラッドの態度は至って普通に戻った。■■
てっきりすぐに問い質されるのかと思ったが、そんなこともない。■■
(でも、怒っていなかったわけじゃないわよね……?)■■
私やゴーランドに向けた怒りのオーラは、装ったものではなかったと思う。
本気で、面白くはないのだろう。■■
なぜ直接言ってこないのかしばらく戸惑ったが、そのうち気にする気持ちも薄れてきた。■■
人一倍気まぐれな彼のこと。
何を考えているのかなど量れないし、触れないでいてくれるならそれに越したことはない。■■
そんなこんなで数時間帯が過ぎた。
本を読みたくなった私は、やや躊躇したが、またブラッドの部屋を訪ねることにする。■■
【【【演出】】】・・・ノックの音
扉を叩くと、返事はすぐに帰ってきた。■■
【ブラッド】
「どうぞ」■■
【【【演出】】】・・・扉を開ける音
【【【演出】】】・・・扉を閉める音
◆帽子屋屋敷・ブラッドの部屋◆
中に入ると、部屋の主は気だるげな態度で迎える。
面倒そうではあるが、これはいつものこと。■■
「また、本を見せてほしくて」■■
【ブラッド】
「ああ。
そろそろ来る頃だと思っていたよ」■■
仕事中でも、ブラッドは部屋に入れてくれた。■■
本のたくさんある部屋は私の好みに合っていて、邪魔にならないように入室させてもらうのが常になる。
馴染めば、ますます居心地のいい部屋だ。■■
ここでの私の日課も、決まってきた。■■
許可をもらってから本を借りる。
ソファに陣取って、読書。■■
そして、読書しながら、仕事をしているブラッドを覗き見る。
今も、そうしている。■■
ブラッド=デュプレ。
マフィアのボスだという人の顔をじっと見ていた。■■
控えめな照明が彼の顔を照らす。■■
「…………」■■
【ブラッド】
「……今度こそ、私の顔に何か付いているのかな?」■■
ブラッドは、書類から目を離さないまま聞いてきた。■■
「え……」■■
見ることに集中していたせいで、何を言われたのか、それが自分に対する言葉だということが理解できるまでに間があく。■■
「……あ」■■
「私ったら、また……。
ごめん……」■■
ぼうっとしていたことに焦る。■■
(どれくらい見ちゃっていたんだろう……)■■
【ブラッド】
「そんなに私の顔が気に入ったのなら、構わないが……」■■
「見惚れて目が離せなくなるほどの色男だとは、自覚がなかったな」■■
前に私が言ったことを持ち出してくる。■■
からかうような言葉に、少し気が楽になった。■■
まったく違う人だ。
それなのに、思い出す。■■
勝手に他の人を連想して物思いにふけるなんて、ブラッドに対して失礼だ。■■
(気をつけないと……)■■
それでも、読書の合間合間に意識が向かってしまう。
見ることをやめられない。■■
申し訳ないと思うのに、この部屋に来ることもやめられなかった。■■
【【【時間経過】】】
◆ナイトメアの夢◆
【ナイトメア】
「なかなか複雑な心境のようだね」■■
「……何の話?」■■
【ナイトメア】
「帽子屋と仲がいいみたいじゃないか」■■
「……っ!!」■■
「また、勝手に心を読んだのねっ?」■■
カッとなる。
複雑な心境……、私の過去の記憶まで、読んだということだ。■■
恥ずかしい。
情けない話だ。■■
(別れた恋人と、同じ顔の男の人と親しくなって。
会う度に、比べたり重ねたり、なんて……)■■
女々しいし、相手に対しても失礼な行為を私は繰り返している。■■
(未練がましいったらないわ。
改めて考えると、最低……)■■
【ナイトメア】
「そう自分を卑下するな。
重ねたり比べたりしてしまうのは、無理もないことじゃないか」■■
【ナイトメア】
「本当に、瓜二つなんだからね。
むしろ、重ねて見てしまわないほうがおかしい」■■
「顔だけよ。
性格は、これっぽっちも似ていない」■■
ブラッドと親しくなればなるほどに、そう思う。■■
【ナイトメア】
「顔が似ていれば充分だろう。
何だって、目に見えるところから始まる」■■
「……変な言い方しないで」■■
今のこの状況で、何が始まるというのか。
何も始まりなんかしない。■■
昔の恋人を思い出して別人に重ねるなんて、後ろ向きで意味のないことだ。■■
気にしないようにしたい。
だが、出来なくて……、思い出したい記憶でもないのに、ブラッドと会うこともやめられない。■■
(何がしたいんだろ、私……)■■
【ナイトメア】
「何がしたいのか分からなくても、会いたいと思うのなら会えばいい。
自分の感情に制約をつける必要などないだろう?」■■
【ナイトメア】
「家主である男と親しくなることに、問題なんてないはずだ。
癖のある男ではあるがね」■■
「…………」■■
「……いやに、ブラッドと付き合うことを勧めるわね?」■■
癖のあるどころではない。
いまだに実感がない部分もあるが、マフィアのボスだ。■■
元の世界の常識でなら、決して付き合いを推奨するような相手ではない。■■
【ナイトメア】
「マフィアだからどうこうということもないし、帽子屋だから勧めているわけでもない。
君が関心を持っている相手だからだよ」■■
【ナイトメア】
「私は君に、この世界での生活を楽しんでほしいからね。
君が興味を持つこと、人物にはどんどん関わっていけばいい」■■
【ナイトメア】
「人との繋がりを強めれば、この世界との繋がりも当然強くなる。
私は、それを望んでいるんだ」■■
「…………」■■
「……繋がりなんて……」■■
(そんなもの、できっこないわ。
これは、夢なのに)■■
覚めれば、覚えているかも怪しくなる今だけのことだ。■■
(夢魔のくせに、おかしなことを言うのね)■■
【ナイトメア】
「夢でも、今は繋がっているよ。
目覚めなければ、ずっと続いていくんだ……、繋がりはないよりあったほうがいい」■■
【ナイトメア】
「むしろ繋がることで……、君は、……から解放される……。
そうすれば……」■■
「……?」■■
途中から声が聞き取り辛くなり、ナイトメアを見る。
しかし夢魔は二度教えてくれることはなく、ただ曖昧に微笑んだ。■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地・園内・屋外カフェ◆
【ゴーランド】
「ほら、これ奢ってやるよ。
美味いぜ」■■
ゴーランドが、小さめの容器に入ったパフェをテーブルに置く。
使い捨てのプラスチック容器に入っているので、カチ、という軽い音がした。■■
私は遊園地に来ている。
理由はもちろん、この間のお茶会でのことに文句を言うためだ。■■
だが、既に怒りは鎮静していた。■■
ひとしきり文句を言い、園内のカフェでパフェを奢ってくれることになり……。
現金だが、女の子の怒りなんてこんなもの。■■
(まあ実際、嘘を言われたわけじゃないのよね)■■
度々遊園地に足を運びゴーランドと親しくなったのは、紛れもない事実。
敢えて言う必要はなかったと思うが、素直な性格だと思えば……。■■
(……いや、それは甘く見すぎか)■■
ゴーランドにもブラッドを挑発する思惑があったように思う。
何かの魂胆なのか自慢なのか茶目っ気なのかは定かでないが、激怒するほどの悪意ではない。■■
「はあ……。
分かった、もういいわ」■■
「……頂きます」■■
ナプキンの上に置かれたスプーンを取り、パフェを食べ始める。
しばらくすると、ゴーランドが口を開いた。■■
【ゴーランド】
「そんなに怒るってことは、帽子屋の奴もまだ怒ってるのか?」■■
「分からないわ。
態度は至って普通だけど、内心じゃ怒っているかも」■■
【ゴーランド】
「そっか。
あいつはなかなか素直に表には出さねえからなあ」■■
にやにやしながら言われる。■■
「……【大】私とブラッドで遊んでいない?【大】」■■
せっかく収まった怒りを呼び覚ましたいのだろうか。■■
【ゴーランド】
「まさか。
んな面倒な遊びをする気はねえぜ」■■
【ゴーランド】
「ただちょっと、探ってみたかっただけだ。
先刻も言った通り、帽子屋は捻くれてて何を考えてんのか分からねえからな」■■
【ゴーランド】
「あんたのことをどう扱ってるのか知りたかったんだよ。
……あの態度を見る限り、あんた、大事にされてるじゃねえか」■■
「え……」■■
大事にされている、という部分に、とくんと胸が鳴る。
詳しく聞きたい思いに駆られたが、遠くからの声がそれを遮った。■■
【ボリス】
「あれ、アリス?
来てたんだ」■■
「ああ、ボリス。
こんにちは」■■
ここに住む、もう一人の友人(猫)。
居候のピンク猫、ボリス。■■
暑そうなのか寒そうなのかよく分からない格好をした彼が、ファーを揺らしつつ歩いてくる。■■
遊びに来ても、ボリスは見掛けないことも多かった。
それでも余所者の私が珍しいのか、会うと好奇心丸出しで寄ってくる。■■
おかげで、彼とも今ではそれなりに親しい。
会うのはわりと久しぶりだ。■■
【ボリス】
「久しぶり。
何だよおっさん、この子が遊びに来ているなら、俺も呼んでくれればいいのに」■■
【ゴーランド】
「は?
どこをほっつき歩いてるのかも分からねえおまえを、なんでわざわざ呼びに行かなきゃならねえんだ?」■■
【ボリス】
「だって、この子、そうしょっちゅう来るわけじゃないだろ。
俺だって一緒に遊びたいよ!呼べよな」■■
【ゴーランド】
「へっ、おまえ、猫だろうが。
悔しかったら自分の鼻で嗅ぎつけてこい!」■■
【ボリス】
「それは犬だろ!?猫差別反対!
独り占めも反対!」■■
「いや、【大】そもそも私、ゴーランドに独り占めなんてされていないから【大】」■■
落ちている餌のようにも言わないでほしい。■■
【ボリス】
「ん?そっか、おっさんのものにはなっていないんだ?
よかったよ」■■
ボリスはにやりと笑うと、いかにも猫らしく体を摺り寄せてくる。■■
【ボリス】
「アリス~っ。
もう遊園地は遊びつくした?」■■
「え?
そうね……、遊びつくしたとは言えないけど、けっこうたくさん乗ったわよ」■■
【ボリス】
「そっか。
おっさんが案内しているときもあるみたいだもんな」■■
「でも、ここってどんどん新作のアトラクションが出るから、飽きないだろ?」■■
「おっさんの趣味じゃたかが知れてるけど、ぶっこわれてるもの作るから楽しいんだよな~」■■
「……本当の意味でぶっこわれてるものも作るから、困りもんだけど……」■■
【ゴーランド】
「おい、そりゃどういう意味だ、ボリス???
俺が苦心して完成させたアトラクションを勝手にいじって壊してんのは、おまえだろうが!?」■■
ゴーランドが睨むが、ボリスはさらりと流して話を続けた。■■
【ボリス】
「あんたも遊園地好きだろ?
ここの乗り物じゃ、どれが好き?」■■
「どれと聞かれると……」■■
「時々脱線するジェットコースターかしら」■■
ボリスの好きそうなアトラクションを答えてみる。■■
【ボリス】
「ああ、あれ楽しいよな~。
頂上から降りるとき、体が浮いた感じになるっていうか……」■■
「実際に浮いてるもんな、あれ。
体じゃなくて機体が」■■
何にしろ、遊園地には色々な面白いアトラクションがある。
私にとっても、なかなかに楽しませてもらえる場所だ。■■
【【【時間経過】】】
【【【時間経過】】】
◆ナイトメアの夢◆
【ナイトメア】
「うう……」■■
「ナイトメア!?」■■
「だ、大丈夫なの……?」■■
ナイトメアは具合が悪そうだ。
……いつものことだが。■■

nai_toketu
【ナイトメア】
「吐血しそうだ……」■■
「しそうっていうか……、しているわよ?」■■
だっら~~~っと、口から血が流れている。■■
【ナイトメア】
「うう……。
寒気までする……」■■
「あんた……、本当にヤバイんじゃないの……?」■■
本当にも何も、明らかにヤバイ。
生きているのが、いっそ不思議だ。■■
ナイトメアは、どうして生きていられるのか。
この不思議の国、最大のミステリーかもしれない。■■
……かなりギリギリ感溢れるミステリーだ。■■
「お医者さん行きましょう、お医者さん」■■
【ナイトメア】
「……嫌だね」■■
「なんで……」■■
【ナイトメア】
「【大】注射が嫌いなんだ、私は【大】」■■
「…………」■■
「…………」■■
「【大】あんた、いくつよ?【大】」■■
初等科の子でも言うか言わないかな拒否理由だ。■■
「子供みたい……」■■
【ナイトメア】
「注射は嫌だ。
子供でいい……」■■
ナイトメアは、ぐるぐると毛布を巻きつけ、具合悪そうに俯く。■■
その様子ときたら……。■■
「蓑虫ね……」■■
【ナイトメア】
「……ん?
ああ、そうだよ。誰かに聞いた?」■■
「……?」■■
【ナイトメア】
「ここの世界の人間は、皆二つ名があるんだ。
地位がそのまま呼び名になっていることもある」■■
「私は、蓑虫と呼ばれているんだよ……」■■
「え……。
本当に……?」■■
【ナイトメア】
「ああ……」■■
蓑虫状態のナイトメアは、こくこくと頷く。■■
「あんた……」■■
「……あだなにされるくらい、いつも【大】そんな【大】なの?」■■
【ナイトメア】
「違う。
毛布じゃなくて……」■■
「いつも、夢に包まれて、出てこないからだ。
私はそういう役割なんだよ」■■
「ふうん……」■■
「……それにしたって、蓑虫とは……」■■
初等科の子なら、軽いいじめのようなあだ名だ。■■
【ナイトメア】
「蓑虫ならまだいい……。
芋虫と呼ばれることもあるんだ……。それは許せないよ……」■■
「蓑虫のほうがいい……。
私は蓑虫のままでいる……」■■
(蓑虫と芋虫……)■■
(……【大】どう違うんだ?【大】)■■
違うものだというのは分かるが……、どちらでも嫌がらせとしか思えない。■■
「……嫌じゃないの?」■■
【ナイトメア】
「他の奴だって、似たり寄ったりさ。
私だけじゃない」■■
「そういえば……」■■
「……どれも品がいいとは言えないあだ名ね」■■
帽子屋・三月ウサギ等も、差別とまではいかないが、とてもいいあだ名とはいえない。
侮辱するような裏の意味がある。■■
それらを受け入れていることが信じられない。■■
「子供みたい」■■
そんなあだ名をつけるほうも、つけられるほうも。■■
【ナイトメア】
「……ふふ」■■
「先刻、いくつかと聞いたけど……、私達に年齢なんてない。
いつまでも子供で、最初から大人なんだ」■■
「永遠の子供ってわけ?」■■
偉そうにのたまうことなのだろうか、それは。■■
【ナイトメア】
「そうだよ。
狭間の世界だからね」■■
「ふ~ん、そうなんだ……」■■
ちろりと、冷たい視線を投げかける。■■
【ナイトメア】
「な、なんだ……?」■■
「この世界って、本当に変で、子供っぽい人ばかりよね……」■■
【ナイトメア】
「……私も含まれているのか?」■■
「【大】もちろん【大】」■■
注射が怖いからお医者さんに行きたくない男なんて、変に決まっているだろう。■■
【ナイトメア】
「うう……。
注射は嫌なんだ……」■■
「いくら具合が悪かろうと、医者には絶対に行かないからな」■■
「……死ぬわよ?」■■
吐血なんて、「具合が悪い」の域を越えている。■■
【ナイトメア】
「死んでも行かない……」■■
大きな蓑虫さんは、そう言って毛布をかき集める。■■
「心配しなくても、死んだら行けないわよ……」■■
【【【時間経過】】】
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