1:「いざ、倒錯の世界へ……」
ごくんと、唾を飲み込んだ。■■
「…………」■■
【ビバルディ】
「アリス……。
可愛い子……」■■
ビバルディの息がかかる。■■
近くで見れば見るほど、綺麗な人だ。
粗がみつからない。■■
かかる息さえ、薔薇の香り……。
とろんと、薔薇に酔う。■■
【ビバルディ】
「加わりたくないなどと申すな。
ゲームは、参加してこそ楽しめる」■■
「……わらわ達がここで、どういう行為に明け暮れているのか……興味があるのだろう?」■■
息の撫でる部分が熱い。■■
【ブラッド】
「…………。
どういう行為にも明け暮れていないけどな」■■
ちゃらっと、ムードをぶち壊しにしたブラッドをビバルディが睨む。■■
【ビバルディ】
「ヒールで踏んでほしいのか?」■■
【ブラッド】
「そういう趣味もない」■■
【ビバルディ】
「……ふん?
おまえは加わりたくないと?」■■
「これから、わらわとこの子は遊ぶのじゃ」■■
「無駄なことを言うようなら、入れてやらぬ。
指をくわえて見ておるがよい」■■
【【【演出】】・・・衣擦れの音
するりと、ビバルディの指が私の服に触れる。
レースの模様をなぞるように、マニキュアで塗られた爪が動く。■■
「……ビ、ビバルディ……」■■
「あ……」■■
「あ、あの、私も……こういう趣味は……」■■
【ビバルディ】
「うふふ……。
遊ぶだけだ」■■
「怖がらなくてよい……。
ふふ……」■■
【【【演出】】・・・衣擦れの音
【ブラッド】
「…………」■■
「わ、ちょっと……!?」■■
「待っ……!?
わわ……」■■
【ビバルディ】
「大丈夫……。
痛いことはしないよ」■■
「……わらわはね」■■
【ブラッド】
「…………」■■
ちらりと、彼女は弟に視線を送った。■■
ブラッドは憮然としているように見える。
だが、立ち去るわけでもなく、じっと睨んでいた。■■
「冗談きつ……。
ね、ねえ……、ビバルディ……」■■
【ビバルディ】
「うふふ。
見られているのが恥ずかしい?」■■
「何も気にならなくしてあげよう……」■■
(と……、倒錯の世界……)■■
これは、冗談だ。
女王様の、タチの悪い冗談。■■
私をからかって、慌てるのを見て、笑ってやめる。■■
そう予想していたのに、彼女のほっそりした手は止まらない。■■
くらくらする。
そんな趣味はないはずなのに、抵抗はおろか、その気さえ起きない。■■
【【【演出】】・・・衣擦れの音
(あ……。
なんか……)■■
もう、どうでもいいかも……。■■
「ビバルディ……」■■
【ビバルディ】
「……なあに?」■■
甘く、優しい。
幼い女の子がお人形に話しかけるように、優しい。■■
「……ブラッドが……」■■
【ビバルディ】
「ああ、あんなの、気にすることはない。
突っ立っているだけの、木と変わりない」■■
「それより、アリス……、こっちを向いて」■■
ちゅっと唇だか頬だかに口付けられる。
頭が溶けそうだ……。■■
(なんで抵抗できないの……)■■
そんなの、決まっている。
抵抗したくないと思っているから、抵抗できない。■■
彼女はものすごく綺麗で、薔薇園は夕日に美しく染まり、じっとこちらを見ている彼女の弟も彫刻のようだ。
現実感がまるでない。■■
力も入らず、ぼんやりと宙を見た。
ブラッドと、目が合う。■■
【ブラッド】
「ち……っ」■■
彼は舌打ちして、がっとビバルディの肩をつかむ。■■
彼女は引き離されたことに不満そうだ。
私も、安心するどころか、ブラッドに非難の目を向けてしまう。■■
だが、彼は止めようとしたわけではなかった。■■
【ブラッド】
「……混ぜろ」■■
ブラッドはそう言うと、片手でスカーフを緩めた。■■
【【【演出】】・・・しゅるっとリボンを外す音
しゅるりという音が、なんだか艶かしく、ぼうっとしていた私の意識を少しだけ連れ戻す。■■
【ビバルディ】
「それでこそ、わが弟」■■
意地悪そうに嘲笑う姉、そして弟も同じ表情を浮かべる。■■
(ああ……、この二人って本当にお似合い……)■■
薔薇の匂いに頭がおかしくなっている自覚はあった。■■
何も考えられない。
ただ、美しい姉弟に見惚れている。■■
(すごく綺麗……)■■
余裕のあるビバルディと、少し余裕をなくしたブラッド。
うっとりするだけのことはある。■■
その対象が私だということもおぼろげで、やがて見惚れることも出来なくなっていく。■■
【【【時間経過】】】
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