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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■帽子屋ファミリーEND』

★ブラッドの好感度が10以下、責任感3以下の場合、「帽子屋ファミリーEND」ここから↓
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
「もう、帰らなきゃ……」■■
帰らなくてはいけない。■■
【ブラッド】
「……私達に挨拶もなく?」■■
【エリオット】
「薄情なんだな、アリス」■■
「……!?
え……!?」■■
後ろからかけられた声に、慌てて振り向く。■■
【エリオット】
「帰さないぜ?」■■
【【【演出】】】……銃を撃つ音
がんっと銃声が響く。■■
「え?
ええ?」■■
【【【演出】】】……金属音
ガラス瓶は、吹っ飛ばされた。■■
「え……」■■
「ちょっと……!?」■■
撃たれたのだと、頭に事実が行き着くまでに時間がかかる。■■
「エリオット、あんた、私のことを撃ったわね!?」■■
【エリオット】
「怒るなよ。
当たらなかっただろ?」■■
「当たったらどうするのよ!?」■■
【エリオット】
「当てやしないって」■■
「そんなの、手元が狂ったら……」■■
ガラス瓶は、手に持っていたのだ。
手を直撃……あるいはもっと当たり所が悪い可能性だってあった。■■
【エリオット】
「あんたには当てない。
絶対に」■■
自信ありげに言われて、言葉をなくす。■■
そんなの保証しようがないと思うが、根拠などないはずなのに説得力がある。■■
当てる気がないのなら当たらないだろう。
納得してしまう。■■
【ディー】
「これが、それ?
鍵とかいうやつ?」■■
「これを使って帰るんだよね?
どうやって使うんだろ?」■■
【ダム】
「ただの薬瓶に見えるけどなあ」■■
撃たれて飛んでいったガラス瓶を双子が拾った。■■
この人達がいつのまに入ってきたのか分からない。
考え事をしていたせいか、まるで気がつかなかった。■■
「あ、返しなさいよ」■■
【エリオット】
「ばーか。
俺が撃ったのに傷一つない、ただの薬瓶があるかよ」■■
【ブラッド】
「そのガラス瓶を使って何かするわけではないぞ。
それは、あくまで目安にすぎない」■■
「その中身が一杯になると、元の世界に戻る準備が出来る」■■
【ディー】
「中身を捨てちゃおうよ」■■
【ダム】
「これごと壊しちゃえば?
銃が駄目なら、僕らの斧で試してみよう」■■
【ブラッド】
「……話を聞け。
そのガラス瓶自体に意味はないんだ」■■
【ディー】
「でも、これがあるからお姉さんは元の世界に戻っちゃうんでしょう?」■■
【ダム】
「これがなければ、元の世界に戻れなくなるんじゃないの?」■■
【ブラッド】
「正確に言うと、それがなくても戻れるんだ」■■
「え!?」■■
予想もしていないことをさらりとブラッドが言ったことに、二重で驚いてぎょっとする。■■
【ブラッド】
「知らなかったのか?
アリス、君はいつでも元の世界に戻れたんだ」■■
「その薬瓶がなかろうと、薬が一杯になっていなくても……。
空っぽだって、戻ることは出来た」■■
「え……。
だって、そんな……」■■
【ブラッド】
「本当は、いつだって戻れたんだ。
戻りたいと、強く心から願えば」■■
「なんの補助もなく、戻れる。
こんな瓶に頼らなくても、君は君の思ったとおりに戻ることができた」■■
どくん、と。
心臓がどくどくうるさい。■■
(そんな……)■■
「いつでも戻れた?
そんなの……」■■
「おかしいわ。
だって、今まで帰れなかったのに……」■■
【ブラッド】
「帰れなかったのは、その瓶が一杯になっていなかったからじゃない。
君が、帰りたいとそんなに強く望んでいなかったからだ」■■
(帰りたいと強く望んでいなかった?)■■
それは、夢だと思っていたからだ。
頭がぼんやりして、これが夢の中だと信じ込んでいたから。■■
だから、焦らなかった。■■
(帰りたいと望んでいなかったわけじゃない)■■
望んでいないとおかしい。■■
帰れなかったのは、すべてガラス瓶のせいだ。
そのはずだ。■■
【エリオット】
「じゃあ、なんなんだ?
その瓶は……」■■
「撃っても砕けないし、やたらと頑丈だぜ?
これには、まったく意味がないのか」■■
【【【演出】】】……金属音
【ディー】
「壊れないよ、これ」■■
【【【演出】】】……金属音
【ダム】
「斧も跳ね返しちゃうよ、これ」■■
【【【演出】】】……金属音・連続
言葉だけでなく行動にも表して、双子はがんがんと斧を振り下ろす。■■
きんきんっと、金属にガラスがあたる音がする。
激しく不快な音だが、ガラス瓶は欠けもしない。■■
【ブラッド】
「それは、アリス、彼女の心だ」■■
【エリオット】
「え」■■
【ディー】
「げ……!?」■■
【ダム】
「嘘っ!?」■■
斧だけでは飽き足らず、足で踏みつけにまでしていた双子達は慌てて足をのける。■■
散々な扱いをしていたものを拾い上げ、ふーふーと息を吹きかけた。■■
【エリオット】
「それって、壊しちゃまずいんじゃねえの?
お、俺、撃っちまったぜ」■■
「撃たないって言ったのに……。
撃ったことになるのか、それ……」■■
【ディー】
「ボス、早く言ってよ、そういうことはっ!
これがお姉さんの心なら、僕ら斧で滅多打ちにしちゃったじゃないか!?」■■
【ダム】
「その上、踏みつけちゃった……」■■
【エリオット】
「……傷一つついてねえけどな」■■
「……なによ。
鋼鉄のハートとでも言いたいの?」■■
「それが私の心だとしたら、見ての通り、ガラスのハートよ?
繊細で壊れやすいの」■■
【エリオット】
「銃で撃っても、斧で滅多打ちにしても傷一つつかないのが?」■■
「…………」■■
「それは、私の心なんかじゃないわ」■■
そっぽを向く。
そこまで頑強だと、うんざりする。■■
【ブラッド】
「はあ……。君の心といっても、それを映し出す鏡というだけだ。
心は、ちゃんと心臓に入ったままだ」■■
「だが、心臓に入ったままだと心は見えないだろう?
だから、見えるようにしている」■■
「それが、その瓶だ。
透けて見えるだろう」■■
【エリオット】
「薬が入ってる。
これ、なんの薬なんだ?」■■
「……劇薬?」■■
「……あんた、失礼ね、エリオット」■■
私の心には劇薬が入っているというのか。■■
大体、私はこの中身を一度飲まされている。
劇薬だったら、今頃ここにいない。■■
口移しをしたペーターだって、平気ではいられなかっただろう。■■
【エリオット】
「だって、色からして風邪薬とかじゃねえだろ」■■
「風邪薬ではないだろうけど……。
薬とも限らないじゃない」■■
【エリオット】
「じゃあ、なんなんだよ???」■■
「私に聞かれても……」■■
ちらっとブラッドを見やる。■■
彼の言うことを認めると、私が帰りたくないと思っていることになる。■■
認められない。
だが、彼はなんでも知っているという態度だ。■■
【ブラッド】
「それは心の器だといっただろう?
心に入っているのが、劇薬や風邪薬なわけがない」■■
「心に入っているのは、気持ちだ」■■
「気持ち……」■■
【エリオット】
「気持ちかー……。食ったことねえな。
どんな味なんだ?」■■
「あんたねえ……」■■
「気持ちに、味なんてあるわけがないでしょ……?」■■
「…………」■■
……あった。■■
味はした。
ペーターに口移しされた液体。■■
味を覚えている。
忘れられないほどに、苦かったのだ。■■
【ブラッド】
「その瓶の中身……、それは、帰らなくてはならないという気持ち。
帰りたいと願う気持ちではなく、帰らなくてはならないという強迫観念」■■
「責任感とか、事情とか、そういった元の世界に捕らわれている君の心だ。
それが溜まると、帰りたいと望んでいなくても、帰らなくてはいけない」■■
「瓶の中身が溜まらないと戻れないということは、本当は戻りたくないということでもある」■■
(……帰らなくてはならない)■■
(…………)■■
(帰りたくなかった?)■■
「そんなこと……ない。
私は、帰らないとって、ずっと……」■■
【ブラッド】
「それは、帰りたいという気持ちとは違うだろう」■■
きっぱりと否定されると、一気に自信が崩れる。■■
帰らなくては。
帰らなくてはならない。■■
だけど、そうしなくてはならないという気持ちとは別に、帰りたいと願っただろうか。
切実に、早く帰りたい、元の世界のほうがいい、と。■■
【エリオット】
「じゃあ、やっぱり、この瓶を壊して中身をぶちまけりゃ帰らなくていいんじゃないのか」■■
【ブラッド】
「それは、あくまで目安にすぎない。
体重計に乗ったときに数値が出なくとも重さが消えたわけではないように、表示されなくても自分が消えたわけではない」■■
ブラッドはガラス瓶には興味がないようだった。
瓶ではなく、私を見る。■■
最初に会ったときから、底の見えない人だ。
けだるそうに、見透かしてくる。■■
【ブラッド】
「白ウサギ、ペーター=ホワイトは目の前で中身を消してみせることで、君に思い込ませたんだ。
体重はゼロになったというふうに」■■
「中身が溜まらないと帰れないという思い込みに、ナイトメアが手助けをした」■■
【ディー】
「暗示ってやつ?」■■
【ダム】
「思い込みって怖いよね」■■
双子は、相変わらずマイペース。■■
こうしていると、いつも通りの日常のようだ。
いつものように、彼らと過ごす日々。■■
マフィアの本拠。
そんな恐ろしくも非現実的な場所に、思えば長くいたものだ。■■
ずっと、これからもいられるような気になっていた。
日常だと思うほどに、ここで過ごすことが当たり前になっていた。■■
【ブラッド】
「いつも、ナイトメアはほんの小さな隙間に忍び込む。
見たい夢、都合のいい答えを用意してやるんだ」■■
ブラッドの言うことが正しいとすれば、夢とはなんだろう。■■
私の夢。
都合のいい現実。■■
(どうして、ブラッドがナイトメアを知っているのかしら)■■
それも都合よく感じられる。
彼なら、なんでも知っていそうだけれど。■■
「見たい、夢ね。
……私にとっては、この世界のことだわ」■■
この世界は夢のよう。■■
安全でも、甘いだけでもないが、夢みたいだ。■■
ここで、私は求めていたものを手に入れた。
手に入れたような気になれた。■■
「都合のいい夢だった」■■
私が欲しかったもの。
それは。■■
【エリオット】
「アリス、帰るなよ」■■
【ディー】
「そうだよ、帰らないで」■■
【ダム】
「ずっとここにいなよ。
面倒な世界になんて、帰ることないじゃないか」■■
【エリオット】
「元の世界には嫌なことも多いんだろ?
ここなら、そんな嫌なめにあわせたりしないぜ」■■
「……違う。
違うわ」■■
煩わしくて、帰りたくなかったんじゃない。
私は逃避がしたかったわけではない。■■
「嫌なことがあるから、元の世界に帰りたくないわけじゃない」■■
嫌なことがないから、この世界に留まりたいわけじゃない。■■
嫌なことなんか、どこにも転がっているものだ。
どこの世界にだって溢れている。■■
そのことから、逃げたいなんて思わない。
……とは言わないが、それが現実だと目を逸らさないだけの度胸くらいある。■■
【エリオット】
「……帰りたいのか?」■■
「帰らなきゃならないのよ」■■
帰らなくては。■■
何もかも、投げ出せない。
現実世界で自立するために頑張ってきた。■■
姉に礼とお別れを告げ、謝らなくては。
私は、家を出る。■■
「私は……、家を出たいの」■■
そう決めて、準備も進めていた。■■
【ディー】
「出ればいいよ」■■
【ダム】
「もう出ているよ。
帰らなきゃいい」■■
「そうじゃないわ。
分からない?」■■
「意味が違う。
私は、自力で出ようとしていたのよ」■■
【エリオット】
「ここじゃ駄目なのか?」■■
「駄目なんて言っていない。
そうじゃなくて、自分で出て……」■■
出て……。■■
……何がしたかった?■■
「帰らなきゃ……」■■
何が欲しかった?■■
求めていたものは、ここにある。■■
見つけてしまった。
元の世界で、それは得られるものだろうか。■■
【ブラッド】
「……誰がどう仕組もうと、どんなに引き止めようと、君は帰りたければいつだって帰れたんだ」■■
「今だって、帰れるぞ?
その小瓶を取り上げられても、心からの願いならば今すぐにでも帰れる」■■
【エリオット】
「ブラッド……」■■
【ディー】
「ボス、やめてよ!」■■
【ダム】
「お姉さんが帰っちゃう」■■
ブラッドの帰りを促すような言葉に、エリオットと双子は慌てた。
彼らが、私に帰ってほしくないと思ってくれていることが伝わってくる。■■
ブラッド、彼だけが終始平静だった。■■
【ブラッド】
「君は、この世界が好きなんだろう、アリス」■■
優しくて、甘い声。
表情も、優しい。■■
かつての恋人を思い出させる、その表情。
だけど、確実に異なる。■■
【ブラッド】
「それに……、私達のことが好きだろう?」■■
私を追い込む。
尋ねながら、答えを一つしか用意していない。■■
「私……」■■
嫌いなんて言えるわけがない。■■
瓶がなくても、薬が溜まらなくても。
帰りたいと願えば、帰ることが出来る。■■
そうだとしたら、私は。■■
【ブラッド】
「いつでも帰れる」■■
帰ろうと思えば、いつでも帰れる。
今すぐにでも。■■
【ブラッド】
「今でなくても、いいと思わないか?」■■
それは、毒のように。
甘い免罪符だった。■■
優しいふりをして冷たく笑うブラッドは、私に何の答えも求めていない。
彼は、すでに私の返事を知っている。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・庭園◆
【エリオット】
「好き嫌いすんなって……!
そんなだから、背が伸びねえんだぞ!?」■■
【ディー】
「好き嫌いなんかしてないよ!」■■
【エリオット】
「じゃあ、なんでこれだけ避けるんだよ!?」■■
【ダム】
「そんなの、食べるわけないだろ!?
にんじんしか入ってないじゃないか!?」■■
「にんじんサンドなんかいらないよ!!!」■■
【エリオット】
「にんじんだけじゃない!
レタスも入ってるだろ!?!」■■
【ディー】
「レタスが見えなくなってる時点で食べたくないよ!」■■
【エリオット】
「好き嫌いするな!
食えって!!!」■■
【ダム】
「好き嫌い以前の問題なんだよ、馬鹿ウサギ!」■■
【ディー】
「髪だけじゃなく頭の中までひよこなんじゃないの、このひよこウサギ!」■■
【エリオット】
「俺はウサギじゃねえ!!!」■■
「もー、食べているときくらい静かに出来ないの!?
口に物を入れたまましゃべるのは食事のマナー違反よ!?」■■
「喧嘩したら、デザートをあげないわ!
いいの!?」■■
怒鳴ると、三人はやっと大人しくなった。■■
【ディー】
「してない、してない」■■
【ダム】
「喧嘩なんて……」■■
【エリオット】
「なっ!」■■
【ディー】
「うん」■■
【ダム】
「うんうんっ」■■
「……普段から、そうしていなさいよねー。
現金なんだから」■■
ぶつぶつ言いながらも、デザートを出してやる。■■
【エリオット】
「うまい……。
あー、でも、なんか足りないな……」■■
「にんじんっぽい苦味と甘みが……」■■
「…………」■■
「ヨーグルトムースに、そんなものがあったらおかしいわよ」■■
相変わらずな日常だ。
楽しくて、危険で、たまにこうやって皆で過ごす。■■
しばらく、エリオットと双子は不安そうで、こんなふうに騒ぐこともなかった。
目を離したら私が帰ってしまうと、神経質になっていたらしい。■■
今は、いつも通り。
それでも少し、心配そうにしている。■■
三人は、帰ってほしくないと態度でも言葉でも示してくれていた。
くすぐったくて、申し訳ないような気になる。■■
「ブラッド、デザートいる?」■■
騒ぐ三人と距離を保っていた、彼らのボスにデザートを差し入れる。■■
【ブラッド】
「いや。
私は紅茶だけでいい」■■
「そう。
じゃあ、私がもらっちゃうわね」■■
【ブラッド】
「どうぞ」■■
「どうも」■■
遠慮なく、彼の分のデザートを貰うことにした。■■
隣に座る。
ブラッドは、いつも通り、紅茶を飲んでいる。■■
いつも通り。
彼は何も変わらない。■■
「ねえ、ブラッド」■■
【ブラッド】
「……ん?」■■
けだるそうに、目を向ける。■■
すべて、いつも通り。
当たり前になってしまった、ここでの生活。■■
「もう……、あの時点であなたには分かっていたんでしょう」■■
私が、帰れないこと。
もう二度と、帰らないこと。■■
元の世界なんて、ない。
ここが、この場所が、私の居場所になってしまった。■■
ガラス瓶は、今も持っている。
取り上げられても、戻ってきてしまう。■■
中の液体は目減りすることもなく、そのまま一杯のままだ。■■
寝る前にたまに見るが、その回数は減っていた。■■
一杯のままでも、それはなんの言い訳にもならない。
いつか減っていくであろう、それを見るのが怖い。■■
【ブラッド】
「……さあ?
なんのことだか」■■
「……あなたって、いつもそうね」■■
私は、何かが欲しかった。■■
【ブラッド】
「いつも、どうだっていうんだ?」■■
「いつも余裕」■■
【ブラッド】
「そんなことはないさ。
余裕ぶっているだけだ」■■
「とてもそうは見えない」■■
【ブラッド】
「考えていることがすぐに分かるようなマフィアのボスはいないだろう」■■
「それはそうだけど」■■
別に、ブラッドに分かりやすくなれとは言わない。
ブラッドが、エリオットや双子達のような反応をするとも思えない。■■
そんな反応をされたら、こちらとしても驚くだけだ。■■
「ねえ、私が必要?」■■
だから、こんな質問も素面で出来る。■■
エリオットや双子なら、質問をするまでもなく熱心な言葉をくれる。
自惚れではなく、彼らに好かれているのだろう。■■
【ブラッド】
「私は、誰のことも必要としていない」■■
小憎らしいほど、ブラッドは平静だ。■■
【ブラッド】
「そこにいたら付き合いもするし利用もするが、いなければいないで変わりない」■■
「そうだと思った」■■
彼の言葉に安心する。■■
私は、自分に都合のいい世界に残りたかったわけではない。
拒まれることに安らぐ。■■
【ブラッド】
「だけどな、アリス。
君が帰ってしまったら、きっと私も取り乱す」■■
ちらりと、ブラッドに目をやる。■■
【ブラッド】
「君が、ここに残ってくれてよかった」■■
「…………」■■
甘いととれなくもない言葉。■■
だが、彼は甘いものが好きじゃない。
紅茶を飲むときに菓子は食べない。■■
それは、私も同じこと。
甘いものは、食べたいときと食べたくないときがある。■■
「……平然と、紅茶を飲みながら言われてもねえ」■■
【ブラッド】
「帰ってしまったらと言っただろう?」■■
ブラッドは、私が帰らないという確信を持っていたのだ。■■
「なんだか、悔しい」■■
【ブラッド】
「ふ……。
私の、青くなった顔を見損ねたな」■■
「帰ってしまわないと見られないんじゃ、どっちにしても見られないじゃない」■■
帰った後なら、見ることはかなわない。■■
【ブラッド】
「それでいいんだ。
君には見られたくない」■■
「…………」■■
その言葉は、どんな引き止めの言葉より胸に響いた。■■
「ブラッド、私……」■■
言いたかったのは、礼なのか謝罪なのか、何かを打ち明けたかったのか。■■
「…………」■■
「……あなたのお屋敷に滞在できてよかったわ」■■
【ブラッド】
「飽きるまで、好きなだけ滞在するといい」■■
それは、最初に滞在を許可されたときと同じような台詞だった。■■
【ブラッド】
「いたいだけ、いるといい。
これからも」■■
いつものように紅茶を手に、けだるそうに話す。■■
同じだ。
最初から今まで、彼は変わらない。■■
「ありがとう」■■
変わったのは……。■■
【エリオット】
「な~に二人でくっちゃべってんだよーっ」■■
「わ!?」■■
【エリオット】
「俺らも混ぜろよ」■■
【ディー】
「そうだよ。
ずるいよー」■■
【ダム】
「僕達に馬鹿ウサギを押し付けて、自分だけー……っ」■■
【エリオット】
「押し付けられてんのは俺のほうだ!
子守なんてしたくねえよ!」■■
【ディー】
「何が子守だよ!?」■■
【ダム】
「僕達なんかウサギの飼育係だよ!?」■■
【エリオット】
「誰がいつ飼育された!!」■■
「わー!?
なに、なんなの?」■■
食事はまだ残っていたし、デザートもある。
それに、三人は放っておいたらいつまでも言い争いをしている。(言い争いだけですまない場合も多々ある)■■
だから、当分大丈夫だと思ったのだが、そうでもなかったようだ。
まだ私の動向が気になっているのだろう。■■
「もうデザートまで食べ終わったの?」■■
【ディー】
「あんなの、すぐだよ」■■
【エリオット】
「嘘付け、残したくせに!」■■
【ダム】
「ウサギの餌以外は食べたよ」■■
【エリオット】
「どういう意味だ、おまえ……っ」■■
【ダム】
「どういう意味って、そのまんま……」■■
「もー……」■■
この三人は、本当に飽きもせずよくやるものだ。■■
【エリオット】
「って、それより、アリス!
ブラッドと二人でこそこそ何話してたんだよ!?」■■
「……へ?」■■
突然に矛先が向けられ、焦る。■■
【ディー】
「深刻な話っぽかった」■■
【ダム】
「何話してたの?
ずるいよ」■■
「え。
でも、たいした話してないわよ?」■■
【エリオット】
「俺らには言えないのかよ」■■
真剣に詰め寄られ、返事に窮した。■■
本当に、たいした話をしていない。
伝えるのも難しいし、説明できない。■■
【エリオット】
「ブラッドには言えて、俺らには駄目なんだ?」■■
【ディー】
「酷い」■■
【ダム】
「ずるい」■■
「ええ!?
そんな大層なことじゃ……」■■
……ないのだが、彼らは真剣なようだ。
助けを求めると、彼らのボスはそ知らぬ顔で紅茶を楽しみ続けていた。■■
【ブラッド】
「…………」■■
「ちょっと!?
ブラッド、なに一人でティータイムを続行しているのよ!?」■■
ブラッドは、我関せず。
他人事だ。■■
私だけ、ぎゃあぎゃあと責められている。■■
【エリオット】
「なーなー、何話してたんだよー」■■
「たいしたことは話してないって言っているでしょう!?」■■
「ブラッドも、なんとか言ってやってよ!」■■
【ブラッド】
「…………」■■
「……そうだな」■■
「……今日も、茶がうまい」■■
ここでは「今日」なんていう概念はないのに。
ブラッドはわざとその言葉を使う。■■
私の感覚に合わせているのだろう。■■
「……だから。
どこのご隠居さんなの、あんたは」■■
前にも、同じことを言った気がする。■■
【エリオット】
「なー、なーなー……」■■
【ディー】
「ねー……」■■
【ダム】
「ねー、ねー……」■■
「もう……、あんた達って本当に……」■■
「…………」■■
顔が笑ってしまう。■■
そう……、「今日」も、お茶がおいしい。
どこかのご隠居さんのようだが、私も同意する。■■
「明日」も、「明後日」も、紅茶はおいしいだろう。
たまに苦くても、飲み続けてしまう。■■
実際にはいつまでが今日でいつから明日なんて区切りはないから、とにかくずっと美味しいのだ。■■
時間の進みが速くても遅くても、とにかく、いつも。■■
いつまでも、変わらない。
ここにいれば、私は……。■■
私の欲しかったもの。
求めていたもの。■■
誰にも代われない。
私でないと駄目だ。■■
そういうふうに求められなくてもいい。■■
私が、ここでないと駄目だと思える。■■
……ここが、私の居場所だ。■■
【【【時間経過】】】
「帽子屋ファミリーEND」ここまで↑