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ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『OP ■02話(帽子屋_選択肢2:ブラッド)』

★同イベント内、1:「ブラッドをなじる」を選んでいる場合ここから↓
◆帽子屋屋敷・廊下◆
「ブラッド!」■■
屋敷内を歩いていて、ブラッドの姿を見掛ける。
呼び掛けると、彼はだるそうに顔を向けた。■■
【ブラッド】
「……ん?
お嬢さんか」■■
「最近会った気もするし、しばらく会っていなかった気もするな……」■■
「私を滞在させているのを、忘れていたわけじゃないでしょうね?」■■
この、どこか得体の知れない男なら、平気で忘れてしまいそうだ。■■
睨むと、ブラッドはくるんとステッキを回した。■■
【ブラッド】
「忘れちゃいないさ。
招待していない者がこの屋敷を自由に歩けるわけがない」■■
「……そうでなければ、入る前に門番に殺されている。
二本の足で歩けているということは、君はお客さんだ」■■
物騒なことを、冗談だかなんだか分からない軽い口調で言う。■■
多分、冗談ではないのだろう。
夢の中だとしても、落ち着かない。■■
【ブラッド】
「最近は仕事が立て込んでいて、構ってやる暇がなかった。
すまなかったな」■■
大してすまなさそうでもなく、謝られる。
この男に、誠意なんて求めてはいけない。■■
こんな奴でも、家主だ。
お行儀よく、屋敷を誉める。■■
「いいわよ。
子供じゃないんだし」■■
「使用人さん達がよくしてくれたわ。
ここは、いいお屋敷ね」■■
【ブラッド】
「そうか。よかった。
粗相がなかったようで安心したよ」■■
ブラッドは、前に会ったときと変わらずけだるそうだ。
こんなふうで、これだけの屋敷を維持するような仕事ができるのだろうか。■■
「ブラッド……。
仕事って、何をしているの?」■■
「こんな時間に屋敷にいても平気なの?」■■
今は、昼だ。
とはいえ、この世界では夕方の次に昼が来たり、昼の次に夜が来たり、ずっと夜だったりと時間がてんでバラバラでよく分からない。■■
【ブラッド】
「平気だとも。
昼は眠い。
仕事の時間じゃない」■■
そういえば、初対面のときもそんなことを言っていた。■■
「……どんな仕事をしているの」■■
【ブラッド】
「私の仕事か?
マフィアだよ」■■
「……は?」■■
【ブラッド】
「マフィアのボス」■■
「……じょ、冗談よね?」■■
【ブラッド】
「……さあ?
どう思う?」■■
ブラッドは、にこりと微笑んだ。
あまり優しい笑みではない。■■
【ブラッド】
「少なくとも、私は貴族じゃないよ。
お嬢さん」■■
「…………」■■
いわれてみれば、堅気じゃない雰囲気を持っていた。
思いつく限りの記憶と比べてみても明確だ。■■
クラスメイトに父親がマフィアだという子がいたけど、威張る割には下っ端で……。■■
それでも充分に恐れられたものだけど、マフィアのボスとなると一般市民には想像するしかない。■■
むしろ、縁がなくて幸いだ。
これからもお近づきになりたくない人種に違いない。■■
(ブラッドが、マフィアのボス……)■■
これで冗談だとしたら間抜けな引っかかりようだが、違和感はなかった。
若いとかいうことを加味して考えても、彼には納得させる何かがある。■■
空恐ろしさとか、そういった、けしてよくないものが。■■
【ブラッド】
「で……、この屋敷の住み心地はどうだ?
行き届いていない点はないか?」■■
どこで切り替わっているのか分からないが、ブラッドは急にもっともらく、屋敷の主としての態度をとる。■■
「快適よ。
立派なお屋敷ね」■■
「……なんの不自由もなく過ごせています」■■
「ありがとうございます、ブラッド=デュプレ。
ご厚意に感謝します」■■
少し改まって、敬語で礼を言う。■■
【ブラッド】
「よしてくれ。
敬語なんか使うな」■■
「…………。
お世話になっている身なんだから、そう偉そうにも出来ないわよ」■■
夢の中とはいえ、私がここの屋敷の主というわけではない。
夢なので適当にしてしまうが、それでも堂々と無礼には振舞えない。■■
これは、ブラッドがマフィアだからというわけではなく、客としての礼儀だ。■■
「あなたがマフィアだからじゃないわよ?」■■
「この屋敷の主なんでしょう、ブラッド。
滞在させてもらっている以上、敬意をはらうのは当然のことだわ」■■
【ブラッド】
「そうとも。
ここは、私の屋敷。私の領土だ」■■
「ここでは私のルールに従ってもらう。
敬語なんか使うな、アリス」■■
貴族が嫌いな点からみても、畏まるのが嫌いなのだろう。
ごり押しして不快にさせることもない。■■
「……それが、あなたのルールだっていうなら従うわ。
敬語は使わない」■■
【ブラッド】
「それでいい」■■
ブラッドは満足そうに頷いた。■■
【ブラッド】
「私は、自分より下の者を招いたりしない。
君が敬語など使うようなら、客になれないぞ」■■
「友達の家に滞在するような感じになってしまうけど、構わないの?」■■
【ブラッド】
「いいとも。
友人に接するように接してくれ」■■
「でも、私達はまだそんなに親しくないのに」■■
【ブラッド】
「だが、君はその『そんなに親しくない』男の家に滞在している」■■
そう言われてしまえば、その通り。
返す言葉もない。■■
「……私って、すごく軽い子みたいね」■■
私がそう言うと、彼は僅かに唇の端を上げる。■■
【ブラッド】
「悪い意味じゃないさ。
滞在しているんだから、今は『そんなに親しくない』間柄でも親しくなる可能性がある」■■
「同じ家にいる限りは何度も会うだろう。
何度も会うなら、会話もするし、いずれ親しくもなる」■■
「いずれ親しくなるのなら、今から親しくしたっていいだろう」■■
「…………」■■
【ブラッド】
「私は、なにか間違ったことを言っているか?」■■
「間違ってはいないけど、ものすごく強引な理論だわ。
理論というより……、屁理屈ね」■■
親しくなるかもしれないが、親しくならない可能性だって低くない。
それより先に、夢が覚めるかも。■■
「でも、そういうの、嫌いじゃないわ」■■
「……あなたのことは好きじゃないけど」■■
にこっと笑うと、ブラッドも笑い返してくれた。■■
……ものすごく、だるそうに。■■
【ブラッド】
「私も、君のそういうところが嫌いじゃないよ。
親しくなれる可能性なんて、それで充分じゃないか?」■■
「そうね……。
そういうふうに言われると、すぐにでも親しくなれそうな気がするわ」■■
「友達になれるかもね、私達」■■
私は、こんなに軽い子だっただろうか。■■
会った当初は、この男にけしていい印象を持っていなかった。
今だって、印象に変わりはない。■■
だが、ここにいると、不思議と気持ちが軽くなる。
だからかもしれないが、口だけでなく友達になれそうな気になってきた。■■
ブラッドは悪い意味ではないと言うが、世間一般からすればいけないことだ。
良家の子女なら、付き合いの長くない男性に近付きすぎるべきではない。■■
すべてが、夢の中だから許される。■■
そして、この人の顔のせいもある。
警戒心を刺激するのに、同時にひどく安心してしまう。■■
……舌打ちしたくなる。■■
【ブラッド】
「おいで、アリス。
案内してあげよう」■■
あの人と同じ顔で、声まで似て聞こえる。■■
「…………」■■
「……うん」■■
そういえば、ここに姉さんはいないのだ。
では、この人は姉さんに恋をしていないことになる。■■
でも、だからといって、何がどうということもないけれど。■■
【ブラッド】
「……?」■■
「どうした?
来ないのか?」■■
「……行くわ」■■
差し出されたブラッドの手をとる。■■
手が触れたとき、軽く震えてしまった。
恐ろしいからか、他の感情からなのかは分からない。■■
意識していることだけは確かだ。
吐き気がする。■■
この人は、私の知る人とは違う人だ。
重なるのは顔だけで、中身はどこも似ていない。■■
顔に惑わされるなんて、馬鹿げている。
そう思っているのに、あれこれと考えてしまう。■■
(この人、恋人はいるのかしら)■■
いたとしても、姉に似た人でなければいい。
できれば、いないほうがいい。■■
恋愛ごとなんて、身近にあってほしくない。
彼のいうように、友人にならなりたいものだ。■■
なれるものならば。■■
深層心理でふっきりたいと願っている。■■
まだ、引きずっているのだ。
この夢は、そういう意味なのだろう。■■
別れた恋人によく似た人と、ただの友達になる。
心を痛めることなく、顔を直視できるようになる。■■
そうなるためには、恋人なんていてほしくない。
恋愛に絡むすべてのことから遠のいていてほしい。■■
(酷く自己中心的だけど)■■
顔以上にあの人を連想させる部分があれば、きっと親しくなれる可能性は摘まれてしまう。
敬遠したいと思う気持ちのほうが強くなってしまうから。■■

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