TOP>Game Novel> 「 マザーグースの秘密の館 」> ヴィンセント(学生)ルート ■ヴィンセント07

マザーグースの秘密の館

『ヴィンセント(学生)ルート ■ヴィンセント07』

■ 全問正解イベント7

【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【ヴィンセント】
「よし、合格だな……!
満点だな……!?」■■
「え、ええ?
満点だけど、それがどうか……」■■
【ヴィンセント】
「よし、観劇に行くぞ。
褒美だ、褒美」■■
「【大】ちょっと待って【大】」■■
【ヴィンセント】
「……なんだ?
観劇は好きじゃなかったか?」■■
「いや、そうじゃなくて……。
何か……間違ってない?」■■
【ヴィンセント】
「?」■■
「褒めるのも投げやりだし……。
あなた、試験のこと若干どうでもよくなってない?」■■
試験結果よりもご褒美優先になっているような印象。
最初とは、えらく差がついてしまっている。■■
【ヴィンセント】
「いや、試験は大事だぜ?
おまえが試験に合格しないことには、デートにも誘えないだろう」■■
「で、ででで、【大】デート!?【大】」■■
免疫がないと思っていたヴィンセントの口からそんな言葉が出ると、ものすごく大層なことのように聞こえる。■■
「な、なんなの。
いきなり」■■
【ヴィンセント】
「若い男女が二人で一緒に出かけることを、デートという……。
……間違っていないだろう?」■■
「ま、間違っちゃいないけど」■■
勉強の一環のように言われても、しっくりこない。
彼の言葉だということに、余計に混乱する。■■
【ヴィンセント】
「だろう?
それなら俺とおまえとでも、デートというのは間違っていないはずだ」■■
「ま、間違っているわよ!」■■
【ヴィンセント】
「どこが?」■■
「だって、これはご褒美でしょう!?」■■
【ヴィンセント】
「ご褒美が、デートなんだろう?
別にデートと褒美という概念が両立しないわけでもあるまいし」■■
(だ、だから、学問か何かみたいに言わないでよね……)■■
「デートしてほしいっていうつもりで、ご褒美がほしいって言い始めたわけじゃないわよ?」■■
ご褒美をねだったのは、私。
彼の理屈だと、私がデートを強要しているようではないか。■■
「私が頼んだのは、面白い話であって……」■■
(ネタ探しとかはヴィンセントの都合で……)■■
(…………)■■
(強要……、していないわよね?)■■
強制的に付き合ってもらっているとは、考えたくない。■■
【ヴィンセント】
「わかっている。
俺が、おまえにデートしてほしいんだ」■■
「デ!?
デートしたいって……」■■
「……あなたが?」■■
【ヴィンセント】
「ああ、おまえとしているのがデートなら、俺はそれがしたいと思っている。
面白いし、またしたい」■■
「おまえの希望している面白い話っていうのとも被るから、いいだろ?」■■
「い、いいだろ、って……」■■
(デート、か……)■■
きっぱりと断言されて、膝から力が抜けそうになった。■■
(なんという開き直りっぷり……)■■
免疫がないのが逆に作用しているのか、性格なのか。
明言することに照れは少ないらしい。■■
【ヴィンセント】
「それで観劇に誘おうと思ったんだが……、嫌か?」■■
「嫌……、じゃないわ」■■
(今までだって)■■
嫌なものに付き合ったりしない。
ご褒美になるくらい、私にとってもいいことだった。■■
面白いし、またしたい。
単純で飾り気がないだけに、共感しやすい。■■
【ヴィンセント】
「なら、よかった。
町で今、シェイクスピアがかかっているんだ」■■
そう言って、彼が私の手を引く。■■
いつものように、手を繋ぐ。
それがまるで当然のような……、デート。■■
【【【時間経過】】】
◆劇の帰り道。
◆暗い夜の、館まで続く道。
◆周囲にはぽつぽつと家がある。
ヴィンセントの誘ってくれた劇は、素晴らしいものだった。■■
「……っぐす」■■
【ヴィンセント】
「まだ泣いているのか?
おまえ、涙脆かったんだな……」■■
「自分でも、びっくりよ……っ。
だって、シェイクスピアの劇なんて、内容を知っているのよ?」■■
「オチだって分かっていたはずなのに……っ。
それでも泣かされたのが……、悔しいっ」■■
【ヴィンセント】
「悔し泣きかよ……。
こら、目をこするなって……」■■
「私だけじゃ……、ないわよっ?
泣いてる人……」■■
【ヴィンセント】
「ああ、結構いたな。
誰しもが内容を知っていて、オチまで知っているのにそれでも感動してしまうからこその、名作なんだろう」■■
「無感動で終える劇よりも、ずっといい。
……おまえが楽しめたようで、よかったぜ」■■
「ええ、楽しめたわ。
思った以上に楽しめてしまったからこそ、今私の顔は大変なことになっているの」■■
【ヴィンセント】
「『ロミオとジュリエット』でそんなに泣いていたら、彼の四大悲劇なんか見たらもっと大変なことになるんじゃないか?」■■
「え?
『ロミオとジュリエット』って、シェイクスピアの四大悲劇の一つなんじゃないの?」■■
【ヴィンセント】
「……違う。
シェイクスピアの四大悲劇に数えられるのは、『リア王』『マクベス』『オセロー』『ハムレット』の四つだ」■■
「『ロミオとジュリエット』を入れて五大悲劇にしてもいいくらいだと思う……。
どうして、『ロミオとジュリエット』は有名悲劇作にカウントされていないの?」■■
【ヴィンセント】
「悲劇は悲劇で、世界の認めるところだが……。
四大悲劇にはカウントされていない」■■
「一応その理由としては、『ロミオとジュリエット』には結構ギリギリな下ネタや、キツすぎる冗談なんかが他の作品より多く含まれていることがあげられる」■■
「他の面が強調されていることもあって、『ロミオとジュリエット』はその結末から考えると悲劇なんだが、途中には喜劇としての要素が強いと言われているんだ」■■
「そうなの?
シェイクスピアの作品に、下ネタや冗談だなんてピンとこないわ」■■
「こう、彼の作品といったら、格調高い不朽の名作といったイメージが強すぎて……」■■
【ヴィンセント】
「今では、シェイクスピアの作品といったらそういったイメージがつきまとうが……。
当時、上演されていた頃の社会では、演劇は重要な娯楽の一つだった」■■
「シェイクスピアだって、人に見てもらわなければ儲けが得られない。
当時の一般市民が、上品で格調高い物語なんて、観て喜ぶと思うか?」■■
「……あんまり」■■
「世の人々は得てして、修羅場だとか泥沼だとか、そういったどろどろした人間関係を観て喜ぶ傾向にあるわよね……」■■
【ヴィンセント】
「そういうことだ。
だから、今でいう昼ドラのような要素もたっぷりと詰め込まれているわけだ」■■
(昼ドラ……)■■
言ってしまえば身も蓋もない。■■
【ヴィンセント】
「だからこそ、今見ても楽しめるし……。
おまえみたいに、感情移入することも出来る」■■
「時代によらない、内容のとっつきやすさはあるかも……。
それに、『ロミオとジュリエット』は物語が恋愛ものだから、感情移入がしやすいのかもしれないわ」■■
【ヴィンセント】
「より大衆的ともいえるな。
恋愛ものは、世代を問わず、女性に受けがいい」■■
「ええ、他の四大悲劇って、すべて歴史に絡めた話でしょう?
王権争いや、王族の家族騒動がメインだと、ちょっとピンと来にくいもの」■■
そんな話をしているうちに、館の前についた。■■
「劇、楽しかったわ。
いつも以上に、素敵なご褒美をありがとう」■■
私はそう挨拶して館へと戻ろうとする。
繋いでいた手をはなすと、その手をまた掴まれた。■■
「何?
どうしたの?」■■
振り返った先で、ヴィンセントが私の前に跪く。■■
v7_1

「……っ!」■■
(な、ななな、なに!?)■■
驚きに、息を飲む。■■
【ヴィンセント】
「……ああ、エリカ。
おまえはどうしてロミオなんだ?」■■
「…………」■■
その言い回しは聞いたことがある。
いや、むしろつい先ほど聞いたばかりだ。■■
(ロミオ?)■■
「……【大】それ、ジュリエットの台詞よ?【大】」■■
【ヴィンセント】
「……気の多い遊び人や色男の総称を、『ロミオ』っていうんだよ。
女にはあまり使わないが……」■■
「……それ、『ロミオとジュリエット』からきていたのね」■■
説明されても、嬉しくない内容だ。■■
【ヴィンセント】
「……ああ。
ほら、続きがあるはずだろ?」■■
(何を遊んでいるんだか)■■
「……恥ずかしいことさせないでよ」■■
そんな苦情は言いつつも、それに対するロミオの返事を思い出した。■■
「軽やかな恋の翼が、私をここまで運んでくれたのです。
……私の場合、引きずり込まれたんだけど」■■
私をこの世界へと呼び寄せたのは、グース夫人だ。
本の中に引きずり込まれてしまった。■■
【ヴィンセント】
「……どうして、おまえは違う世界の人間なんだ」■■
「……そんなこと私に言われても」■■
(ロミオとジュリエットは、家同士が断絶しているがために引き裂かれた)■■
劇が始まる前から、悲劇は読み取れる。
本のページをめくるまでもなく、先が読める。■■
(私と彼は、住む世界が違うから長く一緒にはいられない)■■
始まる前に終わっているようなものだ。■■
「私達って……、ロミオとジュリエットよりも難易度高くない?」■■
劇が始まりそうな雰囲気はあるのに、同じ舞台に立ってすらいない。■■
【ヴィンセント】
「……かもな」■■
v7_2

劇の中、ロミオがして見せたように、彼は私の手の甲へと口付けを落とした。■■
劇と違って、覚束なく、不器用で。
芝居ではない、緊張を伴う。■■
「あなたって、こういうの……」■■
【ヴィンセント】
「……なんだよ」■■
「似合わない」■■
【ヴィンセント】
「……だろうな」■■
甘い言葉ではなく、憎まれ口を叩き。
けれど、劇中のように見詰めあった。■■
【【【時間経過】】】