アニバーサリーの国のアリス・エリオット滞在ルート10
★帽子屋屋敷滞在共通部分ここから↓
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・ブラッドの部屋
★ペーター非滞在07_1と共通↓
「お城で舞踏会……?」■■
メルヘンな響きだ。
いきなり持ち上がったメルヘンな話題に、聞き返す。■■
話があると言われブラッドの部屋に来てみれば、そんな話だった。■■
【ブラッド】
「ああ、そうだ。
もうすぐハートの城で開催される」■■
「ハートの城……」■■
城なら、定期的に夜会が催されてもおかしくない。■■
「でも、ハートの城とは敵対しているんでしょう?」■■
それは、仲が悪いとかそういったレベルではなく、殺すか殺されるかの次元の話だという。■■
★ペーター非滞在07_1と共通↑
「そんなところが招待してくるなんて、罠じゃないの」■■
違和感いっぱいだ。
罠でないほうがおかしい。■■
【エリオット】
「そりゃあ、招待なんかされたら罠に決まってる」■■
★ペーター非滞在07_1と共通↓
【ブラッド】
「招待されていないから安心だな」■■
【ディー】
「休み放題……」■■
【ダム】
「料理がタダで食べ放題……」■■
【ディー】
「ずっと続けて開催してくれないかな」■■
【ダム】
「そうだよ、けちけちせずに毎時間帯パーティしてくれたらいいのに」■■
「…………」■■
「招待されていないのに、行く気なの?」■■
【ブラッド】
「私は、行きたいときに行きたい場所へ行く」■■
【エリオット】
「ブラッドが行くなら、警護しなきゃならねえだろ」■■
【ディー】
「休み……」■■
【ダム】
「料理……」■■
ブラッドは飄々と、エリオットは当然のように、双子は舌なめずりでもしそうだ。■■
【ブラッド】
「なんだ、不満そうだな、【主人公の名前】。
なにか文句でも?」■■
「……敵の本拠地なんでしょう?」■■
この人達に危機感とか警戒心とかはないのだろうか。
まあ、求めても無駄かもしれないが……。■■
「気付かれずにまぎれこむなんて出来ないわよ」■■
【ブラッド】
「気付かれるだろうが、黙認される。
見てみぬ振りさ」■■
【エリオット】
「イベントごとは特別なんだ」■■
「?」■■
【エリオット】
「女王は催し物を開く。
俺らは、出来る限り参加する」■■
「参加しなくてもいいが、基本的には出席だ」■■
【ブラッド】
「主催者は、それが殺したいほど憎い相手でも殺さない。
私達も客だから、そのときだけは何も仕組まない」■■
「それが、ルール」■■
「ルール、ね」■■
この世界のルールはよく分からない。■■
「じゃあ、安全が保証されているということ?」■■
【ブラッド】
「基本的にはそうだというだけで、破りたくなったら破るがね」■■
「私はしたいことをするが、女王もそれは同じ。
基本的にはルールを守るが、そうしたくないときは守らない」■■
「それって、なんの保証もないのと同じじゃないの」■■
「破りたくなったら破れるルールなんて、ルールとはいえないわ。
いい加減すぎる」■■
【ブラッド】
「心配しなくても、大体は安全だ」■■
「大体って……」■■
それで安心しろというのか。■■
【エリオット】
「大丈夫だって。
ブラッドを一人で行かせたりしない。
俺らも行くし、部下達も腕利きのを連れて行く」■■
「いざってときになんとかなるようにして出かけるんだから、安全だ」■■
「……それ、安全っていわない」■■
ちらりと双子を見る。
合理主義の二人は、不満を言うかと思ったが……。■■
【ディー】
「休みたい放題だぞ、兄弟……」■■
【ダム】
「タダ飯が食べ放題だ、兄弟……」■■
「…………」■■
「違った方向でメルヘンな世界に飛び立っている……」■■
【エリオット】
「こいつら、イベント系大好きなんだ。
休める上に、飲み食いタダだからな」■■
「ここのお屋敷でだって、おいしい料理はたくさん出るでしょう」■■
【エリオット】
「タダって言葉に弱いんだよ。
特に、ダムのほうは」■■
【ブラッド】
「ここでの食事は自由だが、給料から食費をとっているしな」■■
「……意外とせこい」■■
【エリオット】
「タダだと厨房から漁って転売しかねない奴らだぞ?」■■
「……やりそうね」■■
【ブラッド】
「私のお気に入りの茶葉まで根こそぎやられそうだ。
給料からさっぴいてやれば無茶もしない」■■
なんだか、ものすごく納得した。■■
さすが彼らの上司。
非常に合理的だ。■■
【エリオット】
「奴ら、手癖も悪いからな……」■■
「人んちならいくら荒らしても構やしねえ。
思う存分漁れるから、ご機嫌なんだろ」■■
「女王の城なら、食い潰してくれてもいいくらいだ。
うちの門番なだけに、ちょいと恥だが……」■■
【ブラッド】
「やんちゃだからな……」■■
「催し物のときはやるなと言ってあるのに、帰るときには必ず返り血をつけて戻ってくる……」■■
「……やんちゃで済んじゃうんだ」■■
【エリオット】
「ガキだから、長い間、大人しくしてらんねえんだよ。
もっと躾けとかないと、うちの品性が疑われるぜ」■■
【ディー】
「……ウサギに品性を語られたくないよ」■■
【ダム】
「はっ、まったくだよ。
その耳とか、品性とは無縁だ」■■
けっ……と双子達はエリオットを馬鹿にする。■■
【エリオット】
「んだとぉ!?クソガキ共!
俺はウサギじゃねえ!」■■
そして、双子を子供扱いするわりには、負けずに子供じみた反応を返す兄貴分。■■
【ディー】
「ウサギじゃなかったら、なんなんだよ!?」■■
【ダム】
「自分の存在を否定するのはやめたら?」■■
【エリオット】
「うっせえ、チビ!
ガキみたいなことばっかしてるから伸びねえんだよ!」■■
【ディー】
「なっ……んだって!?
僕らは成長期なんだよ!」■■
【ダム】
「そうだそうだ!
これから伸びるんだよ!」■■
【エリオット】
「んなこと言って、いつまでたっても伸びないじゃないか!
伸びるどころか、身長縮んでるんじゃねえのか!?」■■
【ディー】
「縮むわけないだろ!
ちょっとがたいがいいからっていい気になって!」■■
【ダム】
「そのウサギ耳を切り取って、身長を削ってあげようか!?」■■
ぎゃあぎゃあ。■■
「…………」■■
ルールだかなんだか知らないが、こんなのを引率しなくてはならないなんて、かわいそう。■■
同情の目をブラッドに向けると、彼は彼で違ったメルヘンの世界に飛んでいた。■■
【ブラッド】
「フラワリー・オレンジ・ペコーというのを知っているか、【主人公の名前】」■■
「…………」■■
ブラッドの目は、きらきらしている。■■
普段、濁ったというか淀んだというか……、別の意味でしか光りそうにない目が純粋に輝いている。■■
(…………)■■
(……怖い)■■
普段から怖いが、今は別の意味で怖い。■■
きらきらしたブラッドなんて、怖すぎる。
きらきらという言葉自体がどうやったって結びつかないし、究極に似合わない。■■
【ブラッド】
「茶葉のグレードのことだ。
茶木の一番先端にある芽の部分を、フラワリー・オレンジ・ペコーという」■■
「葉になる前の芽は貴重な部分で、とれる量は少ない。
味や香りはほとんどないが、味をまろやかに深くしてくれる」■■
「フラワリー・オレンジ・ペコーは、その部位そのものをいうこともあるが、それが多く含まれている紅茶を指すんだ」■■
ブラッドは、私の返事を待たずに解説を始めた。■■
返事などどうでもいいのかもしれない。
彼の目は、どこか別世界へ飛んでいる。■■
私がこの世界に飛ぶよりも、もっと遥か遠くへ飛ばされていそうだ。■■
【ブラッド】
「高級茶葉の代名詞といっていい。
だが、先刻言ったようにフラワリー・オレンジ・ペコーはそれ自体の味や香りは薄い」■■
「高級だからといって、ただ配分を増やせばいいというものではない。
多すぎると味の薄いものになるし、それだけで作ることはできない」■■
「オレンジ・ペコー以下のグレード、品種はもちろんのこと茶園や茶葉を摘んだ時間による癖も、紅茶のブレンドには欠かせないものだ」■■
「そう!
ブレンドこそが紅茶の命を左右するのだ!」■■
「……は、はあ……」■■
それ以外、なんと言えただろう。
いや、言えない。(反語)■■
紅茶はおいしいし、好きだが、私はマニアではない。■■
しかし、ブラッドは明らかにマニアだった。
いつもは、人生を捨てたように淀んでいる目がきらめいている。■■
(……に、似合わない)■■
(怖い……)■■
男が夢や好きなものを語るとき、女はきゅんとくるものらしいが……、私もきゅんきゅんきていた。■■
(怖い怖い怖い怖い怖い……)■■
きゅんきゅんきすぎて、寒気がする。
ブラッドほど、輝きの似合わない奴もいないだろう。■■
【ブラッド】
「フラワリー・オレンジ・ペコーはブレンド具合によって生きるもの。
いかに生かすか工夫を凝らし、ブレンドする者の腕の見せ所だ」■■
「独自のブレンド方法は、もちろん我が屋敷にもある。
しかし、同じようにハートの城にも独自のブレンドがあるのだ」■■
「催し物といえば、その行事ごとにブレンドされた紅茶が出される。
夜会は酒がメインだが、紅茶を欠かすようなことはない」■■
「行く度ごとに変わるブレンド……。
尻尾を掴んだと思えば、次に会うときにはまた別の顔を見せてくれる……」■■
「きまぐれな貴婦人のようだ……」■■
ブラッドはぺらっぺらとよく喋った。
滞在して長くなるが、彼がこんなによく喋り、熱弁をふるうのを聞いたことがない。■■
そして、そう何度も聞きたいとも思わなかった。■■
(怖~~~……)■■
【ブラッド】
「……想像するだけで、ぞくぞくしないか、【主人公の名前】?」■■
「……うん、する」■■
私は、現在進行形でぞくぞくしていた。■■
そこらへんで、ブラッドは我に返ったようだ。■■
【ブラッド】
「……っふ。
私としたことが……」■■
「……取り乱してしまったな」■■
帽子の位置を直しつつ、こほんと咳ばらいをする。■■
「……は、はあ」■■
やはり、私の返事はそんな感じにしか出てこなかった。■■
(取り乱したとか、そういう次元ではなかったわよ……)■■
【ブラッド】
「ハートの城には、珍しいブレンドの紅茶がある。
今から楽しみだ」■■
今更、すまして言われても……。■■
「……え、ええ。
すっっっごく楽しみなんでしょうね」■■
もう充分に分かった。
身の危険とかそういったものは、珍しいブレンドの紅茶に比べれば些細なことなのだろう。■■
【エリオット】
「死ね!クソチビ!
××××野郎共!」■■
【【【演出】】】……銃声(連発)
がうん、がうん!■■
【【【演出】】】……金属音(連続)
きんきん!■■
がつんがつん!■■
銃声と、金属音が響く。■■
【エリオット】
「どうせ問題起こしやがるんだ!
舞踏会になんかはなっから行けなくしてやる!」■■
【ディー】
「やれるものならやってみたら!」■■
【ダム】
「返り討ちにしてあげるよ!」■■
【エリオット】
「っざけんな!
十年早い!!!」■■
【ディー】
「おまえを墓に送り込むのに十年もいらないよ!」■■
【ダム】
「今すぐ逝けよ!」■■
「……まだやってる」■■
【【【演出】】】……金属音(連続)
がんぎんがんぎんと、不協和音に頭が痛い。
もっとも、頭痛の原因は音のせいだけではなさそうだ。■■
【ブラッド】
「どんな紅茶が出るのか……」■■
「私の舌を痺れさせるほどのものが出てほしいものだ……」■■
ブラッドは騒ぎにも、まったく我関せず。
遠い世界に旅立っている。■■
「……これ、ひょっとして私が引率するのかしら」■■
【【【時間経過】】】
★ペーター非滞在07_1と共通↑
★帽子屋屋敷城滞在共通部分ここまで↑
帽子屋屋敷・エリオットの部屋
「…………」■■
【エリオット】
「す~~~……」■■
エリオットはまたも爆睡している。■■
……例によって、私を下敷きにして。■■
私は枕でもベッドの一部でもない。
しかし、こうまで疲れきっている彼を見るとやはり撥ね除ける気は起こらない。■■
(……毎度のことだけど、重いわ)■■
(また痺れてきた……)■■
重い。
時間がたつほどに、体が痛くなる。■■
それでもやっぱり、大人しくしている私はいったい何なんだ。■■
(…………)■■
【【【演出】】】……ノックの音
こんこん。■■
「……っ!?」■■
ドアから、ノックの音がした。■■
誰だろう。
丁寧な叩き方から、使用人の誰かかと想像する。■■
【ブラッド】
「おい、エリオット。
いるんだろう?」■■
「開けてくれ」■■
(……ブラッド?)■■
何の用事だろう。■■
部屋に招き入れてしまったら、仕事の話でなくともエリオットを起こさなくてはならない。■■
(もう少し、寝かせておいてあげたいのに……)■■
(適当に返事をしてやり過ごそう……)■■
居留守だと、大事な用件だった場合に面倒だ。■■
とりあえず、返事はしておくことにする。
重要な用件なら向こうから言ってくれるだろう。■■
「ブラッド、どうしたの?」■■
【ブラッド】
「ああ、【主人公の名前】。
いたのか」■■
白々しく聞こえるのは気のせいだろうか。■■
この人は、不気味というか得体の知れない迫力のある人だ。
私がいたことなど、最初から気付いていたのではと邪推する。■■
【ブラッド】
「エリオットはいるか?」■■
「いるけど……。
……なんなの?重要な話?」■■
【ブラッド】
「そうでもないが、用事がある」■■
【【【演出】】】……ドアを開閉する音
そう言って、ブラッドは部屋に入ってきた。■■
「…………」■■
【ブラッド】
「ん?」■■
入ってきた。■■
「……なんで入ってこられるのよ」■■
鍵をかけていたはずだ。■■
【ブラッド】
「私が屋敷の主だからだよ。
主なのだから、私はこの屋敷のものすべてを自由にできる」■■
「自分の持ち物は、どうしようと構わない。
そういうルールだ。そうだろう?」■■
「そうかもしれないけど……」■■
この屋敷ではブラッドが法律なのかもしれない。(彼の場合、屋敷に限らずどこでも自分が法律っぽいが)■■
しかし、それが鍵のかかった部屋に入ってこられる理由にはならない。■■
物音からして、合鍵などを使用した形跡もない。
どうやって入ってきたのか謎だ。■■
【ブラッド】
「私は、どこでも入っていけるし、どこからでも出れるのさ」■■
杖の先で、とんっと手のひらを打つ。■■
「……便利ね」■■
【ブラッド】
「便利だよ」■■
ブラッドはさらりと肯定した。
この人の存在自体が、一番の謎だ。■■
【ブラッド】
「ところで、【主人公の名前】。
君は何をしているんだ?」■■
ブラッドは、身動きのとれない私を見下ろしてくる。■■
エリオットは爆睡中だ。
起きそうにない。■■
【ブラッド】
「ひょっとして、私は邪魔をしてしまったかな。
お楽しみ中だった?」■■
「…………」■■
「…………。
分かっていて、言っているんでしょう」■■
この体勢だ。
勘違いされようと私は大して構わないが、ブラッドは分かって言っている気がする。■■
【ブラッド】
「何を分かっているって?
この状況を凡人の私に理解しろというのは酷なものだ」■■
「ドアを開けたら部下と客人がベッドを共にしていたなんて、驚きすぎて声も出ない」■■
「……声が出ないどころか、ぺらぺら喋っているじゃない」■■
【ブラッド】
「ふふ、見せつけられて動揺しているのさ」■■
「……君達は仲がいいんだな。
独り身には目の毒だよ」■■
(……こいつ、絶対、分かって言っている)■■
【【【演出】】】・・・つかつかと足音
ブラッドは寝台につかつかと近付いてきた。
見下ろされるのは嫌だが、この男、人を見下ろすのがやたらと似合っている。■■
【ブラッド】
「うまい具合にエリオットを手懐けたじゃないか、【主人公の名前】」■■
皮肉げに言いながら、ブラッドはエリオットの耳に手を伸ばす。■■
【【【演出】】】・・・耳を引っ張る音
そして、引っ張った。
やはり、ウサギ耳には引っ張りたくなるような引力があるのか。■■
【エリオット】
「むにゃ……?
てて……」■■
「……ん~~~」■■
【ブラッド】
「はは、なんて間抜け面だ、エリオット。
ナンバー2にはとても見えない」■■
エリオットは耳を引っ張られても起きない。■■
【エリオット】
「む~~~……」■■
だが、不快だったらしく、虫でもはらうように片手を振った。■■
【ブラッド】
「こいつは……。
私と君なら、何をしても起きないだろうな」■■
「……情けない奴だ。
気を許していい相手など作ってはいけない仕事なのに」■■
声は冷たい。
しかし、ブラッドは今の自分の表情を知らない。■■
その顔は、とても……。■■
【ブラッド】
「これでも、組織の上位に立つ男だ。
こいつの首には、相当な懸賞金がかかっている」■■
「なあ、【主人公の名前】。
私か君なら、こいつの寝首をかくなど容易いだろうな?」■■
「私は身に余るお金は毒だと思っているし、あなたは有り余るほどにお金を持っていそうだから、必要ないでしょうね」■■
戯言に付き合うのは馬鹿馬鹿しい。■■
【ブラッド】
「クールなお嬢さんだ」■■
「小物なだけよ。
臭いお金の使い方なんて分からないの」■■
これでも、下町で働いたこともある労働者だ。
いろんな仕事・いろんな金の入手方法があることは知っている。■■
だが、たとえ手っ取り早くても自分の恥となるような仕事は選んだことがない。■■
私が恵まれているからで、選択肢があったからなのだが、たとえ追い詰められても選ばない自信がある。■■
下町の仕事内容の境は曖昧で、基準は自分の気持ちだ。
自分が恥と思うことはしない。■■
自分の恥でないのなら、他人に恥と見られても構わない。■■
汚れ仕事を見下しているわけではない。
私は小物で、降ってわいたような大金を手にしてもどうしていいか分からないだけだ。■■
得たものは、それなりの使い方をするだろうが、地道に稼いだほうが楽。■■
良家の子女であれば恥となるような仕事であろうと、私は自分の働く職場が好きだった。
働いて収入を得られることに、胸を張れる。■■
「それに、ものすごくお金に困っていたとしても、エリオットを手にかけたりしないでしょう」■■
【ブラッド】
「君はエリオットが好きなんだな」■■
「……好きよ」■■
「私だけの話じゃないわ。
あなたもでしょう、ブラッド?」■■
にこりと微笑むと、見下ろしている側のブラッドの顔を歪めることに成功した。■■
「とてもお金に困ったとしても、エリオットを殺したりできないでしょう。
あなたは彼が大好きだから」■■
【ブラッド】
「……気色が悪い」■■
「君までとち狂ったことを言うんだな。
一緒にいすぎて、エリオットの病気が移ったんじゃないのか」■■
「あら、誰だってそう思うわよ」■■
「あなたって、言葉は辛いけど、表情が甘い。
隠せていないわ」■■
今は通常の冷ややかな薄ら笑いに戻っているが、エリオットを見下ろしているときの顔。
言葉は彼を馬鹿にしていたが、それを咎める気にもならなかった。■■
優しい目。
何もかも許すような、慈愛とも見える微笑。■■
見覚えのある表情だ。■■
私や妹を見る、姉の顔。
母の顔だった。■■
【ブラッド】
「……くだらん」■■
「私は君とは違う。
必要とあらば、腹心でも切り捨てるさ」■■
それが、本気かどうかは分からない。
ブラッドにとっても、その場・そういう境遇になってみなければ分からないのではないかと思う。■■
「でも、きっと容易くはないわね」■■
彼が言うようには、容易く出来ないだろう。■■
実現可能かどうかより、自身の葛藤が邪魔をして楽な道にしてはくれない。
ああやって寝顔を見守ってしまう対象を、簡単には切り捨てられない。■■
【ブラッド】
「…………」■■
「……君は?」■■
ブラッドはやられっぱなしで引き下がるような男ではなかった。■■
沈黙の後で、仕返しのように尋ねてきた。
ぞっとするような問いかけを投げてくる。■■
【ブラッド】
「君は切り捨てるつもりなんだろう?
ここまでこいつを手懐けて甘やかしておいて、最後には捨てて行く気でいる」■■
的確に、心臓を抉られる。■■
夢は覚める。
今でなくとも、いつか覚める。■■
夢の中のことだ。
私にはどうしようもない。■■
私は帰らなくてはならないのだ。
エリオットも、この世界のものもすべて置いていく。■■
目が覚めたら、きれいさっぱり忘れてしまって、胸も痛まないかもしれない。■■
【ブラッド】
「こいつが誰に対してもこうだと思うのなら、君は本当にとち狂っている」■■
「これでも、私の後ろに立つ男だ。
イカレているところはあるが、易々と女に骨抜きにされるような愚か者じゃない」■■
どうして、罪悪感を覚えなくてはならないのか。■■
これは夢だ。
ブラッドも、エリオットも、夢の中の登場人物だ。■■
後ろめたさなど感じるのはおかしい。■■
【ブラッド】
「君は、うちの部下の筆頭を落としたんだ」■■
「最初から捨てるつもりで惑わすとは、大した悪女じゃないか、お嬢さん?
どうやって、ここまで気を許させたのか、その手管には私も興味があるよ」■■
「私は何も……」■■
エリオットは最初から好意を向けてくれた。■■
仲良くなるのは簡単で、エリオットは次第に私に依存していった。
急な坂を石が転げ落ちるように、分かりやすく一直線に。■■
私は、何もしなかった。
止めもしなかった。■■
終着地点が予想できたはずなのに、向けられる好意にいつの頃からか優越感を覚えたのも事実だ。■■
どうして、こんなに簡単に私を好きになってくれたのか分からない。
だが、好かれているということは知っていた。■■
「……私のせいかも」■■
「…………。
私のせいね」■■
夢の中の人だ。
これらはすべて夢の中のこと。■■
それでも、私もエリオットに好意を持っていて、彼を傷つけたいわけではない。■■
「私は、そのうちに元の世界に帰る」■■
【ブラッド】
「我が腹心殿は、さぞや嘆くだろうな。
今から、エリオットの壊れ具合が楽しみだよ」■■
「……どうしろっていうの」■■
私には止められない。
夢は、本人の意思とは関係なく、覚めるときに覚めるものだ。■■
【ブラッド】
「さあ?
どうとでも。
君は君のしたいことをすればいい」■■
「こいつもこいつで、自分のしたいようにしているだけだ」■■
【【【演出】】】・・・こつんと頭を叩く音
こつんと、エリオットの頭を叩く。■■
中身があまり入っていないんじゃないかと、憎まれ口を叩いてブラッドは背を向けた。■■
【ブラッド】
「次の夜の仕事は流れた。
その次の仕事まで待機していろと伝えておいてくれ」■■
「……ブラッド」■■
つまり、しばらく寝ていていい、と。■■
「……ありがと」■■
【ブラッド】
「…………」■■
「……気色が悪い。
君は、本当にエリオットの病気が移ったんじゃないのか」■■
ちょっと自分でも気色が悪かったので自己嫌悪する。■■
それよりなにより……、今までの会話、全部押し倒された体勢のまましていたというのが……。■■
【【【時間経過】】】
お風呂イベント4(エリオット) へ進む