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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『エリオット=マーチ ■12話』

アニバーサリーの国のアリス・エリオット滞在ルート12
帽子屋屋敷・廊下
【ブラッド】
「……では、その点は以前出した指示の通りに動いてくれ。
予定を変更する部分については……」■■
【エリオット】
「ああ、分かった。
先に例のほうを進めちまえばいいんだよな」■■
【エリオット】
「……おまえら、任せたぞ。
すぐに取り掛かってくれ」■■
【帽子屋・使用人・男1】
「承知いたしました~」■■
【帽子屋・使用人・男2】
「ボス、もう一件のほうですが~……」■■
ブラッドとエリオット、数名の使用人が、話しながら歩いてくる。■■
彼等が廊下やオープンな場で仕事の話をすることは、多くない。
だが、皆無というほど珍しいことでもなかった。■■
以前は、こんなふうに歩きながら相談するということも当たり前だったのだろう。■■
今は控えているが、滞在が長くなるにつれ、聞かれて当たり障りのない程度なら私の耳に入る状況で話すこともあった。■■
(私に気付いていないみたいだけど、今はどっちかしら?)■■
聞いていい内容か、駄目なものか。■■
【ブラッド】
「おや、お嬢さん。
……気にすることはないよ、大した話はしていない」■■
このまま通り過ぎるか声を掛けるか悩んでいると、ブラッドのほうから声を掛けてくる。
顔を見ただけで私の戸惑いにも気付いたようだ。■■
【ブラッド】
「仕事か、お疲れさま。
部下が言っていたが、相変わらずよくやってくれているようじゃないか」■■
ただの移動中だったがメイド服を着ているので、私が仕事中なのは明らかだ。■■
【帽子屋・メイド・女1】
「ええ~。
お嬢様は機転もきくしよく動いてくださるので、手伝って頂くととても助かるんです~」■■
【帽子屋・メイド・女2】
「本当に~。
私達ともすっかり打ち解けてくださってますし~」■■
【帽子屋・メイド・女2】
「お嬢様と仕事できるのが、我々も嬉しいんですよ~」■■
周囲にいた中で、顔見知りの使用人がブラッドに賛同する。■■
「そんな、大げさよ。
普通に手伝っているだけで、特別なことはしていないもの」■■
「でも、お陰様で楽しく働かせてもらっているわ。
……あなたも、珍しく真面目に仕事しているみたいね?」■■
【ブラッド】
「珍しく、は余計だよ。
すまない、大した内容ではないといえ私もこんなところで話し込みたくはなかったんだが、エリオットが指示をくれとうるさいのでね」■■
【エリオット】
「え……、俺のせいなのか?
だって、込み入った件じゃねえけど、ブラッドの判断がないとあの件は進められねえだろ?」■■
「私のことなら気にしないで。
あんまり細かいことは聞こえていなかったし、別に気にしないから」■■
ブラッドには見抜かれているが、他の面々のこともあり、そう告げる。■■
【ブラッド】
「それならよかったよ。
まあ、話ももう終わった……、エリオット、私はしばらく部屋にいるから後はおまえが進めろ」■■
【エリオット】
「分かった。
任せてくれ!」■■
威勢のいい声で頷いたエリオットを横目で見て、ブラッドは私室のあるほうへと歩いていく。■■
使用人も、一礼してさっと散った。
その場には、私とエリオットだけが残る。■■
【エリオット】
「……【主人公の名前】」■■
「……?
どうしたの、エリオット?」■■
様子が変だ。
ブラッドを見送ったときは笑顔だったのに、今は思い詰めたような顔をしている。■■
【エリオット】
「【主人公の名前】、俺さ……」■■
★基本会話から引用↓
【エリオット】
「俺、ブラッドをすげえと思ってるんだ」■■
「……は?
う、うん……???」■■
(ほんとに、なんなの?)■■
なぜいきなりこんな話を始めたのか、理解出来ない。
エリオットは戸惑う私に構わず、話し続ける。■■
【エリオット】
「大好きだし、だから、ブラッドのことを周りの奴らが認めて、褒めてくれると俺も嬉しい」■■
「同じように、あんたが皆に好かれるのもよくわかるし、あんたが褒められたら俺も嬉しいんだろうなって……。
……思ってた」■■
「そ、そうなんだ……」■■
エリオットの意図が分からないので、相槌もいいかげんなものになる。■■
俯きがちに話していた彼は、そこで急にがばりと頭を上げた。■■
【エリオット】
「だけど、なんか最近おかしいんだよ。
あんたを褒められると、嫌な気持ちとごっちゃになるんだ」■■
★基本会話から引用↑
【エリオット】
「なんでなんだ……?
おかしいよな、こんなの……、あんたが褒められて、嫌だと思うなんて……」■■
★基本会話から引用↓
【エリオット】
「くっそ。
よくわかんね……」■■
★基本会話から引用↑
苦々しげに吐き捨てる。
そのことで真剣に悩んでいるようだ。■■
「エリオット……。
それは……」■■
「それは……、きっと、気のせいよ」■■
【エリオット】
「は?
き、気のせい?」■■
思い掛けないことを言われたエリオットは、しぱしぱと目を瞬く。■■
【エリオット】
「いや、気のせいなんかじゃねえよ。
もう何度もそんな感じになってるし、無視できねえくらいに、こう、もやもやっとするんだ」■■
納得もいっていないようで、胸の辺りに手を当てて力説する。
私はといえば……、答えに窮した。■■
「…………」■■
(ブラッドが褒められるのは嬉しいけど、私が褒められるのは嬉しくない。
その差は何なの……?)■■
(…………)■■
……あまり考えないほうがいい気がする。
だからエリオットにも、ああ言ったのだが。■■
【エリオット】
「気のせいなんかじゃ……ねえ……」■■
エリオットは、どこか苦しげに呟くばかり。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・エリオットの部屋
無茶をしたら、たとえ長期の休みがとれても出かけない。■■
そう警告してから、エリオットは素直に休憩をとるようになった。■■
再び、部屋で一緒に過ごすことも増えた。■■
しかし、最近の彼は様子がおかしい。■■
「どうしたの?
なんだか、変よ?」■■
まとわり付いてこないし、好きだ好きだと連呼しない。
それが普通なのだが、慣れてしまった身ではかえって違和感がある。■■
それに、なんだか耳が垂れ気味だ。■■
【エリオット】
「俺のこと、好きか?」■■
エリオットは私の手が気に入ったのか、よく手に触れてくる。
こうして口付けられ軽く舐められても、抵抗しようとは思わない。■■
「え……」■■
久しぶりに聞かれた気がする。■■
「……好きよ?」■■
(……あれ?)■■
するりと出てきた自分の言葉に驚く。■■
嫌いじゃない。
だが、私は好きと答えた。■■
躊躇ったわりには、言葉はスムーズに流れた。■■
するりと。
抜け出るように、スムーズに流れたのだ。■■
【エリオット】
「嘘だ。
ブラッドのほうが好きなんだろ」■■
私が戸惑っているのに、エリオットは気付かない。■■
「ブラッド?」■■
頭がついてこない。
どうしてブラッドが出てくるのかもさっぱりだ。■■
ああ、あの人も嫌いじゃない。
エリオットのことも嫌いじゃない。■■
嫌いじゃない。
嫌いじゃないだけなはずなのに、好きと答えてしまったのは何故だろう。■■
【エリオット】
「俺がいるときはいいんだ。
あんたがブラッドと仲良くしていても、俺も加われるから楽しいって思える」■■
「でも、知らないところで会っているって考えると……」■■
「……すげーイライラする」■■
「…………」■■
ぼうっと、エリオットを見る。■■
(それって、まるで……)■■
まるで、嫉妬しているみたいじゃないか。■■
(…………)■■
(え~~~~~……)■■
まるで、じゃない。
それそのものだ。■■
★同イベント内、「2:それは気のせい」を選んでいる場合のみ↓
とても分かりやすい、嫉妬。
だが、分かりやすいものでなければ、以前から始まっていたのかもしれない。■■
エリオットが微妙におかしいことは前にもあった。
あのとき、微かに嫌な予感はしていたのだ。■■
★同イベント内、「2:それは気のせい」を選んでいる場合のみ↑
【エリオット】
「ブラッドのことが好きなのか?
俺よりも……」■■
(……どうしよう)■■
どこでどう間違えたのだろう。■■
「エリオット……」■■
【エリオット】
「ん?
何?」■■
「私のことが、好き……?」■■
質問をそのまま返す形だ。
ブラッドのことがどうとかいうのは無視した。■■
【エリオット】
「え……」■■
簡単に答えられたはずだ。
エリオットは常に即答してきた。■■
どうして、今はするりと出てこないのか。■■
【エリオット】
「…………」■■
「……ああ。
好き、だ」■■
「……あ、あれ?」■■
エリオットの戸惑いは、私の困惑に似ていた。■■
「好きだ」となんの衒いもなく言えていた彼が今は言えず、「好きだ」なんて言えるはずのなかった私がさらりと言えてしまっている。■■
反対だが、同じようなものだ。
頭を抱えてしまうくらい、同じような意味だ。■■
顔が火照る。
そのことに眩暈がした。■■
こんなはずではなかった。
こんなはずではなかったと、繰り返す。■■
読み違えてはいなかったはずだ。
エリオットは私に好意を持っていたが、それはとっておきの友達に向けるようなものだった。■■
私も、好意をもっていたが、今このときのようなものではなかった。■■
【エリオット】
「あれ……?」■■
「……っ!」■■
「誤解するなよ、【主人公の名前】!?
俺、今もあんたのことが好きだぜ!?」■■
「ちゃんと、好きだ。
大好きで……。すごく……」■■
そうして、またもやエリオットは戸惑う。■■
「私も好きよ、エリオット」■■
答えると、彼は戸惑いを消して、それはそれは嬉しそうに顔を赤らめた。■■
(…………)■■
(面倒なことになった……)■■
男が顔を赤らめるなんて、気色悪いだけだ。
いい年して、少年の初恋のような反応を返さないでほしい。■■
現実的で毒舌家の普段の私は理性として残っているのに、夢にはまってしまっている私は別なことを囁く。■■
可愛い、可愛い、大好き。
私も好き。■■
その気色悪さに泣きそうになる。
寒気がする。■■
(こんな……)■■
私が、捻くれたことしか思えないのは脅えのせいもある。
自分でも分かっている。■■
私は弱くて、臆病で、ずるい。
こんな気持ちになるはずじゃなかった。■■
なんの未来もない。
これは夢で、いつか覚める。■■
私は妄想家ではないはずだったのに。■■
【【【時間経過】】】
※以下の条件を満たす場合、「エリオット・ブラッドの過去話」イベントここから↓
・エリオットの好感度が10以上
・エリオット滞在11で「1:……!ありがとう!嬉しい!」を選択している
帽子屋屋敷・廊下
【【【時間経過】】】
【ブラッド】
「エリオットと私の因果関係?」■■
「妙なことを知りたがるな……」■■
「だって、エリオットってあなたに異常なくらい心酔しているから……」■■
「昔、何かあったんだろうなあ……って」■■
★ブラッド滞在ルート12と共通↓
前々から気になっていたので、思い切って尋ねてみた。■■
ブラッドときたら常に怠そうで、面倒なことはすぐ部下に押し付ける。
おまけにしょっちゅう蹴ったり殴ったりされているのに、エリオットの心酔ぶりはこちらが尊敬したいほどだ。■■
(きっと、何か理由があるはず)■■
★ブラッド滞在ルート12と共通↑
【ブラッド】
「ふうん……?
好きな奴のことはなんでも気になる、か」■■
(……う)■■
言葉に詰まってしまう。
何でもとまでは言わないが、図星に近い。■■
(くそう……。
見透かされているか……)■■
そんな予感はあったが、無性に悔しい。■■
【ブラッド】
「……可愛いじゃないか」■■
ブラッドは、にやにやと意地悪く笑った。■■
「本人のいないところで過去をほじくりかえすなんて行儀が悪いとは思うわ……」■■
【ブラッド】
「それも一種の独占欲というやつだろう?
好きな相手のことは今だけでなく、過去も所有したいという、な」■■
「ブラッドも、そんなふうに思うの?」■■
いつもだるそうで物事に執着しているんだかしていないんだか、得体の知れない男。
彼から、そんな発想が出ることが意外だった。■■
【ブラッド】
「私は、そんな考え方は面倒だと思うが……」■■
「……過去や現在とは無縁でいられないからな」■■
「……?」■■
【ブラッド】
「私のことはいい。
エリオットのことが知りたいんだろう?」■■
「え、ええ。
そう……」■■
「二人の約束で、男同士の秘密ごととかがあるんだったら無理にとは言わないけど……」■■
【ブラッド】
「【大】そんな気色の悪いものはない【大】」■■
「…………。
約束というか……、契約はしたが、な」■■
「契約……」■■
【ブラッド】
「ああ。
いつかとどめをさしてやるかわりに、こき使ってやると」■■
契約なんていったら、普通は軽々しく内容を口にしないものではないのだろうか。■■
しかし、ブラッドは簡単に教えてくれた。
意味が分からない契約内容を。■■
「どういうこと?
とどめをさすって?」■■
【ブラッド】
「殺してやる約束をしているんだ。
いつか殺してやるかわりに、死ぬまでこきつかってやる」■■
「…………」■■
「それ、どっちがご褒美になるの?」■■
殺してやる。
こきつかってやる。■■
どちらもペナルティーで、報酬とはいえないものだ。
契約なんて成立しそうにない。■■
【ブラッド】
「決まっている。
殺してやるほうだ」■■
「あなたに殺してほしくて、頑張って働いているって?」■■
無茶苦茶だ。
あんなに頑張っているのが、すべては殺されるため?■■
意味が分からない。■■
「ブラッド、あなた、エリオットを殺す気なの?
許さないわよ……」■■
【ブラッド】
「殺す気なんかないさ。
奴が働いてくれて助かっている。私は怠けられる」■■
「だが、死んだらとどめをさしてやる。
それが契約の報酬だ」■■
「…………」■■
「……何を言っているのか分からない」■■
【ブラッド】
「君の世界とは違うんだよ、【主人公の名前】。
ここでは、死は停止であって終わりではない」■■
「昔、エリオットは友人を殺している。
時計を停止させたのは別の人間だが、とどめをさしたのはエリオットだ」■■
「時計を壊すのは最大の禁忌。
エリオットは大罪人だ」■■
ますます、意味が分からない。■■
エリオットが、友人を殺した?
それは、確かにやってはいけないことだ。■■
この世界ではどうか知らないが……。■■
「とにかく、やっちゃいけないことをやっちゃったってことね」■■
【ブラッド】
「そういうこと」■■
「エリオットは、完全な死を望んでいるんだ。
そして、罰を」■■
「それを条件に、あなたはエリオットをこき使っているんだ……」■■
納得ずくの契約なら仕方ないだろうが、気に食わない。■■
【ブラッド】
「こき使われることも、報酬の一つ、罰なんだ。
奴は、罰を受けたがっている」■■
「自分を罰したいのさ。
罰してくれる人間を望んでいる」■■
「エリオットが私を慕うのは、助けてやったという恩義だけではなく、罰を与えてくれる人間だからだ」■■
「自虐の肩代わりを求めているって言いたいの?」■■
【ブラッド】
「……そうとも。
後ろめたい人間は皆そうだよ」■■
「君もそうだろう、【主人公の名前】?」■■
「……え?」■■
【ブラッド】
「……エリオットと同じだ」■■
「傷つけてほしいんだろう?
罰を待つ目をしている」■■
(そんな自虐趣味はないわ)■■
(エリオットのことだって、あなたの勘違いよ。
もっと、仕事を楽にしてあげて)■■
言いたい言葉は、喉で止まった。■■
否定できない。■■
なぜなのか分からない。
私には否定が出来なかった。■■
【【【時間経過】】】
★「エリオット・ブラッドの過去話」イベントここまで↑

★以下の条件を満たす場合、「エリオット・ユリウス(因縁対決)」イベントここから↓
・エリオットの好感度が10以上
・エリオット滞在07で「2:ケーキ」、滞在11で「1:ユリウスが怒っているかと思って……」を選択している
※エリオット・ユリウス滞在、両ルートで発生するサブイベントです
★エリオット・ユリウスルート共通ここから↓
時計塔・展望台
「な……、何しているの」■■
【【【演出】】】……リロード音
展望台に、カチャリと硬質な音が響く。■■
★エリオットルートのみ↓
わけが分からない。■■
たまにそうしているように、何気なくユリウスに会いに来た。■■
そうしたら、ユリウスは作業場にいなくて……。
物音がした展望台に上がってみたら、この状況だったのだ。■■
★エリオットルートのみ↑
【エリオット】
「【主人公の名前】……。
何って……、銃を向けてるんだけど?」■■
「これから、撃とうと思って……」■■
エリオットは、無表情にユリウスへ銃口を向けていた。
仲良くなってからは陽気で……どこかずれているものの優しく親切。■■
それが、私にとってのエリオット=マーチという男だった。■■
(この人……)■■
(本当にマフィアだったのね……)■■
知っていたはず、何度か再確認もしていたはずなのに、時間が経つと忘れてしまう。
それくらい、エリオットは「いい奴」だった。■■
こうして、目の前でユリウスに銃を向ける姿は様になっていて、マフィアだと言われれば納得する。■■
だが、いつもの彼……私の知る彼とは開きがあった。
彼は、切り替えるでもなく、変わる。■■
【エリオット】
「俺、いつも考えなしに撃っちまうんだけどさ……」■■
声も、雰囲気も冷たい。
今なら、マフィア組織のナンバー2、ブラッド=デュプレの腹心だと聞いても違和感がない。■■
【エリオット】
「あんただけは、よく考えて撃ちたいと思うんだ。
どうやったら、苦しませられるか……とか、な」■■
【ユリウス】
「おまえのような考えなしに考えてもらえるとは……光栄だな」■■
「狂った男に仕える、狂ったウサギが考えを持てるとは意外なことだ。
おまえには思考回路などないのかと思っていた」■■
【エリオット】
「ウサギなんて言うなよ……。
俺は、ブラッドの犬だ」■■
「あいつの敵なら……噛み付くぜ?」■■
いつもの陽気さとは違う、怖いと感じる明るさで、エリオットは軽く言う。■■
【ユリウス】
「噛み付いてみろ。
知ってのとおり、私はブラッド=デュプレの敵だ」■■
「ウサギの歯など……痛くもない」■■
よせばいいのに、ユリウスは嫌味たらしく挑発した。■■
【エリオット】
「はは……」■■
「……あんたは楽に殺したくないんだよな。
どういうふうに殺ってほしい?」■■
「エリオット、やめて……っ」■■
丸腰のユリウスに銃を向ける。
彼らは明らかに敵対しているが、私にとっては親しい人同士だ。■■
どんな事情があるにしろ、止めたい。■■
【ユリウス】
「心配しなくても……」■■
【【【演出】】】……リロード音
「……考える必要などない。
もう一度、牢獄に送ってやろう、三月ウサギ」■■
「……!?」■■
ユリウスは丸腰だった……はずだ。■■
(……あ)■■
(そういえば……、工具を銃に変えられるんだっけ)■■
彼の工具は銃に変わる。
目の前……、この場で見せられたことがある。■■
手品のようだとあのときは思ったものだ。
今は、違うと分かる。■■
【ナイトメア】
「これは、夢だ」■■
(……そう。
夢だから)■■
(違う……)■■
ふっと、気が遠くなる。■■
【エリオット】
「……覚悟しな」■■
【ユリウス】
「ふん。
おまえが、な」■■
【エリオット】
「逝けよ」■■
「やめ……」■■
「……っ!?」■■
気が……遠くなる。■■
【【【演出】】】……銃声音
どんっと、銃声が遠くで鳴った。■■
【【【時間経過】】】
★エリオット・ユリウスルート共通ここまで↑
【エリオット】
「おい、【主人公の名前】?
……【主人公の名前】?」■■
「ん……」■■
【エリオット】
「【主人公の名前】?
お~い……、大丈夫かよ」■■
「う……」■■
「……っは!?」■■
【エリオット】
「大丈夫か、マジで」■■
「だ、大丈夫かじゃないわよ!?
あんた……っ、あんたこそ……っ」■■
大丈夫かと思ったが、エリオットは無傷だ。■■
(……よかった)■■
(…………)■■
(……ん?
待って、エリオットが無事ってことは……)■■
「ユリウス……っ!
ユリウスは……!?」■■
【エリオット】
「……んだよ。
時計野郎のことなんか気にするなよ」■■
「気にするわよ!
友達なのよ!?」■■
「無事……無事なの!?」■■
【エリオット】
「……無事だよ、あいにくと」■■
「奴はしぶといからな……。
おまけにこの場所じゃ無敵だ」■■
「……っほ」■■
でも、おかしな感じだ。
二人は一触即発の雰囲気だった。■■
両方が無傷ですむ感じではなかったのだ。■■
【エリオット】
「……芋虫が邪魔したんだよ」■■
「……芋虫?」■■
【エリオット】
「芋虫だか蓑虫だ。
どっちでもいい」■■
「ルールに沿った順じゃないからって……弾かれた」■■
「あ~~~……あの野郎もいつか殺す……」■■
「殺す殺す殺す……。
殺してやる奴リストがどんどん更新されていくぜ……。
あ~~~、早く片付けてえ……」■■
「…………」■■
(マフィア……)■■
(……に、先刻は見えたんだけどなあ)■■
今は子供のように見える。■■
【【【時間経過】】】
★「エリオット・ユリウス(因縁対決)」イベントここまで↑
帽子屋屋敷・エリオットの部屋
【エリオット】
「好きだ……、【主人公の名前】」■■
「うん、私も好きよ、エリオット」■■
意識して、軽く答える。■■
軽く軽く、何も考えないように。
そうすると、エリオットの眉が寄った。■■
【エリオット】
「【主人公の名前】」■■
「ん?」■■
【エリオット】
「意味が違う……」■■
「え」■■
【エリオット】
「俺、あんたが好きなんだ……、【主人公の名前】」■■
「だ、だから、私も好きだって……」■■
この話題はやめようと、話を逸らそうとする。
しかし、エリオットは逸らさせてくれない。■■
【【【演出】】】……無理やり椅子に座らされる音
「……わ!?」■■
【エリオット】
「好きなんだ、【主人公の名前】」■■
確信を持った、強い声。■■
「…………」■■
「……好き、なの?」■■
【エリオット】
「……ああ」■■
彼の中では、もう気持ちが固まってしまっているらしい。■■
動かせないものを感じる。
「好き」と気軽に言っていたときとは違う。■■
同じ「好き」という言葉でも、意味が違う。
説明されなくても、分かる。■■
(うわ……。
どうしよう……。予定外だわ……)■■
こんな予定は、まるでなかったのだ。
夢のような世界で、ウサギ耳のお兄さんに告白される予定。■■
そんなもの、なくて当然だ。
あったら困る。■■
【エリオット】
「あんたのことが、好きだ」■■
「前まで……違ったのに……」■■
【エリオット】
「好きだって言ってんだ。
信じろよ」■■
「……信じるけど……」■■
信じるが、受け入れられるかどうかは別問題だ。■■
【エリオット】
「あんたは?
好きな奴がいるのか?」■■
「……いない」■■
問われて、間があく。■■
間があくこと自体が大問題だった。
以前なら、間などあいたりしなかった。■■
(予定外……)■■
(予定外よ、こんなの……)■■
恋愛なんて、ごめんだったはずだ。
エリオットとも、恋愛感情抜きだったから一緒にいて楽しかった。■■
私達の間には、生ぬるい友情めいたものしかなかったはずだ。■■
【エリオット】
「付き合ってる奴は?」■■
「……この世界ではいないよな?
元の世界に残してきた奴とか、いないのか?」■■
「いないわ」■■
そう、こんなふうに間髪いれずに答えるべきだ。■■
【エリオット】
「じゃあ、【主人公の名前】、俺と付き合ってくれないか」■■
「……っ……」■■
間髪いれずに答えるべきだ。■■
すぐに断れ、否定しろ、と、頭の中で答えは出ているのに、口にまで到達しない。
こんなのは、おかしい。■■
「今だって……、付き合っているじゃない」■■
友達として。■■
なんとか、曖昧に切り抜けようとする。
答えが出せないなら、こずるく逃げるしかない。■■
だが、エリオットはそんな逃げ道を許してくれなかった。■■
【エリオット】
「……違うって分かってんだろ?」■■
「俺がしたいのは……」■■
「……こういうお付き合い」■■
「…………」■■
【エリオット】
「あんたのいう、お付き合いとは……違うだろ?」■■
「…………」■■
「……なんで」■■
頭をかきむしりたくなる。■■
(どうして、どこでどう、しくじっちゃったの?)■■
こんな予定はどこにもなかった。
どこかで狂ったのだ。■■
もしかしたら最初からかもしれない。■■
近づきすぎた。
絆されすぎた。■■
離れられない距離で、拒否できないくらい、私も好きになっている。■■
最初は、たしかに邪なものなんて欠片もなかったのだ。
だから、安心して……油断した。■■
【エリオット】
「俺、あんたが好きなんだ。
だから、あんたを俺のものにしたい」■■
エリオットは、吹っ切れたのか、やたらとストレートだ。■■
この人は最初からそうだった。
嫌いなことも好きなことも、隠したりしない。■■
「私、恋愛とか、そういうのは……」■■
【エリオット】
「…………」■■
エリオットは体を起こし、先刻のように手をとった。■■
eri19and20_1and20_3 【エリオット】
「あんたって……、甘い味がするな」■■
ぺろっと舐められる。■■
「……!?」■■
ぺろぺろと……。■■
たまに甘噛みされて……。
味わうみたいに……。■■
先刻と同じように。
まったく違う意味で。■■
「あ、あのね、私、あなたの大好きなにんじんじゃないのよ!?」■■
「それに、私、恋愛は駄目だって……」■■
【エリオット】
「……俺はにんじんなんか好きじゃない」■■
むっとしたように反論されて、呆れる。■■
「どこが……。
あれだけ、にんじんをぱくぱく食べておいて……」■■
【エリオット】
「あれは……っ」■■
「…………」■■
「……あんたのほうがうまい」■■
「そ……、そういうこと、すらっと言えちゃう人だとは思わなかったわっ」■■
【エリオット】
「な……、なんだよ。
だって、マジでうまいんだから……」■■
「おいしいわけないでしょ!?
私は食べ物じゃないの!」■■
エリオット=マーチは、食い意地の張ったウサギさんだ。
本気で食べられちゃいそうだ……。■■
(本当に食べられたら、スプラッタだけど……)■■
(……あああ、今、別の意味で考えた自分が嫌……っ)■■
【エリオット】
「……食われたくない?」■■
「スプラッタは苦手なんで……」■■
逸らそう逸らそうとする自分が涙ぐましい。■■
エリオットは、にやっと意地の悪い笑みを浮かべた。■■
【エリオット】
「食わないから……、付き合ってくれよ」■■
「どういう口説き文句なのよ、それ……」■■
【エリオット】
「どうする?
食ってほしい?」■■
「いやいや、だから、私、スプラッタは……」■■
【エリオット】
「それなら、俺と付き合えよ。
しばらく待ってやるから」■■
「待ってやるって……」■■
「……って、それって結局いきつくところは同じじゃないの!?」■■
【エリオット】
「今すぐか、後かで違うだろ?」■■
「どうする……?
先か、後か」■■
……違わない。■■
同じだ。■■
「先も後も嫌って言ったら……」■■
【エリオット】
「付き合ってくれないってことだろ?」■■
「……強制的に、先。
今すぐってことになる」■■
「っ……!?
ま、まま、待って!」■■
「後!
後で……!」■■
【エリオット】
「……よし。
付き合ってくれるんだな?」■■
「え?」■■
(あれ?)■■
(なんで、こんな話になっちゃっているの?
付き合うか付き合わないかの話じゃなかったの?)■■
OKすれば後で、OKしなければ今すぐ?■■
いつのまに二つに一つに絞られているのだろう……。■■
いつのまにか……、いつのまにやら、私に選択権はなくなっている。
こんな話だっただろうか。■■
「選択できないじゃない……」■■
【エリオット】
「できるだろ、今か、後か」■■
「それ、出来るって言わない……」■■
どっちを選んでもおいしくいただかれてしまう結末だ。■■
ここで断れば……そのまま流されそうな嫌~なものを感じる。
選ぶ道は……、一つしかない。■■
【エリオット】
「どうする?」■■
「つ、付き合う……」■■
……しかない。■■
【エリオット】
「よしよし。
好物は後にとっておいてやるよ」■■
「……恋人になれて嬉しいぜ、【主人公の名前】。
大好きだ」■■
にぱっと笑ったエリオットは、晴れやかだ。■■
(だ……騙された……というか、押し切られた……?)■■
マフィアのナンバー2。
油断していいような人じゃなかったのに。■■
(自業自得……。
自業自得なのかしら……)■■
(恋愛もメルヘンも嫌だったのに……)■■
ウサギ耳のついた恋人が出来てしまった。■■
【【【時間経過】】】

エリオット 13話 へ進む