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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■10話_2』

◆帽子屋屋敷・ブラッドの部屋◆
またブラッドの部屋で過ごしていた。■■
誘いを断ったことはほとんどない。
しょっちゅう、この部屋にいるような気がする。■■
仕事もし、普通に出歩いたりもしているのに。
それだけ、この部屋で過ごす時間が、私にとって重い……。■■
(……とは、考えたくないな)■■
【【【演出】】】……ノックの音
【【【演出】】】・・・扉を開ける音
トントンと、扉を叩く音。■■
【エリオット】
「ブラッドー。
用事って何だ?」■■
ノックと同時に、エリオットが入ってくる。■■
(ノックの意味がない……)■■
(っていうか、どうしてエリオットが入ってくるのよ?)■■
(ブラッドが呼んでいたみたいだけど。
私、そんなの聞いていないわよ!?)■■
さり気なくブラッドを見るが、彼は素知らぬふりで目を合わせない。■■
【エリオット】
「頼まれた書類持ってきたけど、不備なんてどこにも……」■■
「……あれ、アリス?
あんた、ここで何してんの?」■■
「あ、いや……。
その……」■■
「【大】偶然よ、偶然!【大】」■■
【エリオット】
「は?」■■
「通りすがりなの、通りがかっただけ!」■■
【エリオット】
「……大丈夫か、あんた」■■
思いきり不審そうな目で見られてしまった。■■
それもこれも、ブラッドのせいだ。
今まで、仕事関係の用事と私への呼び出しをバッティングさせることはなかった。■■
【ブラッド】
「疲れているんだろう……」■■
「私の貸した本を気に入ったらしくてな。
夢中になって読みふけっているらしい」■■
だるそうに、ブラッドがフォローを入れる。■■
【エリオット】
「ふーん」■■
「そ、そうなの。
熱中しちゃって……」■■
【ブラッド】
「熱くなってくれて嬉しいよ、お嬢さん。
甲斐があるというものだ」■■
【エリオット】
「???」■■
「……はは」■■
(こいつ……)■■
フォローしたいのか、暴露させたいのか、どっちなんだ……。■■
しかも、エリオットが入ってきたのは、ほんの僅差でまずいタイミングだった。
部下を呼びつけながらも、性懲りもなく不埒を働こうとしていたのだ、この男は。■■
流し目を送られて、恐ろしさにぞぞっとした。■■
【ブラッド】
「ああ、エリオット。
そっちじゃない」■■
【エリオット】
「へ?」■■
ソファに腰掛けようとしたエリオットを、ブラッドが止める。■■
【エリオット】
「なに?
ソファに座っちゃ駄目なのか?」■■
(……うんうん、できれば遠慮してもらいたい)■■
いろいろと思い出深いソファだ……。■■
というか、この部屋には思い出深い一品が多すぎる。
間違っても、楽しく思い出せる類の思い出ではない。■■
どこもかしこも隠してしまうか、粗大ごみに出してしまいたい。■■
【ブラッド】
「いいや、位置がずれている」■■
「……?」■■
【エリオット】
「なんだ?
別に歪んでなんかいないぞ?」■■
【ブラッド】
「そこだと、場所が違うんだ……」■■
「いいから、右側のほうに座れ。
右側のソファの中央だ」■■
「!?!!」■■
(こ、こ、この男……)■■
【エリオット】
「?
分かった」■■
ブラッドに忠実なエリオットは、疑問を感じている様子であっても従う。■■
【ブラッド】
「ふふ……。
では、仕事の話をしようか」■■
【エリオット】
「え。
いいのか……?」■■
エリオットは私のほうへ視線をよこす。■■
「せ、席をはずし……」■■
【ブラッド】
「はずさなくていい。
すぐ終わる」■■
「でも、仕事の話なんでしょう。
終わったら又来るから……」■■
【ブラッド】
「たいした内容の話ではない。
君がいても支障はないよ、アリス」■■
「で、でもでも……」■■
【ブラッド】
「いなさい」■■
有無を言わせない気だ。■■
「…………」■■
【【【演出】】】……足を踏む音
ブラッドの足を踏んでやる。■■
【ブラッド】
「……って!?」■■
「……死ね。
この××××」■■
【ブラッド】
「……酷いな」■■
【エリオット】
「?」■■
「んだよ?
どうした?」■■
「ううん、何でもないの」■■
【【【演出】】】……足を踏む音
エリオットに対しては微笑みながら、ふみふみとブラッドの足を踏む。■■
【ブラッド】
「ってて……?!?」■■
「ああ。エリオット、なんでもない。
10ページ以降にミスがあるから、自力で探してみろ」■■
【エリオット】
「???
おう、分かった」■■
やはり、エリオットは従順だ。■■
【【【演出】】】……強く足を踏む音
(それに比べて、この男ときたら……!)■■
【ブラッド】
「……っつ……」■■
「……酷いな」■■
「……ヒールがなくて残念だわ」■■
【ブラッド】
「その手の趣味はないんだが」■■
「……あら、てっきり何でもありかと思った。
案外と幅が狭いのね」■■
【【【演出】】】……足を踏む音
冷たく言って、更に踏む。■■
【ブラッド】
「そっちの趣味はない……」■■
痛がりながらもブラッドは平然として、エリオットに顔を向けたままだ。
私も外見上は平静を装うが、心中穏やかではなかった。■■
「……あそこってアレよね」■■
【ブラッド】
「……ああ。
あの辺りが定位置だったな」■■
「……信じられない」■■
【ブラッド】
「……そうか?」■■
「なあ、エリオット」■■
ブラッドは、書類を熱心に読み返すエリオットに声をかける。
今度は何を言い出す気なのかと、私は戦々恐々としていた。■■
【エリオット】
「ん~?」■■
【ブラッド】
「いいことを教えてやろうか」■■
「……!?!!」■■
「ちょっ、ちょっと、ブラッド!?
あんた……!!!」■■
(まさかまさかまさか……!?)■■
(言わないわよね!?
いくらなんでも、言わないわよね!?)■■
【エリオット】
「???
なに?」■■
【ブラッド】
「……ふふ。
この子は、おまえのことが好きだそうだぞ」■■
「……え」■■
(なぬ……?)■■
【エリオット】
「え?
アリス?」■■
「……マジ?」■■
唐突だったにも関わらず、エリオットは驚いた後で赤くなるという定番の反応を返してくれる。■■
(意外性のないあなたが好き……)■■
(そのままでいてね……)■■
【ブラッド】
「ああ。
おまえは親切で気さくだから、安心できるんだと」■■
……意外性どころかもはや爆弾のような男と過ごしていると、本当にそう思う。■■
【ブラッド】
「前に言っていたよな、アリス?」■■
「え。
え~と……、うん……」■■
(何を根に持っているんだ、この男は……この男は……)■■
【エリオット】
「そ、そっか……。俺も好きだぜ?
ありがとうな!」■■
「や、お礼を言うのは私のほうで……」■■
「……いつもありがとうね。
相談ごととか、迷惑ばかりかけちゃって……」■■
【エリオット】
「そんなことないぜ?
あんたって、いつも気を遣うよな~」■■
【ブラッド】
「いつも……か。
へえ……」■■
……横が、冷たくなってきた。■■
(なんなの、なんなの、なんなの……)■■
(ほんと、何がしたいの、この人……)■■
【エリオット】
「な、なんか、ブラッド機嫌わりい?
俺がミスったから、怒ってんのか?」■■
エリオットも、冷気を感じたのか慌てだす。■■
【ブラッド】
「怒ってなんかいないさ……」■■
「…………」■■
「……さっさとミスを見つけろ。
私だって暇じゃないんだ」■■
「早く仕事をすませて、このお嬢さんとの用事に移りたい」■■
「…………」■■
「……ゆっくりでいいわよ、エリオット」■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・薔薇園◆
【ビバルディ】
「アリス」■■
【ブラッド】
「!?
アリス!?」■■
ビバルディは楽しそうに、ブラッドは青ざめて振り向いた。■■
【ブラッド】
「アリス、これは、その……」■■
「邪魔をした?」■■
浮気を見咎められたかのような反応だ。
ビバルディのほうは平然としていて、対照的だった。■■
【ビバルディ】
「邪魔になどならん。
こやつといても、華がないわ」■■
「おいで、アリス。
わらわは退屈しておったところじゃ」■■
改めて、言動を見ると、なるほどと思う。■■
先入観がないと、分かりやすい。
敵同士だとか、そういう前知識が色眼鏡になっていたようだ。■■
【ブラッド】
「……っちょ、こら、どういうことだ?」■■
「どうして……」■■
【ビバルディ】
「うるさい奴よ。
前に、おまえがいないとき鉢合わせただけのこと」■■
「わらわとこの娘が会う可能性を考えなかったのか?
考えの足らん奴じゃな」■■
【ブラッド】
「何も言ってなかっただろう!?」■■
【ビバルディ】
「なぜ、わらわがいちいちおまえに報告してやらねばならんのじゃ。
あつかましい」■■
【ブラッド】
「……っ……」■■
ブラッドはちらっと私に目をやった。■■
どこまで知っているのかと探っている。
にっこり笑って返してやった。■■
「美男美女の姉弟なのね。
外見はそんなに似ていないけど、言動がそっくり」■■
【ブラッド】
「~~~~~~~~っ」■■
がくりと、ブラッドが項垂れる。■■
【ブラッド】
「……姉貴」■■
【ビバルディ】
「なんじゃ」■■
【ブラッド】
「言ったのか……?」■■
【ビバルディ】
「わらわは、うつけではない……。
おまえが肯定するまでは露見しておらなんだ」■■
「やれやれ、間抜けな弟を持つと苦労する」■■
「……気を許した者に甘くなる悪癖、未だに直らんのか」■■
ビバルディは冷たい声で、弟を撫でる。
ブラッドは項垂れていた頭を勢いよく上げ、私を睨んだ。■■
【ブラッド】
「……っ」■■
「アリス、鎌をかけたな!?」■■
「もう確信していたから、確認よ、確認」■■
騙したわけではない。
そうだと確信をもって確認したのだ。■■
【ブラッド】
「立派な鎌かけじゃないか……」■■
「ごめん、ごめん……」■■
【ビバルディ】
「かかるほうが悪いわ。
気に病むでないぞ、アリス」■■
【ブラッド】
「否定してくれよ……」■■
【ビバルディ】
「ふん。わらわは味方したいほうに味方する。
阿呆な弟など、庇いとうない」■■
「…………。
……あ~~~、似ているよね、二人」■■
そう言うと、揃って嫌そうな顔をする。■■
反応や言動が、それぞれ被っていた。
敵対している領主同士が並んで立つことなどないだろうが……。■■
「なんで見抜けなかったんだろ」■■
他の人間が見抜けないのは仕方ない。
しかし、私は二人が並んでいたのを見ていた。■■
どうして今の今まで気付かなかったのだろう。■■
二人がそれぞれ、互いのことを思っているのを見て、いらいらした。
悔しかった。■■
悔しさ、疎外感が目を曇らせた。■■
【ブラッド】
「似ているなんて心外だ」■■
【ビバルディ】
「それは、わらわの台詞じゃ。
おまえのように不出来な弟に似ていると評されるとはな」■■
「…………」■■
今も、なんだか悔しい。
疎外感を感じる。■■
なにが悔しいのだろう。■■
二人は姉弟で、恋人でもなければ特殊な友愛でつながっているわけでもない。
血のつながりは、妬くようなことではないはずだ。■■
(それに、誰に妬くっていうの……)■■
「私の他に、二人が姉弟だって知っている人はいるの?」■■
【ブラッド】
「気付くような奴はいないはずだ。
あらゆる接点を消した」■■
【ビバルディ】
「過去の知人も、漏らすことなく消してある」■■
日常会話のように軽く出てきた、「消す」という言葉の意味は深く考えないようにする。■■
【ビバルディ】
「今、この世にいる者で本人以外に知っているのは、おまえだけ……」■■
とろりと甘く、囁かれた。
背筋が冷える。■■
「……っ……!」■■
【ビバルディ】
「ふふ……」■■
【ブラッド】
「姉貴、脅かしてやるなよ。
アリス、君を消したりしない」■■
【ビバルディ】
「可愛いのだもの。
わらわは、可愛いものが好きなのじゃ」■■
ほほほと、ビバルディはわざとらしく声をあげる。■■
(ブラッドがやりこめられている……)■■
「私、人に話したりしないわ」■■
【ブラッド】
「君は賢いからな。
心配していない」■■
【ビバルディ】
「今では、そのようなことを吹聴しても信じるものがいるかどうか」■■
「わらわは幼い頃に役付きになったのじゃ。
それ以前のつながりが分からぬ限り、この愚かなやくざ者と女王を結びつけるものは何もない」■■
【ブラッド】
「やくざ者……」■■
【ビバルディ】
「大きくなったおまえと再会したときには、人生に絶望しそうになったわ」■■
「昔はもう少しまともだったのに……」■■
ビバルディは大げさに悲しがる。■■
「昔のブラッド……」■■
「……どんな子供だったの?」■■
【ブラッド】
「……っつ!?」■■
【ビバルディ】
「ふふ、知りたいかえ?」■■
【ブラッド】
「わーーーー!?
わーーーー、わーーーーー!!!」■■
「黙れ!
話したら殺すっっっ!」■■
【ビバルディ】
「……というほどに恥ずかしいものだったらしいな」■■
「……知りたい」■■
【ビバルディ】
「では、ブラッドのおらぬところで……」■■
つつっと、ビバルディに腰を抱かれる。■■
【ブラッド】
「!
危険だぞ、アリス!」■■
「騙されるな!
その女は魔女だ!」■■
【ビバルディ】
「それは危険だろうとも。
おまえの実姉だものな」■■
姉は強い。
二人は、こうしていると普通の姉と弟に見える。■■
気の強い姉と、外では強くても姉には頭の上がらない弟。■■
「敵対しているっていうのは表向きで、二人は仲が良かったのね」■■
【ブラッド】
「……なに」■■
【ビバルディ】
「……何を言っておるのじゃ」■■
きょとんと、同じような反応が返ってきた。■■
【ブラッド】
「ここから外に出れば、敵同士だ。
本気で殺しあっている」■■
「隙あらばつけこもうと、知る限りの情報や性格も利用していく」■■
「姉貴の領土を奪い、部下も殺す。
機会があれば、直接手にかけることもある」■■
【ビバルディ】
「振りだとでも思ったのか?
わらわ達は本気で奪い合わねばならぬ」■■
「茶番ではない。
そういうゲームに参加している」■■
殺しあう・傷つけあうと、息の合った調子で返ってくる。■■
「こんなに仲がいいのに、傷つけあったり……、殺したりするなんて無理でしょう」■■
【ビバルディ】
「出来るとも」■■
「……弟を?」■■
【ビバルディ】
「前に言わなかったか?
ここでのわらわは、特別なのだ。外へ出れば、元に戻る」■■
「ここで過ごすとき以外のわらわは、ハートの女王じゃ。
敵である帽子屋を引き裂きたくてうずうずしておる」■■
ここ以外で、ブラッドとビバルディが対面しているのを見たことがない。
私は、ここにいるとき以外の二人を知らない。■■
「でも、ここにいるときは普通の姉弟なのに。
外に出たからって、切り替えられるものなの」■■
【ブラッド】
「切り替えられないようなら、姉貴はここには来ない。
私も入れたりしない」■■
「私達は、領主だ。
奪い合い、殺しあうのが仕事だからな」■■
「殺しあえないようなら、ゲームが終わってしまう」■■
「なんなの、ゲームゲームって。
そんなくだらないもの、終わらせちゃえばいいじゃない」■■
ここにいるときは普通に接し、ここから出れば普通に殺しあう。
そんな姉弟関係、信じ難い。■■
【ビバルディ】
「勝者が決まるまでゲームは終わらない」■■
「誰かに強制されているわけでもないんでしょう。
やめちゃえばいい」■■
【ビバルディ】
「わらわに命令できる者はいない。
ルールに沿って、自分の意志で参加している」■■
ここのルールも、ゲームというのも、さっぱり理解できない。
肉親を置いて、優先させる価値のあるものとも思えなかった。■■
「そんなこと言って……、もし殺しちゃったらどうするの」■■
【ブラッド】
「領土を奪い合い、殺しあうことがゲームの本筋だ。
どうするも、それが目的なのだから問題ない」■■
「実際にそんなことになったら、後悔するわよ」■■
【ビバルディ】
「ここに来て、泣くかもしれんな。
だが、女王のわらわは笑うだろう」■■
「ゲームは、勝つために参加しているのだから、勝てば嬉しい」■■
【ブラッド】
「この世界は、ルールの下に成り立っている。
役つきの人間はすべて、何かしらのゲームに参加していなくてはならないんだ」■■
「…………。
ゲームって、なんなの」■■
【ブラッド】
「この世界だ」■■
ブラッドは、なぜそんなことを聞くのか、と常識のように語る。■■
【ブラッド】
「常にゲームをしていなくてはならない。
ここは、そういう世界だ」■■
【ビバルディ】
「アリス、おまえだってゲームをしているはずだ。
おまえには名前があり、役がついている」■■
「ゲームに参加しているのだよ、おまえも」■■
「そう、なの……?」■■
【ブラッド】
「ああ、そうだ……、君はもう私達と同じボードの上にいるんだよ、お嬢さん。
進めるゲームの種類は違ってもね」■■
「…………」■■
身に覚えのないゲームに参加していると言われても、当然実感がわかない。
戸惑ってしまう。■■
(でも……。
この二人が言うなら、そうなのかしら)■■
不思議なものだ。
ここにいると、惑わすような二人の発言まで、外で聞くより信憑性があるように聞こえる。■■
(ここの空気に当てられすぎね、私)■■
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢
【ナイトメア】
「最近は、現実でも素敵な夢をみているようだな?」■■
意味深な言い方だが、すぐに理解した。■■
夢のような時間。
思い当たるのは、ひとつしかない。■■
咲き乱れる赤薔薇が、脳裏に鮮明に浮かぶ。
たしかにあそこで過ごす時間は、幻想のようなひとときだ。■■
「……にやにやしながら言わないでくれない?」■■
楽しんでいる調子なのが癪に障る。
軽く睨むが、ナイトメアは堪えた様子もなく続けた。■■
【ナイトメア】
「それで?
君は、どっちが好きなんだ、アリス?」■■
「は?
どっちって……、あの二人のどっちかっていうこと?」■■
(好き?
え???)■■
【ナイトメア】
「もちろんそうに決まっているだろう。
君は、あの二人のことが好きなんだろう?」■■
「そりゃあもちろん、好きだけど……」■■
【ナイトメア】
「そうだろう。
だが、どっちも好きというのはいただけない」■■
なぜいただけないのか不明だが、夢魔はきっぱりと言い切る。■■
【ナイトメア】
「どっちが、より好きなんだ?」■■
「……う~ん」■■
なぜ、ナイトメアに恋愛相談をしているのだろう……。
いや、自分から始めたわけではないが……。■■
変な感じだ。■■
【ナイトメア】
「君は、ブラッド=デュプレの屋敷に滞在している。
女王は、ただの訪問者だ」■■
「ブラッドのほうが好きか?
それとも、女王・ビバルディに傾いている?」■■
「ブラッドのことが好き……かな」■■
【ナイトメア】
「……かな?
えらく曖昧だな……」■■
「だって、あの人のどこが好きなのか、よく分からないのよね……」■■
変な帽子を被った、変な人だ。■■
【ナイトメア】
「付き合っていた男に似ているからじゃないのか?」■■
「…………」■■
「なんで、知っているの?」■■
(……なんて、今更ね。
心を読まれているのは分かっている)■■
とはいえ、はっきり言葉にされると強がりたくもなる。■■
【ナイトメア】
「……ふふ。
さあね?」■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
【【【時間経過】】】
「…………」■■
小瓶をじっと見る。■■
(また……)■■
「…………」■■
小瓶の中の液体は、日に日に増えていく。■■
いや、ここは日の区切りなどない世界。
同じように、小瓶の中身も、途切れることなく少しずつ、増えていっている。■■
気付かないうちに。
けれど、確実に。■■
「…………」■■
「もう半分を超えている……」■■
「…………」■■
(一杯になったらどうなるのかしら……)■■
誰に教えられなくても、答えは分かっていた。■■
「…………」■■
きゅっと小瓶を握り込む。■■
もう、眠らなくては。
目覚めれば仕事だ。■■
(目覚めれば……?
今だって、夢なのに?)■■
(…………)■■
(夢の中で、私は……)■■
(また、夢をみそう……)■■
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢

nai4_2a_and5_1 「…………」■■
「もったいないわ、綺麗な顔立ちをしているのに」■■
前にも思ったことだが、ナイトメアは整った顔立ちをしている。
眼帯をはずす許可を貰ってから、たまにこうやってはずさせてもらっていた。■■
【ナイトメア】
「……何が面白いんだか」■■
「ん?」■■
【ナイトメア】
「私の顔なんか見ても面白くもなんともないだろう?」■■
「面白いとか面白くないとかで見ているわけじゃないわ」■■
【ナイトメア】
「じゃあ、何なんだ?」■■
(何……)■■
(……?)■■
(何で……???)■■
「…………」■■
(…………)■■
(う~ん……)■■
(……ナイトメアに興味があるから)■■
(夢の中でしか会わない存在だけど、馴染んじゃったし。
私、何だかんだでこの人に関心があるのかも……)■■
(……なんて、言えないな)■■
「……やっぱり、面白いから、かな」■■
【ナイトメア】
「……っ……」■■
「な、なに……?」■■
【ナイトメア】
「今、違うことを考えただろう!?」■■
「考えを読まないでよっ」■■
【ナイトメア】
「遮断しないと、勝手に情報が入ってくるんだっ!
私に罪はないっっ」■■
「じゃあ、遮断しなさいよっ」■■
【ナイトメア】
「油断したんだっっ!
恥ずかしいことを考える君が悪いんだぞ!?」■■
「恥ずかしいことなんて考えてないっ」■■
【ナイトメア】
「考えていたっ!」■■
「いないっ」■■
【ナイトメア】
「考えて……いるだろうっ、恥ずかしいことを!
君はやっぱりおかしいぞ、夢魔の私相手にそんなことを考えるんじゃないっ!」■■
「何よ!?
照れているだけなんじゃないの!?」■■
【ナイトメア】
「て、照れてなどいないっ!
落ち着かないだけだ!」■■
「それを照れているっていうんでしょ!」■■
(ああ、子供っぽい……)■■
【ナイトメア】
「そう思うなら、最初から変なことを考えるなっ!」■■
「読まないで、って言っているでしょう!?
この×××××××!!!」■■
【ナイトメア】
「×××××××!?
私は、そんなことは……っ」■■
「う……」■■
きゃんきゃん騒いでいると、ナイトメアは、又顔色を悪くし始めた。■■
【ナイトメア】
「ううう……」■■
「……うぷ」■■
「気持ち悪い……。
吐血しそうだ……」■■
「またあっ!?」■■
「もう……、あんた、いいかげんに病院行くか、無我の境地に目覚めるかしなさいよ……」■■
【ナイトメア】
「気分が悪い……」■■
「だから、医者にかかれっていうのに……」■■
【ナイトメア】
「嫌だ……。
医者は嫌いだ……」■■
「注射は痛いし、薬は苦い……」■■
「注射と薬を出さない医者にならかかってもいい……。
もちろん、手術なんてもっての他だ……」■■
「それで、完璧に治せるというのなら行ってもいい」■■
「【大】治せるわけないだろ【大】」■■
処置のしようがない。■■
本当に、医者に行ってこいと思う。
ついでに頭もみてもらうべきだ。■■
【ナイトメア】
「だろう?
世間にはヤブ医者しかいないんだ」■■
「あんたが無茶言い過ぎるのよ」■■
(どこの子供なんだ、この人はもう……)■■
「はあ……」■■
(蓑虫さんか……)■■
「…………」■■

nai5_2 【ナイトメア】
「……え?」■■
「ん。
おまじないよ」■■
【ナイトメア】
「え?
え???」■■
「おまじない」■■
(夢だもの……)■■
こんな駄目男でも。
思いやりを示したくなる程度には、気に掛けている。■■
(夢だし……いいよね?)■■
【ナイトメア】
「よ、よくない、よくないぞ……!」■■
「?」■■
「そうなの?」■■
【ナイトメア】
「そうだ、よくない……」■■
(夢なのに?)■■
「昔、お母さんがやってくれたのよ。
怖いときに効くの」■■
(…………)■■
彼女は、もういない。
だから、今はおまじないなしで怖いことに向かわなくてはならない。■■
当たり前だ。
もう子供じゃない。■■
だが、ふとしたときに思い出す。
完璧な女性、優しい時間。■■
【ナイトメア】
「……幸せだったんだな」■■
「うん。
幸せだった」■■
「そういうときもあったの」■■
何もかもがうまくいっていたとき。
少なくとも、そう思えていた。■■
私も、完璧に幸せで、たいした苦労も知らずにいた。■■
今だってそうだ。
私なんて、たいした苦労もせず……。■■
「……こういう根暗な考えを読んじゃうとイラっとこない?」■■
【ナイトメア】
「……ん?
なんのことだ?」■■
(白々しい)■■
「あんたねえ……」■■
(考えたことに反応しているでしょ)■■
【ナイトメア】
「はは……」■■
「…………」■■
(目元にキスしたくらいでうろたえるくせに)■■
子供みたいなごね方をするくせに、老いた者のように悟っている。■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「……幸せな時間の思い出は悪いものじゃない。
苦労なんて、しなくてもいいのならしないほうがいい」■■
「……え?」■■
声でなく、音がする。
それなのに、言っていることは理解できる。■■
【ナイトメア】
「……言っただろ?
私は、永遠に子供で最初から大人なんだよ」■■
「何も知らないままだし、最初から何もかも知っている」■■
【【【時間経過】】】

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