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マザーグースの秘密の館

『ツェザーリ(学者)ルート ■ツェザーリ01』

■ 全問正解イベント1

【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【ツェザーリ】
「よし、全問正解したな。
おめでとう、エリカ」■■
「よくやったな……。
君がこれだけ私について知っているとは思わなかった」■■
(知っていたというか、無理やり知らされたというか……)■■
途中で何度も資料を見ながら、なんとか正解を連続させたのだ。■■
「……ありがとう。
ねえ、これで私は帰してもらえるのよね?」■■
「約束したとおり、全問正解したんだから」■■
【ツェザーリ】
「…………」■■
「……いや、まだ不充分だ。
君はまだ私について、たった10個の事柄しか理解していない」■■
「えええ!?
クイズに合格したら、帰してやるって言っていたじゃないの!」■■
【ツェザーリ】
「よく思い出してほしい。
私達が出した条件は、『私達が満足するまで君が試験に合格したら』、だ」■■
(えええ……?)■■
つまり、気分次第ということではないか。
言質をとらねば、いくらでも引き延ばされそうだ。■■
「そ、それなら……、一体後何度合格したら、満足してくれるのよ!?」■■
【ツェザーリ】
「……そうだな。
後9回は、合格してもらいたいな」■■
「【大】あと9回も!?【大】」■■
冗談ではない。■■
だが……、ツェザーリも冗談を言っているふうには見えない。■■
【ツェザーリ】
「私達の望みは、君に私達を理解してもらうことだ。
100問正解したら……というのは、妥当な数字だろう」■■
「…………」■■
【ツェザーリ】
「ふむ……、10点での満点10回というのでは不満そうだな。
それならば、最初から100点満点の試験を出し、満点をとるまで帰さないと言ったほうがよかったか?」■■
「【大】更に、ハードルが上がっているじゃない!【大】」■■
【ツェザーリ】
「ああ、10点満点に小分けにした試験を10回繰り返したほうが、君にとっても難易度は下がると思うんだがな」■■
「それは、そうだけれど……。
……それでも、合計100点をとらなきゃ帰れないなんて、気が遠くなりそうだわ」■■
(帰れないというか、帰してもらえないというか……)■■
なんというか……、頭痛がしてくる。■■
【ツェザーリ】
「疲れているようだな。
……それなら気分転換に、私の研究室に招待しよう」■■
「……それ、【大】気分転換になるの?【大】」■■
大体、疲れているのは、ツェザーリのせいだ。
労わってくれるのなら、問題数を減らしてほしい。■■
(研究室が気分転換だなんて……。
これ以上、勉強はしたくないわよ)■■
「ねえ……?
ちょっと!?」■■
聞き返した先で、ツェザーリはもう歩き出していた。
私がついてくるかどうかなど、どうでもいいといった素振りだ。■■
(……どうしようかな)■■
ついていくかどうか、迷う。■■
疲れているが、それは精神的なもの。
他にすることがあるというわけでもない。■■
「待ってよ、ツェザーリ!」■■
小走りになりつつ、ずんずんと歩いていく長身を追いかけた。■■
【【【時間経過】】】
◆ツェザーリの研究室。
◆壁が書架になっており、大量の本がぎっちりと並べてある。書庫といったイメージ。
案内されたのは、館の中にある彼の研究室だった。
壁という壁は書架になっていて、どっしりと広い机の上にもたくさんの本や書類が積んである。■■
「本がたくさん置いてあるのね。
……意外だわ」■■
【ツェザーリ】
「学者だと言っただろう?
信じていなかったのか?」■■
「違うわよ。
なんとなく、学者といったら理系の研究者のイメージがあったの」■■
「研究室っていうからには、きっと実験道具や謎の薬品の類があるんだろうなって。
そんな想像を膨らませていたの」■■
【ツェザーリ】
「そういうことか、ありがちな予想図だな……。
……残念だが、私の専門は神話を中心とした宗教学だ」■■
(ありがちで悪かったわね……)■■
「神話を中心とした……、宗教学?」■■
【ツェザーリ】
「そうだ。
主にギリシャ神話の歴史や、それに纏わる文献の研究をしている」■■
「ギリシャ神話の研究……?」■■
【ツェザーリ】
「ああ。
……なんだ?もの言いたげだな?」■■
「え~と……」■■
「あのね、気を悪くしたらごめんなさい。
ただ純粋に分からないから聞くんだけど、それを調べてどうするの?」■■
「ギリシャ神話から何か教えを読みとるってことなの?」■■
【ツェザーリ】
「……ふむ。
基礎知識がなければ、宗教学というのがどういうものなのかをイメージするのも難しいだろう」■■
「む……」■■
いちいち、癪に障る言い方をする男だ。■■
【ツェザーリ】
「そうだな。
例えば……、君はダフネを知っているか?」■■
(ダフネ?)■■
「いいえ、聞いたことないわ」■■
【ツェザーリ】
「ダフネというのは、月桂樹の別名だ。
月桂樹なら、君も知っているだろう?」■■
「ええ、月桂樹なら。
オリンピックなんかの大会で、優勝者に贈られる冠が月桂樹で出来ているわよね?」■■
【ツェザーリ】
「ああ、その通りだ。
それを月桂冠と呼ぶのだが、月桂冠は優れたスポーツ選手だけでなく、優れた詩人にも与えられる」■■
「詩人に?
スポーツだけだと思っていたわ」■■
【ツェザーリ】
「その月桂冠を贈られた詩人をさす言葉で、桂冠詩人という言葉があるぐらいだからな。
文武両方で各々優れた人間が冠する名誉だ」■■
「月桂樹という植物が特別であることが分かるだろう?」■■
「ええ、スポーツにしろ詩人にしろ、いい成績を収めたものにその冠が与えられるなら、栄誉の象徴ともいえるわね」■■
【ツェザーリ】
「それがどうして月桂樹なのか、知りたいとは思わないか?
何故他の植物ではなく、月桂樹なのか」■■
「何か理由があるの?
たまたま誰かが使い始めたとかそういう理由でなく?」■■
【ツェザーリ】
「研究内容を前置きしてから話題に選ぶくらいだ、想像がつくだろう。
その理由は、神話に由来する」■■
(神話なんて、馴染みがないけど……)■■
ギリシャ神話の歴史や、それに纏わる文献の研究をしている。
そう前置きされたので、自然な流れだった。■■
【ツェザーリ】
「ギリシャ神話に、アポロンという神がいる。
アポロンは武芸に秀でた青年の姿をした神だったんだが、その中でも弓が得意でな」■■
「一方、同じく弓を使う神でも、エロスは子供の姿をしていた。
外見から、アポロンはエロスをからかって、おまえのような子供に弓が使えるわけがないと馬鹿にしたんだ」■■
「そこでエロスは……。
ああそうか、君にはローマ神話での名前であるキューピッドと言った方が分かりやすいか?」■■
「ええ、キューピッドのほうが馴染みのある名前ね」■■
「キューピッドは怒ったでしょうね。
天使みたいなイメージだけど、神様だもの」■■
【ツェザーリ】
「ああ、怒った。
そこでキューピッドは、自分の持つ矢の威力をアポロンに思い知らせることにしたんだ」■■
「キューピッドの持つ金の矢には、人を好きにさせる力がある。
鉛の矢はその逆、人を嫌いにさせる力があった」■■
「キューピッドは金の矢をアポロンの胸に打ち込み、そして美しい河の神の娘・ダフネの胸には鉛の矢を打ち込んだ」■■
「結果としてアポロンはダフネに恋焦がれ、熱烈に口説くものの、ダフネはアポロンを毛嫌いするという状況に陥ってしまったんだ」■■
「それ……、ダフネは完全な被害者じゃない。
何も悪くないのに、巻き込まれて」■■
「その後、どうなるの?
このままじゃ、ダフネが可哀相だわ」■■
【ツェザーリ】
「想いの募ったアポロンは、ダフネを力づくででも手に入れようと思い詰める。
だが、ダフネは父なる河の神に助けを求め……、月桂樹へと姿を変えた」■■
「ええ?
結局、ダフネは救われないの?」■■
アポロンから逃げられたのはよかったのかもしれないが、植物になるのがハッピーエンドとは思えない。■■
【ツェザーリ】
「ああ、救われない。
そのかわり、アポロンは月桂樹の枝で冠を作り、その永遠の愛の証として身につけ続けているんだ」■■
「……酷い話だわ。
でも、それがどうして栄誉の冠に繋がるの?」■■
【ツェザーリ】
「いろいろ説があるな。
アポロンが、ダフネの美しさを永遠に称えるために、優れた人間の頭上に月桂冠を捧げよと言ったという話も伝わっているし……」■■
「また、月桂樹へと姿を変えてしまったダフネの前にアポロンが跪き、せめて私の聖樹になってほしいと懇願したのをダフネが聞き届け、その頭に月桂樹の葉を落としたという説もある」■■
「それにちなんで、優れた人間に月桂冠を捧げるようになったという話だ。
……後者のほうが救いがあるな」■■
「ダフネがアポロンを許したのなら、まあ……」■■
「…………」■■
「……それにしても、迷惑な話ね」■■
「大体、アポロンもアポロンだけど、キューピッドも子供っぽすぎるわ。
子供って言われるのが嫌なら、もっと大人の対応をすればいいのに……」■■
【ツェザーリ】
「ふ……」■■
「……!」■■
(は……っ!)■■
ツェザーリに軽く笑われて、自分の熱の入りように気がついた。■■
「……神話なんて創作された物語なのに、ムキになっちゃった」■■
【ツェザーリ】
「いや……、興味を持ってもらえたのならよかった」■■
彼は笑っているが、馬鹿にするようなものではなかった。■■
悪い感じの笑い方ではない。
それこそ、先刻の話ではないが、こんなふうにアポロンが笑ったのならキューピッドも怒らなかっただろう。■■
(なんだか、この人……。
意外と、感じがいい……)■■
【ツェザーリ】
「このように、現代に伝わる風習の由来を遡って神話に行き着く例はたくさんある。
面白いと思わないか?」■■
「……な、なるほど。
身近なものに繋がっているなら、面白そうね」■■
【ツェザーリ】
「だろう?
満点をとったら、また息抜きがわりに話してあげよう」■■
(神話もだけど……)■■
自分の好きなものを語るせいなのか。
先刻までより、ツェザーリが好印象に見えるのが面白い。■■
(……たしかに、息抜きにはなりそうね)■■
【【【時間経過】】】