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マザーグースの秘密の館

『アーサー(貴族)ルート ■アーサー08』

■全問正解イベント8

【【【時間経過】】】
◆クイズ時と同じ背景。クイズ終了後に、そのままイベントに入ります。
【アーサー】
「ありがとう、エリカ。
満点をとってくれたおかげで、またこうして君を誘うことが出来る」■■
お礼を言われるのも、複雑な気分だ。■■
(……私だって、望んで満点をとるようにしているんだもの)■■
知識は増えた。
だが、適当に答えて満点をとれるほどに完璧というわけではない。■■
【アーサー】
「こうして時間を過ごしたくて、私は君が正解してくれればと願っているけれど……。
今も君は、元の世界に帰りたい一心でテストに励んでいるのかな?」■■
「こんなふうに感じるのは身勝手だろうけど、もしそうなら、悲しいことだ……」■■
「そ、そんな……っ。
私だって、アーサーさんと過ごす時間はとても楽しんでいるわ」■■
「元の世界に帰りたいとは当然思っているけれど……。
それだけじゃなくて……」■■
【アーサー】
「…………」■■
「帰りたいとは思っているわけだね……?」■■
「え……?
まあ、それは、当然……」■■
【アーサー】
「そうか、当然、ね……。
当然のように、君は帰ってしまうわけだ」■■
「え、えっと……?」■■
【アーサー】
「…………」■■
「……はは、分かっているとも。
君は私との時間を楽しんでくれている」■■
「それを君自身の口から聞いてみたくて、ちょっと拗ねてみただけだよ。
さて、それじゃあ散歩に出かけるとしようか」■■
「……もしかしなくても、私のこと、からかっている?」■■
【アーサー】
「いやいや……。
君の言動に一喜一憂して……、振り回されているのは私のほうさ」■■
「え……」■■
【アーサー】
「ほらほら、行くよ」■■
「……もうっ」■■
【【【時間経過】】】
◆二人で歩いて公園までやってくる。
◆公園は芝生が広がり、所々に花壇が作られているような場所。
◆遊歩道はレンガ敷き。ベンチがぽつぽつと置いてある。
【【【演出】】】・・・二人の歩く足音
【アーサー】
「さて……。
この辺でいいかな」■■
「ここは……、公園?
いつもの散歩とは違うのね」■■
【アーサー】
「そろそろ、いつもと同じパターンでは飽きられてしまうのではないかと思ってね。
今日は少し、違ったことをしてみようかと」■■
「…………」■■
【【【演出】】】・・・ぽん、と水筒を叩く音
「水筒?」■■
【アーサー】
「ああ。
家で紅茶を淹れてきたんだよ」■■
「!
アーサーさんが、自分で淹れたの?」■■
【アーサー】
「そう、君のためにね。
さ、ほら……、ここのベンチに座って」■■
「ふふ、なんだか優越感……。
アーサーさん手ずから淹れた紅茶を飲めるなんて」■■
貴族である彼に紅茶を淹れてもらうだなんて、そうあることではないだろう。■■
(そうあることじゃないどころか……、ないわよね。
ないない……)■■
彼は貴族。
近付きすぎて、貴族だということは分かっていても、まったく構えなくなってしまっている。■■
「…………」■■
私は彼に促されるまま、ベンチへと腰掛けた。
その隣に彼も腰を下ろす。■■
◆公園のベンチに二人で座り、水筒から注いだミルクティを飲んでいる。
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【アーサー】
「はい、カップをどうぞ」■■
「ありがとう」■■
【【【演出】】】・・・こぽこぽ、と注ぐ音
「わあ……、いい匂い。
美味しそうなミルクティだわ」■■
【アーサー】
「私は、ミルクティ派なんだよ。
アイスで飲むならばレモンティやストレートも悪くないが、やはり暖かい紅茶はミルクティに限る」■■
「それも英国式のこだわり?
アーサーさんは『紳士』だものね」■■
(……前回ので、エセ紳士かもしれないとは思ったけど)■■
【アーサー】
「君もだいぶ私という男が分かってきたようだね。
そう、これも英国式だよ」■■
厭味を混ぜて茶化したのに、軽く返されてしまった。■■
【アーサー】
「英国では、もっぱらミルクティが愛飲されている。
さ、飲んでみて」■■
「……いただくわ」■■
【【【演出】】】・・・こくん、と飲む音
「……美味しい。
ミルクたっぷりで、まろやかだわ」■■
【アーサー】
「茶葉はウバを使っているんだ。
あれが一番ミルクティに合う……、私の勝手な持論だけどね」■■
「私もウバは好きよ。
あ、ねえ、ちょっと聞きたいんだけど……」■■
【アーサー】
「うん?
なんだろう?」■■
「あなたは、ミルクティを作るとき、ミルクが先?
それとも、ミルクは後?」■■
【アーサー】
「?」■■
「お店なんかだと、ストレートの紅茶が出てきて、後から自分でミルクを足してミルクティにするのが一般的だよね?」■■
「そうじゃなくて、自分でミルクティを作るときには、どうするかという話」■■
「ミルクにストレートティを注ぐ?
それとも、ストレートティにミルクを注ぐ?」■■
「本当に紅茶にうるさい人達は、ミルクが先か後かで本気の喧嘩が出来るという話を聞いたことがあって……」■■
【アーサー】
「ふ……、くくくくくく。
もしかして、それで誰かと揉めた経験でも?」■■
「いえ、私はそこまで紅茶にこだわりはないわ。
だから、美味しければそれでいいと思っちゃうんだけれど」■■
「アーサーさんにはこだわりがあるのかしらと思ったの。
……喧嘩したいわけじゃないわよ、念のため」■■
【アーサー】
「ふふ。
ミルクが先か後かで本気の喧嘩が出来る、か」■■
「喧嘩が出来る、という表現は面白いね。
紅茶の淹れ方で、そこまでムキになることが出来る忌憚のなさというのも、遠慮のない仲の証明だ」■■
「君とも、そういう関係になりたいものだけど……」■■
「……よしてよ。
紅茶で喧嘩なんかしたくないわ」■■
【アーサー】
「おや、つれないな。
……まあ、私達はまだ節度の必要な仲だからね」■■
「……紅茶の話は?」■■
この人といると、私も節度というものを忘れそうになる。■■
【アーサー】
「ああ、そうだねえ……。
正解かどうかは分からないけれど、このミルクティはミルクが後だね」■■
「へえ……。
それが正しいの?」■■
【アーサー】
「さて、どうだろう。
英国で正しい紅茶の飲み方と言われている『ゴールデンルール』では、ミルクは先に入れるべしと書いてあるね」■■
「……珍しい。
アーサーさんは、何でもイギリス式が好きなのかと思っていたわ」■■
【アーサー】
「こればっかりは家庭の味というか、習慣もあってなかなか……、ね。
それじゃあせっかくだ、今日はミルクティについて話すことにしようか」■■
「『ゴールデンルール』において、ミルクを先に入れるべしというのにも、ちゃんと理由があるんだよ。
手順だけの問題だと思っていないかな?」■■
「え?
手順の問題だけじゃないの?」■■
「私は、作法としてのルールのようなものだとばかり思っていたわ」■■
【アーサー】
「それが違うんだよ。
英国で飲まれている牛乳は低温殺菌でね」■■
「だから、後から紅茶にミルクを入れると、紅茶の熱でミルクの成分が変わってしまう。
そうすると、微妙な風味や味わいが損なわれてしまうわけだ」■■
「ああ、それでミルクを先に入れるべし……、となるわけなのね?」■■
【アーサー】
「そういうこと。
ただ、外国では牛乳を高温殺菌していることも多いからね」■■
「そうなってくると、それこそ手順の問題に過ぎない。
だから、私にはそれほど重大な問題であるようには感じられないね」■■
「実際、ミルクが後のこのミルクティも充分美味しいし……。
そうね、私もどちらでも問題ないと思うわ」■■
【アーサー】
「君が、私の淹れた紅茶を気に入ってくれてよかったよ。
……ああ、ついでにもう一つ、ミルクティに関するエピソードを紹介しよう」■■
「産業革命の頃の話なのだけれど……、その頃は地方から労働者が都市に殺到してね。
農業従事者がガクっと減ってしまったらしい」■■
「そうなると、ミルクが不足する。
英国の朝食にはミルクがつきものだというのに、そのミルクがないんだ」■■
「それは……、困るわね」■■
毎日の習慣が失われてしまう。■■
【アーサー】
「ああ、困るとも。
それで政府は、労働者達にミルクの代わりにミルクティを飲むことを奨励したんだ」■■
「まあ、ミルクだけを飲むより、ミルクの消費量が少なくてすむからね。
けれど、消費量を多少抑えたにしろ、それでもミルクは貴重品だ」■■
「だからね、労働者達は先にミルクの量をきっちりはかってから、紅茶を注ぐことにしたんだよ。
一方、裕福な貴族はそんなこと気にしなくてもいいから、ミルクを後から好きなだけ注いだ」■■
「つまり、ミルクを先に入れるのは労働者の作法で、ミルクを後から入れるのが貴族の作法だってこと?」■■
【アーサー】
「そういう説もある、という話だよ。
……別に私は見栄でミルクを後から入れているわけではないからね■■
「ふふ。
それなら私もアーサーさんを倣って、ミルクを後から注いで貴族気分を楽しんでみようかしら」■■
【アーサー】
「ああ、それならもっといい方法があるよ」■■
「もっといい方法?」■■
【アーサー】
「君が私の妻になれば、嫌でも貴族のご婦人だ。
貴族気分を充分に楽しめる」■■
「……っ。
そ、そのためだけに結婚しろと?」■■
【アーサー】
「紅茶のためだけとはいわないさ。
私は、君のためなら紅茶といわず、料理だって披露するけど?」■■
「……またまた。
料理なんて出来ないでしょう」■■
子供ならともかく、貴族の男性は、厨房に入れてもらえないイメージだ。■■
【アーサー】
「出来なくても、習うよ」■■
「……つまり、出来ないのね」■■
吹き出しそうになる。■■
私を子供扱いしたり、冗談にしてはタチの悪い求婚をしてくる、エセ『紳士』。
警戒心もあるが、こういうところが中和して、気持ちをまろやかにしてしまう。■■
(ミルクみたいに……)■■
口当たりのいい……、だが、庶民には高級品すぎる人だ。■■
【【【時間経過】】】

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