TOP>Game Novel> 「 ハートの国のアリス 」> OP ■02話(帽子屋_選択肢1:エリオット)

ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『OP ■02話(帽子屋_選択肢1:エリオット)』

2:「エリオットに話しかける」(○エリオットの好感度+1)
「エリオット……?
大丈夫?」■■
「おなか、まだ痛いの?
痛み続けるようなら、病院に行ったほうがいいわ」■■
【エリオット】
「…………」■■
話しかけても、エリオットは顔を上げない。■■
「ね、ねえ?
苦しい?しゃべれないの?」■■
「動けないくらい?
それなら、私、お医者さんを連れてこようか?」■■
心配になって、医者を呼ぶことを提案する。■■
返事も出来ない状態ならすぐに呼びに行こうと考え、止まる。
夢の世界の病院など、場所を知っているわけがない。■■
ブラッドを見ても、彼はそ知らぬ顔で紅茶を飲み続けている。
あてになりそうにない。■■
「ど、どうしよ……」■■
【エリオット】
「……アリス」■■
エリオットは顔を伏せたまま、私の名前を呼んだ。■■
「エリオット……?」■■
「なに?
痛いの???」■■
「自力で、お医者さんまで行けそうにない?
私、場所が分からなくて……。場所だけでも説明してくれたら、呼んでくるわよ?」■■
【エリオット】
「…………」■■
「……あんた、優しいな」■■
「へ……?」■■
【エリオット】
「俺、心配されるのなんか初めてかも……」■■
「し、心配するに決まっているわよ……。
しないほうがおかしい……、その怪我で……」■■
顔を上げたエリオットは吐血していた。■■
しかも、かなりだらだらと。
私は、一気に青くなる。■■
【エリオット】
「……ん?
どうした?」■■
「ちっ、血が……」■■
【エリオット】
「……?
あ、血が怖いのか」■■
「お嬢様だもんな。
悪い悪い……」■■
「違……」■■
お嬢様という表現を否定している場合じゃない。■■
私は、血が怖いなどという気弱さは持ち合わせていない。
腹を突かれてこれだけ吐血しているということがどういうことか、考えれば青くもなる。■■
【エリオット】
「血が血がって連呼して、そんなに怖いのか?」■■
「なんか、拭ってもなかなか綺麗にとれなくってよ……。
面倒臭いよな」■■
それは、拭ってもまた溢れてくるからだ……。■■
「違……!
違うって言っているの!」■■
「ああ、もう!
そんなに乱暴に擦っちゃ駄目!」■■
【エリオット】
「擦らないと、血が取れないだろ」■■
「擦っても取れないわよ!」■■
そんなにごしごしと乱暴に擦っていたら、口の端を切ってしまいそうだ。
そうしたら、また余計に血が出る。■■
「私は血が怖いわけじゃないけど、スプラッタが好きなわけでもないんだから……」■■
スプラッタな夢など、見たくない。
怖いわけでなくとも、必要以上に見たくもないのだ。■■
「え、え~と……。
夢の中でも持ち歩けているのかしら……」■■
「今日は、忘れずに持っていたはず……」■■
ポケットを捜す。
夢を見始めた、日曜の午後の時点では持っていたはずだ。■■
【エリオット】
「?」■■
「あ!
よかった!あった!」■■
夢を見始めた段階では持っていたが、夢の中まで持ち込めているか自信がなかった。
目当てのものをみつけ、エリオットに差し出す。■■
「さあ、これで口元を押さえて」■■
【エリオット】
「…………」■■
「?
受け取りなさいよ」■■
「汚れてないわよ?
サラではないけど、今日は使っていないから」■■
白いハンカチは洗濯したてのまま、染み一つない。
家事を手伝ったついでに、自分で洗濯したものだ。■■
【エリオット】
「あ、ああ……」■■
エリオットは目元を赤らめている。■■
「…………」■■
私が男の子で、泣いている女の子に「目を擦っちゃ駄目だよ。これで涙をお拭き」とか言うようなシチュエーションなら恋の一つも生まれたかもしれない。■■
しかし、ここでは女の私が吐血する男に「口を擦っちゃ吐血が酷くなるばかり。これで血を止めなさい」だ。■■
……あまり、恋が生まれそうなシチュエーションではない。■■
【エリオット】
「あんた……、いい奴なんだな……」■■
私はともかく、エリオットの琴線には触れるものがあったらしい。
恋なのかどうかは別としても、照れているようだ。■■
「そんなことないわよ。
軽傷なら放っておくわ」■■
私の年齢になると、いがみあいが取っ組み合いの喧嘩に発展する回数も減る。■■
だが、下町の子供も多い公立の学校だ。
年を重ねれば喧嘩沙汰も減るものの、なくなりはしない。■■
私だって学校に入りたての頃は揉めたし、今だって身近に喧嘩は起こる。■■
父や姉にばれたら学校を辞めさせられることは確実だから話したことはないが、自身が関わったことも少なくないのだ。■■
学年が上になると回数が減る分、一度喧嘩騒ぎが起こると負傷の具合も酷くなる。■■
軽傷なら関わり合いにならない。
重症になりそうな場合はすぐに校医を呼ぶ。■■
校則にはないが、それこそルールというものだ。■■
「私はそんなに優しくはないし、大体は放って……」■■
【エリオット】
「普通はそうだろ?
この程度の怪我で心配してくれるなんて、あんたは本当にいい奴だ」■■
エリオットは、ぽわわんとした目で私を見上げる。■■
(……【大】うっ【大】)■■
ずさっと、引く。■■
「いや、あなたのことも放っておこうと思ったんだけど、重症っぽかったから……。
この程度の怪我とかいう感じじゃないでしょう」■■
「もっと軽そうな怪我だったら、もう遠慮なく見捨てているから。
私って、そういう子なの」■■
【エリオット】
「でも、あんたは見捨てなかった。
心配して医者まで呼んでくれようとして、ハンカチまでくれる」■■
(……誰もあげるとは言ってないけどね)■■
【エリオット】
「すごく優しいんだな……。
こんなかすり傷くらいで……」■■
「【大】かすり傷!?【大】
どこが!?」■■
のんきな言葉に、心配より怒りが前に出る。■■
「腹を突かれて吐血なんて、最悪だわ!
内臓がやられちゃっているかもしれないのよ!?」■■
「そういうの、一番やばいんだから!
内臓に損傷があると、血が溜まって、後で死んじゃったりすることも……」■■
【エリオット】
「あんた、お嬢様なのに詳しいんだなあ……」■■
「私は、お嬢様じゃない……」■■
のんきなウサギだ……。
気が抜ける。■■
彼の目はキラキラしている。
とても、初対面で私を撃ち殺そうとした人には見えない。■■
【エリオット】
「だろうな。
本物のお嬢様なら、俺なんかに優しくしない」■■
「あんたは、俺に優しい。
いい奴だよな……」■■
(……【大】うっ【大】)■■
(……【大】うううっ【大】)■■
ずさささささっと、引く。
気持ちの中だけだが。■■
エリオットの目にあるのは、信頼とか信用とかそういった類のものだ。
とにかく、キラキラ。■■
(輝いている……)■■
犬が懐いてくるような目。
彼自身が言っていたように、ウサギではなく犬の目だ。■■
……【大】懐かれた。【大】■■
がくりと項垂れそうになる。
意地の悪い男子生徒から庇ってあげたとき、かつて自分を嫌っていたはずの女生徒がこんな目をした。■■
見直したというか、見る目が変わったというか……。
以来、その子はキラキラした目のままで私についてくる。■■
それまで、私を上流階級の子供だという目で見て、子供染みた嫌悪感を向けてきた子の内の一人だった。■■
嫌な奴だと思っていたし、相手も私をそう思っていたはずだ。■■
だが、持ち物を隠したり陰湿な真似をしたりはしなかった。
だからこそ、庇ってあげる気にもなったのだ。■■
慕われようというつもりなどなかったし、その程度で慕われるなんて思わなかった。
人を見る目は、そんなに簡単にはひっくり返らない。■■
(本当に、簡単にはひっくり返らない……)■■
その考えは、今でも正しいと思う。■■
その子の場合、一度これと決めたことを妄信するタイプだった。■■
誰がなんと言おうと、その子はその日から私を最高の友達だと主張し(いつ友達ということになったのかは私にも分からない)、私を嫌っていた子をすべて最低だと罵った。■■
反対主張はすべて耳を素通りし(それが私の言葉であっても)、ひっくり返ることはない。■■
今でも。
未だに、だ。■■
「そ、そういう目で見ないで……」■■
【エリオット】
「……?」■■
「なんだよ、見ちゃ駄目なのか?」■■
寂しそうな目。
キラキラがウルウルに変わる。■■
【エリオット】
「俺は、あんたのことが好きになったのに……」■■
(……【大】ぞわっ【大】)■■
「そ、そ、それはどうも……。
光栄っていうか……、ありがとう……」■■
【エリオット】
「……?」■■
「……あ!
違うぜ!?」■■
「好きってのは、変な意味じゃなくって……」■■
「え、ええ。
分かってる。分かっているわ……」■■
その子もそうだった。
目だけでも充分すぎるほど慕われているのが分かるのに、口にまで出してくる。■■
「好き」だなんて言われても、どうしていいやら分からない。
恋愛の意味じゃないことが分かるから、余計にだ。■■
断るなりなんなりしようがない。
好かれるのに嫌う理由などないが、「私も好き」なんて言葉は返せない。■■
私はそういうキャラじゃないし、あんただってそういうキャラじゃなかったでしょうと突っ込みたくなったものだ……。■■
【エリオット】
「本当だって!
俺、そんなに軽くないんだぜ!口説いてるわけじゃない!」■■
「分かっているって……」■■
(……口説いていないのが分かるから、余計にタチが悪いのよ。
その手の好意は)■■
(断りようがない……)■■
【エリオット】
「信じてくれよ。俺は、そんな男じゃない。
なあ、ブラッド!」■■
私が微妙な顔をしているのを疑っていると思ったのか、エリオットはブラッドに声をかけた。
どうしてそこでブラッドにいくのか、よく分からない。■■
【ブラッド】
「……ん?
ああ、そうだな。紅茶にミルクを入れるなんていうのは邪道だ」■■
「私は、ストレートしか認めない。
ミルクティーなど、紅茶本来の味というものが消されてしまう」■■
「…………」■■
【大】そんなことは誰も聞いていない。【大】■■
ブラッドは紅茶に夢中で、少しもこちらへ気を向けていなかったようだ。
部下が吐血していることも、ぽわわんとなっていることも、客である私の存在も眼中にないらしい。■■
【ブラッド】
「ミルクティーは認めない。
これもルールにするか……」■■
「いや、ミルクに合うようにブレンドされた茶葉もある。あれは例外だ。
しかし、それ以外は……」■■
【エリオット】
「俺は、ブラッドのことも好きだぜ!
【大】大好きだ!【大】」■■
【ブラッド】
「……【大】っぶ【大】」■■
「あ~……」■■
ブラッドは、思いきり紅茶をふきだした。
さすがに、「【大】大好きだ!【大】」は無視できなかったらしい。■■
【ブラッド】
「ぐ……、げっほげほげほ、ごほ……っ」■■
【エリオット】
「……だから、あんたのことが好きってのも同じ意味で、変な意味じゃない。
分かってくれたか?」■■
エリオットは何事もなかったかのように、再び私に向き合う。
悪気はないらしい。■■
後ろでは、ブラッドが盛大にむせている。
恐らく、モロに気管に入ったのだろう。■■
(自分が突いたせいで友達が吐血しているのに、優雅に紅茶なんて飲んでいるからよ。
いい気味……)■■
だるそうにしていた男が慌てる様は、見ていて爽快だ。■■
彼に関しては、同情はひかれない。
だが、少し同調はする。■■
【ブラッド】
「げほげほげほ……っ」■■
【エリオット】
「ん?
ブラッド~、どした?何遊んでんだよ」■■
【ブラッド】
「エリオ……っ!
おまえ……っ」■■
ブラッドは、ステッキをつかんで立ち上がる。
気のせいか、ステッキが光ったように見えた。■■
【エリオット】
「ん?
ああっ!ブラッド!!!」■■
【ブラッド】
「な、なんだ!?」■■
【エリオット】
「おまえ、俺のためににんじんケーキ残していてくれたんだな!?
手ぇつけてないじゃないか!」■■
【ブラッド】
「……は?
いや、私は元々、にんじんは……」■■
【エリオット】
「こんなにうまいケーキに手をつけずに、紅茶だけで我慢して待っていてくれるなんて……」■■
「なんて友達思いなんだ、おまえって奴は!
【大】大好きだぜ!!!【大】」■■
【ブラッド】
「ぐ……っ」■■
ブラッドは、喉に物が詰まったように何も言えなくなった。
力なく、ステッキを下ろす。■■

OP 02話(帽子屋2)へ進む