帽子屋屋敷・主人公の部屋
エリオットは、私が帰ることを懸念しているらしい。■■
最近は、特に。■■
忙しい彼が、時間を作って私にべったりなのだ。
嬉しいが、照れる。■■
そして、疲れる……。■■
「……そんなにひっつかなくても……」■■
【エリオット】
「……嫌だ。
離れない……」■■
「離れたら……帰っちまうだろ、【主人公の名前】」■■
「…………」■■
(動物の勘ってやつ……?)■■
エリオットは、何も言わなくても感じるものがあったらしい。■■
特に何かを告げたり態度に表したりしていないのに、私がもう帰れる状態だということを察知しているようだ。■■
「ちゃんと戻ってくるのに……」■■
【エリオット】
「…………」■■
「……信用ならないみたいね」■■
【エリオット】
「……【主人公の名前】」■■
「……ん?」■■
正直、迷っていた。■■
元の世界に戻らなくてはいけないという責任感は、けして小さなものではない。
帰らなくては、帰らなくてはと焦りがつのる。■■
だが、エリオットの傍にいたいという気持ちも強かった。■■
戻ってくるつもりだが、それを不安に思うエリオットの気持ちも分かる。
元の世界へいけば、ここへ帰ってこられないかもしれない。■■
(帰ってくる……か)■■
いつのまにか、こちらの世界のほうが「帰る」場所になっている。■■
【エリオット】
「俺……」■■
エリオットは、不安そうだ。
耳が垂れ気味になっている。■■
(可愛いなあ……)■■
でれでれしてしまう。■■
……私は、この世界に来て、確実にアホになっていた。
このままではマズイ。■■
この、怖そうなお兄さんが可愛く見えて仕方ないのだ。
ウサギ耳がはえているだけで、怖い感じの人なのに。■■
(…………)■■
(可愛いなあ……)■■
(エリオットは可愛い……)■■
(そして、私は馬鹿だ……)■■
しみじみ思ってしまう。■■
かっこいいのに、可愛い。
可愛くて、かっこいい。■■
馬鹿な話だが、エリオットといると頭がほわほわなって、帰る帰らないなどどうでもよくなってきてしまう。■■
帰らないと、という気持ちまで薄れていってしまうのだから、相当に重症だ。
参っている。■■
恋人になって以来、別の意味でもめろめろになっている。■■
(めろめろ……)■■
(まさか、めろめろなんていうベタな表現にはまる日がくるとは……)■■
「……なあに?」■■
自然、優しく問う。
参るにも程があると思う。■■
エリオットは躊躇うように言葉をつぐ。■■
【エリオット】
「…………」■■
「……俺、あんたがいないと……寂しくて死ぬ」■■
「え」■■
「…………」■■
「…………」■■
「…………」■■
(寂しくて……)■■
(寂しくて……死んじゃう?)■■
(そ、それって……)■■
【【【演出】】】……雷の音
【【【演出】】】……雷の音2
【大】がらがらぴしゃーーーん……。【大】■■
頭の中で、雷鳴が聞こえた。■■
今、雷が落ちた。
頭の中で。■■
(ウサギ……)■■
(ウサギ……。
寂しいと死んでしまう……)■■
(ウサギ……)■■
前に読んだ、メルヘンな文章が浮かんでくる。
あの本を読んでいたのは姉だったろうか。■■
とにかく、そういうフレーズがあった。
覚えている。■■
【ロリーナ】
「ウサギって、寂しいと死んでしまうのよ?」■■
そう言われて。■■
んなわけあるか、と。■■
「へえ」とかなんとか、呆れてしまってまともに返事も出来なかった覚えがある。■■
ウサギだろうが何だろうが、寂しいからって死ぬような生物はいない。
そのときは、冷静にそう思ったのに。■■
「……【大】!!!【大】」■■
【エリオット】
「……【主人公の名前】?」■■
「な、なんだよ……。
呆れてんのか?」■■
「だ……、だって、仕方ねえだろ。
あんたがいなくなるなんて、俺……」■■
寂しさで死ぬような生き物はいないし、仮にいたとしても、生き物として欠陥品だ。
あのときは、そう思ったのだ。■■
【エリオット】
「あんたがこの世界のどこにもいなくなったら……、俺、寂しくって死ぬ」■■
「寂しくて、悲しくって、おかしくなる。
頭を銃で撃ち抜く、絶対」■■
「エ、エリオット……」■■
(なにこれ……)■■
(なにこれなにこれ【大】なにこれ【大】……)■■
ドキドキする。
きゅんきゅんする。■■
少女向けの小説だ。
吐きそうだ。■■
でも、少女向けの小説のように。■■
(……可愛い)■■
(可愛い可愛い可愛い……)■■
この世界に留まるにしろ、元の世界でつけなくてはならないけじめや責任がある。
あるはずなのに……。■■
(……大好き)■■
頭が真っ白になる。■■
「……私」■■
【エリオット】
「……ん?」■■
口が勝手に動く。
まずい、まずいと警報が鳴る。■■
「私……」■■
駄目だ。
言うな。■■
そう思うのに、止められない。■■
「……私、どこにも行かない」■■
【エリオット】
「え?」■■
「ずっと、エリオットと一緒にいる」■■
好きだ。
すごく好き。■■
この人を置いて、一時たりとも帰ったりできない。
この世界や自分の立場の不安定さもどうでもいい。■■
ここにいなければ。■■
(だって……、だって……【大】可愛いんだもの。【大】
仕方ないわよね)■■
(寂しくて死んじゃう……。
ああ……、もうどうしてやろうかってくらいに可愛い……)■■
【エリオット】
「ほ、本当か?
俺がごねたから、その場しのぎってわけじゃなく……?」■■
「本当よ。
ずっと、ここにいるわ」■■
【エリオット】
「マジかよ……。
なんで、そんな晴れ晴れと……」■■
「???
なにか……とち狂ってるんじゃないよな?」■■
「狂っていない、狂っていない」■■
(狂っている、狂っている)■■
脳内麻薬全開だ。■■
【エリオット】
「う、嬉しいんだけどよ……」■■
「……なんだか、目がおかしな具合にきらめいてるぜ?
勢いで言ってねえ?」■■
「よくよく考えた結果よ」■■
若干おびえ気味のエリオットに、にっこりと微笑む。■■
「私、エリオットが大好きなの」■■
これは、本当だ。■■
私は、真剣に……他のことなどどうでもよくなっていた。■■
「好きだから……なんの問題もないわ……」■■
ないわけがない。
【大】問題山積みだ。【大】■■
自覚はあるのだが、脳内麻薬がすべてを吹き飛ばす。■■
(もう、いいや。
元の世界は元の世界でどうにかなるでしょう……)■■
(……たぶん)■■
(私、ずっとここにいる……)■■
【エリオット】
「お、俺もっ。
あんたのことが好きだぜ」■■
ほわんと、甘ったるくなるエリオット。■■
【エリオット】
「【主人公の名前】……、残ってくれるって決めてくれて嬉しい……。
俺、絶対、あんたのこと幸せにするから……」■■
間近で見る顔はかっこよく、頼りになりそうで精悍だった。
しかし、私の目には別のフィルターがかかっている。■■
「エリオット、大好き……」■■
【エリオット】
「【主人公の名前】……」■■
彼は嬉しそうに、幸せそうに微笑む。
いつもの私なら、戦慄をおぼえるほどの甘い雰囲気……。■■
しかし、今の私は平気だった。■■
むしろ、もっと甘ったるくても構わない。
何でも来いというくらい舞い上がっている。■■
「大好き……」■■
「ああ……、本当に大好きよ、エリオット。
愛している……」■■
【エリオット】
「俺だって、愛してる……」■■
好き、大好き、愛している。■■
狂ったように繰り返す。
照れと寒気でどうにかなってしまいそうなくらいの甘さも享受できる。■■
【エリオット】
「ああ、【主人公の名前】……。
好きだ……」■■
「私も……大好き……」■■
「好き……」■■
「…………。
……かわいい」■■
【エリオット】
「…………」■■
「…………」■■
【エリオット】
「……【主人公の名前】」■■
「……ん?」■■
【エリオット】
「【大】可愛いってなんだ?【大】」■■
「【大】あ【大】」■■
つるりと、出てしまった。■■
しくじった……。■■
「え。
だって、ほら、可愛いんだもの、あなたって」■■
【エリオット】
「可愛い……。
どこがだ、何が!?」■■
「え?
え?」■■
「え~~~……と」■■
【エリオット】
「どこがだよっ、どこが!
言ってみろよ!?可愛くなんてないだろう、俺っ」■■
(いやいやいや、可愛いよ。
そうやってムキになるところなんて可愛すぎだよ……)■■
【エリオット】
「っ!
言えよ、直すからっ」■■
「ええ?
直してほしくなんかないんだけど……」■■
【大】そのままでいてほしい。【大】■■
【エリオット】
「直すに決まってんだろっ!?
好きな女に、可愛いだなんて……っ」■■
男の矜持というやつだろうか……。■■
(そのままでいいのにー……)■■
【エリオット】
「【大】言・え・よ!【大】
直す!直すから!」■■
「えーーー……」■■
【エリオット】
「【大】言・え!【大】
俺のどこが可愛いんだ、どこがっ!」■■
つっかかってきそうな勢いだ。
誉め言葉なのにムキになるなんて、男っていうのは分からない。■■
私は、溜め息をついた。■■
(ここで、全部(はあと)とか言ったら、誤魔化されてくれないかしら……。
あ~、駄目だな、動物の勘で察知しちゃうよね……)■■
(あ~……、動物って厄介……)■■
「可愛いところは多々あるんだけど……」■■
【エリオット】
「ねえよっ!」■■
「……聞きたくないの?」■■
【エリオット】
「…………」■■
「聞く……」■■
「……えーと、そうね、ウサギなところかな。
ウサギ耳なところとか……、そこはかとなく性格もウサギっぽい……」■■
「ウサギっぽい性格ってどんなだか知らないけど……」■■
【エリオット】
「…………」■■
「う、うさ……」■■
「……あとは、えーと……」■■
「…………」■■
「…………。
あれ?それだけかな……」■■
意外と少ないものだ……。■■
【エリオット】
「お……、俺……、ウサギじゃないんだけど……」■■
「……あ~……」■■
「うん。
まあ……、そうかもしれないけど、ウサギっぽいよね」■■
(ウサギだよね……。
認めていないのは本人ばかり……)■■
【エリオット】
「俺、ウサギでもないし、ウサギっぽくもないけど……、ウサギじゃないと好きになってもらえないなら、ウサギらしくする……」■■
「何もしなくていいわよ」■■
何もしなくてもウサギだから。■■
「大丈夫、大丈夫、ウサギだろうとウサギじゃなかろうとエリオットのこと、好きだから」■■
【エリオット】
「……でも、ウサギのほうがいいんだろ」■■
「…………」■■
「……そんなことないわよっ。
ウサギじゃなくっても愛しているっ」■■
【エリオット】
「嘘だっ!!絶対嘘だ!
間があった、間が!!!」■■
「えー……。
そんなの、ないない」■■
【エリオット】
「【大】あっただろ!?【大】」■■
(……あったかも)■■
「ないないない……」■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・ブラッドの部屋
【ブラッド】
「エリオットを大事にしてやってくれ」■■
真剣な顔で呼び出され、何を言われるかと思えば。■■
「大事にしているわよ」■■
「……っていうか、それ、女に言うことなの」■■
男のほうに「大事にしてやれよ」というなら分かる。
女のほうに対して、その言葉は……。■■
【ブラッド】
「エリオットは放っておいても君を大事にするだろう。
だから、奴には何も言うことはない」■■
「それよりも君だ。
奴を弄ぶなよ」■■
「…………」■■
「……あのさあ、私ってブラッドの中でどういう位置づけなの……」■■
えらい言われようだ。
言われなくても、弄んだりしない。■■
「すごい悪女だとでも思っているわけ」■■
【ブラッド】
「悪女かどうかなど知らないが、奴よりは真剣じゃない」■■
「……不真面目に付き合っていると言いたいの?
私だって真剣よ」■■
【ブラッド】
「いや、それくらいじゃ足りない。
本当に、真剣に大事にしてやってくれ」■■
「だから、真剣だって」■■
【ブラッド】
「真剣の度合いが足りていない」■■
「なによ、それ……」■■
【ブラッド】
「奴のほうが真剣だ」■■
私だって、真剣だ。
しかし、そう言っても堂々巡りな気がする。■■
「ブラッドがそんなにエリオットのことを思っているとは知らなかったわ」■■
いつも、どうでもよさそうなくせして、やたらと絡んでくる。
男の友情というやつだろうか。■■
【ブラッド】
「あいつは……君にベタ惚れだから」■■
「は?」■■
【ブラッド】
「本気で……、真剣に、ベタ惚れなんだ」■■
「真剣なんだ。
【大】ものすごく【大】」■■
それこそ真剣に、真顔で言われて引いてしまう。■■
「そ、そこまででは……」■■
(まあ、もちろん好きでいてはくれているけど……)■■
上司に力説されるのはどうかと思う。■■
【ブラッド】
「【大】ベタ惚れなんだ【大】」■■
私の意思を無視して、ブラッドは言い切った。■■
「ベタ惚れ……かな?」■■
そんなに断言されるとそうかなーと思えてくる。■■
(嬉しいかも……)■■
【ブラッド】
「ああ、ベタ惚れだ。
だから、君も同じくらい惚れてくれなくては」■■
「え?
私もって……」■■
「私も、大概な感じになっていると思うわよ。
俗にいう、恋にうつつを抜かしている状態だと……」■■
【ブラッド】
「いやいや、全然、まったく、真剣味が足りていないね」■■
「な、何よ。
私、真剣よ?」■■
気持ちを否定されてむっとした。■■
【ブラッド】
「駄目だ。
足りていない」■■
「私がエリオットを好きな気持ちは、エリオットにも負けてない……」■■
【ブラッド】
「負けている」■■
「むむ……。
負けてないわよ」■■
【ブラッド】
「いいか、【主人公の名前】。
君は、奴の愛がどれほどのものかを分かっていない」■■
説明するのもだるいというように、ブラッドはぴっと杖を立てた。■■
【ブラッド】
「奴は……、奴はな、君が望むなら……」■■
「……【大】一生にんじんが食えなくてもいいと言ったんだぞ?【大】」■■
「【大】負けたわ【大】」■■
【大】それほどの愛とは思わなかった。【大】
【大】完敗だ。【大】■■
【ブラッド】
「ああ、奴の愛は本物だ。
決意を聞いた瞬間、痺れたね」■■
「愛とは美しいもの……。
私は、その美しい愛を貫いてほしいと思う」■■
「【大】私の食卓の平穏のために【大】」■■
ブラッドは、私の手をしっかと握った。■■
【ブラッド】
「美しい愛のため……私のため……私の食卓のために、君にも真剣に奴を愛してほしいんだ」■■
「美しい友情ね……」■■
ブラッドは真剣だった。
ある意味、エリオットより真剣で切実かもしれない。■■
【【【時間経過】】】
どこか屋外
【エリオット】
「そうだ。
俺は決意したんだっ」■■
「もう、一生にんじんなんて食えなくていいっ」■■
「へえ。
そうなんだー……」■■
【エリオット】
「食卓ににんじんが一切出なくても、平気で耐えられるっ」■■
「へええ……。
そうなんだーーー……」■■
【エリオット】
「ちっとも構わないっ。
にんじんなんかなくても……っ」■■
(とても平気には思えない……)■■
「それはいいけど……。
私を噛むのやめてよね……」■■
せっかくのデートだが、私は距離を置いていた。■■
近寄るとべたべたしてくる……のはいいとして、噛まれるのはごめんだ。
最近、エリオットは私を噛む。■■
比喩でも誇張でもない。
【大】噛む。【大】■■
(動物め……)■■
「ストレスが溜まっているんじゃないの。
好きなものが食べられないから……」■■
【エリオット】
「俺はあんたが好きだから、あんたがいれば耐えられるっ」■■
「耐えなくていいよ……」■■
「いいから……、噛まないで……」■■
(痛い……)■■
(にんじん断ちなんかしなくていいから、噛まないでほしい……)■■
「……にんじん、食べたらいいじゃないの。
誰も止めていないわよ?」■■
止めたがっているのはブラッドだけだ。
主な被害者はあの人だから仕方ない。■■
【エリオット】
「ウサギっぽいことはしないっ!
ウサギじゃなくっても愛してるって言ったろ!?」■■
「まだ気にしていたの、それ……」■■
【エリオット】
「ったりまえだろ!?
ウサギっぽいのが可愛いから好きなんて言われて……」■■
「ウサギっぽくなくなってやる!
それでも好きかどうか証明してもらうからなっ」■■
「…………。
にんじんを食べなくなったからって、ウサギっぽくないとは思えないと思うんだけど……」■■
にんじんを食べるからウサギっぽいというわけではない。■■
(ずれているなー……)■■
(アホの子だなー……)■■
つつつ……と、視線がエリオットの頭にいく。■■
【【【演出】】】……キラキラ音
(かわいいー……)■■
(なごむわー……)■■
(……大好きー)■■
ほのぼの幸せな気分になる。
私も、相当、アホな子だ……。■■
「いいじゃない、好きなんだから」■■
【エリオット】
「ウサギっぽいのが好きなんて、全然嬉しくないっ!」■■
「それじゃ、他にも……。
白ウサギとか……好きなんだろ?」■■
「ペーター?」■■
【エリオット】
「あいつ、ウサギじゃないか……」■■
「んー……、まあ、ウサギっていえばウサギね……」■■
「でも、こう……エリオットとは違うのよね。
あなたのは、こう……ぐわしゃ~~~んっとなるような可愛さで……」■■
【エリオット】
「わ、分からねえ……」■■
「乙女心は奥深いのよ……」■■
【エリオット】
「乙女心……なのか、それって……」■■
「乙女でしょ」■■
どうだか知らないが、とりあえず断言しておく。■■
「エリオットって……、こう……もう……どうにかしてやりたいって気持ちにさせられるのよね」■■
「理性が奪われるわ……」■■
【エリオット】
「…………」■■
「そ、そういうのは別の場面で聞きたいぜ……」■■
「はあ……」■■
「……ふうん」■■
「別の場面でどうにかされたいの?」■■
【エリオット】
「え。
いや……、俺は、どうにかするほうが……」■■
「……あー、もう……ぐだぐだだ……。
かっこよく、あんたを引き止めたかったのに……」■■
「残ってくれた理由が、ウサギっぽくて可愛いから……」■■
(ウサギっぽいんじゃなくて、ウサギなんだけど……)■■
落ち込んでいるところも、また可愛く見える。■■
だが、単にウサギが好きなら元の世界に戻ってウサギを飼えばいいだけだ。
理由になっていない。■■
「でもさ、他の人がウサギっぽくても、残っていないわよ?」■■
【エリオット】
「…………」■■
「エリオットだから、可愛いのよ」■■
ちゅっと可愛らしくキスをする。■■
【エリオット】
「……複雑な……」■■
エリオットは言葉通り複雑そうにしてから、表情を引き締めた。■■
【エリオット】
「可愛いだとか、そんな勢いで残っちまって……後悔するぜ?」■■
「あら。
残っちゃまずかった?」■■
一時でも帰らないでほしいと望んだのは、エリオットではなかったか。■■
【エリオット】
「んなわけないだろ。
すごく嬉しかった……けど……」■■
「俺は、あんたが本当に好きだから……」■■
愛されているな~と思う。■■
私だって、好きだ。
本当のところ……、ウサギじゃなくてもまったく構わない。■■
エリオットがウサギじゃなくても、結局残ったと思うし、ろくに後悔もしなかっただろう。
今と変わらない。■■
可愛い・愛しいと思うのは、好きだからだ。
可愛いから好きになったわけじゃない。■■
「…………」■■
「残ってよかったと思うわ。
ほんとよ?」■■
【エリオット】
「【主人公の名前】……」■■
「…………」■■
「もう、なんでもいいや……、残ってくれたんだから……。
ウサギだからでも、なんでもいい……」■■
「ばっかねー……」■■
「ウサギじゃなくても、なんであろうと大好きよ?」■■
わしゃわしゃと撫で回してやりたくなる。■■
(私がいないと寂しくて死んでしまうなんて……)■■
(そんな可愛いことを言ってくれる人、ウサギでなくたって充分可愛いわ)■■
【エリオット】
「俺だって、なんでもいいよ……。
あんたがいなくならないでくれるなら……」■■
「……大丈夫。
これからも寂しがらせたりしないから」■■
残ってよかった。■■
私を必要としてくれて、いなくなったら死んでしまうと言ってくれる。
愛しい・可愛い、それだけで残ったことは後悔しないと思う。■■
それだけでも、理由としては充分だ。■■
このウサギさんがいなくなったら、「寂しくて死んでしまう」のは私かもしれないな……と、うっすら分かる、それだけで。■■
【【【時間経過】】】
「エリオットBESTEND」ここまで↑