TOP>New Novel> 「 =RPGシチュエーション・ラブ=  職業別の恋愛噺 」> 01~10 ◆06:悪い魔女×弟子(2)

=RPGシチュエーション・ラブ=  職業別の恋愛噺

『01~10 ◆06:悪い魔女×弟子(2)』

=RPGシチュエーション・ラブ=  職業別の恋愛噺いろいろ
06:悪い魔女×弟子(2)
悪い魔法使いと弟子 小_





~~~

東の魔女→マゼンダ/弟子→キルフェゴール

~~~

くすくす、うふふ。
あははは、けたけたけた。

笑い声が近くから遠くから聞こえてくる。

薄布が幾重にも垂れ下がり、高さの測れない天井。
宙に浮いた、ぼんやりとした灯り。
漂う妖しげな香りと、ほのかな煙。
上ったり下りたりする螺旋階段。
布で仕切られ、区切りがあるのかないのか、どこからどこへ繋がっているのかも分からない、無数の空間。

挨拶周りを終え、クッションに沈んでいたところを絡まれた。

「マゼンダ、おまえ、弟子を食っちゃったんだって?
最低~外道~」

「……はあ?
何言ってるの」
(気色が悪いなあ……)

魔女たるもの、たまには集会にも顔を出さねばならない。
そして、気色悪い男とはいえ、同格なら仲間付き合いもしなくてはならない。

「え~っと、何、ヤバげなお薬キメちゃったの?
あんた、耐性強いのだけが取り柄だったのに……。
……道徳でも諭す気?」
胡乱な目で見ると、南の魔法使いはけたけたと笑った。

「まっさかまさか~、誉めてんだよ!
最低や外道なんて、俺らの界隈じゃ、誉め言葉っしょ」
南の魔法使いは、しつこく擦り寄ってくる。
「いや~、あのクソ生意気なガキ、嫌いだったんだよね~。
あいつ、どういうふうに食っちゃったの?
泣き喚いた?無駄な抵抗した?」

「はあ……。
鬱陶しいわよ、あんた」
(っていうか、こいつ、キルフェゴールがもう子供じゃないって数えてないんじゃないの。
……幼児だった頃のままで計算止まってそう)
魔女や魔法使いにありがちな話ではあるが、見た目通りの年齢ではないせいか、年数の計算がおかしくなっている。

「なあなあ、どんなトラウマ残してやったんだよ~、教えてよ~~」
「だから、鬱陶し……」

ざく!
南の魔法使いの背後から景気のいい音がする。

「……あ?」
「お師匠様は嫌がっておいでです」
「う、わあ、わああ!?
刺さってる!刺さってる!」
「適切な距離を持って接していただきたいんですよねえ。
近すぎます」
「刺さってるって、これ、ちょっと!?
超痛い!痛いんだけど!ちょっと!?」

暴れまわる、南の魔法使い。
それを冷たい目で見る、我が弟子。
……会話はまったく成り立っていない。

「とれないんだけど、これ!痛い!!
何、おまえ、弟子つれてきたの!?なんで!?」
責められても、どうしようもない。
(いや、連れてきてはいないんだけど……)
「あー……、なんか勝手についてきちゃったみたい。
ごめんごめん……、抜く?」
南の魔法使いの背には、弟子愛用のナイフがぐっさり刺さっている。

「当然だよ!確認なんかいらないから、さっさと抜けよ!
キルフェゴール、てっめ……」
刺された南の魔法使いは怒りのままに勢い込んで、キルフェゴールの胸元を掴む。

「引っ張らないでくださいよ。
お師匠様から頂いた服が伸びる……。
……何です?まじまじと」
「…………」
弟子の言うとおり、まじまじと南の魔法使いはキルフェゴールを見る。
最初は顔を、そして上から下まで見下ろして……ふき出した。

「ぶっひゃははははははははは!」
「……?」
「キルフェゴール、おまえさあ、なんかデカくなってない!?
でもさ、魂とかちっとも濁ってないじゃん!そんなにデカくなってるのに!
ぎゃはは、何、何なの、実は手なんか出されてないの!?
出してもらってないんだ!?ぎゃははははは」
「…………」

「ひゃははははは、超おっかしい!
大したことしてもらってないだろお~?」
「…………」
「あっはは、報われないなあ!
片想い!かわいそお!いい気味いい気味!
ぎゃはははは、はは、は、はわ……!?」

「…………」
キルフェゴールは無言のまま、魔法使いの片足を引っ掛けた。
巻き込むように膝裏に足を合わせ、片手を伸ばし相手の背に沿わせる。
「……っ!?」
途中、魔法使いの背に刺さったナイフを抜いた。

「ぐ、げ!?」
急に重心が後ろに向かったため、キルフェゴールの襟元を掴んでいた手が緩む。
魔法使いはどすんっと、後ろへ倒れた。

「いで!?
あいたたたた!痛い!痛いって!」
「……痛くしてんだよ」
キルフェゴールは怒り心頭らしく、やや素が出ている。

「痛いめに、あいたいんでしょう?」
彼は、ナイフを片手でくるりと一回転させる。
そのまま、魔法使いの腹に刃を落とす。
「ぐ……、あ!?」

「あぐ!っぐ!!っ!
って~~~~っっ!」
「南の魔法使い様ともあろう御方が俺なんかに構ってくださって……。
甘えちゃいますよ」
何度も何度も刺していく。

「ぐ、っは、いて!いてえって!
このクソガキ!って!ぐ!」
「まだまだ俺は、子供なので。
大目に見てください、南の魔法使い様」
「こ……んの……童貞野郎!
××××××!××××××××!!!」

南の魔法使いは、後半、禁止用語になりそうな罵り言葉を連発していく。

血の臭いが辺りを漂い始める。
集会場であるこの場では珍しくもない香りだが、当事者にとっては洒落にならない事態なはず。
(しかし、緊張感がないなあ……)
襲われている側が、冗談のようにもがくからだろうか。
ふざけているかのような応答だ。

「……もう童貞じゃありませんよ、失礼な」
「っは、似たようなもんだろ、××××!××××××!
××××××××××!!」
実に低俗、全部を伏字にしたいくらいだ。

「×××××……、い……っ!って!
っっ、ごほ!ごぼっ!!」
ぐさぐさ刺していく過程で、微妙に急所をずらしている。
本気で引き伸ばそうとは思っていないようだが、意地が悪い。
「ぐ、ご……っ!
が……っ!!」

「……え~と、キルフェゴール」
「……はい、お師匠様」
ぴくぴくと痙攣している魔法使いを、更にぐさぐさと……。
特に感慨もなくなったようで、ひたすら上下運動を繰り返していく。

「ああ、ようやく動かなくなった」
「え~~と……。
殺しても、すぐ生き返るわよ、そいつ」
「……知っています」

(そうよね……)
現・南の魔法使いといえば、魂食いで有名だ。
いくつ命があるのか分からないような男。
一度や二度殺したくらいではビクともしない。

(永遠に近く生きようだなんて、私とはまったく気が合わないけど)
「キルフェゴール。
あなた、こいつのこと嫌いだったの?」

「いえ、南の魔法使い様のことは尊敬していますよ。
実は強いし、お師匠様と同格ですし……」
「……まあね。
甘えさせてもらったと思って、生き返った後で秘薬の一つも分けてあげたら?
多少の粗相は許してくれると思うわ」
刺し殺しておいて尊敬するも何もないものだが、そういう考え自体が一般論だ。
異常者しかいないような世界では通じてしまう。

「許してくれますかね」
「……こいつは、壊れた奴だから」

キルフェゴールはナイフを抜き、さっと血を飛ばす。
布を取り出して拭き取る仕草も慣れたものだ。
「戦に敗れた小国の地主の息子で、母親と妹を犯されたうえ生きたまま切り刻まれるのを見させられて奴隷落ち。
敵討ちを誓うも冤罪で投獄、壮絶な拷問の末、無念のまま獄死したんでしたっけ」
「……あら、意外と詳しい」

「省略せずに言うなら、母親と妹を犯さて切り刻まれただけじゃなく、見させられた後に母親と妹の一部を食わされたとか、ゲロ吐きそうなエピソードもうじゃうじゃあるんですよね。
どうでもいいんで省略しますけど……、華麗な経歴ですよね」
「……本当に詳しいわね」
魔に属する部類になったからには、確かに華麗なる経歴だ。

「まあ、大方合っているわ。
未だに戦勝国が嫌いで、戦争となれば勝ったほうを後で破滅させるの大好きなのよ、こいつ」
近くで垂れ下がっている薄布を破り、呪をかけた上で南の魔法使いに掛けてやる。
血の臭いは隠し切れないが、目くらましくらいにはなるだろう。

(でも、集会だし……。
悪い精霊とかも一杯寄ってきちゃっているのよねえ……)

くすくす、ははは、あははははは。
きゃははははは。
ふふ、うふふふふふふふ。

南の魔法使いがぎゃあぎゃあと喚いている辺りでは掻き消されていたが、静かになると笑い声が響いてくる。
さざめくように、遠く近く。

遠く……、近付いてくる。

「いい餌があるから巻き込まれちゃうかも。
……移動するわよ」
死体から体を離し、歩き出す。
空間の仕切りになっている薄布をめくると、また同じような空間。
灯りがふわふわと浮遊して、追ってくる。

「ついてらっしゃい。
……はぐれないで」
(ここまで一人で来られたくらいだから、心配なんて無用だろうけど)
振り返らず、後ろに手を伸ばすとすぐに掴まれる。

(熱い手)
ちっとも変わらない。


***


「拾ってあげましょうか」
「あんた、誰?」
私を見上げた子供は、やせ細り、痣だらけだった。
色白というより青白い肌を見る限り、栄養も足りていなさそうだ。

燃え落ちる納屋で藁にまみれて蹲っており……、そのまま放っておけばよく燃えそうではあった。
今にも死にそうに弱々しいが、見上げた顔には生気がある。

「私?
私は人攫いよ」
物好きだなとは自分でも思う。
だが、この子供はなかなか美味しそうだ。

「あなたの両親も、お兄さんだかお姉さんだか家族連中も、ご近所さんも全部全部殺しちゃった」
正確にいうと、使い魔の餌にしてしまったのだが、この子供を同じ扱いにするのは惜しい気がした。

だって、この子はこの村を憎んでいる。

(虐待でもされていたのかしら?
どうでもいいけど、熱量はなかなかのもの)
辺りを包む炎にも負けていない。

憎悪と怨嗟。
憎む村を滅ぼした私に、同じ感情は向かないだろう。
この子供は私を憎まない。
だとすれば、むしろ感謝されるべき私が、彼を殺すのはおかしい気がしたのだ。

「俺に、両親なんていないけど……。
……そっか、殺してくれたんだ。
あんた、強いんだね。」
「ええ、すごく強いわよ。
それにすごく残酷でもあるの」

救い主などではないとアピールしたつもりだったが、子供の返事は早かった。
「じゃあ、ついていく」
「簡単に答えるわねえ……。
……酷いめにあわされるかもよ?」

「いいよ。
でもさ、一度拾ったのなら二度と捨てないで」

(あら、意外と重いことを言うのね)
何かトラウマでもあるのだろうか。
……どうでもいいことだ。
軽いより、少しばかり重いほうが張り合いもある。

子供は手を伸ばし、私はその手をとった。


***


「ついてらっしゃい。
……はぐれないで」
後ろに手を伸ばすと、すぐに掴まれる。
私がかつて彼の手をとったように、迷いがない。

(熱い手)
温かいというより、熱い手だ。
初めて触れたとき、驚いたのを覚えている。

「あなたは……、変わらないわね」
「俺はもう、子供じゃありません。
……はぐれても、追いついてみせます」
子供扱いされたと思ったのか、キルフェゴールはぎゅっと手の力を強くする。

「あなたを未熟者扱いにしているわけじゃないわよ?
ここまで自力で来られるくらいなんだし……」
(……そういえば、どうして集会なんかに来たのかしら)

「でも、同格ってわけじゃないでしょう。
俺はあんたと対等じゃない」
「まあ、それは……」
キルフェゴールは、まだ私の弟子。
東の魔女の一番弟子だ。
それだって大した呼称なのだろうけど、自身に明確な称号がついた魔法使いではない。

「そんなに焦らなくても……。
まだ、もうしばらくかかるでしょう。
……偉大な魔法使いになるには」
そうあっさりなれる、簡単なものではないのだ。
それに、そう簡単になってほしくない……と思う自分もいる。
(もうしばらく、弟子のままでいてよ)

「お師匠様、あの人のこと、好きなんでしょう?」
「は……?」
「南の魔法使い様のこと、好きでしょう?」
「……はあ、そうね。
嫌いではないけど」
好きかどうかでいうと……、好きだ。
……弟子に殺されるのを放置しているあたり、「好き」というのも憚られるが。

「好きなはずです。
同格っていうことは、同じくらいむごいめにあってきたっていうことだから」
ぎくりとする。
(まあ、当然知っているわよね。
南の魔法使いのことを調べておいて、師匠を調べないはずもない)
手汗をかいてきた気がするが、離すのもあからさますぎる。

「理不尽な暴力や苦痛は、魔の糧になる。
恨み辛みが強いほど、自分自身をも贄に出来る」
教科書を読み上げるように、キルフェゴールは言う。
私が教えたままだ。

「……同じくらい外道なクズってことよ」
同格ということは、舐めてきた辛酸も似たようなものであるということ。
キルフェゴールの言っていた「ゲロ吐きそうなエピソード」は、私にだってうじゃうじゃある。

幾つもの部屋を通り、幾つかの階段を上る。
そして、下りる。

途中、理不尽な暴力や苦痛を苦痛を受ける者に何度も遭遇する。
ここは魔女と魔法使いの集会。
血や薬の臭い、死臭もありふれている。

私達はすべてを素通りした。

「俺は……。
お師匠様が好きな人は、嫌いです。
お師匠様が嫌いな人は、憎いです。
お師匠様が好きなんです」
詠うようなキルフェゴールの言葉。
どんな悲鳴より響いて聞こえる。

彼の声だけ大きく聞こえるのは、私にとって彼だけが特別になってしまったからだ。

「……っ」
繋いだ手を引かれ、私は後ろにのけぞった。
キルフェゴールは、回転させる要領で私の肩に腕を回して抱き寄せる。

「俺は強くなりたいんです。
同格になるくらい強くなるためにも、俺にもっと色々教えてくださいよ。
……トラウマになるようなめにあわせてほしい」
「だって、あなた、傷つかないでしょう。
私が何をどんなふうにしても。
……偉大な魔法使いに育ててあげたいから、もっと傷つけてあげなきゃいけないのに」
喪うものが大事なものであればあるほど、効力も強くなる。

「私は師匠失格なのかもしれない」
少なくとも、いい師匠とはいえない。
だって、本当はもう分かっている。
彼を偉大な魔法使いにしてあげられる方法。

「……私を殺せば、あなたは師を超えられるわよ」
それが一番確実で、手っ取り早い。
大事なものなら踏みつけ、糧にしてこそ外道になれる。
「超えたいわけじゃありません」
そう言う弟子は、私の復讐が未だ完結していないことも知っているのだろう。

体を離され解放されたかと思えば、指を絡めてしっかりと繋がれ、そのままキルフェゴールのほうが先導して歩き出す。
師匠である私のほうが導かれるように、引かれていく。
今までとは逆だ。

「偉大な魔法使いなんかどうでもいいから……。
俺が強くなれないなら、せめてあんたのために死にたい」
未熟なのは今や、彼ではなく私。
こんなことを言ってくれる弟子が出来ようとは、復讐を誓ったあの日には想像もしていなかった。
手をとって、熱いと感じたときに、もっと警戒すべきだった。

「そんなに焦らないでよ……」
(そんなに急かさないで。
まだもう少し、先延ばしにして)

以前は、握り返す手だけが熱かった。
初めて体を重ねたときは、顔も熱くなった。
そして、今は胸まで熱い。

(この子を殺したら、私はもっともっと強く……偉大な魔女になれるんだろうな)

それは、つまり、弱くなったということ。





魔法使いと弟子2 小
喪いたくないものが出来てしまうだなんて。
――――――――――悪役にとっては、弱点でしかない。





Fin.

~~~

悪い魔女×弟子。
第2段を書いてみました。