■ 全問正解イベント4
【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【ヴィンセント】
「全問正解、よくやったな。
これで満点も4回目か」■■
「なかなか頑張っていると思うぞ。
最初に比べたら、だいぶマシになったんじゃないか?」■■
「……ヴィンセント」■■
【ヴィンセント】
「?
な、なんだよ?」■■
「あなたに褒められると……。
なんだか、【大】気持ち悪い【大】んだけど」■■
【ヴィンセント】
「【大】詰ってほしいのか?【大】」■■
イジメの次は詰るときた。
両方とも、勘弁してもらいたい。■■
「や、だって……!
今まで散々、知的好奇心がないだとか、愚かだとか言っていたじゃない」■■
【ヴィンセント】
「実際、知的好奇心などまるで感じられらなかったしな。
本は放置して忘れるし……」■■
(……むむ。
また、それか)■■
【ヴィンセント】
「薄情でだらしのない……」■■
「だから、それは……!
仕方ないでしょう、子供の頃の本なんだから」■■
彼は、本の中の人。
本を放置した私は悪人。■■
相手が人と考えると、忘れたり放り出したりするのは酷い。
だが、対象は本だ。■■
【ヴィンセント】
「そうだな……、本なら、無碍に扱っても文句は言えない。
だから、どんな仕打ちをされても仕方がないよな」■■
「…………」■■
(う……)■■
対象は本だ。
本だが……、目の前にいるのは人。■■
恨みがましげな目で見られると、自分のほうが悪いような気になってしまう。■■
【ヴィンセント】
「……だが、ここ最近のおまえが頑張っているのは事実だ。
忘れた以上に知ろうとしている」■■
「今までのことが帳消しになるわけじゃないが、理解に近付いている。
そのことは認めているんだぜ」■■
「……そ、そう」■■
(……なんだか、調子狂うなあ)■■
そんなつもりはないが、贖罪するような形になっていることにも釈然としない。■■
【ヴィンセント】
「ところで、今日の褒美についてなんだが……。
正直、おまえの興味を惹くかどうか分からない」■■
「?」■■
【ヴィンセント】
「褒美にならんと思ったら、断ってくれても構わない」■■
「……???
何をするつもりなの?」■■
前もってこんなふうに言われるなど、今までにないことだ。
その内容によらず、彼は私の反応など気にしなかった。■■
……今は、それなりに私を喜ばせようと考えているのだろうか。■■
【ヴィンセント】
「ナショナル・トラストで保護されている森のあたりまで、足を伸ばそうかと思っている。
景観としては悪くないはずだが……」■■
(ナショラル・トラスト?)■■
「なんだかよく分からないけど、森に行くなら付き合うわ。
森林浴は嫌いじゃないし」■■
【ヴィンセント】
「…………。
……そうか」■■
「む。
何よ、その返事」■■
「来てほしくなかったの?
それなら遠慮するわよ?」■■
(来てほしくないのに誘うとは、なんという変化球……。
読めなさすぎるわ、この男)■■
実際、かなり知り合えたと思うのだが、喧嘩腰すぎて本心が読めない。■■
(……毎回のせられている、私も私だけど)■■
やたらとぶっきらぼうで、喧嘩腰。
青年というより、思春期になりたての少年のようだ。■■
(そう思えば、怒る気もなくなるというか……)■■
付き合いが長くなってくれば、反発も減る。
反感が消えた分、だんだんと今まで見えなかった部分が見えてきた。■■
【ヴィンセント】
「いや、普通の女なら、褒美に森の散歩なんてつまらないだろう」■■
(……私は普通じゃない、って?)■■
大体、つまらないと予想されるのなら誘うなという話だ。■■
「普通の女も何も……。
……あなたって、ろくに女性と接したことがないんじゃない?」■■
【ヴィンセント】
「な……っ」■■
「……っ」■■
「…………」■■
当然、反論が来ると思っていた。
しかし、ヴィンセントは黙り込んでしまった。■■
(…………)■■
(……そうか)■■
(……照れ隠し、か)■■
いや、それ以前の問題。
どう接していいものか分からなかったのかもしれない。■■
(…………)■■
(……森でもどこでも、付き合ってあげよう)■■
【【【時間経過】】】
◆鬱蒼と茂る森の中。
◆針葉樹林が生い茂っているため、昼でも薄暗い。
◆二人が歩いているのは、森の中の小道。
ヴィンセントに連れていかれたのは、まさしく『森』といった感じの場所だった。■■
鬱蒼と木々が茂るせいで、薄暗い。
空気もひんやりとしている。■■
「はあ……、いかにも自然の中にきましたっていう感じね。
湿った土や、木の匂い……」■■
【ヴィンセント】
「浸っていないで、足元、気をつけろよ。
滑って転ぶぞ」■■
「……っ、わ」■■
お約束というか、そう注意されたジャストのタイミングでよろめいてしまう。■■
【ヴィンセント】
「……っ」■■
はしっと掴まれ、顔から倒れるという惨事は免れた。■■
【ヴィンセント】
「気をつけろと言っているだろう……」■■
「……言われたからって、転ぶときは転ぶわよ」■■
【ヴィンセント】
「ああ言えばこう言う……」■■
「あなたもね」■■
憎まれ口は相変わらず。
けれど、今までとは違う馴れ合いのような気安さがうまれていた。■■
(いつから、こんなふうに気軽になったのかな……)■■
今このときというわけではない。■■
最初は本気でいがみあっていたと思うのに、今ではそれもコミュニケーションの一環。
互いに軽口程度の感覚で悪態をついている。■■
「ああ、そういえば……。
先刻言っていた、ナショナル・トラストっていうのは何なの?」■■
「この森が保護されているって言っていたけど。
自然保護活動ってこと?」■■
【ヴィンセント】
「ああ、そうだ。
イギリスで始まった運動で、今ではヨーロッパ全域に広がりつつある」■■
「イギリスから?」■■
【ヴィンセント】
「おまえも知っている通り、世界で一番最初に産業革命が起こったのはイギリスだ。
それをきっかけに、人々の中にあった自然への考え方が変わっていったんだ」■■
「自然への考え方が変わった?
どんなふうに変わっていったの?」■■
【ヴィンセント】
「それまでは、人々にとって自然というのは征服すべき敵だったんだ。
畑や、家を作る上でも、森を切り拓くところから始めなければいけないだろう?」■■
「人が生活しようとしたときに、森は人間の前に立ち塞がる障害だったんだ」■■
「それは今でも変わらないと思うんだけど、どうしてその考え方が変わっていったの?」■■
【ヴィンセント】
「簡単な話だ。
人が文明を発達させていったことにより、敵といえるほどのものではなくなった」■■
「今では機械の力を借りれば、あっさりと森を開拓してしまえるだろう?
人と森のパワーバランスが崩れたんだよ」■■
「その結果、イギリスの街は公害に苛まれることになった。
霧の街・ロンドンなんて言っているが、その頃の『霧』っていうのはただの排気ガスだ」■■
「う……。
夢が一気になくなるようなこと言わないでよ……」■■
【ヴィンセント】
「事実だ。
まあとにかく、そこでようやっと人々は気付いたんだ」■■
「今までと同じように、自然を敵だと思ってがむしゃらに破壊し続けるとまずいってことにな。
そこで初めて、自然保護という概念が生まれることになる」■■
「対立から、保護へと自然に対する意識が変わっていったのね」■■
【ヴィンセント】
「ああ。
そのための組織として生まれたのが、ナショナル・トラストだ」■■
「森林を買い上げ、その土地を自分達のものとして管理することで自然を保護している。
今ではその対象は自然だけじゃなく、文化的に価値のある建物や美術品にも及んでいるんだ」■■
「……こんなの、全然褒美になっていないよな?
面白い話ってのは難しいぜ……」■■
「そんなことないわよ。
私だって、楽しんで……、きゃ!?」■■
またまた、足元が滑った。■■
(う、わ!?
今度こそ、転ぶ……)■■
【ヴィンセント】
「お、おい……!!」■■
ヴィンセントが慌てて支えようと手を伸ばすが、勢いのついた体は止まらない。
むしろ、止めようとした彼すらを巻き込む。■■
【【【演出】】】・・・どさっと倒れる音
「っ……」■■
【ヴィンセント】
「……わ!?」■■
私は見事にすっ転び、彼を下敷きにしてしまった。■■
【ヴィンセント】
「…………」■■
「……った」■■
【ヴィンセント】
「…………」■■
「…………」■■
「……何よ。
怒らないの?」■■
すぐさま退けと怒鳴られるか、馬鹿にされるか。
そんな反応を予想していたのに、彼は静かだった。■■
【ヴィンセント】
「…………」■■
「や、その……。
女って、こんな軽いものなのか?」■■
「……答えにくいことを聞くわね。
別に重いほうではないと思うけれど、だからといって極端に軽いほうでもないと思うわ」■■
(標準よ、標準)■■
(…………)■■
こういう会話がまた、彼の悪印象を消していく。■■
いや、すでに最初の頃の悪印象などなきに等しい。
マイナスでなければプラスに向かう。■■
(プラスに……、なってどうするのよ)■■
先入観が正されるのはいいことのはずなのに、ちっともいいふうには思えなかった。■■
【ヴィンセント】
「そ、そうか……」■■
なにやらぼんやり考えこんでいるふうの彼の上から退く。■■
(この人に……、好印象なんて持ってどうするの)■■
いっそ悪印象のままのほうがやりやすい。■■
【ヴィンセント】
「……軽い。軽すぎる。
そして柔らかい……」■■
ヴィンセントは何かぼそぼそ呟いている。■■
(……?)■■
「ほら、あなたも立って。
背中、汚れちゃったでしょう?」■■
「払ってあげるから、背中をこっちに向けてちょうだい」■■
【【【演出】】】・・・ぱた、と背中の汚れを払いかける音
ぱた、と立ち上がった彼の背に軽く触れたとき、びくっとその背が跳ねた。■■
【ヴィンセント】
「や……っ!
だ、大丈夫だ、自分で出来る……!」■■
「は?汚れているのは背中よ?
背中なんて、自分では見えないでしょう?」■■
【ヴィンセント】
「いいや、大丈夫だ……!
大丈夫だといったら大丈夫だ……!」■■
「というか、ほら、もう暗くなるから館に戻るぞ……!
暗くなったら、森は危ない!」■■
「……や、それは分かるけれど」■■
【ヴィンセント】
「ほら、帰るぞ……!!」■■
ヴィンセントは耳まで赤い。■■
(……ナニがどうしたの?)■■
好印象よりは悪印象のほうがいい。
いけ好かない相手のほうが楽だった。■■
それは、彼も同じはず。
可愛いだとか、意外といい人なのかもしれないだとか、思うべきじゃない。■■
ずんずんと歩くヴィンセントの背を、慌てて追いかけた。
勢いよく歩くくせに、私が追いつかないとちらちら後ろを気にする彼。■■
(可愛いだとか、意外といい人なのかもしれないだとか……)■■
思うべきじゃないのに。■■
【【【時間経過】】】