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マザーグースの秘密の館

『アーサー(貴族)ルート ■アーサー06』

■ 全問正解イベント6

【【【時間経過】】】
◆試験直後、まだホール(館)にいる
【アーサー】
「全問正解おめでとう、エリカ。
今回もよく頑張ったね」■■
「君が、私のことを理解してくれようとしているのが嬉しいよ。
……近付けた気がする」■■
「それは確かだけど……。
……同時に終わりも近付く、でしょう?」■■
先日の言葉を掬い上げる。
いつのまにか、終わりは待ち遠しいものではなくなってきてしまった。■■
【アーサー】
「そうだね……。
いつだって、始まるときから終わりに近付く……」■■
「…………」■■
「……さて、今日も散歩と行こうか。
どこか、行きたいところはあるかな?」■■
「んー……。
何か面白いものを探して、それについてアーサーさんに解説してもらいたいな」■■
【アーサー】
「おや……、不気味なほどに素直だね。
元の世界に帰せ、とは言わないの?」■■
(不気味って……)■■
「ええ。
だって、後4回満点をとらないとあなたが満足しないのは知っているもの」■■
逆にいえば、後4回で終わってしまう。■■
「ごねるだけ無駄だわ。
それよりも、せっかくの散歩を楽しんでおこうかと思って」■■
終わりが見えてくると、焦りもなくなった。■■
(むしろ……)■■
近付く終わりに、焦燥のようなものを感じてしまう。■■
【アーサー】
「ポジティブなのはいいことだ。
それでは……、行こうか」■■
【【【時間経過】】】
◆住宅街を歩く二人。アーサーは傘を持っている。
◆二人が歩いている歩道は各家の庭に面していて、イギリスの古いスタイルの住宅が並んでいる。
◆落ち着いた閑静な住宅街といったイメージ。
◆天気が悪い。
【【【演出】】】・・・二人歩く足音
【【【演出】】】・・・かつんかつん、と音
「……?」■■
【アーサー】
「……ん?
どうかしたかな?」■■
「いえ……。
アーサーさんが傘を持っているから、珍しいなと思って」■■
【アーサー】
「今日は、珍しく雨が降りそうな天気だからね。
散歩にも、こうして傘を携えてみたんだよ」■■
「言われてみれば、天気がよくないわね」■■
【アーサー】
「ああ、都心部ではしょっちゅうだけど、この辺りでは珍しい」■■
「……散歩、やめたほうがよかった?」■■
【アーサー】
「いや、そんなことを言わないでおくれ。
せっかく傘を用意したのだから……」■■
「……?
傘を持ち歩くのって、何か特別な意味でもあるの?」■■
悪天候など嬉しくないものだろうに、彼は天候の崩れを望んでいるようだ。■■
【アーサー】
「私が普段から紳士ぶっているのは、君も知っているだろう?」■■
「ふふ……。
ぶっているっていうか、紳士たろうとしているわよね」■■
作法や言動など、端々に表れている。
彼の身分を考えれば当然のことなのだろう。■■
(貴族、かあ……)■■
(……私、今まさに貴族と話しているのよね)■■
実感がわかない。■■
貴族というと、もっと浮世離れして……、自分とは違う世界の人間だと思っていた。■■
だが、こうして話している彼は貴族ではあるかもしれないが……、私をエスコートしてくれる男性だ。
それほど遠い人には感じない。■■
【アーサー】
「紳士はね、元々傘を持ち歩かない人種なんだよ」■■
「え?
雨が降りそうだと分かっていても、傘を持たないの?」■■
【アーサー】
「そうだね。
一昔前の紳士達は、雨を防ぐのには帽子とコートだけで充分だと考えていたんだ」■■
「いえ、それ絶対充分じゃないわ。
だって、濡れるでしょう?」■■
【アーサー】
「まあ……、そうだね。
【大】時と場合によってはかなり【大】」■■
(そりゃあそうよね……)■■
どしゃぶりの日など、どう考えても不充分だ。■■
「一昔前の紳士達が傘をさそうとしなかったのには、何か理由があるの?
見栄みたいなものだとしても、かえって格好悪いことになったでしょう」■■
【アーサー】
「まず、第一にね。
英国というのは島国であるために、風の影響が強い」■■
「そうなると、雲の動きが早いために、天気がころころと変わるんだ。
そうすると雨が降ったとしても短時間のことだし、そのためだけに傘を持つのは面倒くさいだろう?」■■
「そ……、それは分かる気がしないでもないけれど」■■
だが、ものすごく不精な話だ。
晴れたからといって、濡れたものはすぐに乾かない。■■
【アーサー】
「そして、もう一つ大きな理由として……。
西洋では、傘というのは女性のアイテムだというふうに考えられてきたんだよ」■■
「女性のアイテム?
女の人しか傘を使わなかったの?」■■
【アーサー】
「女性が日差しを避けるために使うのが、傘だというふうに認識されていたんだ。
そのため、男性が傘を使うのはとても恥ずかしいことだという風潮があってね」■■
「それじゃあ、雨の日に傘を使うというアイディア自体もそんなにメジャーではなかったの?」■■
【アーサー】
「そうだね。
日差しを避けるためというのが主な使われ方で、それ以外はあまりなかったんじゃないかな」
(雨傘っていう概念が薄かったのか……)■■
「……なるほどね。
それなら、傘が男の人達の間に広がらなかったとしても納得だわ」■■
まず広まるのは、女性からだったのだろう。■■
「今では、男の人の間でも傘は雨除けに使われているわよね。
何かきっかけがあったんでしょう?」■■
【アーサー】
「その辺りは、諸説あるのだけれどね。
貿易商をしていた男が、外国の雨傘を見たのがきっかけだといわれている」■■
「その人物は、外国では傘が雨避けのために使われているのを見て、衝撃を受けたんだ。
それで、それを英国に戻っても真似した」■■
「……周囲の反応は?」■■
【アーサー】
「彼を変人と笑いものにしたらしい。
まあ、その時代で考えると、女装して街を歩くぐらいの衝撃はあっただろうからね」■■
「その、最初に傘をさした男の人の勇気に、拍手を送りたいわ。
それで、彼のおかげで傘が紳士達の間にも広がったの?」■■
【アーサー】
「いや、まだだね。
だが、その彼のおかげで、傘というのは雨の日にも使えるものなんだという概念が英国紳士達の間にも生まれたんだ」■■
「だが、それでも、元が女性用のアイテム。
男性が手を出すには、やはり気の引ける存在だった」■■
「む……。
なかなか手強いわね■■
【アーサー】
「本当にね。
私のような軟弱者なら、便利な物にはすぐ飛びついてしまうのだけど」■■
「それは軟弱なんじゃないわ。
柔軟で合理的なのよ」■■
【アーサー】
「ありがとう、エリカ」■■
「それでね、私のように柔軟ではなかった紳士のために、画期的な案が生まれたんだよ。
それが……、この持ち手がJの字の形をした傘だ」■■
「え?
それが特別なの?」■■
「傘の持ち手は、それが当たり前だと思っていたわ」■■
【アーサー】
「最初は当たり前ではなかったのさ。
この持ち手……、何かによく似ているだろう?」■■
「えっと……」■■
「…………」■■
アーサーは、傘で地面をこつこつと鳴らすジェスチャーをした。■■
「……ああ、分かったわ!
杖に似ているのね?」■■
【アーサー】
「その通り。
傘のフォルムを杖に似せたことから、傘は男性にも広く受け入れられるようになったんだ」■■
「かつて杖は、紳士には欠かせないものだったからね」■■
「身近でなんとなく使っている物にも、いろいろと歴史があるものなのね」■■
【【【演出】】】・・・ぽた、ぽた、さああああああああ、っと雨が振り出す音
「!」■■
「あ!
雨だわ」■■
【アーサー】
「ふふ、天気予報を聞いておいてよかったよ」■■
【【【演出】】】・・・ばさっと傘を開く音
a6_2

【アーサー】
「……おいで、エリカ」■■
「あ……、ありがとう」■■
◆相合傘で歩く二人。
【アーサー】
「人々に馬鹿にされつつも、雨の日に傘をさした、かつての紳士に感謝を捧げたいね。
そして、傘の持ち手を杖に似せるなんて発想の転換をした素晴らしき発明家にも」■■
「今なら、雨に濡れて風邪をひかなくてすむものね」■■
【アーサー】
「いいや、健康面だけの理由ではないよ。
君とこうして……、相合傘が出来るから」■■
「!?」■■
【アーサー】
「ほら……、もっと近くにおいで。
肩が濡れてしまうだろう?」■■
「……っ」■■
彼は、ぎゅっと私の肩を引き寄せて傘に入れてくれた。
肩と肩を寄せ合うようにして、一つの傘の下に収まる。■■
狭い空間。
外は雨。■■
何かで仕切られているわけでもないのに、そこは一つの世界が成り立っているような気がした。■■
(閉鎖的な……)■■
閉じ込められているわけでもないのに、そこに収まっている。
まるで、今の私の状況のようだ。■■
傘だけでなく、館……、この本の世界に。■■
【アーサー】
「さ、そろそろ暗くなってきた。
館まで送るよ」■■
【【【時間経過】】】
【アーサー】
「……離れがたいよ。
早くまた、君が満点をとってくれるといいのだけど」■■
「待っているから……、私の元へ来てくれ」■■
【【【時間経過】】】

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