◆帽子屋屋敷・ブラッドの部屋◆
「…………」■■
【ブラッド】
「どうした?
ご機嫌斜めだな、お嬢さん」■■
ご機嫌斜めにもなろうというものだ。■■
(またソファ……)■■
(こないだもソファ。今回もソファ。
たぶん、次回もソファで、ずっとソファなんだわ)■■
ずっと。■■
自分の考えたことに赤面する。
期待しているみたいではないか。■■
ブラッドは、気分屋だ。
いつ飽きるか分からない。■■
次回があるかどうか分からないし、ずっとだなんて有り得なさそうだ。■■
それ以前に、私だって曖昧なのだ。
彼が飽きるか、私がここからいなくなるか。■■
どちらが早いか。
それだけ。■■
【ブラッド】
「また、泣きそうな気分……か?」■■
「?」■■
【ブラッド】
「最近は、涙ぐんだりしなくなっていたが……」■■
「……私に触れられるのが嫌なのか?」■■
「…………」■■
この人には、本当に呆れさせられる。■■
「……今になって、その考えに至ったの?
遅すぎるでしょう」■■
違うからいいようなものの、自分が嫌がられているかもしれないと思い至るのが遅すぎだ。■■
【ブラッド】
「なんだ、本当に嫌なのか」■■
……しかも、けろりとしたものだ。■■
「……嫌じゃない」■■
調子付かせるだけのような気もしたが、違うので否定しておく。
嫌なのに従っていると思われたら、それはそれで気分が悪い。■■
【ブラッド】
「…………」■■
「……なに」■■
「違うわよ?
あなたのせいで涙ぐんでいたわけじゃない」■■
否定したのに、ブラッドの機嫌は上向かない。
むしろ下降線をたどっていた。■■
冷たい威圧感に、息が詰まる。■■
いちいち凄まないでほしい。
こんな怖い人といるのが嫌ではない自分が信じられない。■■
(嫌がられるのが好き……とかなのかしら)■■
ソファ好きな人なので、油断はできない。
奇抜な趣味を持っていてもおかしくない。■■
【ブラッド】
「では、誰のためだ?」■■
「誰って……」■■
誰のためでもない。
自己嫌悪のようなものだと伝えたはずだ。■■
それに、今回は別に涙ぐんだりしていない。
誤解だ。■■
【ブラッド】
「元の世界に戻りたくて泣いているのか」■■
「……私に似ているという男のために」■■
(…………)■■
(えーと……)■■
「とっくに別れているわよ……?」■■
「今は、手紙で連絡をとる程度で……」■■
【ブラッド】
「手紙……?」■■
【【【演出】】】・・・ソファがなる音
ぎしっとソファのスプリングが鳴る。■■
【ブラッド】
「別れた男と、まだ続いているんだな」■■
(…………)■■
(…………)■■
(……怖い)■■
ブラッドの放つ威圧感は、すでに冷たいという域を超えている。
びりびりと、肌が震えた。■■
どうして、浮気を責められる妻のような気持ちにならなくてはならないのだろう。
こんな怖い夫は持ちたくない。■■
「つ、続いていないわよ。
別れたもの」■■
「近況報告とか、時節の挨拶程度のやりとりをしているだけ」■■
【ブラッド】
「どうして、別れたのに連絡を取り合う必要があるんだ」■■
「恩師なのよ?
急にやりとりが途絶えたら、姉だっておかしく思うわ」■■
別れても、冷たくできるような人ではなかった。
優しい人だったのだ。■■
ブラッドとは違う。■■
「私は、先生に懐いていたから……」■■
【ブラッド】
「……へえ」■■
「女は、好きな男の前では別人のようになる。
君も……、さぞや可愛い生徒を演じていたんだろうな?」■■
ブラッドの髪が首筋に当たる。■■
顔だけでなく、髪型も似ていた。
散髪が面倒なのか、ポリシーでもあるのか、中途半端な長さだ。■■
「そういう時期もあったわね。
私にも、可愛いときはあったのよ」■■
雨の日は広がってしまうとぼやいていた彼の髪が好きだった。
くせっ毛だと言って笑う、照れた顔を好きになった。■■
先生なのに、先生らしくなく、頼りないところのある人。■■
彼に可愛いと思われたいと願った時期もあったのだ。
気に入られたくて、いい子でいた。■■
……かなり、無理があった。■■
私は、可愛く振舞うことは出来ても本質はそんなタイプではない。
演じると評したブラッドにも腹がたたない。■■
(その通りだもの)■■
ブラッドといるときとは、違う。■■
ブラッドは彼とは違うのだ。
私も、ブラッドといるときは違う。■■
少し嬉しくなって微笑むと、ブラッドの威圧感はますます強まった。■■
キツイ……。■■
ひょっとして、これは殺気というやつなのだろうか。
傍にいるだけで、キツイものがあった。■■
【ブラッド】
「遠い過去のように話せるような年齢でもないだろう?
一体、いくつのときに手を出したんだ、そのイカレた教師は」■■
「君も……、そんな奴に弄ばれて納得しているなんておかしいんじゃないのか」■■
ブラッドにイカレてると言われるなんて、かなり終わっている。
苦笑するしかない。■■
「私、こんなぴらぴらした服を着ているけど、そんなに子供じゃないのよ?」■■
幼いというような年ではない。
分別のつく年齢なのだから、男性に責任を押し付けるのもおかしい。■■
【ブラッド】
「知っているさ」■■
短い返事だ。
短いが故に、意味深に響く。■■
【ブラッド】
「だが、今より若い君に……、生徒に手を出したんだ。
充分に最低な男じゃないか」■■
「その男は、教え子の君に手を出して、捨てたんだろう?」■■
同じ顔の人に言われると、奇妙な感じだ。■■
「そんなに最低なら、嫌いになれて楽だったんだけど」■■
あいにくと、彼は外道ではなかったし、別れた後もやはりいい人だった。■■
合わなかっただけだ。
私も無理をしていた。■■
【ブラッド】
「今でも好きなんだな」■■
「好きっていうより、今でも嫌いになれないっていう感じね」■■
【ブラッド】
「……どういう違いがあるのか説明してほしいところだな」■■
「違うじゃないの、全然」■■
積極的に想っているのか、そうでないのか。
まったく違う。■■
【ブラッド】
「今でも好きなんだろう?」■■
「……私の話、聞いている?」■■
求める答えを聞くまでは、同じ台詞を繰り返す気なのだろうか。
……素直に言うんじゃなかった。■■
「好きよ」■■
せめてもの抵抗。
小さく息を吸うと、迷う素振りもなく、きっぱりと告げた。■■
【ブラッド】
「……っ」■■
ブラッドが息を飲む。
喉の動きではっきりとそれが分かる。■■
「悪い人じゃないし、嫌いになる理由がない」■■
「それに私……、その人の顔も好きなの」■■
【ブラッド】
「は……。
顔……?」■■
「そう、顔」■■
目の前にあるのも、同じ顔。■■
【ブラッド】
「ふ……っ」■■
緊張が解けて気の抜けたような、それでいて嘲笑うような。
そんな曖昧な声で笑って、ブラッドは片側の唇の端を上げた。■■
ブラッドといると、彼とは違ったキツさがある。
この威圧感だけはどうにかならないものだろうか。■■
【ブラッド】
「……同じ顔をしていた男に懐いていたんだ。
私にも懐けよ」■■
「媚くらい、売ってみせろ」■■
「どうして私が、あなたに媚びなけりゃならないの」■■
世話になっているが、代価も払わされている。■■
きっと睨むと、睨み返される。■■
こんなやりとり、彼とは有り得なかった。
まったく違う。■■
【【【時間経過】】】
★※条件を満たし「女王・ブラッド」1回目発生済みの場合のみ、ここから2回目↓
◆帽子屋屋敷・薔薇園◆
【【【時間経過】】】
薔薇園に佇む。■■
ブラッドに招待されたわけではない。
許可は得ているとはいえ、勝手に入っていい場所ではないかもしれない。■■
「ビバルディ」■■
【ビバルディ】
「…………」■■
薔薇園にいたのは、屋敷の主ではなく彼と敵対しているはずの女王だった。■■
以前のやりとりを見ていたおかげで驚かずにすんだ。
彼女のほうも、一瞬目を見開いただけで、驚かない。■■
【ビバルディ】
「そうか、ブラッドはおまえにここへ入ることを許したのだな」■■
別人のように穏やかな雰囲気に戸惑う。
私の知る、ハートの女王とは違う人のようだ。■■
「勝手に入っちゃっただけよ。
ブラッドと約束でもあるのなら……」■■
二人がただならぬ関係なのは、前回で分かっている。
立ち去ろうとすると、彼女に止められた。■■
【ビバルディ】
「ブラッドは来ない。
奴は、今頃仕事をしているはず」■■
「アリス、わらわの相手をしておくれ」■■
「…………」■■
「……いいの?」■■
【ビバルディ】
「もちろん。
おまえは、ブラッドがここへ入ることを認めた者じゃ。ここにいる権利がある」■■
ビバルディは優しい。
城で会う彼女とは違って見えた。■■
穏やかに凪いでいる。
別人のように。■■
【ビバルディ】
「あやつが、誰かにここへ入らせるとは驚きだ」■■
「違うのよ。
勝手に入っただけで、ブラッドに許しを得たわけじゃないわ」■■
【ビバルディ】
「だが、奴が招いたはずじゃ。
でなければ、入ることはかなわん」■■
「そういうルールなのだ。
ここはブラッド=デュプレの領土。例外なく、領主のルールが適用される」■■
「何度かつれてきてもらっただけ。
今回入っていいなんて許可はもらってないの」■■
【ビバルディ】
「許可など必要ない。
すでに許されている」■■
「?」■■
【ビバルディ】
「その領土を支配する領主は、自分の土地にルールを作れるのだ」■■
「ルールを作るにも、またルールがあるのだが……。
……ややこしいことはよい、ともかくこの場所はブラッドが許した者しか立ち入れん」■■
「おまえはブラッド=デュプレに愛されている、アリス」■■
まるで、自分が愛していると告白するように、彼女は頬を染めた。■■
嬉しそうに、可愛く、美しく。
輝きがある。■■
ビバルディから「愛している」と言われているようだ。■■
「私がブラッドに愛されているって……?
なんで、それでビバルディが嬉しそうにするの」■■
ただならぬ関係。
それがどんな関係だか知りようがないが、彼らには独特の空気があった。■■
二人だけの、余人の介入を許さぬ空気だ。
恋人かどうかは分からないが、愛情に似たものを感じた。■■
嬉しそうに、ブラッドが私を愛しているという気持ちが分からない。■■
【ビバルディ】
「嬉しいのだ。
わらわもおまえを愛することが出来る」■■
「……は?」■■
【ビバルディ】
「あやつの愛する者は、わらわも愛せる者だ。
そのような者、今まで一人としていなかった」■■
「…………」■■
(なんだろう……、ひどく倒錯的なことを言われている気がする)■■
「え……、え~と……、私はビバルディのことを愛してはいないんだけど……」■■
好意は持っている。
しかし、愛とかいう大仰さとは別物だ。■■
【ビバルディ】
「おまえがわらわを愛しているかどうかなど、どうでもよい。
わらわがおまえを愛せるかどうかじゃ」■■
「…………」■■
「……つまり、私の意思なんかどうでもいいと」■■
【ビバルディ】
「ああ、どうでもよい。
わらわはおまえを愛せるのだから」■■
彼女は、この庭いっぱいに咲き乱れる薔薇のような色に頬を染めた。■■
美しい。
美しいものが嫌いな人間など滅多におらず、私もご他聞に漏れない。■■
あまりの美しさに、眩暈がした。■■
倒錯的だ。■■
夕暮れの薔薇園。
美しい女王様。■■
倒錯の世界だ。■■
彼女の無茶苦茶な論理も正当化させてしまうくらいに、ビバルディは美しかった。■■
【【【時間経過】】】
【ビバルディ】
「秘密の入り口があってな。
わらわは秘密の道をいろいろと知っておる」■■
「城の誰にも秘密で、こっそりと城を抜け出し、あちこちに出入りするのじゃ」■■
どうやって屋敷に入ったのかと尋ねると、ビバルディは隠しもせずに教えてくれた。
悪戯っぽく笑う彼女は、可愛く見える。■■
完璧な化粧をほどこした美女なのに、幼い仕草が似合う。
秘密を共有したような気分になった。■■
「でも、一人でいたら危険でしょう?
ここは、あなたにとって敵地のど真ん中じゃない」■■
「ブラッドと一緒のほうがいいんじゃないの?
呼んでこようか」■■
【ビバルディ】
「いらぬ」■■
「わらわは自分の身くらい自分で守れる。
わらわに守れぬようなら、ブラッドにも守れぬ」■■
「……わらわとブラッドは、同じくらいの強さなのじゃ」■■
「どっちも、大きな組織のトップだものね」■■
【ビバルディ】
「そう。
でも、今は違う」■■
彼女のうちあける、秘密が続く。■■
【ビバルディ】
「アリス、ここにいるときのわらわは、わらわではない。
女王ではなく、別の者なのだ」■■
もったいぶるように、それが大層な秘密であるかのように囁く。■■
「どこにいようと、ビバルディはビバルディじゃない。
周りにとっても、それは変わらないわ」■■
彼女が別人のつもりでも、周囲はそうは見てくれない。
エリオットや門番、あるいは屋敷の使用人が彼女をみつけたら、有無を言わさず銃を向けるだろう。■■
【ビバルディ】
「ここにいるときだけは特別なのじゃ。
すべて忘れる。
周りの音も気にならない」■■
「……危ないわよ」■■
彼女の身が心配だ。
それでも、ここにいる時間を大切にしていることが伝わってくるので強くは言えなかった。■■
「ビバルディは……、ブラッドのことが好きなの?」■■
私のことを愛している、愛せると言い、ブラッドが私を愛していると言う。
けれど、彼女はブラッドを愛しているとは言わない。■■
【ビバルディ】
「どうかな……。
ここを出ると帽子屋を殺さねばならぬことを思い出すのに、ここにいる間は愛しいと思う」■■
「ゲームのルールより、ここではブラッドが作ったルールが勝つ。
そして、わらわはいつも誘惑に負ける」■■
「ずっと独りで歩いていく。
そう決めたのに、ここでのわらわは一人でいられぬ」■■
「憎いから愛しいのか、愛しいから憎いのか」■■
「詩的ね……。
ブラッドとあなたはお似合いだと思うけど……」■■
しかし、敵同士だ。
胸が痛んだ。■■
前に見た、絵画のような美しさが胸をうつ。■■
銃弾で撃ちぬかれるようだった。
美しくて、ぴたりとはまりすぎている。■■
【ビバルディ】
「お似合い……」■■
「……そうか?」■■
なぜか、ビバルディは嫌そうだ。■■
【ビバルディ】
「そうは思えぬ」■■
「そんなことないわ。
すっごい美男美女で……!」■■
私がそこにいて申し訳なくなった。
あのときの感覚は、そんな感じだ。■■
あまりに綺麗な……、完成された絵の前に私なんかが立ってしまってすみません、と、謝りたくなる。■■
卑屈な感情だが、それほど完成されすぎていた。
その場に観客など必要ない。■■
二人は、二人だけで完結した御伽噺のようだった。■■
【ビバルディ】
「あやつが美しいものか。
わらわのほうが美しいわ」■■
(あ……、あれ???)■■
ものすごく、嫌そうだ。
どうして嫌がるのか分からない。■■
【ビバルディ】
「外で会ったならば殺しあうが、ここにいる間だけは思い出を愛しんでおる」■■
「わらわは、奴が好かぬ。
思い出として愛しんではおるが、あんな奴、嫌いじゃ」■■
難しいことを言う。■■
「え、え~と、昔付き合っていたけど、今は別れたとかそういう……?」■■
【ビバルディ】
「何を言っておる。
わらわはブラッドが気に食わん」■■
「昔も、今も」■■
「???」■■
【ビバルディ】
「ここにいる間だけは特別じゃ。
特別に、気に食わん奴にも目を瞑ってやる」■■
「外に出れば、ここでの時間はなかったこと。
おまえに対してもだ、アリス」■■
「今は愛しておる。
だが、ここから出れば、別のわらわが待っておるぞ」■■
つんと澄まして、それから俯く。
気弱な表情は見せない人なのに、悲しそうに見えた。■■
【ビバルディ】
「わらわが女王ではないのは今だけじゃ。
今だけ、わらわは昔に戻れる」■■
【【【時間経過】】】
★「女王・ブラッド」(2回目)ここまで↑
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢
【【【演出】】】……異次元に飛ぶような音
「飛んでいる……」■■
何度も繰り返した、夢の中の逢瀬。■■
いよいよ夢らしいことに、私は空を飛んでいた。
夢の中の夢なので、さっぱり現実感がない。■■
かなりのスピードだが、怖くなかった。■■
【ナイトメア】
「げほごほ、ごほ……っ」■■
「…………」■■
現実感のあることといえば、飛んでいてもナイトメアの具合が悪そうなことくらいだ。■■
「ねえ、無理を言って悪かったわ。
そろそろ、下ろしてくれて構わないわよ?」■■
宙を浮かべるナイトメアを見ていて、私も空を飛びたくなったのだ。■■
【ナイトメア】
「ぐ……。
い、いや……、平気だ……」■■
「それより、楽しいか……?」■■
「楽しいけど……」■■
【大】いつ落とされるかと、気が気じゃない。【大】■■
【ナイトメア】
「ここは、どこも同じ光景だ。
飛んでも、景色に面白みがないだろう?」■■
「そうね……。
それは、ちょっと残念だわ」■■
【大】そんなことより、いつ落とされるかと(略)。【大】■■
「……ナイトメアは、ここにずっと住んでいるの?」■■
【ナイトメア】
「ああ」■■
(何か訳でもあるのだろうか……)■■
「……一人で?」■■
【ナイトメア】
「そうだ。
だが、ここは世界の境目だ。
いろんな人間がここに来る」■■
「私は姿を現すことも現さないこともあるが……退屈しないよ」■■
「そうなんだ……。
閉じ込められているの?」■■
【ナイトメア】
「?」■■
「いや?
いつでも自由に外に出られるぞ」■■
「君がここに来るのに苦労しないように、出ることも簡単だ」■■
「…………」■■
「……じゃあ、なんで出ないの?」■■
【ナイトメア】
「面倒だから」■■
「…………」■■
(……こいつに、暗い背後関係を求めた私が馬鹿だったわ)■■
【ナイトメア】
「うう……。気分が悪い……。
ううう……」■■
「吐きそう……。
吐く……」■■
「はいはいはい、もういいから下ろして……」■■
(どうしようもない人だなあ……)■■
【ナイトメア】
「うう……。
ふぐ……っ」■■
怪しい呻きを発し続けながら、ナイトメアは前進から下降へと動きを変える。■■
よれよれと地面(?)に降り立つと、青白い顔でふらりとよろめいた。■■
【ナイトメア】
「う……っ。
かはっ」■■
【【【演出】】】・・・血を吐く音
血を吐く。
手で押さえても、指の間からたら~、と血が垂れている。■■
「また……」■■
(見慣れてきている自分が嫌だわ……)■■
吐血する光景になんて、慣れたくない。■■
「しっかりしなさいよ……」■■
背中をさすってやる。
ナイトメアが落ち着くまで、しばらくそうしていた。■■
【【【時間経過】】】
【ナイトメア】
「うう……。
もう大丈夫だ、ありがとう」■■
具合の戻ったナイトメアは、俯いていた顔を上げ、額に汗でも浮いたのか手で拭う。
その顔を見ていて、ふと思った。■■
「あなた、いつもそれをつけているわよね」■■
【ナイトメア】収録不
「……?」■■
【ナイトメア】
「それ?
何のことだ?」■■
「眼帯よ」■■
【ナイトメア】
「眼帯?」■■
「そう、どうして眼帯なんてしているの?」■■
今更だが、気に掛かってくる。■■
(こんなに体調も悪いんだし……、目に障害でもあるの?)■■
【ナイトメア】
「どうして、って……」■■
「……どうして、私なんかに興味を持つんだ?」■■
「どうしてって……」■■
それこそ、どうして、だ。■■
「気にしちゃいけない?」■■
【ナイトメア】
「いけなくはないが……。
私なんかに興味を持っても意味がない」■■
「…………」■■
「なんだか……、この世界の人はよくそういうことを言うわね。
意味がないとか……」■■
「私も根暗なほうだけど、自分を卑下しすぎるのってよくないと思うわよ」■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「目は正常だ。
だが、私は常に片目を閉じていなければならない」■■
「……え?
目が悪いわけじゃなかったんだ?」■■
【ナイトメア】
「ああ、傷を負ったりもしていない。
はずしてみるか?」■■
からかうように問われた。■■
「じゃあ、失礼して……」■■
【ナイトメア】
「え?
本当にはずすのか?」■■
「はずしていいって言ったじゃない」■■
【ナイトメア】
「言ったが、本気で……」■■
「男に二言はない」■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「はあ……」■■
「……いいぞ。
ただし、目は開けないよ」■■
「……?」■■
「怪我をしているわけじゃないんでしょう?」■■
【ナイトメア】
「それでも、駄目だ」■■
「???」■■
よく分からないが、とりあえず外していい許可は下りた。
そっと手を伸ばし、ゆっくりと眼帯をはずす。■■
はずしても、宣言した通り、ナイトメアは堅く目を閉じている。■■
「…………」■■
「どうして、片目を開けないの?」■■
ナイトメアは、整った顔立ちをしていた。
眼帯をつけていなければ、ごく普通の綺麗な青年だ。■■
……服は普通じゃないが。(だが、そんなの、この世界の全員がそうだ)■■
【ナイトメア】
「役割なんだ。
ずっと、片目を閉じて、開かない」■■
「?」■■
【ナイトメア】
「そういう数字なんだよ、私は」■■
「???」■■
(ファッションなのかしら……)■■
(この世界って、独自のファッション感覚で……対応に困る)■■
【【【時間経過】】】
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