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マザーグースの秘密の館

『アーサー(貴族)ルート ■アーサー10(終)』

■ 全問正解イベント10

【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【アーサー】
「全問正解おめでとう、エリカ。
ついに10回目だ!」■■
「最初の頃は、私のことを何も知らなかった君なのにね……。
今では、こんなにも私のことを理解してくれている」■■
「……そんなこと、ないわ。
私、まだまだ、あなたのこと全然知らない」■■
【アーサー】
「全然知らないままで、満点を10回もとれないよ。
……知らないなんて、いわないでくれ」■■
「でも……っ」■■
【アーサー】
「エリカ……。
今日が最後だというのに、君がそんな顔をしていては私まで悲しくなってしまう」■■
「だって……、今日が最後だなんて」■■
【アーサー】
「君は、根気よく頑張ってくれたからね。
今日こそは本当のご褒美をあげなくては」■■
「……君を、元の世界に帰してあげるよ。
そのために、今日は特別な用意をしてきたんだ」■■
(そんなこと言われても……、素直に喜べない)■■
(もう、会えないなんて)■■
彼は本の中の人物で、私は元の世界に帰らなければいけない。
それは最初からわかっていたはずだった。■■
(いや、わかっていたも何も……。
帰る気だったし、最初は意識もしていなかったし……)■■
今はもう、無関心ではいられない。
別れたくないと思ってしまっている。■■
(でも、帰らないといけないのよね)■■
(…………)■■
(……当然だけど)■■
ここは、本の中。
私は帰るためにクイズに挑戦していたのだ。■■
「…………」■■
「……特別な用意って、何かしら」■■
目的を達成したはずなのに、重苦しいばかり。
何を用意されていようと、浮上させてくれるほどのものではない気がした。■■
【アーサー】
「それは……、後でのお楽しみ」■■
「それでは、今日も散歩に出かけようか。
その前に、門の前で少し待っていてくれるかな?」■■
「……?」■■
(わざわざ、時間をずらして待ち合わせ?
最後だから、特別なのかしら)■■
いつもとは違う。
そのことが、最後だということを印象づける。■■
「……ええ、分かったわ。
それじゃあ、門の前で待っている」■■
ゆっくりと、歩き出す。
これが彼とする、最後の散歩だ。■■
【【【時間経過】】】
◆館の門の前。
◆館は二階建て程度の、古いイギリスのちょっと豪華な家、といった形。
豪邸、といった感じではない。
【アーサー】
「待たせたね」■■
門の前で待っていた私は、かけられた声にはっとして振り返った。■■
「!」■■
「わ……!
アーサーさん、その格好……」■■
【アーサー】
「君への、最後のご褒美だろう?
……気合を入れたくてね」■■
(最後……)■■
アーサーはいつもの格好ではなく、正装姿だ。
今日の服装は、まさしく貴族といった印象を受ける。■■
今日は特別なのだと、嫌でも分からされた。■■
(…………)■■
ゆっくりと歩き出す。■■
「……ねえ、アーサーさん。
その正装も英国風なの?」■■
【アーサー】
「うん?
どうしてそう思うのかな?」■■
「いえ、アーサーさんは英国式が好きでしょう?
だから、正装にも拘るのかなと思って」■■
【アーサー】
「そうだね、私が今着ている正装は英国式のモーニングコートだ。
式服、礼服、正装というスタイルは、英国式が広がったものなんだよ」■■
「え!?
そうなの?」■■
【アーサー】
「おや、意外そうだね」■■
「ええ。
ファッションに関しては、ヨーロッパならフランスというイメージがあって……」■■
「西洋のファッションブームは、そのほとんどがフランス発祥だったんでしょう?」■■
【アーサー】
「ああ、そうだとも。
実際それまでの正装というのは、フランス式のフリルを多くあしらったような派手なものが多かったようだね」■■
「けれど、英国では次第にフランス式のファッションをよくないと考える風潮が濃くなっていったんだ」■■
「それはどうして?
今まで散々、フランスのファッションを素晴らしいって真似をしてきたわけでしょう?」■■
【アーサー】
「政治的な問題があったんだよ。
英国とフランスの間で、覇権を巡って諍い事が起き始めたんだ」■■
「そうなると、喧嘩相手のファッションを真似て喜ぶなんていうのは、あまり体裁のいい話ではないだろう?
それで、次第に独自の英国式ファッションが生まれていくことになったんだよ」■■
「へえ……。
それが、このモーニングコートのスタイルなの?」■■
【アーサー】
「そうだね。
このモーニングコートや、逆にイブニングコートと呼ばれる燕尾服などだ」■■
「女性の場合は、アフタヌーンドレスとイブニングドレスというふうに言うよ。
モーニングドレスと言うと、喪服になってしまうから気をつけないといけない」■■
「モーニングコートに対応するのが、アフタヌーンドレスで、イブニングコートに対応するのがイブニングドレスなのね?」■■
【アーサー】
「ああ、そうだよ。
この正装にも、いろいろと歴史があってね」■■
「フランス式が華美に着飾ることをよしとしたファッションだったのに対して、英国式はひたすらに洗練を目指した」■■
「お国柄、ね。
うん……、そんなイメージだわ」■■
【アーサー】
「英国の伊達男、ジョージ=ブライアン=ブランメルという有名な人物がいるのだけれどね。
今の英国風のファッションの原型を作ったのは、彼だといってもいい」■■
「その彼の言葉に、こんなものがある。
なんでも、『紳士にとってもっとも恥ずかしいことは、着ているもので人目を惹くことなのだ』……」■■
「つ、痛烈ね。
世に溢れる目立ちたがりや達に、是非とも聞かせたいわ」■■
【アーサー】
「女性より目立つことがあってはならぬ。
男たる者、晴れの場では添え物であるべきだ……というような意味もあるらしいよ?」■■
「女性の引き立て役になってこその、紳士というわけだ。
黒地は、ドレスアップしている女性をより美しく見せるしね」■■
彼にエスコートされると、私も美しくなれたような気になる。■■
「それにしても、面白いわね。
フランス式の派手なファッションの次に流行ったのが、地味な英国風だったなんて」■■
【アーサー】
「派手さには欠けるかもしれないが、英国式ファッションはフランス式と同じぐらい価値のあるものだった」■■
「でも、派手な布地も、高価な宝石も、キラキラしたボタンだとかも使っていないでしょう?
個人的には、地味なものもいいと思うけど……」■■
【アーサー】
「フランス式が華やかさなら、英国式は機能美を誇った。
英国式の新しいファッションはね、素材が水洗いに向いていたんだ」■■
「……水洗いに?」■■
【アーサー】
「それこそ地味に聞こえるかもしれないけれど、当時、洗濯のしやすさというのはとても意味があることだった」■■
「かつてのフランスは、衛生面においては劣悪な環境におかれていてね。
彼らの華美な装飾は、その汚れをいかに打ち消し目立たなくするかというためのものでもあったんだ」■■
「ああ、それ、聞いたことあるわ。
香水も、お風呂に入れない分体臭を消すためのものだった、とか」■■
「……うう。
想像すると痒くなりそう……」■■
【アーサー】
「元を断つより隠すほうに重きをおいたわけだからね……。
不衛生ゆえに、伝染病も流行った」■■
「そんなフランスに対抗するという意味で、英国では、繰り返し何度でも洗えるシンプルなファッションが生まれていったんだ」■■
「清潔な体に、清潔な服を着ることこそが、ある種の贅沢であり、新しい形のファッションだったのだよ」■■
「……なるほど。
どこに価値を見出すのかがシフトしていったというわけなのね?」■■
「そのとおり。
ああ……、そろそろ教会についてしまうな」■■
「教会……?
教会に、何か用があるの?」■■
◆教会の前につく。
◆あまり派手な教会ではなく、村にある教会といったシンプルな教会。
【アーサー】
「……エリカ。
私が以前、君に贈るなら小ぶりの白薔薇の花束だといった話を覚えているかな」■■
「覚えているわ。
ふん……、私みたいな子供は恋愛するのに相応しくない、だったかしら?」■■
【アーサー】
「……悪くとりすぎだよ、意味が違う。
手折るには惜しいという……」■■
「……だが、私は考えを改めたんだ。
君に、正式に花を贈りたい」■■
【【【演出】】】・・・がさがさっと薔薇の花束を取り出す音
「……?」■■
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「!」■■
わざとらしく拗ねて見せた私に、アーサーは教会の繁みから魔法のように大輪の赤薔薇の花束を取り出して見せた。■■
「……っ!
それ、ここに用意して、隠しておいてあったの?」■■
周到だ。
特別な用意というのはこれのことだったのか。■■
【アーサー】
「君を驚かせたくてね。
真っ赤な薔薇の花言葉は……、『あなたを愛します』だ」■■
「赤薔薇の蕾には、『君へ尽くす』という意味が。
赤薔薇の葉には、『君の幸福を祈るとともに、君の美しさを称える』という意味がそれぞれあるのだよ」■■
「これを、私に……?」■■
【アーサー】
「ああ、君にだ。
私という存在を充分に理解し、なおかつそのために努力を惜しまなかった君を、心の底から愛しいと思うよ」■■
差し出された花束を受け取る。
何百年も前より、人の心を惹きつけて来たという薔薇の花の甘い香りが鼻先を掠めた。■■
(……いい、匂い)■■
甘いのに、胸の奥が締め付けられるようだ。■■
「…………」■■
「アーサーさん……。
私も、あなたのことが好きだわ」■■
(だから、辛い)■■
帰るのが、とても。■■
「最初は、家に帰るためだった。
でも、今は違う」■■
「あなたのことが知りたくて、あなたのご褒美が楽しみで、頑張っていたの。
だから……、今、帰れるとわかっても……」■■
(喜べない)■■
【アーサー】
「…………」■■
「……!」■■
がさりと、胸に抱えていた花束を押しつぶすようにして、アーサーは私を引き寄せた。■■
【アーサー】
「エリカ……」■■
「……っ」■■
ちゅ、と小さな音とともに、唇に柔らかな感触が触れる。■■
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【アーサー】
「君は……。
気持ちが通じ合ったというのに、どうして泣くのだろうね?」■■
「だって……、私はもう帰るし……っ。
そうしたら、もう会えないし、それに……」■■
うまくまとまらない言葉、
最後まで続けるより先に、くすりと彼の笑う声が耳に響いた。■■
【アーサー】
「ふふ……」■■
(……え?)■■
【アーサー】
「私がこんなお洒落をしてきたのは、君を見送るためだけだとでも思った?
見送るためだけに正装して、教会まで案内してきたと?」■■
「ち、違うの?」■■
別れの切なさとは、種類の違う何かよくわからない予感に、心臓がドキドキと高鳴り始めた。■■
【アーサー】
「10回も満点をとるという偉業をやりとげた君への、最後のご褒美を用意したんだ。
……受け取ってくれるかな」■■
「何を……?」■■
【アーサー】
「私自身を。
君に捧ぐから、受け取ってほしい」■■
(…………)■■
(…………)■■
(…………)■■
「【大】どうやって【大】」■■
つっこまざるをえない。
ここはそういう場面だ。■■
私はこれから、元の世界へと帰る。
そして、彼はこの世界に残る。■■
(……のよね?)■■
【アーサー】
「君がこちらに来ることが出来るのならば、私が君の世界に行くことも不可能ではないと思わないのか?」■■
「【大】え?【大】」■■
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【アーサー】
「いつまでも、君の傍にいると約束するよ、エリカ。
この場所で、君に誓う」■■
「えええ?」■■
この場所といわれて、はっとする。
私達がいるのは、教会の目の前だ。■■
私の腕の中には赤薔薇の花束があり、そして目の前の彼は正装姿。
絵に描いたような……、それこそ本に出てきそうな、プロポーズの光景。■■
「わ、私の世界についてくるって……!?
ど、どうやって!?というか、どうなるの!?」■■
戸籍だとか身分だとか、そういったものをどうするつもりでいるのだろうか。
こちらよりも、私の住む世界にはそういった制約が多い……、はずだ。■■
【アーサー】
「そんなことは、どうにでもなる。
だからね、エリカ」■■
私の心配事を、彼はあっさりと『そんなこと』と言い捨ててしまった。■■
【アーサー】
「君はおとなしく……、頷いてくれたらいい。
そうしたら……、すべて叶う」■■
「叶うって……。
何が……、どういうふうに?」■■
【アーサー】
「男というのは好きな女性のためになら奇跡が起こせてしまうんだよ」■■
さすが、英国紳士。
ファンタジーがお好きなようだ。■■
だが、自信たっぷりに言い切られてしまうと、どうにでもなるかという気になる。
どうにでもなれ、と。■■
本の世界に吸い込まれるなんていうのが、まずファンタジーなのだ。
実際、彼ならどうにでも出来そうだ。■■
(だから……)■■
(本の世界から夫を連れて帰るというのも、アリ……、なの?)■■
「……ご褒美、喜んで受け取らせてもらうわ」■■
【アーサー】
「ありがとう、エリカ!
必ず君を幸せにしてみせるよ」■■
(……どうやって?)■■
【アーサー】
「たまに、こっちの世界に戻らなくてはならないけど、そのときは一緒に出掛けてくれるよね?
私は、実は伯爵家の跡取りで……」■■
(伯爵家?
伯爵家の……?)■■
この男は、今、なんと言ったのか。■■
「そ……」■■
【アーサー】
「……んん?」■■
「そ、それ……って、アリなの?
本当に」■■
【アーサー】
「もちろんさ。
なんの問題もないよ、クイズはもう終わったんだ」■■
(クイズをするまでもなく……、ナシでしょう、それは)■■
いろいろと疑問は残る。
クイズを終えても、問題は山積みだ。■■
だが、彼は上機嫌。
なんとでもなりそうな、薔薇を抱えた教会前。■■
どんな奇跡でも起こせそうな、本の中。
別れなくてすむとわかった今ぐらいは、問題などに目を向けず、幸せに浸ってもいいのではないだろうか。■■
【アーサー】
「エリカ……」■■
再びそっと顔を寄せてくる彼に、目を閉じる。■■
【【【演出】】】・・・教会の鐘の音
唇が触れ合う瞬間、祝福するように教会の鐘が鳴るのを聞いた。■■
【【【時間経過】】】