『ブラッド=デュプレ ■14話_2』

◆帽子屋屋敷・食堂◆
【ダム】
「お姉さん、僕ら、いいこと思いついたんだ」■■
食堂で食事をしていると、ダムが言い出す。■■
「いいこと？
……なに？」■■
（この子達の『いい』はあてにならないのよね……）■■
【ディー】
「あのね。
お姉さん、僕らと一緒に門番やらない？」■■
「は？
私が……門番？？？」■■
（いきなり、何を言うかと思えば……）■■
【ダム】
「いい案でしょ？
だってそうしたら、仕事する時も休憩中も、ずっとお姉さんと一緒にいられるじゃない」■■
「僕らって本当に賢いよ」■■
【ディー】
「僕らの仕事のやる気もアップでいいことずくめだ」■■
「何が、いいことずくめよ……。
却下よ、そんなの」■■
ずいぶん懐いてくれたのは嬉しいが、彼等のために職を変える気はない。■■
（それ以前に、私に門番なんて務まるわけもないし）■■
【ダム】
「えっ？お姉さん、嫌なの？？？
……どうして？？？」■■
「どうして、ってねえ……」■■
本気で言っているからタチが悪い。■■
「私はメイド見習いなの。
それが私の与えてもらった仕事だし、楽しくてやっているんだから」■■
やりがいを持って、自分の意思で続けているのだ。■■
（こんな夢の中の世界でも、仕事は重要なのよ。
私にとっては）■■
それがいつまで続けられることかは分からなくても、この世界にいる間は続けたい。■■
「だから、門番なんてなれないわよ。
私と遊びたいんだったら、休憩のときに遊んであげるから」■■
【ディー】
「えー……。
お姉さんに会えないと寂しいよ……」■■
「そう言ってくれるのは嬉しいけど。
それぞれ、自分の仕事をちゃんとしましょう」■■
【ディー】
「……わかった。
ごめんね、お姉さん」■■
「行こうか、兄弟」■■
【ダム】
「うん、行こう……」■■
ディーとダムはがっかりした様子だったが、諦めてそのまま食堂を出て行った。
二人が出口に消えてから、はっと我に返る。■■
（何をムキになっているのよ、私は）■■
ただの、子供が思い付きで言い出した我儘相手に。■■
（熱くなる必要なんかないのに。
これは、夢なんだから……）■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・ブラッドの部屋◆
また、当たり前のようにこの部屋にいる。■■
いつものように「面倒」だと言い合うのかと思いきや、ブラッドは違うことを言った。■■
【ブラッド】
「元の世界に戻りたいか？」■■
「……戻りたいわ」■■
不意の問いかけに、迷わず答える。■■
迷わず答えた……つもりだった。
間があいたのは、突然だったからだ。■■
【ブラッド】
「嘘だな」■■
ブラッドは、言い切った。■■
「どうしてよ。
嘘じゃないわ」■■
【ブラッド】
「本気で帰りたいのなら、もう帰っているさ」■■
「帰りたいけど、帰れないの」■■
【ブラッド】
「ふうん……」■■
だるそうに、人を小馬鹿にしたように見下す。■■
「なによ」■■
【ブラッド】
「いいや……。
そんな調子なら帰すわけにはいかないな」■■
「どういうこと……」■■
【ブラッド】
「君は、帰らなければいけないと思っているだけだ。
帰りたいわけじゃない」■■
「そ、そんなことないわ……」■■
「……私、帰りたいって思っているもの」■■
姉の顔がちらつく。
将来のこと、中途半端ないろんなもの。■■
【ブラッド】
「帰らなければならないというのと、帰りたいのとは別物だ」■■
「どうしても帰りたいと切望しているわけじゃない。
君にあるのは、帰らなくてはならないという責任感だけだ」■■
「違う……」■■
言葉が弱くなる。■■
帰りたいと願っているはずだ。
私は、元の世界に色々なものを残してきている。■■
（ここに来たとき、死んでしまっても仕方ないって思ったのに……？）■■
死にたいわけじゃない。
生きて、頑張って、改善していきたい。■■
だけど、あのときどう思っただろう。■■
私がいなくても、世界は回る。
そんなふうにしか思えなかった私が、本当に帰りたいと思えているのだろうか。■■
「…………」■■
【ブラッド】
「まあ、君の気持ちなんて二の次だ」■■
「……どちらでもいい。
私は、帰ってほしくない」■■
ブラッドは、変わらず自分勝手で我侭だ。■■
だが、見せているスタイルほどは薄情でも淡白でもないことを、私はもう知っている。■■
この人の何かを、私が変えたのかもしれない。
そのことに喜びを感じる。■■
私は、変わった。■■
【ブラッド】
「ここに残れ、アリス」■■
（この人はどうなんだろう）■■
私がいなくなったら、どうするだろう。■■
生きていけないほどに絶望してくれるだろうか。
そんなブラッドは、想像もつかない。■■
私がいなくなれば、世界が成り立たない。
そう思ってくれる人がいる世界。■■
そんな場所なら、残りたい。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・庭園◆
【ディー】
「お姉さん、僕らと勝負しようよ。
負けた方は勝った方の言うことを聞かなくちゃいけないってやつ」■■
双子を誘って、庭園で過ごしていた。
少し前にそっけなく接してしまったことが気になっていたが、彼らはもう気にしていないようだ。■■
【ダム】
「なにで勝負しようか？
うーん……」■■
【ディー】
「どれだけ少ない数の弾丸で敵を仕留められるかとか？」■■
「却下。
そんな勝負なら、私はしないわ」■■
そもそもなぜ勝負をしなくてはいけないのか分からないが、子供の遊びに理由を求めても無駄だろう。■■
【ディー】
「……えー、駄目？」■■
【ダム】
「じゃあ……どれだけたくさん殺れるかとか？
シンプルで良くない？」■■
「【大】却下【大】」■■
「人を傷付けるような勝負は駄目よ！」■■
【ディー】
「それも駄目？
じゃあ……誰が時間内に一番たくさんりんごを撃ち落とせるか、ね？」■■
ようやく人を攻撃するところからは離れてくれた。
しかし、撃ち落とす……銃を使う時点で、私には無理だ。■■
私は銃など使ったことがないし、たとえ標的がりんごでも、使う気はない。■■
「それ、私に勝ち目がないと思うんだけど……？」■■
問い返すと、双子はにこにこ顔で「うん、そうだよ」と頷く。■■
【ダム】
「もちろん、お姉さんが負けるに決まってる勝負だよ？
僕らが勝って、お姉さんにいうことをきいてもらうんだ」■■
「結局、それ以外に選択肢はないんじゃないの……」■■
「……勝負なんてしなくても、聞いてあげられる頼み事なら聞いてあげるから」■■
それくらいには、彼等のことだって好きになっている。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・敷地内◆
双子と別れ、屋敷に戻る。
物騒な勝負をしようと言っていた二人だったが、意外にもあっさりと引いてくれた。■■
私が聞けるような頼み事なら聞いてあげる、と言ったからだ。■■
【？？？・エリオット】
「アリス！」■■
呼び声に顔を上げれば、エリオットが立っている。■■
「こんにちは。
どうかしたの、エリオット？」■■
【エリオット】
「いや……、ガキ共はどうしたのかと思ってよ。
あんた達が一緒に庭にいるのが、先刻屋敷の窓から見えてたんだ」■■
【エリオット】
「……あ、あんたを責めてるんじゃねえぜ？
あいつらが休憩だってのは分かってる」■■
「ええ。
あの二人なら、休憩が終わったから仕事に戻ったわよ」■■
私は二人に仕事をサボらせていたわけではない。
きちんと、彼等の本来の休憩時間を見計らって誘った。■■
【エリオット】
「仕事に戻った！？
あいつらがか！？」■■
エリオットはぎょっと目を向き、大声を上げる。■■
「例によってサボりたい～、なんて言っていたけど、庭園に誘ったのは私だから」■■
「続けてサボられちゃ、私の責任になっちゃうものね。
しっかり門のところに戻らせたわ」■■
【エリオット】
「マジかよ……、すげえな、あんた。
あの二人が決まってる休憩だけで仕事に戻るなんて、滅多にあることじゃないぜ」■■
エリオットは目を瞬いた。
この驚きようも、双子に対してなら大げさではない。■■
「そうね。
でも、すごくはないわよ」■■
元からそういう約束をしていたし、勝負を断った代わりに、今度街で一緒に食事をする約束をした。■■
上機嫌だったから大人しく言うことを聞いてくれただけだ。
そうでなかったら、いつものようにまたどこかへサボりに行っていただろう。■■
【エリオット】
「いや、すごいよ。
今は俺より、あんたのほうがあいつらの扱いはうまいかもしれねえな」■■
「そんなことないって」■■
【エリオット】
「いやいやいや、あんたはすごい！
ブラッドについていくだけの頭も持ってんのに、門番共まで手懐けるんだから」■■
「すごくないわよ……」■■
エリオットの言おうとしていることは分かった。■■
ディーもダムも、そして当のエリオットも、皆私を認めてくれている。
だから彼等の行動も、おのずと変わってきた。■■
（私を、この屋敷の一員だと……。
ううん、それ以上の比重で、扱ってくれている）■■
（私は皆の……特別に、なれているの？）■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・ブラッドの部屋◆
「いつかは戻らなきゃ……」■■
【ブラッド】
「まだ、そんなことを言っているのか」■■
（本当は、もう……。
今だって……）■■
「今すぐに帰るわけじゃないわ。
でも、いつかは……」■■
【ブラッド】
「いつだって同じことだ！」■■
私達は、イライラしていた。■■
焦りが苛立ちを誘発する。
喧嘩するようなことを言いながら、抱きしめ合う。■■
期限が決まっているわけではない。
いつ帰るとも知れず、帰れないということも有り得た。■■
それに、ブラッドは、小瓶のことを知らないはずだ。
それなのに、まるでリミットが見えているみたいに、焦る。■■
「戻……」■■
言いかけた言葉を飲み込まれる。■■
【ブラッド】
「戻りたいなんて、言えないようにしてやる……」■■
「…………」■■
ああ、それは有難い。■■
怖いと思っていた威圧感が、今は有難く思える。
戻りたいなんて言わなくていいように、ずっと唇を塞いでいてほしい。■■
口を開けば、私は言わなくてはならない。■■
（いつかは、戻らなきゃいけないのよ……）■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
【【【時間経過】】】
「…………」■■
一杯になった小瓶を見上げる。■■
苦い薬。
その味を知っているのに、捨てられない薬。■■
薬……なのだろうか。
その正体すら知れない。■■
毒かもしれない。
身のためにならないのかもしれない。■■
捨ててしまいたい気持ちがないわけではないのに、捨ててはいけない気がするのだ。■■
「……っ……」■■
「また……」■■
耳鳴りがする。
体から心だけ引き離されるように……痛い。■■
「……っ……」■■
落ちていく。
ここに来たときと同じように。■■
体も、心も。■■
どこか異空間
「…………」■■
「……え？」■■
先刻まで、私はベッドにいたはずだ。
そして、引き剥がされた。■■
（これは……）■■
（……夢？）■■
馴染みになった夢とは違った空間。
いつもと異なり、夢の先に別のものがある。■■
暗闇と、その先の……。■■
夢かどうかを考えるなど、愚かなことではないだろうか。■■
これは夢。
そうだと信じているはずだ。■■
これは夢で、今までのことも、今このときも全てが夢だ。
逃げ道なんて用意されていない。■■
選択肢なんてない。
そう決めたはず。■■
（……？）■■
（どうして、そんなふうに決めたの？）■■
目の前には道がある。
この道を進んで帰らなくてはいけないと、誰も強制などしていない。■■
ここは、ペーターが落とした闇ではない。
ナイトメアは、まだ現れない。■■
行く手を遮るものも、進めと促すものもいない。
どちらの道も選べる。■■
ここに残るか、先に進むか……。■■
……決めるのは、私だ。■■
どちらに進むか。
これから、歩いていく道。■■
（選ぶ権利なんて、あると思っているの？）■■
（そんなことが許されると？）■■
「…………」■■
（……？）■■
（……どうして、そんなふうに思うの？）■■
（どうして、そんなふうに思わなきゃいけないの）■■
歩く道を制限されなくてはならないような失敗はしていない。■■
私は、罪を犯してなどいない。
断罪しなければならないことなどない。■■
今の私には、まだ。■■
「……？」■■
（今？）■■
（これから先は違うの？）■■
今の私。
今の私は、今ここにいる私だ。■■
そのはずだ。
これから犯す罪など、知らないはず。■■
（……あれ？）■■
【？？？】
「アリス」■■
「！？」■■
名前を呼ばれ、振り向く。■■
しかし、誰もいない。
誰かに名前を呼ばれたのに、声が聞こえない。■■
「ナイトメア？」■■
ここにいそうな人の名前を呼ぶ。■■
しかし、誰も答えない。
誰からの返事もなく、姿もない。■■
何も見えない。
誰もいない。■■
私を呼んだのは、誰でもない。■■
私を受け入れてくれる世界だ。
このままここにいてもいいと、許してくれる。■■
（許される？）■■
（許してほしくなんかないのに？）■■
それでも、振り向けば愛おしい。■■
優しく感じる。
安心する。■■
（……深い闇が？）■■
前を向けば、光の道。
輝いている。■■
輝いて見えたのだ、今の私には。■■
この道に惹かれるはずだ、今の私なら。
振り向けば、夢ともつかない闇が広がっている。■■
今の私なら間違いなく光の道を選ぶはずなのに、決めあぐねている。
光り輝く道が魅力的に思えない。■■
ずっとここにいたいと思う。
愛しい世界。■■
そう感じるのは、今の私が「今」の私ではないからで……。■■
「……？」■■
（何を考えているのかしら？）■■
（……？）■■
胸が痛い。■■
今の私……。■■
「今」の私は、こんなに大人びていただろうか。■■
どうして、疑問に思わない？
「今」の私なら、どちらを選ぶ？■■
このとき、「今」なら自由に選べたはず。■■
今の私は……。■■
【【【時間経過】】】

 
※ここからＥＮＤ分岐（全ルート共通ＥＮＤ含む）
※「帽子屋ファミリーEND」はブラッド・エリオット・双子滞在ルート共通
※「女王・ブラッド」イベントを６回目まで見ている場合でも、「ナイトメア・ＢＡＤ２（真相ＥＮＤ）」・「ナイトメア・ＢＡＤＥＮＤ１」の条件に当て嵌まっていればそちら優先

★以下の条件を満たす場合、ブラッドの好感度に関係なく「ナイトメア・ＢＡＤ２（真相ＥＮＤ）」 へ進む
・ユリウスＥＮＤを見ている
・責任感が４以上
・「ナイトメア・ＢＡＤＥＮＤ１」を見ている

★責任感が４以上、ブラッドの好感度が１０以下の場合、「ナイトメア・ＢＡＤＥＮＤ１」 へ進む

★ブラッドの好感度が１０以下、責任感３以下の場合、「帽子屋ファミリーEND」 へ進む

★以下の条件を満たす場合、「ブラッド・女王ＥＮＤ１」 へ進む
・「女王・ブラッド」６回目まで発生
・ブラッド滞在１２で「１：いざ、倒錯の世界へ……」を選択している

★以下の条件を満たす場合、「ブラッド・女王ＥＮＤ２」 へ進む
・「女王・ブラッド」６回目まで発生
・ブラッド滞在１２で「２：お許しください、女王様」を選択している

★ブラッドの好感度が１１以上の場合、「ブラッドＢＥＳＴＥＮＤ」 へ進む