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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■02話』

【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・ブラッドの部屋◆
【【【演出】】】……ノックの音
こんこん。■■
家主の部屋の扉をノックする。■■
【ブラッド】
「なんだ、アリス?」■■
(え?)■■
【【【演出】】】……ドアの開閉音
中からの反応に驚きつつも、扉を開く。■■
「すごい。
どうして分かったの?」■■
部屋を訪ねる約束などしていない。
名乗りもしなかったのに、ブラッドは入る前から私だと分かっていたようだ。■■
【ブラッド】
「なんとなく、だ」■■
ブラッドが、書類から目を上げる。
どきりとした。■■
とても、似ている。■■
大分慣れてきたはずなのに、自分でも掴めない、ふとしたタイミングで気に留めてしまう。■■
「仕事中よね。
お邪魔をして……」■■
【ブラッド】
「いい。気にならないよ。
入りなさい」■■
そう言われてしまったら、入らざるを得ない。
訪ねてきたのは私のほうだ。■■
「本を貸してもらえないかと思って来たんだけど……、構わない?」■■
前に許可を貰って以来、こうして本を借りに来るのは珍しくなくなった。
だが、仕事中に居合わせてしまったのは初めてだ。■■
【ブラッド】
「ああ、自由に見ていい。
今、茶菓子を用意させよう」■■
【【【演出】】】……ベルの音
ブラッドはベルを鳴らし、使用人を呼んだ。■■
【ブラッド】
「紅茶と茶菓子を」■■
【メイド】
「かしこまりました」■■
借りていくだけのつもりだったのに、この部屋で過ごす準備を整えられてしまう。■■
【【【時間経過】】】
「気を遣ってくれなくてよかったのに。
仕事中なんだから、すぐ出ていくわよ」■■
【ブラッド】
「私は、仕事中に人がいても気にならない」■■
「仕事中に他人の立ち入りを許すなんて、珍しい男性ね。
私の父は、けして許さなかったわ」■■
父は仕事で書斎にこもったら、家族はおろか誰も入れたがらなかった。
ノックをしただけで怒られたものだ。■■
それが、美しい姉であろうと可愛い妹であろうと同じこと。
唯一、亡くなった母だけが、なんの叱責もなく立ち入れた。■■
【ブラッド】
「人による。
君が踏み込んできても苛立たない」■■
口説き文句に似た甘い言葉に、ブラッド自身が不思議そうだ。■■
他意なく事実を述べているだけで、そのことに疑問も感じている。
今その事実に気付いたというように、不思議そうな目で私を見る。■■
【ブラッド】
「……変な子だ」■■
「……悪かったわね」■■
まじまじと、観察されるようだ。■■
「珍獣扱いしないでよ」■■
【ブラッド】
「珍獣か。
余所者だから、そのとおりかもしれないな」■■
「嬉しくない表現ね」■■
お嬢様・余所者・珍獣……。
ブラッドには色々な扱いを受けてきたが、どれも嬉しくないものばかりだ。■■
「私以外にも、他の世界から来た人はいないの?」■■
自分の夢なのに、こういうことを聞くのもおかしな話だった。■■
【ブラッド】
「前にも言ったと思うが……」■■
「他の国からの旅人は少なくないが、完全に違う世界から来た余所者というのは非常に珍しい。
たまに迷い込んでくるらしいが、いつの間にか消えているか……」■■
「……帰る前に死んでいるんじゃないか?」■■
「どうして?」■■
聞くまでもないが、一応。■■
【ブラッド】
「この世界は、少し危険だからな。
ひ弱な人間だとすぐに死んでしまう」■■
なんでもないことのように言う。■■
ここへ来てそう時間は経っていないはずだが、ここが「少し」以上に危険なことは充分に理解していた。■■
「死んでしまうっていうか、誰かに殺されてしまうの間違いじゃなくて?」■■
殺意がなくても、これだけ銃の所有率の高い国だ。(なにせメイドや使用人までが常に銃を携帯している)■■
流れ弾が当たったり……。
最初に私がそうされたように、不審者だと間違われ斧をつきつけられることは、大いにありえそうだ。■■
あのときエリオットが止めなければ今頃は胴と首が離れていたかもしれないし、そのエリオットをブラッドが止めなければ今頃は額に風穴があいていたかもしれない。■■
【ブラッド】
「そういうこともある。
この土地の人間は少し暴力的だからな」■■
(「少し」じゃないでしょう……)■■
「銃保有率が高い国に安全な国はないわ。
あれば使いたくなるのが人の性だもの」■■
「……ブラッドも?」■■
【ブラッド】
「ん?」■■
「ブラッドも、余所者を殺したことがある?」■■
【ブラッド】
「余所者を?
……覚えていないな」■■
「そいつが誰でどういう出かと、いちいち確認していない」■■
「私が手にかけた人間など、多すぎて覚える価値もない。
余所者だろうと同国の者だろうと、つまらない奴は殺す」■■
「怖いことを言わないでよ」■■
【ブラッド】
「マフィアが平和的なわけがないだろう?」■■
呆れて言ったのに、呆れで返された。■■
「それはそうでしょうけど。
よく平然と話せるわね」■■
この国に、警察はいないのだろうか。■■
悪人というのは、たとえマフィアだろうと悪事を隠すはずだ。
捕まらないよう、おおっぴらに話したりしない。■■
警官がいなくても、恨みや仕返しを恐れるのが普通の神経というものだ。■■
「何も怖いものはないの?」■■
【ブラッド】
「私は、したいときにしたいことをするし、話したいときに話したいことを話す」■■
いつもの我侭な調子に、付け加える。■■
【ブラッド】
「怖いといえば、そう出来なくなることが怖いな」■■
「それは……」■■
「……なんとなく分かるわ」■■
同意をしたのに、ブラッドはまた私を不思議な生き物を見るような目で見た。
なんだか、本当に自分が珍獣になった気分だ。■■
【ブラッド】
「……君は、知れば知るほど変な子だ」■■
「君のほうこそ、どうして平然と私と話していられるんだ?」■■
「普通に接しちゃっていたけど、もっと畏まるべきだった?」■■
ブラッドは、マフィアという組織を構成する中心であり、その頂点だ。
それがどんなものかに詳しくはないが、トップという地位を急に意識する。■■
許可は得ていたし、不快そうな様子はなかった。
そもそも、彼は不快と感じる相手を部屋に招きいれたりしないだろうが……。■■
【ブラッド】
「違う。
……君の世界では、マフィアと話すことが普通なのか?」■■
「……普通じゃないわね」■■
【ブラッド】
「君は、中流以上の家の出。当たっているだろう?
教育を受け、素養もある」■■
「私達のような類の人間と交流するような生活を送ってきていないはずだ。
どうして、私や、屋敷の者と普通に話せるんだ?」■■
「この屋敷の者は全員が組織の関係者だ。構成員といっていい。
気付いているだろう」■■
(そりゃ、夢だから)■■
言ってしまえば、元も子もない。■■
「現実感がないからじゃないかしら」■■
私は、現実主義だ。
現実主義だからこそ、夢に現実味が見出せない。■■
この夢は無茶苦茶だ。
不思議でおかしくて、狂っている。■■
なにもかもが現実とかけ離れているから、現実ではできそうにないことが出来る。■■
【ブラッド】
「現実感がない、か。
それでここでの生活に馴染んでいるのだから大したものだな」■■
「肝の据わったお嬢さんだ。
私の目を見て話せる人間は少ない」■■
「過剰評価よ。
今は、ぼ~っとしているだけ」■■
この世界……夢をみはじめてからの私は、ぼ~っとしている。
ずっと、頭に薄いもやがかかっている。■■
現実でマフィアのボスと会う機会があったら、他の大多数の人間と同じように目を逸らす。
みっともなく逃げ出してしまうかもしれない。■■
こうやって一対一で話すことも、屋敷に滞在させてもらうことも絶対ないと言い切れる。■■
現実の私は卑小な人間で、日常にすらてこずっている。
非日常になど、手を出そうとは考えられない。■■
「普段の私に会ったら、幻滅するわよ」■■
【ブラッド】
「元の世界での普段の君を知らない。
これから知ることもないだろう」■■
「今会っているお嬢さんが、私にとっては普段の君だ」■■
本当のところを言うと……と、ブラッドは続けた。■■
【ブラッド】
「余所者というのは、実に珍しいんだ。
知識としては知っていても、会うことなどないと思っていた」■■
「確認はしていないが、私が今まで屠ってきた中にもいないだろう。
会ったことも、恐らくないはずだ」■■
「なんだか、濁すような言い方ね」■■
【ブラッド】
「私のように重要な役柄のついた者なら、余所者かどうか会えばすぐに分かるらしい。
感じ取れるものらしい」■■
「……そう聞いている。
だが、そんなものは知識にすぎない」■■
「実際に会ってみないとどうなのかは分からない。
いつか会うかもしれないが、もうすでに会っていて気付かないで殺してしまったのかもしれない」■■
この世界は、ルールでがんじがらめのようでもあるし、何もかもがひどく曖昧な気もする。
どちらにでも流れていく。■■
「どうだった?
私と会ったとき」■■
「余所者だって、すぐに気付いたの?」■■
【ブラッド】
「すぐに、見た瞬間にとはいかなかったな」■■
「だが……、分かったよ。
この子は余所者だ。話に聞いていた通りだと」■■
「話に聞いていたって、どんなふうによ。
余所者なんていい言葉じゃないし、どうせろくでもないような話でしょうけど」■■
からかうと、真面目くさった顔で返された。■■
【ブラッド】
「余所者は敵にも味方にもならない。
安全で、危険。愛すべき存在だ」■■
「なにそれ……」■■
「……気持ち悪くない?」■■
【ブラッド】
「そういう話なんだから、仕方ないだろう」■■
「……確かに気持ち悪い」■■
「でしょう?
愛することが出来るとかなんとか、気持ち悪いわよ」■■
【ブラッド】
「だが、実際に私は君を気に入った」■■
「それは……」■■
「波長が合っていたんじゃない?」■■
【ブラッド】
「ふむ、波長、か……」■■
【ブラッド】
「……かもな」■■
ブラッドは楽しげに、軽く口角を上げた。■■
性格的に、どちらも皮肉びたところがあり、冷めている。
一緒にいても苦にならない。■■
(顔のことさえなかったら、もっと……)■■
【ブラッド】
「取り巻く環境もまるで違う、まさに別世界から来たお嬢さんだというのに。
君と過ごすのは、不思議と居心地が悪くない」■■
(別世界から来たお嬢さん……)■■
何だか物語の登場人物のことのようで、自分だという気がしない。■■
【ブラッド】
「ともかく、そういう話があったから、私は君を滞在させてから殺してやってもいいかと思ったんだ」■■
「は……?」■■
(今、なんて言った???)■■
【ブラッド】
「殺してやろうと思っていた」■■
ブラッドはけだるそうに言った。
この人は、いつもだるだるしている。■■
「な、なんで……」■■
【ブラッド】
「愛すべき存在とやらを手にかける。
そのほうが面白そうじゃないか」■■
「話が嘘だったと証明できるしな」■■
「そんな退屈しのぎみたいな理由で殺そうとしないでほしい……」■■
【ブラッド】
「私は退屈が嫌いなんだ。
だが……、今はそんなこと思っていないぞ?」■■
微笑まれても、前後の会話を顧みると恐ろしいとしか思えない。■■
【ブラッド】
「君は、面白いお嬢さんで、とても気に入っている。
人の話も、聞いておくものだ」■■
「その……、お嬢さんっていうの、やめようよ」■■
【ブラッド】
「最初の頃のようにからかっているわけじゃない。
君は、レディとして扱うのに相応しいお客人だ」■■
「なにしろ、私の目を見て話せる女性だ。
私も敬意を持たなくては」■■
「……それは、あなたが地位を意識させないからよ。
偉そうでもないし、親切だわ」■■
表向きは、だ。
殺そうとしていたなどと聞かされては、二度と親切だなんて思えない。■■
【ブラッド】
「誰でもそうだろうが、私は相手によって対応を変えるんだ。
職業に相応しく暴力的にもなれるし、気が向けば紳士的にも振舞う」■■
「君こそ、普段の私を見れば幻滅するよ」■■
「幻滅するほど、マフィアに夢なんかもっていないわ」■■
これ自体が夢だから付き合えているだけの話だ。■■
【ブラッド】
「ははっ。
君の、そんな無礼なことを言えるところが好きだ」■■
「私も、あなたの、こんな失礼なことを言っても許してくれるところが好きよ」■■
年上の、仕事で地位を得た男性というのは、こんなに気さくではない。
マフィアのボスに知り合いなどいないが、ブラッドは特殊なのだろう。■■
【ブラッド】
「私は、退屈が嫌いなんでね。
君みたいな人が傍にいてくれると楽しい」■■
「そうもいかないのだろうが、ずっと滞在してほしいくらいだ」■■
優しい声だ。■■
【ブラッド】
「私を楽しませてくれ、アリス。
退屈させられると潰したくなるんだ」■■
はっと、息がとまりそうになった。■■
これでブラッドが冷たい目をしていたのなら、まだ納得できる。■■
優しい声音で、恐ろしいことを言う。
それなら、壊れた人なのだなという認識を強めるだけですんだ。■■
だが、私に向く視線までもが優しかった。
愛情があるといっても過言ではない。■■
昔向けられたような、愛情を誤解するような……。
自分が愛されているのではと思わせられる。■■
【ブラッド】
「誤って潰してしまわないよう、常に娯楽でいてほしい」■■
こんなふうに、こんなことを言える人。
芯から、怖いと思った。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・廊下
「あ……」■■
廊下を歩いていて、同居人の姿を見付ける。
あれは……。■■
「エリオット」■■
背後から声を掛けると、エリオットは長い耳をひょこりと揺らして振り返った。■■
【エリオット】
「アリス!」■■
「どうだ?
ここにも随分慣れただろ?」■■
「そうね。
結構、慣れたと思うわよ」■■
答えると、エリオットはうんうんと大げさに頷く。■■
【エリオット】
「あんたはなんか……ここに居て違和感がないんだよな。
客って感じがしねえ」■■
「あ、いい意味だぞ?」■■
「屋敷の奴らもあんたを気に入ってるみたいだ。
俺も、あんたがここに滞在してくれてよかったって思うぜ」■■
「仕事入ってる時は無理だが、時間が合う時は話したり遊んだりしような!」■■
にかっと笑う、ウサギさん。
初対面のときが嘘のようだが、警戒心を解けばこういう性格なのだと既に分かっていた。■■
「ええ。
暇なときは、是非相手をしてちょうだい」■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・厨房◆
【【【演出】】】・・・料理や洗い物をする、調理場の音
【帽子屋・シェフ・男】
「よし、下ごしらえはこんなもんで大丈夫だな」■■
【帽子屋・シェフ・男】
「……おい、そこの三人、ご苦労さん!
手伝いはここまででいい」■■
「あ、はい」■■
【帽子屋・メイド・女1】
「分かりました~。
では、私達はこれで~」■■
【帽子屋・メイド・女2】
「お疲れ様でした~」■■
仕事で厨房の雑用を手伝っていたが、シェフから暇の声が掛かった。■■
「疲れた~」■■
私はまだ厨房に慣れておらず、役立ったとは言い難いかもしれない。
そのくせ、疲れは人一倍……。■■
(まだまだだな。
これからもっと、色々と覚えていかなきゃ)■■
【帽子屋・メイド・女1】
「お疲れ様です、アリス。
今回は仕事もここまでです~」■■
【帽子屋・メイド・女2】
「また次のシフトのときも、よろしくお願いします~」■■
「こちらこそ、よろしく。
……お疲れ様でした」■■
エプロンで生乾きの手を拭いつつ、厨房を出る。
さて、この後は休みだが……。■■
(ばたばたしていたから、けっこう疲れちゃった。
のんびりお風呂にでも入ろうかな)■■
割と汗もかいてしまった。
とても魅力的な選択のように思える。■■
「よし、そうしよう」■■
【【【時間経過】】】

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