3:本編(マーシャル・コールドナード・カーティス・ジャスティン)
● 場面転換
● 場面(街の一角)
● 効果音(ざわざわと響く賑やかな喧騒)
カーティス 「あー、あー、ただいまマジックアイテムのテスト中~。ふむ。こうして近くで喋ると、自動的にその音声がこの水晶玉に記録されていくわけなんですね……。ふふ、肉声の旅行記なんていうのも、なかなか面白いお土産になりそうです。それじゃあ、この国の観光を始めます。……とにかく、平和ですねえ。こんなに分かりやすく、ズボンの後ろポケットに財布を入れているのに、未だ挑戦者ゼロなんですよ?やはり治安がいいんでしょうか。僕にはちょっと、退屈すぎます。仕事も無事に終わりましたし、もう少し観光したら帰るつもりです」
● 時間経過
● 効果音(ざわざわとした喧騒が遠く、小さくなる)
カーティス 「いけない癖、ですよね。つい、足がひとけのない、いかがわしそうな界隈に向かってしまう。こういった煌びやかな国でも、やはり路地裏はあるものなんですね。安心しました」
●効果音(きん、きんっと剣を打ち合わせる音が小さく)
カーティス 「おや……、剣の打ち合う音。何やら物騒な気配がしますね。怖い怖い。……とか言いながら、覗きにいくわけですが。よい子は真似しちゃいけませんよ?」
● 効果音(静かな足音)
● 効果音(次第に大きくなる剣を打ち合う音)
カーティス 「一対大勢の、襲撃現場のようですね……。野盗の集団に襲われる、身なりのいい青年といったところでしょうか。さりげなく着ていますけど、服は結構いい生地使っていますよ。盗んだ服にも見えませんし、間違いなく上流階級……。可哀相に、身包みを剥がされるまで、時間の問題ですか……」
● 効果音(ばきっと剣をへし折る音)
カーティス 「……っ!相手の剣をへし折った……!彼、なかなかやりますね。金持ちの道楽息子というわけではなさそうだ。映像で記録できたら面白いんですが、これは音声専用のようなので僕の実況で我慢してくださいね?黒髪長身、二刀流の若い男が、野盗を次々となぎ倒しています。手に汗握る、アクションシーン。舞台のようですねえ……、うん、だんだんと観光している気分になってきました」
● 効果音(剣を打ち合う音)
ジャスティン 「……っち、今、声がしたか!?」
カーティス 「おっと……っ!ああ、いけないいけない。危うく見つかってしまうところでした。……って。あの横顔、どこかで見た覚えがあるような……。そんなに前ではなかったはずなんですが……。確かこの国に来る前に……、そうそう、どうせならばこの国の王族、有力貴族の顔も覚えておこうと……。ええ!?」
● 効果音(がたっと物音)
ジャスティン 「ち……っ!隠れていないで出て来い!」
カーティス 「(小声)わわわっ、いませんいませんっ!(小声)」
ジャスティン 「……気配は感じないな。気のせいか。……ふん!」
● 効果音(剣を振る音)
● 効果音(モンスターが倒されるときの声)
カーティス 「プロの暗殺者ですからね、気配を殺すぐらいはお手の物。僕は今観光客ですから、舞台に出るつもりはありません。……って、それよりも、アレですよ、アレ。髪型を変えたり、眼鏡をかけたり、変装……?っぽいことはしていますけど、アレ、ジャスティン=ロベラッティですよ!?僕の記憶が確かならば、彼は第一王子のはずなんですけどっ。それがどうして、こんなところで悪者退治しているんでしょう?護衛は?」
● 効果音(きょろきょろとする音)
● 効果音(しーん、と静かな周囲)
カーティス 「あれ……?まさか、いないんですか?護衛職なんて、この国に売ったあの子のように、貴族やら王族やらに尻尾を振ってその命を守るだけしか能がないというのに……。それがどうして……、ああ!」
● 効果音(ぽんっと手を打つ音)
カーティス 「分かりました!護衛はすでに殺され、最後に残っているのがジャスティン=ロベラッティとか。それならまだ納得がいきます。ええ。ええ、きっとそうに違いありません。うん、実に舞台向きのシチュエーションです」
● 効果音(剣で打ち合う音だけが響く、間)
カーティス 「う~ん、しかし、倒れているものの中には、護衛らしき身なりの者は混じっていません。となると……、やはり馬鹿な王族がお忍びで護衛もつけずに街に出たあげく、トラブルに巻き込まれている図、なんですかねえ?ああ、やだやだ。これだから、守られるのが当たり前の人間というのは平和ボケしていますよね……」
ジャスティン 「……っ逃がすか!!」
● 効果音(斬り伏せる音)
● 効果音(モンスターが倒れるときの声)
カーティス 「……っ!!ちょっとちょっと……!見ましたか、アイリーン!あ、見えないか。今あの人、逃げようとした野盗に追いすがって背中から斬り伏せましたよ!?巻き込まれただけにしては、好戦的過ぎやしませんか!?……どう見ても、彼のほうから野盗を襲っていますよ、アレ。もしかして野盗退治でもして、決まった金額を貯めないと親の決めた許婚と……、なんて事情でもあるんですかね。うんうん、実に舞台向けな……。アイリーン、僕は今、観光を楽しんでいますよ~。どうです、普通の男っぽいでしょう?惚れ直しました?」
● 効果音(剣を打ち合う音)
● 効果音(モンスターが倒れるときの声)
● 場面転換
● 場面(ジャスティンの自室)
マーシャル 「まだ、お戻りになる気配はない……、か。途中まで目を通した形跡のある書類がそのまま広げてあることからも、そう長く席を外すおつもりではないと思ったんだが……。ん?これは……」
●効果音(ぺらり、と紙を手に取る音)
マーシャル 「嘆願書?城下の下町に野盗が拠点を作り、子供や女性が攫われる事件が続発……。王城の眼下でふざけたことをしてくれますね。……って、しまった、この辺りはジャスティン様が援助している孤児院のあるところじゃないか……!ああ、嫌な予感が……っ」
● 効果音(だだだだだっと走ってくる足音)
● 効果音(ばたんっとドアの開く音)
コールドナード「マーシャル!!」
マーシャル 「なんですか。ジャスティン様はいらっしゃいませんが、主人の部屋の扉を開けるのならば、ノックぐらいはするように……」
コールドナード「そんなことを言っている場合じゃないんだよ!!」
マーシャル 「どうしたんです、そんな血相を変えて。ああ、ジャスティン様の行方でしたら、たった今見当がついたところです」
コールドナード「どこだ!?」
マーシャル 「おそらくは下町の孤児院付近でしょう。きっと、そこで野盗退治をなさっているのではないかと……」
コールドナード「……野盗退治!?」
マーシャル 「嘆願書が、机の上に広げられたままになっていました。内容は、下町のあたりに最近野盗が拠点を作り、女子供に被害が出ているとか。それがちょうど、ジャスティン様が支援なさっている孤児院の近くなんです」
コールドナード「げげっ。それはジャスティン様、行っちゃうよな……」
マーシャル 「ええ。そういったことは我々に命じてくださればいいんですが……。エドワルド王子が王座につく形で決着はつきましたが、今ジャスティン様が私兵を動かすとなると、色々と勘繰られかねません。エドワルド王子側に話を通して、外堀を埋めて、と。そういった手間と時間を、ジャスティン様は嫌ったのでしょう。だからといって、普通は王子自らが野盗の集団に突撃したりはしませんが……」
コールドナード「行くぞ。そこに」
マーシャル 「……どうしたんです?顔色が悪いですよ?」
コールドナード「まずいんだ」
マーシャル 「まずい?ずいぶんと青い顔をしていますが……。いくら相手が集団でも、野盗程度にジャスティン様が遅れを取るわけがないということは知っているでしょう。もちろん、危険の度合いによらず、私も出るつもりですが」
コールドナード「ああ。分かっている。だが……、タイミングが悪すぎる。今、王都にはカーティス=ナイルが来ているらしいんだ」
マーシャル 「カーティス=ナイル!?それはあの、赤い死神とまで謳われる、伝説の暗殺者のですか!?」
コールドナード「他に、どのカーティス=ナイルがいるんだよ。同姓同名でも、恐ろしくて、即改名するだろ」
● 効果音(はらりっと手元の紙が床に落ちる音)
マーシャル 「あ、あのカーティス=ナイルが、この国に来ているのですか!?」
コールドナード「だから、そう言って……。おい、マーシャル、書類落としたぞ」
マーシャル 「そんなものは、どうでもいいです!詳細を報告してください!」
コールドナード「昨夜、ラドクリフ男爵が暗殺されたのはおまえも知っているだろ?」
マーシャル 「ええ。それは私も把握しています。成り上がりの地方貴族で……、あまり評判のよくない男でしょう。弔問の手紙だけ手配しておきましたが。それが……?」
コールドナード「ああ。情報収集のために現場に向かっていた部下から連絡があったんだが、それにカーティス=ナイルが絡んでいるらしい」
マーシャル 「身分的には高くありませんが、恨まれていましたからね……。大金を積まれることも有り得ます」
コールドナード「カーティス=ナイルだとして、ラドクリフ男爵暗殺のためだけに来たのか、他にもまだ依頼があるのかについてはまだ掴めていない。既にカーティス=ナイルがこの国に来ているという噂に、貴族連中は次は自分なんじゃないかと震え上がっているみたいだな。ジャスティン様がターゲットになっているのかどうかも不明だが……、カーティス=ナイルの特権階級嫌いは有名だ。万が一にでもジャスティン様と出会ってしまったら……」
マーシャル 「一国の第一王子が、護衛もつけずに、ふらふら出歩いている……。そんなふうに受け止められてしまったら、たとえターゲットでなくても、ちょっかいを出される可能性は高いですね。カーティス=ナイルにはそういうところもあると聞きます」
コールドナード「ああ、だが腕は一流以上に飛びぬけた暗殺者。この国の要人の顔も覚えているはずだ……」
マーシャル 「こ、こんなところで油を売っている場合じゃありません……!!至急、街に行って、ジャスティン様を探しますよ!」
● 効果音(ばたんっとドアを開ける音)
● 効果音(ばたばたっと勢いよく走り去っていく足音)
●場面転換
●場面(路地裏)
●効果音(剣をぶつけあう音)
カーティス 「……まったく危なげのない方、ですよね。どうやら僕が嫌いな、守られるだけの連中とは違うようだ。一国の第一王子が、直々に野盗退治に赴く理由は分かりかねますが……。ふふ。退屈な国だとばかり思っていましたが、面白い人もいるんですね」
● 効果音(かた、っと窓の開く音)
カーティス 「おっと。二階の部屋の窓から、王子の背中を狙っている賊がいます。鏃の色からして、毒でも塗ってあるんでしょうね。さて……。ちょっと行ってきますか」
●効果音(ごそごそ、と水晶を懐にしまう音)
●効果音(ひゅっとナイフが風を切る音)
●効果音(どしゃっと男が窓から地面へと落ちる音)
ジャスティン 「!?今のは……」
カーティス 「いくらあなたがお強いとはいっても、毒にまで耐性があるとは思えませんでしたのでね。余計なお世話でしたか?」
ジャスティン 「……毒矢で狙われていたのを、おまえが撃ち落としてくれたのか。いや、助かった」
カーティス 「いいえ~、どういたしまして……。ふむ、気持ち悪いぐらい素直な人ですね」
ジャスティン 「おかしなことを言うな。助けられて、礼を言うのは当然のことだろう」
カーティス 「そうですか……。っぷ、くく」
ジャスティン 「何がおかしい」
カーティス 「いえ、何でもありません。ふふ、気が向いたので、助けてあげますよ」
ジャスティン 「要らん。俺一人で充分だ」
●効果音(剣のぶつかりあう音)
カーティス 「ああ、それじゃあ言い方を変えましょう。退屈なので混ぜてください」
● 効果音(ひゅんっとナイフの飛ぶ音)
● 効果音(モンスターが倒れるときの声)
ジャスティン 「……ふん。勝手にしろ」
● 効果音(ぶんっと剣を振る音)
●効果音(モンスターが倒れるときの声)
ジャスティン 「……っ、危ないぞ!」
● 効果音(ぐいと引き寄せる音)
● 効果音(剣と剣をぶつける音)
● 効果音(切り伏せる音)
● 効果音(モンスターが倒れるときの声)
カーティス 「はあ?危ないって、何がです?」
ジャスティン 「見ていなかったのか?今、目の前まで男が迫っていただろう」
カーティス 「……はあ。なるほど。(小声)近くまで引き付けて、片付けようと思っていたんですが……(小声)」
ジャスティン 「なんだ、そのやる気のない返事は。誰かを思い出すぞ」
カーティス 「誰です?」
ジャスティン 「……知り合いだ」
● 効果音(剣と剣のぶつかりあう音)
● 効果音(ひゅんひゅんっとナイフの飛ぶ音)
● 効果音(モンスターが倒れるときの声)
● 効果音(モンスターが倒れるときの声)
● 時間経過
ジャスティン 「……ようやく片付いたな」
カーティス 「一人でやるよりは、二人のほうが早くすみますからね。お疲れ様です」
ジャスティン 「…………」
カーティス 「どうしました?そんな……、僕のことを上から下まで、じろじろと眺めて。ああ、ようやく僕が誰なのか、なんてことを気にする気になったんですか?」
● 効果音(だだだだっと走ってくる足音)
マーシャル 「ジャスティン様……!!」
コールドナード「ジャスティン様、ご無事ですか!!」
ジャスティン 「……おまえ達、こんなところで俺の名を連呼するな」
カーティス 「ふ、安心してください、最初から気付いていましたから」
ジャスティン 「知っていて、手を貸す気になったのか?」
カーティス 「困っている人がいたら、お互い様、でしょう?」
ジャスティン 「…………」
●効果音(ナイフを構える音)
マーシャル 「……ジャスティン様から離れなさい、カーティス=ナイル」
コールドナード「ジャスティン様、急ぎ城へ。ここは俺達が食い止めます」
カーティス 「ようやく護衛のお出ましですか?自らの護衛対象が城から姿を消したことにも気付かず、こうしてすべてが終わった後に駆けつけるとは。この国の護衛職というのはずいぶんと無能が揃っているようですねえ?」
マーシャル 「……黙りなさい」
カーティス 「僕、嫌いなんですよ。腕と力がありながらも弱い金持ちに尻尾を振って、飼われることで無駄に死んでいく護衛なんて連中が」
マーシャル 「あなたにはそう見えるかもしれませんね。しかし、私はジャスティン様を守って死ねるのならば、無駄だとは思いません……!」
コールドナード「右に同じく、だな……!暗殺者に生き方なんざ語られたくねえ……!!」
カーティス 「ふ。では、行動で見せてもらいましょう。生き方と……死に方で」
● 効果音(ずびし、ずびしっとコミカルな打撃音×2)
マーシャル 「……っつ!?」
コールドナード「あいた……!?じゃ、ジャスティン様、何をするんですか!」
ジャスティン 「何、俺を置いて話を進めているんだ、おまえ達は。……おい、カーティス=ナイル」
カーティス 「へ?あ、はい、なんでしょう」
ジャスティン 「おまえは俺の命を狙っているのか?」
カーティス 「いえ、今のところ、そのような依頼は受けていませんが……」
ジャスティン 「だろうな、わざわざ助けるくらいだ。……俺を殺す必要も、そのつもりもなかったんだろう?」
カーティス 「……はあ。まあ、そうですね」
ジャスティン 「だから、そのやる気のない返事はやめろ」
カーティス 「いえ、いろいろと毒気を抜かれてしまいまして」
ジャスティン 「その気の抜けたような応答は、特定の人物を思い出させる。……マーシャル、コールドナード」
マーシャル 「はい、ジャスティン様」
コールドナード「はい、ジャスティン様」
ジャスティン 「おまえ達の俺に対する忠誠心には、日々感謝をしている。だが、俺はおまえ達が俺を守って死んだとしても、決して嬉しくはない。おまえ達が俺を守ろうとするように、俺も同じくおまえ達を守りたいと思っていることを、忘れるな」
コールドナード「ジャスティン様……っ!」
マーシャル 「有り難いお言葉です……っ!……が、駄目ですよ、それ」
カーティス 「ご、護衛職を守りたい王子……?それはお強いはずですと、納得しかけましたが……。何か、肝心なところで本末転倒になってやいませんか……?」
マーシャル 「ええ、思い切り……」
カーティス 「護衛も認めるほど……ジャスティン=ロベラッティ。あなた、変わっていると言われませんか?」
マーシャル 「変わっていますが、失礼なことを言わないでください」
コールドナード「まあ、変わっているが、そんなジャスティン様だからこそ、命を賭ける価値もあるし……無駄にはならない。あんたには分からないだろうけどな」
カーティス 「……変人だと認めているじゃありませんか、あなた達も。……ジャスティン=ロベラッティ、あなたは面白い人ですね。先ほども、僕を庇おうとしたでしょう。あれ、僕がカーティス=ナイルだと知っていてのことだったんですか?」
ジャスティン 「確証はなかったが。気配なく現れたことや、その赤毛、あと野盗どもを倒す鮮やかな技術に、もしかしたらとは思ったな」
カーティス 「それで……、僕があなたを殺しにきたとは思わなかったんですか?」
ジャスティン 「そうだったら、毒矢の射手を打ち落としたりはしないだろう。放っておけば俺は死に……、はしなかったかもしれないが、おまえにとって手を下しやすい状況にはなったはずだ。おまえはそうしなかった。だから敵ではないと判じただけだ」
カーティス 「本当に……、素直な受け止め方をしますねえ」
ジャスティン 「だが、はずれていないだろう?」
マーシャル 「ど、毒矢……!?」
ジャスティン 「ああ、問題ない。カーティス=ナイルのおかげで、射掛けられずにすんだ」
カーティス 「……はあ」
ジャスティン 「だから、そのぼんやりとした返事はやめろと言っているだろう」
マーシャル 「も、問題ないって!」
コールドナード「大ありですよ、それ!」
● 効果音(三人ひそひそ声)
カーティス 「あなた方のご主人様、王族として間違っていません……?」
マーシャル 「王族として間違った振る舞いだとしても、私はジャスティン様を心より尊敬しています」
コールドナード「俺は今でも、あの方こそが王の器だと思っている」
カーティス 「いや、そんなこと聞いていませんけど……。あなた方も大概ですね」
マーシャル 「……暗殺者であるあなたに、護衛の私から礼を告げるのもおかしな話ですが。ジャスティン様を助けていただき、ありがとうございました。今回ジャスティン様が城を抜けられたのに気付けなかったのは、私たちの手落ちです。あなたのおかげで、少なからず助かりました」
コールドナード「本当だぜ。俺達にとって、ジャスティン様は失えない人なんだ。……助かった。ありがとな」
カーティス 「う、うげ。ちょ、ちょっとやめてくださいよ……!気持ち悪くなります……!蕁麻疹が出ます……!!」
● 効果音(三人ひそひそ話終了)
ジャスティン 「ああ、マーシャル、コールドナード、そこに倒れている連中が、嘆願書にあった野盗だ。そこのカーティス=ナイルが手を貸してくれたおかげで、思ったより時間をかけずに駆逐することができた。そこの死体の処理と、残党狩りの指示を出しておいてくれ。外出中の第一王子を襲ったという名目にしておけば、今すぐにでも正式な討伐隊を組めるはずだ」
マーシャル 「了解致しました。すぐにそのように手配いたします」
カーティス 「……ちょっと待ってください。もしかして、嘆願書が届いたから、あなた自ら討伐にやってきたというんですか?」
ジャスティン 「そうだ。近くには身寄りのない子供たちを保護する孤児院もある。放ってはおけん」
カーティス 「う……、うげ。本当に蕁麻疹の出そうなパターン……。あなた、王子ですよ?それも、第一王子」
ジャスティン 「ん?もちろんだ。自分の立場はよく分かっている。だからこそ……」
カーティス 「……あ~、いいです、いいです。どうせ、鳥肌のたつようなことを言うんでしょう。芝居ならともかく、そういうのって身の毛もよだつというか……。すみません、変わり者ではあっても、あなたって、珍しいくらいに正統派の王子様でした。僕のような日陰者には眩しすぎます。そんなわけで、失礼しますよ。僕は、さっさと国に帰ることにします」
ジャスティン 「………。おまえ、本当にカーティス=ナイルなんだな?」
カーティス 「ええ。そうですよ。嘘はついていません」
ジャスティン 「よし。城で酒を飲んで行け。助けてくれた礼だ」
カーティス 「…………。あの。僕、暗殺者なんですけど」
ジャスティン 「ああ、裏口から忍び込むおまえは、確かに物騒で危険な死神かもしれないが、正門から招けば客だろう」
カーティス 「あの……」
マーシャル 「では、宴の用意を指示しておきますね。場所はジャスティン様のお部屋で宜しいですか?」
ジャスティン 「ああ、構わん」
コールドナード「お泊りになられるようでしたら、客室の用意もさせますが」
ジャスティン 「そうだな……、一応用意はさせておいてくれ」
カーティス 「あの~、いや、結構なんで……」
マーシャル 「主の望むままを叶えるのが、私達の仕事ですから」
カーティス 「この場合、止めるのが仕事だと思いますが……」
コールドナード「止めて止まるようなお方ではないからな」
マーシャル 「その通りです。……では、その席には我々も同席、隣の部屋に何人かの部下を待機させることになりますが、それはお許しいただけますか?」
ジャスティン 「それで頼む」
カーティス 「……主人の我侭を聞きつつ、それを叶えるための調整は怠らないというわけですか」
ジャスティン 「出来た部下だろう?」
カーティス 「……そんなさも自慢そうに言われても、返す言葉に困ります。大体、僕相手にその程度では不充分ですよ」
ジャスティン 「そうか?……ついてこい、カーティス=ナイル」
カーティス 「これが観光というものなんでしょうか……。旅のハプニングというのも普通っぽい響きです。いいでしょう」
● 効果音(歩き出す足音)
コールドナード「では、先に城にいって指示を出しておきます」
マーシャル 「私は討伐対についての指示を出して参ります」
●効果音(たったった、と二人分の足音が遠くなっていく)
●効果音(歩き出す足音)
カーティス 「しかし……、あなたは、部下泣かせな主人ですねえ」
ジャスティン 「そうか?」
カーティス 「そうですよ……、暗殺者を客として城に招く王子なんて」
ジャスティン 「招いた先で、暗殺の依頼をするのかもしれんぞ」
カーティス 「それなら逆に安心しますよ。そっちのほうが、よっぽど健全です。で、誰か殺したい相手でもいるんですか?」
ジャスティン 「少し前なら……、いたかもしれないな」
カーティス 「なんだ。結局、依頼でもないんじゃありませんか」
ジャスティン 「殺しの依頼はないが……、まあ、そうだな、顔つなぎはしておきたかったというか……、その、少し、聞きたいことがある」
カーティス 「ああ、裏の情報が欲しいんですか?いいですよ。それなりの価格で、それなりのものを提供いたしましょう。何が知りたいんです?昨夜の暗殺騒ぎの依頼者ですか?それとも……」
ジャスティン 「いや、そういうのはいい」
カーティス 「……はあ。では一体……」
ジャスティン 「シエラ=ロザン」
カーティス 「……はい?」
ジャスティン 「シエラ=ロザンの話が聞きたい」
カーティス 「……彼女なら、城内にいるでしょう?主ではないとはいえ、仕事ぶりなら僕よりあなたのほうが詳しいんじゃありませんか?」
ジャスティン 「いや、そういうのもいい」
カーティス 「……はあ。何なんです?あなたって率直で素直で……、素直すぎて分かりにくい……」
ジャスティン 「あいつは……、ど……、どんな子供だったんだ?」
カーティス 「……顔赤いですよ」
ジャスティン 「う、うるさい……っ!前を見て歩け……!!」
カーティス 「あの小汚い小娘が、まさか第一王子の目にとまるとは……。あれ?ですが確か彼女は、第二王子付きの護衛じゃあありませんでしたか?そうなるとやっぱり僕に依頼して、第二王子をさくっと殺ってしまったほうが都合がいいのでは?」
ジャスティン 「必要ない。その件については、もうカタをつけた」
カーティス 「……ほう?」
ジャスティン 「シエラと関わりのあるおまえになら言っても問題ないだろう……。王座をやる代わりに、シエラを寄越せと話をねじこみ、決闘の末に了承させてきた」
カーティス 「ぶ……っ!!げふん、ごふん……!」
ジャスティン 「……大丈夫か?」
カーティス 「げふんげふん、いえ……、むせました。問題あるでしょう、先刻から問題だらけですよ、あなたって。……本当におかしな人だ。普通じゃない」
ジャスティン 「……カーティス=ナイルに言われるとはな」
カーティス 「そう、僕に言われるくらい……。ふふ、僕のほうが普通っぽいですよね?」
ジャスティン 「いや、いくらなんでもおまえを普通だとは……。まあ、今はただの観光客らしいから、もてなしてやろう。一晩の宿と、馳走と酒を取り揃える。代わりに、シエラの話を聞かせろ」
カーティス 「いいですよ。では、そちらの話も聞かせてくださいね。面白い土産話をと強請られて困っていましたが、普通じゃない王子様の話ならきっと満足してもらえることでしょう。……あの人も、普通に憧れているくせに、普通ではありませんから」
●効果音(すたすた、二人並んで歩いていく足音)
●場面転換
●場面(城の廊下)
カーティス 「ああ、こんばんは、シエラ。いいお湯をありがとうございました。え?何、客人面で寛いでいるんだ、って?はは、そりゃあ僕、客人ですから。ジャスティン王子に招かれたんですよ。美味しいお酒と食事もご馳走していただきました。他国の城なんて普段は忍び込む一方、用が済んだらさっさとおさらばする場所ですが、こうして寛ぐのも悪くないですね。いたせりつくせりで、とても居心地がいい。たまになら、こういうのも悪くないです。うん、実に観光っぽい感じです。ジャスティン王子のお話も、たいそう興味深いですしね。ああ、ジャスティン王子はあなたの話をとても気に入ったようですよ。真剣に聞いてらっしゃいました。え?何を話したのか?ふふふ、それは秘密……、おや、シエラ?どうしたんです?そんな気でも遠くなったような顔をしてふらふらと……」
END