TOP>Game Novel> 「 ハートの国のアリス 」> OP ■03話(遊園地1)

ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『OP ■03話(遊園地1)』

◆どこか街の路上◆
【【【時間経過】】】
【【【演出】】】・・・人のざわめき
【街の人・女1】
「今回の昼は長いわね。
もうずいぶんと続いていない?」■■
【街の人・男1】
「そうだな。
いいじゃないか、今から買い物に行く店、たしか昼の間だけセールをするんだろう?」■■
【街の人・女1】
「ええ、そう。
だから、そのうち時間帯が変わっちゃわないか心配で」■■
【街の人・男1】
「はは。
じゃあ、急ごうか」■■
【街の人・男2】
「この間、街で役持ち同士の銃撃戦に巻き込まれそうになってさ。
必死で逃げたよ……、参ったぜ」■■
【街の人・男3】
「そりゃあ災難だったな。
でも、役持ち同士ならまだ殺され甲斐も……」■■
「……いや、避けたいけど、同類の名もないような奴に殺されるよりはいくらかマシかな」■■
【街の人・男2】
「殺される率は役持ちのほうが高い分、ついてはいないだろ。
顔を見たら、とりあえず逃げておくに限る」■■
【街の人・男3】
「まあな。
殺されないに越したことはない」■■
(……物騒すぎて、現実味のない会話。
こんなのが、この世界では日常会話なの?)■■
滞在地から、近くの街まで出てきた。■■
この国のことは、まだほとんど分からない。
しかし、地図を見せてもらったので迷うことはないだろう。■■
(とりあえず行ってみよう。
帰るには、この国の人と交流するしかないんだものね)■■
教えてもらったばかりの各領土の情報を思い返しつつ、歩いていく。■■
【【【時間経過】】】
◆ハートの城・庭園◆
辿り着いたのは、大きな城。■■
至るところにハートのあしらわれた外観といい……。
地図で見た位置から考えても、ここが「ハートの城」だろう。■■
城に入るまでには、見事な庭園が広がっている。
整えられた赤薔薇の生垣の傍を歩いていると、見覚えのある姿を見付けた。■■
「……げげっ!」■■
【ペーター】
「アリス!!
久しぶりですっ!」■■
ぴょんっと、ペーターはウサギのように駆け寄ってきた。■■
【【【演出】】】……がばっと抱きついてくる音
「……う~~~」■■
逃げ腰になりそうなのを我慢する。■■
「……こ、こんにちは、ペーター。
来てみたわ」■■
「……暇だったから」■■
【ペーター】
「僕に会いに来たんですねっ!
そうだと思いましたっっ」■■
誰もそこまでは言っていない。
だが、そうと決めつけられている。■■
(そりゃあ、この城に知り合いはペーターしかいないけど……)■■
【ペーター】
「寂しくなったんでしょう!?
僕もですよっっ」■■
「【大】ぐえ……!?【大】」■■
抱きつかれ、ぎゅううっと抱きしめられる。
暇だったから……の部分は華麗にスルー。■■
相変わらず、大きなお耳は、都合のいいことしか聞こえないように出来ているようだ。■■
【ペーター】
「あなたがこの世界に留まってくれるのなら、それだけでもいいんですが……」■■
「……やっぱり愛する人とは一緒に過ごしたいですよね。
僕は幸せです、アリス」■■
「…………」■■
(なんで、私、こんなのに会いにこようなんて気を起こしちゃったんだろう……)■■
ハートの城の宰相だと聞いたが、あまりそんなふうにも見えない。
私が新事実を知ったからといって、いきなりペーター=ホワイトという男の人格が変わるわけでもなかった。■■
「……あんたって、相変わらずね」■■
【ペーター】
「僕は、変わらずあなたを愛してますよ?」■■
「……相変わらず××××だって言っているのよ」■■
【ペーター】
「えー。真面目で一途なウサギになんてこと言うんですか。
酷いなあ……」■■
「真面目で一途……・・」■■
抱きしめられながら、間近にある顔を見る。
ウサギ耳というだけでも胡散臭いが(男のウサギ耳ってどうよ)、ペーターは正直者には見えなかった。■■
美形だが、眼鏡が狡猾さを際立たせているような気がする。■■
「【大】……っは【大】」■■
【ペーター】
「鼻で笑いましたね……。
一途にあなたを想っているのに酷いー」■■
「あー、鬱陶しい……」■■
「……ほんと、なんで会いにきちゃったんだろ、私」■■
【ペーター】
「それは、僕を想うがゆえに足が勝手に……」■■
「…………。
……あんたって、乙女ね」■■
【ペーター】
「馬鹿にされている気がします……」■■
「【大】あからさまに、馬鹿にしているのよ【大】」■■
「ちょっと哀れんでもいる……」■■
【ペーター】
「……あー、なんだかそっちのほうが痛いので、前者でお願いします」■■
「哀れみをこめられると、さすがにいたたまれないでしょ……」■■
美形なだけに痛すぎる。■■
「これで、もうちょっときりっとしていたら好みなのに」■■
【ペーター】
「!」■■
「普段はきりっとしていますよ?
そういう姿を見せたら、あなたも僕を好きになってくれます?」■■
「なるんじゃない?
あんたって、顔はいいから女の子にはもてそう」■■
【ペーター】
「顔はって……」■■
「……僕は、あなたに好かれたいんです。
他の誰かじゃなくて、あなたはどうなんです?」■■
「常にきりっとしていたら、僕のことを好きになってくれますか?」■■
覗き込んできたペーターが真剣だったので、適当に答えようとしていた言葉が喉で止まる。■■
「…………」■■
「あと、ウサギ耳がついていなくて、愛しているとかなんとか言わなければね」■■
一旦止まったが、やはり口から出てきたのは適当なことだった。■■
【ペーター】
「嘘つき」■■
「…………」■■
嘘は言っていない。
きりっとしていても、ウサギ耳がなくても、それがペーターであろうとなかろうと、愛しているとか言わなければ。■■
好きにはなれる。
恋愛に発展するようなものでなければ。■■
「…………」■■
「……とにかく、あんたは論外ってことよ」■■
「きりっとしていないし、ウサギ耳だし、愛しているとか連呼する。
問題外じゃない」■■
【ペーター】
「あなたのためなら変われるのに~~~……」■■
「あのねえ……」■■
ふざけた言動に戻ったので、どこか安心する。
頭のねじが一本どころでなく飛びまくった人だが、それでいい。■■
愛しているとか真顔で言われたら、それこそ困る。■■
【ペーター】
「……でも、僕じゃ駄目なんですよね。
勝ちたいゲームほどうまくいかないってことは、ちゃんと弁えていますよ」■■
「……?」■■
「…………」■■
「……なんでもいいから、離してよ。
息が出来ない……」■■
ペーターの体を押し戻し、距離を取る。
寄れた着衣を直しながら言った。■■
「言っとくけど、あんたにだけ会いに来たんじゃないのよ」■■
説明も受けた上でここに来たものの、ペーター目当てなわけではない。■■
【ペーター】
「ええ?
僕以外にこの城で会いたい人間なんて、誰がいるんです!?」■■
「誰って、そりゃあ……、女王陛下よ」■■
ハートの国のハートの城の、ハートの女王。■■
この国の有力者の一人。
会っておく価値はある。■■
斬首刑が趣味だという話を聞き、会わないほうが賢明だと思ったが、やはり興味もあるのだ。■■
【ペーター】
「女王陛下に、ですか……?
あんなの、会ったところでヒステリーの餌食になるだけですよ」■■
「あんなのって、あんたね……」■■
仮にも女王陛下に向かって、酷い言い様だ。■■
ペーターが恐れ知らずの不忠義者なのか……、もしくは、ハートの女王とは部下が「あんなの」呼ばわりしたくなるほどの人物なのだろうか。■■
(写真を見た限りでは、美人だったけどな……)■■
とにかく気になるほどの美人だったと、印象に残っていた。■■
「…………」■■
「……とりあえず、行ってみるわ。
私がこのまま城に入っても大丈夫かしら?」■■
【ペーター】
「……大丈夫だと思いますよ、あなたは好かれますから」■■
やや間をあけ、ペーターが答える。
萎えた態度で言葉を続けた。■■
【ペーター】
「ご一緒したいんですけど、僕、これからどうしても外せない仕事で……。
あ、それほど長くは掛かりませんから、待ってて頂ければお供を……!」■■
「……ああ、いえ、あなた以上に重要な仕事などありません!
ここは愛を選ぶべきところですよね!」■■
「【大】選ばなくていいところよ【大】」■■
「仕事を優先してちょうだい。
女王への謁見へは一人で行くから、ついてこないで」■■
【ペーター】
「あっ、アリス……!」■■
「ついてきたら、承知しないからね!?」■■
【ペーター】
「~~……!?」■■
【【【演出】】】・・・足音
必要以上に世話になる気はない(なりたくもない)。
その場にペーターを残し、逃げるように城へと向かった。■■
【【【時間経過】】】
◆ハートの城・廊下◆
城内に入る。
驚くことに、お目通り願いを出す前から、目的の人物に出くわした。■■
「……!」■■
【ビバルディ】
「なんじゃ、おまえは……」■■
「…………」■■
「……女王・ビバルディ」■■
写真で見せてもらった顔だ。■■
【ビバルディ】
「いかにも。
わらわはハートの城の女王・ビバルディだ」■■
「……おまえは?」■■
写真の通り。
それ以上の女王様だ。■■
小さな虫になった気分になる。
くだらないものを見下ろすような目付きが堂にいっていた。■■
【ビバルディ】
「……答えよ。
さもなくば、首を刎ねる」■■
「わっ、私はアリス=リデル!
ですっ、女王様!」■■
見た目通り、そして事前に聞かされていた説明通り、気性も荒い。
その上、気も短いようだ。■■
【ビバルディ】
「アリス=リデル……」■■
「アリス……。
……おまえ、余所者か?」■■
「は、はあ……。
恐らく」■■
「この世界では、そういうふうに呼ばれていますね……」■■
【ビバルディ】
「なんじゃ、曖昧な言い方をしおって……。
死刑にしてほしいのか?」■■
物騒な言葉を吐きながら、ビバルディは興味深そうに首を傾ける。
きつめの美女なのに、仕草は少女のようだ。■■
ちぐはぐな感じを受ける。■■
【ビバルディ】
「おい、おまえ」■■
【城の兵士A】
「はっ」■■
ビバルディは、後ろにいた兵士をちょいちょいと呼んだ。■■
【ビバルディ】
「おまえは、この娘が余所者だと分かるか?」■■
【城の兵士A】
「は……。
いえ、残念ながら……」■■
「私は役なしのカードですので……」■■
【ビバルディ】
「ふ~ん……。
わらわには分かる……」■■
「余所者には初めて会った。
どうやったら分かるものかと思っておったが、聞いた話どおり分かるものじゃな」■■
「感じるといったほうがよいのか……」■■
【城の兵士A】
「さすがは女王陛下」■■
【ビバルディ】
「うむ」■■
「……あ、おまえ、死刑な」■■
【城の兵士A】
「はっ!?」■■
【ビバルディ】
「分からなかった罰じゃ。
……誰か、この者の首を刎ねよ」■■
【城の兵士B】
「ははっ」■■
他の兵士が、分からないと答えた兵士をずるずると引きずっていく。■■
「…………」■■
(こ、怖いよ~~~……)■■
興味を抑えられず会いに来たが、やはり早まった。■■
この世界には恐ろしげな人が多すぎる。
外見がいくら美しかろうが……、その分だけ毒が強い。■■
【ビバルディ】
「アリス、おまえ、わらわのことが好きか?」■■
「え……。
ええ!?」■■
何を言い出すんだ、この女王様は。
さすが、ペーターの上司だ。■■
まさか彼と同じようなことを言い出すんじゃなかろうなと、身構える。■■
【ビバルディ】
「余所者とは、この国の者に好かれるべく来た生き物らしい。
じゃが、一方的に好かれるなどずるいと思わぬか?」■■
「それは……。
はい、ずるいですよね」■■
あんまり好かれたくもないので嬉しくないが、ずるいのだろう。
彼女が言うならそうだ。■■
【ビバルディ】
「で?
わらわが好きか?」■■
「す、好き……かな?」■■
生き残るにはその答えしか選択できない気がして、答える。
だが、正直に疑問符をつけてしまった。■■
【ビバルディ】
「かなっとはなんじゃ?
かなっとはっっ!」■■
「いいかげんな娘じゃのう……」■■
(はっきり答えられてもおかしいと思うんですが……)■■
もちろん、そんなことは思っても口にできない。■■
【ビバルディ】
「まあよい。
わらわが好きなら、生かしておいてやろう」■■
やはり、あの返事以外は残されていなかったらしい。
変な答え方をしなくてよかった。■■
【ビバルディ】
「わらわのことは、ビバルディとお呼び」■■
「ビバルディ様?」■■
【ビバルディ】
「ビバルディ」■■
「え……。
でも、女王様を呼び捨てなんて」■■
【ビバルディ】
「そうお呼び。
……でないと、首を刎ねてしまうよ?」■■
「ビバルディ!
ビバルディね!」■■
「よろしく、ビバルディっっっ」■■
【ビバルディ】
「うむうむ。それでいい。
連呼しなくとも聞こえておる」■■
「そんなに浮かれて、よほどわらわのことが好きなのじゃな」■■
上から目線で言われ、こくこくと高速で頷く。■■
【ビバルディ】
「では、アリス、また遊びにおいで。
ハートの城の門扉はいつでも開放されておる」■■
私の対応に満足そうにして、ビバルディは背を向けた。
兵士達も、後に続く。■■
(……本物の女王様だわ)■■
(…………)■■
(……生き残れてよかった)■■
私も、夢だということでずいぶん大胆に行動している。
だが、夢とはいえ、死刑は勘弁してもらいたい。■■
「はあ……。
命拾いした……」■■
「…………。
……戻ろうかな」■■
あっという間に、目的の人物にも会えてしまった。
これ以上城に用事はないし、あまりふらふらしていて不審者扱いされても困る。■■
(……また処刑されかけるなんて、ごめんだわ。
さっさと出よう)■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・庭園
【ペーター】
「アリス、また来てくれたんですねっ」■■
【【【演出】】】……抱きつく音
「……あ~~~」■■
「また来たっていうか、戻ろうとしていたんだけど……」■■
(……【大】なんで、まだいるのよ【大】)■■
庭園に戻るなり、またもやペーターと遭遇する。■■
例によって、抱きつかれた。
ぎゅうぎゅうと胸が圧迫されて苦しい……。■■
(住んでいる相手にとやかく言える立場じゃないけど……、嫌なタイミングね)■■
ビバルディもそうだが……、ここの重役は遭遇率が高すぎだ。■■
(歩いてきた方向からすると……。
今、外から戻ってきたのかな)■■
仕事というのは、外出していたようだ。
狙ったようなタイミングで、再び鉢合わせてしまったらしい。■■
(……いや、実際に狙ってきたのかも。
こいつなら、有り得る)■■
【ペーター】
「嬉しいです、アリス~~~」■■
「……くるし~~~」■■
【ペーター】
「僕の愛が伝わっているんですね~~~」■■
【ペーター】
「こうしてまた会えるなんて!
ああ、出会うべくして出会った二人……、これこそ運命!」■■
「……絞まる~~~」■■
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、すりすりと頬ずりまでされる。■■
「……【大】ぐえぐえ【大】」■■
「は、離……」■■
【ペーター】
「たとえ、僕のものにならなくてもいい……。
愛していますよ……」■■
「【大】恋愛小説にありがちな台詞ばかり吐くな【大】」■■
【【【演出】】】……ぺしっと叩く音(抜けた感じで)
頬ずりしてくるペーターを、すぱーんっとはたく。
抱きしめられていたので、決まらなかった。■■
入りが甘い。
すぐにまた抱き込まれてしまう。■■
【ペーター】
「え~~~、いいじゃないですか。
愛しているんですから」■■
「なんで、そんな、いかにもな台詞吐かれなきゃならないのよ!
大体、明らかにここはそういうシーンじゃないでしょ!?」■■
(たまたま再会しただけで、勝手に盛り上がらないでよ!)■■
ペーターはまるで数年ぶりという大げささだが、つい先刻別れ、また会ったというだけだ。■■
【ペーター】
「え?
そういうシーンですよ?」■■
「再会を喜び合う二人……。
切なく甘いラブシーンって、まさにこういう場面でしょう」■■
「あんたって……、頭だけでなく感性もとち狂っているのね」■■
【ペーター】
「あなたが僕を狂わせるんですよ、アリス……」■■
「…………」■■
「だから、そういう明らかに場違いなこと言うの、やめてくれないかな……」■■
声だけは本物のラブシーンのようだが、実際のところはウサギに絞め殺されそうになっている哀れな状態だ。
台詞を聞くだけなら、まかり間違ってそれらしく聞こえてしまいかねない。■■
(どうしよう。
この人、本当におかしい……)■■
(すでに充分わかっていたことだけど、おかしすぎる……)■■
「あなたが僕を狂わせる」とかなんとか、恋愛関係にあっても素面で言えるとは信じがたい。
ましてや、これっぽっちも恋愛関係にかすっていない、アドレナリンゼロ状態で言えるとは……。■■
通りがかりの人が、本気にしたらどうしよう。
現在の状況が切なく甘いラブシーンだとしたら、恋愛とはなんぞやと問いかけたくなる。■■
首が絞まる……。
これが恋だの愛だのだとしたら、濃厚すぎて私にはついていけない……。■■
【ペーター】
「愛しています……」■■
「はあ、どうも……」■■
「私を愛しているのなら、苦しいから離して……」■■
【ペーター】
「愛って苦しいものですよね……」■■
間近にあったペーターの顔が近づいてくる。■■
「……!?」■■
「……ぎゃ~~~~~っっ!?!!
なにするの!?」■■
【ペーター】
「何って、キスをしようかと……」■■
「って……、【大】うぎゃ~~~~~っっ!?【大】」■■
「なんでキスされないといけないのよ!
やめてよね!?」■■
変質者っぷりに青くなった。■■
【ペーター】
「なんで、やめないといけないんですか?
切なく甘いラブシーンときたら、とりあえずキスをしておかないと……」■■
「とりあえず!?とりあえずって何!?
とりあえずで迫るな!」■■
出会いっぱなから思っていたが、この男、私を愛しているとか言いながら嫌っているんじゃなかろうか。
やることはすべて嫌がらせじみているし、キスしてくるにしても適当すぎる。■■
薬を飲ませられたときなんか、ごしごしと口を拭っていた。■■
「あんた、病気よ!
私のことを好きだとか、気の迷い!」■■
「気のせいだって!
あんたの言動は、好きな子に対するものじゃない!」■■
【ペーター】
「…………。
ああ、分かりました……」■■
「わ、分かった?」
【ペーター】
「分かりましたとも」■■
「キスだけじゃ、ご不満なんですよね?
やっぱり、この僕の溢れんばかりの愛を伝えるにはキス程度じゃ足りなかったか……」■■
「【大】病院に行け【大】」■■
【ペーター】
「あなたがそう言うのなら、仕方ありません。
もうちょっと段階を踏むべきかと思いましたが……」■■
「何も言ってないから。
段階なんて踏まなくていいから」■■
「病院へ行ってきなさい」■■
【ペーター】
「ああ、やっぱり段階など不要だったんですねっ」■■
「いいから、病院へ行ってきなさいっ。
帰ってこなくていいから、ね?」■■
【ペーター】
「これは、お医者様でも治せないなんとやらですよ。
この熱病は、あなたにしか治せない……」■■
(泣きたくなってきた……)■■
本当に、なんだって私はこんな変質者ウサギに好かれるのだろう。
正気とは思えない(正気であったら更に怖い)砂を吐くような台詞のオンパレードに、くらくらしてきた。■■
こんな台詞が許せるのなんて、精々が恋愛小説か映画の中までだ。
リアルで言われたら、いかな美形が相手だろうと吐く。■■
「うう……。
くらくらする……」■■
【ペーター】
「?
僕に参っているんですか?」■■
「あんたが思っているのとはまったく違う意味合いで参っているわ……」■■
【ペーター】
「愛の深さにあてられてしまったんですねっ」■■
「…………」■■
特に気負うこともなく平然としている様が信じられない。
どこまでもラリラリした男だ。■■
ウサギ耳の代わりに、頭に花でも咲かせていればいい。■■
【ペーター】
「僕は本気ですよ。
段階すっとばしていいなら、いろいろと試してみましょう」■■
「きっと、あなたにも僕の愛の深さが身に染みて分かってもらえますよ……」■■
「冗談……っ」■■
「ぎ……、【大】ぎゃっっ!?【大】」■■
「何するの!?
どこ触ってんの!?」■■
【ペーター】
「ふふ、アリス……」■■
「愛していますよ……」
「ここ、どこだと思っているの!?
この、変質者変質者変質者変質者変質者……!」■■
どこだって御免こうむるが、ここは天下の公道(?)だ。■■
【ペーター】
「酷いな~……」■■
「酷くない!酷いのはあんたよ!
離せ、この××××××!」■■
【【【演出】】】……どんと圧される音
【【【演出】】】……とさっと倒れる音
すったもんだしていると、いきなり突き飛ばされた。■■
……ペーターに。■■
(こいつ、本当は私のこと大嫌いなんだ……)■■
(そうに決まっている……)■■
【【【演出】】】……一刀両断(空気を切る音)
【ペーター】
「っ……」■■
「!?」■■
【???・エース】
「……あれ?
よけられちゃった……」■■
「さっすが、ペーターさん。
なんかキャラ変わっちゃってるから誰かと思ったけど、本人だったんだな」■■
いきなり斬りかかってきた男は、その動きから連想できないくらい暢気に話しかけてきた。■■
【ペーター】
「エース君……」■■
「この僕に刃を向けるとは、なんのつもりです……」■■
【エース】
「女の子が襲われていたから助けようと思ったんだ」■■
「……今、私ごとぶった切ろうとしていなかった?」■■
助けようとか、そういう感じじゃなかった。■■
【エース】
「ははは、ごめんごめん。
俺ってドジだからさあ……」■■
「あ、でも、結果、助かっただろ?
よかったぜ」■■
エースと呼ばれた青年は、にこにこと爽やかに笑う。
とても爽やかで……。■■
……爽やかすぎる。■■
「……この人、あんたの友達?」■■
【ペーター】
「いいえ。
縁もゆかりもない、赤の他人です」■■
きっぱりとペーターは言い切った。■■
【エース】
「同僚だろ?
ペーターさんのほうが身分は上だけど、職場を同じくする仲間じゃないかっ」■■
ぼけっと突っ立っていると引き寄せられた。■■
【ペーター】
「そう、僕のほうが上司です。
あなたは駒にすぎない」■■
「上司に斬りかかって来るような愚かな部下は不要だ」■■
(…………)■■
(こんな顔、初めて見た……)■■
(へえ……、ペーターって結構……)■■
……かっこいいじゃないか。
かなり凄みのあるかっこよさではあるものの、ペーターは格好良かった。■■
もともと美形なのだ。
それなりにしていれば……、せめて変質者でなければ、印象もいい。■■
【エース】
「や~~~、ペーターさんだとは思わなくってさ」■■
「だって、我らが宰相閣下が女の子を襲うなんて考えられないじゃないか。
ははははっ」■■
【ペーター】
「……僕はそんなに飢えていません。
そこらの女に興味がないの、ご存知でしょうに」■■
「彼女は特別な人なんです。
あなた……、僕の愛しい人に怪我を負わせるところだったんですよ?」■■
「……万死に値する」■■
【エース】
「謝ってるじゃないか。
愛しいだとか……、ペーターさんらしくもない言葉だなあ……」■■
「……なんか、キャラ違ってない?」■■
「外見同じだけど、実はペーターさんも双子だったとか?」■■
【ペーター】
「ふざけたことを……」■■
私からすると、ふざけていないペーターなど初めて見た。
エースの言い分からすると、普段は違うらしい。■■
今のペーターは冷たい感じだが、私の知る範囲の「普段のペーター」は頭が軽くて鬱陶しい男だ。■■
【【【演出】】】・・・銃声
がんがんと、耳元で銃声がした。
どこから取り出したのか、いつの間にかペーターの手には銃がある。■■
呆然と見上げると、彼は私を庇う格好のままで冷たい目をしていた。
赤いビー玉のような目だ。■■
無機質に、澄んでいる。■■
【エース】
「はは、怖い怖い……」■■
「……本気なんだ。
ますますキャラじゃないよ」■■
【ペーター】
「…………」■■
【【【演出】】】……銃声
【【【演出】】】……銃声
ペーターは、無言でがんがんと銃を連射する。
私を抱きながら、片手でも手元が一切ぶれない。■■
威嚇ではなく急所を的確に狙っていることが分かる。■■
【エース】
「わわわっ!?
こっわいな~~~……」■■
「ごめ……っ、ごめんごめんっ。
退散しますっ」■■
謝りながら、しかしエースは口とは裏腹に余裕で避けている。■■
【エース】
「ごめんね」■■
【【【演出】】】……駆け足で去って行く音
私に向かって爽やかに謝ってから、エースは去っていった。
ペーターは、その背中に向けても容赦なく撃ったがひょいひょい避けていく。■■
【ペーター】
「……っち」■■
「……さすが武闘派。
易くない……」■■
「やはり、謀略で落とすしかないのか……」■■
「…………」■■
【ペーター】
「…………」■■
「……あ、すみません、アリス~。
あいつ、うちの城のごく潰しなんですよ」■■
「驚いちゃったでしょう?
近いうちに排除する予定なので、許してくださいね~?」■■
「…………」■■
「……や、驚いているのはそっちじゃなくて……」■■
エースに斬りかかられたのには驚いたが、それよりもっと……。■■
(……普段のペーターって、全然違うじゃない)■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・門前◆
【【【演出】】】・・・足音
マフィアグループ・帽子屋ファミリーの屋敷だという、大邸宅の前に着いた。
「帽子屋屋敷」だ。■■
「……!」■■
【ブラッド】
「おや、君は……」■■
「……ブラッド=デュプレ」■■
写真で見せてもらった顔だ。■■
見せてもらった写真以外でも、この顔はよく知っている。
直に会っても、知人にそっくりだ。■■
(ああ……、本当にろくでもない……)■■
別れた恋人の夢をみるなんて。■■
【ブラッド】
「私を知っているのか?
光栄だ」■■
彼によく似た人は、しかし、まったく似ていない。■■
私の記憶する彼は、こんなにけだるそうではないし、こんな冷たい目をしていなかった。■■
「写真で見たことがあるから……」■■
写真どおりの男前……。
そして、知人と瓜二つの人相。■■
【ブラッド】
「君は……、余所者だな」■■
「……あなたのほうも、私のことを知っているの?」■■
【ブラッド】
「余所者だということはね。
だが、名前までは知らない」■■
「名乗ってもらわないことには、な」■■
ブラッドは、にっと笑う。■■
命令されているわけでもないのに、早く名乗れと脅されているような気分になった。■■
「私は……、アリス=リデル」■■
【ブラッド】
「アリス……。
いい名前だ。よく似合っている」■■
「……そうかしら?
普通よ」■■
気障な言い方だ。
初対面の女にさらっと言えてしまうあたり、遊び人みたいに思える。■■
だが……、なんだか怖い。■■
受けた説明では、ブラッド=デュプレという男はマフィアのボスらしい。
しかし、そんな前知識がなくても、怖いと感じたことだろう。■■
彼はなんだかとても……、迫力がある。
身分の高い人独特の威厳などとは、似て非なるもの。■■
猛獣を目の前にしたら、こんな気分かもしれない。
いつでも食えるという自信と、食われてしまうかもしれないという怯え。■■
背を向けるのが恐ろしくなるような人だ。■■
【ブラッド】
「警戒しなくてもいい」■■
「…………」■■
【ブラッド】
「……私の顔が嫌いか?」■■
唐突な問いかけに、びくりと体が反応する。■■
勝手に反応してしまったことに、慌てた。
無意識だ。■■
「……嫌いじゃないわ」■■
【ブラッド】
「じゃあ、そんなに睨まないでくれ。
お嬢さん」■■
「睨んでない」■■
目が吊りあがってしまっていることは自覚していたが、虚勢を張らざるを得ない。
この人は、知人と似ているという点を除いても警戒すべき相手だ。■■
【ブラッド】
「ふ……、まあいいよ……。
まったく警戒されないよりも、少し警戒されるくらいのほうが男として不都合がないからな」■■
また、気障な言い方だ。
芝居じみている。■■
ただのポーズだとは分かっていたが、なかなか様になっていた。■■
だるそうで、やる気がなさそうな感じだということを除いては。■■
(マフィアのボスだというけど、結婚詐欺師にでもなれそう)■■
少しどころではなく、警戒してしまう。■■
おかしな帽子の分を差し引いても、かなりの男前。
私はこの顔に弱い。■■
恋に落ちるには、知人に似すぎているが……。■■
【ブラッド】
「嫌われていないのなら、仲良くしよう」■■
彼は私の緊張に気付いていないのか、親しげに話しかけてくる。
答えない私に、微笑みかけてきた。■■
笑顔も、怖い。■■
【ブラッド】
「余所者は珍しいんだ」■■
気付いていないわけがない……。■■
私が緊張しているのを、楽しそうに。■■
(……嫌な男)■■
私の知り合いとは、まったく違う。
顔の作りが似ているだけの、他人だ。■■
そのことに、奇妙なほどに安心した。■■
「私も、ここの住人は皆珍しく見えるわ」■■
「マフィアのボスに知り合いなんていないし……、仲良くしましょう」■■
【ブラッド】
「……君とは気が合いそうだ、アリス」■■
「そうでしょうね」■■
性格が悪そうなところが、ばっちり気が合いそう。■■
【【【演出】】】・・・ざっと足音
探るように見合っていると、足音が耳に届く。
顔を向けると、そこには一人の青年……。■■
【???・エリオット】
「誰だ、おまえ」■■
【【【演出】】】……リロード音
「……!?」■■
【ブラッド】
「撃つな、エリオット」■■
いきなり銃をつきつけられたが、ブラッドが止めてくれた。■■
【ブラッド】
「彼女は、アリス=リデル。
私の知り合いだ」■■
「え?」■■
(知り合いって。
今、会ったところなんだけど???)■■
彼はとても嘘とは思えない口調で、さらりと言ってのけた。■■
やはり食えない男だと思うが、状況的にここは黙っていたほうがよさそうだ。
よく分からないが、とりあえず銃を向ける男から庇ってくれている。■■
【エリオット】
「知り合い?」■■
「ブラッドは、気分次第で、素性を調べもせずに知り合いになっちまうからなぁ……」■■
エリオットと呼ばれた男は、敵意むきだしだ。
銃を下ろさない。■■
【エリオット】
「知り合いっていうが、見たことないぜ、こんな女。
どこかの回し者ってことはないのかよ」■■
【ブラッド】
「それはない。
彼女は余所者だ」■■
【エリオット】
「余所者……?」■■
「……ふ~ん。これが余所者?
珍しいな……」■■
余所者呼ばわりというのは、あまり気分のいいものではない。
しかし、彼はそれで納得したようだ。■■
いい気分ではないが、敵と認識されないなら構わない。■■
「アリス=リデルです。
よろしく」■■
【エリオット】
「おう。
俺は、エリオット=マーチ。ブラッドの相棒だ」■■
「よろしくな、アリス」■■
にかっと笑う顔は、そんなに悪い人ではなさそうに見えた。■■
……錯覚だろうが。
なにしろ、未だに銃口がこちらを向いている。■■
しかし、銃よりももっと気になるものがあったので、あまり怖くなかった。■■
【エリオット】
「?
なんだ?」■■
「……耳」■■
【エリオット】
「耳?」
「耳が……」■■
【エリオット】
「耳がどうかしたか?」■■
……ウサギ耳だ。■■
じいっと、見てしまう。
頭から目が離せない。■■
「……ペーターの親戚?」■■
【エリオット】
「……んだと?」■■
【ブラッド】
「撃つなよ、エリオット」■■
ブラッドが念を押すくらいに、エリオットは眉をしかめた。■■
【エリオット】
「ペーターっつうと、ペーター=ホワイトのことだよな?」■■
「うん……」■■
「……似ているわよね」■■
【エリオット】
「似てる!?
どこがだよ、どこが!」■■
「あいつは敵だぞ!?
大体、俺はあんなに陰険じゃねえよ!」■■
「や、会ったばかりだし、中身はよく知らないけど……」■■
でも、似ている。■■
【エリオット】
「どこが!」■■
「どこがって……」■■
私の視線は、頭に固定されている。■■
【エリオット】
「ブラッド!
この女、すげー失礼だぞ!?」■■
【ブラッド】
「ずっと銃を向けているのも失礼だ。
そろそろ下ろせ」■■
「ペーター=ホワイトとおまえは似ていないから……」■■
【エリオット】
「だよな!?
どこも似てねえのに……」■■
「似てる似てるっていう奴多いんだよな……。
大体殺したけど、マジでうぜえ……」■■
「どっこも似てねえってのによ。
わけわかんねえぜ」■■
【ブラッド】
「……あ~~~……、そうだな」■■
「おまえとペーター=ホワイトは、どこも似ていない。
わけがわからないな……」■■
と言いつつ、ブラッドの視線も固定されている。■■
じいっと頭を見ているのに、エリオットは気付かないのだろうか……。■■
【エリオット】
「まったくだぜ!
どいつもこいつも失礼な……」■■
「あ……、あ~~~、ごめんね。
まったくだわ」■■
「どこも似ていないのに、目がどうかしていたみたい……」■■
なんとなく、触れてはいけないことなのだと察せられたので、謝っておく。■■
【エリオット】
「…………」■■
「あなたは、ペーターとどこも似ていない。
ごめんなさい」■■
【エリオット】
「……いいぜ、許してやる。
ブラッドの知り合いだもんな」■■
「水に流してやるから、安心しな」■■
「余所者じゃ、いつ元の世界に戻るか分からねえけど、仲良くしようぜ」■■
「ありがとう……」■■
「…………」■■
「ところで……、そろそろ銃を下ろしてもらえないかしら……」■■
……和やかに聞こえる会話の間中、銃は突きつけられたまま。■■
いいかげん落ち着かない。
控えめに頼むと、エリオットはようやく銃を下ろした。■■
【エリオット】
「お、わりい、わりい。
だけど、怪しい奴がいたら銃を向けないわけにはいかないだろ、気にすんな」■■
「…………」■■
(向けないわけにいかない……か?)■■
断じてそんなことはない。
……私の常識では。■■
謝るエリオットを見ていると、まるで名前を呼び間違えた程度のミスのようだ。■■
(これが、マフィアの常識なんだろうか……)■■
【ブラッド】
「ときに、アリス。
君はまだ、予定に余裕はあるかな?」■■
ブラッドに名前を呼ばれる。■■
会ったばかりで知り合い扱いのうえ、いきなり都合を確認。
何事かと構えるが、嘘をつく気にはならない。■■
(……というより、なれない。
駄目だわ、この顔は本当に苦手)■■
「……ええ。
別に、急いでいるわけじゃないし」■■
【ブラッド】
「そうか。
ではちょうどいい、あいつらのことも紹介しておこう」■■
「??
あいつ???」■■
ブラッドは、門の内側に目を向けている。
視線を追うと、門の向こう側、敷地内に二人の人影が見えた。■■
【エリオット】
「あいつら……!
サボってたくせに呑気に歩いて戻ってきやがって!」■■
エリオットは、二人の姿を見ると眉を吊り上げる。
ブラッドとエリオットの口調からすると、敷地内にいる彼等は部下のようだ。■■
(部下というより……小間使いかしら。
だってあの子達……子供よね?)■■
私よりも小さい、少年に見える。■■
(だとしても、子供がマフィアの関係者だなんて……)■■
何か事情がある、可哀想な子供達なのだろうか。
つい、悪いふうに想像する。■■
【エリオット】
「おい、おまえら!
ちんたら歩いてんじゃねえよ、走ってこい!!」■■
エリオットが大声で呼び掛ける。
談笑していたらしき二人は、その声で初めて気付いた様子。■■
ぱっと、同じタイミングでこちらを見る。
だがエリオットの言葉に従わず、恐れる様子もなく、そのままのんびり歩いてやって来た。■■
【エリオット】
「おまえらなあっ。
サボってたくせに堂々と戻ってくんじゃねえよ!ちったあ畏まれ!」■■
エリオットが怒鳴る。
鬱陶しげな目でそれを見る二人の少年は、まったく同じ顔をしていた。■■
双子だ。
本当に、見分けがつかないほどそっくりな。■■
声も、同じだった。
綺麗にハモって、「サボっていない」とエリオットに言い返す。■■
【???・ディー】
「僕達、休憩時間なんだよ」■■(※既存シナリオの「双子1」より)
【???・ダム】
「そうそう。
いい天気の日なら少しくらいの休憩も許されるよ」■■
【???・ディー】
「こんないい天気の昼間に仕事なんて……。
こんな日は体を動かさなきゃね」■■
【エリオット】
「何が休憩だ。
んなのはとっくに終わってるはずの時間帯だろうが!」■■
エリオットが、自分より大分小さい二人を上から睨み付ける。
いざこれから説教に突入しそうな雰囲気だったが、ブラッドがそれを遮った。■■
【ブラッド】
「……後にしろ、エリオット。
このお嬢さんへの紹介が先だ」■■
【ブラッド】
「殺される前に紹介しておこう、アリス。
うちの門番達だ」■■
物騒な言葉と共に、そう紹介される。■■
(この子達が……門番!?
御用聞きや小間使いじゃなくて?)■■
考えてみれば下っ端なら紹介もしないだろうが、門番だというのには驚く。
この大きな門の番が、二人の子供とは。■■
【ディー】
「こんにちは。
僕は、トゥイードル=ディー」■■
「よろしくね、お姉さん」■■
【ダム】
「こんにちは。
僕は、トゥイードル=ダム」■■
「よろしく、お姉さん」■■
息がぴったり。
エコーがかかっているみたいだ。■■
「こんにちは」■■
「私は、アリス=リデル。
よろしくね」■■
定番の挨拶をすると、にこりと微笑まれた。■■
好印象。■■
この世界には珍しくまともな子達。
……と思ったのは、最初だけだった。■■
【ディー】
「可愛いね、お姉さん。
僕らと遊ばない?」■■
【ダム】
「ねえねえ、ボス。
このお姉さん、ボスの女?」■■
【ブラッド】
「残念ながら、違うな」■■
【ディー】
「ふ~ん、じゃあ、フリーなんだよね?」■■
【ダム】
「フリーって、もったいないよね。
僕らなんかどう?」■■
「ど、どうって……」■■
【ディー】
「僕もフリーなんだ。
試してみない?」■■
「僕達のどっちがいい?どっちが好き?
それとも、両方がいい?」■■
【ダム】
「ただでいいよー」■■
くらりと眩暈がする。
「…………」■■
「……ブラッド」■■
【ブラッド】
「なんだ?」■■
「……あんた、どういう教育しているのよ!?」■■
【ブラッド】
「おや。
私は、雇い主であって保護者じゃない。教育なんてしていないさ」■■
ブラッドは、飄々として答えた。■■
彼に責任があるかどうか……、あってもなくても、どちらにしてもこんな調子だろう。
我関せずといった態度が板についている。■■
【ディー】
「子供扱いしないでよ、お姉さん。
僕ら、ちゃんと働いてるんだよ?」■■
【ダム】
「いいギャラもらってるんだから」■■
下町では、働いていてもおかしくない年だ。
しかし……。■■
「この子達が……、門番?」■■
やはり信じきれずに尋ねると、彼らの上司はゆったりと頷いた。■■
【ブラッド】
「ああ。
腕はたつよ」■■
「……誰でも彼でも殺してしまう、困った子達だがね」■■
短い説明は妙に説得力がある。■■
【ディー】
「お姉さんの顔は覚えたから、安心して」■■
【ダム】
「殺さないよ」■■
【ディー】
「気軽に遊びに来てね?」■■
「……気軽には来られないと思う」■■
愛想よく言われたが、後ずさってしまう。■■
ボスを始め、その相棒だというウサギ耳の青年も、部下の双子も。
マフィアに相応しく、命の危険を感じさせる面子が揃っているようだ。■■
【【【時間経過】】】
◆時計塔・展望台◆
「時計塔」にやって来た。
あの階段を登るのは一苦労だが、それでも足が向く。■■
【ユリウス】
「おまえは、アリス……。
……なぜ、ここに来た。なんの用だ」■■
久しぶりに会ったユリウスは、前に会ったときと変わらず無愛想だった。
当たり前だ。■■
ここ数日(時間の移り変わりに法則性がなさすぎて、何日かは分からない)くらいで、彼の偏屈さが取り除かれるはずもない。
劇的な何かがあろうと、それでも彼の性格は変わりそうにない。■■
「……なんとなく?」■■
来ていてなんだが、疑問形だ。
歓迎されやしないことは分かっていた。■■
それでも、嫌がらせのように来てしまった。■■
【ユリウス】
「なんとなくだと?
なんとなくで来るな。仕事の邪魔だ」■■
「あなたといると落ち着くの」■■
【ユリウス】
「……薄気味の悪いことを言うんじゃない」■■
「ははっ」■■
この偏屈そうな感じ、変わりそうにない態度が落ち着く。■■
「私、ユリウスのことが好きかもしれない」■■
【ユリウス】
「…………」■■
胡散臭げな目で見られる。■■
「変な意味じゃないわよ?」■■
【ユリウス】
「誰も、変な意味だなんて言っていない」■■
「物言いたげな目をしているじゃない」■■
正確に言うと、文句のありそうな目だ。■■
【ユリウス】
「そう感じるのなら、変なことを言うのはやめろ」■■
「冷たいわねー……」■■
だが、そういう冷たいところ、人に好かれるか否かを気にしていない部分に好感が持てる。■■
(私も……、なんだかなー……)■■
【ユリウス】
「余所者なら、他にもっと歓迎されるところがあるだろう。
なんだって、こんなところに来るんだ」■■
「そうなんだけど……」■■
寄ると触れると好かれる(らしい)という、こんな設定の世界に入って会いに行く人物がユリウス。
本当に、なんだってと思う。■■
「……私、人に好かれたくないのかもしれない」■■
【ユリウス】
「…………」■■
【ユリウス】
「……私は壊れた時計の修理をしている。
それが仕事だ」■■
【ユリウス】
「地味だが、時計を触っている間は気が休まる」■■
「……?
うん?」■■
【ユリウス】
「……邪魔をしないなら、たまに見にきてもいいぞ」■■
「……!」■■
「ありがとう、ユリウス」■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地◆
【ゴーランド】
「おっ、今帰りか。
どうだった、他の領地への外出は?」■■
遊園地に帰り着くと、しばらくしてゴーランドに出くわす。
手には、いつものようにバイオリン。■■
(本当に、封印してくれないかな……)■■
ボリスが土にでも埋めてくれればいいのに。
……いくらでも次のものを出せる相手には通用しないが。■■
「ただいま。
どうだったかと聞かれると……、とても返答に困るわ」■■
【ゴーランド】
「ええっ、困るって……なんでだよ?他領土に行ってたんだろ?
何か興味を引くものはなかったのか?」■■
「興味を引くもの……?」■■
(興味っていうか……)■■
そんな平和な言葉で表現できるのだろうか。
帽子屋屋敷にしろハートの城にしろ、住人が強烈・危険すぎる。■■
「興味というか、何というか。
まあ、二度と忘れられない人達に会ってきたことは間違いないわね」■■
【ゴーランド】
「はは、よっぽど色々あったみてえだな。
まあ、役持ちはどいつもこいつも個性が強いからな~」■■
【ゴーランド】
「……危ない奴もいるしな。
手から凶器を離さない、みたいな奴」■■
「【大】自分のことを言っているの?【大】」■■
【ゴーランド】
「ええっ!?何言ってんだよ?
まあ、必要な場ではともかく……、俺はそうそう武器を持ち出したりしないぜ?」■■
【ゴーランド】
「そういうのは、帽子屋んとこの双子とか、ハートの城のすぐに剣を抜く騎士とか。
……会わなかったか?」■■
「ええ、会ったわ」■■
双子の門番は斧を持っていたし、エースは早速剣を抜いて現れた(というか斬られかけた)。■■
しかし、ゴーランドも負けず劣らずの武器を持っている。
……驚異の超音波殺人兵器を。■■
【ゴーランド】
「会ったなら、分かるだろ?
あいつらと俺を一緒にするなよ……」■■
「いえ、あなたの場合、自覚がない分……。
ある意味、もっと怖いっていうか……」■■
後半は、ぼそぼそと言ってしまう。■■
【ゴーランド】
「……んん?なんだ?
話が戻るが、色々回ったなら結局どこが一番気になったんだ?」■■
「え、うーん?
だから、そう言われても……」■■
食い下がられたので、考えてみる。■■
「回った場所で、特に気になるところといえば……。
そうね……」■■

1:「ハートの城」
2:「帽子屋屋敷」
3:「時計塔」