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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『エリオット=マーチ ■11話』

アニバーサリーの国のアリス・エリオット滞在ルート11

★全キャラ共通部分ここから↓
帽子屋屋敷・主人公の部屋
【【【時間経過】】】
「…………」■■
小瓶をじっと見る。■■
(また……)■■
「…………」■■
小瓶の中の液体は、日に日に増えていく。■■
いや、ここは日の区切りなどない世界。
同じように、小瓶の中身も、途切れることなく少しずつ、増えていっている。■■
気付かないうちに。
けれど、確実に。■■
「…………」■■
「もう半分を超えている……」■■
「…………」■■
(一杯になったらどうなるのかしら……)■■
誰に教えられなくても、答えは分かっていた。■■
「…………」■■
きゅっと小瓶を握り込む。■■
もう、眠らなくては。
目覚めれば仕事だ。■■
(目覚めれば……?
今だって、夢なのに?)■■
(…………)■■
(夢の中で、私は……)■■
(また、夢をみそう……)■■
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢
nai4_2a_and5_1 「…………」■■
「もったいないわ、綺麗な顔立ちをしているのに」■■
前にも思ったことだが、ナイトメアは整った顔立ちをしている。
眼帯をはずす許可を貰ってから、たまにこうやってはずさせてもらっていた。■■
【ナイトメア】
「……何が面白いんだか」■■
「ん?」■■
【ナイトメア】
「私の顔なんか見ても面白くもなんともないだろう?」■■
「面白いとか面白くないとかで見ているわけじゃないわ」■■
【ナイトメア】
「じゃあ、何なんだ?」■■
(何……)■■
(……?)■■
(何で……???)■■
「…………」■■
(…………)■■
(う~ん……)■■
(……ナイトメアに興味があるから)■■
(夢の中でしか会わない存在だけど、馴染んじゃったし。
私、何だかんだでこの人に関心があるのかも……)■■
(……なんて、言えないな)■■
「……やっぱり、面白いから、かな」■■
【ナイトメア】
「……っ……」■■
「な、なに……?」■■
【ナイトメア】
「今、違うことを考えただろう!?」■■
「考えを読まないでよっ」■■
【ナイトメア】
「遮断しないと、勝手に情報が入ってくるんだっ!
私に罪はないっっ」■■
「じゃあ、遮断しなさいよっ」■■
【ナイトメア】
「油断したんだっっ!
恥ずかしいことを考える君が悪いんだぞ!?」■■
「恥ずかしいことなんて考えてないっ」■■
【ナイトメア】
「考えていたっ!」■■
「いないっ」■■
【ナイトメア】
「考えて……いるだろうっ、恥ずかしいことを!
君はやっぱりおかしいぞ、夢魔の私相手にそんなことを考えるんじゃないっ!」■■
「何よ!?
照れているだけなんじゃないの!?」■■
【ナイトメア】
「て、照れてなどいないっ!
落ち着かないだけだ!」■■
「それを照れているっていうんでしょ!」■■
(ああ、子供っぽい……)■■
【ナイトメア】
「そう思うなら、最初から変なことを考えるなっ!」■■
「読まないで、って言っているでしょう!?
この×××××××!!!」■■
【ナイトメア】
「×××××××!?
私は、そんなことは……っ」■■
「う……」■■
きゃんきゃん騒いでいると、ナイトメアは、又顔色を悪くし始めた。■■
【ナイトメア】
「ううう……」■■
「……うぷ」■■
「気持ち悪い……。
吐血しそうだ……」■■
「またあっ!?」■■
「もう……、あんた、いいかげんに病院行くか、無我の境地に目覚めるかしなさいよ……」■■
【ナイトメア】
「気分が悪い……」■■
「だから、医者にかかれっていうのに……」■■
【ナイトメア】
「嫌だ……。
医者は嫌いだ……」■■
「注射は痛いし、薬は苦い……」■■
「注射と薬を出さない医者にならかかってもいい……。
もちろん、手術なんてもっての他だ……」■■
「それで、完璧に治せるというのなら行ってもいい」■■
「【大】治せるわけないだろ【大】」■■
処置のしようがない。■■
本当に、医者に行ってこいと思う。
ついでに頭もみてもらうべきだ。■■
【ナイトメア】
「だろう?
世間にはヤブ医者しかいないんだ」■■
「あんたが無茶言い過ぎるのよ」■■
(どこの子供なんだ、この人はもう……)■■
「はあ……」■■
(蓑虫さんか……)■■
「…………」■■
nai5_2 【ナイトメア】
「……え?」■■
「ん。
おまじないよ」■■
【ナイトメア】
「え?
え???」■■
「おまじない」■■
(夢だもの……)■■
こんな駄目男でも。
思いやりを示したくなる程度には、気に掛けている。■■
(夢だし……いいよね?)■■
【ナイトメア】
「よ、よくない、よくないぞ……!」■■
「?」■■
「そうなの?」■■
【ナイトメア】
「そうだ、よくない……」■■
(夢なのに?)■■
「昔、お母さんがやってくれたのよ。
怖いときに効くの」■■
(…………)■■
彼女は、もういない。
だから、今はおまじないなしで怖いことに向かわなくてはならない。■■
当たり前だ。
もう子供じゃない。■■
だが、ふとしたときに思い出す。
完璧な女性、優しい時間。■■
【ナイトメア】
「……幸せだったんだな」■■
「うん。
幸せだった」■■
「そういうときもあったの」■■
何もかもがうまくいっていたとき。
少なくとも、そう思えていた。■■
私も、完璧に幸せで、たいした苦労も知らずにいた。■■
今だってそうだ。
私なんて、たいした苦労もせず……。■■
「……こういう根暗な考えを読んじゃうとイラっとこない?」■■
【ナイトメア】
「……ん?
なんのことだ?」■■
(白々しい)■■
「あんたねえ……」■■
(考えたことに反応しているでしょ)■■
【ナイトメア】
「はは……」■■
「…………」■■
(目元にキスしたくらいでうろたえるくせに)■■
子供みたいなごね方をするくせに、老いた者のように悟っている。■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「……幸せな時間の思い出は悪いものじゃない。
苦労なんて、しなくてもいいのならしないほうがいい」■■
「……え?」■■
声でなく、音がする。
それなのに、言っていることは理解できる。■■
【ナイトメア】
「……言っただろ?
私は、永遠に子供で最初から大人なんだよ」■■
「何も知らないままだし、最初から何もかも知っている」■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここから↓
【【【時間経過】】】

「……!!!」■■
……また、だ。
倒れている男性がいる。■■
森の中の小道。
以前と、同じ場所。■■
同じ外見、たぶん……同じ人。
死んだように、ぴくりとも動かない。■■
事実、死んでいるのかもしれない。
前も、その前も、そう思った。■■
(……ん?)■■
(前も、その前も……???)■■
何度見たのだろう。
思い出せない。■■
忘れているだけで、もう何度も見ている気がする。■■
(倒れている人がいたことを忘れるだなんて……)■■
自分が信じられない。
生きているか死んでいるかすら分からない人を見て、そのまま何事もなかったかのように素通りできる。■■
私は、そこまでは薄情な人間ではなかったはずだ。
見知らぬ相手とはいえ、無関心に死体(?)を見過ごせるはずがない。■■
(だけど、現に何度も見過ごしてしまっているのよね……)■■
何度も。
……何度だった?■■
何度も繰り返し見た気もするが、今回が初めてのような気もしてきた。■■
(……?)■■
私は、何を考えているのだろう。
これが初めてのわけがない。■■
過去にも見たのだ、いつだったかは思い出せないが……。■■
(どうして思い出せないの?)■■
時間が経ったとはいえ、遠い過去というわけではない。
私は、今、この場で同じシーンを見た。■■
デジャヴだ。
……倒れている人。■■
前回も、その前も、私は近寄れなかった。
平然と、助け起こしもせず、見ているだけ。■■
見ているだけで……それから?
見ているだけだった。■■
今のように。■■
「……!?」■■
【【【演出】】】……ユリウスの部下(残像が現れる音?)
これは、前回なかった光景だ。
影のようなものが、倒れた男性に群がる。■■
男性は薄れていく。
残されたのは……。■■
【【【演出】】】……心音・連続
(怖い……)■■
私は……。
私は、ただ見ている。■■
悲鳴も上げず、動揺もせず。
心臓だけがどくどくと脈打つ。■■
過ぎるのを、じっと待つだけ。■■
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢
【ナイトメア】
「見たのか、あれを」■■
「わっ!?」■■
いきなり後ろから抱きつかれる。■■
(こ、この世界の人は、変質者ばっかりなの……!?)■■
誘拐されるわストーキングされるわ、最初からろくなことがない。
夢の中の夢でまで抱きつかれる始末……。■■
「は、離してよっ」■■
(ナイトメアまでが、こうだったとは……)■■
(もう、どいつもこいつも信じられない……っ)■■
【ナイトメア】
「見たんだろう?」■■
「何を……」■■
【ナイトメア】
「残像だよ」■■
「残像……」■■
思い出す。
怖いと思った出来事を。■■
この世界に来て、何よりも恐ろしく感じ、寒気が走った出来事だった。■■
【ナイトメア】
「恐れることはない。
あれは……影のような、実体のないものだ」■■
「見たんだろう?
この世界の住人の死体が姿を維持できず、時計だけが残る様を……」■■
ナイトメアは、言葉を切った。■■
【ナイトメア】
「そして、残像が後始末をしていく様を……な」■■
ぞわりと寒気がした。
無機質な、決まりごとのようだ。■■
人が人でないかのように。
一連の流れのようだった。■■
【ナイトメア】
「その通りだよ、【主人公の名前】。
あれはルールの一環だ」■■
「離してよ……っっ」■■
【【【演出】】】……跳ね除けた時の布ずれ音
ナイトメアの手を跳ね除ける。
何故だか、無性に気に障った。■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「これは夢だ。
そうだろう?」■■
(夢……)■■
そうだ。
これは、夢だ。■■
ただの夢。
ここにいるのは、人ではない。■■
私の頭の中だけの……空想だ。
だけど、夢だとしても、人を人でないもののように片付けるのは嫌な感じだった。■■
「夢だからって、人間だわ。
物みたいに言うのはよして」■■
【ナイトメア】
「……夢なんだぞ?」■■
「夢だったら、私に従いなさいよ。
私の頭の中のことなはずでしょう」■■
夢だからといって、思い通りになるとは限らない。
その最たるもの……悪夢という名前の男に言っても無駄そうなことだ。■■
「夢でまで、自己嫌悪に陥りたくないのよ」■■
【ナイトメア】
「……死んでいたのは、見知らぬ人間だっただろう?」■■
現実世界だって、見過ごせる。
他人の死など、通り過ぎることが出来る。■■
私は、平凡な人間だから。
無関心が得意技だ。■■
「でも、夢でまでも平気でいたくないわ」■■
通り過ぎるとき、ほんの少しでも心は痛むのだ。■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここまで↑

帽子屋屋敷・エントランス
ここしばらくの休みは、あまり他領土に出掛けていなかった。
久々に外出することにして、屋敷を出る。■■
ハートの城までやって来た。
ペーターを見付け、声を掛ける。■■
「ペーター」■■
【ペーター】
「あ、【主人公の名前】っ。
良かった」■■
何がよかったのか分からないが、いつも通りの笑顔。
彼が、私といるときに不機嫌なのをほとんど見たことがない。■■
直前までどれほどビバルディのサボりや部下のミスに苛立っていようとも、私を見ればすぐに機嫌が直るのだ。■■
いや、直るというより、私以外はどうでもよくなるというか……。■■
【ペーター】
「もうすぐ仕事が終わるので、お相手しますよ」■■
「ああでも……折角あなたに会えたんだから、やっぱり仕事なんてしていられません」■■
「すぐにお茶の準備をしましょう」■■
「ええ?
すぐに、って……」■■
「仕事はどうするのよ?
いいの?」■■
【ペーター】
「いいんです、いいんです。
あなたを待たせてまでしなければならないような重要な仕事なんて存在しませんよ」■■
「あとは裁判の判決がいくつか残っていたはずですが……」■■
「どうせ、刑なんて変わり映えしないですしね。
僕がいてもいなくても死刑ばかりです」■■
「死刑ばっかりって……。
【大】止めろよ【大】」■■
ビバルディのことだから、罪状など考慮せず片っ端から死刑を言い渡していそうだ。■■
「宰相のあんたくらいしか、止められる奴はいないんじゃないの?」■■
後は、何度か見掛けたことのある王様がいるが、彼はものすごく尻に敷かれていそうだった。■■
【ペーター】
「えっ、どうして僕が止めなくちゃいけないんですか?
ただでさえヒステリー気味だっていうのに、僕、火に油を注ぐようなことはしたくないですよ」■■
「さ、そんなことより、【主人公の名前】。
お茶にしましょう」■■
ペーターは私の手を取り、いそいそと歩き出す。
裁判とやらが気に掛かるが、結局はペーターについて行った。■■
私だって、自分の首は惜しい。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・廊下
最近、エリオットは自室に帰る時間も惜しんで仕事をしている。
黙っていようと思ったが、さすがにもう限界だ。■■
外ではしゃんとしているようだが、私はもう見抜けるようになってしまった。
彼は、疲れている。■■
「エリオット!」■■
廊下を歩いていたエリオットを呼び止めた。■■
【エリオット】
「ん、【主人公の名前】?
……先行ってろ、おまえら」■■
横にいた使用人を追い払い、私に向き合ってくれる。■■
忙しくても、相手をしてくれることに自信を得て、触れるまいと決めていた仕事のことに口を出す。■■
「最近、部屋にも戻っていないようね。
そんなに忙しいの?」■■
【エリオット】
「ああ。
今、忙しい時期でな」■■
「ふうん……」■■
「……嘘ね」■■
【エリオット】
「……嘘?
今の状態が暇に見えるのか?」■■
確かに、忙しいのだろう。■■
目がないわけではない。
充分忙しく見えている。■■
しかし、それは無茶をしているからだ。■■
「仕事は詰まっていないはずよ。
普通にこなしていれば、そんなに忙しいはずがない」■■
【エリオット】
「…………」■■
「無理して、仕事を詰めているんでしょう?」■■
「仕事なら仕方ないと思って黙っていたけど、体を壊すわ。
ほどほどにしないと……」■■
【エリオット】
「……それ、誰から聞いた?」■■
「ブラッドから。
確認済みなんだから、誤魔化しても無駄よ」■■
直接の上司から聞き出してある。
確認をとってあると追い詰めるつもりで暴露すると、エリオットは私を睨んだ。■■
【エリオット】
「……なんで、ブラッドがあんたに仕事のことまで話すんだよ」■■
「なんでって……」■■
(なんで、睨まれなくちゃいけないのよ)■■
【エリオット】
「いつの間に、そんなに親密になったんだ?」■■
「親密っていうほど、仲良くは……」■■
【エリオット】
「親密でもないのに、ブラッドが仕事の話なんか漏らすわけないだろ。
あんた、どういう手を使って聞き出したんだよ」■■
そんなことを言われても、普通に聞いただけだ。■■
ブラッドは、相変わらず何を考えているのかよく分からない顔をして教えてくれた。
彼の思惑なんか、私には読めない。■■
【エリオット】
「……俺のいないところで、会っているのか?」■■
「そりゃ、ブラッドはここの屋敷の主だし、エリオットと違って敷地内にいることが多いから……」■■
【エリオット】
「…………」■■
「……分かった。
仕事はほどほどにする」■■
「出かけることが多いのはどうにもならねえが、必ず部屋に戻れるようにな。
だから、あんたもあんまり部屋から出ずに待っていてくれ」■■
これで話は終わりとばかりに、エリオットは立ち去ろうとする。■■
「ちょっと、待ちなさいよ」■■
【【【演出】】】……壁を叩く音
ばんっと壁を叩く。■■
「言いたいことだけ言って、はいサヨナラはないんじゃないの?」■■
下町育ちの同級生も従わせた、ドスのきいた声を作る。■■
本職のマフィア相手に利くか知れないが、エリオットは立ち止まった。■■
「ネタは挙がってんのよ?
白状しなさい」■■
「あんた、長期の休みをとるために短期の休憩つぶしているんでしょう?」■■
私の脅しなど即席の作り物だから、そう長くは通じない。
途中から、猫なで声で理解を示してやる。■■
【エリオット】
「…………」■■
「調整はしてるぜ。
休みをどう使おうが、俺の自由だろ」■■
「私には関係がないっていうの」■■
エリオットから直接聞き出したわけではない。■■
確かめるのはこれが初めてだが、馬鹿馬鹿しいほどの理由だ。
あまりに馬鹿馬鹿しいので冗談かと思う。■■
【エリオット】
「……そうだ。
あんたには関係がない」■■
「そうなの?
私と遠出するために、仕事を詰めているのに」■■
ちらっとエリオットを見ると、彼は赤くなった。■■
(当たり……)■■
(……アホらしい)■■
「かなり馬鹿馬鹿しいわ。
自覚はあるの?」■■
遠出をしたくて、倒れそうなほどに働くなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある。■■
休みを削って、睡眠時間すらろくにとっていない。
馬鹿馬鹿しすぎて、頭痛がしそうだ。■■
「マフィアのナンバー2が、女の子と遠出がしたくて倒れそうなくらい働くなんて、あんたが取立てやら脅しやらしている人達が聞いたらどう思うかしら」■■
【エリオット】
「…………」■■
「……殺した奴らなら、あの世で泣いてるかもな」■■
情けないという自覚はあるようだ。■■
「初等科の子じゃあるまいし……。
友達と遊びに行きたくて頑張るような年でもないでしょう」■■
「加減を知らない、子供みたいよ?」■■
【エリオット】
「でも、俺はあんたとどこかへ出かけたいんだ」■■
「…………」■■
私と出かけるのが、頑張った「ご褒美」になるとは思えない。
そんなに頑張って得るものが、私との遠出とは馬鹿馬鹿しくも申し訳ない。■■
「私と出かけたって、面白くもなんともないわよ。
多分、とってもつまらない思いをしてがっかりする」■■
【エリオット】
「なんでだよ。
やっぱり、あんたは俺と出かけたくないのか」■■
「そうじゃなくて、私ってつまらない奴だから」■■
その上、根暗だし……と、口癖になりつつある文句を付け足す。■■
【エリオット】
「……俺、あんたといてつまらない思いなんかしたことないぜ」■■
私は、いつも自分がつまらない。
くだらない。■■
すぐにねちねち考え込むし、陰湿な性格だし、恨み辛みは忘れないし……。
とにかく、嫌な奴だ。■■
私が私以外の誰かなら、近寄りたくないと思う女だ。■■
私は、私の友達を尊敬する。
なんて心の広い人達なんだ、と。■■
【エリオット】
「いつも楽しい。もっと一緒にいたい。
だから、遠出したらきっともっと楽しい」■■
「…………」■■
本当に初等科の子みたいだ。
楽しい→もっとしたい→そうしたらもっと楽しい。■■
そして、その思い込みは、大体の場合はその通りになる。■■
他人からすればつまらないことこの上ないようなことでも、本人は楽しい。
ものすごく楽しい。■■
ものすごく楽しいと思うその気持ちを誰にも止められないから。
本人にも止められない。■■
大いなる思い込みだ。■■
「……分かったわ」■■
「休みがとれたら、遠出しましょう。
前に約束した通り」■■
「でも、短い休みにはちゃんと休憩して。
でないと、休みがとれても約束は無効にする」■■
【エリオット】
「え~~~~~~~!?
そんなの、いつになるか分からねえ!」■■
「その内、仕事があいたら長期の休みももらえるわよ。
ブラッドが言っていたもの」■■
「短期の休みを削るような無理をしなくても、ちゃんとその内に長期休みをくれるって」■■
【エリオット】
「ブラッドが……」■■
むむむ……と唸る。■■
「……あんまり休みを削ると私と一緒にいる時間が少なくなって、長期の休みがとれる頃には他の人と遊びに行っちゃっているかもね」■■
【エリオット】
「分かった。
休憩はとる!」■■
エリオットは即座に答えた。■■
「……いい返事」■■
にこりと笑うと、彼は微妙な顔をする。■■
【エリオット】
「【主人公の名前】、あんた、ブラッドみたいだよな」■■
「…………」■■
「……また、それ?
似ているところは、あるんだろうけど……」■■
尊敬するような目で見られるが、私にとってちっとも誉め言葉にならない。■■
【エリオット】
「ああ、前からそう思ってたけどさ。
けど今回は、新たな一面を発見したって感じだ……あんた、ブラッドみたいにかっこいいよ」■■
「先刻なんて、かなり大物っぽかったぜ。
痺れたね」■■
「…………」■■
……嬉しくない。■■
「……ありがとう」■■
エリオットからすれば、褒めているつもり。
投げやりに礼を言うが、エリオットはそれでも嬉しそうにはにかむ。■■
【エリオット】
「いや、礼を言いたいのは俺のほうだぜ。
あんたと一緒にいられて、俺、本当に嬉しいぜ……」■■
キラキラと瞳が輝いている。
眩しくて直視していられない。■■
「大げさすぎよ。
こちらこそお礼なんていらないわ。」■■
「……じゃあ、そういうことで」■■
【エリオット】
「約束だぜ?
ちゃんと休憩は取るから、あんたも俺の部屋に来てくれよ?」■■
「分かっているわよ。
約束するわ」■■
私だって、切実にそうしたいのだ。■■
【【【時間経過】】】
時計塔・ユリウスの部屋
また時計塔に来ているが、ユリウスは相変わらずの不機嫌だった。■■
いつものこと。
だが、ここしばらく頻繁に遊びに来ていて連続だったので、不安になってくる。■■
それに、気に掛かっていることもあった。■■
★基本会話から引用↓
【ユリウス】
「……【主人公の名前】。
どうした?何を遠慮しているんだ」■■
こちらが一方的に続けていた会話を切ったので、不思議に思ったようだ。
彼は仕事の手を止め、顔を上げた。■■
「遠慮ってわけじゃないんだけど……」■■
普段のように図々しくなれない。
やはりこれも遠慮なのだろうか。■■
【ユリウス】
「おまえらしくもない……。
こちらの迷惑も考えずに遊びに来ていたくせに、今さら何を気兼ねしているんだ?」■■
「だって……」■■
「ユリウスが怒っているかと思って……」■■
【ユリウス】
「私が?
何を怒るというんだ」■■
「おまえがこちらの迷惑も考えずに遊びに来ていたことをか?
今さらだな……」■■
「それもあるけど。
私、この間やっちゃったでしょう?」■■
恐る恐る問い掛けると、ユリウスは思い至ったようだ。■■
【ユリウス】
「……?
ああ、この前おまえが部品を一つなくしたことか?」■■
「うん、それ」■■
差し入れを置くスペースを作ろうとテーブルの上を触り、置いてあった部品をなくしたのだ。
申し訳ないどころではなく、ずっと気になっている。■■
【ユリウス】
「部品の代わりはあるんだ。
気にしなくていい」■■
「はは、おまえも意外と気にする奴だったんだな」■■
「そりゃあ、するわよ」■■
伊達に何度もユリウスの仕事を見学していない。
部品ひとつに至るまで、どれだけ熱心かつ丁寧に時計を扱っているか、よく分かっている。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・廊下
★基本会話から引用↓
【ブラッド】
「【主人公の名前】。
君が読みたいと言っていた本が手に入ってね、読むだろう?」■■
ブラッドに呼び止められる。
彼にはたまに、自室の蔵書を読ませてもらったりしていた。■■
本の話題で話し込むこともけっこう多い。■■
(そういえば前に、興味のある本が書店で見つからないって話をしたっけ)■■
どうやら、その本を代わりに入手してくれたらしい。■■
【ブラッド】
「絶版になっている古書だから、探すのに少し苦労した。
それでも、君が喜んでくれるなら安い代価だな」■■
「ああ、読むなら私の部屋で読みなさい。
読書を楽しむ君の顔を見ていたいんだ」■■
「……!
ありがとう!嬉しい!」■■
ずっと読みたいと思っていた本だったので、素直に嬉しい。
つい、私にしては可愛すぎるほどあからさまに喜びの声が出た。■■
★基本会話から引用↓
【ブラッド】
「ああ、君が喜んでくれて私も嬉しいよ。ゆっくり読むといい。
読み終わったら、また新しい本を探してきてやろう」■■
★基本会話から引用↑
「ずいぶん太っ腹なのね?」■■
【ブラッド】
「私も、本は嫌いじゃないからね。
君が私の探してきた本を受け取り、楽しんで読んでくれれば、それだけで嬉しいのさ」■■
【ブラッド】
「では、このまま部屋においで。
今も、空いているだろう?」■■
「ええ。
行くわ」■■
元より、私の都合も把握した上で声を掛けているのだろう。
迷うことなく、ブラッドの部屋に向かった。■■
【【【時間経過】】】
※以下の条件を満たす場合、「エリオット・ハートの城」イベントここから↓
・エリオット滞在05,08,11で、計2回以上ハートの城を訪問している
・エリオットの好感度9以上
どこか路上
【エリオット】
「【主人公の名前】、どこ行くんだ?」■■
ハートの城へ向かっていると、途中でエリオットに会った。■■
「エリオット、どうしたの?」■■
【エリオット】
「俺?
仕事中だったんだけど……」■■
「中止になって暇が出来たとか?」■■
前の約束は、覚えている。
休みができたら、遠出に付き合うという約束だ。■■
「どこかへ行く?」■■
【エリオット】
「いや~……、今も仕事中」■■
「え、それってまずいんじゃないの。
仕事に戻らないと……」■■
【エリオット】
「ああ、そうなんだけどさ、あんたはこれからどこへ行くつもりなんだ?」■■
「?
私はハートの城のほうへ行くつもりなんだけど」■■
あそこの城って綺麗なのよねと誉めると、エリオットは嫌そうに顔をしかめた。■■
【エリオット】
「あんなところ、最悪だ」■■
「エリオットは、あのお城が嫌いなの?」■■
【エリオット】
「城が嫌いっていうか、あそこにいる奴らが最悪なんだ」■■
「どいつもこいつも性悪だし、やな奴ばっかだから気が悪ぃ。
あんたも知ってるよな、あそこには眼鏡ウサギがいるんだぜ?」■■
眼鏡ウサギ……。
ペーター=ホワイトのことだろう。■■
「あ……。
あ~~~……、そうね」■■
「あいつは……、最悪よね」■■
同意しつつ、頭痛がする。■■
ペーターは、たしかに最悪だ。
だけど……。■■
(性悪で、嫌な奴か……。
私にもあてはまるんだけどな)■■
【エリオット】
「?
どうした?」■■
「……私、認めたくないけど、ペーターに似ているところがあるの」■■
【エリオット】
「は?あんたがあの陰険野郎に似てる?
どこが?」■■
(陰険……)■■
自分のことを言われているようで、軽くへこむ。■■
それが私なのだが、こうも「おまえは違うだろう」というふうに決め付けられると申し訳なくなってしまうのだ。
私はそういう子です、ごめんなさい、と。■■
改善する気もなければ、改善できるとも思わないのだが。■■
誤解させてしまって申し訳ない。
あなたは私を誤解しています、というふうに。■■
「私にも、陰険なところがあるから」■■
えらく控えめな表現だ。■■
私の中の大部分……というかほとんどすべては陰険で陰湿な性質で作られている。■■
おまけに根暗。
本当に根暗。■■
そして、根暗。
とにかく根暗。■■
【エリオット】
「あんたは、陰険なんかじゃねえよ」■■
それは、誤解です。
あなたの目が濁っているんです……。■■
「そうかしら。
自分では、最悪な奴だと思うんだけど……」■■
反論してくれるものを無碍にすることもない。
素直に、乗っておく。■■
「……それで?
エリオットは仕事中なのに、こんなところで油を売っていていいの?」■■
話を逸らす。
私は根暗だが、自虐趣味はない。■■
ただでさえ嫌っているのに、止めを刺すようにどんどんと自分を嫌いになることもないだろう。■■
【エリオット】
「ああ、俺の仕事の目的地はハートの城なんだ」■■
「何しに行くのよ。
危ないじゃない」■■
ハートの城とは対立関係にあったはずだ。
敵の陣地に乗り込むような真似、危険極まりない。■■
【エリオット】
「今は休戦中。
夕方だからな」■■
「?」■■
【エリオット】
「夕方は、女王の機嫌がいいんだよ」■■
「???」■■
【エリオット】
「あのヒステリー女が珍しく平静でいられる時間帯ってことだ」■■
「さっぱり分からないわ」■■
【エリオット】
「分からなくていいが、ともかく俺はヒステリーが再燃しないうちに、領土の買取交渉をしなくちゃならねえ」■■
「……一人で?」■■
【エリオット】
「こういうのは身軽なほうがいい。
手下なんか連れて行ったら動きが鈍くなる」■■
もっともらしいが、ひどく危険な真似をしようとしていることは間違いない。■■
【エリオット】
「俺からしてみりゃ、あんたが一人で行くほうが危険だ」■■
「私は余所者だから、それが色々と免罪符になっているみたい」■■
都合よくできている。
私の夢だから。■■
私は何があろうと死んだりしないが、エリオットは夢の中の登場人物だ。
危険なことをして死んでしまう可能性もある。■■
(私といれば、危険も軽減されるかも。
私の夢なんだし……)■■
「……目的地も一緒なことだし、私も一緒に行こうか?」■■
エリオットに、同行しようかと申し出る。
口に出せば、それはとてもいい提案に思えた。■■
この夢はいつ終わるか知れない。
エリオットが帰らぬ人になるのなんて嫌だ。■■
そんなことになれば、寝覚めもさぞかし悪かろう。■■
【エリオット】
「……一緒に、か」■■
エリオットはしばし考え込んだ。■■
【エリオット】
「そのほうが安全かもな。
あんた一人じゃ、心配だ」■■
「ここで会ったからには見過ごせない」■■
私はエリオットの身を心配したのだが、逆に心配されてしまった。■■
【エリオット】
「おし、行くか」■■
「うん」■■
経過はどうあれ、連れが出来たのは嬉しいことだ。■■
ハートの城は遠い。
一人で黙々と歩くことを考えると気鬱になる。■■
仲のいいエリオットと一緒に行けるのならば、道も短くなるだろう。
彼が仕事だとしても、遠出を出来ることにもなる。■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・門前
ハートの城に着いた。
休戦中というのは嘘ではないようで、兵士が案内してくれる。■■
槍は向けられないものの、どこかぎこちないのは仕方ない。
エリオットも、普段の彼とは違い、冷たい表情をしていた。■■
どこか脅えるように、兵士は私達を城内に導く。■■
私が恐れられるわけはないから、脅威の対象はエリオットだ。
敵の本拠地内であっても、彼は恐れるに足る存在ということらしい。■■
普段の彼を見るとそんなふうには見えないが、冷たい横顔からはマフィアのボスの腹心というのも納得できた。■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・謁見室
【ビバルディ】
「久しいな、エリオット=マーチ」■■
そのまま、謁見室に通される。
出迎えてくれたのは当然、ビバルディだ。■■
服装からして、地位のある人……。■■
……女王様。
誰が見てもそう分かる風貌と迫力を備えている。■■
多少の付き合いはあるし、舞踏会でも見た。■■
しかし、それにしてはやけに気軽だ。
城で地位のある人なら、いきなり通されるなんておかしい。■■
【エリオット】
「よう、あんたも機嫌よさそうじゃねえか。
夕方しかまともに謁見できないとは、難儀な女だぜ」■■
【ビバルディ】
「ほほ、わらわに限らず女とは難儀なものじゃ。
振り回されてこそ、男というもの」■■
【エリオット】
「てめえに振り回されるなんざごめんだな。
撃ち殺したほうが早え」■■
【ビバルディ】
「短気な男よ。商談に来たのであろう?
少しは分別というものを持てぬのか」■■
【エリオット】
「あんたにだきゃ、言われたくないね」■■
エリオットの返しも、おざなりだ。
地位のある人に向けるようなものではない。■■
その内容から推察すると、敵だという以上に、ビバルディを嫌っているのかもしれない。■■
「……エリオット」■■
【エリオット】
「ん?
なんだ?」■■
突っついて、小声で尋ねると、エリオットは表情を和らげて答えてくれた。■■
先刻までは別人のように冷え冷えとしていた。
無視されるかと思ったが、やはり彼は彼のままだ。■■
【エリオット】
「ああ……、こいつがビバルディ。
この城を仕切ってる女王だ」■■
「いかにもな女だろ?
相変わらず、クソ意地悪そうな面してやがる」■■
女王様になんてことを言うんだ……。
エリオットの悪態に、目を剥く。■■
まったく声も潜めていない。
謁見するような態度ではなかった。■■
「そんなことは知っているわよっ。
私も面識あるって、前に言わなかった?」■■
【エリオット】
「ん?そうだっけか……、聞いたかもしれねえが忘れた。
首切りが趣味の女王の話なんか、あんままともに聞こうとも思えねえしな~」■■
【ビバルディ】
「聞こえておるぞ」■■
【エリオット】
「うっせえな。
盗み聞きすんなよ、女王のくせに細かい女だな」■■
【ビバルディ】
「でかい声で喚いておれば、嫌でも聞こえてくるわ。
ここはわらわの領土、慎まんといかな貴様とて無傷では帰れぬぞ」■■
【エリオット】
「……んだよ?
やるのか?」■■
エリオットは銃に手を伸ばす。■■
(商談に来たんじゃなかったの!?)■■
「……エリオット!
目的、忘れていない?」■■
「喧嘩を売りに来たわけじゃないでしょう!?」■■
ビバルディのほうがもっともだ。
声も潜めず、悪態をついて謁見に臨めば、不興を買うのは当然のこと。■■
「彼女に、酷いことを言わないで」■■
【ビバルディ】
「……ほう?」■■
【エリオット】
「……なっ!?
なんで、こんな奴の味方すんだよ、【主人公の名前】」■■
「あんたのほうが不条理ないちゃもんをつけているからでしょう。
彼女の言うことのほうが正しいわ」■■
【エリオット】
「!!!!!
こいつのほうが常識人みたいな言い方するなよ!」■■
「常識があるでしょう、あんたに比べれば」■■
エリオットのほうが難癖をつけているようにしか聞こえなかった。■■
そう指摘すると、彼は口をぱくぱくさせた。
ショックだったらしい。■■
【エリオット】
「どこが!?
常識なんて持ち合わせてるわけないだろう、この女が!」■■
「そういう口をきいていい相手じゃないわ。
高貴な女性なのよ?」■■
【エリオット】
「あんたは普段のこの女を知らないから、そんなことが言えるんだよ!!!」■■
言動に気を遣えと指摘されたのが心外だったのか、エリオットは大騒ぎした。■■
【ビバルディ】
「……ふ。
いいざまじゃのう、エリオット=マーチよ」■■
「今まさに、女に振り回されておる最中のようではないか?
どんな気分だ?」■■
【エリオット】
「……っけ」■■
恐ろしいことに、エリオットは床に唾を吐いた。■■
ここは、言うまでもなく、下町の路地ではない。
床もぴかぴかに磨かれた謁見室だ。■■
「なんっってことすんのよ、あんたは!」■■
【【【演出】】】・・・足を踏む音
げしっと、足を踏む。■■
【エリオット】
「わ!?
何すんだよ、【主人公の名前】」■■
「何するんだっていうのは私の台詞!」■■
たいして堪えた様子もないエリオットに、余計にイラつく。■■
「綺麗に掃除された床を汚すなんて、しちゃいけないことよ!?」■■
【エリオット】
「なに言ってんだ!?
ここは敵地で……」■■
「敵地だろうが、汚しちゃ駄目でしょ!?
そういうのって許せない!私は貧乏性なのよ!」■■
【エリオット】
「…………」■■
「あんたの基準ってよく分からねえ……」■■
【ビバルディ】
「……ふふ、貴様と違って、躾の行き届いた娘ではないか。
帽子屋一派の者にしては珍しい……」■■
「貴様のものではないようだな?
エリオット=マーチ」■■
エリオットは答えない。■■
ビバルディは、優雅にドレスを引き、近付いてきた。■■
【ビバルディ】
「ふ、【主人公の名前】、おまえは良識があるね。
ますます気に入ったぞ」■■
彼女は王座に座って高みから見下ろしているわけではない。
同じ位置に立っている。■■
だが、威圧感があるのはブラッドと変わらない。
傍にいるだけで、頭を下げたくなる。■■
外見がたおやかな分、男性であるブラッドより更に得体が知れない。■■
【エリオット】
「近付くな。
こいつは、うちの客だ」■■
【ビバルディ】
「わらわは貴様に話しかけているわけではない。
なあ、【主人公の名前】?」■■
【エリオット】
「勝手に名前を呼ぶんじゃねえよ!」■■
【ビバルディ】
「貴様だって、自分のものではないのに連呼しておろう?
こやつは、誰のものなのじゃ?」■■
【エリオット】
「あんたにゃ関係ねえ」■■
エリオットは取り付く島もなく、突き放す。■■
【【【演出】】】・・・パシッと杖を打つ音
女王は、杖をぱしりと手の平に打った。
エリオットと同じく、周囲の温度の下がるような目で見る。■■
値踏みするような冷たい視線が交錯した。■■
【ビバルディ】
「まあ、よい。
知っておろうが、わらわは今の時間、機嫌がよいのじゃ」■■
「貴様のくだらぬ提案も聞いてやろう。
時が変わらぬうちに申せ」■■
【エリオット】
「最近になって、俺らが手に入れた領土の件だ」■■
エリオットは、間髪いれずに用件を切り出した。
前置きなしに失礼ではあるが、最初からそうしていたほうがまだましだったような気もする。■■
【ビバルディ】
「……貴様らが奪い取っていった、わらわの土地のことか」■■
【エリオット】
「あそこは、ブラッドが手放してもいいと言っている。
言い値で買い取るか、俺らの希望する土地と交換してもいい」■■
「どうする?」■■
【ビバルディ】
「城の領土に土足で踏み込んで荒らした上に、買い取れと申すか……」■■
美しい顔が引きつる。■■
【ビバルディ】
「この外道め……」■■
彼女の言うことは、やはりもっともな話だった。
奪ったものをそれと知っていて元の持ち主に売りつけるとは、悪徳商法にもほどがある。■■
【エリオット】
「俺らはマフィアだぜ?
悪いことがお仕事だ」■■
「どうするんだ?
あんたが合意しなけりゃ、ゴーランドに話を持っていってもいい」■■
明らかな脅しに、ビバルディは悩む仕草を見せた。■■
彼女をいじめているような気になって(事実、いじめているに近い)、なけなしの良心が痛む。
ビバルディからしてみれば、私もエリオットの仲間のようなものだろう。■■
【ビバルディ】
「…………。
貴様らの欲しがっている土地を譲ってやろう。
あそこはわらわにとって意味のない場所だ」■■
【エリオット】
「……どうも。
じゃ、これにサインしな」■■
「時の誓約書だ。
破れないぜ」■■
エリオットは契約書のようなものを差し出した。
びっしりと文字が書き込まれている。■■
【ビバルディ】
「いいだろう。
一旦は譲ってやる」■■
ビバルディはペンを取り出し、確認してからサインをした。■■
【ビバルディ】
「だが、これはかりそめの契約。
預けるだけじゃ。
譲った後で取り戻そうと思えば、いつでも取り戻せる」■■
「貴様らが奪ったように、わらわも奪ってやろう」■■
【エリオット】
「できるものなら」■■
契約は、通常の不動産取引のように表向きなにごともなく行われた。
しかし、二人のやりとり、そして場の空気は合意にいたったとは思えない剣呑さで、居心地が悪いなんてものじゃない。■■
【ビバルディ】
「【主人公の名前】、また来るがよい。
今度は余計な連れなど同行させず、な」■■
「……ええ。
ありがとう……」■■
あまり気乗りしないで答えると、エリオットにすごい勢いで手をつかまれた。■■
引っ張られ、謁見室から強制退出させられてしまう。
後ろから、ビバルディの笑い声が聞こえた。■■
【【【時間経過】】】
ハートの城・廊下
「なになになに、なんなの!?」■■
ずるずると引っ張られ、連れ出される。■■
【エリオット】
「…………」■■
「…………」■■
「……仕事関係のことに口出しする気はないけどさ、態度悪いわよ、あんた」■■
ビバルディは寛大だった。
現実なら手打ちにされてもおかしくないような態度をとったのに、放免されたのだ。■■
【エリオット】
「夕方だからだ。
あんたは、普段のヒステリー女を知らないからそんなことが言えるんだぜ?」■■
「そこまで、悪い人じゃないと思うけど」■■
エリオットは立ち止まり、ぶすっとして私を見下ろした。■■
【エリオット】
「あんな奴が好きなのか?」■■
「…………」■■
「……は?」■■
(なに言ってんの、こいつ……)■■
好きというニュアンスが恋愛の意味にとれる。■■
「あの人、女性でしょう?」■■
【エリオット】
「そうだ。
同性だから仲良くなりやすいんだろ」■■
「あんな……×××××女でも」■■
なんて失礼な男だろう。
呆れる。■■
なんて、失礼で、子供っぽい。■■
「自分が嫌いな相手だからって、人も嫌うとは限らないのよ」■■
【エリオット】
「俺は、あんな女、大嫌いだ」■■
「だから……」■■
【エリオット】
「でも、あんたのことは大好きなんだ、【主人公の名前】」■■
私にまで自分の好き嫌いを強要するなと、反発しかけて止まる。■■
【エリオット】
「あんな奴と仲良くならないでくれよ」■■
「…………」■■
エリオットにとって、ビバルディは敵だ。
客人が親しくなるのは好ましくないだろう。■■
「……心配しなくても……」■■
「私は、そんなに好かれたりしないわよ?
仲良くなるには、双方とも好意を持っていないといけないでしょう」■■
こちらが好感を持っていたとしても、好かれるかどうかは相手次第だ。■■
【エリオット】
「あんたは、誰にでも好かれるから……」■■
そんなことはない。■■
(……でも、この世界ではそうなんだったっけ……)■■
(…………)■■
(誰にでも好かれる、か)■■
(都合がいいようで、面倒だな……)■■
ほとんどの人から、好感を持たれてしまう。
会って、話して、知り合うほどに。■■
それはいいことのようでもあり、私をがんじがらめにしようとする蜘蛛の巣のようでもあった。■■
【【【時間経過】】】
※「エリオット・ハートの城」イベントここまで↑
★全キャラ共通部分ここから↓
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢
【ナイトメア】
「誰かに愛されることが不安なのか、【主人公の名前】。
不安というより不満かな……」■■
「君は愛情というものが分かっていないようだ」■■
「あなただって、分かっていなさそうよ」■■
【ナイトメア】
「もちろん、私だって分からないよ。
愛情なんて、それがなんだかよく分からない」■■
「……必要のないものだしね。
ここで必要なのは、ゲームにルール、役割だけだ」■■
「……ここの世界の人には理解してもらえないでしょうね」■■
「私は、完成された愛情を見たことがあるの」■■
完成された愛情。
なんて、綺麗で報われない言葉だろう。■■
【ナイトメア】
「完成された愛情……か。
つまり、終わっているってことだね」■■
「分かるの?」■■
理解されないかと思っていた。■■
【ナイトメア】
「分かるよ。完結するのは、それが完全に終了したときだけだ。
それがなんであれね」■■
完全な形で、終わった愛情。■■
「…………」■■
「世界で一番美しいと思ったわ」■■
あんなに美しいものを見たことがない。
そういうものを、私は見たことがある。■■
雨に濡れて、泥がはねて、汚れたスーツ姿の中年の男性。
べたつく湿気と、質素な墓地。■■
惨めたらしく、淀んでいる。
むっとするような雨の葬式。■■
美しいと思った。
あんなに綺麗で、完成されたものを見たことがない。■■
父は美男子ではなかったし、母も煌びやかな美女ではなかった。
母は病死で、流行病はよくあることだったから、そこに特別なドラマがあったわけでもない。■■
身内の死。
ただ、それだけのことだ。■■
私や家族にとっては泣き喚きたい出来事でも、一区画離れた別の家族には影響しない。
そういうものに胸打たれたのは、血縁だからなのだろう。■■
身内以外には感動も何も生まれそうにない死。
なんの変哲もない悪天候の墓地で、見せ付けられた。■■
泣き崩れる妹よりも、慰める姉よりも、無言で立ちつくしている父から愛情を感じた。■■
「私には無理だと思った」■■
なんといえばいいのだろう。■■
絶望かもしれないし、妬みかもしれない。
それほど想われていた母を、それほど想っていた父を羨ましく感じた。■■
私には無理だ。
私には、あんなふうに愛せもしないし、愛されることも出来ない。■■
【ナイトメア】
「そんなにまで美しかったんだね……。
つまり……、それほどまでに完結されていたんだ」■■
心を読めるナイトメアには多くを語らなくとも、思うことがダイレクトに伝わっているのだろう。
彼の目は、少し陶酔した色を浮かべている。■■
「あんなに特別に思われる人間にはなれないと思ったの。
特別になれない」■■
再婚でもしてくれていれば、別の生きがいを見つけてくれれば。
私は父を責め、そして安心しただろう。■■
ずっと続く愛などない。
完成された特別なものでも、いつかは壊れる、と。■■
だけど、特別なものは壊れなかった。
父は、屍のように生きていた。■■
生きなくてはいけないことに絶望していた。
それを見て、私はそのたびに絶望した。■■
なんて、美しい。■■
私には無理だ。
私には無理。■■
あんなふうには歩いていけない。
私なら、きっともっと楽な道を行く。■■
忘れる道を歩いていくはずだ。■■
【ナイトメア】
「ああ……、彼か」■■
知り合いのような口をきく。
私が不審げに見ると、ナイトメアは微笑んだ。■■
私には、彼のように心を覗き見する能力はない。■■
【ナイトメア】
「……きっと、君のお父さんは後悔をしていたんだな」■■
「後悔……。
そうかしら」■■
【ナイトメア】
「そうだよ。
人は……時間を止めることで完璧になれる」■■
「死人を悪くは思えないものね」■■
【ナイトメア】
「そうだ。
後は美化されていくばかりで、汚れることもない」■■
「お父さんの愛情は思い出の中に住んでいる。
だから、美しいんだ。欠点など見えなくなっていく」■■
完璧に見えた母親を思い出す。
彼女ははたして完璧だったのか。■■
今となっては確かめるすべもない。■■
【ナイトメア】
「死人は美しい。そして、償いを許してはくれない。
懺悔は受け入れもされず、聞き入れてももらえない」■■
「生者は醜い。
自分を責めて、後悔だけが大きくなるんだ」■■
父は、母に何か謝りたかったのだろうか。
許してもらいたかった?■■
【ナイトメア】
「君と同じさ、【主人公の名前】」■■
「……どこが同じなの?」■■
【ナイトメア】
「君のお父さんがなにかしらの後悔を抱えて妻を想うように、君も同じだ。
もう謝れない、償いのできない後悔をしている」■■
だから、君も美しい……とナイトメアは呟いた。
もがいているのが美しい、と。■■
【ナイトメア】
「【主人公の名前】、死人っていうものはね、残像にすぎないんだ。
思い出すことは出来ても、取り戻すことも出来なければ、そこから先も一切ない」■■
「返事なんて、かえしてくれない……残酷なものなんだよ」■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここまで↑

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