アニバーサリーの国のアリス・エリオット滞在ルート13
★帽子屋屋敷滞在共通部分(全キャラ共通含む)ここから↓
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
帽子屋屋敷・エントランス
【【【時間経過】】】
【ブラッド】
「……さて、行くか」■■
【エリオット】
「おし、準備はできたぜ」■■
以前話を聞いた、舞踏会のときがやって来た。
出発を前に、私は屋敷の面々とエントランスに集まっている。■■
「……本当に行くの」■■
【ブラッド】
「もちろん」■■
【ディー】
「あ~……、嬉しいな嬉しいな。
お休み、お休み」■■
【ダム】
「有休だよね?
だよね?」■■
【エリオット】
「てめえら、普段からさぼりまくりだろ」■■
【ディー】
「休みっていうのは、また違うんだよ」■■
【ダム】
「そうだよ、馬鹿ウサギ」■■
【エリオット】
「俺はウサギじゃねえ!
誰が馬鹿だ!!!」■■
【ブラッド】
「……ふ。
はしゃがなくても舞踏会は逃げないぞ」■■
「……とか言いながら、あんたが一番うきうきしているわよね」■■
ブラッドはすましているが、そわそわと落ち着かない。■■
【ブラッド】
「どんなブレンドが出されるのか……」■■
【エリオット】
「俺、にんじん茶がいいなー……」■■
「舞踏会のときくらい、にんじん尽くしは諦めましょうよ……」■■
【ディー】
「そうだよ。
夜のパーティって言ったら酒だろ?」■■
【ダム】
「アルコール飲料って、買うと高いんだよね。
高級酒飲みまくっちゃおっと」■■
「あなた達は、飲んでいい年齢なの……?」■■
【ディー】
「さあ?」■■
【ダム】
「よく分からないや」■■
【エリオット】
「保護者同伴だから、いいんじゃねーの」■■
双子の年はよく分からないが、イベントごとで、保護者同伴となれば問題はないのだろう。■■
貴族の子供なら嗜みとして、下町の子供なら自然に、私のように中間の富裕層でもそれなりに覚えさせられる。■■
【エリオット】
「こいつらの場合、酔うと見境なしに刃物振り回すのが、ちょいと難点だけどな」■■
「……ちょっとどころじゃないわよ」■■
「そんなの、目が離せないじゃないの!
大問題よ!」■■
【ディー】
「お姉さんになら、監視されてもいいな」■■
【ダム】
「僕達から目を離さないでね?」■■
離したくても、離せそうにない。
関わりたくもないのに……。■■
「目を離しても安心させてよ。
あんた達って本当に危険なんだから……」■■
【ディー】
「えー」■■
【ダム】
「そんなことないよ。
僕ら、すごく安全だよ?」■■
【エリオット】
「どの口がほざくか……」■■
ぎゃあぎゃあと、またいつものように喧嘩が勃発しかけている。
なんとかならないものかと、彼らのボスを見るが……。■■
【ブラッド】
「ブレンド……」■■
「…………」■■
「出かけましょう……」■■
本当は、敵地での舞踏会など危険そうなので、ぞろぞろと行きたくない。
だが、この場において私が引率しないといけないような状態だ。■■
(いつも、どうしているんだろう、この人達……)■■
マフィアだけあって、強いことは分かっている。
しかし、なんだか放っておけない……。■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・全景
ハートの城の敷地に着いた。■■
「……このまま入るの?」■■
【エリオット】
「?
引き返してどうするんだよ」■■
「それはそうなんだけど……」■■
【エリオット】
「あ!
ブラッド、待てよ」■■
【ブラッド】
「紅茶……」■■
ブラッドは、すたすたと進んでいってしまう。
部下達も、従わざるをえない。■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・門前
ハートの城前だ。
「……本っっっっっ当にこのまま入るの?」■■
【エリオット】
「そりゃあ入るに決まっているだろ。
おい、ブラッド、待てって……!」■■
「紅茶は逃げないって……!!!」■■
【ブラッド】
「私の紅茶が飲み尽くされてしまったらどうするんだ……!?」■■
【エリオット】
「おまえ以外、舞踏会でそんなに紅茶にこだわる奴いねえよっ」■■
【ディー】
「ああ、休みっていいよね」■■
★↓ここから修正でカット必要部分(収録は必要なさそう)(※既存シナリオにあった記載)
【ダム】
「金目の物あるかなー」■■
★↑ここまで修正でカット必要部分(収録は必要なさそう)(※既存シナリオにあった記載)
「…………」■■
【メイド1】
「お疲れですか?」■■
【使用人】
「休憩しましょうか?
ボス達は、揃っていればまず間違いは起きませんから」■■
「あの四人が揃っていらっしゃれば無敵です」■■
【メイド1】
「別の意味でも無敵ですから、違った間違いが起きそうですけどね……」■■
「ありがとう……。
皆がいてくれたら安心できるわ」■■
「…………」■■
「……って、そうじゃない!
こんなのマズイでしょう!?」■■
【メイド1】
「???」■■
【使用人】
「???」■■
【メイド1】
「大丈夫ですよ、私達も選抜された者です。
腕はそれなりにたちますわ」■■
【使用人】
「ちゃんとお守りしますよ。
ご安心を」■■
「…………」■■
「……服装がマズイのよ」■■
【メイド1】
「え?」■■
「あら……、後で着替えますわよ?
こんな格好では踊れませんもの」■■
【使用人】
「仕事着ですからね……」■■
「【大】出発前に着替えておこうよ【大】」■■
エリオットは言葉通り部下の都合をつけ、ぞろぞろと連れてきていた。
ぞろぞろ。■■
なんの変装もせずに、普段どおりの格好でぞろぞろ。■■
「これ、あからさま過ぎると思うんだけど」■■
【メイド1】
「そうですか?」■■
【使用人】
「兵士達も咎めだてしないですし、いいんじゃないでしょうか?」■■
実際、幾人もの兵士達とすれ違ったが、問い質されることもなかった。
そのおかげで余裕もできたのだが……。■■
「それにしても……、なんの変装もなくぞろぞろと入り込むっていうのは……」■■
【メイド1】
「問題ありませんって。
催し物の時間帯っていうのはそういうものなんです」■■
【使用人】
「普段なら、敵地に入り込むなんて抗争ものですけどねー」■■
【メイド1】
「そうね、普段なら血の雨よね。
銃をホルスターに収めている暇なんかないでしょう」■■
「あ、でも、今は全然気にしなくても大丈夫ですよ?
安心してください」■■
そんなことを言われて、気にしないでいられる人なんかいるのだろうか。■■
「気にするわよ!
まともな神経をしていれば!」■■
まともな神経をしていない人に言っても無駄だろうが、突っ込まずにはいられない。
他所の領土の者だというのが明らかすぎる……。■■
使用人達はもちろん、ブラッドやエリオット・双子達も普段どおり。
なんの変装もしていない。■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↑
「いくら見逃してくれるって言っても、敵の本拠でしょ!?
もうちょっと、変装するとかなんとか……」■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
【メイド1】
「あらあら。
心配性なんですね」■■
【使用人】
「用心深いのはいいことですよー」■■
「普通よ、普通。
普通の感覚……」■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・舞踏会会場
会場に入る。
本当に、そのまま入り込んでしまった……。■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↑
大きな城だけあって、舞踏会会場も立派なものだ。
結構な人数が収容できる広さの会場には、すでに招待客が集まっていた。■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
「いつ着替えるのよ?」■■
ちなみに、私達は未だ着替えていない。■■
【メイド1】
「ええ、その内……」■■
「その内っていつ」■■
【メイド1】
「ボス達が戻ってこられたら……」■■
「いつ戻ってくるの」■■
【メイド1】
「……いつでしょう」■■
ブラッド達は、勝手に先を急ぎ、どこかへ行ってしまった。■■
(どこかって……、ブラッドの場合は紅茶へ一直線に決まっているけど)■■
【使用人】
「ボス達はどこへ行ったんでしょうねー……」■■
【メイド1】
「紅茶を漁っているんじゃないかしら。
門番さん達はもっと違うものを漁っているのだろうけど……」■■
「はあ……」■■
「目を離すとか以前の問題よね……」■■
【使用人】
「あの方々って、護衛なんかいらないと思う……」■■
【メイド1】
「エリオット様に怒られるわよ」■■
【使用人】
「なんだかんだ言って、一番真面目だよな、エリオット様……」■■
【メイド1】
「うちの上層部の中では……、ね」■■
「はあ……」■■
使用人一同と私は、手持ち無沙汰にぼけ~っと過ごす。
だんだんと、周囲に招待客らしき着飾った男女が増えていく。■■
「なんだか……、開会が近いような気がするんだけど……」■■
【メイド1】
「そのようですね」■■
【使用人】
「ボス達、まだかな……」■■
「え~~~、ちょっと、さすがにこの格好じゃ場にそぐわないわよ!?
ブラッド達が戻ってこなかったら、どうするの?」■■
【メイド1】
「どうしましょうか……」■■
【使用人】
「困るよなあー……」■■
「……適当にそのへんのを撃って、時間稼ぎしときます?」■■
「【大】しなくていい【大】」■■
【使用人】
「……えー、でも、退屈ですよ?」■■
【メイド1】
「こっそり遊んでいきません?」■■
「【大】何もしなくていい【大】」■■
ちょっと共感できた気がしたが、気のせいだった。■■
彼らはブラッド=デュプレの部下。
上司が上司なら、部下も部下だ。■■
【使用人】
「退屈だー……」■■
【メイド1】
「私達、暇って耐えられないんですよね……」■■
【使用人】
「退屈……」■■
【メイド1】
「暇……」■■
「……落ち着こう。
ね?」■■
「退屈で暇だからって、見知らぬ人に銃を向けちゃ駄目」■■
【使用人】
「知っている人ならいいですか?」■■
【メイド1】
「暇つぶししません?」■■
「……【大】落ち着け【大】」■■
大人しくできない子供みたいなことを言い始めた使用人達を宥める。■■
間違いなく、彼らはブラッドの部下だった。
しみじみ分かるが、分かりたくなんかなかった。■■
(この人達って、マフィアの構成員なんだよね……?
しかも、かなりの手練れ……)■■
(これでも……)■■
ちぐはぐ具合もまた、ブラッドの部下らしい……。■■
【使用人】
「だって、退屈じゃないですかー。
ボス達だって、俺らのいないところでお楽しみなんですよ?」■■
「俺らも遊びたいです。
遊んじゃいませんか?」■■
【メイド1】
「そうそう、お供するのはいいんですけど、いつも忘れられちゃって……。
暇ですわ」■■
「え。
なに?いつもそうなの?」■■
「じゃ、今回も帰ってこなかったりする?」■■
(置いてきぼり……!?
ひど……っ)■■
一体、なんのために連れて来られたのだか分からない。■■
【使用人】
「大体は……」■■
「あー、でも、今回は違いそうですね」■■
【メイド1】
「あなたがいらっしゃいますもの」■■
「……?」■■
【使用人】
「戻ってくるってことですよ」■■
【【【時間経過】】】
彼らの予想した通り、ブラッド達は戻ってきた。■■
「……遅い!」■■
「もう……!
どこへ行っていたのよ」■■
使用人達の話を聞く限り、戻ってきただけでも良しとしなければならないが、不安になったのは確かだ。■■
【エリオット】
「すまん、【主人公の名前】。
ブラッドがティールームに一直線で……」■■
【ブラッド】
「……うまかった」■■
「土産も確保したし、安心だ……」■■
ブラッドは、恍惚とした表情だ。
満足したらしい。■■
【ディー】
「ばっちりだよ、ボス」■■
【ダム】
「茶葉はたんまりとかっぱらって……いや、貰ってきたよ」■■
「もう……」■■
「まだ着替えていないのよ?
もう始まっちゃうみたいだし……どうするの」■■
ブラッドやエリオット、双子の服はクラシックな舞踏会には合わないし、従業員達も言わずもがな。
私だって、どう見ても舞踏会向けの服装ではない。■■
【エリオット】
「あ~、それなら……」■■
【ブラッド】
「……お出ましだぞ」■■
【ディー】
「女王だ」■■
【ダム】
「いつ見ても偉そうなおばさんだよね~」■■
「……!」■■
【エリオット】
「開会だな……」■■
【【【時間経過】】】
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↑
★全キャラ共通部分ここから↓
【【【演出】】】……ラッパの音
ラッパの音が鳴った。■■
【ペーター】
「……静粛に」■■
ざわついていた場内が、静まる。■■
【ビバルディ】
「…………」■■
ハートの女王、ビバルディは美しかった。
彼女は、そこにいるだけで華がある。■■
主催者という理由だけではなく、その存在感ゆえ誰も彼女を無視できない。■■
【ビバルディ】
「よく集まったな」■■
広い場内を、女王の視線が舐める。
ざっと見ただけで、全体を把握したようだ。■■
【ビバルディ】
「招かれざる客もいるようだが……」■■
「……今宵は、宴じゃ。
すべてを忘れて楽しむがよい」■■
今は、昼。
だが、彼女は宵という言葉を用いた。■■
【【【演出】】】……ぱんと手を叩く音
ぱん。
彼女は、手を叩く。■■
【【【演出】】】……不思議サウンド?(時間帯が昼から夕方に変わる)
【ビバルディ】
「わらわは、夕暮れ時を好むが……」■■
「……夕方の舞踏会というわけにはいくまいな」■■
【【【演出】】】……ぱんと手を叩く音
ぱん。■■
【【【演出】】】……不思議サウンド?(時間帯が夕方から夜に変わる)
彼女が手を叩くと、時間帯が変わる。
外は夜になり、場内は暗くなった。■■
【ビバルディ】
「……灯りを」■■
【【【演出】】】……ぱんと手を叩く音
ぱん。■■
【【【演出】】】……不思議サウンド?(ぱあっと、会場の明かりがつく)
最後の合図で、照明がついた。
ぱあっと、会場全体が明るくなる。■■
【ビバルディ】
「……今宵限りかも知れぬその生を謳歌するがよい」■■
「わらわからは、以上じゃ」■■
従者が慌てるのも気にせずに、ビバルディはとっとと演説を終えてしまった。
演説というほどのものでもない。■■
短すぎるが、彼女に続ける気はないようだ。■■
後は、こういった大きな催し物につきものの、開会の挨拶。
女王は下りてしまったので王が続けたが、彼女の後では否応なしに存在が霞む。■■
客も、後は聞き流しているようで酒や軽食を楽しんでいる者もいた。
会場には立食形式で、食事のスペースも備え付けられている。■■
なるほど、規模は大きいが畏まった催しではないようだ。■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここまで↑
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
【ブラッド】
「……相変わらずだな」■■
【エリオット】
「きっつい女……」■■
【ディー】
「香水もきつそー」■■
【ダム】
「性格わるそー」■■
「お姉さんは、あんなふうになっちゃ駄目だよ?」■■
【ディー】
「お姉さん……?」■■
「…………」■■
「……か、かっこいい」■■
【エリオット】
「え……」■■
「女王様……」■■
【エリオット】
「ええ……!?」■■
「お、おい、【主人公の名前】!?
なに言い出すんだよ!?」■■
「かっこいいじゃない……」■■
「ああ、男には分からないかしら……。
あのかっこよさ……」■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↑
女王・ビバルディには、威厳があった。
美人で、毅然としている彼女は、残忍だということを知っていてもかっこよく映る。■■
「主催者にご挨拶に行かなくてもいいのかしら」■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
【エリオット】
「……あの女に?」■■
正気かというような目で見られた。■■
【ブラッド】
「女王のほうも私達に挨拶などされたくないさ」■■
「……敵対しているんだものね」■■
客ならば手土産のひとつでも……。
女王のような高貴な身分の人にならば、貢物でも献上してしかるべきだ。■■
遠目に見ていても、招待客がご機嫌伺いに行く様子が見てとれる。■■
主催者に挨拶なんて初歩の礼儀、私みたいな中流に毛が生えたような身分の者でも常識だ。
だが、私たちは招かれざる客。■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↑
敵なのにせっかく黙認してくれているのだから、挨拶には行かないほうがいいだろう。
薮蛇になる。■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
「…………」■■
「開会したことだし、もういい加減に着替えましょう」■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↑
気持ちを切り替える。
無礼も割り切って、舞踏会を楽しむことにした。■■
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
【ブラッド】
「そうだな。
黙認されているとはいえ、この格好はあからさますぎる」■■
【エリオット】
「目立つもんな……」■■
【ブラッド】
「おまえに言われたくない……」■■
【ディー】
「着替えるんなら、従業員を集めて……」■■
【ブラッド】
「ぐでぐでだな、うちの連中は……」■■
【エリオット】
「それこそ、言われたくないと……」■■
【ダム】
「皆、散らばっちゃってるよー……」■■
【ディー】
「おーい……」■■
【ダム】
「着替えるんだってー」■■
【【【時間経過】】】
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↑
★帽子屋屋敷滞在共通部分(全キャラ共通含む)ここまで↑
※エリオット滞在05、08、11「ペーター横槍」発生条件のMAP選択で3回とも「1:ハートの城」を訪問している場合のみ、「ペーター横槍」ここから↓
(11でハートの城訪問後の選択肢はどちらを選んでいてもOK)
★ペーター非滞在08_1・帽子屋と共通↓
皆の注意が他の方向へ向く。■■
そんなに距離が離れていたわけではない。
だが、その隙間のような時を突いて、引っ張られた。■■
★遊園地&帽子屋共通部分ここから↓
「……っ!?」■■
「な……?!?」■■
【ペーター】
「お久しぶりです、【主人公の名前】……」■■
「ペーター!?
どうしたの……??」■■
(……って、どうしたのも何もないか)■■
「あなた、こんなところにいていいの?
宰相なんだから、主催者側でしょう?」■■
何度も会いに来ている。
城にペーターがいるのは当然だとは分かっているが、今ここにいるのは問題だった。■■
【ペーター】
「いいんですよ」■■
「いいって……」■■
「仕事があるでしょう?
接待だって忙しいはずなのに」■■
これだけの規模の舞踏会で、主催に近い人間がふらふらしていていいわけがない。■■
【ペーター】
「あなたより優先するべきことじゃない」■■
「……ペーター?」■■
彼のこういった言動は珍しくない。■■
しかし、今は違和感を覚える。
いつもの調子のはずれた陽気さはなく、より狂気に近いものを感じた。■■
私をこの世界に引っ張り込んだのがこの人だということを、急に思い出す。■■
【ペーター】
「僕は、平気だったのに……」■■
「……あなたが悪いんですよ」■■
「……え?」■■
【ペーター】
「あなたが、悪いんです」■■
言い含めるように繰り返す。
表情はどこか意地悪そうに微笑んでいるのに、身にまとう空気にはひどく悲壮感があった。■■
【ペーター】
「あなたが同じ世界にいてくれるだけでよかった。
帰らないでいてくれれば、僕は幸せだったんです……」■■
「離れていたって、平気でした。
我慢できた。元の世界に帰らないでいてくれるなら」■■
「なのに、あなたが僕に会いにきてくれるから……、もっと傍にいてほしいと願ってしまう」■■
「期待をさせる、あなたが悪い」■■
「……傍にいるじゃない」■■
「結構頻繁に会っているし、仲良くもなれた……」■■
落ち着かせるように、静かに言う。■■
【ペーター】
「そうですね。
たまに会いにきてくれて……、そのときだけ傍にいてくれる」■■
「そのときだけ……ですよね」■■
「いつもは、他の奴の傍にいて……」■■
「今も……あなたが他の奴らといるのを見て、ムカムカしました。
全然平気じゃなかった……」■■
【ペーター】
「……僕、やきもちをやいているんでしょうか」■■
「……っ……」■■
壁に背中を押し付けられ、キスをされる。■■
【ペーター】
「……ねえ、【主人公の名前】。
どうなんでしょう?」■■
「……そっ、んなこと……、知らないわよっ」■■
【ペーター】
「意地悪しないで、教えてください。
知りたいんです」■■
冷静なんだか、切羽詰まっているんだか。
舞踏会の会場で……、仕切りも何もない物陰でキスをしてくるなんて、正気とは思えない。■■
「自分の気持ちは、自分が一番よく分かっているでしょう?
私に聞かれても……」■■
下手なことを自覚されても困るが、何も考えずこんなふうに迫られるのも困る。
この男が何を考え、どう行動するか、分かりかねた。■■
【ペーター】
「分からないから、教えてほしいんです」■■
「自分でも分からないあんたの気持ちなんて、私が知るわけない」■■
嘘ではない。
とぼけているわけではなかった。■■
(何を考えているんだか、未だに分からない……)■■
付き合いは長くなったが、理解したつもりで理解できていない。
ペーターという男は、そういう男だった。■■
状況から見れば、嫉妬しているととれるのだがそうとも限らない。
こんなことをしてきても、次に会うときにはけろりとしているのが今から目に浮かぶ。■■
【ペーター】
「僕は、あなたが好きです。
愛しています」■■
これは、愛の告白なのだろうか。
何度も言われすぎて、それもよく分からない。■■
ペーターの言葉は、いつだってそうだ。
中身があるのだかないのだか、分からない。■■
からっぽなようでもあるし、ぎっしり詰まっているようにも思える。
どちらともとれる。■■
「あんたね……、ペーター……」■■
「嫉妬だかなんだか自分でも分からないって言っているのと同じように、意味も分からず愛しているとか言っているでしょう?」■■
【ペーター】
「……愛しているかどうかなら、分かります」■■
「僕は、あなたを愛している。
愛してるんです……」■■
「ペーター……」■■
分かっていないか、意味が違うか。
愛しているのだとしても、その愛情はキスをかわすような類のものではない気がした。■■
もっと別のものか、あるいはもっと深い。
恋愛と同じようで、違うもの。■■
【ペーター】
「この世界に、いてくれるだけでいい」■■
「あなたが幸せなら、それだけで、僕は……」■■
「……でも、今はそれ以上を望んでいる」■■
ペーターが私に抱いている気持ちがなんなのか、私にも分からない。
本人にも分からないだろう。■■
だけど、好意であることは間違いない。■■
好意であるからこそ、受け入れられない。■■
「ペーター……、あなたの気持ちは勘違いよ」■■
【ペーター】
「勘違い?」■■
(……分からないんだけどね)■■
本当は、分からない。
勘違いではなく、ペーターは私のことを恋愛感情で好きなのかもしれない。■■
だが、ペーターだって分かっていないのだ。
それに乗じて、決め付けた。■■
【ペーター】
「これって、勘違いなんですか?」■■
「そうよ、勘違い」■■
【ペーター】
「あなたを好きなのが……?」■■
「それは、勘違いじゃないと思う。
あれだけ好き好き言えちゃうくらいなんだから、好意は持ってくれているんでしょう」■■
「あんたって非常識な奴だけど……。
好意もなく、あんな態度がとれるとは思っていないわ」■■
【ペーター】
「じゃあ、やっぱり勘違いなんかじゃなく、僕は……」■■
「私を好きでいてくれるのは分かるけど、恋愛感情じゃないわ」■■
「キスも……、親愛の情なら分かるけど、こういうキスをかわす間柄じゃない。
あなたは、勘違いしているの」■■
「これは、恋愛感情じゃないわ」■■
【ペーター】
「恋愛感情じゃない……?」■■
「でも、あなたが他の奴といるところを見てイラつくのに……」■■
ひそひそと、唇を触れ合わせながら会話する。■■
【ペーター】
「僕は、あなたが好きなんですよ」■■
(私だって、嫌いじゃないわ)■■
(好きだと思う)■■
こうして、キスをしても、ちっとも不快にならない。■■
最初のときとはずいぶん違う。■■
「私だって、あなたが好きよ」■■
【ペーター】
「【主人公の名前】……」■■
「……友達としてね」■■
【ペーター】
「【主人公の名前】、僕は……」■■
「友達よ、ペーター」■■
「あなたのことが好き。
あなただって、私のことを好きでいてくれる」■■
「友達だって、他の人と仲良くしていたらやきもちをやくわ。
恋人のような人が別にいれば、自分を蔑ろにされているような気もするでしょう」■■
【ペーター】
「…………」■■
「そう……なんでしょうか」■■
(分からないわ)■■
「そうよ、ペーター」■■
【ペーター】
「そうか……。
勘違い……」■■
「好きだけど……、恋愛感情じゃない……」■■
「そう」■■
(分からない)■■
ペーターに分からないものを、私が分かるはずがない。■■
でも、勘違いにしておいてほしかった。
勘違いならいいと思う。■■
勘違いであれば、私はペーターを決定的に拒絶しなくていい。
友達のままでいられる。■■
(もし勘違いでないのなら……)■■
(……ごめんね)■■
私はずるい。
だけど、ペーターが確信を持って告白してきたのなら、きちんと拒絶してあげるつもりだ。■■
友達だから。
勘違いだと言われてそうなのかなと彼が思ううちは、ぬるま湯に浸ったままでいさせてほしい。■■
そう思うくらいに、私もペーターが好きだった。
いつかは怒るだけだったキスも、心地いい。■■
(私にも分からない……)■■
(……これは、本当に勘違いで、恋愛感情じゃないのかしら)■■
「……戻らなきゃ」■■
【ペーター】
「あっ、すみません、【主人公の名前】」■■
「……楽しんでいってくださいね?
楽しんで、この世界を好きになって、ずっといてほしいんです」■■
「元の世界に戻らないでいてくれたら何だっていい……そう思っていたのに、僕って駄目なウサギです……」■■
「……あなたの言う通り、勘違いでした」■■
「僕はあなたを愛しています。
恋愛感情なんかじゃなく、もっと純粋に愛していますよ」■■
「…………」■■
【ペーター】
「……では、また」■■
「……また、会いに来てくれますよね、【主人公の名前】?」■■
「ええ。
またね、ペーター」■■
※「ペーター横槍」ここまで↑
★帽子屋屋敷滞在共通部分ここから↓
【ブラッド】
「では……」■■
【【【演出】】】……ぱんと手を叩く音
ぱん。■■
【【【演出】】】……時計の針が定刻をさすような機械音
かしゃん。■■
ブラッドが手を叩くと、時計の針が定刻をさすような機械音がした。
同時に、全員の服が変わる。■■
「わ……っ」■■
この世界の、手品のような出来事には慣れたつもりだったが、それでも驚いてしまう。■■
「すごい……。
早変わり……」■■
【エリオット】
「首が絞まる……」■■
「ネクタイってのは落ちつかねえな……」■■
【ブラッド】
「帽子がないと落ち着かない……」■■
私は驚いたが、さすがにこの世界の住人は驚きもしない。
冷静に、服装に対しての反応だけだ。■■
【ディー】
「タキシードだよ、兄弟」■■
【ダム】
「なんだか窮屈だよね、兄弟」■■
【エリオット】
「窮屈つーか、おまえら……」■■
【ブラッド】
「うむ……」■■
「なんか、ねえ……」■■
【ディー】
「なに?」■■
【ダム】
「なになに?」■■
「いやあ……」■■
「【大】漫才コンビみたいだな……って【大】」■■
【ディー】
「え」■■
【ダム】
「ええ?」■■
【ディー】
「え~?
なにそれ、なにそれ?」■■
【ダム】
「なんで、なんで???」■■
「ぱりっとしてて、惚れ直すところでしょ、ここは……!
お姉さん、反応間違ってるよ!」■■
「だ、だってさ……」■■
【エリオット】
「実は、俺も同じこと……」■■
【ブラッド】
「……私も思った」■■
「色が……。
色が悪いと思うのよね、色が」■■
リボンの色が赤青で黒服……。■■
コメディアンみたいな色彩だ。■■
【ブラッド】
「そうだな、組み合わせの問題だ」■■
【エリオット】
「最悪の組み合わせ……」■■
「黄色とかよりましじゃないかしら」■■
【エリオット】
「おまえら、三つ子じゃなくてよかったな。
三色だったら完全にアウトだぜ」■■
【ディー】
「なんだよ、馬鹿ウサギ!」■■
【ダム】
「ひよこウサギのくせして……!」■■
「エリオットは……、マフィアらしいわよね」■■
元からそれなりだったが、こうして白スーツを着ているところはマフィアそのものだ。■■
(耳さえなければ完璧)■■
(耳さえなければ……)■■
耳があるからこその彼なのだが、耳を取っ払ったところを見てみたい気もする。
洒落にならない、完璧なマフィアだろう。■■
「この中で、誰よりソレらしい……」■■
【ブラッド】
「おいおい、お嬢さん。
それでは、私はどうなるんだ?」■■
「私がボスなんだが……?」■■
「ブラッドは……」■■
「……若いわよね」■■
【ディー】
「ぷぷ……」■■
【ダム】
「……はは」■■
【ブラッド】
「その感想には、おおいに不満があるな……」■■
「だって、なんだか……若いわよ」■■
「……ね?」■■
【ディー】
「ボス、子供っぽいって」■■
【ダム】
「ぷぷぷぷ……」■■
(いるわよね、ちゃんとした格好すると若返る人って……)■■
スーツなどの改まった服装をすると、大概の場合は落ち着いて年嵩に見えるものだ。■■
しかし、逆のパターンもある。
ブラッドは逆パターンの人だった。■■
元から、若いのだろう。
普段は奇抜な帽子とちぐはぐな服装で誤魔化されている。■■
【ブラッド】
「そうか?」■■
若いと言われ、戸惑いを浮かべた顔はやはり若い。
だるそうな表情も、帽子の影がなければ青年らしいものだった。■■
【エリオット】
「若く見えるのはいいことだぜ」■■
フォローだかなんだかなことを言うエリオットはお兄さんらしく、いつもの立ち位置とは違って見えた。■■
【ブラッド】
「君は大人びて見えるな、【主人公の名前】」■■
「……そう?」■■
「いつもはひらひらの服装だものね……」■■
自分の服を見下ろす。■■
いつもの、あまり好きではないふりふりした服装ではない。
フォーマルなドレスだ。■■
「……こっちのほうがいいな」■■
【ブラッド】
「ああ、似合っているよ」■■
「ブラッドが見立ててくれたの?」■■
【ブラッド】
「悪くないだろう?」■■
「……ちょっと露出が多いけどね」■■
【ブラッド】
「こんなときくらい、大人っぽい格好をしてもいいはずだ」■■
じろりと睨むと、軽く肩をすくめられた。■■
【ディー】
「うんうん。
いいよね」■■
【ダム】
「お姉さまって感じだよね」■■
「どんな感じよ……」■■
【ディー】
「えー?
いい感じだよねー」■■
【ダム】
「ねー。
いい感じだよー」■■
くすくす笑う双子に、この二人は本格的に教育方針が間違っているということを再認識した。■■
向けられる視線のいやらしさときたら……。
この子達の将来が相当に心配だ。■■
【エリオット】
「そうだな!
すごく似合っていると思うぜ!」■■
「いつもの服もいいけど、大人っぽいドレスだと印象が変わるよな!」■■
エリオットは、これまた分かっているんだか分かっていないんだかな賛辞をおくってくれる。■■
(……いや、分かっていないな、この人……いや、ウサギさんは)■■
(裏表なさそう……)■■
もっともマフィアらしくて、らしくない人だ。■■
双子達のほうが、よほどタチが悪い。
彼らは、裏だらけといえる。■■
【ブラッド】
「ああ。気分も変わっていいだろう?
一役買えて嬉しいよ」■■
(この人も……なあ)■■
かなり……、かなりな面子だ。■■
お近づきになるべきではない人の集まり。
後ろに控える使用人達もそう……。■■
マフィアのトップと、その関係者、構成員。
本来なら共に生活などすべきではない、距離を置くべき人達だ。■■
そんなこと、とっくに知っていたけど……。■■
(やっぱり疲れるなー……)■■
長く共に過ごしても、マフィアだというのには慣れない。
現実感がないとはいえ、ついていけないものを感じる。■■
やはり、こういうところは馴染めない。■■
【ブラッド】
「さて……」■■
「では、各々で楽しむか」■■
【エリオット】
「そうだな。
この人数でつるんでても、面倒だ」■■
「え、ばらばらになるの?」■■
【ブラッド】
「一緒にいてもいいが、適当だ。
集団でぞろぞろといても、そのうちはぐれるさ」■■
「いいの、そんなに適当で……」■■
ここは敵地だろうに、あまりに気軽だ。
舞踏会に参加している時点で分かっていたが、アバウトにも程がある。■■
【ディー】
「適当、適当。
帰りの時間に集合すればいいよ」■■
【ダム】
「子供じゃないんだから」■■
「…………」■■
双子に言われてしまった……。■■
【【【時間経過】】】
★帽子屋屋敷滞在共通部分ここまで↑
※条件により分岐
★エリオットの好感度が11以上で、「ペーター横槍」未発生
または「ペーター横槍」発生→「1:ペーターを拒否する」を選んでいる場合↓
★帽子屋屋敷滞在共通↓
賑やかに騒ぎつつも、やっと着替えられた。■■
舞踏会も始まり、各々が社交にダンスに散らばっていく。
私はといえば……。■■
「……こう?」■■
【使用人】
「そうそう、そんな感じです~」■■
【メイド】
「いい感じです~」■■
「あ」■■
【【【演出】】】……倒れる音
【使用人】
「っわ……」■■
「ごめんなさい……っ」■■
「踏んじゃった……っ」■■
普段から親しくしているメイドや使用人の皆に、ダンスのレッスンを受けていた。
が……、うまくいかない。■■
【使用人】
「ん~……、勘が鈍っているんでしょう……。
ダンスのステップ自体は間違っていませんよ~」■■
【メイド】
「ふふ。
ちょっと覚束ないですけどね~」■■
「う~ん……。
ダンスなんてそう頻繁に踊る機会がないから……」■■
「うまく踊れるようになるかしら……」■■
【メイド】
「大丈夫。
勘さえ取り戻せば~……」■■
【使用人】
「一度覚えたら忘れないものですよ~」■■
「……だといいんだけど」■■
【【【時間経過】】】
★帽子屋屋敷滞在共通↑
練習を兼ねたダンスも一段落し、落ち着いた頃。
見計らったように、声をかけられる。■■
【エリオット】
「踊ろうぜ、【主人公の名前】」■■
「…………。
エリオット、踊れるの?」■■
【エリオット】
「失礼な……。
俺だって、ダンスくらい出来る」■■
「……すげえ下手くそだけどな」■■
「足を踏まれそう……」■■
【エリオット】
「そ、その心配は……ある……けど」■■
「……駄目か?」■■
「…………」■■
「いいわ、踊りましょう。
あなたの靴にはヒールがないんだから、私が踏むより痛くない」■■
【エリオット】
「【主人公の名前】……」■■
差し出した手が、重なる。■■
【【【時間経過】】】
「ゆっくり……」■■
「……そうよ」■■
使用人の人達と踊ってもらったおかげで、私は勘を取り戻していた。
指導の真似事もできる。■■
本来なら、人に教えるほどうまくないのだが、それでもエリオットよりはましだ。
彼は素直に従ってくれた。■■
【エリオット】
「うー……。
スムーズにはいかねえな……」■■
「でも、基本はできているじゃない。
さすがに即席では踊れないわ」■■
エリオットのダンスは、上手とはお世辞にもいえないが、それでもなんとか様になっている。■■
【エリオット】
「ごめんな、女の子にリードしてもらって」■■
「私だってリードするっていえるほどうまくないわ」■■
【エリオット】
「助かるよ。
ありがとうな」■■
エリオットはそう言うが、素直に下手だと認めて女性にリードしてもらうことが出来るのはすごいと思う。■■
「私こそ……。
誘ってくれてありがとう」■■
踊らないという選択だってできたのだ。
それでも、エリオットは誘ってくれた。■■
【エリオット】
「なんで、あんたが礼を言うんだよ」■■
「嬉しかったから」■■
ステップが、綺麗にきまる。■■
「エリオットと踊れて」■■
【エリオット】
「俺も嬉しい」■■
「……あんたと踊れて」■■
エリオットは、見栄をはったりしない。■■
【エリオット】
「格好悪いけどな。
ははっ」■■
照れたように笑う様は……。■■
「格好いいわ」■■
【エリオット】
「……へ?」■■
「格好いい」■■
【エリオット】
「え?
な、なに言ってるんだよ……」■■
「ダンス、すげー下手くそなのに……」■■
おたおたと、エリオットの足元が覚束なくなる。
このままだと、本当に足を踏まれてしまいそうだ。■■
「そろそろ、やめておきましょうか」■■
【エリオット】
「ん……?
疲れたか?」■■
「慣れないヒールの靴だからね。
エリオットは、まだ踊りたい?」■■
【エリオット】
「いや、いいよ。
あんた以外と踊る気もねえし……」■■
「俺だってダンスにゃ慣れてない。
あんたと踊るのは楽しいが、どうも柄じゃねえんだよな」■■
「そう」■■
気を遣ってくれているのが分かる。
こういう人だから、私も柄でもなく自然に気を遣おうという気になるのだ。■■
「休憩しましょうか」■■
【エリオット】
「ああ、どこか椅子のある場所に……」■■
「会場内にゃ、なさそうだな。
外に出るか」■■
「そういえば、この舞踏会って何時までやっているの……って、何時ってないのか。
どれくらいの間やっているの?」■■
【エリオット】
「一晩中だ」■■
「え!?
なが……」■■
長い……と思ったのだが、そうでもないのかもしれない。
よく分からない。■■
ここの時間は、時間帯変化の間隔もばらばらなのだ。
夜も、すぐ明けてしまうこともあれば、延々と続くこともあった。■■
「みんな、寝ないで踊るの?」■■
楽しい舞踏会も、そんなに長時間踊り続けていなければならないとなると苦痛だ。■■
【エリオット】
「まさか。
いつでも休めるよう、客室が開放されてて自由に使っていいことになってる」■■
「この城はでかいからな。
客室もかなりあるんだ」■■
「自由に使っていいっていうのは、気楽ね」■■
【エリオット】
「だろ?
だけど、こういう舞踏会じゃ、盛り上がっちまった馬鹿なカップルがしけこむのがもっぱららしいぜ」■■
「主催側の好意なのに、ふざけてるよなぁ」■■
「そうよね。
舞踏会ってそういう場じゃないのに」■■
「そういうのって、迷惑だと思う」■■
【エリオット】
「だよな。
非日常の場所で盛りあがるっつっても……」■■
「もうちょっと考えろっつーか……」■■
「ねえ……?」■■
【エリオット】
「……な」■■
「…………」■■
【エリオット】
「…………」■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・客室
【エリオット】
「【主人公の名前】……」■■
「エ、エリオット?
お、落ち着いて……」■■
【エリオット】
「……落ち着いてる。
いや、落ち着いてねぇや」■■
「【主人公の名前】……」■■
【【【演出】】】……室内でドタバタする音
がんっと、家具にぶつかったり、ドアにぶつけられたり。
ばたばたと落ち着かない。■■
急くように部屋に入ったせいで、いろんなものにぶつかった。
後で落ち着いてみれば、絶対に打ち身ができていそうだ。■■
ダンスで足を踏まれたほうがましだったと思うくらい、たくさん。■■
「んむ……」■■
【エリオット】
「…………」■■
「なんで、こんな……気が急いちまうんだろ」■■
「何をとち狂ってんだか……」■■
まったくだ。■■
「そ……よね……。
ずっと一緒だったのに」■■
機会なんていくらでもあった。
いつでもよかったのだ。■■
こんな、城の舞踏会なんていう特異な状況でなくても、いつだって機会はある。
これまでだって……、これからだって。■■
【エリオット】
「でも、いつも通りだったらもっともたついてた……」■■
「…………」■■
【エリオット】
「……きっかけがないと、なかなか手なんか出せたもんじゃねえ」■■
「臆病だって、思うか?」■■
「……思わない。
だって、私もだもの」■■
「私だって……手が出せなかったわ」■■
【エリオット】
「……はは。
なに?あんたから手を出してくれる気だったのか?」■■
「惜しいことしたかもな……」■■
なるべく軽くしようとしているが、エリオットはどう見ても切羽詰まっていたし、それは私も同じだった。■■
本当に、なぜだろうと思う。
これまでだって、ずっと一緒にいて時間はいくらでもあったのに、なぜこんなに気が逸るのか。■■
【エリオット】
「……ああ、でも、手を出される前でよかったぜ。
あんたに誘惑されたら、絶対落ちてた」■■
「どうして、それがよかったの」■■
私のほうは、誘惑でもなんでもしてやればよかったと思った。
こんな特殊な環境で、こんなに切羽詰まるくらいなら、もっと前にどうにかなってしまっていればよかった……と。■■
【エリオット】
「女に何かされるまで待つなんて、それこそ臆病者だ」■■
「俺は、これでも……」■■
はたと、エリオットが止まった。■■
【エリオット】
「あんたは、ダンスも上手にこなせるお嬢様で……。
マフィアのナンバー2の女なんて、嫌だよな?」■■
「…………。
あのね……、マフィアの本拠に滞在してどれくらい経ったと思っているのよ」■■
マフィアを怖がっていたら、生活なんてできない。
屋敷内の全員が関係者だ。■■
【エリオット】
「ただ滞在するのと、俺のものになるのとは全然違うだろ」■■
「……ただの滞在客とは、意味が違ってくるんだぜ?
俺の女になるってことは……」■■
「マフィアのナンバー2の情婦って目で見られるってことで……」■■
(マフィアのナンバー2の情婦……)■■
(情婦って……)■■
くらり。■■
眩暈がした。■■
そう言われると、完全に道を踏み外したような気になる。
というか、完全に踏み外している。■■
「も、もうちょっと、言い方なんとかならないの……」■■
「恋人とか……」■■
【エリオット】
「恋人……」■■
エリオットは少し嬉しそうにしたが、すぐに顔を引き締める。■■
【エリオット】
「……そんな可愛い呼ばれ方はしないぜ、たぶん」■■
「俺、恨まれてるし、それも誤解じゃなくそれだけのことをやってきたんだ。
あんたは、悪党の女って目で見られちまう」■■
「あんまり嬉しくない評価ね……」■■
【エリオット】
「だろ?」■■
「俺も、あんたがそういう目で見られるのは避けたいが……」■■
「じゃあ……、やめておく?」■■
【エリオット】
「……無理」■■
「一応、事前にそうなるぜって報告しておいただけだ。
避けたいが、やめる気はない」■■
【【【演出】】】・・・ネクタイを外す音
エリオットは、わずらわしそうにネクタイを引っ張った。
そうする間も、体を離すことを惜しみ、キスをかわす。■■
【エリオット】
「これ……、息苦しいぜ。
慣れないものは身に着けるもんじゃねえな」■■
「……似合っていたのに」■■
【エリオット】
「?
こういう格好のほうが好きなのか?」■■
「そういうわけじゃないけど……。
マフィアっぽかったわ」■■
【エリオット】
「っぽい必要はねえだろ。
実際にマフィアなんだ」■■
「分かっているわよ」■■
同じ屋敷に滞在しているのだ。
エリオットがマフィアであることは疑う余地もない。■■
しかし、普段はそう見えない。
二人でいるときの甘えた空気のせいもあるが……。■■
(耳……)■■
今だって、耳さえなければ、もう救いようがないほどにマフィアだ。■■
双子はもちろん、ボスであるブラッドよりもマフィアらしい。
使用人たちも含め、屋敷内の住人でもっとも外見がそれらしい男といえる。■■
耳を消してしまえば、とても納得のいく見た目なのだ。
耳がなければ。■■
あってよかったと思う。
洒落にならないほど、マフィアらしくなってしまう。■■
【エリオット】
「息苦しいのは好きじゃないが……、あんたの好みなら、普段の服装をスーツに変えてもいいぜ?」■■
「……その服装はかっこいいけど、やっぱりいつもの感じが好き」■■
「マフィアなんだからマフィアらしいのは当然かもしれないけど、いつものほうが安心する」■■
【エリオット】
「今の俺は、安心できないか?
……安心されても困るけどな」■■
「情婦とか……、本当に洒落にならない話になりそうなんだもの」■■
【エリオット】
「もう、洒落にならない話だろ」■■
「冗談じゃないぜ?
あんたは、そういう立ち位置になるんだ」■■
「う……」■■
【エリオット】
「あんたが嫌なら、そう呼んだ奴はぶっ殺してやる。
だけど、陰口は叩かれるぜ?」■■
「や、やだな……」■■
情婦という響きも嫌だが、それより問題なのは恐ろしく似合わないことだ。■■
【エリオット】
「嫌がっても、やめない……」■■
「……腹をくくってもらう」■■
「エリオットのことじゃないわ。
あなたを嫌がったりしてない」■■
剣呑な目つきになられて、慌てて言葉を足す。■■
そう付け足すと、エリオットは安心したようだった。■■
私にはいつも甘いので忘れそうになるが、彼も物騒な男だ。
不意に思い出す。■■
【エリオット】
「俺はならず者だけど……、あんたのこと、粗末に扱ったりはしない。
大事にする」■■
「……うん。
心配していないわ」■■
それでも、やっぱり私には甘い。■■
【エリオット】
「…………」■■
「【主人公の名前】。
好きだ」■■
「……!?」■■
いきなり床に引き倒される。
衝撃がくるかと思ったが、うまい具合に抱き寄せられ、痛みはなかった。■■
【エリオット】
「あんたといると、苦しくなる」■■
「ネクタイをとっても、まだ苦しい。
息が詰まったままだ」■■
「…………。
なあ、【主人公の名前】。
あんたも息苦しいだろ?」■■
「……つっ……」■■
「エリオット……」■■
首筋に唇が当たる。■■
【エリオット】
「そのドレス……、似合ってるけど、着慣れないものは息が詰まるからな」■■
「…………。
今の状態のほうが息苦しいんだけど」■■
【エリオット】
「ドレスのせいだろ?」■■
「ドレスは……」■■
ドレスなんて、どうでもいい。
息が詰まるどころか、呼吸ができないほど心臓がうるさい。■■
「……あなたのせいよ」■■
のしかかられて、息ができない。
体重をかけられていなくても、それ以上の圧迫感があった。■■
【エリオット】
「いや……、ドレスのせいだ。
ネクタイみたいに、緩めりゃ楽になる」■■
「…………」■■
「ネクタイをとっても……、楽にならなかったんでしょう?」■■
【エリオット】
「ああ……。
まだ苦しい」■■
「なんとかしてくれよ、【主人公の名前】」■■
【【【時間経過】】】
★選択肢で変わる部分、ここまで↑
★エリオットの好感度が11以上で、「ペーター横槍」未発生
または「ペーター横槍」発生→「1:ペーターを拒否する」を選んでいる場合↑
★全キャラ共通部分ここから↓
舞踏会の夜が終わり、朝がくる。■■
夜の後に、朝。
そして、時間経過までが珍しく正常に。■■
この世界での特別な夜が明けた。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・主人公の部屋
【【【演出】】】・・・小鳥のさえずり
小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む光。
本当に、絵に描いたように平和で典型的な、朝。■■
そっとベッドの上に体を起こす。
サイドボードの引き出しを、静かに開けた。■■
中には、あの小瓶がしまってある。■■
「…………」■■
小瓶をじっと見る。■■
(もうすぐね……)■■
「…………」■■
小瓶の中の液体は、一杯に近くなっている。■■
「…………」■■
「……もうすぐ」■■
「…………」■■
(もうすぐ、覚めてしまうのね……)■■
特別な舞踏会の夜も、いつまでも続いてはくれないように。
どんなに名残を惜しんでも、覚めてしまうときは来る。■■
だって、これは夢なのだから。■■
(覚めるとき……、お別れのときが来たら、私は……)■■
(…………)■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここまで↑
★全キャラ共通部分ここから↓
帽子屋屋敷・主人公の部屋
【【【時間経過】】】
「…………」■■
小瓶をじっと見る。■■
小瓶は一杯だ。
……もう入らないくらい。■■
(これが溜まったら……、もう帰らなくちゃならないのね)■■
なんの説明もなくても、分かる。
タイムリミットはもう目前だ。■■
期限が迫っている。
この世界にも慣れてしまった。■■
夢だか空想だか……それとも本当に異世界なのかもしれない。
現実味のない世界を本物かもしれないと思うほどに、馴染んでしまった。■■
(もう、ここにずっといても……)■■
「……った……」■■
【【【演出】】】……きんっと、耳鳴りがする音
きんっと、耳鳴りがする。■■
「……うっ」■■
「…………」■■
「……帰らなきゃ」■■
私は帰らなければならない。■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここまで↑
お風呂・エリオット2 へ進む