3:本編
●場所(ハートの城の書庫)
【アリス】
「ちょっとブラッド、あなた一体何を考えているのよ!?突然テーブルを倒したかと思えば、私を抱えて会場を出たりして……!」■■
【ブラッド】
「これぐらいやらないと、退屈しのぎにならないだろう?お嬢さんにも楽しんでもらうための趣向だったのだが、お気に召さなかったかな」■■
【アリス】
「気に入るわけないでしょう!シャンパンタワーは滅茶苦茶にしちゃうし、あんな恥ずかしい格好で抱えられるなんて最悪だわ!大体私は退屈なんかしていなかったのに……」■■
【ブラッド】
「おや、そうだったかな」■■
【アリス】
「あなたが紅茶ばかり飲んでいなければ、ね。でも、他にエスコートしてくれるアテもついたし……。退屈しのぎにしたって、一人で行けばいいじゃない。どうしてこんな真似したのよ」■■
【ブラッド】
「君を狙っている奴は、あの猫や門番達以外にもたくさんいる。君を待たせて宝を探している間に、他の奴に君を奪われてしまったのでは、本末転倒だろう。それならいっそ、連れて来てしまったほうがいいと思ったわけだ」■■
【アリス】
「何よ、それ。大体連れて行くにしたって、こんな強引なやり方しなくても……。そもそも、争奪なんかしなくたって、紅茶ばかりにかまけていないでダンスに誘ってくれれば……。他の人が来てから乗り気になるなんて、失礼だわ」■■
【ブラッド】
「ふふ、やはり拗ねていたのか」■■
【アリス】
「な、ちが……っ!」■■
【ブラッド】
「あの時点でダンスに誘っても、どうせ途中で邪魔が入る。それに、欲しいものは奪うのが私の主義だ」■■
【アリス】
「いかにも、マフィアね」■■
【ブラッド】
「ふ、奪いとったほうが気持ちいいだろう。城にある宝も、君のことも……な」■■
【アリス】
「~~~っ!と、とにかく!会場を出て適当な部屋に入っちゃったけど、この大量の本……。ここって城の書庫よね?勝手に入って大丈夫なの?」■■
【ブラッド】
「鍵がかかっていなかったし、警備もいない。つまり、勝手に入ってもいいということだろう」■■
【アリス】
「それ、かなりの屁理屈だと思うんだけど。……それにしても、すごい本の量ね。図書館みたい」■■
【ブラッド】
「……楽しそうだな、お嬢さん。顔が弛んでいるぞ」■■
【アリス】
「う。たくさん本があるから、つい……。これなんか、読みたいと思っていた本だし。あ、これも。今度ビバルディに貸してもらおうかしら」■■
【ブラッド】
「本なら私の部屋にだってあるだろう。私の部屋に来ればいい」■■
【アリス】
「え?でもブラッドの部屋にある本とここにある本じゃあ、全然種類が違うでしょう」■■
【ブラッド】
「君が読みたいと言えば、どんな本でも取り寄せる。遠慮せずに言いなさい」■■
【アリス】
「え、いやいや、そんな……」■■
【ブラッド】
「君のためなら、私は……」■■
【【【演出】】】・・・足音×3
【ディー】
「あーっ、お姉さんとボス、見つけたっ!」■■
【ダム】
「こんなところにいたんだねお姉さん、探したんだよ」■■
【ボリス】
「アリス、無事かっ!?」■■
【アリス】
「ディー、ダム、それにボリスも!」■■
【ブラッド】
「……と、こんなふうにいいところで邪魔が入ると予想がついたからこそ、先刻は誘わなかったんだ。意外と早かったじゃないか、おまえ達」■■
【ディー】
「当たり前だよ。だってお姉さんを助けるためだもの」■■
【ダム】
「ボス、抜け駆けなんて卑怯だよ」■■
【ブラッド】
「卑怯なことなど、何もしていないだろう。私はただ、スタートの合図をしてやったまでだが?」■■
【ボリス】
「いやいや、アリスを連れて行くなんて充分汚いよ。早く返して」■■
【ディー】
「そうだよ、お姉さんを返してよ、ボス!」■■
【【【演出】】】・・・斧を構える音
【ダム】
「お姉さんは、僕らがお宝のところへ連れて行くんだ」■■
【【【演出】】】・・・斧を構える音
【ブラッド】
「返すも何も、おまえ達のものではないだろうに……」■■
【【【演出】】】・・・杖を構える音
【アリス】
「わ、物騒なことはやめなさいよ!?」■■
【ブラッド】
「安心しなさい。すぐにカタはつく。私が子供や動物に遅れをとるとでも……?」■■
【【【演出】】】・・・杖がマシンガンに変わり、それを構える音
【ディー】
「……どうしよう兄弟。このままじゃ、さすがに分が悪いかな」■■
【ダム】
「そうだね兄弟。ハートの国だと、これはまだ禁じ手だったけど……。お姉さんのためだから、ちょっとくらいいいよね」■■
【アリス】
「え!?」■■
【【【演出】】】・・・大人になる音
【アリス】
「ええ!?ちょっと!?こらこら!?」■■
【【【演出】】】・・・大人になる音
【アリス】
「いやいや、それは駄目!それは駄目よ!?」■■
【ディー(大人)】
「よし、大人になったことだし……。あらためて、ボス!お姉さんを返してもらうよ!」■■
【ダム(大人)】
「お姉さん。お姉さんのことは、僕達が守ってあげるからね」■■
【アリス】
「だ、駄目だって言っているのに……」■■
【ブラッド】
「ふん。大人になったからといって、あまり調子に乗りすぎるなよ」■■
【【【演出】】】・・・マシンガンを撃つ音
【【【演出】】】・・・斧で斬りつける音×2
【ディー(大人)】
「くっ……。さすがボス。容赦ないね」■■
【ダム(大人)】
「でも、お姉さんのため、負けるわけにはいかないよ」■■
【アリス】
「いやいや、私のためを思うなら、元に戻りなさいよ。それ、ハートの国じゃないから。企画ものといえど、禁じ手すぎるから……。……なぜか、劇場版では普通に出てきてるけど」■■
【【【演出】】】・・・銃声
【ボリス】
「ディー、ダム!俺も加勢する。帽子屋さんにばっかり、アリスといい思いはさせないぜ!」■■
【【【演出】】】・・・銃声
【【【演出】】】・・・斧で斬りつける音
【【【演出】】】・・・ドサドサと本が落ちる音
【アリス】
「あ、あんた達!ここを一体どこだと思っているのよ!?ああ、読みたかった本がボロボロに……!」■■
【【【演出】】】・・・ぐいっと引っ張る音
【ディー(大人)】
「お姉さん、こっちへ来て!」■■
【ダム(大人)】
「お姉さん、早くっ!」■■
【アリス】
「ええ!?ちょっと……。えええええ!?」■■
【【【演出】】】・・・走り去る足音×3
【【【時間経過】】】
●場所(ハートの城の食料庫)
【ディー】
「ふう。ここまで来れば安心だね、お姉さん」■■
【ダム】
「お姉さん、大丈夫?ボスに何か変なことされなかった?」■■
【アリス】
「……はあ」■■
【ディー】
「お姉さん!?ため息なんて吐いて、どうしちゃったの!?まさか、本当に何かされちゃったの!?」■■
【ダム】
「お姉さんに××××するなんて、ボスってば許せないよ、兄弟!」■■
【ディー】
「そうだよ!お姉さんに××××で××××なんて最低だよ!」■■
【アリス】
「放送禁止用語とびかうようなことなんてされていないわよ!」■■
【ディー】
「本当に?お姉さん、無事だったの?よかった~」■■
【ダム】
「でも、それじゃあ、どうして怒っているの?」■■
【アリス】
「怒るに決まっているでしょう!?ブラッドに何かされたわけじゃなくて、あなた達よ、あなた達!」■■
【ディー】
「僕達?」■■
【ダム】
「何かした?」■■
【アリス】
「しまくっているでしょう!?書庫であんなふうに暴れるなんて!そのせいで読みたかった本もボロボロになっちゃったし……!いいえ、何よりハートの国では子供のままでいなさいよ!大人厳禁!」■■
【ディー】
「もう、戻ったよ?」■■
【アリス】
「戻ればいいってものじゃ……!」■■
【ディー】
「ごめんね、お姉さん。でも僕達、ボスからお姉さんを取り戻したかったし……」■■
【ダム】
「それに、本なんかより、僕達がお姉さんにとびきりのお宝をプレゼントしてあげるよ?」■■
【アリス】
「私、お宝が欲しいなんて一言も言ってないんだけど。……はあ。ブラッドが会場を滅茶苦茶にしたのに続いて、今度は書庫もだなんて。ビバルディが知ったら、怒るわよ。また兵士さん達の首を刎ねるとか言い出しそう……」■■
【ディー】
「う~ん。でも、あのおばさん、最近はあんまり首を刎ねていないみたいだよ」■■
【アリス】
「え?」■■
【ダム】
「先刻お宝の話を聞いたとき、兵士達がそんな話もしていたんだ。ここのところ夕方の時間帯が続いていたからっていうのもあるけど、なんだか機嫌がいいみたい。何かあったのかな」■■
【アリス】
「ビバルディが?あ、そういえば……、この前会ったときも、機嫌がよかったような。どうしてだったかしら、何か理由があった気がするんだけど……」■■
【ディー】
「あのおばさんの機嫌がよくなることなんて、なんにしても物騒なことしか思いつかないけどね」■■
【ダム】
「首を刎ねる以外の、新しい処刑方法でも思いついたのかな」■■
【アリス】
「う。思い出さないほうがいい気がしてきた……。ま、まあいいわ。それより、ここはどこなの?」■■
【ディー】
「食料庫みたいだよ」■■
【ダム】
「城の食料庫だけあって、高級食材がいっぱい。転売すれば一儲けできそう」■■
【アリス】
「だ、駄目よ!あんた達、もうこれ以上ビバルディを怒らせるようなことは……」■■
【【【演出】】】・・・足音
【ボリス】
「見つけたぜ、おまえらっ!」■■
【ディー】
「あ、ボリス!」■■
【ボリス】
「ったく。人がせっかく加勢してやったっていうのに、帽子屋さんを俺に押し付けて、自分達だけアリスと一緒に逃げるなんてさ。おまえら、ずるすぎるぜ。……さ、もう気がすんだだろ。アリス、返してくれない?」■■
【ディー】
「僕達は加勢してくれなんて言ってないよ。お姉さんはボリスのものじゃないだろ」■■
【ブラッド】
「そうだとも。さあ、お嬢さんを私に返してもらおうか」■■
【ダム】
「ボス!」■■
【ブラッド】
「おまえ達、子供が遊ぶ時間はお終いだ。お嬢さんをこちらに渡しなさい」■■
【【【演出】】】・・・マシンガンを構える音
【ディー】
「お姉さんはボリスのものでもないけど、ボスのものでもないのに!どうする、兄弟……」■■
【ダム】
「待って、兄弟、ここは食料庫なんだから……」■■
【【【演出】】】・・・ごそごそと食料を探る音
【ディー】
「あ、そうだね、例のものが……」■■
【【【演出】】】・・・ごそごそと食料を探る音
【ブラッド】
「……ん?何をしているんだ、おまえ達」■■
【ディー】
「ボスっ!僕達からボスに、プレゼントだよ!」■■
【【【演出】】】・・・ひゅっと、物を投げる音
【【【演出】】】・・・べしゃっと、ブラッドの足元ににんじん料理が落ちる音
【ブラッド】
「っ!?足元に何か……。う、こ、これは……?」■■
【ディー】
「ふふ、舞踏会のために用意されてあった、にんじんパイだよ!」■■
【【【演出】】】・・・べしゃっと、ブラッドの足元ににんじん料理が落ちる音
【ダム】
「にんじんプディングににんじんスティック、パーティー用の特大にんじんケーキもあるよ!」■■
【【【演出】】】・・・べしゃっと、ブラッドの足元ににんじん料理が落ちる音
【ディー】
「なんだったら、そのまま新鮮な、生にんじんも取り揃えているよ!なんたってここは、食料庫だからね!」■■
【ブラッド】
「うっ……!?こ、このオレンジ色と匂い……。く、気分が悪い……」■■
【ダム】
「日頃お世話になっているボスに、僕達からの感謝の気持ちだよ!」■■
【ディー】
「たくさん食べて栄養つけてね、ボス!」■■
【【【演出】】】・・・べしゃっと、ブラッドの足元ににんじん料理が落ちる音
【ダム】
「栄養っていっても、カロチンに偏っているけどね!」■■
【【【演出】】】・・・べしゃっと、ブラッドの足元ににんじん料理が落ちる音
【アリス】
「こ、こら、あんた達!武器を振り回すよりはましだけど、食べ物を投げるなんて……!」■■
【ボリス】
「アリス!今のうちに、こっちだ!」■■
【【【演出】】】・・・ぐいっと引っ張る音
【アリス】
「え!?ええっ!?えええええ!?」■■
【ディー】
「ってああっ!?ボリス、抜け駆けなんてずるいよっ!」■■
【ボリス】
「にゃははは、おまえらだって先刻やっただろっ!それじゃあ、後はよろしく~!」■■
【【【演出】】】・・・去ってゆく足音×2
【【【時間経過】】】
●場所(ハートの城の冷凍室)
【ボリス】
「ふう~。大丈夫だった、アリス?」■■
【アリス】
「……大丈夫なわけ、ないでしょう」■■
【ボリス】
「ありゃ……。怒っているの?」■■
【アリス】
「当たり前じゃない!先刻から次から次へと連れまわされて、もうくたくたよ!」■■
【ボリス】
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。だって俺達、皆あんたと踊りたいんだぜ?そのためにも、早くお宝を見つけないと」■■
【アリス】
「私は宝なんか欲しくないし、こんな騒動に巻き込まれたくないんだけど……」■■
【ボリス】
「にゃはは。いいだろ~、たまにはこういうのも。スリルがあるってやつ?」■■
【アリス】
「そんなスリルは欲しくない。……なんで皆、普通に誘ってくれないのかしら」■■
【ボリス】
「ふうん?じゃあさ、アリスは、普通に誘ったら、俺を選んでくれる?他の全員の誘いを断って、さ」■■
【アリス】
「え……、それは……」■■
【ボリス】
「……ね?困るだろ?」■■
【アリス】
「はあ、そうね、今も困っているけど……。ねえ、ボリスならお城の中を走り回らなくったって、ドアを使えば宝物庫に行けるんじゃないの?」■■
【ボリス】
「にゃはは、何気に俺のその能力もハートの国では禁じ手なんだよね。まあ、そうすりゃ楽なんだけど。帽子屋さんや双子はドアを使えないのに、俺だけ使うなんて、ズルじゃない?」■■
【アリス】
「あら。そういうの、気にするんだ」■■
【ボリス】
「するよ。俺はもっと、正々堂々あんたを手に入れたいんだ」■■
【アリス】
「な……!?」■■
【ボリス】
「おっと。アリス、動かないで」■■
【アリス】
「え?ええ?」■■
【ボリス】
「先刻、ディーとダムが投げたにんじんケーキがちょっと当たっちゃったんだろ。首のところにクリームが付いてる。とってあげるよ」■■
【【【演出】】】・・・顔を近づける音
【アリス】
「な、なに、いきなり……。なんで、顔を近づけてくるのよ!?いいわよ、自分でとるから……!」■■
【ボリス】
「遠慮することないだろ~?俺が、舐めて綺麗にしてあげるよ?」■■
【アリス】
「な、舐めっ……!?」■■
【【【演出】】】・・・マシンガンを構える音
【ブラッド】
「やっと見つけたと思えば……、お嬢さんに何をしているのかな、おチビさん」■■
【ボリス】
「……なんだよ、帽子屋さん。今いいところだったんだけど?邪魔しないでくれる?」■■
【【【演出】】】・・・ジャキっと銃を取り出す音
【ブラッド】
「いいところで邪魔をしてくるのは、そちらだろう」■■
【【【演出】】】・・・足音×2
【ディー】
「あ、ここにいたんだね、お姉さん!」■■
【ダム】
「お姉さん、今度こそ僕らが守ってあげるね」■■
【【【演出】】】・・・斧を構える音×2
【ブラッド】
「ふむ……。やはり宝探しなどと面倒なことはせず、最初から実力行使しておくべきだったか」■■
【アリス】
「待ちなさい!いいかげんにしなさいよ、あんた達っ!」■■
【ブラッド】
「心配するな、すぐに終わるさ」■■
【アリス】
「すぐに破壊しつくすの間違いでしょ……、へっくしゅん!」■■
【ボリス】
「アリス!?」■■
【ディー】
「どうしたの、大丈夫、お姉さん!?」■■
【アリス】
「な、なんだかここ、先刻から寒くない……?ここは、一体なんの部屋なの?」■■
【ボリス】
「さあ……、適当に入っちゃったからね。でも、言われてみればすごく寒い……。ぶるぶる」■■
【アリス】
「ここも食料庫なのかしら……?食料らしきものもあるけど」■■
【ブラッド】
「ふむ。この周りにある食料は、すべて冷凍保存用のもの……。つまり、ここは、城の冷凍室だろう」■■
【ディー】
「どうりで、すごく寒いはずだね」■■
【ダム】
「お姉さん、こんなところにいたら風邪ひいちゃうよ。早くここから出よう!」■■
【ブラッド】
「そうだな。ひとまず体を暖められる場所に行こう。おいで、お嬢さん」■■
【ボリス】
「アリス、とりあえず出ようぜ?体が震えているよ」■■
【アリス】
「……嫌よ」■■
【ボリス】
「え?」■■
【アリス】
「ここを出たら、どうせまた撃ったり斬ったりする気でしょう?なら、ここから出ないわ」■■
【ディー】
「え、ええ!?何言っているのさ!こんなところにずっといたら、風邪をひいちゃうよ!?」■■
【ダム】
「そうだよ、お姉さんは弱っちいから、すぐに風邪で死んじゃうよ。お姉さんは代えがきかないのに、そんなの嫌だよ!」■■
【ボリス】
「そうだよ。そんな薄着でここにいるなんて、自殺行為だぜ?」■■
【アリス】
「うるさい!あんた達ときたら人の話もまったく聞かず、あちこち連れまわすし武器を出すし……。もう付き合っていられないわ!」■■
【ディー】
「お姉さん……」■■
【ダム】
「お姉さん……」■■
【ボリス】
「アリス……が、切れた」■■
【ブラッド】
「……しかし、いつまでもこんなところにいたら、本当に風邪をひいてしまうぞ」■■
【アリス】
「……もう喧嘩しないって約束するなら、出るわ」■■
【ボリス】
「はあ……、切れたときでも冷静なんだからなあ。わかったよ。もう撃ったりしないから、早くここから出よう?」■■
【ブラッド】
「まったく困ったお嬢さんだ。もっと自分を大事にしなさい」■■
【アリス】
「あなた達に言われたくないわよ」■■
【ディー】
「いいから、お姉さん、早く出よう!」■■
【ダム】
「大丈夫!?死なないでね、お姉さん!」■■
【アリス】
「大袈裟ね、いくらなんでも死んだりしないわよ。確かに、風邪くらいはひきそうだけど……。へくしゅっ」■■
【ディー】
「大変だ!早くお姉さんを暖めてあげないと!」■■
【ダム】
「そうだお姉さん、僕達、先刻暖かい部屋を見つけたんだ。案内してあげる!」■■
【【【時間経過】】】
●場所(ハートの城のサウナルーム)
【アリス】
「はあ……。やっと、落ち着いた。本当に暖かい部屋ね、一息つけたわ」■■
【ブラッド】
「おや、もう平気なのか。私が暖めてあげようかとも思ったのだが……」■■
【アリス】
「遠慮します」■■
【ボリス】
「そうだよ。帽子屋さんより、猫のほうが体温高いぜ?」■■
【アリス】
「どっちも遠慮する」■■
【ディー】
「そうだよ、猫と引っ付いたら毛だらけになっちゃうよ。……さて。それじゃあ気を取り直して、お宝を盗み出す作戦会議といこうか、お姉さん!」■■
【アリス】
「ええ!?まだやるつもりなの!?」■■
【ディー】
「当たり前だよ。ここまで来て、お宝を見ずに引き下がれないよ!」■■
【アリス】
「そこは引き下がっておきましょうよ……」■■
【ダム】
「大丈夫。僕達もう喧嘩せずいい子にしているから、安心して」■■
【アリス】
「宝物庫から宝を盗もうとしている時点で、いい子とは言えないし……」■■
【ボリス】
「にゃはは、こいつらがいい子なわけないだろ?……それでディー、ダム。どうやって侵入するんだ?俺もアリスを探す途中でちょろっと見たけど、さすがにハートの城の宝物庫だけあって、その辺りの警備は厳重そうだったぜ」■■
【ディー】
「……あ。そういえば、宝物庫に繋がる隠し通路があるって、兵士達が話していたかも」■■
【ダム】
「わあ、兄弟、それを今になって思い出すなんて、僕ら企画の都合に振り回されているね」■■
【ディー】
「大人の事情ってずるいよね、兄弟」■■
【ダム】
「まったくだよ、兄弟。都合よすぎ」■■
【ブラッド】
「ふむ。企画に振り回されるのは癪だが、話の都合上、従わざるを得ないな」■■
【アリス】
「ああ、身も蓋もない……」■■
【ボリス】
「……あれ?どうしたの、アリス。顔が赤いよ」■■
【アリス】
「え?」■■
【ディー】
「本当だ。もしかしてお姉さん、暑いんじゃない?」■■
【アリス】
「い、言われてみれば……。暑くて、頭がぼーっとするような……」■■
【ダム】
「もう風邪をひいちゃったの?」■■
【ボリス】
「いくらなんでも早くないか?」■■
【ブラッド】
「いや、先刻から私も暑いのだが……。おまえ達。ここは一体何の部屋だ?」■■
【ダム】
「さあ?僕達は、なんだか暖かい部屋だなあと思っただけだよ。暖かいどころじゃなくなってきたけど……」■■
【ボリス】
「気付いてみると、かなり暑いな……。ふにゃあ」■■
【ブラッド】
「ここは……、内装は分かりづらいが、もしかして……、サウナルームなんじゃないのか?」■■
【ディー】
「ああ、言われてみればそうだね、兄弟」■■
【ダム】
「サウナルームなら暑いのも当たり前だよね、兄弟」■■
【ボリス】
「って、おまえら、のんびり会話している場合かよ!寒いところから一気に暑いところへ来たりしたら……!アリス、大丈夫か!?」■■
【アリス】
「うう……。頭がくらくらする……」■■
【ブラッド】
「急激な温度変化は体に悪いからな……。お嬢さん、こちらに来なさい。早くここから出るぞ」■■
【ディー】
「そうそう、出て、宝物庫へ行こう」■■
【アリス】
「うう……。もう、嫌……」■■
【【【演出】】】・・・足音×5
【【【時間経過】】】
●場所(ハートの城の隠し通路)
【ダム】
「……さて。ここが宝物庫への隠し通路だね」■■
【ボリス】
「うわ、結構あっさり着いちゃったな。何だかあっけないっていうか……」■■
【ディー】
「これも、話と時間の都合上、仕方のないことなんだよ」■■
【ダム】
「大人って色々あるよね」■■
【ディー】
「うん、僕らは今のところ子供だけどね」■■
【アリス】
「なんでもいいから、早く終わらせて帰りたい……」■■
【ディー】
「お姉さんも早く進みたいんだね!乗り気になってくれて嬉しいよ!さあ、行こう!」■■
【アリス】
「……もう反論する気力すらないわ。行くなら行くで早くすませましょう」■■
【【【時間経過】】】
【【【演出】】】・・・足音×5
【ボリス】
「う~ん、通路の中は結構暗いんだな」■■
【ブラッド】
「明るいよりはいいだろう。あまり眩しいのは、だるい……」■■
【アリス】
「そりゃあ、ブラッドは暗いほうがいいかもしれないけど……。足元がよく見えないと危険だし、なんだか怖いわ」■■
【ディー】
「お姉さん、はぐれないようについて来てね?」■■
【ダム】
「そうだ、手を繋ごうよ、お姉さん。そうすれば安全だよね」■■
【ボリス】
「また、おまえらは抜け目ないな……」■■
【アリス】
「さすがに手は繋がなくても、ゆっくり歩けば大丈夫だと思うけど……」■■
【ブラッド】
「ふむ、しかし……。宝物庫への隠し通路ともなれば、何か罠が仕掛けられていてもおかしくはない。お嬢さん、気をつけるんだぞ」■■
【アリス】
「ええ!?き、気をつけろって言われても……」■■
【【【演出】】】・・・猫の鳴き声
【アリス】
「え?ボリス、何か言った?」■■
【ボリス】
「いやいや、俺じゃないから。今のは、そいつの鳴き声だろ」■■
【【【演出】】】・・・猫の鳴き声
【アリス】
「猫?どうしてこんなところに猫が……」■■
【ディー】
「本当だね。どこから入ってきたんだろう」■■
【ダム】
「ボリスの知り合いなんじゃないの?」■■
【【【演出】】】・・・猫の鳴き声
【ボリス】
「知らないよ、こんな奴。首輪がないから野良猫みたいだけど、なんでわざわざこんなところに入ってきたんだ?」■■
【ブラッド】
「城の宝物庫だぞ?どうして入ってきたという以前に、どうやって入り込めたんだ……?」■■
【【【演出】】】・・・猫の鳴き声
【【【演出】】】・・・猫が去ってゆく足音
【アリス】
「あ、どこに行くのかしら……。待って、こんなところをうろうろしていたら、迷子になっちゃうわよ?」■■
【【【演出】】】・・・猫を追いかける足音
【ボリス】
「にゃんだよアリス、そんな奴放っておけばいいのに……」■■
【アリス】
「だってまだ仔猫みたいだし、心配だわ。私、元の世界では猫を飼っていたから、なんだか放っておけなくて……」■■
【【【演出】】】・・・猫を追いかける足音
【【【演出】】】・・・カチっとスイッチを踏む音
【アリス】
「……って、ん?今、何か踏んだ?」■■
【【【演出】】】・・・ザシュっと、壁からたくさん槍が出てくる音
【アリス】
「ぎゃっ!?」■■
【ディー】
「わあ、壁から次々と槍が出てくるよ、兄弟!」■■
【ダム】
「古典的な罠だね。こんなのにお金をかけるなんて、税金の無駄遣いだよ
【【【演出】】】・・・ザシュっと、壁からたくさん槍が出てくる音
【アリス】
「きゃああああ!?」■■
【ダム】
「……ともかく、お姉さんが刺されたりしないよう、片っ端から折っていこうか」■■
【【【演出】】】・・・斧で槍を折ってゆく音
【【【演出】】】・・・斧で槍を折ってゆく音
【【【演出】】】・・・ザシュっと、壁からたくさん槍が出てくる音
【ディー】
「わっ、折っても折ってもどんどん出てくるよ、この槍」■■
【【【演出】】】・・・斧で槍を折ってゆく音
【アリス】
「う、うわわわわっ、死ぬ死ぬ、死んじゃうっ……!」■■
【ブラッド】
「お嬢さん、こちらへ来なさい。走るぞ!」■■
【アリス
「ああもう、どうして舞踏会でこんなめにあわなきゃならないのよ~~~っ!?」■■
【【【演出】】】・・・走り去る足音×5
【【【時間経過】】】
●場所(ハートの城の宝物庫)
【ボリス】
「ふう。色々あったけど……、宝物庫にとうちゃーく!」■■
【ディー】
「ようやく辿り着いたね、兄弟!」■■
【ダム】
「金目の物が山ほどあるね。ふふふ……、きらきら輝いてる」■■
【【【演出】】】・・・きらきらきら~
【アリス】
「あなたの目のほうが輝いてるわよ……」■■
【ブラッド】
「目的はただの宝ではなく、更にその奥にあるという話じゃなかったか?」■■
【ボリス】
「そうそう。たしか、隠し扉があるんだったっけ?」■■
【ディー】
「あ、ねえねえ、これがその隠し扉なんじゃないのかな?」■■
【ダム】
「きっとそうだよ!この奥に、すっごいお宝が……。ふふ……」■■
【アリス】
「嫌々ついてきたはずなのに……、なんだかどきどきしてきちゃった」■■
【ボリス】
「よ~し、それじゃあ開けるぜ……」■■
【【【演出】】】・・・ゆっくりと扉を開ける音
【ディー】
「わ……!」■■
【ダム】
「え……?」■■
【ブラッド】
「なんだ……?」■■
【ボリス】
「こ、これって……!」■■
【アリス】
「大量の……」■■
【ボリス】
「ね、猫缶!?」■■
【【【演出】】】・・・ちーん、と気が抜けるような音
【ディー】
「どういうこと!?なんで宝物庫の隠し扉の中にあるのが、こんな大量の猫缶なのさ!」■■
【ダム】
「がっかりするにも程があるよ。お宝のラスボス扱いになってるのが、猫缶なんて!」■■
【アリス】
「……あ。そ、そうだ、思い出したわ。この前ビバルディ、すっごく高価で貴重な、猫マニア御用達の高級猫缶を手に入れた、って言っていたのよ」■■
【ボリス】
「はあ?」■■
【ディー】
「なにそれ!?」■■
【アリス】
「それで、最近は機嫌がよかったんだわ」■■
【ブラッド】
「ふむ、先ほどの隠し通路に猫がいたのはこのせいか。貴重な猫缶のありかを動物の勘で嗅ぎつけてきたのか、猫好きの女王自らが招きいれたのか。……しかし、いくら貴重とはいえ、猫缶は猫缶だ」■■
【アリス】
「でもビバルディ、嬉しそうにしていたわよ?これであのチェシャ猫も喜んでくれるだろう、って……」■■
【ボリス】
「え!?ちょ、ちょっと待って!まさかこの大量の猫缶、全部俺の……!?」■■
【ディー】
「……よかったね、ボリス。すごく高価で貴重なんだってさ」■■
【ダム】
「人気者……、ううん、人気猫はつらいね。僕達、猫じゃなくてよかった」■■
【ボリス】
「お、おまえら他人事だからって……。こ、これ、全部俺に食べさせる気なのか……。ふにゃあ、眩暈がしてきた……」■■
【アリス】
「ボ、ボリス、大丈夫?」■■
【ブラッド】
「猫オチか……。いかにも姉……いや女王のやりそうなことだ。一気に脱力したな、だるい」■■
【アリス】
「はあ。本当に、疲れただけだったわね……。でも、物騒な宝物じゃなくてよかった」■■
【ボリス】
「前向きに考えれば、あんたと探検できる機会なんてあんまりないし、悪くないか……、猫缶さえなければ」■■
【ディー】
「……そうだね。一緒に遊べて楽しかった!お姉さんも楽しかったよね?」■■
【ダム】
「すっごいお宝を期待したのが猫缶だったなんていうのは残念だけど……。まあ、別のお宝を盗んでおけばいいしね」■■
【アリス】
「ボリス、ディー……。……ダムはやめておきなさいね?盗みは駄目よ、盗みは」■■
【ブラッド】
「やれやれ。子供と動物は前向きなことだ」■■
【アリス】
「そういうブラッドだって……、満更でもなさそうじゃない?」■■
【ブラッド】
「ふ、退屈しのぎにはなった。だるい部分もあったが……、ダンスよりも物珍しい」■■
【アリス】
「あら。こんなオチで満足するなんて、あなたらしくもなく寛大ね」■■
【ブラッド】
「そういうこともあるさ。なんたって今夜は舞踏会、特別な夜だからな」■■
【アリス】
「ふふ。……身内には甘いってことかしら」■■
【ブラッド】
「はっ、なんのことだか。……私が甘いのは君にだけだぞ、お嬢さん」■■
【ボリス】
「もう、二人にしか通じないような会話しないでよ!ずるいぜ?」■■
【ディー】
「あ~あ、結局、誰がお姉さんと踊るかも決まらなかったよね」■■
【ダム】
「途中から既に勝負じゃなくなっていたしね、集団でぞろぞろ行動しちゃったし」■■
【ボリス】
「……いいよ、もう。アリス、皆で踊ろうぜ!」■■
【アリス】
「ええ?」■■
【ディー】
「そうだね。行こう、お姉さん!早くしないと、舞踏会終わっちゃうよ!」■■
【ダム】
「さあ、お姉さん。一緒に踊ろう?せっかくの舞踏会だし、ダンスなしには終われないよ!」■■
【アリス】
「先刻は、宝を見ずには帰れないとか言っていたくせに!」■■
【ダム】
「その上で、ダンスもしないと帰れないよ!争うほどの余裕もないし、皆で踊ろう!」■■
【ブラッド】
「仕方がないな。……だが、ダンスの後は私にだけ付き合うんだぞ、お嬢さん?」■■
【アリス】
「はあ、皆、勝手なことばかり……」■■
【ボリス】
「……でも、断らないよね?アリス?」■■
【ディー】
「さあ、急いで踊ろう、お姉さん!」■■
【アリス】
「ダンスは急いでするようなものじゃ……、ああ、もう、ふふ、待ってよ!」■■
【【【演出】】】・・・足音×5次第に遠のく
【【【演出】】】・・・猫の足音
【【【演出】】】・・・猫の鳴き声でEND