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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『OP ■02話(遊園地2)』

【ゴーランド】
「この子は、余所者なんだよ、余所者」■■
【ボリス】
「……え?
余所者?あんたが?」■■
驚いたように、ボリスの眼が見開く。
瞳孔の形が変化して、本物の猫のような目になる。■■
じろじろと、頭の上からつま先まで視線を流される。
猫が警戒するように、きょとんとしたような顔で目だけが鋭い。■■
耳がまっすぐ立っている。
……警戒されている。■■
【ボリス】
「うっそだろ。
普通の子じゃないか」■■
【ボリス】
「また、いい加減なこと言って……」■■
【ゴーランド】
「嘘じゃない。
この子は本物の余所者だ」■■
【ゴーランド】
「……あ、すまん、この呼び方は嫌いなんだよな。
別の言い方……」■■
【ゴーランド】
「とにかく、俺には分かった」■■
【ボリス】
「あてにならない……」■■
【ゴーランド】
「分かったんだって!
間違いないぜ?」■■
【ボリス】
「まー、そういう話ではあるけど、俺には分からないし……」■■
【ボリス】
「……あんたの言うことだしなあ」■■
【ゴーランド】
「家主を信用しろよー……」■■
ゴーランドの信用度は低いようだ。
あんな騒音を音楽と言えるくらいなのだから、当然かもしれない。■■
私でも信じない。■■
【ボリス】
「…………」■■
「アリス、あんた、余所者なの?
本当に異世界から来たわけ?」■■
「うん、そう……」■■
「こんなことを言っても、まったく信用ができないでしょうけど、この国とは違うところから来たの」■■
ゴーランドが言っても信じられないが、普通、誰が言おうと信じられない。
誰かが「私、異世界から来たの」と言い出したら、どこの世界だろうと病院に行けと勧めるだろう。■■
自分が信じられないものを誰かに信じさせようというのは、かなり無茶だ。■■
【ボリス】
「あー……、信じるよ。
そういう話って前からあったし……」■■
「…………」■■
(【大】……アリなんだ【大】)■■
そういう設定がアリだということが信じられない。
信じてしまうということが信じられない。■■
「私なら、絶対に信じないわよ……」■■
【ボリス】
「それ……、自分で言っちゃ駄目だろ……」■■
「あっさり信じられちゃったら言うしかないでしょう……」■■
「ピンクの人、ひょっとして……【大】頭が悪い?【大】」■■
【ボリス】
「……いや、悪くないから。
この世界ではアリなの。そういう話」■■
「あと、【大】ピンクの人はやめろ【大】」■■
【ゴーランド】
「アリスー、どこの部屋にする?
遊園地内には宿泊できる施設も多いけど、俺の屋敷でいいよな?」■■
私とボリスがにこやかにささくれ立った会話をしていると、ゴーランドが唐突なことを言い出した。■■
【ボリス】
「あー、それなら俺もあんたの屋敷に戻ろうかな。
余所者との生活って面白そう」■■
「え?
なに?」■■
「なんで、滞在することが決定事項になっているの?」■■
いつの間にか、二人の中では決定事項化してしまっている。■■
【ゴーランド】
「珍しいお客さんだ。
せっかくだから、うちに滞在してもらいたい」■■
【ボリス】
「すごいレアだもんな。
俺、珍しいものって集めたい」■■
「猫の習性じゃないの、それ……」■■
私は珍獣でもなければ珍品でもない。■■
【ゴーランド】
「いいだろ?
いつでも好きなときに、俺の歌を聴かせてやるからさ」■■
「眠れないときなんかにいい歌があるんだ。
ぐっすり眠れるぜー」■■
「い、いらない……!
別のところ探すから!遠慮します……!」■■
「すぐに滞在先探さなきゃならないわけじゃないし、焦らず騒がず!」■■
何を言っているんだか、自分でも意味が分からない。■■
【ボリス】
「……あんたの歌なんか聴かされたら、永眠になる」■■
「アリス、そう言わず、ここに滞在しなよ。
俺が、変なことさせないからさあ」■■
【ゴーランド】
「変なことってなんだ。
歌を聴かせてやるってだけだろ」■■
【ボリス】
「あんたの歌は害にしかならないよ。
眠れないときに子守唄なんて、やーらしーの」■■
「下心みえすぎ。
これだから、おっさんってのはさあ……」■■
【ゴーランド】
「な……!?
俺は親切でだなあ……」■■
「大体、やらしいのは、てめえの服の色だろ?
おっさんおっさんって言うな!××××××猫!」■■
【ボリス】
「だっ、誰が××××××だって!?」■■
【ゴーランド】
「××××で××××××の××××猫だろ?」■■
【ボリス】
「てめえこそ、そのひげ面が××××そうで××××の×××××みたいだぜ?」■■
ぴーぴーぴー、ぴぴーぴーぴー。■■
「…………」■■
(この二人……)■■
(……仲良しだなあ)■■
飛び交う言葉は放送禁止用語の嵐なのだが、なんだかほのぼのした気分になってきてしまった。
どうでもよくなってきたという説もある。■■
空は快晴。
どこだか分からない夢の国の遊園地前、うら若き娘の前で、音楽冒涜男とピンクの猫男がぴーぴー言っている。■■
いろんな意味で、ぴーぴーぴーだ。■■
(…………)■■
(……私の頭の中って、平和だ……)■■
(…………)■■
(……もう、なんでもいいや)■■
私は、深く考えることを放棄した。
あの画期的すぎる騒音で、脳内がぐっちゃぐちゃになってしまっていたのかもしれない。■■
【ゴーランド】
「×××××××××!」■■
【ボリス】
「×××××××!」■■
かくして、私は遊園地というメルヘンな場所に滞在させてもらうことになったのであった……。■■
(…………)■■
(……と、ナレーションをつけてみたけど、やっぱり嫌だなあ)■■
(私の頭って、こういう言葉が行き交っているのかしら)■■
伏字になっても、全部意味の分かってしまう自分が嫌だ。■■
「……ねえねえ、やっぱり私、他の場所に行こうかと思う」■■
【ゴーランド】
「えっ!?
なんでだよ!?」■■
【ボリス】
「滞在しちゃえよ」■■
「いろんな面で、ここにいると耳に悪いの」■■
【ボリス】
「あー……。
あんたのせいだぜ?おっさん」■■
【ゴーランド】
「なんでだよ」■■
【ボリス】
「あんたの楽器のせいだよ。
あれはトラウマになる……」■■
「それもおおいに関係あるけど、それだけじゃなくて……」■■
ぴーとかぴぴーとか、ぴぴぴーとか聞かされていると、私の深層心理にはいつもこんな単語が漂っているのかと自己嫌悪に陥ってしまう。■■
「自己認識というものとの葛藤もありまして……」■■
言い訳じみてくる。
これは、私の夢。■■
騒音公害も、ピンクな猫も、ぴぴぴーも、全部私の深層心理だとしたら泣けてきた。■■
(ウサギ耳も出演していたし……)■■
(私の頭って、どうなっているんだろう……。
欲求不満か、何か?)■■
【ゴーランド】
「クラシック苦手なら、控えるって。
今も、休園日しか弾かないようにしているんだ」■■
【ボリス】
「休園日だけでも耐えられないよ。
もう、永遠に楽器は封印したほうがいい」■■
【ボリス】
「大体、休園日なんて言ってるけど、明確に日時があるわけじゃなし。
たまにあんたの気分で、勝手に休園期間を延長してリサイタルとか始めるだろ」■■
「リサイタル、ですって?」■■
それは聞き捨てならない。
休園のときに行うということは、聴衆はボリスや従業員ということだろうか。■■
(ここに居候したら、私もその餌食……ってこと??)■■
露骨に顔が曇っていたのだろう。
私を見て、ゴーランドが切なげな顔をする。■■
【ゴーランド】
「そんな顔をするなよ~。
たまにだが、無性に芸術的な気分になるんだ」■■
【ゴーランド】
「旋律がぱっと閃いて、自分の中から音楽が溢れて来るんだよな!
そうなるともう我慢できなくてよ……!」■■
【ゴーランド】
「……客の前で強要してるわけじゃない。
従業員相手のリサイタルくらい、たまにはいいだろ」■■
【ボリス】
「よくないっての。
ていうか旋律ってなんだよ……、そういう言葉になる時点で厚かましいにもほどがあるよ」■■
【ボリス】
「あんたのは、旋律っていうか音波だろ。
……破壊兵器並みの」■■
ボリスの意見に、諸手を挙げて賛成だ。
脳を破壊する超音波兵器でのリサイタルなど、絶対に遠慮したい。■■
【ゴーランド】
「ボリス、てめえ……っ!
おまえらがごちゃごちゃうるさいから、今は滅多に弾いてないんだぞ!」■■
【ボリス】
「滅多にどころか一切弾かなくていいって。
出来れば持ち歩くのもやめろよ、おっさん……、というよりマジで封印してほしい」■■
【ボリス】
「普段から楽器を持っているだけで、いつ弾き出すかと恐怖なんだよな……」■■
【ボリス】
「……存在そのものが脅しだぜ」■■
【ゴーランド】
「だから、普段は歌しか歌わないようにしてるだろ!」■■
【ボリス】
「歌のほうはうまいとでも思ってるわけ……?」■■
【ゴーランド】
「下手だっていうのかよ!?」■■
【ボリス】
「他になんて言うんだよ!?」■■
彼らは言い合いを始めるが、なんだか年季の入っていそうなやりとりだ。
……つまり、繰り返しても未解決な問題ということ。■■
「楽器と比べれば、幾分マシかもね……。
合わさると、コンボで最強だけど、歌だけならただの音痴ですむわ」■■
「とにかく、音楽の道は諦めたほうがいい……。
ついでに、その服装センスもどうにかしたほうがいい……」■■
「……それじゃっ、私はこれで」■■
すすすっと、後ずさる。■■
【ボリス】
「待ちなよ」■■
……後ずさったが、すぐに捕まえられた。■■
【ボリス】
「うちの大家が失礼しちゃったみたいだから、居候の俺が代わってお詫びするよ」■■
「へ?」■■
ボリスの目は、ダイナ(私の家の猫だ)とよく似た形になった。■■
(……どういう目だったっけ)■■
よく見る目の形。
アーモンド形にすぼめられ、瞳孔が小さくなる。■■
……毛糸の玉を引っかくときの目の形だ。
楽しそうに玩ぶ。■■
あれは……、毛糸の玉は獲物の代わり。■■
「っつ……!?」■■
ぞわっと悪寒がして身を離そうとするより早く、ボリスは私に顔を近づけた。■■
【【【演出】】】……あまがみする(抜けてる感じで)
op02_amu_06 かぷり。■■
「~~~~~~~~~~っ……!?」■■
【ボリス】
「お詫び」■■
「な、なにがっ!?」■■
【ボリス】
「耳が汚れちゃったろ?
消毒しているんだよ」■■
耳をかぷりと甘噛みされ、舌でなぞられる。■■
「~~~~~~~~~~」■■
ぞわぞわぞわ~~~っと、えもいわれぬ感覚が背を走った。■■
【ボリス】
「……足りない?」■■
ねとりと、耳に直接吹き込まれる。■■
【ボリス】
「俺と暮らそうよ……。
な?」■■
「なななな……」■■
【ボリス】
「ここに住んでくれたら、寂しいときは一緒に寝てあげるよ」■■
「ななななななな……」■■
空は快晴。
ここは夢の国・遊園地前のはずだ。■■
そんなメルヘンな環境で、私はピンクの猫男に耳を噛まれ、舐められ、同衾を迫られている。
素晴らしくメルヘンチックな場所なだけに、とんでもなく淫猥だ。■■
頭の中がピンクになる。
ボリスが、ゴーランドと比べまともな人だという認識は吹き飛んだ。■■
考えれば、獣耳をつけた男などにろくな奴がいるわけない。
私の頭は、不協和音に毒されて麻痺していたらしい。■■
【ボリス】
「大家の不始末は、居候が被ってやらないとね。
ちゃんと心をこめてお詫びする」■■
ボリスの、舌が。■■
ボリスが、舌を。■■
舌が……。
私の耳を……。■■
「~~~~~~~!!!!!」■■
不協和音どころじゃない。
我慢できないくらいのぞわぞわ感で、肩が持ち上がる。■■
「いらないいらない!
お詫びなんて必要ない!」■■
【ボリス】
「でも、怒っているだろ?」■■
「怒ってない!」■■
【ボリス】
「許してくれる?」■■
「許す許す!
許すから!」■■
私のほうが、許してほしい。■■
【ボリス】
「じゃあ……、ここに滞在してくれるよな?」■■
間近で、猫の目がすうっと見開く。
猫は威嚇するとき、人のように目を細めたりしない。■■
見開くのだ。
じいっと、こちらを見て、目を離さない。■■
瞳孔が小さくなり、ガラス玉のように見える。■■
「……滞在します」■■
【ボリス】
「そう。
よかった」■■
そして、気まぐれ。
一瞬で、興味が移り変わる。■■
【ボリス】
「……だってさ」■■
「よかったな、おっさん。
余所者の女の子と生活できるぜ?」■■
陽気に言うボリスが、信じられない。
しかも、私の耳から唇を離さない。■■
【ゴーランド】
「……この××××××」■■
ぼそりとゴーランドが漏らした伏字に、大きく頷きたい。■■
【ボリス】
「誰が、××××××だよ」■■
【ゴーランド】
「存在そのものが××××××なんだよ!
××××猫!」■■
「突っ立ってるだけでも、公共の場にふさわしくないぜ!
遊園地とミスマッチすぎる!」■■
【ボリス】
「あんたの遊園地ならぴったりだろ!?
破滅協奏曲よりは遥かにましだね!」■■
【ゴーランド】
「××××××!」■■
【ボリス】
「×××××!」■■
「…………」■■
「滞在するから、耳元で放送禁止用語にひっかかるようなこと叫ばないでくれないかな」■■
(ここにいると、いろんな意味で耳に害がありそう……)■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地・ゴーランドの屋敷前◆
ゴーランドの屋敷は、遊園地のオーナーの屋敷というだけのことはあって大きかった。
そして、遊園地のオーナーの屋敷というだけのことはあって派手だった。■■
(職業柄とはいえ、家まで派手である必要がどこに……)■■
(遊園地内にある意味もよく分からない……)■■
(この屋敷って、ゴーランドの趣味?
じゃあ、あの変な服装も趣味?)■■
(私、ここに住まなくちゃ駄目なの?
【大】妖しいホテルのできそこない【大】みたいなんだけど……)■■
(他の選択肢ないのかな……。
選択肢出てきて。選択肢……)■■
願いもむなしく選択肢は現れず、代わりにゴーランドと似たような服装センスの人が現れた。■■
【女性従業員】
「こんにちはー!」■■
【男性従業員】
「こんにちはー!」■■
「…………」■■
「こ、こんにちはぁ~……」■■
ゴーランドは用事があるとかで、従業員が部屋まで案内してくれるということだった。
現れた従業員らしき人達は、やたらと元気がいい。■■
【女性従業員】
「オーナーに言われて来ました!
あなたがお客様ですね!」■■
「ご案内しまーすっ!」■■
【男性従業員】
「しまーっす!」■■
「ど、ど、どど、どうも……」■■
(ど、どうしよう……。
このテンションにはついていけなさそうだ……)■■
私は本来、ローなテンションの人なのだ。
銃撃戦でもなければ(もちろん、ないほうがいいが)テンション維持は難しい。■■
従業員さん達についていけず、取り残される予感がひしひしとする。
そして、服装センスにもついていけなさそうだ……。■■
こちらは、大いに取り残されたかった。■■
【女性従業員】
「こっちでーっす!」■■
【男性従業員】
「こっち、こっち!」■■
「は、はあ……」■■
【女性従業員】
「余所見してはぐれないでくださいねー!」■■
【男性従業員】
「迷子になっちゃいますよー!」■■
私は幼児ではないので、叫ばれなくても分かる……。
なんだか、「よいこの皆ー、元気かな?」というようなノリだ。■■
のりのりな人達に、のろのろとついていく。■■
(なんなんだろう、あの蝶ちょの触覚みたいなの……)■■
(なんなんだろうって、飾りなんだろうけど……)■■
(飾りに意味を求めちゃ駄目なのか……。
そうか……)■■
今まで、自分の着ているエプロンドレスをいかがなものかと思っていた。■■
ぴらぴらしたフリルが許されるのは子供だけという認識があるので年齢的にもどうかという話だが、意外と大人受けするので楽でいい。■■
あとは、姉の趣味だ。
いい子にしていると姉さんが安心してくれるのなら、ちょっと趣味じゃないけど仕方ないや……くらいのつもりで着ていた。■■
(ごめん……っ!
心から、ごめん、姉さん……っ)■■
姉の趣味はまともだった。
正常な趣味に難癖をつけた私が愚かだった。■■
この屋敷の子に生まれなくてよかったと心底思う。
生まれていたら、もっと危険な方向に非行に走っていたかもしれない。■■
【【【時間経過】】】
遊園地・主人公の部屋
【女性従業員】
「こっこでーすっ!」■■
通された部屋は、割とまともだった。
建物の外観に比べれば、そう派手でもない。■■
もしかしたら、目が慣れてきてしまっているだけかもしれないが、それほど奇異には映らなかった。■■
【男性従業員】
「寛いでくださいねーっ!」■■
「ありがとう……ございます」■■
いい人達……なのだろうと思う。
ここに来るまでの間にも、同じ服装の人を何人も見かけた。■■
髪形まで同じ。
そして、テンション高め。■■
顔もよく見分けられず、個々として識別するのは難しそうだ。
それよりなにより、仲良くなれるか自信が持てない一番の理由が……。■■
(なんで、遊園地の従業員全員が銃を携帯しているの……!?)■■
彼らの腰にぶら下がっているもの。
それは、ここに来てから嫌というほど見慣れてきた拳銃だった。■■
【【【時間経過】】】
時間帯が何度も変わり、なんだかんだと遊園地での生活にも順応してしまった。
私は、あれから客室に滞在させてもらっている。■■
広い屋敷内にある部屋は無数に近く、おとぎ話を連想させた。
(それにしても……順応できちゃうものなのね)■■
最初は無茶苦茶な世界だと思っていて、今でもそう思っているが、慣れればこの世界はそれほど特異でもない。■■
人は、意外と普通に生活している。(意外と、だ)■■
空を飛んだりできないし、魔法も使えない。
少なくとも、妖精さんは出てきそうになかった。■■
(……安心した)■■
しかし、ここの時間変化は、間違いなく無茶苦茶だ。
昼の次は夜、その次に昼がきたり、また夜がきたり夕方になったり。■■
法則性も何もなく、ころころ変わる。
変化する速さもそのときどきなので、時間感覚が徐々に狂っていく。■■
今分かるのは、遊園地に来てから結構な時間が経過したということくらいだ。
ここの従業員達にも知り合いが増えた。■■
不本意ながら、そのテンションにも慣れた。
誰も彼も同じに見えても、全員が違う人だ。■■
親しくなれば、顔というものも見えてくる。
それまではのっぺらぼうだった顔に、個が出てくる。■■
オーナーであるゴーランド、同じ居候の身であるボリスとも親しくなってきた。
個性が見えれば愛着もわき、人を好きになれば彼らがいる場所も好きになる。■■
私は、夢の中の場所、遊園地が気に入り始めていた。■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地内◆
【ボリス】
「……えー。
知らなかったのか、アリス」■■
「知らなかったわ。
そんなの」■■
「だって、本人、ゴーランドとしか名乗らなかったんだもの」■■
【ボリス】
「ぷぷぷ……。
そりゃ、名乗れないよなあ……」■■
「……【大】メリー=ゴーランド【大】なんてさあ」■■
「ぷぷぷ……」■■
そう。
ここのオーナー、ゴーランドさんのフルネームはメリー=ゴーランドというらしいのだ。■■
メリー=ゴーランド。
冗談かと思った。■■
「ほ、ほんとなの、それ……。
ネタじゃなくって?」■■
【ボリス】
「マジ、マジ」■■
「冗談じゃなく、メリー=ゴーランドっていうんだぜ?
素でネタだよなあ」■■
「ぷぷぷぷぷ……」■■
【ボリス】
「も~、俺さ、知ったとき、あまりの衝撃に泣きそうになっちゃったよ」■■
「わ、私にも、今まさにその衝撃が……。
ぷぷぷぷぷ……」■■
【ボリス】
「こう……、クッションなり枕に顔を埋めて、ばんばん床を叩きたい気分じゃね?」■■
「た、叩きたい……!
あなたの巨大襟巻き、貸してほしい……!」■■
笑いで震える手を、ボリスの襟巻きに伸ばす。
すいと身を動かし、あっさりと避けられてしまった。■■
【ボリス】
「……や、貸さないけどね。
ぐっちゃぐちゃにされそうだし。襟巻きじゃないし」■■
「ぐちゃぐちゃにしないわけないでしょう!?
もちろん、するわよ!」■■
今ぐちゃぐちゃにせずに、いつするんだという勢いだ。■■
「いいから貸してよ!
叩きたいんだから!」■■
【ボリス】
「断固、断る」■■
「貸~~~し~~て~~~!」■■
【ボリス】
「嫌だっつの!
ぐちゃぐちゃにされると分かって誰が貸すかっ」■■
私達がかなり本気で争っていると、時の人が現れた。■■
【ゴーランド】
「……なにじゃれ合ってるんだ、おまえら」■■
「仲いいなあ……。
仲間はずれにされてる感は否めないが、微笑ましいぜ……」■■
【ボリス】
「おっさん臭いから、そういうこと言うのやめなよ……」■■
「なんか、かわいそうになってくる……」■■
かわいそうでも、からかいたい。
今知った衝撃の事実をネタにせず、心の中に留めておくなんて芸当は不可能だ。■■
からかわないという選択肢は私の中に存在しない。■■
「……メリー=ゴーランド」■■
【ゴーランド】
「……!?」■■
びくりと、ゴーランドの体が跳ねる。■■
(いい反応をしてくれるじゃないの……)■■
「……が大きいわよね、この遊園地」■■
婉曲に、からかうことにした。
結局からかうことには変わりないのだが、からかい方がいやらしい。■■
【ゴーランド】
「……あっ、ああ!?
ああ、そうだな……っ!」■■
「大きな……メリー=ゴーランド……って、楽しいわよね」■■
【ゴーランド】
「……だ、だよな……っ!」■■
「……メリー=ゴーランド……って、面白くって好きよ」■■
【ゴーランド】
「…………」■■
「……メリー=ゴーランドって……」■■
【ゴーランド】
「…………」■■
「……ボ・リ・ス」■■
【ボリス】
「……はいはい?」■■
【ゴーランド】
「……てめえ、バラしたな」■■
【ボリス】
「え、なんのこと?
俺、知らないよ(棒読み)」■■
【ゴーランド】
「白っっ々しいんだよ!」■■
私の意地の悪いからかいに、ゴーランドはかっかきているようだ。
怒りの矛先が私に向かないところが紳士というか、ずれているというか……。■■
可哀想な人だ。■■
【ボリス】
「まー、まー、落ち着きなよ?」■■
「怒ると血圧あがるぜぇ?
ちょっとやばめなお年頃だろ?」■■
【ゴーランド】
「……うるせえ」■■
【【【演出】】】・・・銃を構える音
ゴーランドは、片手でちゃきっと銃を構えた。
猟銃のような大振りのものだ。■■
「いつの間に……」■■
大きな銃がどこから出現したのか分からない。
代わりに、ゴーランドの手にあったはずのバイオリンが消えている。■■
ユリウスのように、持ち物を手品のように銃に変えたらしい。■■
(ここの世界では、手品は標準仕様なの!?)■■
えらく危険な手品だ。
遊園地のオーナーなら、こんな手品はやるべきじゃない。■■
1・2・3で、バイオリンが銃に早変わり!
……危険だ。■■
【ゴーランド】
「この子は、数少ない、俺のフルネームを知らない奴だったのに……」■■
「…………。
よくも、暴露してくれたな……」■■
【ボリス】
「お、怒ってる……?」■■
【ゴーランド】
「……怒ってないように見えんのか」■■
ゴーランドは、片手で眼鏡をくいっと押し上げる。■■
【ボリス】
「怒ってる……かな……?」■■
【ゴーランド】
「……分かってんじゃねえか」■■
「クイズにする必要もなかったか……」■■
【ボリス】
「だって、もう、クイズに出されるまでもなく、あっきらかに怒ってるだろ……」■■
【ゴーランド】
「じゃあ、もっとなぞなぞらしくしてやるよ……」■■
【【【演出】】】・・・じゃきん、と銃が鳴る音
じゃきんっと、銃が鳴った。
銃に対して、たいした知識があるわけではない私には、何をしてどうなっているのか分からない。■■
そもそも、私の夢の中で正しい銃の使用法が活きているのだろうか。■■
「……猟銃……よね?」■■
父の持っていた狩猟用散弾銃に似ているが、もっとゴツイ。■■
「……散弾銃?
じゃないわね……」■■
【ゴーランド】
「……これか?
散弾銃じゃなく、ライフルだ」■■
【ゴーランド】
「これは狙撃用ライフルだが、作りは狩猟用と大差ないぜ」■■
【ゴーランド】
「狩猟用と狙撃用のライフルには共通点が多い。
散弾銃との違いは、的にする獲物の大きさだな」■■
【ゴーランド】
「散弾銃だとタブルオーバックショット弾が定番で、鹿撃ちくらいにしか使えない」■■
【ゴーランド】
「ライフルスラグショット弾クラスなら大型動物でも狩れるが……、至近距離でないといまいち殺傷力が落ちる」■■
ゴーランドは親切に解説してくれた。■■
【ゴーランド】
「狩りでは、狩人のルールとして手負いの獣は出さないのがマナーだ。
ターゲットを手負いにしないために、一撃で必ず倒す」■■
【ゴーランド】
「使い勝手もあるだろうが、スラグショットを使うくらいの獲物を狙うなら、最初から散弾銃でなくライフルを選んだほうがいい」■■
やけに詳しい解説だ。
武器店にでも行ったような気分になる。■■
【ゴーランド】
「ライフルにも色々あるが、俺のは軽機関銃向けの弾薬を使うような殺傷力重視の型だ。
小回りはきかねえし反動も強いが、貫通力を含め、威力は群を抜いてる……」■■
【ゴーランド】
「……一撃必殺ってわけだ」■■
「……へえ」■■
(お、おかしいな……)■■
(私にこんな知識あったっけ?
夢だし、出鱈目なのかな???)■■
【ゴーランド】
「……さあ、ボリス。
おまえの好きなクイズといこうか」■■
【ゴーランド】
「俺は銃を持っている。
一撃必殺を旨とし、戦時に親しまれた懐かしの狙撃用ライフルだ」■■
【ゴーランド】
「滅多なことじゃ出さねえが、銃の腕にはそこそこに自信がある」■■
【ゴーランド】
「さて……、俺はこの銃で何をしようとしていると思う?」■■
【ボリス】
「これから楽しく狩りに行く……とかじゃないよな?」■■
【ゴーランド】
「ターゲットが猫でも、狩りというのかどうかが問題だな」■■
【ボリス】
「お、落ち着こうぜ?
おっさん……」■■
ゴーランドの眼鏡がぎらりと光った。
目が見えない。■■
ボリスはじりじりと後退する。■■
【ゴーランド】
「落ち着けると思うか……?」■■
【ゴーランド】
「男がモノを出しといて引っ込みつくか!
俺はものすご~~~く怒ってんだよ!
死ね!!!」■■
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
がうんっとすごい轟音がする。
銃声なんてものじゃない。■■
鼓膜が破けるかと思った。■■
【ボリス】
「……どっっっわ~~~!?」■■
【ボリス】
「あーーー、これだからおっさんは嫌なんだよ!
堪え性がねえ!」■■
【ボリス】
「いいモノほど出し惜しみしとくもんだろ!?」■■
【ゴーランド】
「若いのに出し渋ってどうするよ!!!」■■
【ボリス】
「年考えれば!?
あんたはもう出し渋っていい年だっつーの、おっさん!」■■
【ゴーランド】
「俺はおっさんじゃねえ!!!」■■
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
耳鳴りがやまない内に、がうんがうんっと立て続けにこられる。■■
「み、耳が……」■■
ふらつきつつも、耳をふさぎながらダッシュで逃げた。
ゴーランドは、かなりキレていて、流れ弾がこないとも限らない。■■
銃を持った人には近づかない。
平和に暮らしていても、それくらい常識だ。■■
【ボリス】
「我をなくすような年でもないだろーーー!?」■■
がんがんと、ボリスも撃ち返すが、ゴーランドの銃声を聞いた後だと頼りなく聞こえた。
威力が違う。■■
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
なんの説明も受けなくとも、音で分かる。
ボリスの銃が弱いのではなく、ゴーランドの銃が異常なのだ。■■
銃声など狩りや式典くらいでしか知らないが、こんな轟音聞いたことがない。
銃というよりも、小さな大砲だ。■■
「なっ、なんとかしてよ、ボリス……!」■■
ボリスは防戦一方……とまではいかないものの、逃げをうつ体勢で、応戦するという構えではない。
撃ち殺せとは言わないが、あの轟音をなんとかしてほしい。■■
「足止めとか出来ないの……!?」■■
【ボリス】
「冗談!
奴の銃は、M1ライフルの分類に入るんだぜ!?」■■
「M1で打ち出す鉄鋼弾の威力は強力なんてもんじゃねえ……。
かすっただけでも致命傷だ」■■
「俺のとは、モノのでかさが違う。
45口径の親戚みたいな代物じゃ、M1の前に立つ勇気は出ないね」■■
「なに言ってるんだか、訳わかんないわよ!」■■
専門的な用語を言われても、分からない。
分からないが、えらく卑猥に聞こえるのは何故だろう。■■
【ボリス】
「アレと喧嘩しようなんて無謀ってことだ。
逃げるぜ!」■■
「な、なんで、私までーーーーー!?」■■
【ボリス】
「ああなったら手がつけられねえの、あのおっさん!」■■
「……一人で逃げ回るなんて、かっこ悪いしつまんないだろ?」■■
「巻き込まないでよーーーーー!」■■
【ボリス】
「あんたがからかったんだから責任とれよ!?」■■
「あんたが教えたんでしょう!?」■■
【ボリス】
「からかったのは、あんた!」■■
「からかうって、分かっていたくせに!
ああなるって知っていたら、からかったりしなかったわよ!」■■
【ボリス】
「後悔は先にたたないもんなの!」■■
「なにかのパクリっぽい発言はよしてよね!」■■
【ゴーランド】
「うるせえっっ!!!」■■
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
がうんがうんっ!!!■■
「一番うるさいのは、あんただーーー!」■■
逃げながら、撃たれながら喧嘩をするというのは初体験だ……。■■
【【【時間経過】】】
「み、耳がきんきんする……」■■
「なんなの、あの銃……。
すごい音……」■■
「うう……。
頭が割れそう……」■■
【ボリス】
「不良品でもない限り、銃声と銃のでかさってのは、威力と比例してんだよ」■■
「あの銃は、強力ってこと……?」■■
【ボリス】
「すっごくな」■■
壁を背に物陰に隠れて、様子を伺う。
ゴーランドは、銃を手にきりきりと歩き回っている。■■
「うう……。
ホラーものの、殺人鬼みたい……」■■
【ボリス】
「まさしくそんな感じ……」■■
(こんな夢は嫌だ……)■■
(まだ、メルヘンなほうがいいかも……)■■
遊園地に滞在なんてメルヘンな夢かと思ったら、ダークファンタジーだったらしい。
猟奇色が強くなってきた。■■
【ボリス】
「……イカれた銃だろ?
癖が強すぎる」■■
「……は?」■■
(……銃?)■■
銃なんてどうでもいい。
殺人鬼化したゴーランドから逃げることに専念するべきなのに、ボリスはやたらと楽しそうだ。■■
【ボリス】
「撃つときの反動も最高にイカれてんだ。
相性悪けりゃ撃っただけで後ろにぶっ転ぶ、なんてだせえオチになる……」■■
「あれだけ大型で旧式のご立派なブツ、銃座もなしに撃てるなんて痺れるぜ」■■
ショットガンみたいな持ち方でライフルが持てるなんて……どーのこーの……。
ボリスの目は、きらきらしている。■■
猫が魚を前にしたときのように。■■
「…………」
「あんたが、【大】ガンオタ【大】(ロボットじゃないほうの)だってことはよーく分かったわ……」■■
イカれているのは銃だけではない。
この人も同じだ。■■
(……おうちに帰りたーい)■■
「ここの人は、みんな異常なのね……」■■
【ボリス】
「そう言うなって。
男の子はそういう玩具に興味があるもんなんだよ」■■
「女の子は、そんな玩具に興味がないものなのよ」■■
玩具でなく本物なら、もっと疎遠でありたい。■■
【ボリス】
「知ってて損はないぜ?
あんたは余所者だけど、この世界で生き抜くには銃の知識は必須だ」■■
「遊園地で生き抜くために、銃の知識が必須ってどうなの……」■■
そんな遊園地は嫌だ。
興味がないという私を無視して、ボリスはゴーランドの銃についての説明を続ける。■■
ここの人達は、異常な上に人の話を聞かない。■■
最悪だ。■■
【ボリス】
「おっさんご愛用のライフルは、元が、装甲を撃ち抜くために開発された狙撃銃だ」■■
「……ほとんどの防弾仕様を貫通するだけの威力がある」■■
「……つまり?」■■
【ボリス】
「普通の壁なんざ、簡単に打ち抜けるっってこと!」■■
「……ひっ!?」■■
【【【演出】】】・・・ゴーランドの銃声
がうん!!!
がうん!!!■■
隠れていた壁に、大穴があく。■■
【ゴーランド】
「……見つけたぜ」■■
ゆらりと近づいてくるゴーランド……。■■
(殺人鬼……)■■
「ほ、ホラーだわ……」■■
【ボリス】
「ああ、安心しろよ。
あのおっさん、キレると厄介だけど、暴れるだけ暴れたらけろりとしてるから」■■
「追っ払われたりしないぜ?
滞在場所は変えなくてオーケー」■■
「オーケーって……。
オーケーじゃないわよ……」■■
「私が、滞在場所を変えたいんだけど……」■■
【ボリス】
「ほらほら、なにぼさっとしてんの。
逃げなきゃ、どたまに風穴があくだけじゃすまないぜ!?」■■
「ホラーな登場人物になりたくないだろ!?」■■
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
【【【演出】】】……ゴーランドの銃声
がうん!!!
がうん!!!■■
「こ、ここにいたら、確実に耳がおかしくなる……」■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地・屋敷内◆
時間は、更に経過する。■■
無茶苦茶な時間変化に慣れ、自分なりのペースで生活できるまでになった。
なんだかんだと奇怪な事件があったものの、完全に慣れてしまったらしい。■■
【ゴーランド】
「遊園地での生活には慣れたか、アリス?」■■
前までのやりとりがなかったかのように、ゴーランドが話しかけてきた。■■
「変な場所だけど、慣れちゃった」■■
ここでの生活は悪くない。
認めてしまえば、敗北のような気もする。■■
これは夢で、現実から逃避をしているのかもしれない。
だが、悪くない。■■
悪くないのだ。■■
【ゴーランド】
「そうか。
よかった」■■
おおらかに微笑まれる。
そんなに喜ばれると、なんだかこちらも嬉しくなってしまう。■■
(騒音を撒き散らさなけりゃ、いい人なんだけどな……)■■
ここに滞在してから、たびたび騒音公害に悩まされている。
あれだけは慣れない。■■
耳が慣れてしまったら、感性が狂ってしまったということだ。
かえって大変な気がするので、慣れなくていいのかもしれない。■■
【ゴーランド】
「早く、馴染みきるといいな」■■
「これからも、ずっと滞在することになるんだ。
慣れるなら早いほうがいい」■■
(……ずっと?)■■
(すぐに夢から覚めるわよ)■■
これは夢。
でも、滞在させてもらっていることには恩義を感じる。■■
「そうね。
どうせ滞在させてもらうのなら、楽しく過ごしたいもの」■■
「……ありがとうね?」■■
【ゴーランド】
「ああ。
俺も、余所者のあんたに滞在してもらえるのは嬉しい」■■
好意的に対応すると、ゴーランドも機嫌よく応えてくれる。
聞こえはよくないが、余所者というのはそんなにいいものなのだろうか。■■
【ゴーランド】
「……そういや、歓迎会がまだだった。
とっときの曲を披露するぜ」■■
「【大】いらない【大】」■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地・主人公の部屋◆
この世界、この場所にも慣れてきた。
遊園地に住むという、特異な状況にも。■■
ゴーランドに尋ねられ、答えたことで自分の中での認識も強まる。
おかしな部分、おかしくない部分。■■
私の常識と違う部分も多いが、同じような部分もある。■■
(……慣れって怖い)■■
恐ろしいほど都合のいいことに、この世界では服の替えが必要ない。
汚れても、よれてしまっても、時間を戻したように元に戻せる。■■
汗をかいたら、お風呂に入らなくてもいつの間にか清潔になっている。(好きだから入るけど)
時間が進んでいないかのようだが、ちゃんと進んでいて……、しかし戻りもする。■■
まだまだ知らないこと、分からないことはたくさんあった。
でも、これ以上詳しくなるのが怖い気もする。■■
これは夢だ。
はまりすぎてはいけない。■■
(ここでは、時間が狂っているのね……)■■
(進んでいるにしても、正確じゃない。
とにかく、狂っている)■■
それだけ分かっていればいい。
追求しても意味がない。■■
これは一時の夢で、真剣に深く知ろうとするのは間違っている。
私の頭の中の作り事なのだ。■■
【【【演出】】】・・・ごそごそ探る音
ごそごそと、ガラス瓶……クリスタルにも見える透明な薬瓶を取り出す。
なくしたと思っても、傍にある。■■
常に忘れられない。■■
「…………」■■
ペーター=ホワイト。■■
あの馬鹿ウサギに強引に飲まされたもの。
今は中身もなく、ただの空き瓶だ。■■
きれいな作りだが、特に惹かれるようなものはない。■■
(どうして、必要だって思うのかしら……)■■
私には瓶の収集癖などないはずなのに、なぜか……手放せない。■■
(う~~~ん……)■■
(夢から覚めるためのアイテムなのかな?)■■
物語にはよくある、キーアイテムではないだろうか。
このアイテムをどうにかすればどうにかなる……。■■
(どうにかすればどうにかなる……)■■
えらく曖昧だ。■■
(どうでもいいから、早く目が覚めないかな……)■■
しばらく考えたが、どうでもよくなってくる。
不思議な小瓶、不思議な世界。■■
たいして不思議に思わず順応してしまった私。■■
「…………」■■
「変だわ……」■■
変なのは最初から分かっている。
この世界は、夢だ。■■
頭がふわふわして、体もふわふわする。
現実かと思うこともあるが、浮いているような感覚は夢特有のものだ。■■
これは夢。
長く、想像力に富んだ夢だ。■■
自分の想像力に驚くと同時に、これが夢でも納得ができない。
この世界でそれなりの時間が過ぎたが、会う人は皆私を好いてくれる。■■
好かれていると分かる好意は心地よく、だからこそ私はこれが夢だと強く実感する。
現実では、ありえない。■■
(私は、誰からも好かれるような人間じゃない)■■
それに相応しいのは、優しい姉のような人間であり可愛い妹のような人間であって、私ではない。
適度に猫を被っているが、それでも私には毒がある。■■
こんなひらひらした格好をしていても見抜く人は見抜くし、私だって騙し通せるとは思っていない。
私は、姉のように根っからの善人でもなければ、妹のように甘え上手でもなかった。■■
この世界にきて、別人に変わったということもない。
私は私。■■
皮肉びた考え方しか出来ない、斜に構えた人間だ。
根暗で見栄っぱり。■■
自分を強く見せようとする卑小な人間。
……深く考えると、落ち込む。■■
(夢だとしても、納得がいかない)■■
夢だからこそ、かもしれない。
自分の心を映すはずのものだから、こういう夢を認めたくない。■■
「…………」■■
(私は……)■■
(たくさんの人に好かれるような人間じゃないわ……)■■
そんなことは、望んでもいないはずだ。■■
(だって、私が好かれたかったのは……)■■
顔の見えないたくさんの人じゃなく、具体的な一人だ。
そして、それは叶わなかった。■■
その人に代わるものなどないはずで、誰かを代わりにしたいとも思えなかった。■■
【【【時間経過】】】
◆ナイトメアの夢の中◆
その夜、私は初めて夢をみた。
初めてというのは、もちろん生まれてから初めてとかいう意味ではない。■■
この世界に来てから初めてという意味だ。■■
「夢の中で夢をみるなんて奇妙な現象はそう起こるものじゃないものね」■■
心の中で思った言葉が、そのまま声に出る。■■
「あれ……?」■■
【???・ナイトメア】
「私に隠し事は出来ないよ、アリス。
隠そうとしても無駄なことだ」■■
「え……?」■■

op_nai
一人だった空間に、ふわりと男性が現れる。
いきなりだと感じなかったのは、空気のように場に馴染んでいたからだ。■■
その人は、あまりに夢に馴染みすぎていた。
最初からここにいた私のほうが異質に思えるほどに。■■
【ナイトメア】
「私は、ナイトメアだ。
悪夢を体現させる夢魔」■■
「名前はない。
どういうふうにでも、好きなように呼ぶといいよ」■■
この人は誰だろうと思ったら、尋ねる前に返事がかえってきた。
そんなふうに名乗られて、ナイトメア以外に呼べるだろうか。■■
トムとかジョンとかいうふうに呼べるわけがない。■■
「夢魔か……。
この変な夢なら、そういうのが出てきてもおかしくはないわね」■■
また、思ったことが口から飛び出す。
思うだけに留めることが出来ないらしい。■■
夢なのだから、もっともだ。■■
【ナイトメア】
「これが夢だと思っている?」■■
「夢だもの」■■
【ナイトメア】
「そうだね。
これは夢だ」■■
もう分かっていることを確認する。
馬鹿馬鹿しい。■■
【ナイトメア】
「そう馬鹿馬鹿しくもないさ。
これは夢だが、夢から覚めたら夢でなくなるんだ」■■
「…………。
この世界の人は誰も彼も気が狂っているんじゃないの?」■■
言っていることが支離滅裂だ。
それに、考えを読まないでほしい。■■
「夢から覚めたら、現実に決まっているでしょう」■■
【ナイトメア】
「その通り。
今は夢だけど、目が覚めたらそれは現実」■■
「君は分かっているのに、分かろうとしていない」■■
「分かっているわよ。
こんなおかしな世界が、現実じゃないことくらい」■■
【ナイトメア】
「…………。
君って、頭はいいのに馬鹿なんだね」■■
むっとする。
この男もふざけている。■■
【ナイトメア】
「頭がいいからこそ、分からないのかな」■■
「私は君が好きだから、からかったりしないよ。
君のことが好きだから、裏切ったりもしない」■■
それがとても素敵なことのように言うが、私はぞっとした。■■
【ナイトメア】
「ここでは、みんな君を好きになる」■■
「……都合のいい夢なのね」■■
そして、それが私の願望か。
そう思うと、改めてぞっとした。■■
心の底で、私は誰からも好かれたいと思っていたのか。■■
【ナイトメア】
「誰だって、嫌われるよりは好かれたいと願うさ。
どうして、それが悪いことのように思うんだい?」■■
全部が筒抜け。
口に出さずにすんだことまで、この男には聞こえてしまうらしい。■■
【ナイトメア】
「悪いね、それがナイトメアだからどうしようもない」■■
「人にとって、なによりの悪夢は自分だってことさ、アリス。
君も内側に踏み込まれるのをなにより嫌っている」■■
「…………。
私は俗物でくだらない人間だから、心を読まれるなんて堪らないのよ」■■
【ナイトメア】
「アリス。
自分がくだらない人間なんて、どうして思えるんだ?」■■
「君は好かれている。
これから、もっと好かれることになる」■■
「君と知り合えば、誰もが君を好きになり、君を愛するようになる」■■
「誰からも愛される世界ってわけ。
気持ち悪いわね」■■
気持ち悪いのは自分だ。
そんな願望を持っていたなんて恥ずかしい。■■
子供じゃない。
好意より悪意を向けられる可能性のほうが高いことくらい、理解する年齢だ。■■
【ナイトメア】
「子供じゃないから、望むんだよ。
君はもう、孤独を知っている」■■
「満たされている者には知りえない闇の色を見ただろう?」■■
「一人が寂しいから、こんな夢をみているの?
そんなに弱くないつもりだったわ」■■
「自惚れだったのね。
自分がそこまで弱いとは思わなかった」■■
これが夢なら、この男も私だ。
自問自答していることになる。■■
私は強いつもりだった。
誰にでも勝てるなんて思っていない。■■
それでも、逃げ出さないだけの強さは持ち合わせていると思っていた。
それがどうだ。■■
こんなに深い夢をみて、望んだことは「誰からも愛されたい」なんて。■■
【ナイトメア】
「そうじゃない。
そうじゃないよ、アリス」■■
ナイトメアにはすべて聞こえているらしく、即座に否定した。■■
【ナイトメア】
「君は、誰からも愛されたいわけじゃない。
誰かに愛されたいんだ」■■
「しかも、誰でもいいというわけじゃない。
自分が愛する人に愛されたいんだ」■■
「わがままな話ね」■■
そうやって条件を羅列されると、自分がひどくわがままな人間に思えてくる。
事実、私はわがままな人間だ。■■
自分のことが優先で、思いやりが少なく、常識と警戒心だけを前に押し出す。
そういう人間だ。■■
【ナイトメア】
「普通のことだよ」■■
「誰もが自分の考えを優先する。
そして、理解者を求めているんだ」■■
「そうかしら」■■
そうだとしても、それを夢に求めるなんてどうかしている。■■
【ナイトメア】
「誰からも愛されたいという人もいるけど、君はそんなに欲張りじゃない。
謙虚ではないけど、強欲でもない」■■
「私の知る人間の中では慎ましいほうさ。
何も恥じ入ることはない」■■
「恥じ入ってなんかいないわ。
自分に虫唾が走っているだけよ」■■
「私、現実主義のつもりだったのに、こんなメルヘンな夢をみるなんて……」■■
(愛に飢えた子供のような……)■■
がっくりする。
自分では大人になったつもりでいた。■■
とんだ自惚れ。
こんな夢をみるなんて、私はまだまだ子供だったのだ。■■
得られないものを自分の夢に探す、愚鈍な子。■■
【ナイトメア】
「子供じゃないと認めたから、この世界に入れてあげたんだよ。
完全な大人でもないが、子供とも違う。不完全だから入れた」■■
「この世界は、君が勝手に作り出したわけじゃない。
私がつなげてあげただけで、最初からある世界だよ」■■
「そうね、最初からある……妄想の世界よね」■■
私の願望で出来た、夢の世界だ。
何もかもが都合よくというわけにはいかないが、それすらも私らしい。■■
「夢の国……。
ハートの国っていうのは的確だわ」■■
赤く染まった妄想の国だ。■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「夢というなら夢の世界で間違いないよ。
君が望まれている世界だ」■■
「君は、自分が望まれることを望んでいた。
だから、私は君が一番望まれる世界とつないであげた」■■
「分かりやすいだろう?」■■
「ちっとも。
あなたが言うことは、ペーターみたいに的を射ないわ」■■
説明する気がある分、彼よりましだろうか。■■
【ナイトメア】
「ペーターね……」■■
「彼は、君を一番望んでいる。
だから、彼が迎えに行けたのさ」■■
「あの人、おかしいわよね。
望まれたくなんかないわ」■■
ばっさり言うと、ナイトメアはくくっと笑った。■■
【ナイトメア】
「……くくっ。
ペーター、あいつもかわいそうに」■■
「そんなに嫌ってやるものじゃない。
人を好きになったことがないから、うまいやり方なんて知らないんだよ」■■
「性格が破綻しているもの。
好かれっこない」■■
【ナイトメア】
「好かれはするさ。
好いたことがないだけで」■■
「顔はいいものね」■■
【ナイトメア】
「力もあるよ。
でも、君はそこには惹かれなかった」■■
「そんなことない。
力のある人は好きよ」■■
「権力だろうと、物理的な力だろうと……。
そういう力のある人と仲良くなれば、助けてもらえる」■■
【ナイトメア】
「それは打算だろ」■■
分かっているくせに、と、ナイトメアは続けた。■■
【ナイトメア】
「打算と好意は別のものだ。
打算的な好意はありうるとしてもね」■■
「あいにく、私は打算的なの。
だから、考えも読まれたくない」■■
「見られたくない部分がたくさんあるの。
綺麗な人間じゃないのよ」■■
だから、私は好かれない。
醜い部分を前面に出して好かれるなんて、そんな世界は有り得ない。■■
【ナイトメア】
「この世界には在り得るよ。
君は自分が汚い人間だと思っているようだけど、もっと汚い奴なんていくらでもいる」■■
「あなたは、私が聖人君子にでも見えるの?」■■
心が暴けるのなら、分かるはずだ。
私は綺麗じゃない。■■
好かれるべき人間には当てはまらない。■■
【ナイトメア】
「綺麗じゃないね。
真っ白とは程遠い」■■
ナイトメアは、じっと私を見た。
なんとなくばつが悪い。■■
「分かっているのならいいわ。
ひらひらの服を着た汚れ一つない女の子なんてものを装うのは、現実世界だけで充分よ」■■
現実でさえ、無理があるのだ。
夢でまで装いきれるとは思えない。■■
【ナイトメア】
「君は自分が好きじゃないみたいだ。
真っ白ではないけど、真っ黒でもないのに」■■
「誰もが真っ白な人間を好きになるわけじゃない。
君の灰色にくすんだ部分を愛しく思うような人間もいる」■■
「そんな人は……」■■
【ナイトメア】
「いるよ」■■
断言されると、そんな気になってくる。■■
「いたとして、その人は私以上に濁った人ね。
まともな人は、私なんか選ばないわ」■■
私にも選ぶ権利はあるから、たとえ私のことを好きだという人が現れても、そんなろくでもない人を好きになったりしない。■■
(好いた人に好かれるなんて難しいのよ。
私みたいな奴には)■■
【ナイトメア】
「私なんかというような言い方、よしたほうがいい。
自分を、水準より下の人間だと思っている?」■■
「…………。
私は、コンプレックスの塊でもなければ、心に傷を負ったかわいそうな女の子でもないわ」■■
「自分を下等な人間だと思ったことはないの。
私は私で優秀な面があることも、私よりもっと低レベルな人間がいることも知っている」■■
家は裕福で恵まれている。
教育も受け、家庭環境も最高。■■
優しい姉と可愛く明るい妹がいる。
父は仕事に忙しいが、虐待するような親より何倍もいい。■■
【ナイトメア】
「不幸せでないことが幸せとは限らないよ」■■
ナイトメアは私の目を覗き込んだ。
見透かすような視線が不快だ。■■
【ナイトメア】
「自分が嫌いなんだね、アリス。
だけど、この世界ではそんな君を好きになる人が現れる」■■
「……人の考えを読まないでと言ったでしょう」■■
「あなたの話によると、そりゃあもう、うじゃうじゃ現れそうね。
ご都合主義の夢だから」■■
「求婚者の行列ができたらどうすればいいのかしら」■■
どうすれば、だって。
決まっている。■■
追い返す。■■
求婚者の行列ができる。
私を望み、私でないと駄目だという人が列をなす。■■
そんなことになったら、頭を掻き毟りたくなるだろう。■■
こんな妄想を抱いているのだと目の前に突きつけられたら、壊れてしまいそうだ。■■
【ナイトメア】
「安心してよ、アリス。
この世界の人間が皆、君を見た瞬間から好きになるわけじゃない」■■
「誰からも好かれるなんて、君の思うとおり、有り得ないことだ」■■
「この世界でも、全員が君を愛したりはしない。
最初は君を嫌うものだっているかもしれない」■■
「まったく意思の疎通がはかれないほど、気の合わない人間も中にはいるはずさ。
通り過ぎていくだけの人間も、同じくらいにいるだろう」■■
続いた言葉は、ちっとも安心できるようなものじゃなかった。■■
【ナイトメア】
「だけど、ほとんどの人間は、知り合えば知り合うほどに君を好きになっていく」■■
「話して触れ合って、何もしなくても傍にいるだけで好意が深まる」■■
「どんどんと好きになっていくんだ。
何故なら、彼らも君を望んでいたから」■■
「…………」■■
「……私は麻薬か何かなの」■■
「あなたも、やばい薬をやっていそうよね。
狂っているわ」■■
(……顔色悪い)■■
揶揄だったが、実際にこの人は血色が悪い。
肌艶はそれほど悪くないが、唇の色など死人のようだ。■■
私が言ったようなやばい薬ではなく、普通の薬が必要に見える。■■
【ナイトメア】
「そうかもね」■■
嫌味も通じない。■■
【ナイトメア】
「……嫌われようとしても無駄さ。
知り合うほどに、君を好きになる」■■
「君を好きになるんだ。
他の誰でもなく、君をね」■■
ナイトメアと名乗る男は、囁いた。■■
【ナイトメア】
「お姉さんでも妹でもない、君だけを好きになる」■■
甘ったるい砂糖水でも流し込まれたかのようだ。
べたつく。■■
「……あんたは悪魔だわ」■■
心を読んで、私の触れられたくない部分に触れてくる。
話して触れ合って、何もしなくても傍にいるだけで好意が深まる?■■
私は触れ合いたくなどない。■■
【ナイトメア】
「私はナイトメアだよ、アリス。
悪魔じゃない」■■
「悪魔なんかより、よほど怖いものさ」■■
「言っただろう、なににも勝る悪夢は自分なんだ。
悪魔は人を地獄に落とすけど、夢魔は人を夢に落とす」■■
「夢は覚めるものよ。
地獄ほど怖くないわ」■■
眠気を誘う、日曜日の礼拝で散々聞かされた。
地獄ほど怖いものはないと。■■
私は熱心な教徒ではないものの、教会へは通っている。
通わされているというのが正しいか。■■
【ナイトメア】
「君は賢いけど、見落としている。
地獄は果てしない。夢は果てがある」■■
「だから恐ろしいんだよ、夢は。
自分というものには果てがある」■■
「その内、君にも分かるだろう」■■
ナイトメアは、真っ暗な世界の先を指した。■■
【ナイトメア】
「夢の先には何があると思う?
君のよく知るものさ」■■
「夢の先……?」■■
愚かな問いかけだ。
私は、その答えを知っている。■■
そのつもりで、この世界を楽しんでいるのだ。■■
「夢の先には、何もないわ。
終わるだけよ」■■
「覚めたら、何も残らない」■■
どんなに夢の中で好かれても、覚めたら終わり。
何も持って帰れはしない。■■
【ナイトメア】
「よく出来ました。
夢の先には何もない」■■
「……夢から覚めたら現実だ」■■
【【【演出】】】・・・指を鳴らす音
ナイトメアは、ぱちんと指を鳴らした。■■
【【【時間経過】】】
遊園地・主人公の部屋
ぱちんと、目が覚める。
起きた途端に、それまで明確だった夢の輪郭がぼやける。■■
まるで、本物の夢のように。■■
だが、今も夢なのだ。
ここは私の部屋ではない。■■
ペーター=ホワイトというウサギ男に引き込まれた、不思議な世界のままだ。■■
変な夢はまだ継続中。
つまり、私は変な夢の中で更に夢を見たことになる。■■
(だめだ……)■■
(この夢、なかなか覚めない気がする……)■■
頭がぼんやりする。
ぼんやりした中でも、しっかりと分かる。■■
【ナイトメア】
「夢だよ」■■
「……夢」■■
【ナイトメア】
「これは、夢だ」■■
そう、これは夢だ。
この声は、ナイトメアと名乗った、夢の中の夢の声。■■
(……ややこしい)■■
(……とにかく夢なのよね)■■
夢だろうと、夢の中の夢だろうと、夢であることに変わりない。
夢の中の夢は、やはり夢だ。■■
【【【時間経過】】】
【【【演出】】】・・・扉の開く音
【【【演出】】】・・・扉の閉まる音
身支度をしていると、従業員が入ってきた。■■
【女性従業員】
「失礼しまーす!」■■
【男性従業員】
「失礼しますー!」■■
「ど、どうぞ……」■■
(昼でも夕方でも夜でも、常に元気だな。
ここの従業員さん達は……)■■
(そして、常に銃を携帯……)■■
(標準装備なのか……)■■
【女性従業員】
「お部屋を掃除させていただいても構いませんか?」■■
「え?
自分でやるわよ。掃除は得意だもの」■■
【男性従業員】
「そういうわけにはいきませんよ!」■■
【女性従業員】
「そうですよ!
私達がやります!」■■
【男性従業員】
「僕達は掃除が大好きなんです!」■■
【女性従業員】
「私もです!
お掃除大好き!」■■
【男性従業員】
「楽しいですよね、掃除って!」■■
【女性従業員】
「さあ、楽しくお掃除しましょう!
ここが終わったら、園内の掃除です!」■■
(げ、元気だ……)■■
こちらまで、ハイテンションにならなくてはいけない気がしてくる。■■
「ね、寝起きから、厳しい……」■■
「分かった……。
掃除は任せるから……」■■
【女性従業員】
「……あら?
今起床されたんですか?眠そうな顔ですよ?」■■
「う……うん、そうなの。
眠るなら夜じゃないと落ち着かなくて……」■■
「あなた達みたいに、どの時間帯でも寝られるってすごいわよね」■■
この世界では時間帯がころころ変わる。
ここの使用人達も、昼夜関係なく働いているらしい。■■
【男性従業員】
「慣れですよ。
僕達は慣れているだけです!」■■
【女性従業員】
「お客様も、この世界に慣れれば時間帯など気にならなくなります!」■■
【男性従業員】
「慣れちゃえば時間なんて関係なくなりますよ!」■■
「それはそれで、ちょっと……」■■
「でも、あなた達が働いている間に寝ていたりして申し訳ないわね……」■■
【女性従業員】
「あら、気にしないでください!
私達も好きな時間に睡眠をとっていますから」■■
【男性従業員】
「僕達は、交代して眠っているんです。
活動時間にずれがあるだけで、お互い様ですよ!」■■
【男性従業員】
「それに、僕達は役なしのカードなんで、気を遣っていただかなくても……」■■
従業員の人達は、よくそういう言葉を使う。
最初は身分を卑下しているのかとも思ったが、そうではないらしい。■■
「私は居候なんだから、気を遣って当然でしょう」■■
【女性従業員】
「そんな、そんな……!
お客様なんですから、気を使ったりないでください!」■■
【男性従業員】
「そうですよ!
お客様は神様です!」■■
「なんか、それ、違う……」■■
これまでの態度からして、彼らが私に悪い感情を持っていないことは分かる。
彼らは従業員で私は客。■■
でも、好き嫌いくらいなら察することができた。
客に察せられてしまうあたり、彼らは熟練した従業員とは言い難い。■■
だが、好かれているとなると悪いふうには思えなかった。
好意を利用して、構ってもらっている。■■
ここしばらく、居候とはいえやることもないので、彼らの仕事の手伝いをさせてもらったりして過ごしていたのだ。
私は暇をつぶさせてもらい、しかも何もしない居候ではないという免罪符までもらった形だが、これはあまりよくないことだと知っている。■■
彼らの仕事の邪魔にはなっていないと思うし、手伝えたとも思うが、それはあくまで彼らの仕事だ。
人の仕事をとってはいけない。■■
自分の家に来る通いの家政婦さんへの対応でも学んでいる。■■
「仕事の邪魔ばかりしちゃってごめんね」■■
【女性従業員】
「とんでもないです!」■■
【男性従業員】
「そうです、そうですっ。
とても助かりました!」■■
「でも、申し訳なくて……!」■■
そういう返事をしてくれることを期待して言った。
こずるいが、従業員達の返事に安心する。■■
(邪魔……ではなくても、気を遣わせちゃうわよね)■■
彼らにとって、結局私は客。
仕事を手伝われても対応に困る部分が多いはずだ。■■
この部屋だって客室。
客に掃除されると、彼らの立場がない。■■
ほどほどにしておこうにも、そうなると、私のすることがなくなる。
かといって、日がなだらだらと過ごしたくもない。■■
屋敷内で……、彼らのいうところの「役なしのカード」でない相手に時間つぶしに付き合ってもらうのもいいが……。■■
「今日は……、お客さんらしくあなた達に掃除してもらっている間に出掛けようかしら」■■
【男性従業員】
「お出かけ……ですか?」■■
【女性従業員】
「……いいかもしれませんね!
遊園地にこもりきりで退屈されていらっしゃるでしょうし……!」■■
「いくら、遊ぶ場所だからって、ずっといたら飽きちゃいますよね!」■■
【男性従業員】
「でも、お客様はまだ外をあまりよくご存知でない……」■■
【女性従業員】
「ああ、そうすると危険かも……!」■■
「大丈夫よ?
私、箱入りってわけでもないし」■■
(ちょっと外出するだけで心配されるなんて、深窓のご令嬢にでもなった気分……)■■
もちろん、気分だけだ。
私は、ご令嬢というような女ではない。■■
【女性従業員】
「…………」■■
【男性従業員】
「…………」■■
「お出かけなら……、オーナーに相談してみてください!」■■
「ゴーランドに?」■■
あまり頼りにならなさそうだ。
いい人なんだが……、相談してどうということは期待できなさそう。■■
【女性従業員】
「それがいいです!
お出かけになるのなら、この国について詳しく知ってからのほうが安心です!」■■
「それはそうなんでしょうけど……」■■
【男性従業員】
「そうそう、ご相談なさるべきですよ!
何も知らずに外へ出るのは危険です!!!」■■
さあさあと、背中を押される。
彼らにとっては、名案だったらしい。■■
勢いに負ける。■■
(なんで、こんなに元気なの……)■■
(精気を吸い取られていくような気が……)■■
【【【時間経過】】】
遊園地・屋敷内の一室
【ゴーランド】
「出かけるって?」■■
「そうか……」■■
「止める理由はないが、心配だな……」■■
予想通り、ゴーランドは私の外出を案じてくれているようだった。■■
「心配してくれるの?」■■
居候の身だ。
案じてもらえるのは素直に嬉しい。■■
【ゴーランド】
「おまえさんの住んでいた世界には詳しくないが、ここはそこよりもちょいと危険な国だ」■■
「でしょうね……」■■
遊園地の従業員全員が銃を携帯しているくらいだ。
安全な世界なはずがない。■■
【ゴーランド】
「……余所者だから心配はいらないだろうがな」■■
「?
どういう意味???」■■
【ゴーランド】
「余所者ってのはそういう存在らしい」■■
「この世界の者なら誰もが好感を持ち、親しくなりたいと思う。
余所者とはそういうもの……らしい」■■
「そ、そうなの……」■■
夢でナイトメアが言っていたことを思い出す。
ここでは、そうらしい。■■
大体の人間が私を気に入って、好きになってくれる。
都合がいい夢だと思ったが、面倒かもしれない。■■
まさか、誰も彼もがペーターのようにはなるまいが、好意より無関心のほうが有難いこともある。■■
【ゴーランド】
「俺もあまり詳しくないから断定は出来ないが、そういう話だ」■■
「今まで会った余所者というのも、そんな好感の持てる人物ばかりだったの?」■■
【ゴーランド】
「そりゃ……、どうかな」■■
「え……?」■■
【ゴーランド】
「余所者についての知識はある。
だが、非常に珍しいんだ」■■
「え???
でも、会ったことはあるんでしょう?」■■
【ゴーランド】
「…………」■■
「……ないの?」■■
「一人も???」■■
【ゴーランド】
「……ああ、余所者ってのには一人も会ったことがない」■■
「口ぶりから、まれにしか会えないんだろうなとは思ったけど……」■■
……ゼロか。
なるほど、珍しく思って居候させてくれるはずだ。■■
「そうなんだ……。
余所者余所者っていうから、もっとたくさんいるのかと思っていた」■■
【ゴーランド】
「そんなにたくさんいるのなら、もっと気を遣った呼び方になるだろ」■■
「……たくさんいなくても、そういう呼び方はしてほしくないわ」■■
余所者という言い方は、呼ばれて気持ちのいいものではない。■■
【ゴーランド】
「旅行者とか、そういうふうな?」■■
「そういう呼び方のほうがまだいいわ」■■
どちらにせよ部外者扱いだが、まだ歓迎されている気がする。■■
【ゴーランド】
「呼び方がなんであれ、余所者というのは好かれる存在らしいぜ?」■■
「どういう理由からか、この世界の者にとっては好意を持たずにいられない存在……。
大層な話だが、悪くないだろ?」■■
「余所者が好かれるというよりは、この国の人間に好かれやすい者が余所者としてやってくるらしい」■■
「らしい、らしいって……」■■
「なんだか、ものすご~くいい加減な知識よね……」■■
【ゴーランド】
「実際に会うのは初めてだ。
知識にあっても、どこまで本当のことかは知らない」■■
「いい加減っちゃ、そうだよな~……」■■
「……珍しいあんたに会えたのは運がいいぜ。
俺は、ついてるってことだ」■■
「……人をラッキーアイテムか何かだと思っていない?」■■
白い猫を見ると幸せになれるとか、青い鳥とか、そういうものと同じ括りに入れられている気がする。
もっと酷いものかもしれない。■■
今日はピンクのキーホルダーを持ち歩くと幸運があるでしょう……といった類の。■■
【ゴーランド】
「まあまあ……。
珍しいものに会ったら幸運だって思うのはおかしいことじゃないだろ?」■■
「悪い意味にとるなよ~?」■■
「……悪い意味にしかとれないんだけど」■■
「まあ……、私って誰にでも好かれるような人間じゃないし、それくらいのほうが分かりやすくていいんだけどね」■■
それは、ナイトメアにも疑問を投げかけたことだ。
私は、誰からも好かれるようなタイプの人間じゃない。■■
意味なく好かれまくったら気持ち悪い。
「珍しいかどうかはともかく、図太いことは確かだわ。
見ず知らずだった人の住処に滞在させてもらうくらいだもの」■■
私も図々しいが、受け入れるほうも大概だ。
そう考えると、気が楽になる。■■
ここでの生活は悪くない。■■
従業員達は親切だし(全員が銃を携帯しているけど)、ボリスも優しいし(頭おかしいけど)、ゴーランドもなんだかんだ言って良くしてくれる。(音楽聞かせるのだけはやめてほしいけど)■■
【ゴーランド】
「珍しいこともあるが、あんたはボリスなんかよりよっぽどいい居候だ。
これからも、好きなだけ滞在してくれて構わないぜ」■■
まだそんなに長い時間を過ごしたわけではないが、私の生活スタイルや性格はゴーランドのお気に召したらしい。
……なんだか素直に喜べないが。■■
「追い払われたら滞在場所がなくなるし、有難いわ。
私も、ここでの生活は気楽だし……」■■
(夢でも、どうせなら居心地よく過ごしたいもの)■■
【ゴーランド】
「外に出るなら、この国の基本知識くらい教えてといてやるよ」■■
「いくら余所者が好かれやすい性質を持っているらしいっていっても、本当にそうなのかはよく分からない」■■
「……知識不足で危険なめにあったら不幸だからな」■■
「助かるわ」■■
(……いい人なのよね)■■
(…………)■■
(名前と音楽センスはおかしいけど……)■■
ゴーランドは、説明を始めた。■■
【ゴーランド】
「この国は、三勢力に分かれて領土争いをしている。
決着はなかなかつかないし、これからも当分解決の見込みがない」■■
「解決のめどもたたない不毛なゲームだ」■■
「ゲームってのは強制じゃつまらないとは思うが……」■■
「あんたも、この世界に来たからにはなんらかのゲームに参加しなくちゃならない。
それがルールだ」■■
この世界は、ゲーム仕様で成り立っているらしい。
戦いが繰り広げられる世界。■■
小説なんかでもよくある設定だ。■■
「三つ巴状態ってやつ。
そうなっちゃうと、進展しなくなるわよね」■■
【ゴーランド】
「お。
よく知っているじゃないか」■■
「歴史ものの小説が好きなの」■■
【ゴーランド】
「女の子にしちゃ珍しい趣味だ。
やっぱり余所者だと、色々と違うんだな」■■
「私の世界でも特殊な好みじゃないかしら。
同じ読書家でも、姉なんかはまったく違うジャンルを好んでいたわ」■■
「歴史の本は好きよ。
空想の世界よりも、現実に起こったことが好きなの」■■
……よく言ったものだ。
今現在の状況を見る限り、自分に対する認識を改めるべきに違いない。■■
現実とは程遠い夢の空間にいる。■■
「三つ巴っていうのは……」■■
どうにか、現実的な話にもっていきたいが、それでこの夢が覚めるわけではない。■■
「牽制し合って、動けなくなるのよね」■■
読んだ本の知識を思い出す。
独裁や二手に分かれた状態というのは、革命や戦争で壊れやすい。■■
しかし、三つ巴になってしまうと動きがとれなくなるものだ。
あれはどこの国の歴史だったか……。■■
【ゴーランド】
「そういうことだ。
同じくらいの勢力で、領土を奪ったり奪われたり……、三つに分かれると睨み合いが続きやすくなる」■■
「だが、そういうのは全部、余所者であるあんたには関係のない争いだ。
巻き込まれることもないだろ」■■
「……?」■■
「ゲームに参加しろとか言っていなかった?」■■
参加しろとかいうから、壮大なスペクタルロマンもどきの夢なのかと思った。
ヒロイックファンタジーとか、分類はどうでもいいが、そういう括りのものだ。■■
私が戦力になるとも思えないが、そこは夢、都合でどうとでもなる。■■
【ゴーランド】
「すぐに殺されてしまうのがオチだろ。
この争いに参加しようなんていう気は起こさないことだな」■■
ゴーランドは呆れたように言った。
変なところがリアルなこの夢では、夢にありがちな超人的な能力などは身についていないらしい。■■
私は変わらず平凡なままだ。■■
【ゴーランド】
「勢力争いをしているのは三勢力であって、余所者のあんたはどこにも属していない」■■
「あんたのやるゲームは、勢力争いとは無関係だ。
元の世界へ帰るか否か。そういうゲームになるだろう」■■
「……なんだ。
つまらないゲームね」■■
【ゴーランド】
「つまらないって?
切実じゃないか」■■
「だって、そんなの、最後には帰れるに決まっているもの」■■
最後は、夢から覚める。
結末が分かっている脱出劇など、いまいち気合が入らない。■■
「今だって、帰れるならすぐにでも帰りたいわ」■■
【ゴーランド】
「……そう思っているのなら、ゲームは簡単に終わるだろうな」■■
「ゲームの結末はまだまだ決まっていないぜ。
今の状態では、あんたが不利かもな」■■
「……私が帰りたいと思っていないみたいなことを言わないでよ。
こんなわけの分からない世界から、早く帰りたいのに」■■
【ゴーランド】
「そうか?」■■
思わせぶりに言われて、むっとする。
問い質す間もなく、ゴーランドは説明の続きに入った。■■
地図まで出されたので、従うしかない。
臍を曲げられ、説明をやめられても困る。■■
【ゴーランド】
「まず、ここ。
遊園地だ」■■
「……教えてくれなくても分かるわ」■■
「分かるけど……、なに???
この遊園地がどうかしたの?」■■
【ゴーランド】
「ここも、三勢力の内の一つなんだ」■■
「……ここが!?」■■
「ここ……、遊園地よ!?」■■
ゴーランド自身も言っていたが、ここは遊園地だ。■■
遊園地。
たとえ従業員が全員腰から銃をぶらさげていようとも、遊園地。■■
【ゴーランド】
「そう、遊園地だ」■■
「…………」■■
本気で言っているらしい。■■
「どういった勢力争いをしているのよ、一体……。
遊園地が勢力争いする話なんて、聞いたことがないわよ」■■
【ゴーランド】
「あまり聞かない話……かな」■■
「あんまりどころか、全然」■■
私の知る限り、どこの国の歴史でも、娯楽施設……しかも遊園地が国を争うなんて聞いたことがない。■■
【ゴーランド】
「土地を争っているから、無縁じゃない。
遊園地というのは土地が必要なもんだ」■■
「……そういう問題なの?」■■
土地は必要かもしれないが、遊園地が他勢力に対抗できるとは思えない。■■
「他の勢力も、娯楽関係とか?」■■
遊園地が勢力争いをするくらいだ。
他の二勢力も、冗談のような場所かもしれない。■■
他の遊園地と勢力争いをしているとかだったら、なんだかほのぼのしていて緊張感もない。
国の争いというより、お客争奪戦のようだ。■■
【ゴーランド】
「いや……、他の二勢力は、ハートの城とマフィアの連中だ」■■
「お城とマフィア……」■■
お城は国家権力。
マフィアも、まだ分かる。■■
光と影。
時の権力者とならず者が勢力図を描くのは、歴史でもよくある話だ。■■
しかし、そんな中に遊園地……。■■
「お城やマフィアと向こうを張るような遊園地なんてないでしょう」■■
「なんの勢力だか、わけが分からない……。
遊園地なんて、そんな争いと無縁なはずなのに」■■
【ゴーランド】
「従業員達は、みんな銃を携帯しているだろ?
戦闘能力がないわけじゃない」■■
「……子供は遊びに来なさそうよね」■■
「…………。
……来るのが信じられない」■■
滞在させてもらって結構になるが、お客さんは多い。
家族連れ、子供の姿もよく見かける。■■
従業員がみんな武装している遊園地に連れてくるなんて、ここの世界の親は何を考えているのだろう。■■
【ゴーランド】
「スリルがあって、面白いだろ?
ジェットコースターも顔負けのスリルが味わえるぜ」■■
「私は面白くない……。
仮想じゃない本物の危機感を味あわせてくれるなんて、そんな遊園地は怖くて嫌だ……」■■
【ゴーランド】
「ははっ。俺だって有力者だぜ。
園内は意外と治安がいいんだ」■■
「意外とってあたりが……」■■
【ゴーランド】
「ははは……」■■
話を逸らそうと考えたのか、ゴーランドは地図を指で叩いた。■■
【ゴーランド】
「場所は変わって……」■■
「……ここが、ハートの城」■■
「ハートの女王が治め、ペーター=ホワイトが宰相を務める領土で……」■■
「……なんですって?」■■
ハートの城。
なんてメルヘンな……とうんざりする前に、更なる引っ掛かりがあった。■■
「……ペーターが、何?」■■
【ゴーランド】
「ペーター=ホワイトは、この城で宰相を務めている」■■
冗談を言うような口調ではない。■■
【ゴーランド】
「…………。
知らなかったのか?」■■
「宰相……。
……ペーターが宰相!?」■■
「う、嘘でしょう……?」■■
【ゴーランド】
「本当のことだぜ。
敵としては、なかなか手ごわい奴だ」■■
ゴーランドは、記憶を探っているらしい。
私もつられそうになる。■■
(あの変質者ウサギが宰相……)■■
「あんなのが宰相で……よくもっているわよね、そのお城……」■■
【ゴーランド】
「……?
俺の知る限り、ペーター=ホワイトは優秀な男だ」■■
「狡猾で、隙が少ない。
陰湿という意味では、残忍性も、この城を統治する女王の上をいくだろう」■■
「……誰のことを話している?」■■
【ゴーランド】
「ペーター=ホワイトだろ?」■■
「なんだか、別の人のことみたい」■■
【ゴーランド】
「同姓同名なんていないぜ。
いても、殺される前に改名しているはずだ」■■
「名前が被っていたら殺すような人なの……」■■
【ゴーランド】
「奴は、簡単に人を殺す。
冷血な奴だ」■■
「ふーん……」■■
はて、私の知るペーター=ホワイトという男はそんな人物だっただろうか。■■
そんなに長く一緒にいたわけではない。
しかし、この世界に来てしばらく経った今でも忘れようがないほどインパクトの強い人だった。■■
狡猾。隙が少ない。
陰湿、残忍。■■
別の意味では犯罪者のような男だったが、そういった言葉とは結びつかない。■■
【ゴーランド】
「……ハートの城は、三勢力の中でもっとも分かりやすい権力を持っている」■■
互いに認識の違いはあるらしいが、ゴーランドは話を続けた。■■
「城だものね」
【ゴーランド】■■
「ああ、形態によるところが大きい。
……統治者が無茶苦茶でもな」■■
「税金の徴収も堂々と行えるし、多少の荒事は公然と行える。
民衆は権力者に弱い」■■
「分かりやすく力を誇示すればなんとかなるものだっつう見本だな」■■
(でも、そういう権力者には治められたくないなあ……)■■
ゴーランドは、写真を出した。■■
【ゴーランド】
「これが、ハートの女王・ビバルディだ」■■
「先刻言っていた、ペーター=ホワイトの上司だな」■■
「…………」■■
「きれいな人……。
ものすごい美人じゃない」■■
ペーターの上司にあたり、あの男を宰相に据えるような女王様だ。
どんな無茶な人なのかと思ったが、拍子抜けする。■■
写真を見る限り、女王様らしい女王様。
気の強そうな美女だった。■■
【ゴーランド】
「外見は……な」■■
「この姐さんは怖いぜ~~~……」■■
「凶暴かつ残忍。毒のような女ってやつだ。
服の色まで毒々しい」■■
「目にも鮮やかな赤ね……。
毒か……」■■
【ゴーランド】
「危険だから気をつけろよ」■■
「……苦手なの?」■■
ゴーランドの口調はえらく苦々しい。■■
【ゴーランド】
「……長年の敵だからな」■■
「傲慢で、気分次第に敵だろうと部下だろうと処刑しまくる女だ」■■
「そ、そうなの?
暴君ね」■■
「外見からして、たしかに善政をしくような統治者には見えないけど……」■■
「でも、美人だし……」■■
……本当に脈略がない。
だが、夢だと思うと私も大概いいかげんだ。■■
「……暴君な女王様。
似合いそう……」■■
「会ってみたいかも……」■■
夢ならではの気軽さだ。
こんな美女なら会ってみたい。■■
【ゴーランド】
「口癖は、首を刎ねろ……だぜ?
会いたいか?」■■
「…………」■■
「やっぱり、よしておこうかな……」■■
【ゴーランド】
「この女に関しちゃ、なるべく近づかないほうが無難だろ……」■■
ゴーランドは指を滑らせ、地図の上を移動する。■■
【ゴーランド】
「……これは、帽子屋の屋敷。
この近辺は、ブラッド=デュプレという男の領土だ」■■
帽子屋。
どちらかというと、差別的な意味合いの言葉だ。■■
スラングに近く、気が狂っているとか頭がおかしいとか、そういう意味がある。
呼び名としては敬遠されるものだ。■■
地位が高いはずなのに、そんな名前を受け入れる人というのも珍しい。■■
「変わった人なんでしょうね」■■
【ゴーランド】
「相当おかしい」■■
否定もされない。■■
「その人って、この国の有力者なんでしょう?」■■
【ゴーランド】
「有力者だが……、敵ってことを抜かしてもむかつく男だ」■■
ゴーランドの声や表情には憎しみがこもっている。■■
「……嫌いなの?」■■
【ゴーランド】
「奴だけは……、俺が自分の手で殺してやりたい」■■
「そんなに嫌な人なんだ……」■■
ゴーランドは、どちらかというと温厚なほうだと思う。
言葉遣いなんかは荒いが、いい人だ。(音楽センスは酷いが)■■
(そのゴーランドがそこまで言うなんて……)■■
【ゴーランド】
「……嫌な奴だが、間違いなく有力者」■■
「帽子屋の屋敷は見た目は私有地だが、腕利きの門番を立て、作りは要塞のようになっている」■■
「屋敷というには広大すぎない?
この土地が全部、個人の持ち物なの???」■■
【ゴーランド】
「屋敷だけでなく、周囲の土地もすべて奴の領土だ」■■
「城だ屋敷だと名目をどう付けているにしろ、有力者の一人の本拠。
領土を三分割して睨み合っている中の一勢力だけあって所有物も多い」■■
「……奴の写真もあるぞ」■■
ゴーランドは写真を出した。■■
【ゴーランド】
「こいつが、ここを仕切っている男……」■■
「ブラッド=デュプレ。
通称、帽子屋だ」■■
「……!?!」■■
写真を見せられ、なんの嫌がらせかと思う。■■
「っ……」■■
「この人……」■■
【ゴーランド】
「なんだ?
どうした???」■■
「…………」■■
ゴーランドは、知っていて見せたわけではないらしい。
この人物は、この世界・この国に実在するのだ。■■
目が霞み、視線を逸らした。■■
【ゴーランド】
「この男に見覚えがあるのか?」■■
私の様子を不審がって、ゴーランドが聞いてくる。
見覚えがあるどころではなく、忘れ難い顔。■■
この顔は、私が元の世界で一番逃げ出したい・会いたくないと思う人の顔そのままだ。■■
「……すごく苦手な人よ」■■
【ゴーランド】
「???
この国に知り合いなんていないだろ???」■■
「ここに来る前に会ったのか?」■■
「……別れた恋人にそっくりなの」■■
【ゴーランド】
「……は?」■■
呆けたような反応に、かっと頬が熱くなった。■■
「別れた恋人にそっくりなのよ。
私のせいじゃないわっ」■■
繰り返すが、私のせいじゃない。
……私のせいでないわけがない。■■
これは私の夢で、私の深層心理。
だとしたら、私のせいだ。■■
「…………」■■
「……そっくりなの」■■
「こんな夢、最悪よ……」■■
自分を振った恋人にそっくりな男。
顔は瓜二つといっていい。■■
嫌がらせとしか思えない。■■
【ゴーランド】
「…………」■■
「あんたの恋人がどういう男だったかはしらないが……、この世界では、マフィアのボスだぜ?」■■
「……ええ?」■■
私をふった恋人、そして元の家庭教師。
今は、就職したか起業したか、どこかで働いているのだと噂で聞いた。■■
働き先はマフィアなんていうやくざなものではなかったはずだ。
それに彼の性格的にも難しいだろう。■■
優しくて、少し優柔不断な人だった。
そんな思い切った仕事には就けそうもない。■■
「この遊園地と、ハートの城とマフィアが争っているって言っていたけど。
この人が……マフィアのボスだっていうの?」■■
【ゴーランド】
「ああ。
帽子屋ファミリーっつう、ふざけた名前のマフィアグループのボスだ」■■
「表立っているのは奴の腹心だが、裏で糸をひいているのはこの男。
非常に頭がきれるが、気分屋……」■■
「常にだるそうにしているのに退屈が嫌いという厄介な性格だ」■■
「……私の知っている人とは、まるで違うわ」■■
【ゴーランド】
「別人だろう」■■
「……中身はね」■■
(それにしても似ている……)■■
最悪だ。
夢で見るということは、まるでふっきれていないということじゃないか。■■
(…………)■■
(それに、なんだか……)■■
(……できすぎていない?)■■
夢だとしても、現実の知人と似た人が出てくるというのは、いかにもありがちで芸がない。
仕組まれたような感がある。■■
誰にでも思いつきそうな、くだらない展開。
頭の悪そうな人が思いつきそうなことだ。■■
(……そうか、私って頭が悪かったんだ……)■■
「顔は……似ているどころか、本人みたい……」■■
顔も背格好もそっくり。
派手な帽子と、胡散臭い服装(貴族だか乗馬服だかよく分からないまぜこぜのスタイルだ)を除けば、別れた恋人そのままだ。■■
【ゴーランド】
「…………。
その元恋人ってのは、性格悪かったか?」■■
「……え?
いいえ?」■■
「優しい人で……」■■
優しくて、気弱な人だった。
自分から別れも告げられないくらいに。■■
【ゴーランド】
「じゃあ、まるきり別人だ。
似てるなんて言っちゃ元の彼氏に失礼だぜっ」■■
ゴーランドは強く言って、私の感傷まじりの回想を中断させた。■■
「……なんで、あなたはそんなにその人……ブラッド=デュプレのことを嫌っているの」■■
【ゴーランド】
「奴は……、奴はなあ……」■■
「【大】俺のフルネームを言いふらした張本人なんだぜ!?【大】」■■
「…………」■■
【ゴーランド】
「それまでゴーランドで通していたのに、奴がどこからか嗅ぎ付けて言い触らしたんだ!
おかげで今じゃ、街の住人までが俺のフルネームを知っちまってる!」■■
「……へえ」■■
私は、気のない返事しかかえせなかった。
国を三分する有力者同士の憎み合い。■■
さぞやドラマティックなエピソードがあるのだろうと思っていたら、名前を呼んだのどうのという初等科の子のような理由だ。■■
【ゴーランド】
「人が気にしていることを突いて嫌がらせしやがって……」■■
「最低だろっ!?」■■
「あー。
……あー、そうね、最低ね」■■
初等科のいじめっ子レベルの「最低」だけど。
子供のタイプ別にいうなら、いい子ではない。■■
……マフィアのボスがいい子だったら怖い。
いじめっ子タイプな人なのだろう。■■
【ゴーランド】
「あいつの最低なところは言い触らしたことだけじゃねえ!
自分が言い触らしたくせに我関せずってツラで、気の毒だとか言いやがって……っ」■■
「会うたびにメリーメリーを連呼するんだぜ!?
苗字で呼べっつうのに!!!」■■
「あー……」■■
……間違いない。■■
(その人は、いじめっ子属性だ……)■■
(そして……、さりげなく暴露しているけど、ゴーランドはいじめられっ子属性……)■■
「気の毒ね……」■■
【ゴーランド】
「あいつと同じようなことを言うな!」■■
「……なんて言えってのよ」■■
フォローのしようがない。
私だって身近に同じ名前の人がいて、勢力を三分するような有力者でなければ、まずからかっている。■■
既に一度からかい済みだが、今の状況なら話は別だ。
居候の身、長いものには巻かれろ主義なので、もうからかったりはしない。■■
(というか、一度あんな体験をしちゃうと……)■■
遊園地で銃を携えた男に追い回されるダークファンタジーなど、もう充分だ。■■
「……はあ」■■
「その、ブラッド=デュプレっていうのは、嫌な人なのね~……」■■
心中ではブラッド=デュプレという男のほうに同意しつつ、口ではゴーランドに味方しておく。■■
ブラッド=デュプレがいじめっ子属性で、ゴーランドがいじめられっ子属性だとしたら、私は適当に距離を置いて加わらないタイプだ。■■
自分に火の粉が及べば、別だが。■■
【ゴーランド】
「そう。
すっげえ嫌な奴……」■■
「あんた、ブラッド=デュプレに会えば嫌いになるんじゃないか?
別れた恋人のことも」■■
「顔が一緒でも、うんざりするぞ。
ショック療法とかいうやつだな」■■
「…………」■■
ゴーランドは優しい。
不器用ながら、慰めてくれているらしい。■■
引きずっていることを看破されて悔しいやらで、なんだか苦いのに酸っぱい。■■
「…………」■■
「あんまり会いたくないわね。
元彼と同じ顔なんてうんざりする」■■
ただでさえ、似ている。
中身が似ていなくとも、外見だけで充分だ。■■
(古傷を抉らないでほしい……)■■
【ゴーランド】
「新しい恋でも探したらどうだ?
ブラッド=デュプレはお勧めしないが……」■■
「……悪いけど、こっちから願い下げ」■■
「恋愛なんてもう御免だわ。
一生しないとは言わないけど、当分はいい」■■
失恋を乗り越えろとでもいうのだろうか。
一生引きずるとは思わないが、まだ、かさぶたになるにも早い。■■
顔を見ても平然とできるほど、傷が癒えていないのだ。
あえて抉る必要がどこにある。■■
まったく、嫌な夢だ。■■
「誰にも好かれたくなんかないの」■■
友情なら心地いいが、恋愛はいらない。■■
「今は一人だって平気だし、困らない。
連れ合いがいなくても、友達がいればもっと楽しいこともある」■■
【ゴーランド】
「意地っぱりだな……」■■
「……そういう年頃ってやつか」■■
「……かもね」■■
【ゴーランド】
「…………。
いや……、あんたの場合……、もっと根が深そうだ」■■
いつまで話しても平行線だと思ったのか、ゴーランドは再び地図に向かった。■■
【ゴーランド】
「最後に、時計塔広場だ」■■
「私がこの世界に引っ張り込まれた場所ね」■■
【ゴーランド】
「そうらしいな。
あそこは、この国の中心部にあるから引き込まれやすかったんだろう」■■
ゴーランドにも、私がこの国に来た経緯は軽く話している。
彼は、かなり親身になって同情してくれた。■■
【ゴーランド】
「時計塔広場は中央に位置していて、立場も中立。
どことも争ってないし、勢力争いもしていない唯一の場所だ」■■
「害がない限り、他所での争いも不干渉。
他勢力側も放置している感じだな」■■
「ここは誰かの場所ではなく、市街地のど真ん中にあるただの広場だ。
三勢力のどこの領土にも入っていない」■■
「周りの市街地で税金などの徴収は行うが、誰の支配下というわけでもない。
他の市街地と違い、この近辺は誰も治められない」■■
「休戦の特別地区なのね」■■
戦争中などによくある、争いの禁止地区だ。
私の世界の戦争のような大規模な悲惨さや仰々しさはないものの、争いごとの基本は押さえている。■■
そう言うと、ゴーランドに感心したような目を向けられた。
彼は分かりやすい。■■
【ゴーランド】
「読書家ってのはすごいな」■■
「あなたは、本とか読……まなさそうね」■■
読む?と聞きかけて、続きを変える。■■
【ゴーランド】
「失礼だな」■■
「読まないでしょ」■■
【ゴーランド】
「……たまには読む」■■
「……たまには、ね」■■
そういうのを読まないというのだ。
誰も、まるきり読まないのだろうとは言っていない。■■
【ゴーランド】
「ここの主は知っているよな?」■■
ゴーランドは話を変えてきた。■■
「ええ、最初に会ったから覚えているわ」■■
またムカムカしてくる。
ユリウスにではなく、ペーターに、だ。■■
よくもこんな危険な世界に引きずり込んでくれた。■■
「ユリウスは、偏屈そうだけどいい人だった」■■
【ゴーランド】
「ユリウス=モンレーが?」■■
「……アリス、あんた、人を見る目があるじゃないか」■■
「ゴーランドもそう思う?
割といい人じゃない、ユリウスって」■■
【ゴーランド】
「だよな。
あいつ、いつもむっつりしてるし、口を開けば嫌味ばっかりだけど……、人が本気で嫌がってることとかはしないんだよな」■■
「俺、あいつからフルネームで呼ばれたことがねえ」■■
「……んー。
友達になりたいような人よね」■■
「ちゃんと相手のことを考えてくれそう……」■■
【ゴーランド】
「口は悪いけどなー……」■■
(……確かに悪かった)■■
【ゴーランド】
「……説明は、以上だ」■■
「今の説明で、この国のことが大体分かったな?」■■
「…………」■■
「……【大】ううん、全然【大】」■■
清々しく断言できる。
城とマフィアと遊園地が勢力を三分する国なんて意味不明だ。■■
街や人はたくさんあるようだが……。
どういう産業で成り立っているのか、政治経済はどうなっているのかとか、突っ込みどころが多すぎる。■■
現実主義者を気取っている私の夢にしては穴だらけじゃないか。■■
……すべて「夢だから」の一言で片付けられてしまう。■■
「よく分からない国だなあということは分かったけどね」■■
【ゴーランド】
「あんたの住んでいたところよりちょっと危険かもな」■■
「……【大】ちょっと?【大】」■■
これが夢でなければ、一歩も外に出ないくらいに危険だ。■■
【ゴーランド】
「ちょっと……、すごく?」■■
「……すご~~~~~~~~くでしょ」■■
【ゴーランド】
「…………」■■
「……これをやるよ」■■
ゴーランドが何か、小さなものを私に差し出す。■■
「なにこれ?
砂時計???」■■
(外に出て紅茶の蒸らし時間を計ることなんてないと思うから、そんなものいらない……)■■
【ゴーランド】
「時間帯を自由に変えることが出来るアイテムだ。
あると便利だぜ」■■
ユリウスの銃のようなものだろうか。
時間帯を変えることが出来るだなんて、私からしてみれば大掛かりな手品のアイテムだ。■■
便利というか、魔法のようでにわかに信じ難い。■■
「ええっ?
そんな貴重なもの、貰っていいの!?」■■
……とかなんとか言いつつ、ちゃっかりポケットに入れておく。■■
【ゴーランド】
「…………。
あんたって奴ぁ」■■
「くれるって言ったんだからいいじゃない。
返さないわよ」■■
【ゴーランド】
「…………」■■
「あんたなら、この国でも充分生き残っていけるぜ……」■■
【【【時間経過】】】

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