TOP>Game Novel> 「 ハートの国のアリス 」> OP ■02話(帽子屋2)

ハートの国のアリス
~Wonderful Wonder World~

『OP ■02話(帽子屋2)』

【エリオット】
「あ~、腹減った。
にんじんケーキ、にんじんケーキ……」■■
「え……!?」■■
うきうきと、エリオットが席に戻ってきた。■■
信じられない。
先刻まで蹲っていたのに。■■
あれだけ強く腹を突かれ、血まで吐いたのに、まだ食べる気らしい。■■
「大丈夫なの、エリオット……」■■
【エリオット】
「へ?
何が?」■■
「何がって……」■■
「大丈夫ならいいんだけど……。
体調とか……」■■
見るからに大丈夫そうな様子に、拍子抜けしてしまう。■■
彼は、もうにんじんなんとか(とにかくオレンジ色のお菓子だ。彼の周りにはそれしかない)をぱくついている。■■
それより何より、エリオットはブラッドの暴力について何も言わない。
言わないというか、気にしていないというか……。■■
(まさか、もう忘れているわけじゃないわよね?)■■
ブラッドに視線をやると、彼はだるそうに紅茶を飲み直している。■■
(平然としているように見えるけど、微妙に眉が寄っているような……)■■
「……本当に大丈夫なの?
血が出てたし、死んじゃうんじゃないかと……」■■
それはオーバーにしても、かなり酷いとみていたが、エリオットはいたって平気そうだ。■■
【エリオット】
「【主人公の名前】……。
あんた、優しいな……」■■
「あれくらいで死ぬわけないだろ~。
ブラッドは俺のことよく突っつくけど、怪我するほどじゃないから平気だぜ?」■■
(つ、突っつく……?)■■
そんな可愛らしいものだっただろうか。■■
【エリオット】
「ちゃんと加減してくれてるもんな。
なっ、ブラッド?」■■
信頼でキラキラした目が、ブラッドに向く。■■
ブラッドを見るエリオットの目は輝いている。
突かれておかしくなったのかと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。■■
(加減……【大】していた?【大】)■■
【ブラッド】
「あ、ああ……」■■
【エリオット】
「だよな~。
スキンシップって大切だよな!」■■
(スキンシップ……)■■
彼は、上司を敬愛しているのだろう。
上司の側は、見るからにうざったがっていそうだが。■■
【ブラッド】
「そう……かな。
そうだな……、そうなんだろう、恐らく……」■■
ブラッドのほうは鬱陶しそうに、もごもごと答えるだけだ。
何か言おうとエリオットを見るが、キラキラした目にぶつかって諦めたように俯く。■■
「あなたって……」■■
【ブラッド】
「なんだ……」■■
文句でもあるのかと、睨んでよこす。■■
ブラッドは、本来なら親友を持つような性格ではないのだろうと、なんとなく分かった。
いかにも、上辺だけの付き合いだけで留めそうな男だ。■■
先刻の、たかだか冗談程度で容赦なく腹を突く非情っぷりと、冷たい素っ気なさで放置する非常識っぷりを見れば分かる。
あれこそ彼の本来の性格なのだろう。■■
エリオットの言う、突っつくとか、加減してくれてるとかいう言葉が当てはまるとは思えなかった。■■
「……いい友達を持ったわね」■■
それでも跳ね除けず傍に置いているというのは、ブラッドもそれなりにエリオットを重要視しているということだ。■■
【ブラッド】
「…………。
嫌味か、お嬢さん」■■
「あら、本気で言っているのよ」■■
ブラッドは微妙そうな顔をした。
そして、さっさと話を変えてしまう。■■
【ブラッド】
「これからどうするんだ、【主人公の名前】?
君はこの世界にこれといった知人もいないようだが……」■■
「まだ、他の場所へも行っていないんだろう?」■■
「うん、そうなの。
時計塔から歩いて、初めて来た建物がここ」■■
【エリオット】
「あんたはついてるぜ。
他の場所なんてろくな所じゃない」■■
「ここを選んでよかったな」■■
エリオットはにこにこしているので言い辛いが、ここもそんなにいい場所とは思えない。■■
なにしろ、訪問して早々に殺されかけたのだ。
その後でお茶会に招かれたからといって、素晴らしい場所だと言えるはずもない。■■
「知人といったら、まだユリウスくらいよ。
本当に知っているだけって感じだけど……」■■
「ペーターは……、あれは数に入れたくないし……」■■
【ブラッド】
「ペーター=ホワイトに、ユリウス=モンレーか……」■■
【エリオット】
「時計野郎と比べりゃ、女王の手先のほうがまだマシだ!」■■
「あんな奴、知人の枠内にも入れるなよ!
忘れたほうがいいぜ!思い出すだけで胸糞悪くなる!」■■
【ブラッド】
「まあ、どちらにせよ、いい奴らではないな」■■
(…………。
……あなた達も、いい人という感じではないけどね)■■
さりげなく自分達を外しているところがつわものだ。■■
変な帽子に、ウサギ耳。
彼らとて、どう見てもまともには見えない。■■
今まで出会った中で、唯一まともに見えた人といえば、今のところユリウスだけだ。■■
【エリオット】
「そうだ!
居場所が決まっていないのなら、ここにいろよ!」■■
「部屋なら余ってる。
いいだろ、ブラッド」■■
【ブラッド】
「…………。
ふむ……」■■
「身の置き所がないのなら、居てもいいぞ」■■
エリオットの唐突な申し出に、屋敷の主らしきブラッドも同意する。■■
「ええ!?
そんなに簡単に見知らぬ人を滞在させちゃうの!?」■■
こちらのほうが驚いてしまう。■■
そんなに簡単に家にあげるなんて……。
しかも、長期滞在してもいいというような口振りだ。■■
【ブラッド】
「私がそう言ったのだから、問題ない。
元の世界へ帰れるまで、あるいは飽きるまで、好きなだけいるといい」■■
「で、でも……」■■
【エリオット】
「ブラッドがいいって言ってくれてるんだ。
遠慮すんなよ!」■■
「え、遠慮というか……」■■
正直、引き気味なのだが、とんとんと話は進んでいく。■■
(……こ、こんなに安易でいいのかしら)■■
(…………)■■
(……いいのか。
夢だもんね……)■■
「じゃあ、お願いしようかな。
ご迷惑でないのなら……」■■
夢でも最低限の礼儀は守ろうと、丁重にお礼を述べようとする。
しかし、二人はまったく聞いていなかった。■■
【エリオット】
「おっし!
決まり!」■■
「来いよ!
案内してやる!」■■
【ブラッド】
「…………」■■
「……紅茶がうまい」■■
エリオットは返事を聞かないうちから屋敷に向かっているし、ブラッドは紅茶に夢中で早々に私のことなど眼中になくなってしまっている。■■
半ば呆れながら、私も席を立った。■■
「……リラックスして過ごせそうだわ」■■
【エリオット】
「だろ?
居心地いいんだぜ、ここ」■■
エリオットについていきながら、辺りを見渡す。■■
これだけの屋敷でありながら、住人達はまったく気取っていない。
やや気取らなさ過ぎる気もするが、好き勝手にしても誰も何も言わなさそうだ。(本人達がこれだけ好き勝手しているのだから、文句も言えまい)■■
(少なくとも、マナーにうるさい場所ではなさそうね)■■
ちらりと、エリオットを見る。■■
【エリオット】
「?
どうした?」■■
「……ついているわよ」■■
【エリオット】
「???
何が?」■■
「……クリームが」■■
エリオットの口元には、オレンジ色をした(にんじん色とはさすがに言いたくない)クリームがべったりと付着していた。■■
【エリオット】
「お?
どこだ???」■■
指摘されて、ハンカチで口をふくどころか、エリオットはべろべろと舌で口を舐めた。■■
【エリオット】
「うまい、うまい。
やっぱり、にんじんクリームは最高だぜ」■■
「夕食はまだなのか?
早く夜に変わればいいのに……」■■
「次に夜になったら、にんじんクリームのパスタが食いたい……」■■
ぶつぶつ呟いてから、私のほうを向いてにかっと笑う。■■
(な、なかなかフランクなお兄さんだったのね……)■■
最初は無愛想で冷たく見えたエリオットだが、親しくなるととことんガードが緩むタイプらしい。■■
【エリオット】
「安心しろよ!
ちゃんと、あんたの分も用意してやるからな!」■■
「……どうも」■■
「本当に……、リラックスできそうで嬉しいわ……」■■
私は、にんじんが嫌いではない。
しかし、ここにいたらリラックスできるかわりに、確実ににんじん嫌いになりそうだ。■■
……ひょっとして、ブラッドもそうなのかもしれない。■■
振り返れば、彼はそっぽを向いて紅茶を飲んでいる。
なるべくオレンジ色のものから目を背けたいというのが、ひしひし伝わってくる。■■
(毎食にんじんフルコースとかじゃ、うんざりするわよね……)■■
これから、現実にそうなりそうでぞっとした。
にんじん色の夢なんて、あまり嬉しくない。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・エントランス
ブラッドの屋敷は、予想通りに大きかった。■■
これで貴族じゃないなんて信じられないほどだ。■■
(立派……)■■
(何をして維持しているんだろう……)■■
そういえば、尋ねたのにうやむやにされてしまっていた。■■
これだけの屋敷を維持できるのだから、相当に大規模な事業を展開させているはずだ。■■
夢とはいえ、そこは私の夢。
霞を食って生きているわけではあるまい。■■
【メイド】
「こんにちは、お嬢様」■■
【使用人】
「こんにちは~、お嬢様」■■
「…………」■■
「こ、こんにちは……」■■
ブラッドとエリオットは仕事があるとかで、使用人が部屋まで案内してくれるということだった。
現れた使用人らしき人たちは、やたらとだるそうだ。■■
【メイド】
「あなたがお客様ですね~?」■■
【使用人】
「ご案内しま~す」■■
「ど、どうも……」■■
(なんだか、やたらとかったるそうなんだけど……)■■
歓迎されていないふうでもないのに、使用人たちはだらけた感じがする。■■
怠けているわけではない。
何人もの使用人とすれ違ったが、真面目に働いていた。■■
怠けてはいないが、だらけている。■■
……そして、帽子。■■
(【大】変な帽子……【大】)■■
この屋敷に滞在するには変な帽子を被らなくてはならないという決まりがあるのなら、早々に退散することにしよう。■■
(……ここの主人の気風を表しているわね)■■
使用人や屋敷は、主人次第。
人柄を表す鏡のようなものだ。■■
使用人を見れば主人の性格や躾が分かり、屋敷を見ればその人のセンスや趣向が知れる。■■
屋敷を見る限り、基本はそこまで悪くない。■■
しかし、奇抜な……明らかに外しているものがちらほら。
わざとやっている感が漂っているのが、いかにも皮肉びていて主人をよく表している。■■
【メイド】
「こちらです」■■
【使用人】
「どうぞ~……」■■
「は、はあ……」■■
【メイド】
「迷わないでくださいね~」■■
【使用人】
「捜すの面倒なんです~……」■■
しかし、だるだるすぎだ……。■■
のたのた歩いているとかそういうわけでもないのに、雰囲気がだるだるだるだるしていてこちらまでだる~くなってくる。■■
(なんなんだろう、どうしてこんなにだるだるなんだろう……)■■
(どうしてって、だるいからだるだるなんだろうけど……)■■
(だるさに意味なんてないのか……。
そうか……)■■
今まで、自分のことを無気力なほうだと思っていた。■■
いい子にしていると姉さんが安心してくれるのなら、ちょっと趣味じゃなくても可愛い子を演じられる。■■
面倒ごとや厄介ごとは避けられるものなら避けて、避けられないならなるべく後回し。
やる気薄めな今どきの子だと思っていたのだが……。■■
(私って、ものすご~くやる気のある、パッション溢れる子だったんだ……っ)■■
ブラッドや、ここの使用人達を見ていると、なんだか自分がものすご~く熱い子に思えてくる。■■
【【【時間経過】】】
帽子屋屋敷・主人公の部屋
【メイド】
「ここです~」■■
通された部屋は、割とまともだった。■■
【使用人】
「好きに使ってください~」■■
「ありがとう……ございます」■■
いい人達……なのだろうと思う。
ここに来るまでにも同じ服装の人を何人も見かけた。■■
髪形まで同じ。
そして、だるそう。■■
顔もよく見分けられず、個々として識別するのは難しそうだ。■■
それよりなにより、仲良くなれるか自信が持てない一番の理由が……。■■
(なんで、使用人全員が銃を携帯しているの……!?)■■
彼らの腰にぶら下がっているもの。
それは、この世界に来てから嫌というほど見慣れた拳銃だった。■■
【【【時間経過】】】
時間帯が何度も変わり、なんだかんだと帽子屋屋敷での生活にも順応してしまった。■■
私は、あれから幾度か部屋を変えながら客室に滞在させてもらっている。
広い屋敷内にある部屋は無数に近く、おとぎ話を連想させた。■■
(それにしても……順応できちゃうものなのね)■■
最初は無茶苦茶な世界だと思っていて……、今でもそう思っているが、慣れればこの世界はそれほど特異でもない。
人は、意外と普通に生活している。(意外と、だ)■■
空を飛んだりできないし、魔法も使えない。
少なくとも、妖精さんは出てきそうになかった。■■
(……安心した)■■
しかし、ここの時間変化は、間違いなく無茶苦茶だ。
昼の次は夜、その次に昼がきたり、また夜がきたり夕方になったり。■■
法則性も何もなく、ころころ変わる。■■
変化する速さもそのときどきなので、時間感覚が徐々に狂っていく。
今分かるのは、屋敷に来てから結構な時間が経過したということくらいだ。■■
ここの使用人達にも知り合いが増えた。
誰も彼も同じに見えても、全員が違う人だ。■■
親しくなれば、顔というものも見えてくる。
それまではのっぺらぼうだった顔に、個が出てくる。■■
個性が見えれば愛着もわき、人を好きになれば彼らがいる場所も好きになる。
私は、夢の中の場所、帽子屋屋敷が気に入り始めていた。■■
【【【時間経過】】】

★同イベント内、1:「ブラッドをなじる」を選んでいる場合
★同イベント内、2:「エリオットに話しかける」を選んでいる場合