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マザーグースの秘密の館

『ツェザーリ(学者)ルート ■ツェザーリ03』

■ 全問正解イベント3

【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【ツェザーリ】
「全問正解、よくやったな。
君はなかなか頑張っている、エリカ」■■
「……ありがとう。
満点10回までは、まだまだ遠い道のりだけど……」■■
(そう……、遠すぎるほどに)■■
【ツェザーリ】
「千里の道も一歩から、という言葉があるだろう。
君はもう3歩も進んだ上に、目標とするのは10歩だ」■■
「あと7歩ぐらい、あっというまだろう」■■
「……だといいんだけれど」■■
(建設的ですこと……)■■
当事者としては、まだまだ遠く果てしない。■■
「ね、今日も何か息抜きに付き合わせてくれるの?」■■
【ツェザーリ】
「そうだな……。
最近は、外どころか、しばらく部屋にこもりっぱなしで陽の光を浴びていない」■■
「そ、それは……」■■
【ツェザーリ】
「息抜きをかねて庭に出ようと思うが、どうする?
付き合ってくれるか?」■■
「ええ、もちろん。
私の息抜きがなくても、あなた、もっと外へ出たほうがいいわよ」■■
【【【時間経過】】】
◆グース夫人の館の庭。
◆イングリッシュガーデンといった形で、色とりどりの花が咲いている。
◆主人公が案内されるのはその一角。
ツェザーリと一緒に、庭へ出た。
きちんと手入れがされているのか、庭は綺麗に整っている。■■
【ツェザーリ】
「うーむ……。
……はあ、陽が気持ちいいな」■■
大きく伸びをして、ツェザーリがぼんやりとした口調で言う。■■
(……もしかしたら、寝てもいないのかしら)■■
外に出ず、寝不足でもあるとは。
……不健康すぎる。■■
「人間は陽を浴びて生きるものよ。
あなた、部屋にこもってばかりいたら、そのうちにコケが生えるわよ」■■
【ツェザーリ】
「カビが人間に寄生することがあるのは聞いたことがある……。
皮膚や頭皮、中には肺の中で繁殖して、病の原因になる種類もあるらしい」■■
「しかし、コケが人間に生えたという話は聞いたことがない。
ふむ……、コケが生えた男として伝説になるのは悪くはないな」■■
「【大】悪いわよ【大】」■■
そんな会話を交わしながら、庭を散策する。■■
(あら……?)■■
ふと、周囲とは少し様子の違う一角に気付いた。
他は草花が多く植えられている中、このあたりだけ花をつけていない。■■
「これ……、雑草じゃないわよね?
わざわざ植えているって感じがするもの」■■
【ツェザーリ】
「ああ、そこはハーブ園だ。
そこだけはバッカスが世話をしているようだな」■■
「ハーブ?
ああ、料理に使うからなのね」■■
【ツェザーリ】
「ほら……、これなんかは匂いだけですぐに正体がわかる。
嗅いでみるといい」■■
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屈みこんだツェザーリに合わせて、私もその隣に屈んだ。
ぶつっと千切った葉を、鼻先に持ってこられる。■■
「……あ。
この匂い、ミント?」■■
【ツェザーリ】
「ああ、そうだ。
ハーブの代表格としてあげられることの多いこのミントだが……、元々は冥府のほとりに住む妖精だったという話を知っているか?」■■
「いえ、知らないわ。
聞かせてくれる?」■■
【ツェザーリ】
「冥府の王ハデスは、かつて地上で一目惚れした相手、女神ペルセフォネを無理矢理攫って花嫁にした経歴の持ち主だ」■■
「……誘拐を犯罪だと思っていないのは、ここの人との共通点みたいね」■■
【ツェザーリ】
「……誘拐は、神々のお家芸だからな。
非現実的というなら、私達も大差ない」■■
(……流した)■■
【ツェザーリ】
「そんなわけで、かなり強引に花嫁にされてしまったペルセフォネではあるのだが、実は彼女もハデスをそれなりに愛していたことがわかる」■■
「そのエピソードが、妖精メンテーの話なんだ」■■
「……釈然としないけど、続けて」■■
【ツェザーリ】
「他の神々と違い、ほとんど浮気に関する伝承のないハデスなんだが……。
一度だけ、冥府の川のほとりに住む妖精、メンテーの美しさに心を奪われてしまう」■■
「それを知ったペルセフォネは嫉妬に狂い、メンテーを踏みにじり、おまえなんて雑草になってしまえと呪いをかけるんだ」■■
「そ……、その人もその人で乱暴ね。
神話にはそういうの多いけど……」■■
【ツェザーリ】
「その結果、妖精メンテーは雑草に姿を変えてしまう。
それを哀れんだハデスは、せめてもと芳香をメンテーへと与え、今の香りいいハーブとしてのミントが生まれたわけだ」■■
「【大】諸悪の根源が何やっているのよ【大】」■■
「ハデスが浮気心を起こしたから、ペルセフォネが怒ってメンテーを雑草に変えちゃったわけでしょう?
それならハデスは、雑草にいい匂いをつけている場合じゃないわよ」■■
「ペルセフォネに土下座でも何でもして、メンテーを妖精に戻してあげるのが筋ってものだわ」■■
【ツェザーリ】
「……理屈としては正しいし、それに関しては私も同感なんだが。
相手は我侭な神様だからな……、道理は通用しない」■■
「とにかく、そこまで嫉妬するわけだから、ペルセフォネも彼女なりにハデスを愛していたことが分かるだろう?」■■
「わ、分かるけど無茶苦茶だわ……。
誘拐されて、ふっきれちゃったのかしら……」■■
【ツェザーリ】
「ちなみに、この話にはもう一説あってな。
私は、こっちのほうが好きだ」■■
「どんなものなの?
そっちだと救いがあるの?」■■
【ツェザーリ】
「ああ。
こちらの説では、ハデスが地上に出た折に、美しい妖精メンテーに目をつけるんだ」■■
「……場所が違うけど、大筋としては一緒よね?」■■
【ツェザーリ】
「そうだな。
だが、ペルセフォネの反応が違う」■■
「こちらの伝説の中のベルセフォネは、ハデスに目をつけられたメンテーに同情するんだ。
彼女自身、地上から無理矢理に攫われて地下へとくだっているから……」■■
「それでペルセフォネは、メンテーをハデスの目から隠すために草へと姿を変えさせ、繁みの中に逃がしてやったのだと言われている」■■
「そのおかげで、ミントは今も陽の下にあるというわけだ」■■
「……私も、こっちのほうが好きだわ。
誘拐された上、夫の浮気相手を踏みつけて呪いをかけるペルセフォネなんて怖すぎるもの」■■
非常にどろどろとした情愛を想像してしまう。
本当は、そちらこそ人間の本質なのかもしれないが……。■■
【ツェザーリ】
「そうだな。
私も、こちらの話のほうが好きだ」■■
「……さて、このミントを摘んで帰って、バッカスにグラスホッパーでも作ってもらうとするか。
眠気も飛ぶ」■■
「グラスホッパー?」■■
【ツェザーリ】
「ミントの葉と、バニラアイスをミキサーでシェイクした飲み物だよ。
すっきりとして甘すぎず、飲みやすい」■■
「君も飲むだろう?」■■
「ええ、是非」■■
二人して、元は妖精だったのだというミントを摘んで、館へと戻った。■■
(……次に満点をとったら、どんな話を聞かせてもらえるのかしら)■■
私も、状況的には誘拐されたに近い。
だが、どろどろした感情などはわいてこない。■■
指先には、ミントの清涼感溢れる香りが残る。■■
【【【時間経過】】】