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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『OP ■02話(帽子屋_選択肢2:エリオット)』

★同イベント内、2:「エリオットに話しかける」を選んでいる場合ここから↓
◆帽子屋屋敷・廊下◆
「エリオット!」■■
屋敷内を歩いていて、エリオットを見掛ける。
呼び掛けると、彼はウサギ耳をぴょこりと揺らしてこちらを向いた。■■
【エリオット】
「……お?
アリス」■■
【エリオット】
「なんか、久々に会った気がすんな……。
どこにいたんだ?」■■
「ずっと滞在させてもらっていたわよ。
このお屋敷、広すぎるわ」■■
「あなたこそ、どこで何をしていたの?」■■
【エリオット】
「俺?
俺は、あれだ、色々だよ」■■
【エリオット】
「色々やってたから、忘れちまったぜ」■■
エリオットに誤魔化している様子はない。
大して印象に残るような出来事がなかったようだ。■■
「つまらない毎日をおくっているのねー……」■■
【エリオット】
「そんなことねえよ。
ブラッドの仕事を手伝ってるんだ」■■
偉いだろというように、耳がぴくぴくした。■■
「お仕事?
あなた、仕事をしているんだ」■■
私が驚くと、エリオットの耳がぴんと立つ。■■
(いちいち、反応が面白いなあ……)■■
【エリオット】
「……んだよ。
俺には仕事なんて出来ないってのか?」■■
「仕事をしていそうなイメージがなかっただけ」■■
年齢的には、働いていてもおかしくない。
青年に見えるといっても、ぎりぎりで大学に行っているかどうかというくらい。■■
金持ちの道楽息子ならどうか知らないが、彼はそういうタイプにも見えない。
かといって、熱心な勤労青年にも見えないのだ。■■
……なんだか、まともな職に就いているイメージがわかない。■■
【エリオット】
「門番のガキ共みたいに怠け者じゃない。
タダ飯食らいになる気はないぜ」■■
【エリオット】
「給料泥棒の奴らと違って、俺はちゃんと働いてる」■■
エリオットの耳は、直角に立っている。■■
ぴんと立ったままの耳をぼうっと見た。
怒っているらしいのだが、耳に気がいってしまって怖くもなんともない。■■
ウサギ耳を抜けば、鮮やかな髪が印象的な男前で、ちょっとチンピラ気質のお兄さんだ。
怒らせたら怖そうな。■■
しかし、ウサギ耳が……。■■
【エリオット】
「……?」■■
「耳……耳が……」■■
【エリオット】
「……耳?」■■
ぴくぴくっと、耳が動く。■■
「…………」■■
「なんでもない……」■■
ウサギ耳から、視線を引き離す。■■
見つめちゃ駄目だ。
ウサギ耳マジックだ……。■■
「働いているのは分かったわ。
どんな仕事をしているの?」■■
目を逸らしながら、話も逸らす。■■
【エリオット】
「ん?
俺らの仕事?」■■
【エリオット】
「マフィア」■■
「…………」■■
「……何?
何だって?」■■
【エリオット】
「マフィアだよ、マフィア」■■
【エリオット】
「あれ?
言わなかったっけか」■■
「……聞いてない」■■
【エリオット】
「そっか?
まあ、やくざもんだな。大っぴらに言うことでもない」■■
普通の職業をいうように、謙遜する。
内心は悪いと思っていないのだろう、エリオットの口調は軽い。■■
【エリオット】
「儲かるんだぜ。
こんな広い屋敷を構えられて、あんな業突張りの双子や使用人を飼っていられる」■■
【エリオット】
「それでも、金はうなるほどあるんだ。
ブラッドってすげえよな~……」■■
「へ、へえ……」■■
「え……、ちょっと待って。
ってことは、ブラッドも?」■■
【エリオット】
「ブラッドがボスで、俺はその手伝いだ」■■
【エリオット】
「一応、次席扱いってことになんのかな。
腹心とか呼ばれることもある」■■
【エリオット】
「でも、ブラッドに比べりゃ俺なんて……。
ブラッドって、ほんとにすごいんだぜ~」■■
卑屈になるどころか、エリオットは得意そうだ。
自慢できることが嬉しいらしい。■■
ガキ大将と子分という構図を、再び連想する。■■
「腹心って、ナンバー2ってことよね……」■■
「じゃ、じゃあ、ブラッドはマフィアのボスで、あなたはその次に偉いってこと……」■■
【エリオット】
「ブラッドが一番偉いんだ」■■
「それは分かったわよ。
でも、あなたは二番目に偉いんでしょう」■■
【エリオット】
「そうだな。
あのクソガキ共が二番目に偉いなんてのは癪だから、俺が二番目だ」■■
【エリオット】
「だいたい、奴らときたら……」■■
【エリオット】
「それに、奴らはセットだから、順番なんてつけにくいし……」■■
ここにはいない人間に対して、エリオットはぶつぶつ文句を言う。
耳がぴこぴこ動いた。■■
そういえば、今はフレンドリーなこの人は、初対面で私を撃ち殺そうとした人でもある。■■
「…………」■■
いわれずとも、堅気じゃない雰囲気を持っていた。
思いつく限りの記憶と比べてみても明確だ。■■
クラスメイトに父親がマフィアだという子がいたけど、威張る割には下っ端で……。■■
それでも充分に恐れられたものだけど、マフィアのボスやナンバー2となると一般市民には想像するしかない。■■
むしろ、縁がなくて幸いだ。
これからもお近づきになりたくない人種に違いない。■■
(エリオットが、マフィアのナンバー2……)■■
これで冗談だとしたら間抜けな引っかかりようだが、違和感はなかった。
若いとかいうことを加味しても、彼らには納得させる何かがある。■■
空恐ろしさとか、そういった、けしてよくないものが。■■
「そう、マフィアなんだ……」■■
「…………。
それって、どういう仕事をしているの?」■■
【エリオット】
「だから、マフィアだって」■■
「マフィアの知り合いなんていないから、分からないのよ。
具体的にどういう仕事内容なの」■■
例の、クラスメイトの父親だって、直接の知り合いではない。■■
父兄会か何かで見た覚えはあるが、遠巻きにしていたし、父親と関わり合いになるほどその子自身とも親しくなかった。■■
マフィアがやくざものの組織だとは知っているし、けしていい仕事とはいえないことは新聞等からも知り得た。
だけど、それだけだ。■■
それ以上の知識などない。
身近にいない人種で、これからだって関わる予定などなかった。■■
自分が、知らず知らずのうちにマフィアの幹部のお屋敷に滞在していたなんて、夢といえども想定外だ。■■
【エリオット】
「金の取立てとか地上げとか……。
俺が行かなくても、下の奴らが片付けるが、大きなヤマや厄介そうなのだと俺が出ていくぜ」■■
くらりと眩暈がした。■■
新聞の内容通りじゃないか。
社会のゴミのような存在だ。■■
エリオットには、悪びれた様子が少しもない。
かといって、自分の仕事に誇りがある感じでもない。■■
普通の会社で働いて給与を貰っているのと同じような感覚で話す。
気負うところがまったくない。■■
その会社が、ちょっとだけ珍しい業種のような感じで。■■
【エリオット】
「あとは……、そうだな、ブラッドの邪魔になる奴をやっつけたりとか」■■
「やっつけるって……」■■
【エリオット】
「……これ」■■
ぽんと、腰につけている銃を叩く。
その動作にすら、悪びれた様子は欠片も感じられない。■■
【エリオット】
「最近は、あんたが言うように、つまらない毎日だけどな。
反抗する奴も少なくなっちまって、つまんねえ」■■
「ブラッドのためってんじゃなきゃやってられねえぜ」■■
「…………」■■
「……偉いわね」■■
いかにも誉めてほしそうだったので、誉めてあげる。■■
偉いなんて毛先ほども思っていないのだが、エリオットは満足そうだった。
ますます得意そうにする。■■
【エリオット】
「俺は、学がねえから大したことできねえけど、ブラッドはすげえんだぜ」■■
「……どうすごいかは話さなくてもいいわ」■■
【エリオット】
「?
本当にすげえのに……」■■
「でも、いいから。
話さないで」■■
この人の基準は、私とは明らかに違っている。
これ以上詳しく聞いてしまったら、好感がすべて嫌悪に変わってしまいそうだ。■■
その証拠に、エリオットは私がどうして聞きたがらないのか、さっぱり分かっていない。
怪訝そうに、首を捻っている。■■
彼の中では、聞きたがらないことのほうがおかしいのかもしれない。
私の基準では、聞きたがるほうがおかしい。■■
「せっかく滞在させてもらっているんだから、あなたと友達になりたいの」■■
嫌いになりたくない。
言外に、仕事の話はするなと臭わせる。■■
たとえどんな職業であれ、人が生業にしている仕事を非難できるほど私は偉くない。
だが、マフィアなんて仕事はとても好感が持てるようなものでもなかった。■■
【エリオット】
「!」■■
「俺もだ!
仲良くしようぜ、アリス」■■
(……やっぱり、分かってない……)■■

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