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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■ブラッドBESTEND』

★ブラッドの好感度が11以上の場合、「ブラッドBESTEND」
【【【時間経過】】】
【【【演出】】】……強風の吹き荒れる音
……足を踏み出そうとしたのに、動けない。■■
「な……!?」■■
「なんで、いるの!?」■■
bra_end1 【ブラッド】
「……帰さない」■■
ブラッドは、正義の味方よろしく現れた。■■
ただし、まったく呼んでいない。■■
「帰さないじゃないわよ!
帰らなきゃならないの!!離してよ!」■■
風に消されないよう、声が大きくなる。■■
【ブラッド】
「私が帰るなと言っているんだ!
帰るな!!!」■■
「馬鹿いわないで!
私は帰りたいの!!」■■
【ブラッド】
「嘘だ!」■■
「本当よ!」■■
埒があかない言い争いをしながら、腕を引き抜こうともがく。■■
ブラッドは手の力を緩めず、離してくれない。
自力で振りほどくのは難しそうだ。■■
【ブラッド】
「君がここに残ってくれるなら、私は……。
男にとって、最高の面倒ごとを引き受けてやってもいい」■■
「なによ、それ!」■■
風の音が強い。
大声で叫ぶ。■■
恩着せがましい男だ。
来てくれなんて、頼んでいない。■■
【ブラッド】
「人生の墓場に足を突っ込んでやると言っているんだ!」■■
「……?」■■
「え……」■■
「そ、それって……」■■
【ブラッド】
「……私の妻になってくれ、アリス」■■
その一言は、そんなに大きな声ではないのに、掻き消されずにちゃんと聞こえた。■■
「ええ……!?」■■
【ブラッド】
「プロポーズしているんだ!
聞こえただろう!?」■■
「えええ……!?」■■
【ブラッド】
「何度も言わせるな!
私と結婚しろ!」■■
なんで怒られなくちゃならないんだ。
プロポーズとはそういうものだったろうか。■■
風の音で大声を出さなくてはならないとはいえ、ブラッドは求婚する男性に見えなかった。
イラついて、人を殺しそうな威圧感を放っている。■■
(……照れている?
これって、照れているの?)■■
(ま、まさかね……)■■
【ブラッド】
「返事は!?」■■
「それは、もちろん……」■■
「…………」■■
「……【大】マフィアのボスの妻なんて絶対に嫌よ!【大】」■■
負けないくらいの大声で叫ぶ。■■
マフィアの妻……それもボスの妻なんて嫌すぎる。
恋愛より、更に避けたい事態だ。■■
男にとっての墓場かもしれないが、私にとっても墓場だ。■■
【ブラッド】
「…………」■■
「そう言うと思っていたよ……」■■
「……なってもらうからな。
誰が断らせるものか」■■
「求婚しているんでしょう!?
断られたら諦めなさいよ!」■■
【ブラッド】
「求婚などしていない!
妻にすると宣言したんだ!」■■
「先刻まで、なってくれって頼んでいたじゃない!」■■
【ブラッド】
「あれは建前だ!」■■
こんなに元気なブラッドを見るのは初めてかもしれない。
けだるそうな態度や余裕ぶった顔はどこへやら、彼は小娘一人に本気になって怒鳴っている。■■
「私は帰るの!
離してよ!!!」■■
【ブラッド】
「帰ってしまうと分かっていて、離すわけがないだろう!
君がいなくなるなんて、耐えられない!」■■
気のせいか、風が弱くなった気がした。■■
【ブラッド】
「私は、君を妻にしたいんだ!」■■
「じゃあ、あなたが私の世界へ来ればいいじゃない!」■■
【ブラッド】
「行くわけないだろう!
面倒くさい!」■■
「傲慢男!」■■
睨むと、それ以上に強い視線で睨み返された。■■
【ブラッド】
「そんな……君を養えるかどうかの保障もないようなところへ行けるわけがない。
私は君と結婚したいんだぞ?」■■
「火遊びじゃないんだ。
なんの保障もない異世界へ行くような間抜けと結婚したいのか?」■■
「…………」■■
ブラッドが「君の世界に行くよ」などというような阿呆だったら、確かに願い下げだ。■■
男女平等とはいえ、男が女に対して責任をとるというのは資産や環境込みのことだ。
何が待ち受けているかも知れない異世界に飛び込むような真似、優しさでもなんでもない。■■
幸せにしてやろう・満たしてやろうと思うのなら、より安全な自分の領域に留めおくのが正しい。■■
ろくに知らないような場所で幸せにしてやると言えるような男だったら、頭がおかしいか、とんでもないくらいの馬鹿だ。■■
彼が知っているかどうかは分からないが、私の世界には国籍などの問題もある。
よしんばそれらを運だか実力だかで見事にクリアしたとして、異世界に飛び込むような馬鹿であることに変わりはない。■■
恋に狂ったというより、気が狂っている。■■
それしかないという局面ならともかく、選べるのであれば相手の意志などお構いなしに自分の領域で確実な幸せを与えてやるべきだ。■■
正しいがゆえに、困る。■■
ブラッドは、イカレてはいるが馬鹿ではない。
責任というものについても分かっている。■■
組織を支えているように、私のことも責任をとってくれる気なのだろう。
かったるそうにしながらも、彼は所有欲も責任感も持ち合わせた人だ。■■
「……でも、私にだって責任があるのよ」■■
責任について分かっているのなら、私の責任も理解してほしい。
私は、帰らなくてはならない。■■
残してきた責任のために、帰るしかないのだ。■■
【ブラッド】
「そんなもの知るか。
私は責任をとらせてもらうが、君は責任なんかとらなくていい」■■
「どういう理屈よ!
私にだって責任があるから帰らなくちゃいけないのよ!?」■■
【ブラッド】
「帰りたい理由は、責任しかないんだろう!?
君が帰りたいと思う気持ちなんてその程度のものだ!」■■
「あなただって、私を引きとめようとする理由は責任でしょう!?
同じようなものじゃない!」■■
【ブラッド】
「違う……!」■■
「私は……、君にいてほしいんだ、アリス」■■
「お……、女の人なら、この世界にもたくさんいるでしょう。
私じゃなくてもいい」■■
「私には、元の世界に家族もいて……帰らなきゃ」■■
帰らなければ、ならない。■■
【ブラッド】
「私は、君でなければ駄目だ。
この世界だろうと、元の世界だろうと、私以上に君を必要としている人間なんていない」■■
帰らなければ、ならないのに。■■
【ブラッド】
「だから、君はここにいるべきだ」■■
どくんっと、心臓の音が聞こえる。■■
【【【演出】】】……強風の吹き荒れる音
弱まってきた風がぶわっと、ひときわ強く吹いた。■■
「っ!?
あ……!?」■■
小説のように、都合よく、小瓶が手から離れる。
そして、劇のように出来すぎたことに、風に巻き込まれてしまう。■■
「な、なんで!?」■■
こんなタイミングのいいことなど、起こるはずがない。
現実と夢の境目でもなければ。■■
つまり、今、いる場所だ。■■
【ブラッド】
「……行かせない」■■
小瓶を追いかけようとしたが、ブラッドは力を緩めてくれない。■■
都合よく手が滑るということも、彼には起こらないようだ。
しっかりと手をつかまれているうちに、風はやみ、闇がはれていく。■■
風がやんで、小瓶は吸い込まれてしまった。■■
示す意味など一つしかない。■■
……私は、もう帰れなくなってしまったのだ。■■
「う、嘘……」■■
呆然とする。■■
【ブラッド】
「……諦めて私と結婚しろ、アリス」■■
「…………」■■
「【大】絶対いや!【大】」■■
勝ち誇ったように言う男を殺してやりたい。■■
【ブラッド】
「どうして、そんなに強情なんだ!?」■■
「もう、いいだろう!?元の世界にも帰れない!
私の妻になれ!」■■
「あんたが帰れなくしたんでしょう!?
帰れないからって、結婚なんかしないわよ!」■■
【ブラッド】
「そんなに嫌か!?
よし分かった。引きずってでも教会に連れて行って宣誓させてやるよ!」■■
「誓わないというのなら口を指でこじあけてやろう。
抵抗なんかする気がなくなるくらいに無茶苦茶にしてから臨ませてやる」■■
「なんて奴なの!
最低、最低だわ!」■■
「結婚式っていうのは、もっと神聖なものなのよ!?
そんなふうに結婚させようなんて、地獄に落ちるわ!」■■
【ブラッド】
「マフィアのボスに見初められたんだ、諦めるんだな!
大人しく、私のためにウェディングドレスを着ろ」■■
「そして、招待客の前でドレスを剥ぎ取られたくなかったら、私の伴侶になると宣誓するんだ」■■
こんな求婚、そんな結婚があるものか。■■
「【大】いやだってば、嫌!【大】」■■
「あんたと結婚するくらいなら……」■■
ブラッドは頭に血が上っているようだが、こっちだって逆流しそうなくらいに腹がたっている。■■
「【大】あんたと結婚するくらいなら死んでやる!【大】」■■
【ブラッド】
「【大】私と結婚しないのなら、殺してやる!!【大】」■■
……最早、プロポーズの様相をなしていない。■■
二人とも殺気だって激昂している。
挙げるのが、結婚式より葬式になってしまいそうだ。■■
「死んでも結婚なんかしない……」■■
「絶対、口が裂けたって承諾なんかしないから!」■■
【ブラッド】
「何が何でも、妻にしてやる……」■■
「私はマフィアだぞ?
承諾しないのなら、奪うまでのことだ」■■
「もう、こんなところ、すぐにでも出て行ってやるから……。
今すぐによ、すぐに!」■■
「結婚なんてしない。
ずっと未婚を通してやるわ……!」■■
【ブラッド】
「もう、絶対どこへも行かせない……。
ずっとだ!」■■
「すぐに式の準備をする。
数時間帯後には、君は私の妻だ……!」■■
噛みあっているようで、ずれている。■■
互いに、互いの言い分を聞く気などない。
どちらも自分の主張を並べるだけだ。■■
「こんな立派なお屋敷でなくていいから、まともなところへ行くわ……」■■
【ブラッド】
「急で豪勢には出来ないだろうが、ちゃんとしたのは後でいくらでも挙げてやるから我慢しろ……」■■
噛みあわない。
話を聞く気なんかない。■■
bra_end3 言いたいことだけ言って、ブラッドは私を掻き抱いた。■■
手加減のない、痛みの伴う強さで抱きしめられる。
そして、殺す気かと疑うほどのキスをされた。■■
「……っ……」■■
噛み付くとかそういう表現では生ぬるい、本気で殺されるかと思った。■■
痛い。
苦しい。■■
「は……っ」■■
心臓が止まりそうだ。■■
キスだけで、死にそうになる。
それ以上なら、もっとだ。■■
殺してやるという言葉は勢いで出たものだろうが、今までだって彼には何度も殺されかけた。■■
大切にされていると思ったことはない。
これからだって、そんなことは思わせてくれないだろう。■■
我侭で、私の事情よりも自分の意思を尊重させる。■■
「死んでしまいそう……」■■
【ブラッド】
「結婚式の前に死ぬな」■■
「私より……、あんたのほうがくたばればいいのに」■■
罵ったのに、ブラッドは面白そうだ。■■
「……あんたの妻なんて務まらないわ」■■
【ブラッド】
「そんなことはない」■■
「君は、私の妻にぴったりだよ、アリス」■■
【【【時間経過】】】
ここしばらくは、珍しくまともに時間帯が動いていた。■■
ブラッドが何かしたのかもしれない。■■
彼は、未だにつかめない人だ。
こうなった今でも……。■■
【エリオット】
「おめでとう、アリス」■■
「……ありがとう、エリオット」■■
【ディー】
「うう……。
お姉さん、人妻になっちゃうんだね……」■■
【ダム】
「寂しい……。
ご祝儀で懐も寂しい……」■■
【ディー】
「ああ、でも、人妻っていいよね……。
みだらな感じ……」■■
【ダム】
「素敵だよ、お姉さん……」■■
「ど、どうも……」■■
祝われている……のだろうか。■■
【エリオット】
「これから、あんたのこと、姐さんって呼ばなくちゃならないな」■■
エリオットの言葉に、立ちくらみがした。■■
彼は、間違いなく祝ってくれている。
祝ってくれているのだが、あまり望んでいない方向性だ。■■
【ディー】
「え~。
お姉さんじゃ駄目なの?」■■
【ダム】
「いいじゃない、お姉さんでも。
似たようなものだよ」■■
【エリオット】
「お姉さんじゃねえ。
姐さんだよ、姐さん!」■■
【ディー】
「お姉さん」■■
【ダム】
「お姉さん」■■
【エリオット】
「姐さん!」■■
【ディー】
「どこが違うんだよ!?」■■
【ダム】
「同じだろ!?」■■
【エリオット】
「違うだろ!?うちらの組織の女ボスだぜ!?
ニュアンスってもんを分かれよ!」■■
「そんなもの、分からなくっていい……」■■
くらんくらんと、頭が回る。■■
実は、起きてからずっと酷い立ちくらみに悩まされている。■■
理由は明快だ。
この状況、そして……寝不足のせい。■■
(全部、ブラッドのせいよ……)■■
「姐さんなんて呼んだら、返事しないからね……」■■
【ディー】
「ほら、お姉さんもこう言っている!」■■
【ダム】
「お姉さんはお姉さんのままでいいよ!
ひよこウサギは、マフィアものの劇か何かに影響されすぎ!」■■
【エリオット】
「だけど、ブラッドと結婚したんだぜ!?」■■
「ボスの妻なら、いざってときには代理を務める女ボスだろ!?
お姉さんじゃ締まらねえよ」■■
ぐさり……。■■
(そ、そうなのか……)■■
(やっぱり、そうなのか……)■■
【ディー】
「お姉さんに姐さんなんて呼び方は似合わないよ!」■■
【ダム】
「一人で呼んでれば!?」■■
双子達に救われるが、しかし、エリオットの言ったことも間違っていない。■■
(マフィアの女ボス……)■■
「……ねえ、明らかに似合っていないとかそういう突っ込みはないわけ?」■■
【エリオット】
「ん~?
今の時点じゃ、合ってるぜ?」■■
【ディー】
「ウェディングドレス、綺麗だよ」■■
【ダム】
「似合ってる、似合ってる」■■
【ディー】
「……ちょっとロリータな感じだけどね」■■
【エリオット】
「ば、ばか!
上司の趣味に難癖つけんなよ」■■
【ダム】
「そうだよ、減給されちゃうだろ!?」■■
【エリオット】
「上司のそっちの趣味には口出しするなってのが、部下の鉄則だろ!?
ちょっと××××っぽいのかと思っても、何も言うな!」■■
【ディー】
「……言ってるよ」■■
「……は。
はは……」■■
「だよねえ……。
私もそう思うもん……」■■
【エリオット】
「はは……」■■
【ディー】
「はは」■■
【ダム】
「は……」■■
「はは……」■■
「はあ……」■■
人生を踏み外したとしか思えない。■■
こんな予定は、どこにもなかった。
姉のようにはなれなくとも、自立した働く女性になろうと決めて、そのために努力もしていたのだ。■■
世界は違うわ、マフィアの嫁だわで、完全に予定外すぎる。■■
いつか結婚するかもしれないとは思っていたが、こんなに早婚の予定はなかった。
マフィアのボスと結婚する予定など、論外だ。■■
くらりくらりと眩暈がして、立ちくらみが酷くなっていく。■■
(夢……じゃないのよね、これ)■■
夢のように素晴らしいとかいう意味ではない。■■
頬をつまんでみるが、痛いだけで目は覚めない。■■
ああ、どうして今の今まで試してみなかったのだろう。
これが夢ではないと分かれば、私はもっと早く正気に返れていた。■■
bra_end3a 【ブラッド】
「こんなところにいたのか、奥さん」■■
夢の世界の旦那様が、私の腰を引き寄せる。■■
もっと早くに正気に返れていれば、この男から離れていただろうかと考える。
どうだろう。■■
【ブラッド】
「新妻が、夫の傍を離れるなよ」■■
「…………」■■
【【【演出】】】……足を踏む音
【ブラッド】
「っつ!?」■■
ヒールで踏んでやった。■■
「……念願叶って、気分がいいわ」■■
いつかヒールつきの靴で踏みつけてやりたいと思っていたのだ。■■
【ブラッド】
「ハードなご趣味だな……」■■
【【【演出】】】……足を踏む音
【ブラッド】
「いつつ……」■■
「ピンヒールでないだけ感謝なさい」■■
【エリオット】
「××××な夫と××××好きな妻か……。
すげー夫婦……」■■
【ディー】
「さすがボス……」■■
【ダム】
「……子供には分からないディープな世界」■■
【ディー】
「ずるいなー……」■■
【ダム】
「ずるいよねー……」■■
【ブラッド】
「ふふ……。
おまえ達はまだ子供だから、知らなくていいんだ」■■
茶化すより本気の度合いが強そうな揶揄に、ブラッドは思わせぶりに微笑んだ。■■
【ディー】
「大人になったって教えてくれる気ないくせに……」■■
【ダム】
「独り占めする気なんだ……」■■
【ブラッド】
「私の妻なんだから、当然、独り占めするとも」■■
「深淵なる夫婦の世界だ。
おまえ達にも教えてやれないな」■■
【ディー】
「深淵……」■■
【ダム】
「深い……」■■
【ブラッド】
「ふふ……」■■
そんなディープな世界には突入したくないし、今のところしていないが、否定する気はないようだ。■■
【ブラッド】
「なあ、アリス……」■■
こそっと顔を近づけられる。
耳元に唇を近づけられ、身構える。■■
新郎に警戒しなくてはならない、新婦。
この男といて安心できたためしがない。■■
「……なによ」■■
【ブラッド】
「バージンロードを歩いている君を見て、笑いそうになったよ」■■
「あなたもね。
その王子様みたいな新郎衣装、笑えるほどに似合ってない」■■
実際のところは、笑えるほどに似合っている。
中身は程遠いのに王子様みたいに見える、詐欺みたいな男だ。■■
「…………。
誓いのキスを何分も続けられたときには、頭がわいているんじゃないかと思ったわ」■■
【ブラッド】
「内輪の式だったんだ。
のろけてもいいだろう」■■
「内輪の式っていうのは、もっと小規模なものよ!
なんなの、あれは……」■■
【ブラッド】
「時間をかけず、金だけかけるとああなった」■■
「お金をかければいいってものじゃないのよ!?」■■
やたらと豪華で、てんでばらばら。■■
いきなりだったので、招待客も主催者側も混乱を極めていた。
エリオットや双子からして、結婚式用のスーツなど持っていないと間に合わせでお仕着せなのだ。■■
盛大に、大金のかかるプログラムにしたせいで、余計に準備期間のなさが際立つ。
ごく僅かな準備期間で、あれだけの式を催そうなんて無理がありすぎる。■■
【ブラッド】
「豪華にはなっただろう……」■■
「式はどうだった?
ご感想は?」■■
「…………」■■
「……最悪だったわ」■■
思い出深い結婚式になった。
自分の式でなければ、見惚れられるほどに盛大なものだ。■■
そして、呆れるほどに滑稽だ。
なにもかもの準備ができていない。■■
新郎はだるそうで、新婦は眠そう。
立ったまま寝てしまいかけた。■■
【ブラッド】
「それはよかった。
一生忘れられない式になったな」■■
私の返事に、ブラッドは満足そうだ。■■
【エリオット】
「なにはともあれ、おめでとー」■■
【ディー】
「ずるいなー……」■■
【ダム】
「ずるいよー……」■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・ブラッドの部屋
【【【演出】】】……上着を脱ぐ音
【ブラッド】
「眠そうだな。
疲れたか?」■■
「……式が始まる前から疲れているわ」■■
「直前にも花嫁を寝かせないなんて、最低の夫になることが確定している……」■■
【ブラッド】
「いい夫になるさ」■■
「なれるわけがないでしょう」■■
【ブラッド】
「浮気もしないし、しっかり稼ぐ」■■
「当たり前よ。
これで浮気する余裕まであったら、あんたは人間じゃないわ……」■■
「……しっかり稼ぐのも当たり前。
それしか取り柄ないんだから」■■
【ブラッド】
「酷い言われようだな」■■
「言われるのも当たり前よ!」■■
準備できていないのは式典だけではない。
私の気持ちも何も準備などできていなかった。■■
「どうして結婚しちゃったのかしら……」■■
どうしても何も、なし崩しだ。
嫌だといったのに、相手は聞く耳を持たず、やたらめったら財力と権力だけを持っていた。■■
【ブラッド】
「あんな面倒な式を最後まで抜け出さずにいたんだぞ?
誠実な夫じゃないか」■■
「結婚してよかったと、誉めてほしいものだね」■■
「あなたが面倒な式にしたのよ……」■■
豪華な式典とは、金をかけた分、長いものだ。
プログラムも多く、長い。■■
ブラッドと似たり寄ったりな性質の出席者達は、半分以上が船を漕いでいた。■■
エリオットは友人代表としてのスピーチをがりがり書いていたし(直前まで推敲しないとならないほど切羽詰まっていた)、双子は危険な遊びをし始めていた。■■
【ブラッド】
「準備が足りなかったからな。
気が向いたら、もう一度仕切りなおそう」■■
「結構。
一生に一度で充分よ」■■
花嫁がはらはらしながら招待客を監視しなければならない結婚式……。■■
会場の中の誰より、私が眠かったというのに。
あんな思いは、もうたくさんだ。■■
【ブラッド】
「一生に一度か……」■■
「にやにやしないでよ。
気色悪い」■■
【ブラッド】
「新婚の幸せを噛み締めているんだ……」■■
「……私も一生に一度だな。
こんな面倒なこと、もう二度とごめんだ」■■
bra_end5 ブラッドは、私の髪を撫で、柔らかく唇を重ねてきた。■■
「…………」■■
「誓いのキスね……」■■
結婚式で交わしたものより、よほどそれらしい。■■
触れ合わせるだけの可愛らしいもので、ブラッドからのキスとしては今までの中でもっともまともだった。■■
【ブラッド】
「誓うか?」■■
「……誓わない」■■
【ブラッド】
「二人分答えておいて正解だったな」■■
「あなたは無茶苦茶だわ」■■
誓いの言葉を催促されたとき、なんとブラッドは私の分まで答えてしまったのだ。■■
客は大半がだるそうにしていたし、エリオットは原稿を書くのに忙しく、双子は危険な遊びに夢中。
神父は怖がって何も言わない。■■
式は、そのまま滞りなく終了した。■■
「私側の参列者はいないし……」■■
「借金のかたにでも差し出された可哀想な子だというふうに見られたんじゃないかしら……」■■
「……似たようなものだけど」■■
神父からは、祝福より同情の目で見られていた気がしなくもない。■■
【ブラッド】
「君は幸福な花嫁だ、アリス」■■
「参列者など招く必要はないさ。
式場にいた者すべてが、君の家族だ」■■
家族……。
ファミリー……。■■
「……あれ、全員が関係者なの?」■■
【ブラッド】
「私の部下で、君にとっても手下になる」■■
「…………」■■
「そういえば、全員が銃を携帯していたわね」■■
(……離婚したい)■■
「そういえば」ですませられるようになってしまった私も、かなり染まっている。■■
【ブラッド】
「銃を持っていないと不安になるのさ。
一般の人間と変わらない」■■
そう言ってバードキスを繰り返す男に、すべての責任があるのだ。■■
もう一度……何度でも踏んでやりたい。
このキスが、こんなに気持ちよくなければ遠慮なくそうしてやるのに。■■
気持ちよさすぎるのも悪い。
みんな、ブラッドのせいだ。■■
【ブラッド】
「君のせいだ」■■
心を読まれたのかと思うようなタイミングのよさだ。
言われた言葉に、目をしばたく。■■
【ブラッド】
「……新婚旅行もできそうにない」■■
「マフィアって貧乏なの?」■■
【ブラッド】
「……私の職業に誤解があるようだな」■■
「甲斐性のあるところは、時間をかけて証明することにしよう」■■
「いらない、いらない」■■
今回の式で、充分に見せ付けてもらった。
ただの嫌味で言っただけで、本気で貧乏だなどとは思っていない。■■
あの式を見て貧乏なんて言葉が出てくるのは、大帝国の王族くらいのものだろう。
とびきり華やかで、統制されていない式だった。■■
【ブラッド】
「新婚旅行は定番だが、観光なんか面倒だ。
それより、私はもっと楽しいことがしたい」■■
「……あれだけ、ただれた生活を続けたのに」■■
「……飽きないの?」■■
同じ台詞を前にも言った。■■
だが、今回はもっとしみじみと思う。
飽きないのだろうか、と。■■
【ブラッド】
「飽きたりしないよ」■■
あのときと同じように、けだるい調子でブラッドは答える。■■
同じだが、ほんの少しだけ違って聞こえた。■■
……たぶん、気のせいだ。■■
【ブラッド】
「君は、私にとって何よりの面倒ごとだ。
どんな厄介ごとより面倒くさい」■■
「私にとっては、あなたのほうが面倒ごとだわ。
あなたは、私が知る誰よりも面倒くさい男よ」■■
人の意見も無視して、この世界に留まらせ、挙句結婚までさせられてしまった。
元の世界のことが気になるのに、怠惰な生活に思考を遮られる。■■
「あなたといると、自分が駄目になってしまうんじゃないかと思うわ」■■
【ブラッド】
「いいじゃないか」■■
「したいことをすればいい。
君は難しく考えすぎる」■■
軽い言葉に、真理が見える。
責任など関係なく、したいことをしていいとしたら、私は帰ろうとしただろうか。■■
【ブラッド】
「ところで、私は今からしたいことがあるんだ」■■
「なあ、花嫁さん。
結婚した日くらい、花婿の我侭を聞いてくれるだろう?」■■
「……いつもでしょう」■■
いつも、いつも。
先手を打たれて、分からなくなる。■■
分かることといえば、これからいつも面倒ごとと付き合わなくてはならなくなったということだけ。■■
【【【時間経過】】】
「ブラッドBESTEND」ここまで↑