TOP>New Novel> 「 =RPGシチュエーション・ラブ=  職業別の恋愛噺 」> 01~10 ◆05:殺人鬼×探偵

=RPGシチュエーション・ラブ=  職業別の恋愛噺

『01~10 ◆05:殺人鬼×探偵』

=RPG恋愛=シチュエーション・ラブ
05:殺人鬼×探偵
05:殺人鬼×探偵1




~探偵視点~

私は名探偵。
頭脳と推理能力を誇り、数々の難事件を解決。
国家の機構に属さず、その身軽さでもって、大陸でも有数の実績を上げてきたのだ。

今回も重犯罪者を追い詰め、最後の仕上げ。

警吏達が犯人を取り囲み、逃げられないようにする。
それを確認してから、決め台詞。

「私にはお見通しよ!
犯人はあなたでしょう!」

(……なんて茶番なの)

いや、「お見通し」もクソもない。
今回の事件ときたら、まったく推理のし甲斐がなかった。
この犯人ときたらトリックも何もなく、ばっさばっさと殺していき、去っていくのみ。
ただ、被害者はもちろん、目撃者も関係者も、居合わせた人間すべてを殺していくものだから、足取りを追うのには苦労した。

「言い逃れしようとしても駄目。
あなたが犯人だということは明らかなんだから!
反論するならしてみなさい!論破してみせるわ!」

(むしろ、何か反論して。
でないと、私、出番ないから)

いつもなら、前置きとして(形式美ともいう)「アリバイが、あーだこーだ。協力者があーだこーだ」「密室トリックが、あーだこーだ。あーだこーだ」と長々説明するのだが……。

(……今、ここに探偵って必要?)
むしろ、「私、いらなくない?」というような……。

私が宣言するまでもなく、犯人は明らか。
しかも、犯人ときたら反論する気もないらしい。

「いかにも。
私が犯人です」

すえた臭いがする、廃工場の一角。
犯人は大きな鉈のような武器を携帯しており、料理人……いや給仕のような黒エプロンをしている。
そして、武器も衣服も血まみれだ。
被害者(であったモノ)が倒れており、臓器がばらまかれている。
その上、天井からは肉塊(何のだかは知りたくもない)が幾つか吊られている。

男は、ごく普通の……凡庸そうな外見。
しかし、普通すぎた。
この状況で驚きもしなければ、怯えもしていない。
通りすがりの一般人では有り得ない。

探偵などいなくとも、彼が犯人で間違いないと分かる。
それ以外にどう解釈するんだというくらい、分かりやすい状況だ。

「私は、いわゆるシリアルキラー。
何人、何十人、何百人かは殺してきましたけど、正確な数は覚えていません。
とにかく、たくさん殺してきました。
……私を追ってきたあなたなら、ご存知ですよね、探偵さん?」
「え、ええ。
あなたは覚えていないみたいだけど……、全員には及ばないものの調べ上げた」

この男は、たくさんの人を殺してきた。
人を人とも思わない、殺人鬼だ。
追っていく過程で、他の誰より詳しくなった。

そう、追っていく過程では私……探偵という存在も必要だったのだ。
だが、犯人を突き止め、犯人も認めた今、探偵はまったくの役立たず。

(もう推理なんて必要ないもの)
頭はあっても、体力は人並みな私。
出来ることは、もうない。

「……たくさん殺してきました。
誰も残さないくらい、たくさん」
「ええ、目撃者は誰もいなかったわ」
「物証だけで人を追うのは案外難しいものです。
特に私みたいに物にも場所にも拘らない、根無し草を追いかけるのは……大変だったでしょう?
にも関わらず、あなたはここまで追ってこられた」
「まあ、それが仕事だから」

「でも、そんなあなたなら分かっているはず。
私は、たくさん殺せるんですよ?
……誰も残さないくらい、たくさん、たくさん」
彼はひらっと、手を広げた。
そうしたポーズなら、よく見える。
手に持った鉈のような武器だけではなく、エプロンのポケットに物騒な武器があれこれ……。

(そう、私さえ手こずらせた。
隠れもせず、ここまで逃げ切った殺人鬼だもの。
……こんな人数で、到底捕まえられるものじゃない)

分かっていた。
そして、もちろん忠告した。
だが、聞き入れられなかった。

ここが、部外者たる探偵の限界だ。
犯人を突き止めれば、依頼者に教えなくてはならない。

依頼者が善良だが愚かな警吏で、功を焦って忠告を聞かなくても……。

(この人数じゃ、絶対に無理だって止めたんだけどなあ)
探偵としては依頼者を見捨てるわけにはいかない。

頭脳ならともかく、体力面で探偵は一般人と大差ない。
太刀打ちできないと分かっていても、ついてきてしまう程度に探偵は『善』だった。

「……で、私が犯人ですけど。
これから、どうするんですか?」
犯人は手首を捻り、くるりと武器を回した。
表情も変わらず、動揺はない。
彼には、結末が見えているらしい。

(……ですよねえ。
皆殺しにする気まんまんか)
彼にとっては、いつも通りの流れ作業のはずだ。

「……捕まえるんだって」
「あなたが?
そんなに愚かなんですか」
「……いや、この人達が」

取り囲む警吏が見えないわけでもなかろう。
だが、彼にとっては物の数ではない。
そして、下手をすれば警吏より弱い私ではいても無駄。

……もう、どうにもならない。

「観念しろ!」
「ひっ捕らえるんだ!」

一応、探偵の犯人当て口上を待っていてくれたらしい。
功績に目がくらんではいるものの、正義感に燃える警吏達。

犯人に向かっていこうとする彼らの姿は、相手を知る私からすれば無謀としか言いようがない。
無駄と知りつつ見捨てられもせず、それに引っ付いてきた私は、もっと愚か。
名探偵のつもりが、そう賢くもなかったというのがオチ。

(……ああ。
詰んだな、これは)

人生の詰み。
探偵、一巻の終わり。

(だけど、まあ……。
名探偵の幕引きに相応しい、凶悪犯だわ)

天晴れというほどの『悪』だ。
ぎらりと光る武器より、鈍く曇る目に魅入られた。

敵として不足なし。
そういう意味では納得できた。


***


~殺人鬼視点~

私は殺人鬼。
特技は人殺しと解体、たくさん殺してきた。数は忘れましたが、たくさん。
特に目的もこだわりもなく、勝手気ままに、たくさんたくさん殺してきた。

自立して以来立ち寄っていないものの、実家は肉屋。
だからか、なぜだか、みんなみんな肉に見える。

(肉は、解体しなくては)
あえていうなら、使命感。
あまり解体をしない期間を作ると腕は鈍るし、仕事をさぼっているような気にもなる。

しかし、実家の精肉店は兄が継ぐ。
兄は嫁を貰ったし、親も健在。
次男が手伝うほど、大きな店でもない。

店以外……実家周りで熱心に腕を磨けば、近所付き合いにも影響してしまう。
だから故郷を離れ、こうして自立したというわけです。

村を出れば、外界は広く、たくさんの『肉』が屠殺・解体を待っている。

大忙し。
肉屋は大繁盛。
順番待ちだ。

(都会の暮らしとは、忙しないものだなあ)
田舎者の自分には、故郷を出るまで想像できなかったほど忙しい。
慣れないうちは怪我を負ったり、追われて窮地に陥ったこともあった。

だが、それも初期の頃だけ。
手際はよくなり、取りこぼしもなくなり、やるべき仕事は円滑に。
慣れてきて、飽きてきてしまった。

(慣れてきた頃が危ないっていうけど、危なかったことも大してなかったし……)
飽きてはきたが、仕事は続ける。

働かざるもの、食うべからず。
家訓というほどのものではないが、我が家の教えだ。
だが、都会の肉というのは口に合わない。
何度か口にしてみたが、吐いてしまうほどマズイ。

食べもしない肉を大量生産しているという、肉屋としての矛盾も感じ始めていた。

そんなとき。
久しぶりに追われている感覚を味わった。
手応えと、緊張感。
まだ見ぬ相手に、追跡されて……。

追われ、辿りつかれる。

「私にはお見通しよ!
犯人はあなたでしょう!」

(ああ、この人は『肉』じゃない)
目の前の女性。
この人は探偵だ。
追われている最中、自分も調べた。

仕事の出来る、優秀な人。
自分とは職業こそ異なるものの、同じプロフェッショナルだ。
痺れる。

「いかにも。
私が犯人です」
そう自己紹介するときも、高揚した。

初対面なのに、服が汚れていることだけが恥ずかしい。
もっときちんとしたときに会いたかったのに。
よりにもよって、中途半端に仕事の途中だ。

だが、彼女は臆さない。
(素敵な人だ)
精肉業というのは女性に顔を背けられるものだが、彼女ときたら私の正体を知った上で責め立ててくる。

「……で、私が犯人ですけど。
これから、どうするんですか?」
「……捕まえるんだって」
「あなたが?
そんなに愚かなんですか」
まさか、と、聞きながらも即座に否定できる。
優秀な彼女が、有り得ない。
追われる段階の攻防……、あの緊張感を思い出す。

ぞくぞく、ぞわぞわと背に走る、あの緊張。

「……いや、この人達が」

(……ああ。
ですよねえ……)
探偵は優秀。
だが、依頼人も優秀とは限らない。

彼女は優秀なゆえに犯人を突き止め、それゆえ依頼人は死に向かう。
もちろん、彼女は止めたのだろうけど。
(ああ、ああ、そんなことが分かるほど、私はあなたを理解したというのに)

彼女だって、私を理解してくれている。
追われているとき、追い詰められてく過程で、誰より深く分かり合った。

(それなのに)
なぜ、彼女の隣にいるのは自分ではないのだろう。

(ああ、無情……)
隣どころか、向かい合い、対峙している。

もちろん、この位置も悪くない。
飽きてきた仕事にも、やりがいを見出せる。

だが、それより何より悔しい。
妬ましい。
彼女の隣には、他の警吏より親密そうな男がいる。

よくある、探偵にとっての助手役。
決まった助手はいないと調べがついていたから、恐らくは今回限りで、依頼人側の関係者なのだろう。
物語の定番だ。必ず、探偵にはそういった役回りのサブがつくものだ。

(ああ、憎らしい)
思いのままに、業務用洋包丁を振るった。

早く。
早く、早く。
彼女の隣を独占したい。
この気持ちを伝えたい。

(あなたは素晴らしい?)
(あなたを愛しています?)
(誰よりあなたを理解して、あなたに理解してもらえるのは私です?)
どれもこれも陳腐な言葉だ。
もっと、もっと伝えたい言葉がある。

「私を、あなたの助手にしてください」

(まずは、実際に仕事振りを見せて、優秀だと分かってもらおう)
これは求愛……、そして求職活動だ。


***


~探偵視点~

「私を、あなたの助手にしてください」

「はあ……」
最後の一人を捌いた後、犯人は私に向かってそう言った。

辺りは血まみれ。
元から酷い惨状だったが、今や赤くない場所をみつけるほうが難しい。

まず、私の隣の青年から殺された。
続けて斬られるものかと覚悟したが、最後まで後回し。

仕上げにと意識されたのかと思いきや、最後の最後、この提案だ。

「本気?」
「ええ、もちろん」

改めて、犯人を見る。
そして、床に転がる死体を。

依頼人には報酬を貰ったし、隣にいた青年は見習い警吏で捜査中に世話になった。
気のいい連中で、見捨てることも出来なかった。
しかし、残念ながら、全員が死んでしまった。
どうすることも出来ず、巻き戻せもしない。

(……だけど、助手がこの男くらい優秀だったら、こんな事態も防げるのよね)
また、次回。
探偵が探偵である限り、次がある。

探偵は『善』であったが、ワーカーホリックでもあったので。

「どうです。
助手にしてくれますか?」

答えは決まっていた。

「喜んで!」





05:殺人鬼×探偵2
結局、同類。
――――――――――最高のタッグ、結成!





Fin.