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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『エリオット=マーチ ■08話_2』

帽子屋屋敷・エントランス
(また、誰もいないんだ)■■
ブラッド達は皆で外出しているようだった。■■
一人で過ごす休みは長い。
こういうときは、自分も出掛けるに限る。■■
ハートの城に到着した。
歩いていると、兵士を連れたビバルディに会った。■■
「ビバルディ」■■
彼女に会うのは割と久しぶりだ。
相手を限定しているつもりはないのだが、ここに来ると大抵ペーターに捕まってしまう。■■
とはいえ、彼と別れた後に挨拶に行ったりもしていた。
いまだにやや緊張はするが、最初の頃よりは話しやすくなっている。■■
「こんにちは。
遊びに来たわ」■■
【ビバルディ】
「ああ、【主人公の名前】。
また来たのか」■■
「わらわも、おまえに会うのが嫌いではない」■■
「退屈しないからな……。
ゆっくりしていけ」■■
「ええ、ありがとう」■■
兵士を連れてどこかに行こうとしている様子からすると、ビバルディは執務中なのだろう。
そのまますれ違い、女王は去っていった。■■
【【【演出】】】・・・近付く走る足音
さて、どうしたものか。
そう思っていると、こちらに足音が近付くのに気付く。■■
【ペーター】
「【主人公の名前】!」■■
(ああ、やっぱり)■■
ここに来て、彼に会わないことなどほぼない。
長い耳は、私の存在を嗅ぎ付けるのにだけは役立っているのかもしれない。■■
「ペーター……。
宰相のくせに、騒々しく走ってくるのはやめなさいよ」■■
ビバルディとは逆方向からやって来たが、会っていたら間違いなく彼女を苛つかせていただろう。
何せこの男は、うるさい。■■
【ペーター】
「何言っているんです、走るに決まっているじゃありませんか。
あなたの声が聞こえたんですから」■■
【ペーター】
「また来てくれたんですね、【主人公の名前】」■■
「ええ、また……ね」■■
本当に、私も懲りないというかなんというか。■■
【ペーター】
「いっそここに住んでしまえばいいと何度も言ってるのに……」■■
「住むわけ、ないでしょう」■■
これも、何度も返した返答だ。
きっぱり告げると、ペーターは寂しげに眉を寄せる。■■
【ペーター】
「何に遠慮してるんですか?
教えてくれれば、改善しますよ?」■■
「……じゃあ、あんたが出て行って」■■
ペーターと同居だなんて、考えられない。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・エリオットの部屋
「…………」■■
【エリオット】
「す~~~……」■■
エリオットは爆睡している。■■
……私を下敷きにして。■■
私は枕でもベッドの一部でもない。
しかし、こうまで疲れきっている彼を見ると撥ね除ける気にはなれなかった。■■
(……とはいえ、重いわ)■■
(痺れてきた……)■■
男性の体だ。
触れていると、がっしりした骨格が感じられる。■■
筋肉もついているから、その分重量がある。
女が長時間支えられるようなものではない。■■
(嫌がらせなのかしら、これ……)■■
とにかく、重い。
時間がたつほどに、体が痛くなる。■■
それでも、大人しくしている私は何なんだ。■■
eri14_3
【エリオット】
「……むにゃ」■■
(…………)■■
(……可愛いじゃないの、このクソウサギめ……)■■
頭の中でだけ、ウサギ耳をぎゅうぎゅう引っ張る。
想像だが、少しすっきりした。■■
重いのを紛らわすため、他のことに気を逸らすしかない。■■
この前読んだ本のこと。
夢はいつ覚めるのかということ。■■
他のことを考えても、気を逸らしきれない目の前の男のこと。
そうして、時間を過ごす。■■
(…………)■■
【【【演出】】】……激しいノックの音
がんがん!!!■■
「……っ!?」■■
いきなり、大きな音がした。■■
ノック……らしい。
しばらくそれがノックの音だと気付けなかったくらい、乱暴な叩き方だ。■■
【ディー】
「ひよこウサギ!
ここ、開けなよ!」■■
★既存作から編集↓
【ダム】
「僕ら、おまえに用事があるんだ!」■■
★既存作から編集↑
(……ディーとダム?)■■
何の用事だろう。■■
部屋に招き入れてしまったら、仕事の話でなくともエリオットを起こさなくてはならない。■■
(もう少し、寝かせておいてあげたいのに……)■■
(適当に返事をしてやり過ごそう……)■■
居留守だと、大事な用件だった場合に面倒だ。(双子の口調からはそうは聞こえないが)■■
とりあえず、返事はしておくことにする。
重要な用件なら向こうから言ってくれるだろう。■■
「ディー、ダム、どうしたの?」■■
【ディー】
「え?
あれ?」■■
【ダム】
「な、なんでお姉さんがいるの?」■■
ドア越しに動揺が伝わってくる。■■
「私は……、その、エリオットに用事があって……」■■
用事。
用事なんてない、本当は。■■
どうして、この部屋に通ってしまっているのかも、うまく説明できない。
追求されたら困るような答え方をしてしまった。■■
【ディー】
「…………」■■
【ダム】
「……ウサギは?
そこにいるの?」■■
双子の声は、心なしか険を帯びているように感じる。■■
「いる……けど、寝ている」■■
やはり、組織のナンバー2の部屋に出入りするのは感心できないのかもしれない。■■
【【【演出】】】……ドアを蹴る音
恐る恐る答えると、がっっという大きな音がした。■■
「!?!!」■■
ドアが揺らいだ。■■
【ディー】
「…………」■■
「……アホウサギに伝えておいてよ、お姉さん」■■
【ダム】
「今度は、僕らが遊んであげるって」■■
【ディー】
「僕らと遊ぶときには、眠るような余裕あげないから。
お楽しみにってね」■■
エリオットに押しつぶされたまま、冷たい汗が流れる。■■
ドア越しだ。
双子に目の前に立たれているわけではない。■■
それなのに、薄ら寒くなるようなものが眼前にいる気がした。■■
「…………」■■
息を止めていることにも気付かなかった。■■
ほうっと息が吐き出せたのは、気配が完全に消えてからだ。
私は気配を読むような真似、到底できない。■■
だが、私でも感じずにはいられないほど恐ろしかった。■■
(なんなの、あの子達……)■■
「……何をあんなに怒っているのかしら」■■
【エリオット】
「……気持ちは分からないでもないな」■■
「!?
エリオット!?」■■
いきなり上から声が降ってきて驚く。■■
【エリオット】
「……ん」■■
「起きていたの?」■■
【エリオット】
「つい先刻、な」■■
「ふぁああ……」■■
まだまだ眠そうな様子だ。
どれだけ疲れているのだろう。■■
「爆睡していたのに、よく起きられたわね」■■
【エリオット】
「……そりゃ、あんなに殺気ふりまかれちゃあな。
目も覚めるぜ」■■
「ふぁあ……」■■
その様子は、「目が覚めている」様子には見えない。■■
「なんだか分からないけど、すっごく怒っていたわよ」■■
【エリオット】
「……だろうな」■■
「身に覚えがあるの?」■■
【エリオット】
「…………。それなりに。
……奴らも報われねえな」■■
「……なに?」■■
【エリオット】
「いや……」■■
エリオットは寝ぼけているのか、曖昧だ。■■
「起きていたのなら、答えてくれればよかったのに。
私、プレッシャーすごかったんだから」■■
【エリオット】
「俺が答えてたら、ドア突き破られてたぜ」■■
「そんなに怒らせるようなことをしたの」■■
斧付きの門番にいい度胸だ。■■
【エリオット】
「……今、してる」■■
エリオットはむにゃむにゃ言って、再度私を抱き寄せた。■■
【エリオット】
「もうちょい、寝かせて」■■
「……はあ」■■
筋肉痛になりそうだと思いながら、目を閉じる。■■
【【【時間経過】】】
夢の中
(ん……)■■
(…………)■■
(……あれ?)■■
何もない空間に、意識だけが漂っている。■■
自分の体も、それ以外の誰かも見えないが、ここは……。■■
(夢の中……。
私も、寝ちゃったんだ)■■
エリオットの下になりながら。
あの体重を受け止めながら、よく眠れたものだ。■■
(緊張が解けて、気が緩んだのかしら)■■
「……ナイトメア?」■■
この空間でよく会う夢魔を呼んでみる。
しばらく間が空いた後、声だけがどこからともなく聞こえた。■■
【???・ナイトメア】
「はは……、こんなときだというのに私を探してくれるのか?」■■
嬉しそうだが、呆れてもいるように聞こえる。■■
「?
なに、こんなときって」■■
「というか……、どうして出てこないの?」■■
【???・ナイトメア】
「無粋なことはやめておこうかと思ってね。
……『こんなとき』だろう、男の腕の中で眠りながら、夢の中で他の男と会うなんて」■■
「っ!?」■■
「な、なんでそれを……っ」■■
どうして、夢の外でどんな状態でいるかを知られているのか。■■
【???・ナイトメア】
「そんなものは、君の心を覗けばすぐに分かることだよ」■■
「……姿も見えないのに心だけは読めるなんて、反則よ」■■
いや、読まれるだけで充分反則だ。
外での状態を思い返すと、顔が熱くなってくる。■■
見られていなくても、見られているのと同じ。■■
「出てきなさいよ!」■■
恥ずかしいが、顔を見て文句も言いたい。
しかし、夢魔は出てこようとはしなかった。■■
【???・ナイトメア】
「いや、今回はやめておくよ。
君が呼ばなければそのつもりはなかったんだ……、その代わり……」■■
「???」■■
【???・ナイトメア】
「君も疲れているんだろう。
ちょっとしたサービスだ……、気持ちよく休んでくれ」■■
ナイトメアの声がそう告げたと同時に、周囲の風景が変わる。■■
オレンジ色の部屋
新ell_08_01 「【大】!?【大】
な、なにこれっ!!?」■■
広い部屋は、どこもかしこもオレンジ色だ。
壁も、絨毯も、カーテンも。■■
壁にはにんじんの絵を飾った額が掛けられ(何を訴える絵なんだろう。描く画家の気が知れない)、ランプやソファはにんじんの形をしている。■■
テーブルの上の花瓶にはにんじんの花が活けられていた。
そして私は、大きなベッドの上にいる。■■
いや……、これも普通のベッドではない。
木枠の上のマットのある部分は中が窪んでいて、そこに柔らかなぬいぐるみのようなものが敷き詰められていた。■■
(【大】にんじんまみれ【大】……)■■
真綿とフェルトで作られた、にんじんのミニクッションのようなものが、いくつも。
そこで私を抱いて眠るエリオットと、抱き込まれて身動きができなくなっている私。■■
【エリオット】
「すーすー……、むにゃ……。
にんじん……、山ほど食える……、じゅる……っ」■■
(エリオットったら。
夢の中でまでにんじんを食べているわけ?)■■
(…………。
……【大】じゃなくて【大】)■■
「ナイトメアっ!
なんなのよ、これはっ!?」■■
にんじん尽くしのオレンジ色の部屋。
私が夢にみるわけはないし、タイミング的にナイトメアの仕業に決まっている。■■
しかも、エリオットまでいるのはどういうことか。
夢の外と同じ体勢で抱き込まれ、にんじん(作り物)に埋もれるなんて耐え難い。■■
【???・ナイトメア】
「やれやれ、眠りを楽しんでくれと言っているのに。
……だから、サービスだよ」■■
「これのどこがサービスなのよ!?
おかしな××××プレイでしかないじゃないのっ」■■
【???・ナイトメア】
「……女性がそんな言葉を口にするものじゃないぞ。
どこがだ?いいだろう、夢の中でまで一緒に眠れて」■■
「よくないっ!!」■■
【???・ナイトメア】
「大きな声を出すな。
三月ウサギが起きてしまうぞ?」■■
「私が今すぐ起きたいわよっ」■■
にんじんで埋め尽くされたベッド(というより、子供用遊戯施設のボールプールの中にいる気分だ)は、体は痛くない。■■
だが、とても気持ちよく眠れる環境ではない。
エリオットがいることについては現実と同じなので、重いだけでもう慣れたが……。■■
【エリオット】
「ん……、むにゃ……。
はは、そうだろブラッド……、それ、うまいだろ……」■■
【エリオット】
「俺が大好きな店で買ってきたにんじんスコーンだからな……。
気に入ってくれて嬉しいぜ……」■■
現実では絶対にありえない寝言を言いながら、エリオットが身じろぎする。■■
「夢とはいえ、ブラッドが聞いたら間違いなく殴られているわよ、あんた……」■■
それにしても、夢の中で眠っていてさらに夢をみているなんて、変な状態だ。■■
【エリオット】
「ブラッド、【主人公の名前】、これも食おうぜ。
新作のにんじんクレープだってさ……、うまそうじゃねぇ……?」■■
「【大】遠慮するわ【大】」■■
【エリオット】
「えー、なんでだよ。
絶対うまいと思って全員分買ってきたんだぜ~……?」■■
【エリオット】
「【主人公の名前】、ほら、あんたの分……。
遠慮しないでいいから……って……、あれ……?」■■
「……あ」■■
うっかりいつもの癖で寝言に答えたら、反応したエリオットが起きてしまった。■■
【エリオット】
「??」■■
【エリオット】
「???」■■
至近距離でまず私を見て、次に自分達のいるベッド(?)を見て、最後に周囲の部屋の様子を見る。■■
【エリオット】
「ここはどこだ!?
【大】天国か!?【大】」■■
「【大】そんなわけないだろ【大】」■■
こんなオレンジ尽くしの部屋が天国だなんて、冗談じゃない。■■
(エリオットにとっちゃ、まさに天国……というかパラダイスなんだろうけど)■■
【エリオット】
「そ、そうか……?
けど、なんで俺達、こんなところにいるんだ?」■■
【エリオット】
「俺、自分の部屋であんたと寝てたはずだよな……???」■■
(……?
やけに反応がリアルね)■■
これは夢の中のエリオットなのに、本物のようだ。
ナイトメアが凝っていると言うべきなのだろうか。■■
【???・ナイトメア】
「ふふふ……」■■
オレンジの空間に、声だけが響く。
だが、エリオットには聞こえていない様子。■■
【エリオット】
「起きたらこんな部屋って……、これ、夢か?
何がなんだかわけが分からねえ」■■
「正解よ。
これ、夢だから」■■
【エリオット】
「え?あ……、やっぱ夢なのか。
そっか、そうだよな……、夢でなきゃこんな天国みたいな部屋、ねえよな」■■
「重ねて言うけど、ちっとも天国っぽくはないけどね」■■
【エリオット】
「ん……、まあ、そうかもな。
全部作りもんだし、食欲刺激されるだけ刺激されてお預けだと思うとある意味……」■■
自分の体を包むにんじんのひとつを指で突きながら言うエリオット。
声は、まだ少し眠そうだ。■■
【エリオット】
「……夢なら、もう一回寝るか。
ふああ……」■■
「……そうね。
夢だし」■■
ナイトメアは出てくる気がないらしい。
自分で目を覚ますまでは、この夢に付き合うしかなさそうだ。■■
【???・ナイトメア】
「そう、とっておきの夢だ。
二人で休んで、この夢を楽しんでくれ」■■
また、声だけ。■■
(あんたねえ……。
面白がっているでしょ……)■■
(次会ったとき、覚えていなさいよね)■■
私が覚えていれば、だが。
ナイトメアと会った夢は、忘れたり細かい部分が曖昧になってしまう場合もある。■■
【エリオット】
「【主人公の名前】、寝ようぜ。
俺、すっごくいい夢見てたんだよ……、って、これも夢なのにおかしな気分だけど」■■
「私は先刻からずっとおかしな気分だけど……」■■
「……そうね。
寝ましょう」■■
やわらかなにんじんと、エリオットに包まれて。■■
ある意味、本来のエリオットの部屋より彼らしい空間で、眠気に身を任せる。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・廊下
エリオットが起きるのを待っているだけのつもりが、うっかり自分も眠ってしまった。■■
ほぼ同時に目覚めたとき、エリオットが妙に嬉しそうな顔で……。
いい夢でもみたのだろうか。■■
(私も何か夢をみていた気がするな……)■■
思い出そうとすると、目の奥でオレンジ色がちらつく。
エリオットがいたような気がするが、思い出せない。■■
(……まあいいか)■■
特に悪い夢ではなかったように思う。■■
エリオットの部屋を出るとき、ドアを見て唖然とした。
一眠りして、双子に攻撃されたことをうっかり忘れかけていた。■■
ドアは、外側から見ると半壊状態になっている。
くっきり残る斧の跡。■■
内側まで達するかどうかのところで傷は止まっているが、壊れてしまってもおかしくないほど深い。■■
「……ドアを交換しなきゃね」■■
勝手に直るにしても時間が掛かりそうだ。
あと一蹴りでもすれば壊れそうなこの状況では、不用心だろう。■■
【エリオット】
「修理代は、クソガキ共の給料から引いてやる……」■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここから↓
【【【時間経過】】】
ナイトメアの夢
【【【演出】】】……異次元に飛ぶような音
nai3 「飛んでいる……」■■
何度も繰り返した、夢の中の逢瀬。■■
いよいよ夢らしいことに、私は空を飛んでいた。
夢の中の夢なので、さっぱり現実感がない。■■
かなりのスピードだが、怖くなかった。■■
【ナイトメア】
「げほごほ、ごほ……っ」■■
「…………」■■
現実感のあることといえば、飛んでいてもナイトメアの具合が悪そうなことくらいだ。■■
「ねえ、無理を言って悪かったわ。
そろそろ、下ろしてくれて構わないわよ?」■■
宙を浮かべるナイトメアを見ていて、私も空を飛びたくなったのだ。■■
【ナイトメア】
「ぐ……。
い、いや……、平気だ……」■■
「それより、楽しいか……?」■■
「楽しいけど……」■■
【大】いつ落とされるかと、気が気じゃない。【大】■■
【ナイトメア】
「ここは、どこも同じ光景だ。
飛んでも、景色に面白みがないだろう?」■■
「そうね……。
それは、ちょっと残念だわ」■■
【大】そんなことより、いつ落とされるかと(略)。【大】■■
「……ナイトメアは、ここにずっと住んでいるの?」■■
【ナイトメア】
「ああ」■■
(何か訳でもあるのだろうか……)■■
「……一人で?」■■
【ナイトメア】
「そうだ。
だが、ここは世界の境目だ。
いろんな人間がここに来る」■■
「私は姿を現すことも現さないこともあるが……退屈しないよ」■■
「そうなんだ……。
閉じ込められているの?」■■
【ナイトメア】
「?」■■
「いや?
いつでも自由に外に出られるぞ」■■
「君がここに来るのに苦労しないように、出ることも簡単だ」■■
「…………」■■
「……じゃあ、なんで出ないの?」■■
【ナイトメア】
「面倒だから」■■
「…………」■■
(……こいつに、暗い背後関係を求めた私が馬鹿だったわ)■■
【ナイトメア】
「うう……。気分が悪い……。
ううう……」■■
「吐きそう……。
吐く……」■■
「はいはいはい、もういいから下ろして……」■■
(どうしようもない人だなあ……)■■
【ナイトメア】
「うう……。
ふぐ……っ」■■
怪しい呻きを発し続けながら、ナイトメアは前進から下降へと動きを変える。■■
よれよれと地面(?)に降り立つと、青白い顔でふらりとよろめいた。■■
【ナイトメア】
「う……っ。
かはっ」■■
【【【演出】】】・・・血を吐く音
血を吐く。
手で押さえても、指の間からたら~、と血が垂れている。■■
「また……」■■
(見慣れてきている自分が嫌だわ……)■■
吐血する光景になんて、慣れたくない。■■
「しっかりしなさいよ……」■■
背中をさすってやる。
ナイトメアが落ち着くまで、しばらくそうしていた。■■
【【【時間経過】】】
【ナイトメア】
「うう……。
もう大丈夫だ、ありがとう」■■
具合の戻ったナイトメアは、俯いていた顔を上げ、額に汗でも浮いたのか手で拭う。
その顔を見ていて、ふと思った。■■
「あなた、いつもそれをつけているわよね」■■
【ナイトメア】
「……?」■■
【ナイトメア】
「それ?
何のことだ?」■■
「眼帯よ」■■
【ナイトメア】
「眼帯?」■■
「そう、どうして眼帯なんてしているの?」■■
今更だが、気に掛かってくる。■■
(こんなに体調も悪いんだし……、目に障害でもあるの?)■■
【ナイトメア】
「どうして、って……」■■
「……どうして、私なんかに興味を持つんだ?」■■
「どうしてって……」■■
それこそ、どうして、だ。■■
「気にしちゃいけない?」■■
【ナイトメア】
「いけなくはないが……。
私なんかに興味を持っても意味がない」■■
「…………」■■
「なんだか……、この世界の人はよくそういうことを言うわね。
意味がないとか……」■■
「私も根暗なほうだけど、自分を卑下しすぎるのってよくないと思うわよ」■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「目は正常だ。
だが、私は常に片目を閉じていなければならない」■■
「……え?
目が悪いわけじゃなかったんだ?」■■
【ナイトメア】
「ああ、傷を負ったりもしていない。
はずしてみるか?」■■
からかうように問われた。■■
「じゃあ、失礼して……」■■
【ナイトメア】
「え?
本当にはずすのか?」■■
「はずしていいって言ったじゃない」■■
【ナイトメア】
「言ったが、本気で……」■■
「男に二言はない」■■
【ナイトメア】
「…………」■■
「はあ……」■■
「……いいぞ。
ただし、目は開けないよ」■■
「……?」■■
「怪我をしているわけじゃないんでしょう?」■■
【ナイトメア】
「それでも、駄目だ」■■
「???」■■
nai4_2a_and5_1 よく分からないが、とりあえず外していい許可は下りた。
そっと手を伸ばし、ゆっくりと眼帯をはずす。■■
はずしても、宣言した通り、ナイトメアは堅く目を閉じている。■■
「…………」■■
「どうして、片目を開けないの?」■■
ナイトメアは、整った顔立ちをしていた。
眼帯をつけていなければ、ごく普通の綺麗な青年だ。■■
……服は普通じゃないが。(だが、そんなの、この世界の全員がそうだ)■■
【ナイトメア】
「役割なんだ。
ずっと、片目を閉じて、開かない」■■
「?」■■
【ナイトメア】
「そういう数字なんだよ、私は」■■
「???」■■
(ファッションなのかしら……)■■
(この世界って、独自のファッション感覚で……対応に困る)■■
【【【時間経過】】】

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