TOP>Game Novel> 「 マザーグースの秘密の館 」> ヴィンセント(学生)ルート ■ヴィンセント09

マザーグースの秘密の館

『ヴィンセント(学生)ルート ■ヴィンセント09』

■ 全問正解イベント9

【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【ヴィンセント】
「全問正解おめでとう、エリカ。
……これで残るは後1回だけになったな」■■
「……次が最後なのね」■■
【ヴィンセント】
「そんな顔するなって。
おまえは元々、帰るために頑張っていたんだろ?」■■
(もちろん、そうだけど……)■■
「あなた、少しはマシになったと思っていたけどやっぱり意地悪ね」■■
(私が帰りたくないと思う理由、分かっているくせに)■■
(いや、それとも……、さっぱり気が利かないのか。
……気にしていないのか)■■
どういう方向でも有り得そうだ。■■
彼にはどこかさらっとした『男の子』の部分がある。
別れを惜しみはしても、そのときがきたらあっさりとしているのかもしれない。■■
【ヴィンセント】
「それで、今回の褒美についてなんだが……」■■
「ああ、うん。
どこへ行く?」■■
【ヴィンセント】
「行くところは決めてあるが、今すぐにじゃない。
明日の【大】朝三時【大】に迎えにくる」■■
「……それ【大】夜【大】よ?」■■
(三時っていったら、真夜中じゃないの)■■
朝とはいえない時間だ。■■
【ヴィンセント】
「その時間じゃないと間に合わないから、仕方ないだろう。
とにかく、明日朝三時に迎えにくるから、準備しておけよ」■■
「ちょっと待ってってば!
朝三時に準備しておけ、迎えにくる、なんて気軽に言わないで」■■
「そんな時間に館の門が開いているとも思えないわよっ!?」■■
【ヴィンセント】
「あれくらいの高さなら、いくらおまえがドン臭くても乗り越えられるだろ。
最悪、担ぐなり何なり手伝ってやってもいいぜ」■■
「…………」■■
「……分かったわ。
あなたにデリカシーだとかそういうものを求めた私が間違っていたのね」■■
【ヴィンセント】
「逆に、俺にそういうのがあると思っていたことがびっくりだ」■■
「だけど、まあ、期待していろよ。
今回連れて行くのは、気の利いた場所だ」■■
「……デリカシーを求めるほうがどうかしているって、自分から言うような人が気を利かせた場所?」■■
【ヴィンセント】
「……期待しすぎず期待してろ」■■
「難しいことを……」■■
【【【時間経過】】】
◆背景は黒。◆黒画面。
本当にその日……、いや、次の日の朝三時に、ヴィンセントは迎えにやってきた。
まだ真っ暗な中、二人で館を後にする。■■
そして、しばらく徒歩で移動した後に私達が辿り着いた先は……。
一面に薔薇の咲き乱れる谷だった。■■
◆ここで背景表示。
◆薄暗い谷、朝日が差し込み始めた中、一面に咲き誇る薔薇。薔薇畑。
v9_1

「……っ!
なにこれ、ここ、何なの……!?」■■
薔薇。
薔薇、薔薇、薔薇。■■
どこを見ても薔薇が咲き誇っている。■■
(自然と、こうなっているわけじゃないわよね……?)■■
人工だとしても、奇跡的な光景だ。
すごい。■■
【ヴィンセント】
「眠気もぶっとぶだろ?
おまえに見せてやりたかったんだ」■■
顔を出し始めた朝日に照らされて、薔薇の花はまるで輝いているかのようだ。■■
「いや、すごくすごく、すごすぎるほどに綺麗なんだけど……っ。
どうして、案内するのにこんな朝早い時間じゃないといけなかったの?」■■
早い時間なら人が少ない……、など、色々と想像は出来る。
だが、ここはいかにも穴場だし、来るまでの不便さを考えれば昼でも賑わっていそうには思えない。■■
「何か、理由があるんでしょう?」■■
【ヴィンセント】
「よく分かっているな。
ここは、精油用の薔薇畑なんだ」■■
「だから、薔薇の花が咲き、花びらが開き始めた頃からすぐに収穫する。
昼に来ても、その頃にはもう蕾しか残っていないんだ」■■
「薔薇の精油?」■■
【ヴィンセント】
「植物の匂いの元は、大体が油性なんだ。
つまり、薔薇の花の匂いを抽出したオイルだな」■■
「香水はもちろん、石鹸だとか……、薔薇の匂いを使った商品には欠かせないものなんだぜ?
南フランスなんかが花精油の精製で有名だ」■■
「……なるほど。
でも、この一面の薔薇を全部精油のために使うなんて、すごいわね」■■
「用途が多いからって、ここまでたくさんの精油をとって、使いきれるのかしら。
きっと、私の知らないところで需要があるのね」■■
【ヴィンセント】
「と、思うだろ?
でも、実はそうじゃないんだ」■■
「薔薇の花精油一キロをとるのに、どれだけの花が必要だと思う?」■■
「どれくらい……、かしら。
花から油がとれるイメージがそもそもあまりないから、きっと一つの花からとれるのは少量よね」■■
「でも……、花だって一輪でそんなに重いわけもないし……。
十倍の、十キロぐらい?」■■
【ヴィンセント】
「ハズレ。
薔薇の花精油一キロを作るのに必要な薔薇の花の量は、なんと四トン分だ」■■
「【大】四トン!?【大】」■■
【ヴィンセント】
「およそ二百万個の花を使うといわれている。
だから、ここ一面の薔薇の花を収穫したとして……」■■
「……一キロ、取れるか取れないかってこと?」■■
【ヴィンセント】
「そういうことだな。
だからこそ、花精油は高価なんだ」■■
「へえ……。
あなたよく知っていたわね」■■
「女性ならともかく、男性は薔薇の匂いの香水だとか、そういうのはあまり使わないでしょう?
それとも、ここのことも本で読んだの?」■■
【ヴィンセント】
「…………」■■
(……あれ?)■■
なんだか難しい顔をして、彼は黙り込んでしまった。
しばらくして、ずいっと懐から取り出した小箱を押し付けられる。■■
「……これ、もしかして」■■
【ヴィンセント】
「ああ、そうだよ。
おまえにやろうと思って、調べたんだ」■■
【【【演出】】】・・・しゅるしゅるとリボンを解く音。
v9_6

小箱を開くと、中には小さなガラスの瓶が収まっていた。■■
【ヴィンセント】
「それは、精油じゃなくて香水だけどな。
精油だと強すぎて、アロマテラピーや、芳香剤としてしか使えないらしい」■■
「そうね、せっかく貰ったのなら身に着けてみたいもの。
香水のほうが嬉しいわ」■■
【ヴィンセント】
「……ん。
おまえが喜んでくれて、よかった」■■
小瓶へと、そっと顔を近づけてみる。
まだ封を切っていないというのに、それでもほのかに薔薇の香りがした。■■
【ヴィンセント】
「そろそろ帰るか。
バッカスが朝食を作っている頃だろ」■■
「ええ。
もう少し見ていたいような気もするけど……」■■
「……もう、あまり時間もないし」■■
帰らなければと思うのに、急ぐようなことはしたくないとも思った。■■
【ヴィンセント】
「……そう、だな。
もう少しだけ、見て行くか」■■
(この1回が終わってしまったら、残るは後一度だけ)■■
(ご褒美にも、終わりがくる)■■
「ええ。
……もう、少しだけ」■■
そう繰り返して、私達はその後もしばらく、薔薇の谷を見つめ続けた。■■
本の中とは信じられない。
むせるような、花の香りの中。■■
【【【時間経過】】】