2:「遊園地」
「遊園地に行くの」■■
「……ゴーランドと約束しているのよ」■■
咄嗟に思い付いたのは、賑やかでもっともインパクトのある領土。
そこの領主の名前を口にする。■■
【エリオット】
「遊園地か。
あんた、ゴーランドとも仲がいいのか?」■■
「ええ、そうね」■■
他領土にはたまに遊びに行くので、ゴーランドとも何度か会ったことがある。■■
彼が園内のアトラクションを案内してくれることもあった。
特に仲がいいというほどでもないが、親しく接してもらっている。■■
【エリオット】
「そっか~、あの男との約束だったらすっぽかさねえほうがいいな。
遊園地とは、今ちょっと仕事でも関わってるから、余計な揉め事は起こさないほうがいい」■■
「うん、ごめんね。
それじゃあ……」■■
予想外に真剣に考えているエリオットを見ていると申し訳なくなってくる。■■
だが、オレンジ色の菓子を押し付けられるのはやはり嫌だ。
嘘がバレないうちにと、一言謝ると屋敷を出た。■■
(どうせ、どこかには行くつもりだったんだし。
本当に遊園地に行って、ゴーランドに相手してもらうか……)■■
(あそこで遊ぶのは、けっこう気晴らしにもなるし……)■■
【【【時間経過】】】
◆遊園地・園内◆
遊園地に到着した。
思い描いていたオーナーの姿は、すぐに見付かる。■■
私が相手をしてほしいと言うより先に、向こうのほうから尋ねてきた。■■
【ゴーランド】
「アリス、あんた、ろくに遊園地で遊んだことないだろ!?」■■
「え……!
そんなことないわよ?」■■
「何度か遊ばせてもらっているし……」■■
(真剣な顔で、何を言い出すかと思ったら……)■■
【ゴーランド】
「何度かってなんだよ!
せっかく遊園地に来ているんだから、毎回遊んでいけよ」■■
「はあ……」■■
まさか、遊園地で遊ばないことを責められる日が来るとは思わなかった。■■
【ゴーランド】
「せっかく、俺とも仲良くなったんだぜ?
遊園地のオーナーと仲良くなっといて、遊園地には行かないってありえなくねえ?」■■
「…………」■■
「【大】そんなに仲良かったっけ?
私達【大】」■■
【ゴーランド】
「お……、おいおいおいおいおい、アリス~!?」■■
「……あ~、あ~、うそうそ」■■
「仲いいわよね~。
ね~」■■
【ゴーランド】
「な、なんだ、その可哀想な子を慰めるような態度!」■■
「……だって、可哀想だから」■■
(……なんてね。
ついつい虐めたくなるのよね、この人って)■■
【ゴーランド】
「か、可哀想って!
仲いいだろ、俺ら!」■■
「…………」■■
【ゴーランド】
「なに、その沈黙」■■
「はは」■■
(……仲は、いいんだけどね)■■
仲がいいかどうかと問われれば、間違いなくいいだろう。
私だって、誰に強制されるでもなく会いに来ているのだし、ゴーランドも応じてくれている。■■
顔見知り以上の友好関係が築けていると思う。■■
(そう、仲はいいんだけど……)■■
(年上なのに、からかいたくなっちゃうんだよね~……)■■
可愛い人というタイプでもないのに、ゴーランドは妙にからかいやすい。
年上なのに、それを感じさせないからかもしれない。■■
一緒にいて、気楽な相手であることは確かだ。■■
【ゴーランド】
「俺と仲良くないっつーんだな!?
よっし、それなら親交を深めようじゃないかっ!」■■
「わ!?
なんなの!?」■■
ぐわしっとつかまれ、ずるずるずる~~~っと引きずられる。■■
【ゴーランド】
「遊園地のオーナーたる俺が自ら遊んでやるよっ!
俺はここを知り尽くしている!遊園地攻略も、これでばっちりだ!」■■
「はあ!?」■■
「攻略したくないわよ、遊園地なんて!」■■
比較的安全そうなものは乗るが、てっぺんで止まるジェットコースターのようなものは避けている。■■
危険をおして全攻略するほどの意欲があるわけではない。■■
【ゴーランド】
「遊園地なんてたあ、なんだよ!
俺の職場だぞ!?」■■
「興味ないの~~~!」■■
【ゴーランド】
「なんでだよ、楽しいって!
体感してみりゃ分かる!」■■
「お客さんを案内してあげなさいよ!
私はいいから~~~……っっ」■■
じたばたと暴れるが、振りほどけない。■■
(こんの馬鹿力……っ)■■
【ゴーランド】
「俺が遊園地のよさを教えてやるっ!」■■
「いらないわよっ!
だから、そういうのはお客さんにしてあげなさいって……っ」■■
【ゴーランド】
「客より、まずはあんただ。あんただって、遊園地に入れば客だしなっ!
オーナーたるもの、遊園地のよさを伝えるべくして……」■■
「他のお客さんに伝えてあげなさいよ!
もっと、遊園地で遊ぶことに前向きな人にっ!」■■
(私は、単なる気晴らしだし!
遊びで終われないような、リアルな恐怖なんか味わいたくない!)■■
【ゴーランド】
「前向きな奴は、放っておいても楽しめるだろ。
あんたみたいにネガティブな奴にこそ、よさを知ってもらいたいんだっ」■■
「遊園地はいいぞ~。
あんたは、よさを知らないだけなんだ」■■
(……まずい)■■
遊園地オーナーとしての使命感を燃え上がらせてしまったらしい。■■
【ゴーランド】
「俺がいればどこでも遊びたい放題だし、行列のできる人気アトラクションも優先して乗れるぞ!
何時間帯でも付き合ってやるからなっ」■■
「何時間帯でも!?」■■
【ゴーランド】
「ああっ!十時間帯だろうと二十時間帯だろうとそれ以上でも!
あ、俺がいなくても楽しめるよう、お土産にフリーパスもやるよっ」■■
至れり尽くせりだ……。
持つべきものは、遊園地関係者の友人……。■■
「いらない……」■■
【ゴーランド】
「なんでだよ!?
遊園地って、楽しいんだぜ!?」■■
「楽しいわよね……。
でも……」■■
【ゴーランド】
「よしよし、楽しさを教えてやるからなっ!
心配しなくても、あんたにも遊園地のよさってもんが分かるさ!」■■
「これでも、ここのオーナーだ。
楽しませることに関しちゃ、任せてくれっ」■■
「…………」■■
(教えられなくても、遊園地が楽しいってことは知っているんだけどな……)■■
楽しい。
楽しいのだ。■■
なんだかんだいって、メルヘンな乗り物に囲まれるのも嫌いではない。
でも……。■■
(このペースは、逆に疲れる……)■■
さすがに、そんなことを言うと非難轟々になるだろうからやめておく……。■■
【【【時間経過】】】
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