本編(ブラッド・エリオット・ナイトメア)
● 場面(帽子屋屋敷・ブラッドの部屋)
【【【演出】】】・・・カチャ、とソーサーからティーカップを持ち上げる音
【ブラッド】
「ふう……。夜の紅茶は、やはり格別だな」■■
【【【演出】】】・・・ノックの音
【ブラッド】
「誰だ?」■■
【【【演出】】】・・・ドア越しの遠い声ここから↓
【エリオット】
「俺だ、ブラッド」■■
【【【演出】】】・・・ドア越しの遠い声ここまで↑
【ブラッド】
「エリオットか。どうした?今は、仕事は何も与えていないはずだが……」■■
【【【演出】】】・・・ドア越しの遠い声ここから↓
【エリオット】
「ああ、仕事は関係ないんだけど、ちょっと話があってさ」■■
【【【演出】】】・・・ドア越しの遠い声ここまで↑
【ブラッド】
「ふむ……、まあいいだろう、入れ」■■
【【【演出】】】・・・ドア越しの遠い声ここから↓
【エリオット】
「おうっ」■■
【【【演出】】】・・・ドア越しの遠い声ここまで↑
【【【演出】】】・・・カチャッとドアの開く音
【【【演出】】】・・・室内に入ってくる足音
【エリオット】
「寛いでるとこ悪いな、ブラッド」■■
【ブラッド】
「前置きはいい。用件は何だ?」■■
【エリオット】
「あのさ。そろそろ、休む……ってか、寝る予定はないか?」■■
【ブラッド】
「は……?今さら何を言っている。夜は私の最も好む時間帯だぞ、せっかくの夜に眠るわけがないだろう」■■
【エリオット】
「ああ、もちろんそれは知ってるけどよ。たまには夜に寝るのもいいんじゃねえ?」■■
【ブラッド】
「そんな勿体ない過ごし方はしない。というより、そもそもなぜおまえが私の就寝時間を気にするんだ?」■■
【【【演出】】】・・・カップをソーサーに戻す音
【ブラッド】
「おまえに限ってはないだろうと思っていたが、まさか、はかりごとか?私の寝首でもかくつもりなのかな?就寝時間を直接確認しているようでは、意味がないが……」■■
【エリオット】
「な!?馬鹿言うなよ、そんなわけないだろ!俺がブラッドを裏切るわけがねえ!!」■■
【ブラッド】
「では、何なんだ。気色が悪いから、回りくどいことはやめてさっさと話せ」■■
【エリオット】
「う……。お、俺はその……、おまえと眠る時間帯を合わせたいと思って……」■■
【ブラッド】
「なぜ私とおまえが、眠る時間帯を合わせなくてはいけないんだ?気色の悪い……、起床をあわせるような仕事は入っていないだろう」■■
【エリオット】
「え?それは……だな……。うーん、今は言い辛いっていうか……」■■
【【【演出】】】・・・銃声
【エリオット】
「あ、危ねえっ。な、何で撃つんだよ!!?」■■
【ブラッド】
「おまえがぐだぐだと鬱陶しいことを言い続けているからだろう。当てていないだけ有難いと思え」■■
【エリオット】
「鬱陶しいって……、ひでえ。ちょっと口籠っちまっただけだろ。俺、説明とかあんまりうまくないからさ」
■■
【ブラッド】
「説明が出来ないからといって、わけの分からない態度を取るんじゃない。本当にどうした……、オレンジ色の有害物が、胃から脳にまで侵食したとしか思えないおかしさだぞ……」■■
【エリオット】
「えぇ?何だよ、オレンジ色の有害物って。つーか、俺は正常だぜ?」■■
【ブラッド】
「正常だというなら、私に意味不明な詮索を入れてきた理由を、簡潔に説明してみせろ……」■■
【エリオット】
「か、簡潔に……。うう、だから、そういうの苦手なんだって、俺……」■■
【【【演出】】】・・・ナイトメア出現の効果音
【ナイトメア】
「ふ、その説明は、私が代わろう」■■
【エリオット】
「ナイトメア!」■■
【ブラッド】
「芋虫か。おまえが出てきたということは……」■■
【ナイトメア】
「ああ、今まで通りの君の部屋だが、ここはもう私の夢の中だ。悪いが強引に引き込ませてもらった」■■
【ブラッド】
「ふん、気に入らないな。私は自分のしたいことだけをする。夢をみるのも同じことだと、前に話したはずだが?」■■
【ナイトメア】
「分かっているさ。だから、君が自分から眠りに入ってくれるのを待とうとしていただろう」■■
【ブラッド】
「……ん?ああ、なるほど。エリオットが就寝のタイミングを気にしていたのは、そういうわけか」■■
【エリオット】
「そう!そうなんだよ、一緒に夢でナイトメアと合流したくてさ」■■
【ナイトメア】
「しかし、あれではいつ二人で夢にやってきてくれるか分かったものではない。早々に私が諦めたよ」■■
【ブラッド】
「そこまでの事情は分かった。では、じっくりと聞かせてもらおうか。なぜおまえが、私とエリオットにこんな接触をしてきたのか。まずは、新しい紅茶を用意してからな」■■
【ナイトメア】
「結局、いついかなるときも紅茶なんだな、おまえは……。まあいい、ある意味、これからの話に合っている」■■
【【【時間経過】】】
【【【演出】】】・・・ティーカップをソーサーに戻す音
【ブラッド】
「……アリスの誕生日パーティー?」■■
【ナイトメア】
「そうだ。少し前に彼女と話していたら、時間の流れが曖昧になってしまったので、誕生日が来たのかどうかも分からない、という話になってね」■■
【ブラッド】
「そうだな。そもそもこの世界には日付がないのだから、どうしようもない。だが、お嬢さんがそんなことを言いだすということは……?」■■
【ナイトメア】
「ああ。この世界に来る前の時点で、誕生日は数か月後だった。ここでの生活も長くなって、自分が年をとったのか、そうでないのか、気になってきたんだろう」■■
【ブラッド】
「数か月後……、そうだったのか」■■
【エリオット】
「アリスが初めてうちの屋敷に来たとき、誕生日を祝おうとか、半分冗談みたいに話したよな。あのときはアリス、『今日は誕生日じゃない』っていうから、結局誕生日を祝ったのかどうか、よく分かんない感じになっちまったけどさ」■■
【ブラッド】
「くく、そんなこともあったな。最終的には、『なんでもない日』を祝ったんだったか……。もう、ずいぶん前のことのように感じられる」■■
【ナイトメア】
「実際、短くはない時間帯が過ぎているだろう。アリスはこの世界を夢のようなものだと思っているが、その中にもやはり『時間』は存在する。我々がこの世界に存在するように、彼女もまた……。いや、そういう話は抜きにしても、誕生日が気にかかるのは女の子なら当然のことだろう」■■
【ブラッド】
「それで、改めて正式にアリスの誕生日を祝おう、と。そういうことか」■■
【エリオット】
「ああ、そうだ。少し前に、ナイトメアが俺の夢にやってきて、この話を持ち掛けてきたんだよ。俺もいいんじゃないかと思って、次はブラッドに相談したくてさ」■■
【ブラッド】
「なるほどね……」■■
【【【演出】】】・・・ティーポットを持ち上げる音
【【【演出】】】・・・紅茶をカップに注ぐ音
【ブラッド】
「家主の私より先に、エリオットに話を持っていくとは。おまえもなかなか姑息だな、ナイトメア」■■
【【【演出】】】・・・ガチャ、と茶器が鳴る音
【ナイトメア】
「姑息はないだろう、姑息は。まずおまえに話すと、情報だけ提供して、出し抜かれかねないからな」■■
【ブラッド】
「そうだろうな。私がその話を聞いたら、すぐにでも準備をして、直ちに盛大なパーティーを開くだろう。おまえは、それでは不満で、エリオットを先に味方に付けた、と」■■
【ナイトメア】
「もちろん、不満だ。私だって、アリスの誕生日は祝ってやりたい」■■
【エリオット】
「要するに、アリスの誕生日パーティーを夢の中でしようってことなんだ。それだったらナイトメアも参加出来るし、現実じゃできないことも、し放題だろ?」■■
【ブラッド】
「夢の中でのパーティー、ね。発案がナイトメアだということと、ここまでのやり方が気に食わないが……まあ、いいだろう」■■
【【【演出】】】・・・ソファから腰を浮かす音
【エリオット】
「ブラッド!それじゃあ……!」■■
【ブラッド】
「この程度で興奮するな、座れ。……構わない。お嬢さんが喜ぶことなら、たまにはそんな酔狂に加わるのもいいだろう」■■
【エリオット】
「やった!さすがブラッドだぜ、話が分かる!」■■
【ブラッド】
「ただし、エリオット、ひとつだけ約束しろ。これだけはという約束だ……」■■
【エリオット】
「え?なんだよ。改まって。約束なんかしなくても、俺、アリスのためなら……」■■
【ブラッド】
「そう、アリスのため、そして私のためでもある。約束しろ……、料理に、オレンジ色の物体の使用は一切禁止だ」■■
【エリオット】
「え、えええええ!?それって、にんじんが駄目ってことか!?」■■
【ナイトメア】
「くっく……。まあ、当然の条件だろうな」■■
【エリオット】
「そ、そんな……。にんじんの料理とかお菓子がなきゃ、アリスだってきっと寂しがるぜ?ブラッドのためにもならねえよ」■■
【ブラッド】
「そんなことはない。夢の中なんだ、美味いものなどいくらでも出し放題だろう。だが、オレンジ色の料理は認めない。それが守れないなら、この話はナシだ」■■
【エリオット】
「うう……。わ、分かったよ」■■
【ナイトメア】
「落ち込むな、三月ウサギ。誕生日パーティーで食べられなくても、いつも自分の夢の中で浴びるほど食べているだろう?」■■
【ブラッド】
「浴びるほど……。う……、おまえの夢にだけは、死んでも入りたくないな……」■■
【ナイトメア】
「ああ、この先も主従関係を続けて行きたいなら、そのほうがいいだろうな。
……では、そういうことで話は決まった。次回は早速、誕生会の詳しい構想を練ろう」■■
【ブラッド】
「……いいだろう。では、またいつかの夢の中で。次回は、強引に引き込むのはやめてほしいものだな」■■
【ナイトメア】
「分かっているさ」■■
【【【時間経過】】】
● 場面(夢の中・ガーデンパーティ会場)
【【【演出】】】・・・小鳥のさえずり
【【【演出】】】・・・噴水の水音
【ナイトメア】
「会場は、こんな感じでどうだ?」■■
【ブラッド】
「ああ、いいだろう。咲き乱れる花に噴水、心地よい風……、なかなかのガーデンパーティー会場だ」■■
【【【演出】】】・・・草の上を走り回る足音(少し遠くで)
【【【演出】】】・・・やや遠くで張り上げる声ここから↓
【エリオット】
「ひっろいな~!うちの庭園も見事だけど、ここも引けをとってないぜ!やっぱり、パーティーって言ったら屋外がいいよな!」■■
【【【演出】】】・・・やや遠くで張り上げる声ここから↑
【ブラッド】
「はしゃぐな、エリオット。戻ってこい!」■■
【【【演出】】】・・・やや遠くで張り上げる声ここから↓
【エリオット】
「あ、すまねえ!今行く!!」■■
【【【演出】】】・・・やや遠くで張り上げる声ここから↑
【【【演出】】】・・・走って近付いてくる足音
【エリオット】
「悪い。なんか、わくわくしてきちまってさ」■■
【ナイトメア】
「本当に、ウサギというより犬だな……。浮かれる気持ちは分かるが、まあ落ち着け。……では次は、テーブルと椅子を出すか」■■
【【【演出】】】・・・ナイトメアの力で物が出現する効果音(ぽん、ぽん、とか)
【エリオット】
「おおっ、両方出てきた!夢ってのは、マジで便利だよな」■■
【【【演出】】】・・・ペチペチと手でテーブルを叩く音
【ナイトメア】
「えっへん!私の力がすごいんだ。ここまで凝った造りの物を出せるのは、私の想像力のおかげだぞ?」■■
【エリオット】
「へえ~……っ」■■
【【【演出】】】・・・椅子を、杖でコツコツと叩く音
【ブラッド】
「デザインは悪くない。強度も、問題なさそうだな」■■
【ナイトメア】
「当たり前だろう……。座れないような椅子など出さないよ。杖で叩くのはやめてくれ」■■
【ブラッド】
「念のためだ。何せ、おまえが催しを取り仕切ると、ろくなことがないからな」■■
【ナイトメア】
「ぐぐ……っ。そ、そんなことは……っ」■■
【ブラッド】
「あるだろう?そういえば、フォローを一手に引き受けていたおまえの補佐はどうしている?おまえのほうはお嬢さんとも親しくなって、ほとんど夢に籠りっきりのようじゃないか。また奴に面倒事を押し付けているのか?」■■
【エリオット】
「あー、あいつな。あんたが夢から出てこないからって、ストレスできりきりしながら仕事してそうだよな~」■■
【ナイトメア】
「奴の話は、今はいいだろう!私の部下なんだ、私の留守を守るのは当然の役目だ!」■■
【エリオット】
「いや、留守なんて言葉で片付くレベルじゃないだろ。ほとんど行方不明じゃねえか」■■
【ナイトメア】
「行方不明でいい!私がいなくても、あいつが本気を出せば大体の仕事はどうにかなる!」■■
【ブラッド】
「……それ、自分で言っていて虚しくはないのか?」■■
【ナイトメア】
「う!?う~ん?う~……、ううう……。とても虚しくなってきた……、げほ、ごほんっ」■■
【ブラッド】
「都合よく体調まで悪くならないでくれ。血を吐くなよ、縁起が悪い」■■
【【【演出】】】・・・掌で口を押える音
【ナイトメア】
「ごほごほ、ぐほん、がほん……。が、我慢する……」■■
【ブラッド】
「……周囲の風景が少し寂しいな。ナイトメア、あそこの木に装飾をつけたり、他にもオブジェのようなものを出してくれないか?」■■
【ナイトメア】
「がほん、けほっ。……あ、ああ」■■
【【【演出】】】・・・ぽんぽんぽん、と装飾とオブジェが現れる効果音
【エリオット】
「お、いいな!賑やかで明るくなった」■■
【ブラッド】
「うむ、よくなったな。次は、料理を出してみてくれるか?」■■
【ナイトメア】
「料理だな?よ、よし……。けほけほっ」■■
【【【演出】】】・・・ぽぽぽぽん、とテーブルに料理が並んでいく効果音
【エリオット】
「おおっ、美味そうだぜ!……にんじんが入ってないのが残念だけど」■■
【ブラッド】
「何か言ったか、エリオット?」■■
【エリオット】
「い、いやあ……っ、な、なんにも言ってないぜ」■■
【ブラッド】
「よし、では次は、BGMを奏でるオーケストラを……」■■
【ナイトメア】
「がほげほごほ、がぼっ。わ、私で遊んでいないか、おまえ……っ?」■■
【ブラッド】
「【強調】まさか【強調】。外での仕事を放棄しているんだ、夢の中でくらい、しっかり働け」■■
【ナイトメア】
「ううう……。ひ、人使いが荒いぞ、帽子屋……」■■
【【【演出】】】・・・ぽぽぽぽん、とオーケストラの人が出現する効果音
【【【演出】】】・・・クラシックの音楽演奏
【エリオット】
「おーー!これは格好いいな!」■■
【ナイトメア】
「ぜえぜえ……。ぐは、ごほ……っ」■■
【ブラッド】
「ふむ、上出来だ。会場はこれでいいだろう。次は……」■■
【ナイトメア】
「……つ、『次は』?まだ何かあるのか……っ?」■■
【ブラッド】
「ああ、もちろんあるとも。だが、安心しろ。おまえに出せという代物ではない」■■
【エリオット】
「ナイトメアに出させないのか?何なんだ、それ?」■■
【ブラッド】
「おまえ達、本気で忘れているのか?誕生日と言ったら、決まっているだろう。……プレゼントだよ」■■
【エリオット】
「あ……!」■■
【ナイトメア】
「げほん……っ、そ、そういえば……」■■
【ブラッド】
「プレゼントのない誕生日パーティーなど、話にならない。だが、さすがにこれは夢魔に任せてしまっては、こちらの面目が立たないからな。プレゼントに関しては、夢の力を借りずに、各自がきちんと用意しようじゃないか」■■
【エリオット】
「現実で、買ってくるってことか?」■■
【ブラッド】
「そう。買おうが作ろうが自由だが、現実で、だ。といっても、夢魔は余所の国の住人だ。現実で渡しようがないから、おまえに関しては、夢の中だけのものになるが」■■
【ナイトメア】
「構わないよ。私と彼女の関係は、夢の中がすべてだ。現実なんてものは、むしろ意味がない」■■
【ブラッド】
「……そうだな。我々は外で用意してくるから、夢の中で同じ形を再現してくれ」■■
【ナイトメア】
「ああ、分かった」■■
【エリオット】
「プレゼントかぁ。何がいいんだろうな~」■■
【ブラッド】
「それが、次回までの宿題だな。……今回はここまでにするか」■■
【ナイトメア】
「ごほんごほん……っ。では、目覚めるといい。……また今度」■■
【【【演出】】】・・・夢の空間がぼやけていくような効果音
● 場面(帽子屋屋敷・街)
【【【演出】】】・・・人のざわめき
【【【演出】】】・・・エリオットの足音
【エリオット】
「プレゼント、プレゼント……。ああ、一体何を贈りゃいいんだ!?わ、わかんねえっ!」■■
【【【演出】】】・・・エリオットの足音
【エリオット】
「俺、こういうのは苦手なんだよな。女の趣味とか喜ぶものとか、さっぱりだし……」■■
【【【演出】】】・・・立ち止まる足音
【エリオット】
「ん?あの店、やけに女の客が出入りしてるな。けどあんな所、俺一人で入るわけには……」■■
【ブラッド】
「おや、エリオット」■■
【【【演出】】】・・・ざざっと飛び退く音
【エリオット】
「えっ!?うあっ、ブ、ブラッド!!?」■■
【ブラッド】
「おまえは、いちいち反応が大袈裟すぎる。驚きすぎだ。……姿を見ないと思ったら、おまえも街に出てきていたのか」■■
【エリオット】
「あ、ああ。まあ、な……」■■
【ブラッド】
「くっくっく……。隠す必要はない。アリスに渡すプレゼントを探しているんだろう?」■■
【エリオット】
「う……っ。そ、そういうブラッドは、どうしたんだよ?おまえがこんな昼間に街に出てくるなんて、珍しいじゃねえか?」■■
【ブラッド】
「むろん、私の目的も同じだ。パーティーまで、もうあまり間がないからな。いつまでも迷ってはいられない」■■
【エリオット】
「迷ってられない……つうことは、もう買うものは決まってるってことか?」■■
【ブラッド】
「当然だ。なるほど、おまえのほうは、まだ何を贈るかも決めかねているのか……」■■
【エリオット】
「ううう……」■■
【ブラッド】
「おまえは、こういうことにはてんで馴染みがない男だからな……。私でよければ、アドバイスをしてやろうか?」■■
【エリオット】
「アドバイス?」■■
【ブラッド】
「アリスの趣味や好みは、おまえより私のほうが細かく把握していると思うぞ?」■■
【エリオット】
「そうだろうな……、ブラッドの観察眼って、半端ないし……。でも、アドバイスはいらねえ!」■■
【ブラッド】
「おや、そうなのか?」■■
【エリオット】
「ああ。ブラッドに教えてもらって用意するんじゃ、俺がアリスのために買ったとは言えないからな。こういうことは得意じゃねえんだけど、ちゃんと自分で考えて買うぜ」■■
【ブラッド】
「ほう……」■■
【【【演出】】】・・・たっと走り出す足音
【エリオット】
「じゃあな、ブラッド!お互い、いいプレゼントを用意しようぜ!」■■
【【【演出】】】・・・走り去っていく足音(遠のく)
【ブラッド】
「ふ……、くっくっく。なかなか可愛いことを言うようになったじゃないか。アリスの存在は偉大だな……」■■
● 場面(ナイトメアの夢)
【【【演出】】】・・・夢の空間の効果音
【ナイトメア】
「アリスにプレゼント、か……。夢の中でなら出せないものなどないが、一体どうすればいいんだろうな。彼女は、欲しいものなど特に思い付かないと言うし……。うーむ、悩む……」■■
【【【演出】】】・・・風景が変わる効果音
【【【演出】】】・・・風の吹く音
【【【演出】】】・・・小鳥のさえずりと噴水の水音
【ナイトメア】
「帽子屋に仕切られたのが癪ではあるが、いい会場が用意できた。ここで帽子屋屋敷の連中と盛大に祝ってあげられれば、アリスもきっと喜んでくれるはず……」■■
【【【演出】】】・・・パタパタと鳥の羽音
【【【演出】】】・・・近くで鳴く鳥の声(楽しげ)
【ナイトメア】
「ふふ、おまえ達も楽しみか?私も楽しみだよ。だがそのためには、最高のプレゼントを用意してあげないとな。ううむ……、どうしたものか……」■■
【【【演出】】】・・・小鳥のさえずりと噴水の水音
【【【時間経過】】】
● 場面(夢の中・ガーデンパーティー会場)
【【【演出】】】・・・小鳥のさえずりと噴水の水音
【【【演出】】】・・・風の吹く音
【ブラッド】
「よし、ではそろそろ料理を整えてしまおうか」■■
【ナイトメア】
「ああ、分かった」■■
【【【演出】】】・・・ぽぽぽぽん、とテーブルに料理が出現する音
【エリオット】
「あれっ、なんか、前回より豪勢になってないか?」■■
【ナイトメア】
「再検討して、一部のメニューを変更したんだよ。いい感じだろう?さすが私!このセンスを褒めてくれ!」■■
【ブラッド】
「料理の出来はなかなかだが、踏ん反り返るのは、すべての準備が整ってからにしろ、芋虫」■■
【エリオット】
「なんだよ~。入れ替えるなら、ひとつくらいにんじん料理を混ぜといてくれても……」■■
【ブラッド】
「【強調】何か言ったか、エリオット?【強調】」■■
【エリオット】
「な、何も言ってないぜ、あ、あはははっ」■■
【【【演出】】】・・・ブラッドが椅子のひとつを動かし、座る音
【ブラッド】
「前と同様に周囲の装飾も頼むぞ。あと、少し風が強いな……、彼女の髪は長い、風にさらわれては食事も面倒だろう。もう少し弱めろ」■■
【ナイトメア】
「く……、自分一人座って……!本当に人使いが荒いな、おまえは!」■■
【ブラッド】
「何を言う。おまえしか出来ないんだ、当然だろう。ほら、さっさと進めてくれ」■■
【ナイトメア】
「う……ぐぐぐ……っ」■■
【【【演出】】】・・・ぽんぽんぽん、と周囲の装飾が出来ていく音
【【【演出】】】・・・そよそよと弱い風の吹く音
【ブラッド】
「ああ、いい風になったな」■■
【エリオット】
「結局やるなら、最初から大人しくやってりゃいいのに」■■
【ナイトメア】
「うるさい!誰も彼も、夢の中でも私より偉そうな奴ばっかりだ!!ここは夢魔である私の領域だというのに!!私は拗ねるぞ!」■■
【エリオット】
「拗ねるなって。何だよ、あんた、他の役持ちにも夢の中でこき使われてるのか?」■■
【ナイトメア】
「ああ、そうだとも。さすがは血というか、特にその男のあね……」■■
【【【演出】】】・・・ナイトメアの声を遮るように、ズガーンと銃声
【【【演出】】】・・・ナイトメアが倒れ込む音
【ナイトメア】
「あ、危な……っ!」■■
【ブラッド】
「おや、すまない。手が滑った」■■
【エリオット】
「手が滑っても杖が拳銃に変えられるなんて、ブラッドはすごいな!……ところで、血がどうとかって何の話だ?」■■
【ブラッド】
「血が足りていないから欲しい、と言ったんだろう」■■
【エリオット】
「あー、こいつ、万年貧血起こしてそうだもんな。あと、あねが何とかって……」■■
【ブラッド】
「特にアネモネの花のような、真っ赤な血が欲しい、ということだ」■■
【【【演出】】】・・・ポン、と手を打つ音
【エリオット】
「ああ、なるほど!こいつ、なんだか血まで薄そうだもんな!」■■
【【【演出】】】・・・ナイトメアががぱっと起き上がる音
【ナイトメア】
「納得するな、三月ウサギ!帽子屋っ、血が欲しい……なんて、それじゃ私がホラー小説の吸血鬼か何かみたいじゃないか!」■■
【ブラッド】
「ふふ……。貴重な自分の血をそれ以上減らしたくなければ、余計なことは言わないほうがいいぞ?」■■
【ナイトメア】
「ううう……っ。ひ、酷い……っ」■■
【ブラッド】
「……さて、会場の準備は万全だ。後はアリスを呼ぶだけだが、その前に、プレゼントを用意しなくてはいけないな」■■
【エリオット】
「おう、そうだな!って、本物は自分の部屋に置いてあるんだけどよ。どうすりゃいいんだ?」■■
【ナイトメア】
「うう、もう、私のことは流すわけだな……」■■
【ブラッド】
「芋虫、泣いている暇はないぞ。最後の仕事だ」■■
【ナイトメア】
「ぐす……っ。もうどうにでもしてくれ……」■■
【ブラッド】
「エリオット、両手を前に出して、おまえが用意したプレゼントを思い浮かべるんだ。できるだけ細部まで、しっかりと」■■
【【【演出】】】・・・腕を上げるときの衣擦れ
【エリオット】
「腕を前に?……こ、こうか?」■■
【ブラッド】
「ああ、それでいい。……ほら、ナイトメア」■■
【ナイトメア】
「はあ……、はいはい……」■■
【【【演出】】】・・・プレゼントが出現する効果音
【エリオット】
「おおおっ、プレゼントが出てきたぜ!」■■
【ブラッド】
「やけに大きな包みだな。結局何を買ったんだ、エリオット?」■■
【エリオット】
「え、ええっ!?そ、そんなの、今ここでは言えないぜ!」■■
【ナイトメア】
「……照れても、私には筒抜けだがな」■■
【エリオット】
「あっ!しまった……!」■■
【ブラッド】
「くっく……。まあいい、どうせパーティーの席でアリスが開封する。では、次は私だ」■■
【ナイトメア】
「はいはいはい……」■■
【【【演出】】】・・・プレゼントが出現する効果音
【エリオット】
「……ん?ブラッドの包みは、案外小さいな」■■
【ブラッド】
「プレゼントは大きさじゃない。贈る相手がどれだけそれを求めているか、だ」■■
【ナイトメア】
「大した自信だな。まあ、なかなかいいセンスだとは思うが……」■■
【ブラッド】
「おまえの評価は求めていない。
……さて、最後はおまえだ、ナイトメア。私の品を『なかなかいい』などと評するからには、よほど自信があるんだろうな?」■■
【ナイトメア】
「え?あ、う、それは……」■■
【エリオット】
「あれ、何だよ、ナイトメア?自信がないのか?」■■
【ナイトメア】
「ふ、二人共にやにやするな!ああ、そうさ。確かに自信はないとも!だが、私に出来うる最高のことを考えた!」■■
【エリオット】
「へえ……。何だよ、それ?」■■
【ナイトメア】
「え、ええ!?今聞くのか、それを?」■■
【ブラッド】
「当然だ。私達のプレゼントはおまえに見抜かれてしまっているというのに、フェアじゃないだろう」■■
【ナイトメア】
「ええええ!?いやしかし、それはおまえ達のプレゼントを出すために……」■■
【【【演出】】】・・・ガチャッと、銃を突きつける音
【ブラッド】
「どういう理由だろうがフェアではない。ほら、さっさと白状しろ。アネモネのような鮮血で、会場を汚したいのか?」■■
【ナイトメア】
「く……!わ、分かった、話す!話すから、銃をしまってくれ!」■■
【ブラッド】
「それでいい」■■
【【【演出】】】・・・銃が杖に戻る音
【ナイトメア】
「あ、私のプレゼントは、その……、この会場に、虹を出そうと思っている」■■
【エリオット】
「はあ?虹?」■■
【ブラッド】
「それのどこが、最高のことなんだ?夢だとすれば、大して奇抜な演出でもないと思うが」■■
【ナイトメア】
「もちろん、ただの虹ではない。彼女の小瓶……、あの中身を、虹に変えるんだ」■■
【ブラッド】
「!それは……!」■■
【ナイトメア】
「ああ……、おまえの考えている通りだよ、帽子屋。あの小瓶で、会場に綺麗な虹を掛けて……、できれば全員で、その虹に乗れればいいな。彼女とも、夢の中でそんな遊びをしたことがあるんだ」■■
【ブラッド】
「ふ……。それが、アリスへのプレゼントなのか?小瓶の中身を空にして虹に変えてしまうということは、つまり……」■■
【エリオット】
「え……、ちょっと待ってくれよ、二人共。俺には、さっぱり話が見えねえんだけど??」■■
【ブラッド】
「分からないなら気にしなくていい。ただ、それはアリスへのプレゼントと言うより、どちらかと言うと私達へのプレゼントに近い、ということだ」■■
【エリオット】
「え?アリスへじゃなくて、俺達へのプレゼント……?」■■
【ナイトメア】
「いいや、双方共へのプレゼントだ。そのほうが、彼女にとってもいい。
喜んでもらえるはずだ……、そう信じるのはおかしいか、帽子屋?」■■
【ブラッド】
「……いや。そうだな、おかしくはない。私達は、短くはない『時間』を彼女と重ねてきた。きっと彼女も我々を選んで……、喜んでくれるだろう」■■
【エリオット】
「選ぶ?なあ、俺にも分かるように……!」■■
【ブラッド】
「だから、おまえは分からないなら分からないままでいい。……ふ、ナイトメアにしては上出来なプレゼントだ。間違いなく、素敵な誕生日パーティーになるだろう」■■
【エリオット】
「ええ……!?」■■
【ブラッド】
「なんだ、いつまでもうるさい奴だな。おまえはアリスに楽しんでもらいたくないのか?」■■
【エリオット】
「そ、そんなわけないだろ!もちろん、アリスには楽しんでほしい!俺が……、いや、俺達みんなで、もっともっとあいつを楽しませてやりたいんだ!!」■■
【ナイトメア】
「それなら、何の問題もない。準備は整った……、パーティーを始めよう!」■■
【【【演出】】】・・・空間にドアが出現する音
【エリオット】
「うお!何もない所に、いきなりドアが!?」■■
【ナイトメア】
「この向こうに彼女がいる。しばらくお待ち願っていたからね。きっと、今か今かと待っていてくれたはずだ」■■
【ブラッド】
「それはいけない。お嬢さんを待たせるとは。……では、早く迎えてやらなくては」■■
【ナイトメア】
「ああ、アリスを招待しよう。最高の、バースデーパーティーへ!」■■
【【【演出】】】・・・きぃぃっとドアが開いていく音
END