TOP>Game Novel> 「 ハートの国のアリス 」> ブラッド=デュプレ ■01話

ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『ブラッド=デュプレ ■01話』

★1:「ブラッド」
(……悔しいけど、この人だわ)■■
「この人」というより、この顔、この声。
気にしないでいられるわけがない。■■
(見る度に、『あの人』を重ねてしまう)■■
いや、重ねるまでもないのかもしれない。
見た目だけなら、完全に一致しているのだから。■■
【ブラッド】
「……アリス?」■■
(!)■■
名前を呼ばれ、物思いから覚める。
黙り込んだ私を、ブラッドがじっと見ていた。■■
【ブラッド】
「どうした?
各地を廻って、疲れたか?」■■
【エリオット】
「え?
そりゃいけねえ、疲れたんならちゃんと休んだほうがいいぜ!」■■
「ん……、そうね。
ちょっと疲れたのかもしれない」■■
肉体的にというよりも、精神的に。
ざっと会って来たこの世界の住人は、とにかく誰も彼も個性が強すぎる。■■
「部屋に戻るわ。
あなた達は、これから仕事?」■■
【エリオット】
「ああ、そこまで長くは掛からないはずだから、食事は一緒に出来ると思うぜ?
精のつくものを用意しておいてやるよ!」■■
(それって、またオレンジ色の……?
……気持ちだけにしておいてもらいたいな)■■
「分かったわ。
それじゃあ、食事まで休んでいる」■■
彼等はマフィア。
承知の上で滞在しているが、仕事内容を詳しく聞こうとは思わない。■■
(ある程度、距離は保たなくちゃ。
踏み込まないほうがいいに決まっている)■■
ここでうまく生活していくためには。
よく耳にするこの世界の言葉風に言うと、それが私の決めた「ルール」だ。■■
【【【時間経過】】】
◆ナイトメアの夢◆
【【【時間経過】】】
何もない……色だけが渦巻く、不思議な空間。■■
いつかみた夢の景色(?)だ。
私はまた、夢の中の夢にいる。■■
「やっぱり変だわ。
おかしい」■■
【ナイトメア】
「何が。
どうして」■■
夢の中での呟きに、返事が返ってくる。■■
「この世界の人はみんな変よ」■■
ナイトメア。■■
唐突に現れる彼にも、慣れた。
夢の中の夢に、彼は頻繁に現れる。■■
すぐ、目の前に。■■
【ナイトメア】
「それはそうだろうね。
君の世界の人間とは大分違う」■■
「私の世界では誰も彼もが銃を携帯したりしていないし、そういう意味でも違うし変だけど、そのことじゃないの」■■
「ここの人は、私のことが好きみたい。
おかしいわ」■■
慣れないのは、好かれること。
すぐに気に入ってもらえることだ。■■
【ナイトメア】
「別におかしいことじゃない……」■■
「おかしいわよ……」■■
「…………」■■
「……?」■■
「……なんだか、おかしいわよ、あなた」■■
【ナイトメア】
「……私?」■■
「うん……、あなた。
なんだか……顔色悪くない?」■■
【ナイトメア】
「…………。
私は元々こういう顔色だ」■■
そういえば、ずっと顔色が悪かった……気がする。■■
「それにしても……」■■
いつもこうだったかもしれないが、今はそれに輪をかけて具合が悪そうだ。■■
いつも白い顔をしているが、更に白く、陶器のようだ。
普段から白いなと思っていたのが顕著なのだから、相当な白さだった。■■
「……具合わるそー」■■
(具合の悪そうな夢魔って一体……)■■
【ナイトメア】
「わ、悪かったな……」■■
「……ぐっ」■■
「!?」■■
「だ、大丈夫……!?」■■
【ナイトメア】
「だ、大丈夫……」■■
「……じゃないかもしれない」■■
「く……っ」■■
【【【演出】】】・・・吐血する音

nai_toketu ナイトメアは苦しそうに俯いたかと思うと……、吐血した。■■
「【大】ぎゃっ!?【大】」■■
【ナイトメア】
「ぎゃっ、はないだろう、ぎゃっは……。
きゃあっとか可愛らしい言い方に変えてくれ……」■■
「【大】可愛らしく驚くような事態じゃないでしょ【大】」■■
何を、妙に冷静な意見を言っているんだ、この男は。
驚きの場面に、女らしさなんて求めないでほしい。■■
「なんだって、吐血なんて……」■■
この世界へ来て、大概のことには慣れた気でいたが、私はまだまだ甘かった。
吐血する夢魔には慣れていない。■■
しかし、冷静な受け答えを見る限りでは、本人は慣れっこのようだ。■■
【ナイトメア】
「私は、病弱な夢魔なんだ……」■■
「びょおじゃくなむま……」■■
頭で変換が出来なくなるくらい、異様な単語だ。
夢魔という響き。■■
もっと格好いいものかと思っていた。
病弱という単語も、単体なら儚げで格好いいといえなくもない。■■
しかし、夢魔というのにはくっつかないものだろう。■■
【ナイトメア】
「…………。
いいだろう、個性的で」■■
「……そんな個性、いらないと思う」■■
【ナイトメア】
「病人に優しくない女だな……、君は」■■
「【大】病人なの、夢魔が【大】」■■
【ナイトメア】
「体が弱いんだ……」■■
「【大】夢魔なのに?【大】」■■
【ナイトメア】
「いちいち強調しないでくれないか……」■■
「単に、いつも具合が悪くて、たまに吐血するだけだ……。
たいしたことじゃない」■■
「…………」■■
「それ、たいしたことじゃないんだ……」■■
では、たいしたことになったらどうしよう。
いきなり、目の前で××××を吐かれるとか……。■■
(わあ……、スプラッタ……)■■
【ナイトメア】
「……そんなものは吐かない」■■
「本当に?
何でもありだわ、夢の中の夢に現れる、夢魔なんだもの」■■
なんて不確かな存在なのだろう。
存在すら曖昧で意味不明なのだから、言うことだってアテにならない。■■
【ナイトメア】
「逆だろう、この場において夢魔ほど確かなものはない。
私の存在は、夢の中でこそ意味を持つ」■■
【ナイトメア】
「私にしてみれば、夢の外……君にとっての現実こそおぼろげで曖昧なものさ。
君の存在のほうがよほど不確かで、目覚めてすぐに消えてしまう幻といえる」■■
「……???
何だかよく分からないけど」■■
夢魔がどうであれ、私にとっては夢なんて幻だ。
彼が私を指して言うように、覚めれば消えてしまうもの。■■
その中に現れるこの男だって、同じ。
儚くて……。■■
…………。■■
…………。■■
……本当に儚く散りそうな顔色をしている。■■
【ナイトメア】
「……だから、病弱なだけだよ。
幻のように消えたりはしないさ……、君が夢をみる限りね」■■
【ナイトメア】
「ごほごほ……っ。
うう……っ、げほっ」■■
【【【演出】】】・・・吐血する音
再び、盛大に血を吐く。■■
「……【大】出て行って【大】」■■
いくら覚めればおしまいでも、血染めの夢などごめんだ。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
【【【時間経過】】】
(…………)■■
(…………)■■
(……起きられたみたいね。
ああ、嫌な夢をみたわ)■■
(人が盛大に吐血するところなんて。
なんでわざわざ夢の中で、そんなのを見なきゃいけないのよ)■■
窓の外が明るい。
昼になっていた。■■
就寝したのは、夜。
こんなふうに時間帯が変わると普通の生活の感覚だが、ここでの時間は狂っている。■■
習慣で夜に就寝しているが、起きたら夕方、起きてもまだ夜ということもザラだ。
寝過ごしているわけではなく、時間の間隔や順番がバラバラで……。■■
(慣れたといえば、慣れたんだけど。
何となく、生活にメリハリが出ないなあ)■■
各領土の領主と顔なじみになり、最近は外出することも多い。
知人と呼べる程度には、他領土の面々とも親しくなれてきた。
決して暇ではないのだが、どうにも物足りないものがある。■■
(…………)■■
(……やっぱり私って、何かしていないと駄目なのかもしれない)■■
ただ予定があればいいわけではない。
意欲的に打ち込む「何か」が必要だ。■■
例えば、仕事。
元の世界でも、出版社での仕事にやりがいを感じていた。■■
(何か、仕事がしたいな)■■
むくむくと、その思いが大きくなる。■■
「…………」■■
「何か仕事をさせてもらえないか、頼んでみよう」■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・廊下◆
廊下を歩いていると、どこからかふらりとブラッドが現れた。■■
「ブラッド」■■
【ブラッド】
「やあ、お嬢さん。
浮かない顔をしてどうした」■■
「……することがなくて」■■
ちょうど私は、時間を持て余していた。■■
ここでは、とにかく時間がある。
そして、私は今することがない。■■
暇というほど予定がないわけではなくても、時間のほうが余っているのだ。■■
(というより、時間の進み方がおかしいんだから、どうしようもない)■■
「こんなにゆったりと過ごすの、初めてなのよ」■■
【ブラッド】
「ふうん?
元の世界では忙しくすごしていたのか?」■■
「とってもね」■■
毎日、やらなくてはならないことが山ほどあった。■■
時間がたくさんあればいい。
24時間が48時間になればいいと願ったものだ。■■
「ここでは、何も焦ることがなくて落ち着かないわ」■■
私は客で、誰かの仕事を横取りもできない。
手持ち無沙汰だ。■■
【ブラッド】
「客らしく、優雅にお茶でも飲んで過ごせばいいじゃないか」■■
「のんびりするのもいいけど、ずーっとじゃ……かえって疲れる」■■
ブラッドが言うように、気ままな生活も最初のうちは楽しかったのだ。
しかし、時間がたてば、ありすぎる余暇が不安になる。■■
【ブラッド】
「君からすれば、ここは異世界。
珍しいものも多いだろう?」■■
「もっと楽しめ」■■
「楽しめないわよ。
人が働いている中で、することもなくぼさっとしているのって性に合わない」■■
【ブラッド】
「……面倒な性分だな」■■
「客なら客らしく、もてなされていればいいものを。
働きたいのか?」■■
「邪魔でなければ」■■
「……退屈なのよ」■■
【ブラッド】
「考えておいてやろう……」■■
「退屈は、確かに拷問だ……。
何か、仕事をみつけておいてやるよ」■■
「ありがとう」■■
令嬢として育てられたわけでもない私は、多少動いていないと息が詰まる。
食客としてただで食べさせてもらうのも、いたたまれない。■■
家主の申し入れはありがたかった。■■
【ブラッド】
「差しあたって、今の時間のつぶし方だが……」■■
「……私の部屋にでも来るか?
まだ部屋に招待したことはなかったな」■■
「ブラッドの部屋?」■■
【ブラッド】
「ああ」■■
「……本、ある?」■■
【ブラッド】
「?
ああ、たくさんあるよ」■■
「行く!」■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・ブラッドの部屋
【【【演出】】】・・・扉を開ける音
【【【演出】】】・・・扉を閉める音
【ブラッド】
「ここが私の部屋だ」■■
通されたのは、落ち着いた色合いの調度品が並ぶ部屋。
中央に設置されたソファの赤が目を引く。■■
そして、壁を覆うように左右の壁に取り付けられた本棚も……。
……予想以上の蔵書の多さだ。■■
「うわあ……。
結構あるのね……」■■
「見せてもらってもいい?」■■
【ブラッド】
「いいが……」■■
本棚に一直線に向かう私に、ブラッドはやや呆れ顔だ。■■
【ブラッド】
「そんなに本が好きとは知らなかったよ」■■
「本は大好き……」■■
「……私、出版社で働いているの。
学校の終わった後と、休日にもたまに」■■
【ブラッド】
「……君みたいなお嬢さんが?」■■
「道楽でやっているわけじゃないわ。
友達の紹介で入れてもらったんだけど、今じゃ結構使えるレベルなのよ?」■■
「見習いだけど記事の校正をしたり、作家の先生から原稿を受け取りに行ったり……。
担当しているジャンルも多いんだから」■■
【ブラッド】
「どうして。
食うに困るような家庭環境ではないんだろう?」■■
「それは……、色々あるのよ」■■
本に巡り合えて、浮かれてしまった。
喋りすぎだ。■■
【ブラッド】
「色々、ね……」■■
「……本なら、いつでも貸してやるよ。
いつでも借りに来なさい」■■
「!
嬉しいわ、ありがとう!」■■
家主であるブラッドには何度も礼を述べてきたが、こんなに実感をこめて言うのは初めてかもしれない。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・廊下◆
仕事中、廊下で偶然ブラッドとすれ違う。
彼に仕事を貰ってから、しばらく経っていた。■■
まだ雑用のようなことしか出来ないが、楽しい。
今も、買い出しから戻ってきたところだ。■■
【ブラッド】
「おや、一人で買い物に出ていたのか?
使用人達も人使いが荒い……、何も問題はなかったか?」■■
「ええ、大丈夫よ。
近くの市場に行っただけだし」■■
「それに、一人での買い物なんて、もう何度もしているわ」■■
私に回ってくるのは、ちょっとしたものの買い出しや、注文票を届けるといった手伝い程度。
数人で行くこともあるが、最近では一人のときも多い。■■
【ブラッド】
「そうか……、君は思った以上に逞しいね、お嬢さん。
だが……」■■
【ブラッド】
「言っておくが、うちは客に仕事をさせるほど困っているわけではないからな?」■■
「分かっているわよ。
私が無理に頼んだんだってことくらい」■■
仕事がないと落ち着かない。■■
「仕事を用意してくれてありがとう、ブラッド」■■
無理を言ってしまった。■■
客に仕事をさせるなんて、家主としてはあまり芳しくない。
体裁もよくないだろう。■■
それでも、ブラッドは私の我侭を聞き入れてくれた。■■
使用人達のアシスタント業務と、有事のときの交代要員。
それが、ブラッドに与えてもらった仕事だ。■■
主人から与えられた仕事ということで、遠慮せず手伝える。
掃除から、炊事まで……、家事がうまくなった気がするのは嬉しい。■■
なかなか忙しくて、やりがいもある。■■
何よりよかったのは、屋敷の人達と仲良くなれることだ。
今では、知り合いも更に増えて生活も充実している。■■
「有事のときの交代要員っていう意味が分からなかったけど……」■■
【ブラッド】
「そっちの仕事も多いだろう?」■■
「ここ、有事が多すぎるわ……」■■
最初、有事のときの交代要員なんて言われても、ぴんとこなかった。
有事なんて、滅多にないものだ。■■
病気とか、私事で立ち行かない事態になったときの交代役。
まさか、それが主な仕事になるとは思わなかった。■■
【ブラッド】
「忘れてしまったのか?
ここはマフィアの本拠だぞ」■■
「屋敷の形をとってはいるが、構成員の詰め所でもある」■■
「有事も多いわけだ……」■■
大怪我をしてしばらく仕事が出来なくなったり、なんの仕事だか知らないが突然長期不在になったり。
有事は実に多く起こる。■■
唐突に、しかも複数抜けることもあるのだから、その穴を埋めるのは結構大変だ。■■
【ブラッド】
「嫌になったら、すぐにやめていいんだからな」■■
「……投げ出すと思う?」■■
ここへ滞在させてもらって、もうずいぶんになる。
付き合いも長くなってきた。■■
ブラッドも、私の性格については分かってきているはずだ。■■
【ブラッド】
「……さてね」■■
彼は、分かって言っている。■■
「無理を言っておいて、せっかくあなたに用意してもらった仕事を投げ出したりしないわ」■■
【ブラッド】
「頑固なお嬢さんだ」■■
一度やり始めたことを投げ出したりしない。
それは格好よさそうに聞こえるかもしれないが、当然のことだ。■■
自分から言い出したこと。
やり始めたことなら、辛くてもやり遂げるべきで……。■■
(投げ出したりしない……)■■
元の世界のことを考える。
自分が始めようと決めたこと。■■
投げ出せない。
今、こんな夢の世界で過ごしていることに、急に罪悪感がわいてくる。■■
(……夢)■■
(夢だから……。
投げ出したわけじゃない……)■■
夢の世界に居心地のよさを感じることが、悪いことのように思えてきた。■■
【ブラッド】
「どうした、アリス……?」■■
「ううん……」■■
「ちゃんと役にたてているかなって思っただけよ。
邪魔しているだけになっていない?」■■
【ブラッド】
「その心配は無用だろう。私の部下は、どいつも遠慮がない。
邪魔なら、邪魔と言うさ」■■
「私も何度か様子見をさせてもらったが、君は手際がいい……。
違和感があるほどに」■■
「まあ……色々とね」■■
【ブラッド】
「ふうん?」■■
「まあ、いい。
仕事の経験は、あって悪いものではない」■■
私みたいな「お嬢さん」が仕事慣れしていることについて、ブラッドは詳しくは聞いてこなかった。■■
前に、少しだけ仕事経験があることには触れてあった。
だが、そこまで詳細は話していない。■■
「ブラッド」■■
【ブラッド】
「うん?」■■
process_work_bra - コピー 「ありがとう」■■
【ブラッド】
「!?」■■
「感謝しているわ」■■
感謝をこめて、頬にキスをした。■■
「私、仕事をしていたいの。
どんな世界でも、そのほうが落ち着くわ」■■
働けば、居場所を作っていける気がする。
それがどんな世界でも、だ。■■
ただ漠然と過ごしていくなんて、どうしていいか分からなくなる。
夢の中だろうと、ここにいるという意味がなくては。■■
お客さんとして、することもなくぼうっと過ごしたり、ただ遊んで過ごすだけなんてもったいない。■■
【ブラッド】
「そ、そうか……」■■
「喜んでくれたなら、何よりだ……」■■
ブラッドは、珍しくおたおたとしている。■■
いつも飄々としているのに、感謝されることには不慣れ。
そう思うと、可愛いところもある人だ。■■
【ブラッド】
「……役目がないと落ち着かないという気持ちは分かる」■■
「そうね。やることがないと落ち着かない。
役割があるほうがいいわ」■■
「仕事をみつけてくれて、助かった」■■
「……でも、好きでやらせてもらっているんだから、報酬なんていらないのよ?」■■
私が頼み込んだことなのに、ブラッドは報酬をくれる。■■
私の世界とは違った通貨だが(それ以前に、ちゃんと通貨があることに驚いた)、もう慣れた。
仕事の報酬として受け取ってはいるが、なんだか悪くて使っていない。■■
「ここに住まわせてもらっているんだし……」■■
【ブラッド】
「……報酬に見合うような仕事が出来ていないのか?」■■
「報酬を貰えるような仕事ができていないのなら、仕事を辞めるべきだ。
だが、貰えるような仕事が出来ているのなら、報酬を受け取るべきだ」■■
「私に、正当な報酬も払わない雇い主という汚名を被せないでくれ」■■
「……そうね」■■
「ごめんなさい」■■
仕事を馬鹿にしたようなことを言ってしまった。■■
任せられていることは仕事であって、雇用されているという認識でもって働かなくてはならないものだった。
お手伝い感覚でいるべきではない。■■
【ブラッド】
「謝らなくていい。
いい仕事をしてくれているようじゃないか」■■
「だったら、報酬も正当だ。
労働で得たものなんだから、とっておくだけでなく使いなさい」■■
手をつけていないのも、お見通しだったらしい。■■
「ブラッド……、ありがとう」■■
【ブラッド】
「謝ったり礼を言ったり、忙しいな……」■■
「……礼には及ばない。
君は報酬に見合う仕事をこなしている」■■
雇用主からの言葉として、それは有難いものだった。■■
その次の休み、私は街に出て、初めて給与を使って買い物をしてみた。
労働をして、その報酬を使う。■■
自分のお金で、自分のための物を買う。
とても気分がいい。■■
目の前が拓けたような感覚だ。
労働をしたことはあっても、それは貯金のためで、一切使わなかった。■■
私は頑固で、融通がきかない。
元の世界にいたら、この感覚はいつ味わえたのだろう。■■
(もしかしたら、一生味わえなかったのかも……)■■
何かに追い立てられるようだった。
自分の居場所を探していたつもりだったのに、袋小路に追い詰めてられていく。■■
罪悪感と責任感で常に後ろ暗く、卑屈になって。■■
自分が働いて得たお金で、初めて物を買う。
新鮮で、誰に対しても罪の意識を覚えることがない。■■
小さなことでも、満たされる。■■
(こんな感覚……)■■
こんな感覚を覚えてしまうことに、新たな罪悪感が生まれた。■■
【【【時間経過】】】
◆帽子屋屋敷・主人公の部屋◆
【【【演出】】】・・・扉の開く音
【【【演出】】】・・・扉の閉じる音
「……ふう。
今回も頑張った」■■
仕事を終え、自室に戻って来る。
微かな疲れを感じ、ソファに体を投げ出すようにして座った。■■
「……ん?」■■
ふと、太腿の辺りに当たる硬い感触に注意が向いた。■■
姿勢を気にせず乱暴に腰掛けたので、やや乱れたスカートのポケットが当たっている。
中に入れておいたものを思い出した。■■
(そういえば、入れっぱなしだった)■■
★全キャラ共通部分ここから↓
ポケットに手を入れた。
中には、あのガラスの小瓶が入っている。■■
掌で包めるほどの大きさのそれを、そっと握って取り出す。■■
ペーターが私に残していったもの。
……得体が知れないのに、なぜだか持ち歩いてしまっていた。■■
(……不思議)■■
小瓶をじっと見る。
拾ったとき、小瓶は空だった。■■
中身を飲まされたときのことを思い出す。
あの苦い味。■■
(……あ。
また、イライラしてきた)■■
「…………」■■
苛立ちはともかくとして、今の小瓶は空ではない。
少しだけだが、あの苦い薬(?)が入っている。■■
当然だが、私は入れていない。
ただ持っているだけだ。■■
「…………」■■
「まさか、夜中にペーターが入れに来ているとか……」■■
(【大】ありえそうで嫌だ【大】)■■
「…………」■■
【【【時間経過】】】
★全キャラ共通部分ここまで↑
★ブラッド・エリオット・双子ルート共通部分ここまで↑
★全キャラ共通部分ここから↓
ナイトメアの夢
また、夢の中で夢魔と会う。
だんだんと、この状況にも慣れてきた。■■
【ナイトメア】
「仕事を始めたんだ?」■■
「ええ、何もせずにお世話になるなんて落ち着かないもの」■■
無理を言って、仕事を与えてもらった。
居候としているのに、かえって迷惑かもしれない。■■
だが、そのおかげで居場所が出来た。■■
【ナイトメア】
「君はすごいね」■■
「……なにが?
一方的にお世話になっているだけなのに」■■
仕事をしていても、それはすごいと言われるようなことではない。
頼み込んで「させてもらっている」ことだ。■■
【ナイトメア】
「すごいよ」■■
「…………」■■
「また、心を読んでいるの?」■■
嫌な男だ。■■
【ナイトメア】
「ふふ。怒るな。
君の心は気持ちがいいから触れたくなるんだ」■■
「……君はすごいよ、アリス。
居場所が作り出せる」■■
「そんなの、すごくないわ」■■
【ナイトメア】
「……それが出来ない者にとってはすごいことなんだよ、アリス」■■
【【【時間経過】】】

ブラッド 02話へ進む