TOP>Game Novel> 「 ハートの国のアリス 」> OP ■03話(時計塔1)

ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『OP ■03話(時計塔1)』

◆どこか街の路上◆
【【【時間経過】】】
【【【演出】】】・・・人のざわめき
【街の人・女1】
「今回の昼は長いわね。
もうずいぶんと続いていない?」■■
【街の人・男1】
「そうだな。
いいじゃないか、今から買い物に行く店、たしか昼の間だけセールをするんだろう?」■■
【街の人・女1】
「ええ、そう。
だから、そのうち時間帯が変わっちゃわないか心配で」■■
【街の人・男1】
「はは。
じゃあ、急ごうか」■■
【街の人・男2】
「この間、街で役持ち同士の銃撃戦に巻き込まれそうになってさ。
必死で逃げたよ……、参ったぜ」■■
【街の人・男3】
「そりゃあ災難だったな。
でも、役持ち同士ならまだ殺され甲斐も……」■■
「……いや、避けたいけど、同類の名もないような奴に殺されるよりはいくらかマシかな」■■
【街の人・男2】
「殺される率は役持ちのほうが高い分、ついてはいないだろ。
顔を見たら、とりあえず逃げておくに限る」■■
【街の人・男3】
「まあな。
殺されないに越したことはない」■■
(……物騒すぎて、現実味のない会話。
こんなのが、この世界では日常会話なの?)■■
滞在地から、近くの街まで出てきた。■■
この国のことは、まだほとんど分からない。
しかし、地図を見せてもらったので迷うことはないだろう。■■
(とりあえず行ってみよう。
帰るには、この国の人と交流するしかないんだものね)■■
教えてもらったばかりの各領土の情報を思い返しつつ、歩いていく。■■
【【【時間経過】】】
◆ハートの城・庭園◆
辿り着いたのは、大きな城。■■
至るところにハートのあしらわれた外観といい……。
地図で見た位置から考えても、ここが「ハートの城」だろう。■■
城に入るまでには、見事な庭園が広がっている。
整えられた赤薔薇の生垣の傍を歩いていると、見覚えのある姿を見付けた。■■
「……げげっ!」■■
【ペーター】
「アリス!!
久しぶりですっ!」■■
ぴょんっと、ペーターはウサギのように駆け寄ってきた。■■
【【【演出】】】……がばっと抱きついてくる音
「……う~~~」■■
逃げ腰になりそうなのを我慢する。■■
「……こ、こんにちは、ペーター。
来てみたわ」■■
「……暇だったから」■■
【ペーター】
「僕に会いに来たんですねっ!
そうだと思いましたっっ」■■
誰もそこまでは言っていない。
だが、そうと決めつけられている。■■
(そりゃあ、この城に知り合いはペーターしかいないけど……)■■
【ペーター】
「寂しくなったんでしょう!?
僕もですよっっ」■■
「【大】ぐえ……!?【大】」■■
抱きつかれ、ぎゅううっと抱きしめられる。
暇だったから……の部分は華麗にスルー。■■
相変わらず、大きなお耳は、都合のいいことしか聞こえないように出来ているようだ。■■
【ペーター】
「あなたがこの世界に留まってくれるのなら、それだけでもいいんですが……」■■
「……やっぱり愛する人とは一緒に過ごしたいですよね。
僕は幸せです、アリス」■■
「…………」■■
(なんで、私、こんなのに会いにこようなんて気を起こしちゃったんだろう……)■■
ハートの城の宰相だと聞いたが、あまりそんなふうにも見えない。
私が新事実を知ったからといって、いきなりペーター=ホワイトという男の人格が変わるわけでもなかった。■■
「……あんたって、相変わらずね」■■
【ペーター】
「僕は、変わらずあなたを愛してますよ?」■■
「……相変わらず××××だって言っているのよ」■■
【ペーター】
「えー。真面目で一途なウサギになんてこと言うんですか。
酷いなあ……」■■
「真面目で一途……・・」■■
抱きしめられながら、間近にある顔を見る。
ウサギ耳というだけでも胡散臭いが(男のウサギ耳ってどうよ)、ペーターは正直者には見えなかった。■■
美形だが、眼鏡が狡猾さを際立たせているような気がする。■■
「【大】……っは【大】」■■
【ペーター】
「鼻で笑いましたね……。
一途にあなたを想っているのに酷いー」■■
「あー、鬱陶しい……」■■
「……ほんと、なんで会いにきちゃったんだろ、私」■■
【ペーター】
「それは、僕を想うがゆえに足が勝手に……」■■
「…………。
……あんたって、乙女ね」■■
【ペーター】
「馬鹿にされている気がします……」■■
「【大】あからさまに、馬鹿にしているのよ【大】」■■
「ちょっと哀れんでもいる……」■■
【ペーター】
「……あー、なんだかそっちのほうが痛いので、前者でお願いします」■■
「哀れみをこめられると、さすがにいたたまれないでしょ……」■■
美形なだけに痛すぎる。■■
「これで、もうちょっときりっとしていたら好みなのに」■■
【ペーター】
「!」■■
「普段はきりっとしていますよ?
そういう姿を見せたら、あなたも僕を好きになってくれます?」■■
「なるんじゃない?
あんたって、顔はいいから女の子にはもてそう」■■
【ペーター】
「顔はって……」■■
「……僕は、あなたに好かれたいんです。
他の誰かじゃなくて、あなたはどうなんです?」■■
「常にきりっとしていたら、僕のことを好きになってくれますか?」■■
覗き込んできたペーターが真剣だったので、適当に答えようとしていた言葉が喉で止まる。■■
「…………」■■
「あと、ウサギ耳がついていなくて、愛しているとかなんとか言わなければね」■■
一旦止まったが、やはり口から出てきたのは適当なことだった。■■
【ペーター】
「嘘つき」■■
「…………」■■
嘘は言っていない。
きりっとしていても、ウサギ耳がなくても、それがペーターであろうとなかろうと、愛しているとか言わなければ。■■
好きにはなれる。
恋愛に発展するようなものでなければ。■■
「…………」■■
「……とにかく、あんたは論外ってことよ」■■
「きりっとしていないし、ウサギ耳だし、愛しているとか連呼する。
問題外じゃない」■■
【ペーター】
「あなたのためなら変われるのに~~~……」■■
「あのねえ……」■■
ふざけた言動に戻ったので、どこか安心する。
頭のねじが一本どころでなく飛びまくった人だが、それでいい。■■
愛しているとか真顔で言われたら、それこそ困る。■■
【ペーター】
「……でも、僕じゃ駄目なんですよね。
勝ちたいゲームほどうまくいかないってことは、ちゃんと弁えていますよ」■■
「……?」■■
「…………」■■
「……なんでもいいから、離してよ。
息が出来ない……」■■
ペーターの体を押し戻し、距離を取る。
寄れた着衣を直しながら言った。■■
「言っとくけど、あんたにだけ会いに来たんじゃないのよ」■■
説明も受けた上でここに来たものの、ペーター目当てなわけではない。■■
【ペーター】
「ええ?
僕以外にこの城で会いたい人間なんて、誰がいるんです!?」■■
「誰って、そりゃあ……、女王陛下よ」■■
ハートの国のハートの城の、ハートの女王。■■
この国の有力者の一人。
会っておく価値はある。■■
斬首刑が趣味だという話を聞き、会わないほうが賢明だと思ったが、やはり興味もあるのだ。■■
【ペーター】
「女王陛下に、ですか……?
あんなの、会ったところでヒステリーの餌食になるだけですよ」■■
「あんなのって、あんたね……」■■
仮にも女王陛下に向かって、酷い言い様だ。■■
ペーターが恐れ知らずの不忠義者なのか……、もしくは、ハートの女王とは部下が「あんなの」呼ばわりしたくなるほどの人物なのだろうか。■■
(写真を見た限りでは、美人だったけどな……)■■
とにかく気になるほどの美人だったと、印象に残っていた。■■
「…………」■■
「……とりあえず、行ってみるわ。
私がこのまま城に入っても大丈夫かしら?」■■
【ペーター】
「……大丈夫だと思いますよ、あなたは好かれますから」■■
やや間をあけ、ペーターが答える。
萎えた態度で言葉を続けた。■■
【ペーター】
「ご一緒したいんですけど、僕、これからどうしても外せない仕事で……。
あ、それほど長くは掛かりませんから、待ってて頂ければお供を……!」■■
「……ああ、いえ、あなた以上に重要な仕事などありません!
ここは愛を選ぶべきところですよね!」■■
「【大】選ばなくていいところよ【大】」■■
「仕事を優先してちょうだい。
女王への謁見へは一人で行くから、ついてこないで」■■
【ペーター】
「あっ、アリス……!」■■
★ここまで追加で収録必要部分↑
「ついてきたら、承知しないからね!?」■■
【ペーター】
「~~……!?」■■
【【【演出】】】・・・足音
必要以上に世話になる気はない(なりたくもない)。
その場にペーターを残し、逃げるように城へと向かった。■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・廊下
城内に入る。
驚くことに、お目通り願いを出す前から、目的の人物に出くわした。■■
「……!」■■
【ビバルディ】
「なんじゃ、おまえは……」■■
「…………」■■
「……女王・ビバルディ」■■
写真で見せてもらった顔だ。■■
【ビバルディ】
「いかにも。
わらわはハートの城の女王・ビバルディだ」■■
「……おまえは?」■■
写真の通り。
それ以上の女王様だ。■■
小さな虫になった気分になる。
くだらないものを見下ろすような目付きが堂にいっていた。■■
【ビバルディ】
「……答えよ。
さもなくば、首を刎ねる」■■
「わっ、私はアリス=【主人公の苗字】!
ですっ、女王様!」■■
見た目通り、そして事前に聞かされていた説明通り、気性も荒い。
その上、気も短いようだ。■■
【ビバルディ】
「アリス=【主人公の苗字】……」■■
「アリス……。
……おまえ、余所者か?」■■
「は、はあ……。
恐らく」■■
「この世界では、そういうふうに呼ばれていますね……」■■
【ビバルディ】
「なんじゃ、曖昧な言い方をしおって……。
死刑にしてほしいのか?」■■
物騒な言葉を吐きながら、ビバルディは興味深そうに首を傾ける。
きつめの美女なのに、仕草は少女のようだ。■■
ちぐはぐな感じを受ける。■■
【ビバルディ】
「おい、おまえ」■■
【城の兵士A】
「はっ」■■
ビバルディは、後ろにいた兵士をちょいちょいと呼んだ。■■
【ビバルディ】
「おまえは、この娘が余所者だと分かるか?」■■
【城の兵士A】
「は……。
いえ、残念ながら……」■■
「私は役なしのカードですので……」■■
【ビバルディ】
「ふ~ん……。
わらわには分かる……」■■
「余所者には初めて会った。
どうやったら分かるものかと思っておったが、聞いた話どおり分かるものじゃな」■■
「感じるといったほうがよいのか……」■■
【城の兵士A】
「さすがは女王陛下」■■
【ビバルディ】
「うむ」■■
「……あ、おまえ、死刑な」■■
【城の兵士A】
「はっ!?」■■
【ビバルディ】
「分からなかった罰じゃ。
……誰か、この者の首を刎ねよ」■■
【城の兵士B】
「ははっ」■■
他の兵士が、分からないと答えた兵士をずるずると引きずっていく。■■
「…………」■■
(こ、怖いよ~~~……)■■
興味を抑えられず会いに来たが、やはり早まった。■■
この世界には恐ろしげな人が多すぎる。
外見がいくら美しかろうが……、その分だけ毒が強い。■■
【ビバルディ】
「アリス、おまえ、わらわのことが好きか?」■■
「え……。
ええ!?」■■
何を言い出すんだ、この女王様は。
さすが、ペーターの上司だ。■■
まさか彼と同じようなことを言い出すんじゃなかろうなと、身構える。■■
【ビバルディ】
「余所者とは、この国の者に好かれるべく来た生き物らしい。
じゃが、一方的に好かれるなどずるいと思わぬか?」■■
「それは……。
はい、ずるいですよね」■■
あんまり好かれたくもないので嬉しくないが、ずるいのだろう。
彼女が言うならそうだ。■■
【ビバルディ】
「で?
わらわが好きか?」■■
「す、好き……かな?」■■
生き残るにはその答えしか選択できない気がして、答える。
だが、正直に疑問符をつけてしまった。■■
【ビバルディ】
「かなっとはなんじゃ?
かなっとはっっ!」■■
「いいかげんな娘じゃのう……」■■
(はっきり答えられてもおかしいと思うんですが……)■■
もちろん、そんなことは思っても口にできない。■■
【ビバルディ】
「まあよい。
わらわが好きなら、生かしておいてやろう」■■
やはり、あの返事以外は残されていなかったらしい。
変な答え方をしなくてよかった。■■
【ビバルディ】
「わらわのことは、ビバルディとお呼び」■■
「ビバルディ様?」■■
【ビバルディ】
「ビバルディ」■■
「え……。
でも、女王様を呼び捨てなんて」■■
【ビバルディ】
「そうお呼び。
……でないと、首を刎ねてしまうよ?」■■
「ビバルディ!
ビバルディね!」■■
「よろしく、ビバルディっっっ」■■
【ビバルディ】
「うむうむ。それでいい。
連呼しなくとも聞こえておる」■■
「そんなに浮かれて、よほどわらわのことが好きなのじゃな」■■
上から目線で言われ、こくこくと高速で頷く。■■
【ビバルディ】
「では、アリス、また遊びにおいで。
ハートの城の門扉はいつでも開放されておる」■■
私の対応に満足そうにして、ビバルディは背を向けた。
兵士達も、後に続く。■■
(……本物の女王様だわ)■■
(…………)■■
(……生き残れてよかった)■■
私も、夢だということでずいぶん大胆に行動している。
だが、夢とはいえ、死刑は勘弁してもらいたい。■■
「はあ……。
命拾いした……」■■
「…………。
……戻ろうかな」■■
あっという間に、目的の人物にも会えてしまった。
これ以上城に用事はないし、あまりふらふらしていて不審者扱いされても困る。■■
(……また処刑されかけるなんて、ごめんだわ。
さっさと出よう)■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・門前◆
【【【演出】】】・・・足音
帽子屋屋敷の前までやって来た。
以前茶会の誘いは断ったが、また来ていいと言ってもらっている。■■
門前には、あの双子の門番が立っていた。■■
【???・ディー】
「あれ?
なんだか、前に見たような……」■■
【???・ダム】
「そうだね?
たしか、前に見たような……」■■
息がぴったり。
エコーがかかっているみたいだ。■■
【???・ディー】
「侵入者だったっけ?
殺しとく?」■■
この言葉には慌てた。■■
二人はそれぞれ手に大きな斧を持っている。
可愛い子供の声で言われても、冗談でないのは前の経験からも認識済み。■■
「あなた達の上司にも納得してもらって、疑いは晴れたわよ!?」■■
【???・ディー】
「そうなの?」■■
【???・ダム】
「そうなんだ?」■■
「お茶会にも招待されたんだから!
断ったけどっ」■■
【???・ディー】
「……ボスの誘いを断った?」■■
【???・ダム】
「よく生きていられたね……」■■
「え」■■
【???・ディー】
「あの人、怒らせるとすっっっごく怖いのに」■■
【???・ディー】
「……勇気あるよ、お姉さん」■■
【???・ダム】
「だるそう~に虐殺するよね……」■■
【???・ダム】
「誰から報酬を貰えるわけでもないから、だるいんだろうなあ……。
報酬がないのに働くって想像つかないよ」■■
しみじみと言われ、私はどうやら危機一髪だったのだと気付かされる。■■
【ディー】
「僕は、トゥイードル=ディー。
よろしく、勇気のあるお姉さん」■■
【ディー】
「かっこいいお姉さんっていいよね。
ちょっと好きになりそうな感じだ」■■
【ダム】
「僕は、トゥイードル=ダム。
よろしく、運のいいお姉さん」■■
【ダム】
「無謀なところがいいね。
でも、報酬の得られない危険は冒さないほうがいいよ」■■
彼らと知り合いになること自体が、報酬の得られない危険な気がする……。■■
「私は、アリス=【主人公の苗字】」■■
「よろしく……」■■
乾いた声で名乗り、形ばかりの挨拶をした。
繰り返し「よろしく~」と返すディーとダムの視線が、不意に動く。■■
「???」■■
私の背後に何かを見付けたらしい。
つられて振り返ると、こちらに向かって歩いてくる一行が目に入る。■■
数人の使用人を引き連れて近付いてくる男性の顔を見て、はっとなった。■■
「ブラッド!」■■
【ブラッド】
「やあ、これはこれは……。
門番達が珍しく殺さずに相手をしているようだから、誰かと思えば……」■■
【【【演出】】】・・・足音(複数)
ブラッドは覇気のない足取りで近付いてくる。
後ろに続く使用人の男達も、同じく怠そう。■■
【ブラッド】
「アリス。
久しぶりだな」■■
【ブラッド】
「いや、そんなに久しぶりでもないか……?
まあ、今会っているんだからどちらでもいい……」■■
久しぶりに会ったブラッドは前と変わらず、けだるそうだ。■■
(ああ……、やっぱり似ていない……)■■
私の知り合いとは、まったく違う。
顔の作りが似ているだけの、他人だ。■■
そのことに、奇妙なほど安心した。■■
「前は、お茶会に誘ってくれたのに断ってしまってごめんなさい」■■
【ブラッド】
「いや、気にしていないよ」■■
【ブラッド】
「それより、元気そうでなによりだ。
あれから、どうしていた?」■■
彼によく似た人は、しかし、まったく似ていない。
私の記憶する彼は、こんなにだるそうではなかった。■■
こんなにだるだるとしていて、大丈夫なのかと思ってしまう。■■
ブラッドがマフィアのボスと聞いてはいても、前に一度話しているせいか、いまいち緊張が薄い。■■
「今は、ユリウスのところでお世話になっているの」■■
【ブラッド】
「へえ……。
時計屋のところか」■■
【ブラッド】
「ふうん……?」■■
けだるそうに、意地悪そうに。
斜に構えた感じが、実にはまる。■■
「な、なに?」■■
【ブラッド】
「いやね、余所者というのは好かれるものだと聞いていたが、まさかあの時計屋が落ちるとは思わなかった」■■
「そ、そういう関係ではないわよっ!?」■■
「確かに、作業場に住まわせてもらってはいるけど、そういうことは……」■■
【ブラッド】
「ふふ……」■■
思わせぶりに笑われ、じっとりとした視線が這う。■■
「~~~~~~っ」■■
【ディー】
「……ふうん」■■
【ダム】
「ふふ……。
へえ……」■■
双子も好奇心に目を輝やかせ、同じく意味深に笑う。
ボスを真似ているつもりなのか……。■■
皆一様に、揶揄していることは明らかなのに言葉にしないところが小憎たらしい。■■
ブラッドの背後に控える使用人までもが、話に加わってきた。■■
【帽子屋・使用人・男1】
「驚きですね~。
あの時計屋が、他人と同居するなんて~」■■
【帽子屋・使用人・男2】
「ええ、びっくりです~。
余所者の話は聞いていましたが、やっぱりすごいんですね~」■■
(邪推している、というより、からかわれているのね……)■■
「いや、別にすごくないけど……」■■
【ブラッド】
「くく……っ。
分かっているよ、お嬢さん……、色気のある状況でないということについてはね」■■
【ブラッド】
「あの時計屋にそんな甲斐性があるはずもない。
しかし、時計屋が他人と同居するというだけでもすごいことだ……」■■
【ブラッド】
「何かしらの楽しみがあるんだろうが……。
……君のほうにしても、よく耐えられる」■■
「そんなに酷い人ではないわ。
……少なくとも、生活できている」■■
【ディー】
「お姉さん、本当はこっちの方がいいんじゃない」■■
【ダム】
「そうだよ、毎日僕らと遊べるよ?」■■
【ダム】
「やっぱり、ここに住んじゃうべきだと思うなあ」■■
「あんた達は……。
勝手に決めないでよ」■■
遠まわしに、「ここでは生活もできない」と伝えたつもりだったが……。■■
【ブラッド】
「そう言うな。
君の滞在地については、私も門番達と同意見だ」■■
【ブラッド】
「君が、我が屋敷に滞在してくれなかったのが残念だよ。
私のことも楽しませてほしかった」■■
「……私は、滞在しなくて賢明だったと心から思っているわ」■■
こんな連中に囲まれていては、穏やかな生活など送れない。
やはり、私の選択は間違っていなかった。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・街◆
帽子屋屋敷を辞して、帽子屋領の街を歩いていた。
間もなく領土境というところで、突然声を掛けられる。■■
【エリオット】
「アリス!」■■
聞き覚えのある声。
声の聞こえたほうを見ると、路上の人混みからウサギ耳がぴょこんと飛び出している。■■
(あの耳は……)■■
【エリオット】
「よう、アリス!
久しぶりだな!」■■
「エリオット」■■
人の間から姿を現したのは、やはりエリオット。
銃をつきつけられた前回と違い、やたらとフレンドリーだ。■■
【エリオット】
「あれからどうしてたんだ?
滞在先は決まったのか?」■■
「え、ええ……」■■
開口一番、ブラッドと同じく現状を尋ねられる。
おかしくて、少し笑えた。■■
(何だかんだで、気に掛けてくれていたのかしら……?)■■
(……ブラッドは、億劫そうだったし、よく分からないけど)■■
【エリオット】
「どこに滞在してんだ?」■■
「え、え~~~と……、適当な感じに」■■
【エリオット】
「?」■■
【エリオット】
「まだ、ちゃんとした滞在先が決まってないのか?」■■
「そ、そんなこともなく……」■■
「なんというか、その~~~……」■■
「……あはは」■■
【エリオット】
「なんだか、よくわかんねえ……」■■
「けど、困ってるなら力になるからな?
言えよ?」■■
(うわあ……。
いい人に豹変している……)■■
(この人って、知り合いにはすごく甘くなるタイプの人だったんだ……)■■
とても、初対面から私を殺そうとした人には見えない。
普通に親切なお兄さんだ。■■
……ウサギ耳さえなければ。■■
(これは……)■■
(……言わないほうがいいよね……。
あなたと確執のありそ~うなユリウスのところに滞在させてもらっているっていうのは)■■
出来れば、この笑顔を消したくない。
結局告げないまま、その場で別れた。■■
いずれ、ブラッドや双子から聞いて知るだろう。■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地◆
【男1】
「さてと、最初は何に乗ろう。
迷うな~」■■
【女1】
「たしか、新しいアトラクションが出来ていなかった?
この間、行列が長くて諦めたやつ!」■■
【男2】
「ああ、あったあった、前は混んでたけどそろそろ落ち着いていそうだよな。
じゃあまずはそこだ、急ごう!」■■
【女2】
「あ、待ってよ~!」■■
【【【演出】】】・・・走る足音(複数)
賑やかに掛け込んでいく集団に誘われるように、続く。
やって来たのは、「遊園地」。■■
「……!」■■
【ゴーランド】
「……あれ?
あんた……」■■
「……メリー=ゴーランド」■■
写真で見せてもらった顔だ。■■
【ゴーランド】
「…………」■■
む、と、顔をしかめられる。■■
【ゴーランド】
「……名前を知っていてくれて光栄だが、その呼び方はやめてくれ」■■
「……あ、ごめんなさい」■■
そういえば、名前を呼ばれるのは嫌いだとかなんとか。■■
「面白くっていいと思うけど」■■
【ゴーランド】
「あのな……。
あんたは他人事だから、そういうことが言えるんだぜ?」■■
「だって、他人事だもの」■■
私の名前は、幸いにして普通だ。
そう言うと、ゴーランド(そう呼んであげよう)はがっくりと項垂れた。■■
【ゴーランド】
「嫌な奴だな、あんた……」■■
「よく言われる」■■
【ゴーランド】
「……あんたの名前は?」■■
「アリス=【主人公の苗字】」■■
【ゴーランド】
「普通だな」■■
「平凡が一番よ」■■
【ゴーランド】
「それを俺に言うか……。
……マジで嫌な女」■■
「どうも」■■
【ゴーランド】
「誉めてねえ……」■■
メリー=ゴーランド。
三つ巴の勢力の一つのボス格なはずだが……。■■
(あんまり怖くないなあ……)■■
「ねえ、あなたってマフィアとかお城とかと敵対するくらいの有力者なんでしょう?」■■
【ゴーランド】
「ああ。そうだが……。
……なんだ、その、疑っていそうな目は」■■
「…………。
……威厳がないわね」■■
ぽつりと、本音を漏らす。■■
【ゴーランド】
「ひでぇ……」■■
(…………)■■
本音を出しすぎだ。
先刻も、嫌な女具合を披露してしまった。■■
夢とはいえ、初対面でここまで素が出てしまうのも珍しい。
男は嫌そうな顔をしたが、それでもやはり怖くはなかった。■■
(…………)■■
(……まずいな)■■
タチが悪い。
怖くなさそうな人が、本当に怖くないわけではない。■■
有力者というのは本当だろうから、一癖ある人物なのは間違いないのだ。
ひょうきんに、自分を軽く見せる。■■
油断を誘うという意味では、相当に怖い人……。■■
「親しみやすいってことよ」■■
「この遊園地、素敵ね。
あなたがオーナーなんでしょう?」■■
「園長さんなら、親しみやすくないとね。
いいことだわ」■■
口から出たのは、思ったこととはまったく違う。
私は素で喋る正直者ではない。■■
調子を取り戻す。■■
【ゴーランド】
「…………。
あんたも、余所者にしちゃ親しみ甲斐がある」■■
「私が他の世界から来たって分かるの?」■■
【ゴーランド】
「俺も一応、ここの有力者だからな。
余所者じゃ知らないだろうが、それなりの能力があるんだ」■■
「……余所者ってことは、あんたは敵じゃない。
味方でもないが……」■■
「仲良くしようぜ?
噂によると、余所者っていうのは仲良くなりやすいものらしいからな」■■
人当たりのよさそうな顔。
こういう顔をして近付いてくる人が一番警戒しなくてはならないのだと、下町生活の経験上知っていた。■■
「親しみやすい人って好きよ。
よろしくね、ゴーランド」■■
私も同じように、人を油断させる笑顔で返す。■■
【【【演出】】】・・・足音
そこに、足音が近付いてきた。
顔を向けると、何だか目に痛い男がこちらに向かって歩いてきている。■■
奇妙な男はゴーランドのすぐ傍に辿り着くと、まじまじと私を見た。■■
【???・ボリス】
「誰、この子」■■
それは私のセリフだ。■■
(【大】猫耳【大】……)■■
【ゴーランド】
「俺の知り合いだ」■■
「え?」■■
(知り合いって。
今、会ったばかりなのに?)■■
さすが、調子のいい男。
いきなり知り合い呼ばわりはどうかと思うが、むきに否定するほどのことでもない。■■
(……この世界って、馴れ馴れしい人と素っ気ない人とで極端よね)■■
【???・ボリス】
「ふ~ん……?」■■
猫耳をつけた青年は、じろじろと遠慮なく見ながら、私の周りを回る。■■
(本当に猫みたい……)■■
(猫というより、獲物を検分中の獣……?)■■
「よ、よろしく……」■■
【ゴーランド】
「……すまんな。
こいつ、いつもこんな感じなんだ」■■
「変な奴だが、紹介しとく……。こいつはボリス=エレイ。
俺んとこに居候している、ただ飯食らいだ」■■
ゴーランドが紹介してくれる。
猫耳をつけた居候だという青年は、露骨に顔を顰めた。■■
【ボリス】
「おいおい……、その紹介はないんじゃないの」■■
【ゴーランド】
「事実だろー……。
他になんて紹介すればいいんだ」■■
【ボリス】
「変な名前の奴に言われたくないね」■■
【ゴーランド】
「なっ、名前のことは言うんじゃねえ!」■■
【ボリス】
「メリー=ゴーランドだもんな~……」■■
【ゴーランド】
「言うなって……!!!」■■
私にからかわれたばかりだというのに、居候にまで。
哀れと思いつつ、傍観してしまう。■■
二人の会話はコミカルで、本気で険悪なようには聞こえない。■■
【ボリス】
「ははっ。
へ~んな名前……」■■
【ゴーランド】
「てめえの名前だって、苗字だか名前だかわけ分かんねえんだよ!」■■
【ボリス】
「おっさんに名前呼ばれても嬉しくもなんともないから、適当でいいよ」■■
【ゴーランド】
「お、おっさん……。おっさんもやめろ……。
俺はそんな年じゃない……」■■
【ボリス】
「見た目老けてるほうが悪い。無精ひげ、なんとかしたら?
そのみつあみも、わけ分かんない……」■■
(あー……、たしかに)■■
心の中で相槌を打つ。
写真を見たときに、私も同じことを考えた。■■
【ゴーランド】
「これはおしゃれで……」■■
【ボリス】
「名前と同じで、センス最悪。
悪いこと言わないから、やめといたほうがいいよ……」■■
【ゴーランド】
「……しみじみと言うな」■■
【ボリス】
「しみじみしちゃうくらいのもんなんだよ……」■■
ボリスという彼(猫耳……)の言うことには、いちいち頷けてしまう。■■
「私も、まったくその通りのことを思っていた……」■■
【ゴーランド】
「……アリス、酷いぜ……」■■
「だって~……」■■
「……センスがあるとは言い難い」■■
【ボリス】
「だよな~……」■■
【ゴーランド】
「おまえら……。
会ったばっかりで結託するなよ……」■■
【ボリス】
「なに?妬いてるの?
この子、あんたのじゃないんだろ?」■■
ふいに、手を差し伸べられる。■■
「……?」■■
【ボリス】
「握手」■■
ぼけっとしていると手をとられ、握手させられた。
ぶんぶんと軽く振られる。■■
【ボリス】
「俺は、ボリス=エレイだ。
……あんたは?」■■
問われて、まだ名乗っていなかったことに気付く。
この世界に元からの知り合いはいないから、会ったらまず名乗らなくてはならない。■■
「私は、アリス=【主人公の苗字】よ」■■
【ボリス】
「アリス……。
覚えた。俺のことは、ボリスって呼んでくれよ」■■
「ボリスね。
よろしく」■■
【ボリス】
「こちらこそ」■■
愛想よく返される。
初対面の印象は、なかなかいい感じだ。■■
【ゴーランド】
「……アリス、こいつに騙されるなよ。
こいつに気に入られると面倒くさいぞ」■■
【ボリス】
「騙したりしないよ。面倒くさくもない。
……ね?」■■
ね?と言われても、初対面だ。
彼がどういう人か分からないし、ひとまず頷くしかない。■■
(……猫耳をつけた、変な人だっていうのは分かるけど)■■
オーナーも妙な人物だと思っていたが、居候は猫耳。
遊園地が一勢力というのもそうだが、とにかく不思議な場所のようだ。■■
【【【時間経過】】】
◆時計塔・ユリウスの部屋◆
【【【演出】】】・・・扉を開ける音
【【【演出】】】・・・扉を閉める音
「ただいま~」■■
時計塔に戻ってきた。
ユリウスは相変わらず、作業台で黙々と仕事を続けている。■■
とはいえ、さすがに扉が開けば気付くよう。
手を止め、こちらを見てくれた。■■
【ユリウス】
「帰ったか」■■
「ええ。
聞くまでもなさそうだけど……、ユリウスはずっと仕事を?」■■
【ユリウス】
「当然だ。
聞くまでもないと思っているのなら聞くな」■■
「……はいはい。
失礼しました」■■
ユリウスとの会話は、いつもこんな感じ。■■
冷たいようでいて、遠慮のない分、気楽。
すげない態度も、不快ではない。■■
初期の頃は、たまに、もう少しくらい構ってくれてもいいのではないか、と思うときはあった。■■
今では、それもほとんどない。
こういう人だ、とよく分かってきたからだ。■■
(お帰り、すらナシだけど。
手を止めてくれているだけ上出来よね)■■
ユリウスはすぐにまた、黙々と作業を再開するだろう。
……と思ったのだが、予想外に続けて話しかけられた。■■
【ユリウス】
「どこへ行ってきた?
他の領土を、すべて回ってみたのか?」■■
「……え?」■■
「…………」■■
「……私がどこに行っていたか、気になるの?」■■
内心、かなり驚いていた。
眼鏡の奥の瞳を探るように見つめる。■■
【ユリウス】
「べ、別に気になるとは言っていない!
私はおまえの保護者のようなものだから、一応確認しているだけで……」■■
「保護者って……。
私、そこまで子供じゃないわよ?」■■
ユリウスよりは年下。
だが世間一般子供と言われる年ではないし、外出も一人で問題なく出来る。■■
(年齢的なことより、異端者という点で問題はあるかもしれないけど)■■
しかし今回は、問題なく無事に帰ってきた。
それでも、ユリウスは確認したいらしい。■■
(そういうのを、気にするっていうのよ)■■
頬が緩む。
ユリウスがますます憮然とした声を上げた。■■
【ユリウス】
「何をにやにやしている!?
もういい、別にそこまで知りたかったわけでもない」■■
「あー、ごめんごめん、怒らないでよ。
答えるってば」■■
「……そうよ。
他の領土を一通り回ってきたの」■■
【ユリウス】
「…………」■■
【ユリウス】
「……ふん。
そうか」■■
【ユリウス】
「…………」■■
【ユリウス】
「…………」■■
【ユリウス】
「……どこか印象に残るところは、あったか?」■■
「印象に残るところ?
そうねえ……」■■
にやにや。
自分が更ににやけてしまっているのが分かる。■■
【ユリウス】
「…………」■■
ユリウスは私の顔を見ようとしない。■■
「印象に残ったところといえば……」■■

1:「ハートの城」
2:「帽子屋屋敷」
3:「遊園地」