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マザーグースの秘密の館

『ヴィンセント(学生)ルート ■ヴィンセント06』

■ 全問正解イベント6

【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【ヴィンセント】
「全問正解、6回目だ!
やったな」■■
「あら、ずいぶんと喜んでくれるようになったのね」■■
【ヴィンセント】
「そ、それは……、おまえはよく頑張っているし、そういう場合は評価だってする」■■
「最初に思っていたよりも、ずいぶんと根性もあるしな」■■
「……それにしてもよかったぜ。
ちょうど買い物に行きたかったんだ」■■
「…………。
……確かに、ご褒美はなんでもいいって言ったけど」■■
「明らかに、私用よね?
ご褒美じゃなくて」■■
【ヴィンセント】
「嫌か?」■■
「嫌じゃないけど……、なんだか腑に落ちない」■■
(せっかくのご褒美だし……。
……ついでみたいにされると面白くない)■■
【ヴィンセント】
「嫌なら、別の場所を考えてもいいぜ。
宝飾店なら、おまえも楽しめると思ったんだがな」■■
「宝飾店?」■■
【ヴィンセント】
「野暮用でな。
ネクタイピンを購入するつもりでいるんだ」■■
「あなた、ピンが必要なネクタイなんかしていないじゃない。
いつも、学生服だし……」■■
【ヴィンセント】
「……あのな。
俺は別に、四六時中制服を着ているわけじゃないんだ」■■
「私服で、タイのある服だって着ることもある。
それで、ネクタイピンを購入しようと……」■■
「いいから、付き合え。
……選んでくれ」■■
「……仕方ないから、付き合ってあげるわ」■■
緩和したつもりだが、憎まれ口が直らないのは私も同じだ。■■
【【【時間経過】】】
◆町にある宝飾店。
◆ガラスケースばりの陳列台の中に、様々な宝石をあしらった装飾具が並んでいる。
ヴィンセントに連れてこられたのは、小さいながらしっかりした店だった。■■
とんでもなく高級というようなものを扱っているわけではないが、紛いものを置いていそうな胡散臭さもない。■■
「それで、どんなものを探しているの?」■■
【ヴィンセント】
「おまえに任せる」■■
「……【大】いきなり、ぶん投げたわね【大】」■■
【ヴィンセント】
「……俺はあまりそういったことに詳しくないんだ。
おまえのセンスに任せる」■■
「任せるって言われても……」■■
(私なら、詳しいとでも?)■■
頼られるのは誇らしい気もするが、過大評価だ。■■
きょろきょろと周囲を見渡す。
教育されているのか、店員の女性はにこやかな笑顔で見守っている。■■
(……どんどん積極的に勧めてくれる感じのお店ではないのね。
ごちゃごちゃと横から口を挟まれるよりいいけど、今回は困った……)■■
「それじゃあ、どんなのがいいの?
ほら、ネクタイピンって小さな石をあしらっていたりするでしょう?」■■
「何色が好き、とかそういうところからはじめましょう。
ああ、それと土台の色も大事ね」■■
【ヴィンセント】
「土台はシルバーのほうが好きだな。
ゴールドだと派手すぎるし、タイの色を選ぶ■■
「分かったわ。
それじゃあ、土台はシルバーでね」■■
彼のリクエストに合致しそうなショーケースの中を覗き込む。■■
「……あ。
これ、綺麗……」■■
【ヴィンセント】
「ああ、琥珀を使っているのか。
……よさそうだな」■■
私が目をつけたのは、銀色で縁取った中に琥珀を埋めたシンプルなネクタイピンだった。
ヴィンセントの反応も悪くない。■■
「琥珀って、樹液から出来ているのよね?」■■
【ヴィンセント】
「ああ、樹液の化石だ。
長い年月をかけて硬化して、琥珀として完成している場合の硬度は宝石にも匹敵する」■■
「へえ……」■■
「石じゃないからかしら、不思議と温かみのある色合いね。
もちろん、硬度はあるんだろうけど、柔らかみがあって……」■■
「……樹液から出来ているなんて、不思議だわ」■■
【ヴィンセント】
「そうだな、神秘性があるのか、琥珀は昔から宝石と同じようにして装飾具に使われていた。
お守りとしてもな」■■
「お守り?
宝石をお守りにするのはよく聞くけど……、琥珀もそうなの?」■■
【ヴィンセント】
「他の鉱物と違って、琥珀は生き物由来のものだからな。
健康や、長寿に関係した効果があるというふうに考えられている」■■
「化石になるぐらい長生き出来るってわけね」■■
「……ねえ、これどう?
私は、結構気に入っているんだけど」■■
【ヴィンセント】
「俺も悪くないと思う。
ちょっと待て、今タイを換える」■■
最初からネクタイピンを探しに来ていることもあり、彼はポケットにネクタイを用意してきていたらしい。
制服のリボンタイを解き、タイを手早く結ぶ。■■
「……ふふ。
やっぱり普通のタイは慣れていないのね?」■■
「ちょっと歪んでいるわ」■■
v6_1

手を伸ばして、彼のタイを引き寄せる。■■
【ヴィンセント】
「……ぐっ。
く、首を絞めるなよ!」■■
「そんなつもりはないけど……。
絞めてほしいなら、そのリクエストに応えてあげてもいいわよ?」■■
ちょいちょいと結び目を弄って、その形を整える。
それから、ネクタイピンを差した。■■
ダークカラーのタイに、琥珀の柔らかな色合いが映えている。■■
【ヴィンセント】
「…………」■■
「思ったより、ずっといい。
あなた、自分ではどう?」■■
【ヴィンセント】
「……ああ、悪くない。
琥珀なら、それほど高価でもないからな」■■
「ああ、そうなの?
……もっと高いのを選んでやればよかったかしら」■■
【ヴィンセント】
「【大】どうして嫌がらせ前提なんだ【大】」■■
「ふふ。
自分の物なんだから、嫌がらせってことにはならないでしょう」■■
含み笑いをもらしながら、全身像で確かめたくて、傍らの姿見へと視線をやった。■■
「……!!」■■
【ヴィンセント】
「……っ!」■■
鏡の中のヴィンセントと目が合って、息を呑む。■■
改めて客観的に見た私達は、どうも互いの距離が近すぎるように見えた。
友人というにも近すぎ……、そもそも私達は友人などという関係でもない。■■
同じことを、彼も思ったのだろうか。
うっすらと目元が赤くなっている。■■
「ご……っ、ごめんなさい!」■■
何故か、申し訳ないような気分になって謝る。■■
先刻の、タイを整えるのだってそうだ。
ネクタイピンを選んであげるだけでよかったのに、やりすぎてしまった。■■
急に恥ずかしくなり、慌てて身を引こうとする。■■
【ヴィンセント】
「いや、いい」■■
「……っ!!」■■
引きかけた手をとられて、その熱にびくっとする。
温かい、男性の手だ。■■
当たり前だ。
免疫がなかろうが、彼はごく普通の男性。■■
……いや、本の中の人な時点で普通ではない。■■
(いい、って?
いい、って……!?)■■
(何がどう、いいのよ……!?)■■
私が動揺している間にも、彼はそのネクタイピンの購入を決めたようだった。
店員とやりとりをして、小箱を受け取る。■■
【ヴィンセント】
「それじゃあ、帰るか。
館まで送っていく」■■
「……ありがとう、お願いするわ」■■
手はとられたままだ。
自然、手を繋いで帰ることになる。■■
手を繋ぐという行為。
美術館や森で、長時間そうしていたこともあった。■■
だが、先刻のようにいきなり手をとられると驚く。
不意打ちだからではなく……、やはり慣れることなどない不自然な行為だと思い知るのだ。■■
(友達でもなくて……。
いいえ、異性の友達と、こんなに長く手を繋いだりしないわ)■■
私達は友人ともいえない関係だ。
本の中という特異な環境での、奇妙な関係。■■
【ヴィンセント】
「次のテストも、頑張れよ。
また、どこか連れて行ける場所がないか探しておくから」■■
「今日は、用事に付き合ってくれてありがとうな。
次は……、おまえの好きそうな場所へ連れて行く」■■
「……うん」■■
もう6回。
奇妙な関係も、あと4回で終わる。■■
(そうすれば、もうこんなふうに……、不器用に気を遣われることもなくなっちゃうんだわ)■■
【【【時間経過】】】